TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

4 / 128
荒らし・嫌がらせ・混乱の元

「怪盗だって?」

 

 セイバーズ本部明保野。

 昼飯の時間、食堂にポツンと一人ホットドッグを咀嚼していた暁月炎のもとに寄せられたのは、何とも反応に困るユニークな話題だった。

 その話題の提供者である「風岡 翼(かざおかつばさ)」が許可なく向かいの席に座ると、長い足を組んでキザったらしい笑みを浮かべる。

 

「ルパン三世でも現れたのか?」

「さてな、怪盗キッド様かもよ?」

 

 冗談めかしたお互いの言葉はおどけているが、その目は笑っていない。

 セイバーズは異能犯罪の取り締まりにおける実行班のようなものだ。公共に不利益をもたらす者がいるのなら、エンタメ感覚で聞き流せる話ではなかった。

 巷で噂されている存在、怪盗。その件について不敵な笑みを浮かべる翼は、既に事件の詳細を掴んでいる様子だった。

 

「その怪盗とやらについて、何か知っているのか?」

「盗む物が金銀財宝じゃなく、「異能」ってことはな。活動範囲は不明だが、そのうち国内中に広まるだろうよ。何せ、闘士やマフィアの連中からもあっさり盗んじまうような奴だ」

「! 異能を盗むのか……?」

 

 異能を盗む怪盗。確かに、興味を引かれる話題である。

 警察関係者と独自のパイプを持っている風岡翼は、炎の元に時々こうしてユニークな事件の情報を持ってくる。そうして話題に上がった事件は後々セイバーズの任務として正式に回ってくることが多い為、炎は食事中ながらも真面目に耳を傾けていた。

 そんな彼の反応に気を良くしたのか、件の「異能怪盗」について翼が続けた。

 

「被害者はみんな、並の人間より遥かに鍛えられたレア能力持ちの連中だ。そんな奴らさえまんまと異能を盗まれたんだから、相当な使い手だろうな」

「……PSYエンスの残党か?」

「可能性は否定できない。だが、奴らだとしたら少々手口が生ぬるいかもな。被害者は全員無傷で健康体そのもの。異能を盗まれた以外何かされた形跡も無いそうだ」

「そうか……」

 

 マフィアや闘技場の異能使いからあっさりと異能を盗むほどの実力者がこの町にいたとは、にわかには信じがたい話だ。炎が真っ先に疑ったのは、それがセイバーズ因縁の敵「PSYエンス」絡みの事件である可能性だった。

 彼らは「異能」について何者よりも手段を選ばない研究を行い、メアのような「フェアリーチャイルド」が代表するように、非合法な研究により強力な異能使いを人工的に生み出すことさえ行っていた組織である。

 ボスは逮捕され、半年前には残党構成員たちも一斉検挙された筈だが、まだその残滓が残っているかもわからない。

 尤も、翼の話が確かなら可能性は低いだろう。その異能怪盗がPSYエンスの者ならば、被害者全員をそのまま拉致して実験室送りぐらいにはしている筈だと、経験に基づいた嫌な信頼があったからだ。

 心底胸糞悪い、と組織のことを思い出した炎は渋い顔をしながら缶コーヒーを啜った。

 

「幸い、被害者は数日経ったら元通り異能を使えるようになったそうだ。丁寧にも怪盗が返してくれたのか、被害者たちの自己治癒力が働いた結果なのかはわからない。医者が調査しているようだが、後者だとしたら脅威度は低いかもな」

「いや、十分脅威だろ。そういう異能を持って生まれたのだとしても、許可無く人の物を盗るのは犯罪だ」

「ははっ、違いねぇ」

 

 セイバーズの任務、それもエース部隊である炎たちに回ってくる任務となると、緊急的な脅威度が高い案件が回ってくる。テロリスト相手の出動であったり、人命救助系の任務が優先的に回ってくるのだ。それこそ最近では、聖獣暴走事件の対処に掛かりきりである。こうしてのんびりとランチタイムを過ごせたのですら久しぶりのことで、幼馴染の「光井 灯(みつい あかり)」からは頻繁に「ちゃんと休んでいるの?」「このままだと留年するよー!」などとお節介メールが送られてくる始末である。

