TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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チートオリ主動乱編
CVは○○○○


 サフィラス十大天使ケセドは、「慈悲」の名を冠する通りとにかく慈悲深い。

 

 とてもとても強いが、あまりにも優しすぎるのだ。心穏やかな少年のような大天使様である。

 その素顔もまた優しさが滲み出た柔和な顔立ちをしているので、本人はそれをコンプレックスに感じているほどだった。うん、実にあざとい。

 そんな彼は大天使としての威厳を保つ為に、常に巨大な鳥の姿に変身している。

 滅多に人型にはならないので、人外詐欺も安心のモフモフ仕様だった。

 

 ──で、そんなケセドが管理する第4の島「エル」の住民は、彼の影響を受けて気性の穏やかな聖獣や、逆に彼らを引き締める厳格な聖獣の両極端に分かれている。

 種族は天使と言うよりも鳥に近い姿をした「鳥人族」や「ハーピィ族」、竜の翼を持つ「竜人族」など飛行能力のある翼人族種が多く住んでいる。

 立地が高く、崖のような地形になっていることから常に強風が吹き抜けている為、空を飛べる種族にとっては快適な島らしい。

 アドナイ同様多種多様な種族が共存している島であるが、誰もがケセドを慕っているのは共通認識だった。

 

 

 

 ──はい、そういうわけでエルに到着である。

 

 

 道中、雲海の空を飛んでいた時に鳥型聖獣を模倣したアビスに襲われたりもしたが、今回はサフィラス十大天使の襲撃を受けることもなく、昼頃には無事目的地へと辿り着くことができた。

 僕の「闇の不死鳥(ダーク・フェニックス)」のフルスピードを見てリーゼントヘアーをばっちりキメ直した長太なんかはその速さに「すげー! すげー!」と子供のようにはしゃいでくれたので僕も鼻が高かった。エイトちゃんは賞賛コメントが好きなのである。

 炎も今回は睡眠もばっちりで仮眠を取らなかったし、二人との空旅は充実した時間を過ごすことができた。

 

 

「あれが、ケセドの島か……」

「なんか伝説のドラゴンとか住んでそうな島だな」

「聖龍がいるのは世界樹だけどね」

 

 空から見下ろす断崖の島とも言うべきエルの全貌に、二人がごくりと息を呑む。

 わかるよ……アレがヒュンとなりそうな地形だもんね。僕は高いところが好きなお姉さんなので住み心地が良さそうである。

 

「じゃあ、予定通りここで休憩させてもらうね」

「おう、お疲れ姉ちゃん!」

 

 なーんて、本当はそこまで疲れていないんだけど、一旦ここらでコクマーの島に寄りたいからね。

 二人とも紳士だし、「休憩中は一人にさせてね? お願い」と少し甘い感じに頼めば何も言わずにそうさせてくれるだろう。僕は自分が美少女であることを有効に活用できるTSオリ主なのだ。

 そしてその隙に、コクマーの島「ヨッド」へテレポーテーションするという寸法よ。

 フフフ、怪盗は嘘吐きなのだよ。こっちに来てから全然怪盗らしいことしていないけど、それでも初期設定は大事にしたい。

 僕の「怪盗ノート」、盗むのは人間の異能であって聖獣相手に使うとどうなるか未知数なのだ。異能のルーツ的に考えると、聖獣たちは存在その物が異能みたいなものだし。

 それ故に盗んだ結果何か危険なことが起こるかもしれないし、そもそも何も盗めないかもしれない。予告までしておいて何も盗めなかったら実にカッコ悪いし、中々試す気にもなれなかった。

 天使も含めて、みんな根は良い奴だからなー。そういう情報を知っていると強硬策をとるのも気が引けるのだ。

 

 

 それはさておき、どこに降りようかね。

 

 最低でも標高300m以上の高さに陸地があるので、着地するにも手頃な位置を探すのが面倒だ。でもいいなぁケセドの島……ああ、あの灯台とかすっごい登りたい……っ! 頂上に立ったら気持ちいいだろうなー。いいなぁ行ってみたいなぁ……おっと、駄目だ照明に寄りつく羽虫じゃないんだから! 我慢我慢っ。

 えーっと、町からいい感じに離れていて、隠れるのに最適な場所は……

 

 

「……なあ炎」

「どうした?」

「あれ、何だ?」

 

 ん? 何だい長太。今降下するところだからあんまり動くなよ。

 

 あ。

 

「あれは……!」

 

 気づいた炎がハッと息を呑む。

 長太が指差した方向──そこにはまばゆい光を放つ二つの光点が、左に右にもつれ合うようにして飛び回りながら交錯している様子が見えたのだ。

 さながらそれは、エルの空を縦横無尽に駆け巡る彗星のようだった。

 

 ──ってか……アレ、大天使じゃね?

