TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
知らない天井だ──その一言で大体の状況がわかるのは、情景描写として優秀この上ない。
そのワードは一昔前のSS界隈では頻繁に飛び交っていた記憶がある。
だからこそ僕も、あえて言おう。知らない天井だ……
あれ? なんで僕こんなところで寝て……ああ、思い出した。
ケセドパワーも合わせて全能力を解放したスーパーエイトちゃんは、その反動で気を失ったのだった。
あわや落下死するところを助けてくれたのが、マイソウルフレンドのメアである。
ん、メア?
メアちゃんなら隣で寝ているよ。
「すー……すー……」
規則正しい寝息を上げながら、彼女は僕が横たわるベッドの隣で見舞い用の椅子に座りながら眠りこけていた。
その眠り方は炎お兄ちゃんとそっくりだ。やはり血ではなく、心でつながった家族と言うことか。
だけどその姿勢は腰を悪くするからやめた方がいいと思うよ。見舞いに来てもらって言うのはなんだけど。
「ふふっ」
しかしそんな格好なのに、気持ち良さそうに眠っている彼女の姿に思わず笑みが溢れた。
癒し系だね、この子は。夢女子のようにみんなから愛されるわけである。
僕のことを心配して、つきっきりで看てくれたのだろう。何か温もりを感じると思ったら、僕の左手は彼女の両手に固定され、ぎゅっと握り締められていた。
ぬう……これでは身動きが取れない。こういう時は二度寝した方が良いのだろうが、おあいにく様僕は寝起きがいいので一度起きたら眠りに入るのが中々難しい。しかもちょっと催している。
世のチートオリ主たちは割と眠たげにしているのが多いが……僕は朝も強いのである。やれやれ、こんなところでも最強を証明しちゃったな。
……言っている場合じゃないな。どうしようこの状況。
これはマズい。何がマズいかって、少し催しているコレがマズい……! まだ余裕はあるけどさ。
何が催してきたって? 言わせんなよ恥ずかしい。
ま、まあ? TSオリ主はトイレになんて行かないから平気だし? いざとなったら下腹部辺りに「浄化」を使えば一発である。アイドルの世迷い言すらガチにできるとは、便利だよね異能って。こちらが指定したものをピンポイントで浄化してくれるので、旅のお供に最適だった。
そんなことを考えながらしばらく手持ち無沙汰にしていると、僕の布団の上に見知った小動物の身体が乗り掛かってきた。おお、君はカバラちゃん!
「キュッ」
「ありがとう。キミも看ていてくれたんだね」
僕が目を覚ますと同時に、健気にも存在感をアピールしてきたカバラちゃんに礼を言う。
気配り上手な相棒を持って、お姉さんは嬉しいよ。
でもね、カバラちゃん……僕が目を覚ましたのが嬉しいからって、今はちょっと、お腹の辺りでぴょんぴょん飛び跳ねるのはやめてくれないかな? 浄化しなくちゃいけないから。加速する尿意を浄化しなくちゃいけないから。
そんな僕の祈りが通じたのか、お利口なカーバンクルはその場を立ち退くとメアの肩の上へと飛び乗り、彼女の頬に向かってコツンと軽い頭突きを見舞った。
気遣いの達人かよ。カバラちゃんから与えられたモフモフの刺激によって、メアがぱちくりと目を開く。
すると同時に、仰向けに横たわる僕と目が合い──普段無表情な彼女の顔がパァッと明るくなった。
「エイトっ」
「うん、エイトだよ」
「よかったぁ……!」
「心配かけたようだね……大丈夫だよ、メア。ごめんね、ありがとう」
「ううん……っ、メアこそ、エイトになんて言えば……」
僕が目を覚ましたことで笑顔を見せたメアだが、すぐに悲しげな顔に変わる。
僕が倒れたのは、ケセドの力を譲り渡した自分のせいだと思っているのだろう。強く責任を感じている様子だ。
だが、それには及ばない。僕は僕の意思で行動している。メア、君が言ってくれたようにね。
そう告げると、彼女はハッとした顔で驚き、しかし変わらず申し訳無さそうな顔で俯いた。
何だよもう……僕は心配ないってのに。
申し訳ないのは、寧ろこちらである。まさか彼女の身体からケセドの力を抜き取った瞬間、あんな物が出てくるとは思わなかったからね。
深淵のクリファ「アディシェス」──その存在が彼女の中に潜んでいた理由は、今の僕にはわかる。
盗んだケセドの因子が教えてくれたのだ。中々にぶっ飛んだ「真相」って言う奴をね。
「不安なのかい?」
