TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
ケセドの止まり木──そこはこの第4の島「エル」の管理者ケセドが根城にしていた場所である。
ケセド自身が島の居住区画を見渡す為に高い丘の上に建設したその場所は、非常に見晴らしが良く島全体どころか他の島々や世界樹の姿まで綺麗に見渡すことができた。
島の管理者の拠点のくせに大天使の威光を示す城ではなく、簡素な止まり木を構えるだけに留めたのは何とも彼らしい謙虚な姿勢である。と言うのも日常的に巨鳥の姿で過ごしているからか、ネツァク城のようなものを作られても本人が困るのだろう。実用的に考えても、彼用の建造物は止まり木程度で十分なのかもしれない。
だけどわかる……わかるよケセド君っ!
何せこの高さがいいよね! 雲海から標高2000m以上のところに建っているから眺めが良くて実にいい。
いいなぁ……あの止まり木の上に止まってみたい。復活させることができたら、僕もあの上に座れるようにお願いできないかなー羨ましい。
そう思いながら僕は──僕たちは、半ば現実逃避のようにケセドの止まり木を眺めていた。
今現在、僕らの周囲には、翼人種族の皆さんがズラリと並んでいる。
僕らは完全に包囲されているという奴だ。まるで立てこもり事件現場である。
ここはエルの聖都「ゲドゥラー」。ホドとメアに連行されてたどり着いたのは、今は亡きケセドの聖都だった。
──で、そのような大勢の目がある場所で僕たちが行ったのは、メアとの情報交換だった。
一頻り再会を喜び合った後、炎の口からこちらで遭ったことを伝えるとメアは「ほえー……」という感じに深く驚いていたものだが、こちらとしてはメアが体験した数日間の出来事に驚かされていた。
「そうか……頑張ったな、メア」
「うん……でも、メアはもっと頑張らないと」
超空間の中ではぐれた後、メアが落ちたのはこの島エルだった。
しかし僕と同じく単独での飛行能力を持ち、ケセド由来のおぼろげな異世界知識があるメアは即座に島を飛び回り、炎たちを捜し回ることにした。
しかし、そこで彼女が見たのは島の周辺の雲海を覆い尽くさんばかりに発生している、大量のアビスの姿だった。
その場には既にサフィラス十大天使のホドが駆けつけていたが、それでもなおアビスの侵攻は収まらず、聖獣たちの住む町は甚大な被害を受けようとしていた。
──そこで颯爽と舞い降りたのがメアちゃんである。
アビスの脅威に怯えすくむ聖獣たちを見て、メアは居ても立っても居られなかった。
それは彼女の中にある「慈悲」の天使の因子がそうさせたと言うよりも、彼女自身が元々そういう性格だからだろう。
困っている者を見たら放っておけない……まさしくオリ主の在り方である。僕は目立てそうなシーンを見たら放っておけないが。
そうしてメアはフェアリーチャイルドとして持つ己の能力を全力で解放し、町を襲うアビスたちを慈悲の光で一掃してみせた。背中の翼が四枚に変わったのはその時である。
その時、そんな彼女の姿を見て、守られた町の聖獣たちは思ったのだ。
ケセドだ! サフィラス十大天使の魂っ!──と。
町の者たちの間では「ケセドは人間に殺された」という情報が既に流れていたが、町の聖獣たちがその力の正体を見間違える筈が無かったのだ。
極限状態だったこともあり、メアに救われた聖獣たちは彼女のことを「ケセドの意志を継ぐ者」として受け入れたのである。それには浮世離れした彼女の容姿が天使のそれとよく似ていたことも大きかったのだろう。どこの世界でも、見た目が占める第一印象の比重は大きいのである。
ケセド様が帰ってきてくれた!と、満面の笑みを浮かべる町の聖獣たちから予想外な歓待を受けたメアは、戸惑いながらも彼らに事情を説明した。
自分が人間であること。
悪い人間たちに改造され、ケセドの因子を埋め込まれた存在であること。
その影響により、今の自分にはケセドの記憶や力が朧げに残っていること。
この記憶が、今でも聖獣と人間が争うのを善しとしていないこと。
