TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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クラスのみんなには内緒だよ?

 なんだかボクのこと、みんなが良くない目で見ている気がする……

 

 

 思わず、心の中まで怪盗モードになってしまった。

 その場にいたコボルド族の村人たちが、僕に対してある者は崇拝を、ある者は憧憬を、ある者は畏怖の視線を向けていたからだ。

 わからなくもない。彼らの視点では自分たちのピンチに颯爽と現れ、圧倒的な力でアビスの群れを蹴散らしてくれたのだ。うん、我ながら見事なオリ主ムーブである。

 しかし僕としてはそんな激重感情よりも「なんだーあの美少女はー!」「凄ェ! 流石オリ主さんだ!」「流石ですわお姉様!」「さすおね!」と言った感じの純粋な賞賛が欲しかったのだ。

 流石の僕も、周りの人間たち(聖獣だけど)を一斉に跪かせたいわけではない。調子に乗ったドS気取りのオリ主って苦手だし……マウントは取りたいけどね!

 

 彼らはすっかり僕が大天使様であると思い込んでいる様子だ。さて、どうやってこの場を乗り切ろうか。

 やだなー……いくらエイトちゃんが魅力的だからって、天使扱いが似合うのはどちらかと言うとメアの方である。僕は常にミステリアスの怪盗キャラでいきたいのだよ。

 

 故に、これは死活問題だ。

 

 こうして彼らから天使扱いされることで、マジモンの天使にまでこのことを知られるのもかなりマズい。

 僕が十枚の翼を生やしたことを丁度この村にいる筆頭天使様に知られてしまったら、「大天使を騙る不届き者め! 成敗してくれる!」となること間違い無しである。

 大人しく成敗される気はないが、そういう勘違いはチートオリ主らしくないだろう。

 

 さて、どうするか……地上に降り立った僕は闇の呪縛で作った翼を解除すると、ロングスカートに付いたホコリを右手で払いながら周囲を見渡す。

 駄目だ……闇の翼を消しても、彼らはバッチリさっきのことを記憶している。大人たちは伏して僕を拝んでおり、子供たちはそれに倣って頭を下げながらチラチラとこちらの姿を窺っていた。そんな目で見るなよー。

 

 そして一番の懸念材料であるマジモンの天使ハニエルは何をしているのかと言うと──この村のアビスを全滅させた後、炎とのガチバトルを再開していた。何そのライバルムーブ、かっけぇ!

 

 ヤバい……今すぐちょっかい掛けに行きたい……! 炎の後ろで後方師匠面をしながら、「遂に完全にモノにしたんだね。無限に至る可能性……キミ自身のフェアリーバーストを」という感じに、訳知り顔で呟きたい……!

 

 だが、そうすることはできない。

 本音を言えば直ちにこの場を立ち去ってあちらの様子を見に行きたかったが、ハニエルが戦闘に集中し僕のことに意識を向けていない今が誤魔化しのチャンスである。

 

 僕はその場に屈み込んで平伏した彼らに視線を合わせると、一番前にいた少年に向かって人差し指を立てながら「しーっ」と黙秘を促した。

 

 

『ボクの姿を見て、言いたいことがあるのはわかるけど……今はさっき見たこと、内緒にしておいてくれないかな? 特に、天使のみんなには知られたくないんだ』

『!?』

 

 

 人間の言葉でも通じるのだが、より万全を期す為に僕は「念動力」の異能をいい感じに調合することで彼らのテレパシーを模倣し、直接脳内に僕のお願いを叩きつけてやった。ファミチキください。

 テレパシー能力は内緒話に最適である。その発声手段は絶大な効果をもたらしたようで、コボルド族の皆さんは全てを察した顔で顔を上げると、長老と思わしき代表者が立ち上がって前に出てきた。

 おっ、このお爺さん、アニメで炎たちを助けてくれた人じゃん!

 

『御客人よ……村を助けていただいたこと、感謝します。すぐに歓待の用意をします故……』

「いいよ。それより、彼らに喰われた建物を直すのが先だろう? それに……歓待するなら、あそこでハニエルと戦っている彼も招いてほしいな。彼こそがキミたちを守る為、村のアビスと戦ってくれた救世主なのだから」

『なんと!? 人間ですか……! そのような人間がいたとは……なるほど……だから貴方は、そのようなお姿になってまで……! 承りました』

 

 何がなるほどなのかはわからないが、炎のことも客人として受け入れてもらえたようで何よりである。

 ティファレトに続いて彼らまで敵意マシマシだったらどうしようかと思っていたが、アビスのことで精一杯な一般聖獣たちには、人間に対して過激な思想を抱く暇も無いのかもしれない。

 

 あれ? もしかしてアビスって和睦の使者なのでは……?

