TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
長太が強い。
いや、マジで長太が強い。
女神様っぽい人は長太推しで確定。そう思えるほど、氷結のフェアリーバーストに目覚めた力動長太は凄まじかった。
具体的に何が凄まじかったかと言うと、その戦い方である。
氷を生成する異能で氷の武器を作り出し、それを鍛え上げた筋肉で振り回すのが彼の基本スタイルだった。しかし、今の彼はそれに加えて多彩な応用技を使いこなしているのだ。
それはネツァクの四方に無数の氷柱を生成し、それを遠隔操作してビット攻撃のように撃ちまくったり。
背中に氷の翼を作ったかと思えば、どういう原理なのか水蒸気を撒き散らしながら空を飛び、ネツァクと壮絶な空中戦を繰り広げたり。
──で、それを見た炎まで背中に蒼炎の翼を展開して飛び上がったりとそれはもう凄かった。
炎に関しては原作でも使っていた技なのでまあいい。
飛行能力は本当はもっと先の回で習得する筈だったのだが、ライバルの奮闘に触発されて原作よりも成長が早くなるのはSSではよくあることなので何も言うまい。
しかし長太、お前それ何だ!?
お前そんなIQ高い戦い方できたの!?
……いや、彼もお馬鹿キャラだが戦闘に関しては元々天才である。機転が利き、その発想力で窮地を切り抜けることは原作でも何度かあった。
それを思えばおかしなことではないのだが、イケメンに覚醒したと思えばこうも立て続けにスタイリッシュな新技を見せられると、僕も理解が追いつかなかった。
──まあ、カッコいいからいいか!
混乱する思考を落ち着けた後、僕が導き出した答えはそれである。
異能の到達点であるフェアリーバーストの力は色々と特別であり、彼が編み出したいずれの技も設定的に無理のあるものではない。寧ろフェアリーセイバーズならやるわ……と、僕は目の前の戦い方が忘れていただけで公式でもこうだったのではないかと疑い始めている。
しかし、そうか……もう三人の中で一人だけ単独で飛べないとネタにされることはないんだね。ううっ、長太君が立派になってお姉さんは嬉しいよ。
『ウオアアアアッ!』
「ぐっ……!」
だが、ネツァクも強い。
長太の新フォームお披露目回なのだから、もう少し圧されてもいいのに。そう思ってしまうほど本気になった彼は強く、二人を同時に相手取りながら対等に渡り合っている。長太の氷も炎の焔も己の拳一つで相殺していく光景は、まさしく「勝利」のサフィラスに相応しい姿だった。
その力のぶつかり合いを間近に受けて、僕のシルクハットが飛びそうになる。
念の為バリアを張っているとは言え、体重の軽い僕では近くで見ているだけでも吹っ飛ばされてしまいそうだった。
いや、「そこで見ていてくれ」って言われたから、ここで見ているけどね? 僕としてはやっぱり、近くで見るよりも高いところから見下ろしている方が性に合っているんだなと再確認した。
「合わせろ炎!」
「わかった!」
だが、彼らの決闘もそろそろ決着がつきそうだ。
発動したばかりのフェアリーバーストという強大な力の連携である為か、最初はどこか手探り感があった二人だが、戦いの中で相方の動きを把握したようだ。その連携は、徐々に洗練されてきた。
流石はセイバーズのエースである。ネツァクの顔からも、完全に余裕が消えている。彼も自分が追い詰められていることがわかっているのだ。
「氷壊弾!」
『なんのッ!』
周囲に展開した無数の氷柱を、ミサイルのように次々と射出していく。
空に飛び上がったネツァクは八枚の翼を羽ばたかせながら巧みにかわしていくが、全ての氷柱をかわしきることはできない。直撃コースで入ってきた何発かは、受けざるを得なかった。
自身の動きを捉えてきた氷柱を、豪快なパンチで粉砕していく。
だが、それこそが二人の狙いだった。
『何ッ!?』
氷柱攻撃、「氷壊弾」と名付けられた長太の技は牽制である。
射出された無数の氷柱の嵐を隠れ蓑に、本命が──蒼炎を纏った炎が、横合いから切迫してきた。
右手に携えた蒼炎の剣がネツァクの身体を打ち抜き、上空から氷漬けの武舞台へと打ち落としていく。
その先に待ち受けていたのは、氷で作った斧を構えた力動長太の姿だった。
「決めろ、長太!」
「おうよッ!」
やっちまえー!
