TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
旅と言えば、野宿である。
町から町へと渡る際、一日でたどり着けない場合には道端にテントを張り夜を過ごすのは異世界冒険の基本である。その際にたまに親切なおじさんに泊めてもらったり、そのおじさんが狼男的な怪物だったりするのもまたお約束の展開だった。
もちろん、僕はオリ主なのでその辺りも抜かりは無い。
キャンパーとしての基本知識は履修済みであり、快適な野宿ライフを過ごす為の能力も完備している。と言っても大体「闇の呪縛」と「バリアー」があれば雨風を凌ぐには十分であり、そこに「アイテムボックス」を足せば頑丈な仮設住宅の完成である。
外は日が落ちて、地球よりも月の光が強い森の中。
僕が作った闇のテントの中で腰を下ろし、それぞれ身体を楽にした僕たち三人は、炎が点けてくれた蝋燭の火と僕の隣にちょこんと座るカバラちゃんの光に照らされた7畳半のスペースで向かい合っていた。
カバラちゃんはマルクトとティファレトの追跡を撒いた後、テレポーテーションできっちり迎えに行ってきた。
カバラちゃんは本当に賢いカーバンクルなので、物陰に隠れながらも僕を待っていてくれたのだ。いやー良かった良かった。
僕は彼女に「ありがとう」とお礼を言った後、この胸に飛び込んできたもふもふを堪能しながら回収してきたわけだ。君は僕の胸が好きなのかな? 僕も君のこと好きだからどんどん飛び込んでいいよ。
そして今、カバラちゃんは大人しく待っていてくれたお礼とお詫びの気持ちを込めて、僕が差し出したチュールっぽいおやつを肉球に掴んでちゅるちゅると食らいついていた。
リスというより猫みたいだなこの子。大変可愛らしいので疲れた目の保養になる。
「にしてもよく光るなそいつ。蝋燭の火が要らないぐらいだぜ」
「それより、このテントだろう。異能の組み合わせ次第で、こんなものが作れるんだな」
ふふん、もっと褒めたまえ主人公たちよ。
だけど崇め讃えるのは勘弁な! モブキャラ相手でさえむずむずしたのだ。原作主要キャラにまでそれをやられた日には、解釈違いで僕が暴れ出す恐れがあった。
僕はオリ主的に上に立ちたいとは思っているが、それはそれとして君たちとは対等に関わりたいのである。
「ああ、これで野宿もばっちしで、おまけに風呂に入る必要も無いってのが助かる。姉ちゃんがいてくれて良かったぜ」
「褒めても夕食しか出せないよ。欲しい?」
「あるのか? サンキュー!」
一家に一台、旅のお供にエイトちゃんである。
僕としてはこうなるってことが最初からわかっていたのだから、長旅に備えて日常用の能力を作っておくのは当然だ。
それはそれとして褒められるのは嬉しいので、僕は二人にツァバオトの商店街で買ったお土産「ネツァク様弁当」を手渡しておく。
僕は既に食べているので、今は手元の作業に集中していた。
ああ、因みに彼が今言った「風呂に入る必要も無い」という言葉は、僕が「浄化」という異能を持っているからである。
つい先ほどその力で汗臭い二人の身体を清めたばかりであり、この異能は僕自身にも日常的に使っていた。
因みに、原作アニメでは長太が作った氷を炎が溶かすことで人力露天風呂を作っていた。灯ちゃんの貴重なサービスシーンにはそれはそれはお世話になったものである。
まあ、それはそれとして僕もお風呂に入った方が当然気持ちがいいので、後でこっそりテレポーテーションで町の銭湯にでも行ってみるかな。
いやあ一人しか移動できなくて申し訳ない! チートすぎて申し訳ないなー!
