TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
明らかにヤバそうな奴が出てきたことで、町の皆さんは阿鼻叫喚の様子で避難していった。
その場に残ったのは炎たちとホドら戦闘能力のある聖獣たちだけだ。
彼らは島に被害を与えないように黒鳥を空高くまで誘導すると、雲一帯を吹き飛ばしながら神話染みた超絶バトルを繰り広げていた。
そんな彼らの下で、僕は俯くようにへたり込んでいた。身体と精神がちょっとついていけなかったのだ。
メアはそんな僕の様子を心配してくれたのか、オロオロしながらもカバラちゃんと一緒に僕の傍についていてくれた。ええ子や……後で飴ちゃんあげよう。
だが、今は無理だ。今の僕の気持ちを率直に語ろう。
もうダメだ……おしまいだぁ……
やめろ! 完結できるわけがない! アイツは伝説の超エターフラグなんだどー!
女神様っぽい人のSSを応援する者として、僕は目の前の光景から発せられる「やっちまった感」に項垂れていた。これはもう駄目かもしれない。
漫画やアニメを題材にした公式のゲーム作品においては、要所のボスキャラにオリキャラが配置されることはよくある。話題になるし、新鮮で楽しいからね。数々のロボットアニメが共演する人気クロスオーバーシミュレーションゲームなんかはシリーズの度に行っているほどだ。
だが、二次創作界隈においては人気を出すのが非常に難しい題材である。
もちろん、それが駄目というわけではない。元々のSS人気がとても高く、原作知識が無くても書けるぐらいのテンプレが確立されていたSSほど、その手の作品は変化球として案外多かった。
それも当然だろう。作者だってオンリーワンでナンバーワンになりたいのだから。
はなから二次創作を書いておいて何言ってるんだと思う者もいるだろうが、人気ジャンルを書き続けていると書く方も飽きが来るのだ。初めは個性的なオリ主と原作キャラの掛け合いを楽しんで書いていたのだが、なんだか最近マンネリ化してきてスパイスが足りない気がする……そうだ! ここでインパクトのある最強オリジナルボスを出そう!という感じに。
その結果、読者には確かに絶大なインパクトを与えることができたが、与えすぎて「お、おう……」と置いてきぼりにしてしまうケースが多い。この辺りの問題は前に熱弁した「複数転生者、複数オリキャラ物SS」と同じである。
しかも物語のボスキャラというのは作劇上特に目立つポジションなので、これの出来は作品そのものの評価に直結してしまうのだ。
プロット段階からオリボスありきで緻密に構成された作品ならば登場に必然性があり、架空の劇場版感覚で読めたりするので案外受け入れやすかったりもするのだが……いずれにせよ、万人受けはしにくい要素である。
この世界の女神様っぽい人オリジナルのボス──深淵のクリファ「アディシェス」。
思い返せばホドの言う通り、登場に至るまでの伏線は張られていたように思える。
なんと言うことだ……「ケセド不在」のタグが伏線だったなんて……! 女神様っぽい人め、騙したな! やっと脳天気な僕でも呑み込めたよ!
全てはこの展開の為だったのだ。
原作をなぞるテンプレ通りの物語にはなぁんの執着も無い。
オリジナルボスを登場させたいと思ったからこそ、アビスを利用したのだ。
女神様っぽい人の狙いは、新しいSSの着想を得ることなのだからな! フヮァ~ハッハッハッハッハッハッ!
原作の中で一番舞台の整った弄りやすい異世界編に移行し、そこをメインとして原作の物語を破壊するのが、女神様っぽい人の本来の計画なのだよ!
その為には、テンプレ好きな僕をPSYエンス編に介入させるわけにはいかんからなぁ。
独創性を高める為に、こぉんな改造人間まで作らせて、ホドまで呼び寄せたのだ。
完璧なチートオリ主などと、その気になっていた僕の姿はお笑いだったぜ。
オリジナルボスを炎たちと戦わせれば、女神様っぽい人の敵はもはや一人もおらん!
完結はもちろん、ランキングも! 累計ランキングも! わけなく支配でき! 女神様っぽい人のSSはァ……えぇぇぇ遠に不滅になるというわけだぁ!
さっ、エタの恐怖に怯えながら、アディシェスと戦うがいい。腐・腐。
……あまりの衝撃に、脳内怪文書を受信してしまったエイトちゃんである。泣きたい、泣く。
恐れていたことが、またしても起こってしまった。よりによって倒さなければならない敵にオリキャラを配置するとは、これではメアの時のように舞台が整うまで待つことができない。どうする? どうすればいいんだ!?