 

 全生命の敵である筈が、今の僕たちにとっては都合の良い存在だった。

 共通の大敵というのは、いつの世も和解のきっかけになるものだ。最初はなし崩し的に共闘していたのが、戦いの中でお互いを知り、次第に絆されていくアレである。

 よし、いける! 共にアビスと戦う中で炎たちの本質を理解して貰えば、天使たちともきっと仲良くできる筈だ。

 

「それより……村の犠牲者は?」

『いないよ! みんな無事っ』

『ええ、貴方様がたのおかげで、犠牲者はゼロです。こんなこと初めてで……一体どれほど、お礼を尽くせばいいのか』

「ボクとしては、さっきの約束を守ってくれれば十分かな。強いて言えば、美味しいお水でも頂けたら」

『ええ、用意させましょう』

 

 先ほどの戦いで村の犠牲者──死人がいないのなら、僕も気兼ねなくアレができる。そう、楽しい宴会だ。

 原作アニメではこの世界の料理がとても美味しそうだったのを、ふと思い出したのである。アニメの料理や酒は妙に美味しく見えるものだ。キャベツは知らね。

 

 この機を逃すわけにはいかない。その為には夜までに、村の建物を修復させておこう。小さな村だ。死人さえいなければこのエイトちゃん、無敵のオリ主パワーでパパッと元通りである。

 

 炎たちの決着がつく前に、さっさと終わらせるとしようか! 肩のカバラちゃんを撫でながら、僕は怪盗ノートを発動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エイトちゃんが五時間で終わらせました。

 

 小さな村ぐらいもっと短い時間で直せるかなーっと思っていたが、建物の被害はアビスにより大部分が喰われていたので思ったより時間が掛かってしまった。

 ただ破壊されるだけなら修復は簡単なんだけど、アビスに捕食された物となると継ぎ接ぎで修繕することもできず、森から資材を持ってきて一からマインクラフトするしかなかったのだ。

 そう言うわけで、僕が盗んだ異能を使って仮設住宅のクラフトを行う代わりに、資材の回収は村人たちと喧嘩が終わった炎とハニエルさんに手伝ってもらった。

 特にハニエルさんの助けは大きかった。異能の原型である聖獣の力──「聖術」によって、いい感じの金属とか出してくれたのだ。本来は天使用の武器を作る為の技らしいが、それを建物の資材にしてはいけないという決まりはない。

 寧ろ、天使御用達の素材など御利益がありそうなのでこっそり崇めておいたほどである。

 

 そのハニエルさんだが、炎との共闘と決闘を通したことで、彼の真摯な思いを受け止めてくれたらしい。

 見るからに生真面目そうな天使だし、誤解さえ解ければまともに話をするのは簡単だった。

 そんな彼は宴会の席で僕に近づくと、開口一番に避難所を守ったことへの礼を告げてきたものだ。

 

 見られていたのか? やべーぞ……とお酒を片手に内心ヒヤヒヤで身構えていた僕だが、話を聞くに翼を生やしてからの僕の姿は見ていなかったようだ。エイトちゃんの戦う様子は、コボルド族から人伝に聞いただけらしい。セーフ!

 

『しかし人間にも、天使に匹敵する力を持つものがいるのだな……あちらの世界の者が、お前たちのような人間ばかりなら……何の苦労も無かったのだが』

 

 ハニエルは炎との戦いで憑き物が落ちたのだろう。僕と話す頃には晴れやかな顔をしていた。この天使、原作に出ていたら人気があったかも。堅物ではあるが、話してみると気持ちの良い好青年だった。

 

「誰かが犯した過ちは、誰かが責任を取らなければならない。それがボクらの務めだよ」

『……ままならぬものだな、お互い』

「ふふ、そうだね」

 

 言ってみれば悪の組織の尻拭いでこの世界にまでやって来た僕たちに対して、彼は憐れみの視線を向けて言った。

 僕はそれに対して知った風な口を利いたが、ごめん。炎と違って僕にはそんな高尚な意識は無いんだ。ただ僕は、完璧なチートオリ主になりたいだけで。

 

 …………

 

 ああっ、むず痒い!