そして自分と仲間たちは、そのことをサフィラス十大天使と聖龍アイン・ソフに伝える為にこの世界にやってきたのだと──彼女は包み隠さず全てを打ち明けたのだった。
大事なことは原作の雰囲気を壊さないように、常に秘匿し続けている僕とは偉い違いである。
誠実な情報ブッパにはこれが記憶喪失キャラ……そして非転生者故の実直さかと僕は感心した。ひがみでもなく僕にはできない判断なので、その話にはとても唸らされた。
しかし、それを聞いた町の聖獣たちはと言うと……まあ彼女に同情した。
うん、改造については被害者だからね、メアも。何の躊躇いも無く自分たちを助けに来てくれた彼女の善性を間近で見てきた聖獣たちは、彼女のことを邪悪な人間だとは思えなかったようだ。
彼女はケセドではない。だが、今は亡きケセドに誰よりも近しい存在だった。こうなると、聖獣側が抱く認識は二通りである。
彼女を大天使を騙る紛い物と否定するか……ケセドの忘れ形見として受け止めるかだ。
住民たちの心境は複雑であろうが、多くの者は後者を選んだ。
それにはやはり、彼女が見せた慈悲の精神がケセドと似ていたのが大きかったのだろう。聖獣たちは彼女のことを主として拝みこそしなかったが、憎き紛い物として拒絶することもしなかった。
ただ少しだけ、人間に対する印象が変わったのは間違いないだろう。悪い人間もいれば、良い人間もいると。それだけで、今は十分である。僕たち三人に突き刺さる疑いの視線は快いものではなかったが、これについてはもしかしたらメアのことを心配しているからなのかもしれない。
直接的な嫌悪感を見せないのは彼ら元来のお人好しぶりと、この場にいる「栄光」の大天使の存在故か。
「……それで、あの天使とはどういう関係なんだ?」
微妙に聞きづらい空気を破りながら、後ろの木陰で腕を組んでいる騎士を一瞥して炎がメアに訊ねる。
彼としてはそんな気は無いのだろうが、なんかいかがわしい訊き方である。
過保護な炎お兄ちゃんの問いを受けて、メアは「敵じゃない」と語った彼について言い放った。
「ホドは、メアを鍛えてくれている。メアはまだ、ケセドの力を上手く使えていないから……」
「鍛える?」
「やっぱりそうか。でも、なんだってそんなことを?」
思った通り、さっきの戦いはガチンコバトルではなく組み稽古だったようだ。
しかし、そうなると確かに理由が気になる。ホドは確かに原作では中立的な立場だったが、メアの出自を考えるとサフィラス十大天使にとっては嫌悪の対象になり得る存在だからだ。
それは酷い言い方になるが、純粋な大天使である彼らからしてみれば彼女の存在は、存在そのものが同胞の尊厳を踏みにじる気味の悪い異物に見えるからだ。
感知能力が高いからこそ、大天使たちは目で見るものよりも気配を頼りにしがちである。それ故に二つの存在が混じり合った彼女の存在は実に歪で、不快に感じることだろう。
僕たちは彼女が健気な性格だと知っているからいいが、初対面の大天使からしてみれば存在自体が彼らの地雷を踏んでいると言ってもいい。
その点、彼女が会った大天使が頓着の薄いホドで良かったと思う。少なくとも喜怒哀楽の激しいマルクトや、アンチ人類化した今のティファレトには会わせたくない存在だった。
──だがそんな事故物件みたいな彼女を見て、ホドが語る。
『それが、この世界にとって必要であると判断したからだ』
木陰から離れ、僕たちのもとへ歩み寄りながら言った。
騎士然とした厳かな口調は、言葉の一つ一つに不思議な説得力を感じる。
『かつて、我らが神アイン・ソフはこう言った。「人間と聖獣が互いの力を束ねたその時こそ、初めてアビスを打倒することができる」と』
「アビスを……?」
『アレには、明確な「死」が存在しない。我らの住まうこの天界に上がってくるアビスは、消滅と同時に深淵の世界へと還り、さらに進化した存在となって再び天界へと舞い戻る。数百年、数千年掛けてな』
「それは……転生するってことか?」
『そうだ』
……えっ? 待って、ここで言っちゃうのそれ!?