 

 空を飛び回るスピードが、今まで見てきた鳥型の聖獣とは明らかに段違いだった。

 警戒した僕は「千里眼」を発動してその全貌を確認する。

 

 そんな僕の目に映ったのは、四枚の翼を持つ小さな天使と、八枚の翼を持つ橙色の騎士がぶつかり合っている光景だった。

 

「っ、メアッ!」

「え!? メアなのかアレ!?」

 

 おお、流石炎。千里眼も無いのにわかるとは、視力良いなお前。

 

 そう、前者の光の正体はメアだった。

 銀色の長い髪に、紺碧と黄金のオッドアイ。そんな厨二感凄まじい容姿を持つ美少女オリ主である。

 

 しかも──背中に生えた翼は、この前会った時よりも二枚増えて四枚羽になっていた。

 

 流石は僕よりも先に原作介入していたオリ主である。

 どうやら彼女もまた、この世界に来てから彼女自身のオリジナルストーリーを展開していたようだと察した。

 シビれるぜ……流石は夢女子! 僕はオリ主(ちから)が更に上がったメアの姿を見て、戦慄と同時に興奮を抱いた。

 

 

「天使らしくなったね、メア」

 

 

 メアが立派になってお姉さんは誇らしいよと、思わず後方師匠面になる。腕を組む代わりにカバラちゃんを抱き抱える形になってしまったが……何でいつも丁度いい場所にいるのかね君は。手触り気持ちいいからいいけど。

 

 そんなメアはその手に青白い光で形成された光の剣を携えながら、左右にフェイントを入れつつ接近していき、向かい合う橙色の甲冑騎士へと挑み掛かっていた。

 

 その騎士の背中に見えるのは、サフィラス十大天使の一人である証の八枚の翼だ。

 

 僕としてはメアがいたこと以上に、彼がこの島にいたことの方が驚きだった。

 コクマーじゃなくて、そっちだったかー……という驚きである。

 

 

「そうか……ここに来ていたんだね、栄光のサフィラス──ホド」

 

「ホド?」

 

 

 8番目のサフィラス十大天使。名を──栄光の「ホド」。

 二メートルほどある長身の全身を常にオリハルコン製の甲冑で覆っている騎士然とした姿は、聖龍アイン・ソフに深い忠誠を尽くす大天使様である。

 

 ……いや、なんでお前そこにいんの?

 

 僕は炎たちの手前、表面上こそ訳知り顔でその名を呼んだが……はっきり言って予想外である。

 だってよ……アイツの本拠地ここから真逆じゃん。

 彼の管理している島「ヒムツァ」は、このエルから正反対と言っていい場所にある。

 ケセド亡き今、代わりにこの島を管理下に置く可能性がある大天使と言えば、彼と仲の良かったティファレトかご近所のコクマーの二択だと思っていたのに……これは想定外である。

 ……誰だ今、僕の想定いつもガバガバじゃねぇかとか言った奴っ! SSのプロットなんて、多少壊れるぐらいで丁度いいのだよ!

 

 

 ただ、あの大天使ホドもまた、原作からして行動が読みにくいキャラだった。

 そこを考慮していなかったのは僕の落ち度である。ごめんなさい。

 

 

 アニメ「フェアリーセイバーズ」に彼が登場したのは第23話。時系列的に、今よりもっと後のタイミングである。

 

 仲間が全員揃った炎たちがアイン・ソフの下へ向かう為、かの聖龍が眠る世界樹「サフィラ」へと突入した際に、彼は姿を現した。

 それは物語がいよいよ最終決戦に入った辺りでの登場であり、主人公の炎からしてみればラスボス一つ前に戦った敵である。

 彼は世界樹「サフィラ」の最下層にて大量発生していたアビスの大群を蹴散らした後、炎のことを神に謁見するに足る人物か見極める為に戦いを挑んでくる──という内容だった。

 

 

 ……うん、この説明だけだとわかりにくいよね。だって、そこに至るまでの流れがまるっきり飛んでいるんだもの。大丈夫、後でちゃんと説明するから今はこのぐらいで勘弁してほしい。

 

 ま、要するに彼はセイバーズの仲間が五人揃った後、最終決戦の時になってようやく姿を現したキャラだということさえわかってくれればいい。

 

 人類に対するスタンスは中立。

 マルクトのようにケテルに忠誠を尽くしているわけではないが、ケセドのように味方になってくれることもなく、ただ一人アイン・ソフの意思にのみ従う筋金入りの騎士(ナイト)だった。