 なんか居心地が悪かったので、僕は謙遜して言い返してやった。

 

「必要があると思ったならばそうするだけさ。それは、キミたちだって同じだろう?」

『……そうだな。私はこの世界の為、必要だと思ったからケテル様の思想に従っていた。それはこれからも変わらないだろう。だが……』

 

 僕の言葉にハニエルは生真面目な顔で受け止め、何か思うところがあるように考え込む。流石にたった一日の出来事で王様に逆らうようなことはしないだろうが、せめてこの世界に来訪した四人のことだけは考慮してほしいものだ。彼らは皆いい奴なのだから。

 そんなことを考えていると、ハニエルが意を決したように言い放った。

 

 

『アカツキ、オリーシュア。聖都「ツァバオト」へ来い』

 

 

 お、これは……

 

「ツァバオト?」

『そこに今、お前たちの仲間を捕らえている』

「!! 誰だ!? メアか!? みんながそこにいるのか?」

『いるのは一人だ。空から町に落ちてきたところを、衛兵が引っ捕らえた。名前はリキドーと言ったか……奇怪な髪型をした、筋骨隆々の男だ』

「リキドー……長太か」

『案ずるな、まだ手荒なことはしていない。落ちてきたのがネツァク様の島で良かったな。あの方はコクマー様がたとは違い、捕縛した人間を処するようなことはしない。大人しくはしてもらっているがな』

 

 向かいの席で黙々と料理を食べていた炎が、彼の言葉に大きな反応を見せる。

 一方で僕は、机の下で小さくガッツポーズを取っていた。

 この流れは僕の知っている「フェアリーセイバーズ」の状況と共通していたからである。尤も原作でその情報を知ることになるのは、彼が今言った「聖都」に到着してからのことだったが。

 ともかく仲間の一人の居場所がわかった。RPG的には、これでフラグが立ったという奴だろう。

 

 

 

 

 ──コボルド村を襲うアビスを殲滅した後の、原作の展開である。

 

 

 村を救ってくれた救世主としてコボルド族の長老から熱い歓待を受けた炎と灯は、アイン・ソフの眠る場所が世界樹「サフィラ」の祠にあると聞く。

 聖龍を求め、きっと仲間たちもそこへ向かっている筈だと信じた炎たちは、世界の中心である世界樹の島へと向かった。その道中、立ち寄ったアドナイの聖都「ツァバオト」で力動長太の噂を聞く。

 フェアリーワールドでは武の都として誉れ高い聖都「ツァバオト」では、この日も鍛え抜いた武術を聖龍アイン・ソフに捧げるという名目で聖獣たちによる闘技大会が開かれていた。

 町の噂からトーナメントに参加している人間がいることを知った炎と灯は、そこにはぐれた仲間がいる筈だと考え、闘技場へ向かう。

 

 しかし、そこでは長太が大活躍をしていた!

 

 フェアリーワールドに不時着するも、聖都の衛兵によってあえなく捕縛されてしまった力動長太。

 独房の中で一日を過ごした彼だが、翌日、サフィラス十大天使の「ネツァク」から釈放の条件を提示されたのである。

 

 それはこの都で開かれる闘技大会に出場し、自身への挑戦権を掴むこと。

 

 ネツァクは己の拳を通すことで、人間という存在がフェアリーワールドにとって本当に害悪な存在なのか試したかったのだと言う。

 長太もまた天使の真意を探る為、二つ返事でその条件を呑む。

 そして闘技大会を順調に勝ち上がった長太は、約束の大天使ネツァクとの戦いで自分自身の拳の意味を見つめ直し、氷結のフェアリーバーストへと至るのであった!

 

 

 

 ──と、そんな内容の回がこの後に始まる。

 

 何だかいきなりIQが低くなったように感じるが、彼のメイン回は大体いつもこんな感じであり、少年バトル漫画的な暑苦しいストーリーが多かった。

 コボルド村の事件を解決した次の回は、聖都ツァバオトに囚われた力動長太との合流回だったのである。

 

 色々予定外のことはあったが、この分なら彼との合流は原作沿いにいけそうである。

 しかも……しかもだ!

 その回は原作沿いでもオリ主の見せ場が作りやすい「トーナメント回」なのだ。

 オリ主の強さを大舞台で大観衆に晒すことができるトーナメント回はSSでも人気であり、数々の作品を葬ってきたエタフラグでもある。しかしチートオリ主的参戦メリットは大きく、これは乗るしかない! ビッグウェーブに!

