TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
ティファレトによる事情聴取を受諾した僕は、炎たちも一緒に集めて会合を開くことにした。
場所はケセドの止まり木があるあの丘でいいだろう。あそこ気持ちいいし。
そうして集合したのは僕とティファレト、炎、長太、マルクト、そしてこの島の管理者代行であるケセドの筆頭天使さんとその他お付きの天使さんたちだった。
マルクトは僕が長太を呼びに行った時、彼と一対一でしばき合っていた。
しかし驚いたのはその戦いが以前のような殺伐とした空気では無く、試合形式による模擬戦だったことだ。
あれかな、共通の大敵を相手に共闘したから、絆が芽生えたとか……無いか。無いな。
「ケテル最後の剣」と呼ばれる彼女は見た目と態度こそかわいらしい末妹だが、一度敵と認識した相手には滅多なことで情けを掛ける子ではない。原作でのケセドとの関係は、まさにそんな感じだったのだから。
長太を打ちのめす彼女の顔には目に見えて怒りが滲んでおり、和解した様子は微塵も無かった。
しかし、そんな彼女の剣戟を受ける長太の顔はなんだか楽しそうだった。
いや、誤解無きように言うが彼は決して美少女にボコボコにされて喜ぶ趣味があるわけではない。武闘家気質の彼は、ただ単に強い相手と戦えるのが嬉しいのだろう。
まあ確かに、二人とも典型的な直情型という共通点があり、性格的な相性は案外良いのではないかと思う。
原作では絡みの無かったキャラの掛け合いを楽しむのもまた、二次創作の醍醐味だろう。
ん、長太×マルクトキテるって? いや、同じ空間にいただけでCP認定するのはどうかと思うよ僕は。ライバルフラグならキテると思うが。そもそも彼女にはケテルがいるし……ケテルとキテるって響き似てるよね今気づいた。
流石の長太も一対一では大天使に勝つことはできないようだが、僕が目覚めたことに気づき、観戦する僕の前で彼女から一本をもぎ取った時には子供のように喜びはしゃいでいたものだ。やるじゃん、パチパチ。
で、それを見たマルクトが予想外な一撃に呆気にとられた後、『は? 今のは惨めで哀れな人間に慈悲を掛けてあげただけです! 貴方より私の方が強いに決まっているでしょう! 調子に乗るな!』とムキになって口撃していたのは微笑ましかった。なんで一々からかい甲斐があるんだこの子。
一方、炎の方はと言うと僕が招集を掛けるまでもなく既にケセドの止まり木の近くにいた。
丘の上で修行僧のように、彼は瞑想していたのである。
どうやら炎はアディシェスとの戦いで何かを掴んだようで、「サーチ」を使ってみると彼の力がまたさらに上がっているのがわかった。流石は主人公、隙があれば強くなるよね。
そんな彼は瞑想が終わった瞬間、ひょこっと視界一面に飛び込んできたエイトちゃんフェイスに驚きながらも、すぐに僕が目を覚ましたことを喜んでくれた。おう、心配掛けて悪かったね。
だけど「いるなら声を掛けてくれ……心臓に悪い」と言い、なんだか僕が悪いことしたような物言いには少しムッとしたものだ。何だよー。
──まあ、そんな感じに僕は二人と合流し無事を報告したわけだ。
因みにカバラちゃんはついてこなかった。ベッドの枕元で丸くなっており、メアちゃんと一緒にお昼寝中である。
ハッ……まさかこれがNTR……? 僕はカバラちゃんのことをよく抱き枕にして寝ていたので、文字通りメアちゃんに寝取られてしまったわけである。なんてこったい。
……それはともかく。
ケセドの止まり木に全員集まったことを確認すると、僕はケセドメモリーによる真相の説明会を開催したのである。
因みに、ホドは今回のことをケテルに報告しに行ったらしい。
故に、彼は既にこの島にはいない。よっしゃ、それを聞いて安心したぜ。
僕より解説の上手い解説役がいなくなった今、ここからは僕の独壇場だった。
快調な気分になった僕は、吟遊詩人風にハープを鳴らしながら弾き語ることにする。
おふざけではない。その方がカッコいいからだ。
そしてハープを鳴らした瞬間、ティファレトの目が僅かに輝いたのを僕は見逃さなかった。
「美」を司る大天使である彼女は、文化芸術への造詣が深い。この世界ではハープは未知の楽器の為、興味津々の様子だった。
僕自身としてはそんな彼女の演奏や生歌の方にこそ興味があるので、お願いしたいものである。