僕は固唾を呑んでその決着を見守る。
長太は斧を振りかぶりながら、武舞台の上に叩きつけられたネツァクの元へ飛び掛かっていく。
フェアリーバーストを発動した二対一では、やはりこちら側に分がある。しかし彼の決めたルールだ。卑怯とは言うまい。
ネツァク、君は確かに「勝利」の名に相応しい大天使だった。
だがこの決闘、セイバーズの勝利だ!と、僕はその決着を確信した──その時だった。
──突如として空から、閃光が走った。
落雷かと見間違うほどの威力だった。しかし空は晴れており、雲一つ浮かんでいない。
何故ならば今しがた轟音と共に頭上から飛来してきた閃光は自然現象ではなく、一人の天使によって放たれた砲撃だったのだから。
……危ないところだった。
咄嗟に僕が「稲妻」の異能を割り込ませて軌道を逸らしておかなければ、長太はその光に巻き込まれていたことだろう。氷の鎧がダメージを軽減させるとは言え、予想だにしない不意打ちは致命傷になりかねない。
誰やねん楽しい決闘に水を差してきたのは!
興醒めもいいところである。僕は介入するのはいいが、介入されるのは嫌いなのだ。
ムッとしながら空を見上げると、しかしそこにいた思わぬ人物の姿に、僕は驚きの声を漏らした。
「サフィラスの女性陣がそろい踏みとはね……」
ヤバいってこれ……あかん奴や。
空からゆっくりと降下してくる二人の大天使の姿に、流石のチートオリ主も焦りを浮かべる。
本当、どうしようこの状況。
『勝利のサフィラスの名が泣いていますよ、ネツァク。人間如きに、貴殿がそこまで追い詰められるとは』
『……邪魔をしないでほしいな、マルクト』
最初に目視できる距離まで降りてきたのは、その手にマリンブルーの宝剣を携えているオリーブ色の髪の美少女だった。
小柄な背中には八枚の翼が広がっており、膝下まで下ろされた長い髪が、自身の攻撃によって発生した風圧によってゆらゆらと靡いている。
ネツァクに向かって呼び掛けるその言葉遣いは丁寧だが、小馬鹿にしたように見下ろす姿からは高圧的な印象を受ける。
ネツァクはボロボロになった上着をちぎり捨てながら立ち上がると、少女たちの姿を抗議の眼差しで見上げる。
──サフィラス十大天使10の天使、王国の「マルクト」。
彼女もまたネツァクと同格の大天使であり、ケテル最後の剣とも称される王の懐刀だった。
あと、かわいい。かわいい(重要)。
原作アニメ「フェアリーセイバーズ」では登場が終盤だったので出番は数分しか無かったが、貴重な女性キャラ──それも丈の短い純白の法衣と、ロングブーツの間に光る絶対領域が印象的なミニスカ美少女だったので、短い出番の中でも目に焼き付いていた。かつての僕の性癖の目覚めである。
更に言えば、どいつもこいつも独自の正義を持っているが故に今一つまとまりの無かったサフィラス十大天使の中で、彼女だけは徹頭徹尾ケテルに一途だったものだ。故にかわいい。ケテル爆発しろ。
そんな彼女──マルクトがツァバオトに現れたことは衝撃的ではあったが、それもまたケテルへの忠誠心を考えれば納得できる展開だった。
しかしそれ以上にマズいことになったのは、彼女の他にもう一人──超空間で僕たちが分断される要因を作った、殺意MAXの大天使様が降臨なされたことである。
『さあ、一網打尽にしますよティファ。貴方と私が組めば無敵です』
『……ええ。そうね、マルク』
オリーブ色の美少女の後ろには、身長180cm近くの妙齢の金髪美女──同じくサフィラス十大天使ティファレトの姿が見える。
天使たちは基本的に長身である。女性天使であるティファレトですらスーパーモデル級であり、僕から見れば地面に立っていても見上げる形になる。
しかしそんなサフィラス十大天使の中にいて、身長150cmぐらいしかないマルクトの体型は未成熟な末妹感が強くて大変よろしかった。
顔立ちは凛々しいけど、おかげでそこまで威圧感が無くて助かる。
招かれざるスペシャルゲストが二人も姿を現したことで、むさ苦しい闘技場が一気に華やかになる。
場内の観客たちは皆、どよめきながらも恍惚とした眼差しで彼女らを眺めていた。……うん、ネツァク様を悪く言うわけじゃないけど、ザ・天使って感じの神々しさだもの二人とも。わかるよその気持ち。後光差してるし。
しかしこの状況、僕たちからしてみれば悪夢みたいな状況である。
三人のサフィラス大天使が集まり、二人はネツァクとの戦いで疲弊している。
おまけに、マルクトとティファレトはお互いを愛称で呼び合うほどの仲良しさんである。足の引っ張り合いも期待できそうになかった。
原作では主義主張の違いから敵対していた二人だが、ここではティファレトが人間許すまじの感情に染まっている為両者の思惑が一致している。おかげで仲睦まじい二人の姿を見れるのはファンとして嬉しかったが……この状況で二人が揃うのだけはちょっと勘弁してもらいたかった。
でも、僕には女神様っぽい人の気持ちわかるよ……二人とも貴重な女性キャラだもん。そりゃ出番を増やしたいよね!