アビスを完全に葬り去る為には聖獣の力を持った人間──すなわち「異能使い」の力が必要だというのはアニメ「フェアリーセイバーズ」でも語られた設定である。
それは、遡ること初めて異能使いが誕生した時代──そもそも聖龍アイン・ソフが人間の世界に現れたのも、人類に真の異能使いへの覚醒を促し、共にアビスと戦ってほしかったからというのが理由だった。
そしてその到達点である「フェアリーバースト」こそが彼が人類に求めたアビス打倒の可能性であり、サフィラス十大天使にはいつかその調停者として人々を導いてほしいという願いをアイン・ソフが語っていた。
アビスは放っておくと人間の世界にまで侵攻してくるので人類にとっても見過ごせない脅威であり、聖獣と人間の共存はお互いの世界の為にも必要だったのだと炎たちは理解することになる。
その一方で、「なんで人間なんかと協力せなあかんねんアホちゃう」というのがラスボスであるケテルの考えだった。
サフィラス十大天使の王である彼は聖龍が眠りにつく際、人間がいつか到達することになる「フェアリーバースト」こそがアビス打倒に必要な最後のピースであることを聞いていたが──以来、彼は拗らせてしまった。
人間の世界で毎日欠かさず発生している異能犯罪──その光景を見て、彼は人類に失望したのである。
父アイン・ソフがそれほどまでに期待して与えた異能を、人間たちは誰一人碌なことに使っていないではないかと。
そのようにしか見えなかった彼には、人類が本当に天使たちが導くべき存在だとは思えなかったのだ。
その上「PSYエンス」のボスが余計なことをしてしまったせいで、最後のブレーキまで外れてしまったのである。
──アイツら駄目だな。痛い目に遭わせて言うこと聞かせよう、と。
ケテルが出した結論は聖龍に命じられた人類との対等な共存ではなく、人類を聖獣の下に隷属させアビス戦用の尖兵として扱うという実にラスボスらしい発想だった。
支配しやすいように人類の半数ぐらい死滅させようとか淡々と言い出した時は、忠誠心の高いマルクトですらドン引きしていたほどである。
そんな彼は、最終局面にて灯ちゃんwithケセドを自らの身体に同化吸収することで一方的に人間の力を利用し、アビスを完全に葬り去ることを目論んで邪神ケテルへと進化するのが物語の最終イベントだった。
それらの設定は「フェアリーセイバーズ」の物語の根幹を担う重大情報なので、オリ主的にこう、いい感じのタイミングで明かそうかなーと考えていたのだが、ここで触れることになるとは全く想定外である。
「嫌だい嫌だい! 事情通のキャラはボクだけでいいんだい!」と心の中のちびキャラエイトちゃんがじたばたしながら、戦々恐々と彼の言葉を聞いていく。
頼むから喋りすぎて、あまり僕の役割取らないでくれよ……役割を持てないオリ主にはなりたくないでござる。
『故に、我らとアビスは古くから戦い続けてきた。初めは大して危険な存在ではなかったのだがな……奴らは何度も転生を繰り返す内に進化を続け、今や我ら
「……それほどの相手なんだな、アレは……」
『そうならぬよう、聖龍アイン・ソフが奴らを封印したのがかつてのことだ。そして我らサフィラス十大天使には、眠りについた神の代行者としてこの世界を守護する使命がある』
……よし、設定の開示はまだそんなにしていないな!