だからオリキャラ対オリキャラの構図は危険だって言っているでしょ女神様っぽい人っ!
どうしていつも、貴方は高望みするんだ!? オリジナル展開にダブルオリ主にオリボスとかさぁ……そりゃね、確かに上手くやれば凄い作品になるよ? オリジナリティーに溢れてるもん。完璧に調理すれば「もうこれが公式でいいよ」という感想だって貰えるかもしれない。
しかし、それは爆死と表裏一体の大博打だ。
テンプレに沿った定石通りの物語はテンプレになるだけあって安定感は高い。しかし所詮はウン番煎じなので新鮮味は薄く、爆発力に欠けるという意見もあるだろう。どうあっても偉大な先駆者には勝てないからね……作者的に退避したくなる気持ちはわかる。
その点、他と被りようの無いオリジナル要素をマシマシにすることで、今まで誰も見たことの無いオンリーワンでナンバーワンな作品に仕上げるというのはテンプレに頼るよりよっぽどクリエイティブだろう。
ただ、そういうSSを読むと読者は率直に言うのだ。「オリジナルでいいじゃん」って。
そして作者は折れる。テンプレを外した筈の行動が、不評展開のテンプレになってしまうという
二次創作はどこまで行っても二次創作だからね。読者の多くは原作の延長線を期待して読みに来ているのだ。まさしくライトなノベルって奴を。その点、オリジナル要素が強まると情報量が多くなり、読んでいるうちに「あっ、これ合わん奴や」とギブアップする読者が続出してしまう。そのオリジナル要素が原作の世界観を壊すことなく緻密に練られているものならば熱心なファンが付いてくれるかもしれないが、結構マニア向けである。たくさんのUAやお気に入り数を求めるのなら、オリジナル要素はオリ主ぐらいに留めておいた方が無難と言えた。
……いや、そもそもそういった前提から間違っていたのかもしれない。
女神様っぽい人、貴方はガチだ。
SS作家である彼女がスランプだと聞いた時、僕はてっきりUAやお気に入り、評価が伸び悩んでいるのだという意味で受け止めていた。
女神様っぽい人の実力についてはよくわからない。だって彼女の作品、読んだことないし。しかし「スランプ」という言葉は一流が使う言葉である。単に実力不足ではないのなら、とにかく成果を出すことが一番わかりやすい克服の条件だと思っていた。
だから、僕は女神様っぽい人が人気SS作家になりたいものだと考えていた。
思えば僕と女神様っぽい人の思惑は、その時点からすれ違っていたのだろう。
僕はその時、認識を改めた。
女神様っぽい人──彼女の本心では、自分のSSがどう評価されても構わなかったのだと。
これまでの展開で見せたフリーダムなスタイルから、僕はようやく理解した。すなわち、彼女は膨大な作品愛を持ったガチのエンジョイ勢。
彼女は僕よりも遙かに純粋なフェアリーセイバーズファンだったのだ。
評価や数字なんてどうでもいい。自分が書きたいものを書く。あの時スランプであることを僕に相談してきたのも、実は単に夏バテ的な感じで指が動かなかっただけで、アイディアには特に悩んでいなかったのである。それならそうと言ってよね女神様っぽい人。
そう、つまり彼女が書きたいSSとは──大好きなセイバーズの皆さんと、自分が考えた最強のオリジナル勢力の戦い……!
