TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
商店街食べ歩きツアー美味しかったです。饅頭うめえ。
はい。ネツァクから破格の条件を提示されてから、とんとん拍子に二人が戦うことになって僕は上機嫌。
しかもトーナメント戦を勝ち抜く必要も無く、直接二人纏めて掛かって来いという武闘派大天使様の貫禄である。単純に時間短縮になるし、トーナメント戦というSS三大エターフラグを回避できたのはオリ主としても有り難かった。
どうにもこの世界では、闘技大会自体やれる状況ではないらしい。
アビスの発生が激しい中、優秀な戦士を一箇所に集めるのは如何なものかという真っ当な考えだ。
商店街を食べ歩きがてら情報収集も行っていた僕は、屋台のおっちゃんたちからそういう話を耳にした。そう言うわけでこの時間の内にこっそり島の地図とか買ったり、最近のフェアリーワールドの現地目線での出来事とかある程度調べておいたりと、事情通なミステリアスキャラを保つ為にやることは多かった。いざという時狼狽えるオリ主はカッコ悪いからね。
……ん、お金はどうしたんだって? 待合室で演奏会を開いた後、その辺にたくさん落ちていたのだ。僕は怪盗なので欲しい物は盗る主義なので、落ちていたおひねり……もといお金を頂戴したわけである。うむ、アウトローな僕カッコいい。
しかし、町を歩いているとカバラちゃんが僕の頭の上によじ登り、シルクハットの中に入り込んできたのは困ったものだ。ぷにぷにした肉球が額に当たってとても気持ちいいのだが、いかんせん髪が乱れるし中が蒸れるのである。後で解かしておかないと。
シルクハットからはみ出した尻尾がポニーテールみたいになって首の後ろがこそばゆい。まあ、かわいいからいいか。TSオリ主がSSにて最強なのと同じように、かわいいとは正義なのである。
ああ、もちろん町を歩く時は擬態して姿を変えている。
住民たちはオーガ族に竜人族、コボルド族にエルフ族とグローバルな感じに入り乱れているので、僕は体格的に変化の少ないエルフ族に扮していた。エルフ族なら森の生き物であるカーバンクルと一緒に行動しても違和感が無い為、前みたいに嫌な視線を浴びることもないというわけだ。
尤もそれとは別の──単純に僕の美貌に見惚れる視線が多かったのは、とても心地が良かった。野郎から口説かれるのは御免だが、民衆から注目を浴びるのは大好きなエルフ耳エイトちゃんである。
そして決闘が始まる夕方の時間まで歩き回ってみたツァバオトの感想だが、印象ほど戦闘狂の町ではなかったのが正直な感想だ。
アニメ「フェアリーセイバーズ」では目と目が合ったらそれは決闘開始の合図というぐらいハジけた野蛮人たちの聖地だったものだが、僕と目が合った聖獣たちには特にそういう素振りは無い。
それは僕の見た目がか弱いエルフだったからか、原作と違って大会が開催されていない為なのかはわからない。
まあ、全く無いわけではなかったけどね。
決闘をしていたのはオーガ族の子供同士だったけど、学校施設近くの公園でバチバチやり合っているのを見かけた。
決闘と言うよりはあまりにも一方的に見えて可哀想だったから、ついつい負けた方の怪我を治してしまったよ。すっごい落ち込んでいたけど、励ましてやったら無事元気になってくれて良かった。
……うむ、どの世界でも、頑張る男の子はいいものだ。
僕ももっともっとチートオリ主を頑張ろうと思った。今の僕は男の子じゃなくて、TSオリ主だけど。
──さあ、決闘だ!
原作アニメでは闘技大会決勝戦まで勝ち上がった力動長太と激突したサフィラス十大天使ネツァク。
フェアリーバーストに覚醒した長太と拳で語り合い、彼が「人間も捨てたものではない」と認識するようになる重要な回である。
この世界では闘技大会の要素がまるごと抜けて、ネツァクからの挑戦ということで長太と、そして炎による二対一のバトルになった。しかも、勝てば大天使の全面協力が得られるという報酬が何故か約束されている。
これは、アレだな……やっぱり僕のチートオリ主?って奴の? バタフライエフェクト的な変化が?出ちゃった?みたいなー!?