 そんな彼は滅多なことでは彼の拠点である第8の島「ヒムツァ」を離れることはないが、主であり父である聖龍アイン・ソフを害する出来事を察知した時だけは、誰よりも早くその場へ駆けつけると言う。

 本人的には民を導く天使と言うよりも、神の騎士という自覚の方が強い性格だった。

 そのアイン・ソフを害する出来事と言うと、原作では「世界樹の最下層に大量のアビスが発生した」という、物語の佳境に相応しいフェアリーワールド未曾有の危機が該当していたものだが……詳しくは後日語ろう。

 

 ──そんなお堅い大天使が、自分の持ち場を離れてまで、この島にいる。

 

 その事実は何か、アイン・ソフを害するほどのことがこの島で起こっていることを意味していた。

 

 

「どうしようかな、これは……」

 

 

 うーん……不穏な展開になりそうだ。

 少なくとも、まだヨッドの偵察には行けそうにないなと、僕は今後の方針を考え直すことにした。

 

「エイト、もっと近づいてくれ! メアが危ない!」

 

 おっと、そうだね。今は考え込んでいる場合じゃない。

 相手はサフィラス十大天使。それも、個人的にはコクマーに次ぐ実力者なのではないかと思っている栄光の大天使ホドである。

 彼は強い。橙色のナイトだから当然だが、純粋に固くて強いのだ。ただでさえ凄まじいフィジカルを持っている上に、全身にファンタジーRPG御用達の最強金属「オリハルコン」の甲冑を纏っているのがまたいやらしい。

 原作では炎が火事場の馬鹿力を発揮してどうにか突破したものだが……いかにオリ主とは言え、メアが一人で勝てる相手かと言うと難しい相手だ。

 

 そう思って僕も加勢に入ろうとしたのだが──どうにも、それにしては二人の様子が少し気になった。

 

 同じことを、長太も感じたようである。

 

「まだそんなに心配しなくてもいいんじゃねぇか? アイツ、良い勝負してるぜ」

「いや、だが……それは……!」

「……確かに、今手を出すのは野暮かもしれないね」

 

 そう、地球にいた時よりメアは明らかに強くなっていた。長太がフェアリーバーストを習得したように、彼女もまたオリ主的な覚醒イベントをこなしたのかもしれない。

 背中の翼が二枚増えているのは伊達ではなく、この世界に来てから何かあったのか以前よりケセドの力を引き出せていたのだ。両手に纏った青い光をビームにして放ったり、剣にして振り回したり、挙げ句の果てには僕がよく使うカイザーフェニックス的な技を作って射出したりしている。

 

 うん、見事っ!

 オリ主的なスタイリッシュさ、派手さ共にナイスである。

 

 おそらくは、女神様っぽい人の書くSSでは彼女の視点でいい感じの物語が綴られていたのだろう。

 ダブル主人公物の基本、オムニバス形式である。

 この形式は各登場人物の様子を詳細に描けるのが利点だが、片方のクオリティーが極端に低かったりすると、「これいる?」と読者の反応が露骨に悪くなるから難しいものだ。

 

 それに……もう一つ、二人の戦いで気になることがあった。

 

 

「ホドも試しているのかな、あの子を」

「試す?」

 

 

 何となくだが、彼女に繰り出すホドの攻撃の数々は、コクマーやティファレトのような殺意が込められているように見えなかったのだ。

 サフィラス十大天使の殺気はこう、第六感的なものがビリビリッと来るのである。

 それと比べると今のホドの雰囲気は……そうだ。何というか、試練を課しているように見えたのだ。

 原作アニメから鑑みたホドのキャラから推測するに……その可能性はありそうである。

 ラスボス一つ前に主人公と戦うことになる彼のポジションは、言わばアイン・ソフの門番だ。

 彼は門を潜ろうと訪れた炎に自身との決闘という試練を課し、その試練に応えると潔くアイン・ソフとの謁見を許してくれた。

 聖龍至上主義者であるホドは、王ケテルの決定だろうとアイン・ソフの意思にそぐわないものであれば断固として拒否する堅物であり、王からしてみれば扱いにくいことこの上ない大天使だった。

 

 

 そんなホドは左手に構える円盤状の大盾でメアの斬撃をいなした後、右手の槍で彼女を打ち付ける。

 体格差通りの膂力で強引に吹っ飛ばすと、彼は自身の聖槍を突きつけながら高らかに叫んだ。

 

『ケセドの力を受け継ぎし者よ……お前の力はその程度か? ならば志半ばで朽ち果てた彼奴も、さぞ無念であろうな』

 

 うむ、イイ声だぁ……。

 僕はホドが発するアニメと変わらない声色に内心恍惚とする。50年以上も前から数々の名作アニメで主演をこなしてきた(でぇ)ベテラン声優が中の人をこなしていた彼の台詞は、登場期間は少ないものの鮮烈なインパクトを与えてきたものだ。