仮に僕がフェアリーセイバーズのSSを書くとしたら、ヒロインはこの二人にするよね。特に原作の出番が少ないマルクトは、色々と捏造設定を盛りやすいのだ。
『待ってもらおうかご両名! 今は決闘中ッ! それに、ここは私の島だ! 君たちの出る幕ではないな!』
『人間共の見極めは済んだ。ただちにこの世界から抹消しろというのが
『む、むう……』
二人の乱入により水を差されたことでネツァクが抗議の声を上げるが、小柄な大天使様は嘲るような視線で彼を見下ろしながら、ピシャリと言い捨てた。その言葉に、ネツァクは歯切れ悪く口籠もった。
ネツァク様弱っ、勝利の大天使のくせにレスバトル弱いな! もう少し頑張ってよお兄ちゃんでしょ!?
いや、お兄ちゃんだからこそ、末妹には弱いのか……ええい! 人情派が裏目に出たな。
「……うるせぇ」
ボソリと呟いた声が、耳に入る。
もちろん僕の声ではない。心底苛立たしげなその声は、彼女によってネツァクとの決着を台無しにされた張本人が吐いたものだった。
「何が見極めは済んだ──だ……あんたらの王様は、俺たちの何を見た!? 血反吐吐きながらあのド畜生をぶっ倒したのは、一体どこの誰だと思ってやがる……!」
ペッと唾を吐きながら、空からこちらを見下ろす少女の姿を睨む。あっ、見せパン見えた。流石に穿いているよな。
おっといかんいかん、今は彼女の絶対領域に注目している場合ではないのだ。
『……何ですか? 我々に何か文句でもあるのですか? おに……ケセドを殺した貴方がた人間が、我々に? 痴れ者め、恥知らずも大概にしなさいっ!』
あっ今ケセドのことお兄ちゃんと言いかけたな。
原作では「貴方は出来損ないの裏切り者ですね……」だとか「王様の気持ちもわからない半端者!」だとか、「バーカ! 死んじゃえ! 大っ嫌い!」とか言って彼のことをボロクソに貶していたものだが……うん。特に敵対しているわけではないこの世界では、それなりにいい関係を築いていたのだろう。
ケセド君優しいし、末妹のことすっごい大事にしてそうだもんね……お労しや。
しかし、人間を憎む理由が彼女にあるように、人間側にも彼女らに物申したいことはあるわけで。
今回は白熱していた男同士の決闘に水を差されたことも相まって、彼女から一方的な糾弾を浴びた力動長太はイライラゲージがMAXになっていた。
見た目通り、彼は我慢弱い。堪らず叫び出した。
「恥知らずはどっちだこのガキ! 人のクソな部分だけ見て、人の全部をわかったと思うなよ! 俺を……俺たちを見ろ! 俺たちはまだ、てめえらに見限られるほど捨てたモンじゃねえっっ!!」
『っ!?』
『マルク、離れなさい!』
瞬間、長太の纏う氷の鎧がまばゆい輝きを放つ。
僕は「サーチ」の異能により彼の異能の力が集束していることに気づいたが、同じことをティファレトも察知したのか、マルクトに呼びかけながらその場から飛び退いていった。
しかし完全に彼を見下し、侮っていたマルクトは、即座に回避行動へと移ることができなかった。
「これが……人間の力だあああああっっ!!」
咆哮と共に、紅蓮の鎧からおびただしい量のエネルギー波が解き放たれる。
余波を受けただけで、身体中が凍えそうになる。後でまた炎に温めてもらえないかなーと思ったそれは、彼の身体から放たれた猛吹雪の一点照射だった。
原理としては単純だ。バースト状態の時には手当たり次第放出していた氷結の力を、一点に絞って爆発させたのである。
その砲撃はまるで光線のように長太の鎧から迸り、咄嗟に剣を盾にしたマルクトの身を瞬く間に飲み込んでいった。
『っ、きゃああああああ!?』
……うむ。
うむじゃないが、迫真の悲鳴である。こんなことを言うと物凄く犯罪臭いが、こちらを見下しきっている勝ち気な美少女が、予想外な仕打ちに女の子らしい悲鳴を上げるのって、いいよね。