「そうか……そういうことだったんだね……だから、貴女は……」
「エ、エイト……? っ」
ふ、ふふふふ……と、思わず忍び笑いが零れる。
グスッ……情けなくて、涙まで出てきたよ。
その時、僕の口から怖い声が漏れてしまった。普段癒し系のウィスパーボイスを出してるキャラが、急に冷淡な口調になるのって凄く怖いよね。突然泣きながら笑い出した僕を見たメアちゃんが、ビクリと肩を震わせた。
……ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだ。ただちょっと、自分自身の空回りっぷりとか、的外れな思考に呆れたというか……情けなくてね。
──僕の負けだ、女神様っぽい人。貴方はガチだ。ガチすぎて引くレベルのフェアリーセイバーズオタクである。原作の世界観にこれほど落とし込んだいい感じのオリジナルボスを考案するなんて、何も知らなかったら公式のキャラだと勘違いしていたところだろう。
うん、フェアリーセイバーズはこういうキャラ出してくるアニメである。理解度高ぇな。
SSにおいて、作者がわざわざオリジナル勢力を捏造する目的はざっくり二つに分かれる。
一つは、単純に俺のオリジナル勢力SUGEEEEを書きたいヒーロー願望。
そしてもう一つは、推しに徒党を組んで俺のオリジナル勢力をぶっ倒してもらいたいという悪役願望である。
要は倒したいか、倒されたいかの欲望である。
そして僕はこれまでの展開を見てきて、彼女が後者であることを見抜いた。
女神様っぽい人は、セイバーズとサフィラス十大天使が共闘する姿を書きたかったのだろう。僕にはその気持ちがよくわかった。
根拠は敵味方問わず、原作よりも丁寧に盛られた原作キャラのカッコいい活躍描写である。
オリ勢力による蹂躙が目的なら、わざわざ炎たちを強化する意味が無い。
そしてセイバーズとサフィラス十大天使、二つの勢力の調停者という役目が、僕たちチートオリ主の存在意義だったのだろう。いや、もしかしたら本当は、僕たちはオリ主ですらなく……単なる原作キャラのお助けキャラでしかなかったのかもしれない。
いや、違うな……そんなことはない筈だ。
僕とメアはオリ主だ……誰がなんと言おうとオリ主なんだ……!
「メア、キミは大いなる存在の意思を感じたことはあるかい?」
「? 神様……アイン・ソフのこと?」
唐突な質問ですまない。
ちょっとお姉さん、流石に精神的に参ってしまってね……いや、できれば避けたかった事態が起こってやる気が無くなったとか、そういうわけじゃないんだ。ただちょっと自己嫌悪に浸って。
君に自覚は無いだろうが、同じオリ主のよしみであわよくば慰めてくれないかなぁと声を掛けたのである。エイトちゃんは寂しがり屋なのだ。グスン……
「神様とはまた少し違うね。自分自身の宿命とでも言うのかな? 運命とは違って、決して変えることのできない……人々に与えられた、存在意義のようなものさ。キミは、そういうものを感じたことはないかい?」
「……この前までは、感じていた。つらくて、苦しくて……どうしてメアは、みんなと違うんだろうって。そういう風に生きるのが、メアなんだって思ってた……」
「思ってた? 今は違うのかい?」
「うん。エンと、お姉ちゃんと、お父さんと……みんなと会ってわかった。メアのことを決めるのは、メアなんだって……メアが決めて、いいんだって」
しょんぼりした僕の顔を見て思うことがあったのか、メアちゃんは僕の脈絡の無い問い掛けにも真摯に付き合ってくれた。
彼女は改造人間として作られた自分自身の過去を振り返るように目を閉じると、数拍の間を空けて僕の目を見つめた。
「だから、メアの未来はメアが決める。他の誰かはもう、関係ない」
……そうか。
うん、そうだよね。自分の生き様は自分で決めるべきだ。
だからこの展開はマズいから避けるべきと保身に走るのではなく、自分のやりたいようにやればいいのだと──僕は彼女の力強い眼差しを受けて、慰められる以上に励まされた気がした。
よし、モチベーションが上がってきた。
僕は彼女の言葉に満足すると、まだちょっとプルプルする脚を微笑みの裏で奮い立たせながら立ち上がった。ロングスカートで隠れているが、内股の辺りはガクガクである。なんだか怯えているみたいでカッコ悪いな。
「そうか……うん、それでいい。君は、それで……この使命は、ボクの意思で果たそう。このT.P.エイト・オリーシュアただ一人の意思で」
そうだ……僕はチートオリ主、T.P.エイト・オリーシュアだぞ……こんぐらいなんてことはねぇ……!
SSのタブー? 地雷要素? エターフラグ? そんなもの、無敵のチートオリ主がねじ伏せてくれるわ!
高望みした難しい題材だって、作者が書きたかったんだから仕方ないじゃない! それが一番書いていて楽しく、作者なりに原作をリスペクトした結果なのだから。その信念があるのなら、他人からあれこれ言われたからと変えるべきではない。
だから女神様っぽい人は女神様っぽい人の意思でスランプを抜け出し、迫真のオリジナルストーリーを完成させればいい。
そして僕は、僕の意思でオリ主を全うする! お気に入り登録は誰にも外させない!