 

 

 

 

 

 ……いや、駄目だわエイトちゃんのキャラじゃないなそれは。

 

 暑苦しい闘技場に自ら出て自分の能力をひけらかすなんて、その手のショータイムは怪盗のキャラではないだろう。下手をすれば今まで積み上げてきたミステリアス感がパーである。あっぶね、久しぶりに酒を飲んだせいで、うっかりキャラが崩れるところだった。今の無し今の無し!

 僕はどんな時でも冷静でカッコいいお姉さん。身体は未成年っぽいが、この程度の酒に酔う筈が無いのである。

 

『もうお戻りになられるのですか?』

『ああ、報告すべきことがあるのでな』

『それでしたら復興にお付き合いなされなくても……』

『民を守るのが、我らの務めだ』

 

 僕たちは遠慮なくコボルド族の皆さんの歓待を受けていたが、筆頭天使殿は聖都へお戻りらしい。

 それを聞いて炎が焦った顔で立ち上がり、自分もついていくと言ったが──ハニエルはその申し出をやんわりと断った。

 

『守衛には、貴様の仲間に余計な手出しはしないように言っておく。ネツァク様には私から紹介状を渡しておくから、来るのは明日にしろ』

「だが!」

『アドナイでは強き者が正義だ。その身体では、ネツァク様の印象を無駄に悪くするだけだ』

「……くっ」

 

 仲間が聖都ツァバオトという場所にいると聞いて、いてもたってもいられない様子である。

 せっかく美味しいお酒に未知の料理を振る舞ってくれたのだから、食べてからにすればいいのに……うむ、お酒は美味しいが味付けは薄いな。

 

「ふふ、ありがとう。美味しいよ」

『!』

 

 僕はコボルドのちびっ子から出されたジャーキーのような料理を囓って自前のナフキンで口元を拭いた後、味の感想を伝えてちびっ子の頭を撫で回した。もふもふじゃー、獣人っ子のもふもふじゃー、ありがたやありがたや。

 そんなことをしていると、流石に不躾だったのかその子は尻尾を立てながらパタパタと逃げていった。酔っ払いでごめんね。

 

 横を見る。炎はまだ食い下がっているようだった。

 仕方ない奴だな君は。第二クールの彼はもう少し落ち着いていた気がするのだが、何故だか原作よりも責任感が強すぎる気がする。

 

 リラックスしようよリラックス。

 

 見かねた僕はおもむろにどこでもハープを取り出し、それをポロンと鳴らした。

 突然の音にコボルド族の皆さんがビクリと獣耳を立てるが、これは炎に向けた琴音なので許してほしい。

 お馴染みの音に反応した炎が不服そうな顔でこちらに振り向いた。

 

「エン、彼の言う通り、聖都に向かうのは明日にしよう。キミも体力を消耗しているんだ。今日は早めに寝て、回復に専念した方がいい」

「……長太が捕まっているんだぞ。そんなわけに行くか!」

「わかっている筈だよ。今日だけで、慣れないフェアリーバーストを三回も発動したんだ。ハニエルの前で言うのは何だけど、異能を全く使えない状態で聖都へ行くのは危険すぎる」

 

 あそこ、野蛮人の聖地だもの。まあ気のいい兄ちゃんの集まりでもあったが。

 町は強そうな男同士の目と目が合ったら決闘が始まるバトルキチばかりであり、そんな場所に消耗した彼を向かわせるのはマズい。

 

「フェアリーバースト……?」

「キミが解放した青い焔の姿さ。それは異能使いにとっての到達点だけど、使い時を考えないとね」

 

 そう、覚醒フォームであるフェアリーバーストは肉体の限界以上の力を引き出す為、その燃費はすこぶる悪い。戦闘中に困ることはあまり無いだろうが、間違っても連戦に向いた力ではないのだ。

 

 現に彼はアビス討伐後のハニエルとの戦いでは、勝利目前のところでその状態が切れ、引き分けに終わった──と聞いている。

 

 

 

『アカツキ・エン、貴様との決着はいずれつける。それまで、つまらんところで倒れてくれるな』

「ハニエル……」

 

 

 疲労困憊の炎を彼なりに気遣っているのだろうか? そんなことを言い渡しながら彼は宴会場を離れ、四枚の翼で飛び去っていった。

 あれ、いいな。僕は彼の後ろ姿にいい感じのライバルキャラを見て、彼がオリ主でないのを少しだけ惜しく感じた。いや、これ以上オリ主は要らないけどね。




 指が軽い……こんなスピードで投稿するなんて初めてだからよ……

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