 確かに炎はまだ十七歳であり、本分は学業の高校生である。同時にセイバーズという公務員的な立場に所属している身だが、このままでは身が持たないのではないかと心配されるのも当然だった。

 今日も学校に行けなかったなと、遠い目をしながら溜息を吐く。そんな炎の顔を見て、翼がニヤニヤと軽薄な笑みを浮かべた。

 

「今、灯ちゃんのこと考えたろ?」

「……別に」

「目が泳いでるぜ。まっ、お前も社畜体質だよなぁ。司令だって、お前が「学業に専念させてくれ」と言えばちゃんと配慮してくれるぜ?」

「必要だと思っているからここにいるだけさ。俺の留年なんて、町の平和に比べたら大した問題じゃない」

「へいへいそうですか」

 

 天涯孤独の身である炎は、学費だって自分で稼いでいるのだ。留年して被害を受けるのは自分だけだと言い切る炎に対して、翼は呆れた顔で頭を掻いた。

 

「鈍いやっちゃな……思春期の癖に」

「灯のことはいい。それより異能泥棒のことだ」

「怪盗と呼んでやろうぜ? 泥棒呼ばわりはなんかショボく見える」

「確かに」

 

 幼馴染周りの話題になるとバツが悪かった炎は、やや強引に異能怪盗へと話題を戻す。

 この話を持ち出してきたのは、若干十九歳にしてトップクラスの情報収集能力を持つ風岡翼という救世主(セイバー)だ。そんな彼がわざわざ昼飯時に話題に出してきた以上、単なる世間話に終わる話だとは思えなかった。

 

「お前はどう見ているんだ? その怪盗」

 

 炎の問いかけに対して、翼が端正な顔立ちにニヒルな笑みを浮かべながら答える。

 

「普通なら警察が解決する案件だが、遠からずや俺たちのところに回ってくると思うぜ俺は」

「根拠は?」

「あるよ。俺、今から楽しみなんだよねぇ」

 

 こんな時にやれやれだぜと肩を竦めるが、その表情はどこか楽しそうだ。

 怪盗というフィクションのような存在との対峙を想像して、沸き立つ気持ちを抑えられない様子である。

 そんな彼に対して、炎の反応は冷めたものだった。

 普段彼らが対峙している重罪人ほどではないが、それでも怪盗が行ったことは異能で他人に危害を及ぼす犯罪である。犯罪者との対峙にエンタメ性を感じる感情が、炎にはわからなかったのだ。

 そんな彼は、ただ真面目に首を傾げた。

 

「司令部が聖獣たちの暴走事件より優先する案件だとは思えないが……それでも回ってくるのか?」

 

 炎個人の信念としては、困っている人間がいるのならどんな事件にも出動したいと思っているが、それでもセイバーの身体は一つしかない。既に聖獣暴走事件という重大な事件を抱えている現状で、司令部がどこまで胡散臭い怪盗に本腰を入れるのか甚だ疑問だった。

 そんな炎の問いに、今度は真面目な表情で翼が返す。

 

「その聖獣暴走事件に関わっているかもしれないからだよ、怪盗が」

「何?」

 

 盗み聞きされない小さな声量で、耳打ちするように言った。

 眉唾物の話だが……と前置きを入れた上で、翼が続ける。

 

「怪盗が残した声明文に書いてあったんだよ。「只今次元の壁より参上いたした」ってな」

「次元の壁……? まさか、ゲートか!」

「ああ、このご時世、次元の壁と言ったら誰もがそれを連想するだろうよ。もちろん、そう思われることを狙った愉快犯の可能性もあるが……わざわざ俺たちがいるこの町での犯行だ。俺は、やっこさんが単なる構ってちゃんだとは思えないね」

 

 よりによってセイバーズの本部があるこの町で、その上度重なる聖獣暴走事件で組織がピリピリしているこのタイミングで、大胆な犯行を決行したのだ。それは、あまりにも合理的ではない。異能を盗むのが目的なら、他にやりやすい時期は幾らでもあった筈である。そう考えるとどうにも、怪盗の行いは不自然に思えた。

