TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
すごい視線を感じる。今までにない何か熱い視線を。
風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、僕の方に。いや吹きすぎだよ帽子飛ぶっ!
……中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。
メアの身体の向こうにはケセドがいる。決して一人じゃない。
信じよう。そして共に戦おう。
バタフライエフェクトや世界の修正力は入るだろうけど、絶対に流されるなよ!
はい。
僕が異能を盗む異能使いであること、そしてその力を使えばメアの身体からケセド因子を抽出し復元できるかもしれないことを告げると、ホドからは無事に『いいだろう、やってみせるがいい』と許可を得ることができた。
良かった。成功したらメアが力を失う可能性もあるから、せっかく立ったホドの仲間入りフラグをへし折ってしまわないか心配だったのだ。
そして当のメアはと言うと、それを聞いて涙を浮かべながら僕に頼み込んできた。
「お願いっ……ケセドを救ってあげて……! ケセドに生命を返してあげて……っ」
……正直、そこまで真っ直ぐに頼まれるとは思っていなかった。
彼女のような特殊な存在に能力を使ったことはないし、結果的に危険なことになるかもしれない。
それに、仮に成功したらせっかく得た大天使の力も失うことになると言うのに──メアは断るどころか懇願してきたのである。
そんな彼女の態度には、内心成功すれば儲け物程度に考えていた僕は居た堪れなさにあわあわとたじろぐところだった。危ない危ない。
僕は普段はミステリアスだが、いざという時には頼りになるT.P.エイト・オリーシュア様なのだ。ふっ、僕としたことが……ダメ元で動くのはらしくなかったな。
僕はメアの頭をそっと撫でると、彼女の心を落ち着けてやる。カッコいい大人のムーブという奴である。
或いは、撫でやすいところに頭があったからとも言う。ロリコンのオリ主はみんなそう言うのだ。
ふむ、やっぱサラサラだなこの子の髪……ま、僕も負けていないけどね!
「あ……」
「そんな顔をするな。ボクは怪盗だ。狙った獲物は逃さない」
オリ主とは言え、転生者ではない彼女はただの子供だ。
僕は腰を屈めて目線を合わせると、緊張を解くように間近で見つめ合いながら穏やかに微笑み掛ける。エイトちゃんスマイルには、セラピー効果があるのだよ。
そうしているとメアの息遣いが落ち着いていくのがわかり、僕は頷いて顔を離すと炎たちからの質問を捌いた。
「あんたの言うことは死者蘇生だぞ。そんなこと、本当にできるのか?」
「流石のボクにも、死という現象は拭えない。だけど、形が変わってしまったものを元に戻すことならできる。そういう異能を持っているからね」
「でもよ、ケセドって天使はPSYエンスに……」
「死んじゃいないさ、限りなくそれに近いとは言えね。メアから発せられる彼の気配がその証拠……そうだろう? ホド」
『……そうだ。気配と力を感じる以上、彼奴はまだ完全に滅んではいない筈だ。我らサフィラス十大天使は死を迎えた時、世界樹サフィラに還り永い時を掛けて生まれ変わる。このホドもまた、幾度となく繰り返してきた生命だ。ケセドの生命がサフィラに還っていないということは、彼奴の魂はその者の中で生き続けているのであろう』
転生する為にも彼奴には死なせてやった方がいいというのが、他のサフィラスの意見だがな……とホドは続ける。
そう、サフィラス十大天使という聖獣もまた、アビス同様明確な死が存在しないのだ。サフィラという世界樹がある限り、寿命を迎えてもいつか再び生命を得るのだという設定がある。
尤も、蘇った大天使は記憶も姿もリブートされるので、前と全く同じ存在になることはないのだが……長生きしている割に大天使たちの精神が老成していないのも、その為だろう。
或いは、権力者の老害化を防ぐ為の自浄作用とも言える。
しかし、そんな彼らの中で唯一一度も転生することなく創世期から生き続けているのが十枚の翼を持つサフィラスの王、ケテルだった。
それ故にケテルは他の大天使とは比較にならない隔絶した力を持っているが、長く生き過ぎた弊害により精神が摩耗しており、永い年月により数々の文明の破滅を見届けてきたことから鬱になっていた。