あっ、調子に乗っていたら指に針刺さった。地味に痛い。だけど、クールなエイトちゃんはポーカーフェイスを維持するのである。痛い。
「……あんた、さっきから何しているんだ?」
「? 裁縫だけど?」
なんだよ長太。見ればわかるじゃん、マントを縫っているんだよ。君を助ける為にボロボロになったから。
今着ているのは既に着替え終わった同じ衣装の新品であるが、直せるものは直すに越したことはない。
そういうわけで僕は、今日着ていたロイヤルブルーのマントをさっきからチクチクと縫っていたのである。
「器用だな」
「そういう異能を使っているし、こう見えて好きなんだ。服を作るのは」
「ほーん……」
そうとも、何を隠そう裁縫は前世から続く得意分野なのだ。
趣味でコスプレ衣装とか作っていたし、この衣装自体既製品を改造してアレンジしたものだったりする。
元々の趣味が高じていたものに、ハープ演奏にも使っている指先の感覚を鋭くする異能をブーストしている。
故に作業効率は通常の三倍以上であり、鮮やかに布を修復していく僕の手捌きはまるでミシンだった。二人はそんな僕の作業を意外そうに、感心しながら見ていた。照れるなぁ。
「俺の服は直せないのか?」
「流石にそれは無理かな。キミたちのバトルスーツは特殊な材質でできているから、普通の布じゃ見た目しかカバーできないよ?」
「いや、それで十分だ。あんたのが終わってからでいいが、ついでに頼んでもいいか?」
「……いいの? 何か仕込むかもしれないよ?」
彼らセイバーズ機動部隊が着ているバトルスーツは特別製であり、特にエースである二人が着用しているそれはこの世に二つとして無いオーダーメイド品である。故に、手持ちの素材では完全な修復は不可能である。
バースト状態でも全裸にならずに済む不思議材質には興味が無いわけでもないが……自分の命を預けた道具をセイバーズではない人間に差し出してくるのは、流石に警戒心弱すぎではないかと思った。
ちょっと心配になったので皮肉っぽく問い掛けてみたが、長太の反応は実にあっさりしていた。
「姉ちゃん、そんなことしないだろ? 優しいし」
…………
……ふ、ふーん?
ま、まあね。
僕は君たちに協力的なオリ主だからね。あわよくばストックした異能を使って原作より強化できないかなーとは思っていたが、悪いようにする気が無いのは事実である。
しかし、そうも見透かされたように言われるのはマウントを取られたようで気分が悪い。
「キミはもう少し、考えて喋った方がいいと思うよ」
「えっ? なんで?」
「……くっ」
本当に、これだからおバカキャラは……僕は溜め息を吐くように苦笑した。
おい炎、お前何わろてんねん。
「わかった……わかったよ。炎のもついでに直してあげようか?」
「いや、俺はいい。応急修理くらいなら俺もできる。それに……ここまであんたに頼っていると、自分が何しに来たのかわからなくなるからな……」
さよか。ああ、そう言えばこの男、むっつりした見た目に反して結構家庭的なんだよな。光井家にステイしていた時期もあったが、子供の頃から独り暮らしをしてきた暁月炎のスキルは豊富なのである。
そんな炎に、「つまんねー意地張ってんなよ」と呟く長太。お前もつまらない意地張るタイプだろ何言ってんだ。
まったくこれだから脊髄で生きている脳筋は厄介なんだと、僕は天然の炎とはまた違った厄介さに嘆息する。
丁度修復が終わったマントをせっせと膝の上に折り畳んだ後、このテントの中ですっかりリラックスした様子である長太の顔をまじまじと見つめた。
「な、なんだよ姉ちゃん?」
「んー」
流石の彼も、無言で美少女に見つめられるとたじろぐようだ。
戦っていた時とは違って初々しい反応を見せる彼の姿は微笑ましく思うが、それはそれとして僕は一つ小言を言うことにした。
丁度いい。君には言いたいことがあったのだ。
それはオリ主的伝家の宝刀「SEKKYOU」である。
「マルクトに言ったこと」
「?」
あの時は、あえてツッコまなかった。
ツッコまなかったと言うか、マルクト様ちゃんの絶対領域に目が行っていたのでツッコめず見過ごしてしまったわけなのだが……振り返ってみると、あの時の彼の態度はオリ主的に頂けないものがあった。それを思い出したのである。
「マルクト……あのチビ天使のことか」
「うん。キミの言ったこと、間違ってはいないけど、行動とは合っていないと思うよ」
「……行動、ねぇ」
筋肉ムキムキのマッチョマンが小柄な美少女を恫喝するという、絵面的に頂けなかった光景はともかくとして。
TSオリ主である僕は男女平等主義なのだ。あの時の彼の啖呵はセイバーズの誰もが思っていたことだろうし、胸がスカッとする叫びでもあり僕としては「よく言った!」と褒めてやりたいぐらいである。