「え?」
「キミ自身のこと。自分が何者か、不安そうな顔してる」
「……うん」
やっぱりそうか、僕への罪悪感ともう一つ──彼女が情緒不安定になっている理由は。
そりゃあね……自分の身体の中にあんな物が潜んでいたなんて知ったら、誰だってビビる。僕だって泣くわ。それも、彼女の場合は昔の記憶が無いのだ。
今までは改造人間だと思っていたが、もしかしたら自分の正体は、人間ですらないのかもしれないと──そんな不安に襲われるのも至極当然の話だった。
実際、僕も彼女のことは人体改造を抜きにしても特殊な存在だと思っている。
ケセドの力を盗んだ筈なのに、彼女の背中には今もまだ四枚の翼が残っている。力を完全に失っているわけではないのだ。
アディシェスとの戦いに加勢しなかったところから察するに弱体化はしているのかもしれないが、彼女自身の体質はほぼ天使と変わらないように見えた。
そうとも……メアは変革しようとしている。多分これ、彼女の覚醒フラグだ。
身も蓋も無い話だが、僕は今のメアを「サーチ」してそう思った。
だから本当は、心配など要らないのである。
うーん……よし、少し元気付けてやろうかな。カウンセラーエイトちゃんの再登場である。
「こっちへおいで、メア」
メアが手を離してくれたことで上体を起こせた僕は、ポンポンとベッドの横を叩いてそこに腰掛けるように呼び寄せる。
すると彼女は小動物よりも小動物らしく躊躇いがちに、おそるおそるちょこんとその場に座り込んだ。
それと同時にカバラちゃんも、彼女の肩から僕の膝の上へと飛び乗ってくる。うっ……ん、んん……!
だーかーらー! あんまり下腹部押すなっちゅうに! 余裕無くなってきたやろが!
ふーっ……ふーっ……よ、よし、大丈夫。まだ戦える。
今浄化を使うと僕が毒を患っているのかと勘違いさせてしまうからね。無駄にメアちゃんを曇らせるわけにはいかないのだ。幼女の目の前で処理するのは流石にどうかと思うし。
オリ主はトイレに行かない。オリ主はトイレに行かない。オリ主はトイレに行かない……OK。
心の中で反芻した後、僕はメアの肩をそっと抱き寄せた。
「あ……」
メアを元気付ける為、そして僕自身の気を紛らわせる為によしよしと頭を撫でてやった。使い古された完璧なオリ主ムーブである。
女の子同士だし、歳の差もあるし大丈夫でしょ。健全健全。
アリスちゃんにもお風呂の中で同じことしたら喜んでくれたしね。
TS美少女であることを生かした距離感で、僕は彼女に語り掛ける。
「キミはよく頑張ってるよ、メア。ボクが保証する。キミは凄い子だ」
「……本当?」
「ほんとに本当さ」
「でも……メアは、怪物かもしれない……人間じゃない、かもしれない……っ」
むむむ……頑なだな。君は自己否定が強いオリ主なんだね。
だが、それは良くない。そういうオリ主もいて良いとは思うが、いつまでもずっと悩んでいるわけにはいかないだろう。
特に彼女のように、既にたくさんの味方がいる子はね。
諭すように、僕は言ってやった。
「大事なのは、心の在り様だよ」
──これは持論だが、自分のことを「俺って怪物なのかな……」と疑っているような怪物は、その時点で本当の怪物ではないと思っている。
ほら、異形の怪物が主題の創作とかで、よく教訓にされるじゃない。「人間の方がよっぽど怪物だ」とか、そういう話。某悪魔の力を身につけた正義のヒーローなんかがいい例である。
そう──「心」だ。
「こころ?」
「そうさ。もとは普通の人間だろうと、心の在り様が歪んでいたら容易く怪物になってしまう。だから姿や形なんて、大した問題じゃないんだ。たとえキミの身体が他の子たちと違っていても、キミの心が優しく在り続ける限り、キミは誰よりも立派な人間だよ。……ボクなんかより、よっぽどね」
うん、そう考えると他の何よりも完璧なチートオリ主に拘っている僕が怪物なのではないかと思えてくる。そんなことないのにね。
しかし、誰がどう見ても無茶苦茶なことをやっているのに、自分のことを真人間だと思い込んでその悪行に一片の疑いを持たないような人間は、もはやモンスターだと思う。
フェアリーセイバーズで言えば、PSYエンスのボスがそれだ。
彼は種族的な意味では確かに人間だが、その思考性はラスボスのケテルよりも遙かに怪物である。
それに比べれば、メアちゃんなんてかわいいものよ。クリファの一匹や二匹身体に飼っていたところで、怪物を自称するにはまだ地味すぎるぜ。