やれやれ……僕ったら、また理想のオリ主ムーブをしてしまったようだ。流石エイトちゃん、敗北を知りたい。
派手に原作ブレイクするのもいいが、後々のことを考えると今はその時ではない。こういう原作の流れ自体はあまり変わっていないけど、過程が違う感じの改変は今回も最善である。
「さて、運命はどちらに味方するか……」
実際、二人掛かりで戦っていいのなら、今の炎たちなら十分勝てるだろう。
もちろん、この戦いで力動長太が「フェアリーバースト」に覚醒するのが前提だが、元々原作「フェアリーセイバーズ」では彼一人でいいところまで戦えていたのだ。フェアリーバーストを発動した二人が一斉に掛かれば、相手がサフィラス十大天使であろうと勝機はある。
あっ、ケテルとコクマーには勝てないわ。
基本的に横並びの十大天使の中で、あの二人だけは三人掛かりでようやく勝ち目がある別格の強さだった。
特に先陣を切って登場し撃退されたコクマーが、本気で戦ったら普通に十大天使最強クラスだったのは鮮烈に覚えていた。
「お手並み拝見させてもらうよ。エン、チョータ……」
ネツァクに挑戦されなかった僕は、上から目線で彼らの戦いを刮目させてもらうことにしよう。
擬態を解き、観客席の更に上──甲子園球場で言うところの銀傘の上に立ちながら、僕はハープを鳴らし二人を応援する。がんばれ二人ともーオリ主がついてるぞー。
いや、普通に最前列に招待席を用意されているのだが、僕としては前列の席よりもこういう高いところから見下ろしている方が好きなのだ。
うっかり足を滑らせたら危ないし、そもそも立ち入り禁止の区画なのだがそもそも僕は怪盗。最近はあまり悪いことしていなかったが、カッコ良さの為なら犯罪上等のアウトロー系オリ主なのである。カッコ悪い犯罪は嫌だけど。
試合開始だ!
立会人であるハニエルさんの手から、決闘開始のゴングが鳴り響く。
ネツァクは「勝利」の名前を冠する通り、自分の強さには絶対の自信を持っている。二人掛かりでも構わないというのは、そんな彼の自信の表れだろう。
武舞台に三人の男が上がると、一人は後方に待機し、向かい合った二人だけが動き出す。
予定通り、まずは長太が一対一で戦う心積もりのようだ。フェアプレイの精神である。いいよいいよ、そういう男臭いのは大好きである。
スタジアムの観客席には大天使様が人間と戦う噂を聞きつけたのか、近隣住民たちがぞろぞろと集まっている。声援は圧倒的にネツァクを推している。当然だろう。
故に、闘技場は完全にサッカーワールドカップさながらのアウェームードである。ネツァクはそうなることをわかって観客を入れたのだろうが、それは狡猾な作戦ではなく、町の一般聖獣たちにも二人の戦いを見せたかったのだろう。この決闘を通して、一同に人間に対する偏見を変えてもらいたいのかもしれない。
脳筋キャラだが、彼も島の管理者。その辺りのことはよく考えている男だった。
──案の定、試合が進むと場内の雰囲気は次第に変わり始めた。
最初は「ネツァク様ー! 人間なんてぶっ殺しちまえー!」と、過激な空気だったのが「あれ? アイツ強くね?」という困惑が流れ始め、次第に「人間もやるじゃねーか! どっちも頑張れー!」と、手首をモーターにして応援し始めたのである。
奇しくもそれは、アニメ「フェアリーセイバーズ」と同じ展開だった。
いいぞ、この流れは原作通り長太がフェアリーバーストに覚醒する展開だ!