しかし今回指摘したい問題は、彼が啖呵を切った次の瞬間、全力の一撃をぶっ放したことである。
僕の言いたいことを先に理解したのか、彼の横では炎が頷いていた。
「ああ、あれは俺もどうかと思う」
「「俺を見ろ!」って言った直後に攻撃を仕掛けて、キミの思いを受け止められるのはネツァクだけだ。キミの攻撃を受けたあの子は「やっぱり人間は野蛮じゃないですか!」とさらに人間のことを軽蔑していると思う」
「……あー」
「声真似上手いな」
うん、危うく勢いに誤魔化されそうになったが、冷静に振り返るとあの時の彼の行動は煽りにしかなっていなかったのではないかと思う。
特に、マルクトは一番若い大天使である。
精神年齢はいいところJCぐらいに思える。彼と言い合う彼女の姿はとても可愛らしかったが、その心情を思うと辛いものだ。
「ネツァクみたいに、拳で語ればわかってくれるかなーって……正直、悪かったとは思ってる」
まあアドレナリンドバドバで最高にヒートアップしている決闘の真っ最中に、いきなり出てきて邪魔されたらキレるわな。
相手がいくら美少女でも関係ない。そこは彼の方が全面的に正しいだろう。
それでも彼女との関係をできるだけ穏便に運びたいと思うのは、「フェアリーセイバーズ」ファンとしてのエゴなのだろうか。いや、単に美少女だからだわ。僕のようなチートオリ主は、美少女に対してだけは理不尽に優しいのである。
「うん、わかればよろしい。次に会った時は謝ろうね」
「ああ、わかった」
「俺は会いたくないが」
炎は黙っていなさい。
確かにあんな強敵と何度も会いたくはないだろうが、彼女とは間違いなく再会することになる。原作的に考えて。
しかしそれならば尚のこと、君たちの目的は大天使たちとの闘争ではなく対話なのだから、余計なわだかまりを増やすようなことはするべきではないだろう。
「拳で語り合うキミたちのコミュニケーションはとても素晴らしいものだと思うけど、それは誰にでも伝わるものじゃないからね。相手を見るのは、対話の第一歩だよ? 俺を見ろって言うのなら、尚のことね」
「……スン……」
返す言葉もないように、僕のSEKKYOUを正座で聞く長太の姿は面白い。本当にスン……って言いながら落ち込む奴初めて見たわ。
そう言えば、こうして理詰めで攻めてくる女の子は苦手だったなこいつ。
まあ、根は素直だしマルクトに撃ったのも悪意とかではなかったのもわかっている。
自分の弱さを実感した瞬間バースト状態に陥ったように、この男は良くも悪くも純粋すぎるのだ。
わかってくれたのならいい。僕が討論においても最強オリ主であることを示した以上、これ以上アンチ系オリ主みたいに突いてやるのは勘弁してあげよう。
……いや、ちょっと言い過ぎちゃったかなーコレ……戦いの時はあんなに弾けていた彼が、まるで叱られた大型犬である。そんなに落ち込まなくてもいいのに。
その頭に似合わない犬耳を幻視し、僕はクスリと笑みを漏らした。
「そんな顔をするなよ、チョータ。キミは正しいことを言ったんだ」
「……っ」
最終目標に対する行動としては間違っていたけど、「人間全員を
申し訳なさそうな顔で項垂れている彼の元へ歩み寄ると、僕はポンポンとその背中を叩いて元気づけてやる。
彼が小さい子供だったのならオリ主らしく頭でも撫でてやったかもしれないが……彼は17の青年だし、僕も夢女子ではないのでそのような露骨な真似はしない。エイトちゃんは無自覚系ハーレム主人公とは違うのだよ。
僕は彼の頬に手を添えながら目線を合わせた。
「キミの気持ちはよくわかる。だけど天使にだって心がある。特にマルクトは喜怒哀楽が激しくて、キミと同じぐらい純粋な子なんだ」
彼のおかげでマルクト様ちゃんの赤面プルプルが見れたのでGJである。
その一方で、彼女を可哀想だと感じている気持ちも嘘ではない。
そしてそれは、長太の方も同じ感情だったようだ。
いや、寧ろ彼の方が──
「……気づいていたさ、そんぐらい。アイツの目は、昔の俺とそっくりだった」
「チョータ……」
「メアに埋め込まれたケセドって奴、アイツらの家族なんだろう? それを奪った人間そのものが憎いって気持ちは、俺にはよくわかる」
──彼は想像以上に、マルクトの気持ちを考えていたようだ。考えた上でああしたのは、彼の不器用さ故か。
思えば元々復讐者だった炎も含めて、今の彼女は君らと似た境遇だもんね。
それを思えば、彼女が叫んでいた怒りの意味もわかる筈である。
「アイツが人間を恨んでいるなら……俺たちは、その怒りを受け止めなきゃならねぇ。奴が家族の仇を憎むのなら、その怒りを向けるのはPSYエンスをのさばらせていた俺たちだけで十分だ。だからアイツの怒りの全部を、俺に向けてやりたかった」
……ん?