 演技の幅が怪物すぎるのよね……幼い子供から陽気な青年、渋い騎士まで完璧に演じ分けていた唯一無二のレジェンド声優だった。

 僕は死んだけど、あの人はまだ元気だろう。いつまでもどうかご健康に、長生きし続けてほしいものだ。

 

 

「……っ、まだ……!」

 

 厳かな語りで見下ろされたメアは、四枚の翼で踏ん張りながら光の剣を構える。

 そんな彼女をホドがどのような眼差しで見ているかは、頭部を覆う兜に隠れて窺うことができない。原作でも中身は見えなかったが、イケメンか渋いおじ様だろうなと想像している。実は美少女だったパターンは個人的に食傷気味なのでやめてほしい所存だ。

 依然、彼の動きには殺意を感じないが甘さも感じず、ホドは右手に携えた聖槍を容赦無く振り上げてきた。

 

『マーキュリー・セーバー!』

 

 聖槍に銀色の光を纏わせると、槍は天の雲を裂くような長さの光の長剣へと姿を変える。

 閃光は天を裂くように雲を散らしながら、ホドの右腕によって豪快に振り下ろされる。その暴力的な斬撃は、砲撃と見間違えるほどの射程と範囲を以ってメアの身に襲い掛かっていった。

 

「やめろォォォーッ!」

 

 その瞬間、居ても立っても居られなかった炎が僕の闇の不死鳥から飛び出していった。

 通常ならそのまま地上へ落下してミンチより酷いことになるところだが、彼は自由落下と同時に即座にフェアリーバーストを発動。

 ネツァク戦で習得した焔の翼を生やすとその翼を羽ばたかせて急行し、メアの前に割り込んで光の長剣を白羽取りしてみせたのである。

 

『何……!?』

「あっ……」

 

 それに驚くのはホドとメアだ。

 ホドは自分の必殺技が受け止められたことに、メアはこの状況に頼れるお兄ちゃんが助けに来てくれたことに目を見開いている。

 因みに僕は興奮している。経緯は全く違うが、炎がホドの必殺技を蒼炎を纏った両手で白羽取りするシーンはアニメ「フェアリーセイバーズ」でも見た光景であり、作中ではここから炎のターンとなりその拳でホドの鎧を粉々に打ち砕いたものである。

 僕と違ってそんなメタ知識は無いだろうが、ホドは炎の蒼炎に嫌なものを感じたのか即座に必殺技を解除し、大盾を構えながら油断なく彼の姿を見据えた。

 

『その力……そうか、其方がアカツキ・エンだな?』

「メアに……妹に、手を出すな!」

「……っ」

 

 キャーオニイチャンカッコイイヤッター!

 

 ……と、冗談は置いておいて。

 

 そうか、メアは光井家に引き取られた子供。言わば灯ちゃんの妹だ。

 そして灯ちゃんは近い将来炎の嫁になる。そうなると晴れて、メアは彼の義妹になるというわけだ。

 

 やっぱすげぇよメアは……この僕でも入れなかった主人公の家族ポジションを、確固たるものにするとは……!

 

 やはり彼女と共存することを選んだ判断は正しかった。

 ネット小説界隈には「主人公のオリジナル兄弟をアンチするオリ主物SS」という変則アンチ物作品などもあるが、オリジナル兄弟はあってもオリジナル姉妹をアンチする系のSSはほとんど見たことがない。ざまあ系悪役令嬢物ではしょっちゅう目にするがそれは別として。

 フェアリーセイバーズは少女漫画でも乙女ゲームでもない。よって、彼女をアンチするのは最初から得策ではなかったのだ。

 

「ここからは、俺が相手だ!」

『面白い。コクマーを退けたその力……どれほどのものか、見せるがいい!』

 

 頑張れー炎、大分原作を先取りしている対戦カードだけど、二人の戦いが間近で見られるなんてオリ主冥利に尽きるというものだ。

 僕は加勢するよりもアニメの好きなシーンを見届けるような感覚でハープを取り出すと、即座に応援の姿勢に入った。

 その時である。

 

 

「待って、エン! ホドは敵じゃないっ!」

 

 

 ……うん、そんな気はしていた。

 流石僕だ。やれやれ、観察眼もチートオリ主である。

 一方で戦闘態勢に入った途端思わぬ発言を後ろから受けた炎は、出鼻をくじかれながら驚きの眼差しを鎧の大天使に向けた。

 

 そして僕は彼らの後ろで、これまた訳知り顔でハープを鳴らしたのだった。

 

 





 最近は人物紹介でCVを紹介するオリ主が減ってきていると思ったので本編で紹介してみました!

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