そう、今回は力動長太の覚醒回である。
後々の戦力的にクッソ重要な回である以上、僕も今回は余計なことをせず後方オリ主面に留まっていた。チアリーディングエイトちゃんである。ミステリアスキャラが崩壊するので、流石にコスチュームはいつも通りだし露骨な声援も送らなかったが。
「そのままではキミはネツァクに勝てない。さあどうする? リキドー・チョータ」
序盤はネツァクも探りを入れる段階だったのか、ウォーミングアップ程度に動きを抑えていた。とは言ってもその時点から既にワイバーンや天使型アビスとは比較にならない強さだったが。
そして予想を上回る長太の実力に敬意を払うと、ネツァクが徐々に本気を出し彼を圧倒していった。
この流れもまた、原作通りである。
原作ではこの後長太は圧倒的な力の差を前に膝をつき挫けそうになるが、観客席から聞こえてきた灯ちゃんと炎の声援を受けて立ち上がり──こんなところで負けてたまるかと火事場の馬鹿力を発揮し、氷結のフェアリーバーストを発動する。そんな展開だ。
しかし原作と違うのは、観客席ではなく長太のすぐ後ろに暁月炎が控えていることだった。
彼がとった行動は常識的には最善だったが、メタ的な視点では愚策だった。
いい感じに追い詰められるよりも少し早い段階で、炎が選手交代を告げたのである。
「っ!」
「交代だ、長太! 後は俺がやる!」
敵の拳に圧倒されダウンを取られたところで、ネツァクの前に
そして次の瞬間、彼の身体を蒼色の炎が覆った。
炎のフェアリーバースト──やっぱり炎は異能の天才である。コボルド村でのハニエルとの戦いで、その力を完全に引き出せているようだった。
そんな彼の背中を見て、長太が大層プライドの傷付いた顔をする。
見るだけで圧倒的な力の差を体感してしまう。それほどまでにフェアリーバーストを習得した者と、していない者の差は大きかったのだ。
「相変わらず楽しそうに戦うね……勝利のサフィラスは」
筆頭天使を圧倒したその力を見て、ネツァクがそれを見たかったのだ!と喜悦に笑む。ザ・戦闘狂って感じの顔である。爽やかなんだけど顔が怖い。
本気を出してぶつかり合う二人の力を受けて武舞台が弾け飛び、怪物同士の戦いに場内の歓声は騒然としたものへと変わっていった。凄すぎて引くという反応である。
炎はその手に蒼炎の剣を形成し、ネツァクは己の拳で迎え打つ。十人いるサフィラス十大天使の中でも、ステゴロで戦う大天使は彼だけだ。
蒼炎の剣と唸る豪腕がぶつかり合う度に、衝突の余波が観客席まで飛来してくる。僕が立っているのは客席よりさらに離れた銀傘の上だというのに、迸る波動がスカートの裾をふわりと捲り上げた。念の為さりげなく押さえるが、誰も見ていないし見えもしないのでセーフである。
しかしそんなことより彼らの激闘だ。
すっげ……これが大天使級同士の戦いか。
初めて見る人知を超えた限界バトルに、「これぞフェアリーセイバーズ!」と心の中で湧き立つ。
そんな僕は、自身のオリ主ムーブを保つ為のいい感じの呟きすら忘れて見入っていた。これが、熱い漢たちのパトスという奴だろう。
……いやいや、駄目だこれでは! こんなんじゃ僕は、ただの背景ではないか! 何か言わなきゃ! マウントを取らなきゃ! 何か言って、オリ主的存在感をアピールしなきゃっ!
「……ヒトはもはや、こちらの舞台まで昇り詰めようとしている……さて、君たちはどうするのかな? 大天使諸君よ」
──よし、いい感じにマウントが取れたな。オリ主ポイント90点だ。
「キュー……」
おっとカバラちゃん、もう帽子から出てきても大丈夫だよ。ここには僕一人しかいないし。
おや、そんなつぶらな目で見つめてどうした? 構ってほしいのかねあざとい奴め、うりうり。おお、ほっぺが柴犬みたいによう伸びるわ。
「俺を見ろォーッ!!」
むっ!? 急に寒くなった。これは長太の異能「氷結」の余波だ!