アニメを視ていて、彼のシーンだけなんだか不気味に怖かったことを覚えている。かつての僕も中年になってから視たら感情移入できたのかもしれない。
ともあれ、ケセドが完全に死んでいるわけではないという裏付けを取れたことに僕は安堵する。この時点で外れていたら、ケセド復活チャレンジが初めから頓挫していたところである。
「聖獣の因子と異能の因子はよく似ているからね……理論上、可能な筈なんだ」
「そっか……うん、そうだね」
台詞の頭に「理論上」って付けると何だか頭良さそうだよね。その後「馬鹿な!? 僕の計算が……!?」とイレギュラーな出来事に動揺するのがインテリ系眼鏡キャラの様式美である。僕は眼鏡を掛けていないので大丈夫だ。眼鏡姿の僕もそれはそれで良さそうだが。
「と、言うわけだメア。ボクは今からキミのお宝──ケセドを頂戴する」
「うん……お願い、エイト」
これで対象への犯行予告は完了。合意の上なのが怪盗らしくなくて気に入らないが、断っても悪いお姉さんはやるつもりだったのでヨシとする。
後は肝心の「怪盗ノート」への書き込みが必要なんだけど……その前に、彼女には確認しておきたいことがある。
「そうだ、キミ自身の異能は何か教えてくれないかい?」
「閃光──光を操る異能。ケセドの力と、少し似ている」
「なるほど、わかった」
メア自身の異能について知っておかないと、間違えてケセド因子じゃなくて彼女の異能を盗んでしまうからね。そこは把握しておかなければならない。
しかし、「閃光」のメアちゃんか……元々光属性だったんだね君。てっきり身体強化系だと思っていたが、あの時屋根の上を跳び回っていた身体能力も人体改造の産物だったようだ。
元々が天使のそれに近い異能の持ち主だったのは、おそらく意図的なものだろう。PSYエンスは初めからケセドの適合者にする為に彼女を素体にしたのだと推察できる。
こんな胸糞悪いことをするのはあの組織しかいないし、あの男なら間違いなくやるだろう。女神様っぽい人とは、嫌な解釈が一致してしまったものだ。
……多分、僕の力ならやろうと思えば彼女を改造人間から元の人間に戻すこともできるだろう。
今は不確定要素が大きいからやらないけど、全てが終わった後で彼女が望むのなら僕も全力を尽くそうかなと思うぐらい、僕はメアという少女に絆され始めていた。
だってこの子の悲痛な顔、全然オリ主らしくないんだもの。寧ろ、アリスちゃんと同じ匂いがする。
ハッ……まさかこの子も劇場版キャラ!? ……いや、無いな。こんなインパクトのあるキャラなら流石に覚えている筈だ。僕が死んだ後で続編が始まったわけじゃあるまいし。
──さて、それじゃあノートに書き込みましょうかね。
左手に広げた怪盗ノートと向かい合い、僕は右手の万年筆でツラツラと発動に必要な情報を書き綴っていく。
ここで書き綴る概要は彼女の能力のことではなく、「ケセド」のことだ。
メアの中にあるケセドの存在を、「異能」として判定するのである。そうすれば盗むことは可能な筈だ。
勿論、その為には彼の詳細な情報が必要だったが……僕はアニメ「フェアリーセイバーズ」のファンである。
こういう時は、原作でのメタ知識が役に立つ。
二次創作界隈では原作未視聴でも二次知識を基にSSを書く猛者もいるが、その点僕はアニメ派だけど全話視聴済みなので安心してほしい。ケセドのことならWiki要らずである。
空白のページを埋めていくように、僕はケセドの巨鳥形態、天使形態両方の身体的特徴と彼の能力、人物像などの概要を思い浮かぶ限り書き込んでいった。その際「加速」の異能を使ったので端の目には物凄いスピードで速筆しているように見えただろう。世の作家たちが羨むような能力である。
おっと、筆がノリすぎて真実しか書いていない記事のアンサイクロペディアみたいなことになってしまった。
勢い余って怪文書が完成しそうになり、ノートの全ページを埋めてしまうところだったよ。やれやれ、僕のケセドへの愛が大きすぎたようだね。
あ、もちろんキャラクターとしての愛情だから誤解無きように。
だがこの挑戦、それだけの価値がある!
僕は豪快に10ページぐらい使ってケセドの概要を書き終えると、ペンをしまった右手でメアの手を握る。
対象との接触──異能発動の最終ステップである。小さなおててだなと意識するよりも早く、怪盗の能力が発動した。
──その瞬間、右手から激痛が走った。
「──ッ!」
「エイト!?」
「…ぁっ……」
な……何これ……!? めっちゃ痛いんですけどー!?