ここで明かされるのがアビスの生態だけならば、寧ろこの先の物語をわかりやすくする為にありがたい情報である。ええどホド。
しかしあれかな? 女神様っぽい人はどうやら、原作でも謎の多かった存在「アビス」について深く掘り下げたいようだ。大変便利に解説してくれるホドの姿を見て、僕は彼女のSSの方針について察した。
ならば僕は、その意志に従うことにしよう。ホドがアイン・ソフを慕っているように、僕は女神様っぽい人を慕っているのである。エイトちゃんは孝行娘なのだ。
『このホドには、其方らの世界にまで攻め入る気は無い。今優先すべき敵は人間ではなく、アビスなのだ』
アビスは時間を置くほどヤバくなる。まだ対処できるうちに完全に葬り去ってしまいたいのが、作中に登場した穏健派たちが王ケテルに刃向かった概ねの理由だった。それはそれとして人類への慈悲で協力してくれたケセドは、やはり大天使たちの中では異端だったのだろう。
そしてこの男──ホドはアビスの活性化が激しくなった今、ケテルよりもアイン・ソフの側に理があると判断しているようだった。
彼が協力してくれるのなら、とても心強い味方である。
勿論、ただで……というわけにはいかないことは、原作時点から察していた。
「俺たちは、あんた……貴方たちとの戦いを止めたい」
『その点では、其方らと私の利害は一致している。が、協力する前に見定めたいことがある……それ故に今は、この者に試練を課しているところだ』
「どういう試練だ?」
『ふ……この者が、我が盟友ケセドの力を完全に引き出すことだ』
「そうか……それでさっきのか」
「うん、そう。だからメアは、もっともっと頑張らなくちゃいけない」
ふんす、と表情の乏しい顔で握りこぶしを作るメアの姿が微笑ましい。
原作では真のフェアリーバーストを発動した炎を見て初めて人間が協力するに足る存在だと信じ、矛を収めてくれたものだが、この世界ではそれらの可能性をメアに見出したのかもしれない。
流石オリ主である。僕も負けていられないな。
『この者こそ、かつてアイン・ソフが言った「人間と
そして……と、彼は続ける。
『その力が本当に世界を救えるものならば……このホド、聖龍アイン・ソフの命に従い、其方らの仲介に全力を尽くすと約束しよう』
アイン・ソフに忠誠を誓っているからこそ、相手の見定めをきっちり行うのが彼である。
主の言うことだからって何でもかんでもYESと受け入れていたら、いずれ主を破滅に導きかねない危険まで招き寄せてしまうからね。時にはNOと言うこともまた、忠臣の大事な役割なのである。
……特に聖龍様、善かれと思って人類全体を覚醒させちゃったり、コミュニケーション不足でケテルが拗らせたりしてしまったように、実はポンコツなのではと疑われるぐらい見通しの甘いお方だし。
ともあれかの神が偉大であることは間違いない。
「……改めて思うが、とんでもねぇところに来ちまったな俺ら」
「世界を救いに来たんだ。こういう話にもなる」
彼の話を聞いて、二人は本当の敵がアビスであることをはっきりと理解したようだ。
ここで及び腰にならない辺りが、まさに
……でもね、僕としてはそれよりもまず気になることがあるんだ。
「一つ、いいかな?」
『む? 其方は……』
「ボクはT.P.エイト・オリーシュア。今の話を聞いて、気になったことがあるんだ」
『……何だ?』
挙手をした後、向かい合うホド先生の視線を受ける。
……なんか怖いな。顔は見えないけど、何だか僕のこと訝しげに見られている気がする。
でも、しょうがないよね。プラスに考えよう。訝しげに見られているということは、ミステリアスなオリ主ムーブが上手くできている証である。
そう思うと、この視線も勲章みたいでちょっと嬉しい。
エイトちゃんは人を弄ぶのが好きなお姉さんなのだ。
そんな僕は、僕自身の今後の予定に差し支えがないかどうか確認を行うことにした。
「それって、ボクが彼女から力を盗み──ケセドを蘇らせたら、無効になるのかい?」
『……ッ!』
「!?」
そう、僕は今からやる気満々だった。
前に語った、ケセド因子の摘出によるケセド復活チャレンジである。僕としてはもう少し先になるかなぁと予想していたメアとの合流をここで果たせたことで、試してみるチャンスが回ってきたと思ったのだ。
言い放った瞬間、周囲の聖獣たちからどよめきが広がった。
当然、そのことを事前に言っていなかった二人も大いに驚いている。
「えっ……」
「エイト、あんた何を……!」
ふふふ……キミたち、ボクを誰だと思っているんだい?
ただの親切なお姉さんとでも思っていたのかな?
怪盗モードになりながらそう言うと、僕はキョトンとした顔でこちらを見上げるメアの姿を真っ直ぐに見つめた。
「そうとも……ボクとメアが力を合わせれば、慈悲の大天使様を復活させられる筈さ」
「……ほんとうに?」
多分、きっと、できたらいいなぁって。ここまでカッコつけてできなかったらダサいが、その時はもっともらしい言い訳で誤魔化すので大丈夫である。
だから見ていてくださいよ、女神様っぽい人!
貴方が僕に求めるオリ主的使命、果たしてやんよ!
絶え間なく吹き抜ける強風にパタパタと揺れるシルクハットとスカートを押さえながら、僕は挑発的な笑みを一同に浮かべた。
世界観説明になるとどうしてもキャラの出番が少なくなるからかもしれない……
それはそれとしてTSおねロリもいいよね……