決して痛めつけてやりたいわけではないのだが、何故だか胸の辺りがこうぞわっとするのだ。
そんなことを思考の隅に置きながら、僕は長太の知らない新必殺技を見届けた。
「へっ……どうだ……」
得意げに笑いながら、紅蓮の氷で作られた長太の鎧が崩れていく。
凄まじい威力であるが故に、氷の鎧を形成していた分の力も消費してしまったのだろう。
その力はバースト状態の時の猛吹雪とすら比較にならない。多分、僕が受けたらダメージは免れなかっただろう。
しかし、それを正面から受けた筈のマルクトは──身体の各所が凍りついていたものの、未だ健在だった。
ただし、身体は無事でも……という奴だ。
侮っていた人間から悲鳴を上げさせられた羞恥心からか、その顔は真っ赤に紅潮している。剣がバリアの働きをしていたのか僕のようにびしょ濡れにならなかったのは、少しだけ羨ましかった。やっぱ強いなあの剣。
そんな彼女は怒りに燃えた大きな瞳で長太を睨み、強く言い放った。
『ふ……ふざけないでください! 我らの神アイン・ソフから授かったこの聖剣マルクトがある限り、その程度の攻撃、そよ風にも及びませんっ!』
そよ風にも及びません(キリッ)って、貴方……今めっちゃ悲鳴上げていましたやん。
キリッとした顔で言っているけど、僕見ていましたよ千里眼で。貴方攻撃を受ける瞬間「ぴっ」って怯えていましたよね?
くっ、ツッコみたい……! 「そこのところどうなんですかマルクト様ー! 大天使マルクト様ー!」と、執拗にツッコんでプルプルさせたい……!
だけどやらない。
今はシリアスな展開だし、そういうのはミステリアスなお姉さんのキャラではないのだ。
「10の天使はまだ、幼いね……」
ただ僕は、そんな彼女のことを温かい眼差しで見つめていた。
「顔真っ赤にして何言ってんだ嬢ちゃん?」
『……! ──ッ!』
い、言ったー! さ、流石長太さん! 僕が言えなかったことを躊躇いも無く! そこにシビれて憧れるぜー!
顔真っ赤にしてプルプルしているマルクトの姿は、大変よろしかった。
心なしか彼女を見つめる場内の観客の皆さんの空気も生暖かい。降臨した瞬間はそのカリスマに拝むように仰ぎ見ていたのにこの変わり様である。
この子、自分の島ではアイドル的な存在として見守られているんだろうなぁと何となく感じた。人望は厚そうである。
そんな末妹の姿に溜め息を吐きながら、美の大天使ティファレトが彼女の翼をトンと叩く。
『落ち着きなさい、マルク。子供じゃないんだから』
『ふ……ふん! 落ち着いてますよ私は! 私はケテル様最後の剣ですから!? 今でも全く冷静ですよ私は!』
『どこがよ。ほら、後ろ向いて。髪の毛に氷ついているわ』
『……! う~!』
かわいい(確信)。
こんな天使様、味方だったら一生推すわ。
お高くとまってすまし顔だった美少女が羞恥に崩れるのっていいよね……そう思いながら、僕は髪先に付いた氷をティファレトに払ってもらうマルクトの姿をほっこりと眺めていた。
あの子、こんなに愉快なキャラだったんだなって。つくづく原作では出番が少なかったのが勿体無いと思った。
しかし、そうも呑気に言ってられない状況だ。
見た目はこのように可愛らしい美少女だが、マルクトの戦闘力は
今しがた長太が放った全力の一撃さえも、聖剣マルクトの護りの前では大したダメージにならなかったのだから、その恐ろしさは推して測るべきだろう。
一方で長太は今の一撃で大きく消耗し、フェアリーバーストの状態が解けてしまった。まともに戦えるのはもはや炎しか居らず、その炎もネツァクとの戦いで疲弊している。
うん、冷静に考えて絶体絶命である。
そしてそれは、チートオリ主の出番を意味している。
よっしゃ、僕に任せな!