「不安だったら、たくさん甘えるといいさ。エンだって、チョータだって、キミを助けてくれる筈だよ」
もちろんボクも、その時々で相談ぐらいは乗ってあげるつもりだ。
なんたってメアちゃんは、僕の命の恩人だからね。彼女に嫌われない限りは協力してあげるつもりだ。
「だからキミは、もっとキミのことを信じて。ね?」
「……うん……うんっ……」
パチンとお茶目なお姉さん的なウインクを決めて励ましてあげると、メアは頷きながら嗚咽を溢した。
そのオッドアイの瞳からは、何かが決壊したように止めどなく涙が溢れてくる。
……えっ、え? 泣かせた? 僕のせい……? えっ、えー……
「あ……えっ、大丈夫?」
「……だい、じょうぶっ……グスッ……ひぐっ」
「そ、そう? 飲み物あるよ? お菓子とかたくさんあるよ? 食べるかい?」
「……ううん……いい……メアは、へいき、だから……っ」
あわわわわっ、どうしよう? どうしよう!?
アイテムボックスを駆使して手品のように日本製のドリンクや駄菓子の数々を取り出しながら、僕はあの手この手で彼女の涙を引っ込めようと策を打つ。てんやわんやだった。
いやいや、全然平気じゃないでしょ君!? 泣きたい時はたくさん泣いた方がスッキリするよ? 泣こう泣こう!
う、うーん……男の子ならもうちょっと対応しやすいんだけど、メアちゃんぐらいの女の子になるとどう慰めるのが最善なのかわからんのだ。アリスちゃんの時は、カケル君がいたし。
ええい! この際カバラちゃんでもいいから助けて!
「……っ」
「大丈夫、大丈夫だから……キミを責める者なんて誰もいない。そうだろう? カバラちゃん」
「キュイ!」
よし、流石カバラちゃん! 空気が読めるカーバンクルである。
僕の腿を踏み台にしてメアの肩まで跳躍した彼女は、ペロリとその頬を舐めて優しく励ましてあげる。
それにしても会ったばかりなのに仲いいね君ら。僕を一緒に看ていた時にでも絆を深めたのだろうか。
……うむ。幼女と小動物は由緒正しきゴールデンコンビである。彼女らのツーショットは、正直僕よりも似合っていた。
「キミは他の誰でもない、一人の人間だ。キミがキミである限り」
「……っ、メアが……メアである限り?」
「ボクは何度でもキミを祝福しよう。「生まれてきてくれてありがとう」ってね。それでも辛かったら、ボクの前では泣きなよ。遠慮なんていいから」
「──っ……エイト……お母さんみたい……」
「ん、そう? まさか、そんな大それた存在じゃないよ」
「ううん……そんなことない。エイトは凄い人……強くて、優しくて、温かい」
肩を抱き寄せながらよーしよしよしと小動物を撫で回すように宥めてあげると、メアの呼吸が少しずつ落ち着いてきた。良かった良かった。
彼女の泣き方は同年代のカケル君と比べるとまだぎこちなかったが……まあ、なるようになるだろう。元の世界に帰ったら、灯お姉ちゃんのあかりっぱいにでも慰めてもらうといい。アレはいいものだ。
──さて、僕とメアの関係である。
今まではオリ主同士ということもあって直接的な接触は控えていたが、女神様っぽい人の方針がわかった以上もはやSS的な配慮は必要無い。
新しい関係構築の第一歩として、それからしばらく世間話でもしてメアとのコミュニケーションを深めていった。
そうしていると彼女は泣き疲れたのか、それとも僕を看てくれた疲労が残っていたのだろうか、コロリと寝落ちしてしまった。まだ小さいものね、メアちゃん。
「ゆっくりおやすみ、メア」
「ん……」
僕と入れ替えるように彼女の身体をベッドの上に寝かせてあげると、布団を掛けてそっとその傍を離れていく。
パーフェクトコミュニケーション達成である。メアは心の傷を癒やせてハッピー。僕も彼女と仲良くなれてハッピー。お互いが幸せになれた有意義な会話であった。
そんな彼女のことを微笑みながら後にして、僕は澄んだ瞳で前を向いた。
さて──トイレに行こうか。
いいや、もう浄化使っちゃお。メアも眠ったし、ここでやっちゃってもいいだろう。
今からテレポーテーションでトイレに行くよりも、「浄化」を使って処理した方が早い。美少女はトイレになんて行かないのだ。
「……んんっ……!?」
「?」
あうちっ……! た、立ち上がったら急に来たわ。
あ、あかんて……! メアちゃんの涙を心配するよりも、こっちの涙の心配するべきだったなってうっさいわボケ!