指先から電撃を浴びたような痛みが身体の中まで伝わってくる。突如としてビリビリと全身が痺れるような感覚が襲い掛かり、想定外の現象に思わず片膝を突いてしまった。
「ん……くっ、ぁぁっ……!」
「エイト……!」
「ど、どうした姉ちゃん!? 大丈夫かオイ!」
それでもメアの手は外さず、プライドが許さないので意地でも悲鳴を上げないように平静を装っていたが、身体中の体温が一気に上昇し視界までぼやけてきた。
「ぁ……ん……くっ……」
なにこれ、吐きそう……! すっごい目眩するんだけど!?
能力を発動した瞬間ただならぬ反応を見せた僕を見て、炎たちが焦って呼び掛けているようだが頭に入らない。
苦悶に堪える僕は、青ざめた顔で見ているメアの姿を認識するので精一杯だった。
……そんな顔するなって言ったろ。
僕はオリ主だ。チートオリ主なんだ! こんな痛みに負けるものか!
「……手を、離すな……大丈夫、だから……っ!」
「でもっ!」
「ボクを、信じろ……っ、だって、ボクは──」
──この為に生きてきたのだから。
「……っ!」
『T.P.エイト・オリーシュア……其方は、まさか……』
いつものカッコいいオリ主ムーブでもあるが、僕の本心でもあった。
そうとも……女神様っぽい人がオリ主に求めた役割とは、きっとこれだったのだ。
彼女は自分のSSがどうにもこうにもならない時、チートオリ主が欲しいと僕をこの世界に送り込んだ。
ならばその使命、投げ出すわけにはいかない!
あと、必死で痛みと戦う今の僕って超カッコ良くね?
そう思いながら、これもまた完璧なオリ主ムーブだと僕は自画自賛する。
どんな時でも余裕を見せつけるのがチートオリ主だが、態度の裏には泥臭い努力が隠れているのもまたオリ主である。
つまり何が言いたいかと言うと、今の僕は最高にイカしてるってことだ!
……正直、ナルシシズムにでも浸っていないとやっていられないほどキツい。
身体の外ではなく内側から来る痛みがこんなにキツいとはね……大天使という膨大な存在を受け止める代償か。ぶっちゃけ、前世で死んだ時より遙かに辛かった。
でも、僕は頑張る。セイバーズだって頑張っているんだから!
「……これが生まれ変わった意味ならば、今こそボクは、使命を果たそう……! キミの魂を頂戴する……っ、ボクのもとへ来い! ケセドッ……!」
嘔吐感と拷問染みた身体中の痛みを耐え抜き、高熱で意識を朦朧とさせながらも僕はやり抜いた。そうとも、やり抜いてみせたのだ。
この日の為にずっと考えていた啖呵を切ると、僕はメアの手からウルトラレアカードを引き抜くような勢いで一気に右手を引き離していった。
──そして次の瞬間、膨大な量の「闇」が溢れ出した。
えっなにそれ怖い。
「な、何だこれ!?」
「大丈夫かエイト! メア!」
僕が異能行使を終えた瞬間、メアの身体から突如として溢れ出したのだ。
得体の知れない、ナニカが。
「……っ!」
間近にいた僕はその「闇」に弾き飛ばされてしまい、受け身を取れず尻もちをついてしまった。アテテ……
しかし、お尻の痛みよりも今はヒリヒリする右手の方が気になり、僕はノートを回収するなり患部を左手でさすった。見た目は特に腫れてないけどまだ痛い。くっそ痛いわ!
「キュー……」
おっ、ありがとうカバラちゃん、心配してくれて。
あと、君がそこに立っているおかげで駆け寄ってきた炎にスカートの中身を見られなくて済んだよ。今気づいたけど、強風の中吹っ飛ばされたせいで今の僕酷い格好してる。衝撃で太ももの付け根辺りまで裾がめくれてエラいことになっていた。男のロマンを理解しているTSオリ主である僕は、マルクトとは違って下には穿いていないのだよ──短パンとか見せパンとか。いや、パンツは穿いているからねもちろん。
……カバラちゃん、後でチュールをあげるから、もうちょっとだけじっとしててね?