何言ってんだお前。
何もかも悪いのはPSYエンスだって、自分で言ってたじゃないかお前。
なんでセイバーズが責任を取る必要があるのかと、ちょっと言っていることがわからないエイトちゃんである。
僕はその気持ちを、スタイリッシュな言い回しで伝えた。
「キミたちだって人間さ。器以上のモノまで背負う必要は無いんだ。キミたちだって、神様にはなれないのだから……」
「……そう、かねぇ……」
そうだよ。お前までそんなグラビティーな考えになるなよな。お前の目指すヒーローだって、そこまで自己犠牲の塊じゃないだろうに。
大体、そういうキャラは原作主人公様で間に合っているのだ。キャラ被りイクナイ。
「俺だって、そこまでおこがましいことは考えちゃいねーさ。まっ、どっかの誰かが移ったんだろうよ」
「……何故、俺を見る?」
「そっか、そっくりなんだねキミたちは」
「「どこが?」」
その主人公──暁月炎の影響を受けたことで無駄に責任感が強くなったのだと語る長太に、当の本人が心外そうな顔をする。
尊い。
物語の中で積み重ねてきた男と男の絆って、いいよね……変な意味じゃなくて。
惜しむらくは、僕が第一クールから絡めなかったことである。一生言い続けるからな、女神様っぽい人! 僕は貴方には感謝しまくってるしマジリスペクトだけど、それとこれとは話が別なのだ。
それからもしばらく談笑し、闇のテントの中にリラックスした空気が流れ始める。
そろそろ頃合いか。
本題に入り、僕たちは今後のことを話し合うことにした。
「で、どうする? あの感じじゃ、いつでもテレポートできる姉ちゃん以外ツァバオトには戻れねぇぞ」
それなんだよなぁ……サフィラス十大天使のティファレトとマルクトが揃ってこの島に乱入してきた以上、今後のプランには大きな修正が必要だ。
アニメ「フェアリーセイバーズ」ではこの後、四人目の仲間である「光井明宏」の情報を掴むことになる。
そして彼がコクマーの国である第2の島「ヨッド」に囚われていることを知り、三人で救出作戦を敢行するのがこの後の展開だった。
──はい。そういうわけでそもそも前提からして明宏がフェアリーワールドに来ていないので、このシナリオは最初から破綻しているのである。やったぜ。
SSのお約束的に考えて、明宏の代わりに他の誰かがコクマーの島に囚われているのではないかという懸念はある。だが、今のところその情報は掴めていなかった。
仮にそうだとしたら、この後少ししたらフェアリーワールド中にその情報が通達される筈である。
コクマーは自ら先陣を切って人間世界に攻撃を仕掛けてきたことからも察せられるように、サフィラス十大天使の中でも屈指の武闘派である。
しかし、「知恵」の名を冠する彼は十大天使きっての策謀家でもあり、作中では捕らえた明宏の処刑通告を餌に炎たちを自国に誘い込み、一気に殲滅しようと企んでいた。原作における灯ちゃん曇らせ展開の一つである。
なので、いかにコクマーの人類への殺意が高かろうと──殺意が高いからこそ、誰かを捕らえたとしても即座に処刑はしない筈だ。
……そう思っていたのだが、こうも原作と乖離してくると流石に心配になってくる。
これは慎重になった方が良さそうだ。
すっごく疲れるけど、連続テレポーテーションを使って僕一人だけでも偵察に行った方がいいかもしれない。
風岡翼はいざとなったら彼の異能「疾風」により神速のスピードで離脱できるし、メアはオリ主だ。二人のうちどちらかが捕まっている可能性は低いと思っているが、こればかりは原作キャラの命が関わっているからね。
二人のうちどちらかが捕まっていたら、一人で救出作戦を実行してみるのもまたオリ主だろう。
それを思うとモチベーションが上がってくる。
そうして一人頭の中で今後のプランを練っていると、セイバーズのリーダーとして炎が切り出した。
「エロヒム」
えっ、エロが何だって?