『待ちたまえ、T君ッ!』
T君? ああ、T.P.エイト・オリーシュアだからT君か。初めて聞いたわその呼び方。なんか寺生まれみたいだな。
再びターンが巡ってきたことにウキウキな気持ちで前に出ようとした僕を制したのは、末妹に論破された大天使ネツァクの声だった。
『ここは私が引き受ける! 君は彼らを連れてここを去るがいい!』
──!?
ここは任せて先に行け、だと……!? それはオリ主として一度は言ってみたい台詞ベスト3に名を連ねる台詞ではないか!
その言葉を受けた僕は、雰囲気を台無しにしないようにあえて問い返した。
「……いいのかい?」
『なに、前からケテルの計画には乗り気でなかったのだ。全面的な協力はできないが、この場ぐらいは私が収めよう! 君にも果たすべき使命があるのだろう?』
サンキューネツァク様!
あんたの株、ちょっとケチが付いたけどずっと頼もしかったぜ!
「ありがとう、ネツァク」
『ふっ……君たちに、サフィラの祝福があらんことを!』
彼が引き受けてくれるのなら、僕はそれを受け入れるだけだ。
この展開で僕も残ってしまうのはそれはそれで熱い展開かもしれないが、そうなると炎たちを連れて行ける者がいなくなる。
地味な役割だけど、原作のキャラに何かを託されたりすることもまたオリ主の役目である。僕は「
「おお!?」
「エン、キミもこっちに!」
「……ああ」
長太は一人ティファレトの前に立ちはだかるネツァクを見て何か言いたげだったが、フェアリーバーストが解除されてしまった彼では万に一つも勝ち目は無い。僕は有無を言わせず闇の不死鳥を発進させると、その先でハニエルと何やら話し合っていた炎の手を掴んで引っ張り上げてやった。
「離脱するよ、しっかり掴まってて」
力動長太と合流するという当初の目的は既に果たしているのだ。
後少しでネツァクを味方に引き込めたのは惜しかったが、大天使が直々に二人も押しかけてきた以上、長居は無用である。
ネツァクは……大丈夫だろう。アビスの対処もある以上、酷いことにはなるまい。建前としても、「決闘を邪魔したから」と言い張れば裏切り者認定も受けない筈。ケテルは何だかんだで身内に甘いのだ。
そういうわけで僕は怪盗らしい逃げっぷりを存分に発揮し、この場を飛び去っていった。
カバラちゃんはごめん! 炎たちを降ろしたらすぐにテレポーテーションで迎えに行くので待っててほしい。
『逃しません!』
黒い巨鳥──今は亡きケセドに似た力を使って飛び去ろうとする人間たちを追撃し、マルクトは八枚の翼で闘技場を置き去りにすると一気に上空まで飛び上がっていく。
既に距離は遠く闘技場からも離れているが、10km程度ならマルクトの射程範囲である。肉弾戦に特化しているネツァクとは違うのだと自負しながら、彼女は聖剣マルクトの柄を両手で握り、その剣先に聖術のエネルギーを溜めていく。
先ほど彼らの決闘を妨害した技とは比較にならない威力だ。これで忌まわしき人間共を撃ち落とし、二度とフェアリーワールドに来れないようにしてやるとマルクトはその光を解放しようとした、その時だった。
『っ……なに!?』
下──闘技場の屋根の方から飛来してきた一本の光の矢が背中を刺し、マルクトの剣戟を妨げたのである。
『この、矢は……ビナー……?』
それに気を取られた数秒の間に、憎き敵はこの場から離脱していった。
アンケートご協力ありがとうございます!
タイトルは変えない方がいい、いい感じの候補があるなら変えた方がいいの意見を多く貰ったので、基本的にはこのままで、よほどいい感じのタイトルが思いついた時に変えるかも、というつもりでやっていきたいと思います。本当神機能だなこれ……
なお、よほどいい感じのタイトルは思いつかん模様
アドナイ編が一区切りなので次回は三次元回を予定しています