──まあ、説明会の後はもう、そんな空気じゃ無くなるんだけどね。
──慈悲の大天使ケセドはただただ運が悪かった。
聖獣たちが受けた拉致被害によりケテルが人間世界を敵視していることを知ったケセドは、人間たちにこれ以上フェアリーワールドに関わることを止めてもらう為、ゲートを渡り人間世界へと警告に向かったのである。その代わりとして、人間世界に迷い込んだ聖獣の対処は全て自分が行うつもりだった。
しかしその時、事件が起こった。
フェアリーワールドから人間世界へつながる超空間の中で、突如として巨大な「闇」が出現しケセドへと攻撃を仕掛けたのである。
闇の名は──「カイツール」。
かつてフェアリーワールド創世期の時代、聖龍アイン・ソフによって次元の裂け目「ぺオル」へと封印された深淵のクリファの一柱である。
この時、一時的にその封印を破ったカイツールは、人間世界へ渡ろうとするケセドと接触し交戦に入った。
そして彼はケセドに致命傷を与えた後、隠し持っていた同胞たるクリファ「アディシェス」の魂を彼の身体に打ち込んだのである。さながらそれは、一粒の種のように。
全ては転生直後でまだ不完全体だったアディシェスを、完全な状態で蘇らせる為だった。
カイツールは生まれ変わったアディシェスの魂に大天使の力を取り込ませることによって、究極のクリファを誕生させようと企んだのである。
──しかしその計画は、予定外な出来事が発生したことにより出鼻からくじかれた。
カイツールによって致命傷を受け、人間世界に不時着したケセドは本来そのまま内側からアディシェスに喰らい尽くされる筈だった。
しかしそんなケセドを、よりによって「PSYエンス」が最初に発見してしまったのである。
聖獣の力を研究していたPSYエンスにとって、彼の存在はまさにうってつけだった。最強のフェアリーチャイルドを生み出す為、瀕死状態で捕獲した彼の因子を抽出し、適性のある一人の実験体に埋め込んだのである。
それこそが、「メア」という少女だった。
しかし、その因子の中に深淵のクリファ「アディシェス」が潜伏していたことには、メア自身も含めて誰一人気づかなかったのである。
イレギュラーな事象によりケセドの身体から彼女の体内に移住することになったアディシェスだが、今は雌伏の時と判断し復活の時が訪れるのをじっと待ち続けた。
待ち続けた結果──その時は訪れた。
コクマーの襲来によりメアがケセドの力に覚醒し、天使の力を得たのは彼にとって僥倖だったのだろう。
おかげで彼自身も予定通り大天使の力を得ることができ、あのような姿にまで成長することができたのだから。
……はい。それが真相です。
ケセドの記憶を手に入れたことで、僕はケセド不在の真実がわかった。
これも全て、「カイツール」って奴のせいなんだ。
ああ、PSYエンスは普通に極悪なので残党を見つけ次第好きにしてええで。そこはどうぞご自由に。
しかしメアちゃんが自分の中にいたアディシェスの存在に気づかなかったのはあれだろう。なまじケセドの力が大きすぎたが故に、その裏で慎重に隠れていた彼のことが見えなかったのだと思われる。
すなわち──
危ねぇ……! メアちゃんから裏ボスが生えてくるところだったわ!
とんでもない爆弾が仕掛けられていたものである。
あのアディシェスとかいうオリボス、実は完全に成熟していない状態であれだったのだ。
もっと時間が経って自力でメアちゃんから出てきた日には、一体どれほど恐ろしい存在になっていたのか想像もつかない。怖すぎる。
しかし、そんな彼からしてみれば最大の誤算は僕だったのだろう。
何故ならあの時、僕がメアちゃんの身体にちょっかいを掛けさえしなければ、彼はそのまま彼女の中で成長を続けられたのだ。
当然、僕たちには気づく由も無いわけで。原作通りラスボスのケテルを倒してさあ地球へ帰ろうって時になって、メアちゃんの身体を食い破りながら「裏ボス登場! 究極完全態グレートアディシェス爆誕!!」なんてことになったら僕だって一生寝込むわ。
恐るべきは、女神様っぽい人の仕込みか……やはり貴方はガチである。
大団円で終わりかけた物語の最後に幼女を殺し、炎たちをガン曇らせるなんて──もはや鬼畜の所業だ。お姉さんちょっとドン引きです。
……ま、その企みは僕に阻止されたんだけどね! ざまあみろ女神様っぽい人! ざまあみろカイツール!