被ラキスケは許さない。何故なら僕はオリ主だから。
急いで脚を閉じてロングスカートの裾をきゅっと直した後、僕は気を取り直して空に滞空する「闇」の姿を見上げた。まだ少し顔が熱いのは、もちろん痛みのせいだ。
「何とおぞましい……」
「な、何なのだアレは! ケセド様が蘇るのではなかったのか……?」
……いや、マジで何だよアレ……僕知らないんだけど。
何か凄く僕が疑われそうな流れだが、実際僕の手にはケセドの力を盗んだ感触はあった。
抜き取った直後あの闇に弾き飛ばされたので詳しくは確認していないが、それは間違いない筈である。
「っ、メアの中に、アレが……? どうして? どうして!? メアは、一体……?」
「気をしっかり持って、メア。大丈夫だから」
「エイト……っ」
禍々しく巨大な闇が、霧のように空に掛かっている。
バースト状態の時のアリスちゃんよりも遥かに危険な臭いがする闇が、メアの身体から溢れ出したのだ。他でもないメアちゃん自身でさえ何が起こったのかわからず、唖然とそれを見上げていた。
──だが、その闇から感じる気配には見覚えがある。
異能「サーチ」によってあの闇の正体を即座に読み取った僕は、静かにその名を呼んだ。
「アビスか……」
深淵よりの怪物、アビス──鑑定の結果はすぐに出た。
スライム状の姿ではなく純粋な「闇」と言った姿だが、アレもまたアビスの一種であると「サーチ」の異能が示している。
「アレが……アレも、アビスなの?」
「……その筈、なんだけどね。キミの中に、アレほどのアビスが混じっていたとは……」
地べたにへたり込んだままでカッコつかないが、今はどうかこの姿勢のまま解説させてほしい。
いやね……ちょっと身体がダルくて、立ち上がれそうになかったのだ。目眩は治まり熱も下がっているし、激痛も嘔吐感も引いたのだが、今は腰が抜けたように全身が脱力していた。
そんな僕のことを心配そうに支えるメアもまた、その闇──頭上に広がるアビスの姿から目を離さなかった。
『そういうことか……』
いつの間にか横に立っていたホドが呟く。
何!? 知っているのかホド!?
い、いかん……このままでは僕の事情通なオリ主ポジションが揺らぐ! だけど、邪魔するわけにもいかない……! 表面上は平静を装っているが、この状況は僕にもわけがわからないよ。
彼が何か知っているのならそれを教えてほしかった。
そんな僕の期待に応えるように、彼は語った。
『妙だとは思っていた。いかに甘さがあったとは言え、我が盟友ケセドが人間に遅れを取るなどあり得ぬと』
おお、声も合わさって何だかホド様キレ者感が凄い。
確かに、そう言われると妙な話ではあったのだが……ケセドだからなぁ。
大天使らしく強大な存在だが、判断が甘いうっかり屋さんでもあるので、ひたすら無慈悲なPSYエンスのボスにしてやられるのは十分あり得るだろうと僕は解釈していた。
しかし、これは……もしかして僕は、オリ主ともあろう者が──とんでもない思い違いをしていたのかもしれない。
『だが、貴様が潜んでいたのなら話は別だ!』
ギリッと「闇」を睨むホドの眼差しが鋭くなる。
瞬間、彼はどこからともなく取り出した大盾と槍を構えると、これまでマントのように下ろしていた八枚の翼をバサリと広げた。うむ、カッコいい。
そして彼が戦闘態勢に入った瞬間、頭上に霧のように広がっていた「闇」が一ヶ所に固まり、全長40m以上に及ぶ巨大な鳥の姿へと変貌していった。
まるで慈悲の大天使ケセドの姿を模倣し、さらに強化したかのように。
『貴様が元凶だったのだな……! 深淵のクリファ──アディシェス!』
…………
……?
!?!?!?!?
誰っ!? 誰なの!? 何よ「深淵のクリファ」って!? カッコいい肩書きじゃないかくそう!
アディシェス――知らない敵の名前を聞いて、僕はメアの時よりも激しく狼狽えた。
ちょっと女神様っぽい人さ……貴方のSS、オリジナル要素強すぎませんかね?
彼女のSSはもう、駄目かもしれない……明らかにヤバそうな怪獣の如き黒鳥が咆哮を上げたその瞬間、僕は最悪の展開を覚悟した。
本作とは何の関係もありませんが特殊タグには喘ぎ声ジェネレーターなんていうのがあるんですね今。本作とは何の関係ありませんが
一SS作者として、ハーメルン様の機能には頭が下がるばかりです