力動長太が放つ「氷結」の異能の力が暴走し、爆発的に上昇している。彼が猛々しい咆哮を上げると一瞬にして武舞台が氷に覆われ、ここまで冷気が伝わってきたのである。
生成した氷が吹き荒れていく様子はまるで猛吹雪だ。それを受けて僕はカバラちゃんマフラーのおかげで首元は大丈夫だったが、下半身はスースーで思わず内股になる。
あちらもこの世界も初夏ぐらいの気温だったから丁度良かったけど、こういう時はスカート衣装の心許なさを実感するね。前世では有り難みを感じていたけど、冬でも短いスカートを穿いている女の子ってすげーと思う。世の女性たちの、オシャレに対する執念を感じるよね……さぶっ!
……しかし、この力の無差別な奔流は間違いない。バースト状態だ!
目の前で繰り広げられる異次元の戦いに溜まった苛立ちが、臨界点を超えて長太の意識を高めたのか。
これは原作通りの覚醒イベント……か? いいや、駄目だ。
なんかアイツ白目剥いてヤバい顔してるし、これはバースト状態の力を制御できていない!
すなわち、あの時のアリスちゃんと同じ状態である。ネツァクと炎もそんな彼の異変に目を見開き、思わず戦いを中断して立ち止まっていた。
オイオイ、やべーぞこれは……!
マジかー……覚醒イベントが闇落ちイベントになっちゃったかー……
あのさー、女神様っぽい人って、曇らせ展開好きなの?
魔性のサディストだとしたら、僕もちょっと身の危険を感じるんだけど。
……だが、待てよ?
逆に……逆に考えよう。これは今回蚊帳の外だった僕が一気に目立つチャンスだ。活躍を怪盗的に頂戴するオリ主チャンスだ!
予想外な緊急事態だが、オリ主の見せ場的に考えるとこの状況──アリなのである。
オリジナル展開で負の感情を高め、闇落ちした原作キャラを救う……メタ的に見るとなんだかマッチポンプ臭があって個人的には好かないけど、この際贅沢は言っていられない。
女神様っぽい人のSSが糞になるかならないかなんだ。やってみる価値はありますぜ!
僕は口元を引き締め、「テレポーテーション」を発動して武舞台へと向かう。
カバラちゃんは置いてきた。首元が寒くなるが、猛吹雪の中心部へ連れていくのは可哀想だからね。僕の大切な友達を苦しめたくない。
「長太……これは、バースト状態?」
炎君は絶賛動揺中。そらそうだ、この状況には僕もびっくりである。
しかし起こってしまったことはしょうがない。僕は彼の前に、颯爽と姿を現した。
「はい、悩める青年の前にボク参上」
「エイト!」
おっ、初めて名前を呼んでくれたね。いっぱいうれしい。
だけど主人公は退いてな! ここから先はオリ主の出番だぜー!
「エン、キミは決闘に集中しているといい」
T.P.エイト・オリーシュアによるハイパーオリ主タイムの始まりである。
長太レベルの異能使いが発症したものとは言え、発動直後のバースト状態ぐらい無敵のオリ主パワーで何とかしてあげますよ。
具体的な方法は……アレだな。カケル君のように呼び掛けてみるか。彼がこうなった理由は、原作知識で何となく推測できるし。正直、彼のようなキャラがバースト状態になるほどコンプレックスを持っていたのは意外だったが。
……最悪、彼の異能を盗む必要があるかもしれないな。
いずれにせよ、この場を速やかに鎮められるのは僕だけだ。
「ここはお姉さんにお任せってね」
「……頼む」
おうよ、頼まれた。
オリ主らしく余裕を見せながら、僕は全身にバリアを展開し、猛吹雪の発生源へと飛び込んでいく。
アリスちゃんの時と同じだ。ここは雪山かと思うほど、目の前が見えないぐらい荒ぶっていた。
うわっ、やっぱ寒っ!
後で絶対カバラちゃんをもふってやる。それだけを思いながら、僕はターゲットへと歩を進めた。
どこでもハープの大きさは持ち運びできる小型サイズの奴です。
書き始めた時は脳内イメージをリラと間違えていたのは内緒だ(´・ω・`)