と言う冗談はさておき。
エロヒム──それはこのフェアリーワールドを構成する10個の島の一つの名前である。原作アニメには出ていなかった名前だが、僕はツァバオトで買った世界地図からその島のことを予習していた。
「なるほど……」
第3の島「エロヒム」はサフィラス十大天使の中で設定のみがチラッと語られただけで作中未登場だったキャラ、「理解」の大天使「ビナー」が管理している島だと言う。
その名前が炎の口から放たれたことに、僕は内心驚きながら彼の言葉に耳を傾けた。
「ハニエルからはこの島を出て、「エロヒム」という島に行くことを勧められた。そこに行けば、大天使ビナー様が味方してくれる筈だと」
「大天使が味方!? 本当かよ、その話……!」
「……アイツは、嘘を吐いて罠を仕掛けてくるような奴じゃない。どの道、この島は出なきゃならないんだ。行ってみる価値はあると思う」
マジかよ……ティファレトまで敵になっているのに、うちらに味方してくれる天使がいるのか?
だけど、ハニエルさんのお墨付きか……生真面目なあの天使のことだから、確かに嘘は吐かないだろうなと思う。
「エロヒム」という島の場所は地図によるとここから見える世界樹サフィラよりもさらに遠く、ティファレトの島を経由して行かなければならないところにある。
しかしそこにいる「理解」の大天使様の協力を得られるのであれば、メアと翼の居場所ぐらい教えてくれそうなものである。原作に出ていないので、どういうキャラなのかまるでわからないのが不安要素だが。
しかし、これは……遂に来たな、完全オリジナル展開っ!
完全オリジナル展開とは原作沿いの対義語であり、原作の展開から完全に逸脱した独自の物語のことである。
必要とあれば登場人物さえオリジナルで用意する必要がある為、SS作者に要求されるハードルは原作沿い以上に高い。しかしそれ故に自由で幅広い展開を行うことができる為、SS読者としては劇場版ストーリー感覚で読むことができた。僕の好きな形式の一つである。
遂に、その時が来たというわけだな。くくく、オリ主として血がたぎるわ!
「そうか、エロヒムね……わかった。移動はボクに任せてよ」
「キュー!」
「ほら、カバラちゃんも道案内してくれるって」
「キュー?」
「ありがとう、カバラちゃん」
「ちょ待て! あんたそいつの言葉わかるの!?」
「何となくだけどね」
わかるわけないじゃん。
ん、どうしたカバラちゃん? 僕の脚を叩いてジタバタして……トイレでも行きたいの?
おっけ。僕も外の空気を吸いたいから一緒に行こうか。
「そうかよ……しっかし、なんだ。姉ちゃん何でも知っているな! 今更疑っているわけじゃないが、あんた何モンなんだ?」
そう、僕は何でも知っているTS美少女怪盗ミステリアスなエイトお姉さんなのだ。
僕は今回も訳知り顔に微笑みながら、カバラちゃんを胸に抱き抱えて言った。
「ボクはT.P.エイト・オリーシュア。今はまだ、そういう存在であるとしか言えないかな?」
じきにわかるさ……いや、絶対わからないし教える気も無いが。
僕に開示することができる僕自身の情報は、あまりに少ない。一緒に旅をする彼らからしてみれば我ながら不誠実極まりないが、その分移動手段とか大天使たちとの戦いとかで働くから許して。
「そっか……まっ、あんたが何モンだろうと関係ねぇ。あんたは俺を信じてくれた。だから俺はあんたのことを信じることにするよ」
「ありがとう、チョータ」
「いや、なんだ……こっちこそ色々、ありがとよ! えーっと……姐さんって呼んでもいいか?」
「ボクとしては、お姉さん呼びの方が好きかな」
「じゃ、今まで通り姉ちゃんって呼ぶわ。これからよろしく、エイトの姉ちゃん!」
「ふふっ……」
流石長太。そういうさっぱりした対応好きだよ僕は。
いやしかし、何だか照れるな。原作のメインキャラ二人に受け入れられるとこう、世界全体に許されたみたいで自然と笑みが零れてしまう。エイトちゃんのデレ顔である。謹んで受け取り給えよ。救世主諸君。
──あっ、言い忘れていた!
「そう言えばキミの髪型、今のも嫌いじゃないけど……ボクはいつものキミの方が好きかな。強い男の子って感じがして」
「!」
──よし、これで明日の朝には元のリーゼントヘアーに戻してくれるだろう。
いかにも
しかしそれは、力動長太を力動長太たらしめる象徴なのだ。それを捨てるなんてとんでもない。
覚醒演出のみ、たまに今のイケメンスタイルになるのはアリだけど……普段はいつものキャラを守り続けてほしい。アニメの頃から彼のことを見続けてきた、エイトお姉さんのささやかなお願いだった。