自慢のアディシェスもこのT.P.エイト・オリーシュア様の身体には移住できなかったようで、行き場を失った彼は予定より早く覚醒してしまい、不完全な状態での戦闘を余儀なくされたというわけだ。
意図せずして裏ボスフラグを未然に叩き折るとか、僕凄くね?
まさしく完璧なチートオリ主である。いやまあ全部偶然なんだけど、そういうことにしておこう。これでエイトちゃんの株はさらに急上昇である!
……いや、結果オーライってことにしないと、あの化け物を呼び出したのは僕のせいってことになりそうだからね。
被害に遭った島民たちに弾劾裁判を開かれたらと思うと、いっぱい悲しい。
ともあれ、僕の計算ミスで町の聖獣さんが誰も死ななくて良かったよ。これも本心である。
ティファレトからそのことを聞いた時が、何より一番安堵したものだ。人的被害が出ていたら、流石の僕も萎えていたからね。僕が曇らせ展開を好まないのは、僕自身が曇らされたくないからというのが最大の理由だった。
一通り話し終えると、会合は重苦しい空気に包まれた。
うん、知ってた。誰が聞いたってそんな顔するわこんな話。
「確かに、おかしいとは思っていた……だが、そんなことが……」
「PSYエンスのボスよりも、どう考えてもネツァクのおっさんやこいつらの方が強ぇよな。手合わせした今だからわかるが……そのケセドって奴が、PSYエンスなんぞにやられるわけがねぇ」
『ほとんどホドの推測通りね……だけどカイツール──他のクリファも絡んでいたなんて……』
『…………』
やはりと言うべきか、全員が困惑の顔を浮かべていた。
僕だってびっくりである。アディシェス登場の時に女神様っぽい人の方針を理解していなければ危なかった。
ケセドの記憶から脳内に奔る知らない記憶を受けて、取り繕えないぐらいあわあわエイトちゃんになっていたかもしれない。メアちゃんに泣かれた時も十分あわあわだった気がするがそれ以上である。
その点、こんな話を聞いても取り乱すことなく冷静さを保っているティファレトとマルクトは流石大天使様である。
そうとも、カイツール──改造ツールみたいな名前してやがるそいつがケセド不在の黒幕である。
PSYエンスは普通に真っ黒だが、棚ぼたでケセドを手に入れられただけで、メアちゃんに至っては徹頭徹尾可哀想な被害者でしかない。その辺りも含めて炎と長太、僕の三人掛かりでアデリーペンギンのコラ画像のように囲んで説教すると、元来人情派であるティファレトは「あうっ……」と言葉を詰まらせていた。
罪悪感を盾にして、美人なお姉さんにマウント取るのって凄く気持ちいいと思いました。
一方、マルクトは終始無言だった。
それはもう、僕の解釈ではぷんすかと黒幕に対して怒りを露わにするのかと思っていたのだが、説明の間彼女は不気味なほど静かに、最後まで大人しく聞いてくれたのだ。
なんだか何かを言いたそうな顔でチラチラと僕の顔を見ていたが……流石の僕も読心まではできないので彼女が何を考えているのかはよくわからなかった。
そんな彼女のことを横目にしていると、まずは炎が問い掛けてきた。
「エイトは全部知っていたのか?」
──来た。
ふっ……だけどその質問は計算済みだよ。
僕は心の中の眼鏡をクイッと上げながら、予め考えておいた解答を返す。
「メアが特殊な存在であることには気づいていた。あの子の裏に、大いなる存在がいたことも……それを確かめることもまた、ボクの目的の一つだったからね」
「やはり、そうか……」
「じゃあ、なんで今まで黙ってたんだ? あのアディシェスって奴がメアの中にいることを知ってたなら、もっと早く取っ払っちまえば良かったのに」
強キャラの極意「気づいていたよムーブ」である。
誰も気づかなかったことに僕一人だけ気づいていたことをアピールすることで、格付けチェックを乗り越えることができる。
しかし嘘は言っていないよ嘘は。彼女の裏に大いなる存在(女神様っぽい人)がいることには、最初から気づいていたし……オリ主的に考えて。
『……そうね。あのメアという子がホドの試練を受ける前なら、アディシェスもまだあれほどの力を持っていなかった筈。それを邪魔した私が言うのはなんだけど……他のタイミングではできなかったの?』