頭の中で自分自身にノリツッコミしていると、カバラちゃんから不思議そうな目で見られた。ごめん、そうでもしないと出そうだったのだ。アレからアレが。
でもこう、限界が来た時って変なテンションになるじゃない? そういうのはわかってほしいんだ生き物として。
そう言うわけで僕は、右手を自らの下腹部に当てて異能「浄化」を使ったのである。
──ふう……よし、全部処理したな。
何とも嫌な気分である。眠っている幼女の横でイケナイことをしている気分だった。
「浄化」の異能でアレを処理した時、感覚的には漏らしたのに何故か漏れていないみたいな、何と言うか……夢の中で漏らした時みたいな微妙な気持ちになるのだ。需要がある人にはあるのだろうが僕にそんな性癖は無い。あるわけねーだろ。
しかし、脂汗が凄い……余裕噛ましていたら危ないところだったわ。エネルギー切れで落下した時と言い、なんだかここのところ予想外なところで窮地に陥っているな僕。駄目だこんなんじゃ。
と言うか、そもそもあの時迂闊に気を失ったのが発端である。
「好事魔多し」という言葉があるように、調子が良い時ほど落とし穴に気を付けていこう。エイトちゃんは同じ過ちを繰り返さない、反省するオリ主なのである。
さて、スッキリしたし外に出ようかね。
外は明るいが、僕は自分がどれぐらい気を失っていたのかもわかっていないのだ。一日ぐらいならいいけど。
メアは寝ちゃったから、炎にでも聞いてみようかな。そう思い、僕はこの部屋の出口へと向かった。
しかしその時、僕はいつからそこに立っていたのか、見覚えのありすぎる金髪美女と対面したのであった。
『T.P.エイト・オリーシュア……貴方っ』
それは八枚の翼を持つサフィラス十大天使の一柱──「美」を司る6番目の天使ティファレトである。
彼女はその目を大きく見開きながら、驚いた顔で僕を見つめていた。
……見られちゃったね。
「ああ、来てくれたんだ。おはよう。それとも、こんにちはかな?」
大丈夫。冷静に、冷静に。内心ちびキャラエイトちゃんがのたうち回るぐらい恥ずかしかったが、僕はクールでミステリアスなオリ主なので平常心である。
寧ろ、見られたのが彼女で良かったと言えるだろう。今のところ敵対関係である彼女が相手なら、僕も気兼ねなく嘘を吐く……もとい、口八丁で誤魔化すことができる。
『今のは浄化の聖術ね……どうして、それを自分に?』
「ボクの身体に、アディシェスの毒が残っていたからね。大丈夫、もう完全に消えたから」
『…………』
そういうことになった。
うん、今僕が浄化したのはアディシェスの毒だ。いいね?
実際本当の可能性も何%かあるだろう。毒なんて潜伏していたらわからないからね。
この誤魔化しは証明できないが故に誰にもバレないという利点があるが、仲間相手だと無意味に曇らせてしまう危険があった。
特にメアちゃんが聞いたら、自分のせいで僕にそんなものを背負わせてしまったとさらに悲しんでいたところだろう。
その点、ティファレトなら大丈夫だ。
彼女にとって僕は憎き人間。ちょっと毒を喰らっていたからと聞いても、「あっそ」で終わる話である。原作のティファレトを知る僕としては塩対応をされるのもキツかったが、ここは現実の世界なので都合良く切り替えて考えることにした。
決して羞恥心でそれ以上頭が回らなかったわけではないので悪しからず。
──その筈なんだけどね。
『……申し訳ありません。貴方には不要な負担をお掛けしましたね……』
何故に……何故に曇っておられるのですかティファレト様!?
手のひら返しというには不気味過ぎない?と、予想だにしない殊勝な態度に僕は身を竦めた。