僕は苦笑を浮かべながら顔を上げると、今も我が物顔でエルの空を飛び回っている大怪鳥の姿を見上げる。肋骨が剥き出しになっていたり、翼がボロボロになっていたりとダークな外見がとてもカッコ良かった。オリジナルボスのくせに公式レベルのクオリティーである。すげえ。
そして、戦闘力もだ。
女神様っぽい人渾身のオリジナルボスは、洒落にならない強さだった。フェアリーバーストを発動した炎と長太、サフィラス十大天使の一人であるホドやその他エルの天使の皆さんが束になっても苦戦している様子で、その光景はまるでMMORPGのレイドバトルである。
「あまり、調子に乗るなよ……」
誰にも聞こえない声で、僕はぼそりと呟く。我ながらブーメラン突き刺さっている台詞だが、今は許してほしい。
僕はエタるのが嫌いだ。面白いSSの続きが見られなくなるのは悲しいし、作者側の立場としても申し訳なくて心苦しい。それ故にエターを呼ぶ過剰なオリジナル要素をずっと危険視していた。
──でも、もっと大事なことがあるのだ。
それは僕たちがSSを読み始めた頃、書き始めた頃は当たり前に思っていた筈のことで。
オリ主である僕が全てにおいてカッコ良さを優先してきたように──SSとは、面白ければそれでいいのだという真理だった。もちろん、規約は守らないといけないが。
初心に返って新たな自分を見つける。これは……オリ主の覚醒イベントである! そういうことになった。
怪盗ノートを取り出した僕はイキッた目で黒鳥アディシェスを睨むと、奴の脳内にダイレクトメールで煽ってやる。
『滅びが宿命づけられた哀れな道化よ! 去れ! ここは貴様のいるべき場所ではないっ!』
「──!? だァと……? そうか、おまえが……そこにいたのかダぁぁァとぉォォっッ!!」
うおっ!? 煽り耐性低いなお前!
念動力テレパシーで挑発した瞬間、アディシェスは秒速で僕をタゲって降下して来た。なんでお前がキレてんねん、キレたいのはこっちだよ。
しかし、流石は僕……ヘイトタンクとしてもチート級である。
ソニックブームを撒き散らしながら急降下してくる禍々しい黒鳥を前に、僕は不敵な笑みを浮かべた。
オリキャラ対オリキャラは読者が置いてけぼりになると言ったな? アレは本当だけど、嘘だ。
正しくは、面白ければいいんだよ面白ければ! 面白くするのが難しくて上手くいかなかったSSが多いだけで、結局のところ実力のある作者にとっては数あるジャンルの一つでしかないのだ。
と、言うわけで……
「ボクは……貴女を信じていますよ」
僕は彼女を信じることにした。
ガチのフェアリーセイバーズエンジョイ勢である女神様っぽい人が、この難しい題材をいい感じに仕上げてくれることを。
またの名を丸投げと言う。
いつもはSS作者にも気遣いのできる優しくて聡明なオリ主だが、今回ばかりは女神様っぽい人に押しつけることにしたのだ。不機嫌エイトちゃんである。
それに、このオリジナルボスはSSの出来映えを気にしながら戦える相手ではないだろう。もちろん、次からはちゃんと協力するので許してほしい。
いくぜぇ! エネルギーフルパワー!!
僕は「闇の呪縛」、「念動力」、「身体強化」、その他諸々の戦闘用異能を出し惜しみ無く、盗ったばかりのケセドパワーも加えて全開に引き出してやった。
見るからに闇属性だし、ケセドの光パワーならマウントを取れると思ったのである。
……しかし、それがマズかったのかもしれない。
いつもならもう少し慎重に動いていたのだが、メアに鼓舞されたのと女神様っぽい人に決意表明を示したかったので、ついつい未知数な力を引き出しすぎてしまったのである。すなわち、ガバ。
その影響により、なんだか僕の頭の中にケセド君のものっぽい変な記憶も流れてきて……あばばばばばば。
……大丈夫。僕はオリ主なので、それがきっかけで人格が変わるようなことはない。僕は僕だ。
ただちょっと──僕の背中に黒と白の羽が六枚ずつ、合計十二枚の羽が生えてきたのには思わず悲鳴が漏れそうになった。ナニコレ。
……いや、でもイカすなコレ。
カッコいい美少女に黒と白との翼が合わさって最強に見える。正義の堕天使キャラとかカッコ良すぎるだろ厨二病的に考えて。
ふっ、勝ったな。今の僕はスーパーオリ主である。
そんな僕は襲い来るアディシェスに一歩も退かずに右手を振り上げると、そこから放つ光と闇の洗礼を浴びせ掛かった。
──瞬間、深淵の闇が割れた。
長々と語っていましたがエイトの活動方針はこれまでと全く変わりません。今までだってやりたい放題やっていたので