「そうだね……うん、このタイミングでなければならなかったんだ。寧ろ以前までは、アディシェスの存在が微弱過ぎて摘出することができなかったんだよ。それに、あの子はああ見えて慎重な性格だ。メア自身の抵抗力を鍛えておかないと、彼女のことを人質に取って厄介なことになるかもしれない。その点、ホドが彼女を鍛えてくれたのは渡りに船だったね」
『だから、一昨日の時点で行う必要があったと……そういうことね』
そういうことになった。
一昨日ってああ、やっぱり僕は丸一日眠っていたんだね。まあ、そのぐらいなら問題無いか。ツァバオトで闘技大会が開かれなかった分、原作の時系列よりもスケジュールには余裕がある。
尤も、こうなってしまったらもはや原作の時系列も当てにできないけどね。そもそも辿ってきた歴史すら違うのだから当たり前の話か。
思えばこう言った原作相異点との対峙もまた、チートオリ主の使命である。そのことを失念していた。
今までの僕の頭の固さに反省しながら、しゅんと項垂れた。
「……必要があったとは言え、ボクがアディシェスを呼び出したようなものさ。そのことは責められても仕方ないけど……アディシェスはアレでまだ成長途中の幼生体。今後さらに手に負えなくなることを考えたら、ホドやボク、エンとチョータがいるあのタイミングしかなかったんだ……」
「アイツ、アレで子供だったのかよ!? とんでもねぇな深淵のクリファって奴は……」
うん、ケセドの知識によると、アディシェスというクリファは時間を置いたらもっとデカくてたくましい姿に成長していたらしい。転生する前は全長200mぐらいの超巨大ドラゴンだったとか……出る作品間違えてるわアイツ。
なので、そうなる前にここで仕留めることができたのは僕のファインプレーである。
その分で島を危険な目に遭わせたことはチャラにならないかなぁ……と、僕は痛々しい傷痕が残っているゲドゥラーの町を見下ろしながら溜め息を吐いた。
「……ごめんね、みんな……」
『貴方……』
心底申し訳なくて、町に向かって頭を下げる。
いや、もう、本当にね……せめてもの救いとして、誰も死ななくて良かったと思っているのは本心である。
僕はいい子ちゃんではないが、好き好んで周りに被害を出したいとは思っていない。そういうのは気持ち良くオリ主できないからだ。
筆頭天使さんたちにもありがとうと一礼する。彼らは戦闘では役に立たなかったが、避難民の誘導や流れ弾の処理でいぶし銀に活躍していたのだ。彼らの働き無しではいくら僕のフォローがあっても死者ゼロは難しかっただろう。
『い、いえそんな……っ』
せめてもの償いとして、これが終わったら寝ていた分復旧作業を手伝ってあげよう。無敵のオリ主パワーならば、綺麗な町に戻すことぐらいできる。僕もここいらで何かしておかないと、オリ主として駄目な気がした。
『……ねえ』
そんな僕に、この会合中初めて口を開いたマルクトが呼び掛ける。
何だい? カイツールの居場所ならまだ次元の裂け目ってところにいると思うよ。完全に封印が解けているわけではなさそうだったし。
『貴方は……ケセドを救ってくれますか……?』
普段勝ち気な彼女が、目尻を下げながらそう訊ねてくる。健気にお兄ちゃんのことを思う姿には、僕も……「僕の中にいるケセドの心」にも響くものがあった。
うん……そうだね。彼女らには黒幕「カイツール」のこととか色々聞きたいことはあるかもしれないが、第一はそれだろう。
不在になったケセドを健在にする。僕はそれこそが女神様っぽい人から与えられたオリ主的な使命だと思って、メアからこの力を抜き取ったのが発端である。
しかし、今──僕の中でケセドは言っていた。
「今はまだ、その時ではないらしい」
『……っ、なんで!?』
僕もできることならすぐに復活させてあげたいところなんだけど……どうにも彼は、今はこのままでいたいらしい。「この方が、この世界を助けられるから」と──僕の中のケセドは、そう言って拒否しているのだ。やはり、サフィラス十大天使は頑固者の集団らしい。
えっ? 僕の妄想じゃないよ。何だか奇妙な感覚だが、身体に力を入れると彼の意思が何となく頭の方に伝わってくるのである。ついさっき気づいたことだが。
なので僕はこの時、その声に気づく前にさっさと彼を復活させておけば良かったと後悔していた。
あっ、でも僕の中にもう一人誰かいるこの状況……なんだか厨二っぽくてカッコいいかもしれない。今回ばかりは現実逃避的にそう思った。
次回は温泉回です