 単に自己顕示欲を満たしたかったのか、セイバーズへの挑発か、それともただの馬鹿か。

 仮に異能を盗んだことが手段に過ぎず、怪盗の目的が他にあるのだとしたら……もしそれが、何かの間違いで聖獣暴走事件に関わっていたのだとしたら。

 深読みでも可能性がゼロではない以上、確かに翼の言う通りセイバーズが動く案件である。仮に翼の仮説が当たっていたとしたら、件の事件を解決する糸口が掴めるかもしれないのだから。

 

「翼はもう手掛かりを探しているんだろう? 俺も手伝う」

「やめておけ。今の時点じゃまだ警察の案件で、正式なオーダーじゃないんだ。お前はその時が来た時の為に備えておけばいい」

「……なら、せめて怪盗の名前を教えてくれ」

 

 怪盗を捕まえることで、聖獣暴走事件が進展するかもしれない。僅かでもその可能性があるのなら、炎は時間外労働を辞さないつもりだった。

 翼はそんな彼を見て「コイツやっぱ社畜体質だわ」と呟きながら、どうせすぐにわかるだろうと観念して名を答えた。

 

「T.P.エイト・オリーシュア……だってよ。声明文にはそう書いてあったらしい」

「っ!」

 

 予想だにしない名が放たれた瞬間、炎は思わずコーヒー缶をテーブルに落とした。

 飛沫から逃げるように翼が立ち上がり、ただならぬ炎の反応に慌てる。

 

「お、おい、どうした? まさか聞き覚えのある名前なのか?」

「……ああ」

 

 炎は愕然と目を見開きながら、先日出会った燕尾服の少女の姿を脳裏に想起する。

 T.P.エイト・オリーシュア──メアと自分に対して意味深な言葉を残して立ち去っていった、あの少女の名前と同じだ。

 偽名だろうが、同名の別人ということもあり得まい。

 つまり、あの少女が怪盗だということ。炎には自然と、納得することができた。思えばあの格好も、それらしい装いだったような気がするし。

 しかし炎にとってそれ以上に衝撃的だったのは、彼女の正体が件の怪盗であることを前提に考えると、今しがた翼が語った仮説とあの時彼女が言っていた意味深な言葉の二つが、不自然なくつながってしまったからであった。

 

『ボクはその子で、その子はボク。キミの描くキャンバスに紛れ込んだ、二人で一つの色……本来ならきっと、この世界には存在し得なかった異色……』

 

 T.P.エイト・オリーシュアが告げたあの言葉は、メアと自分が同じ存在であることを仄めかしていたように思える。

 その時点では彼女もメアと同じ、PSYエンスが生み出した「フェアリーチャイルド」の一人である可能性を疑っていたが、その場合、引っ掛かるのは怪盗として言い渡した「次元の壁より参上いたした」という言葉だ。

 試験管から出てきたフェアリーチャイルドが皮肉を込めて言うにしては、次元の壁という言葉の表現はあまりに不自然。つまり彼女は、フェアリーチャイルドではない。

 ならば、「自分がメアで、メアが自分だ」と言ったその言葉はもっと本質的な意味を指していて……それがメアの身体の中にある「聖獣の因子」を意味していたのだとしたら。

 

 もしかしたら……

 

(T.P.エイト・オリーシュア、アイツは……)

 

 これは本当に、もしかしたらの話だ。

 

 我ながら荒唐無稽な推理であるが、一度疑ってしまうとそうである可能性が高いように思えてならなかった。

 

「聖獣、なのか……?」

 

 ──あの少女、T.P.エイト・オリーシュアの正体は、異世界からやってきた聖獣なのではないか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジで!?」

 

 僕、聖獣だったの!?

 うわーびっくりしたぁ……そうか、炎君にはそう見えたのか。なるほどね、これは予想外である。驚いてビュティさんみたいな目をしてしまった。

 

 すっげえ! 僕今すっげえ勘違い物のオリ主してる!

 

 いや、状況証拠から考えて確かにそう考えられなくもない。実際のところ「次元の壁より参上いたした」という一文は、もちろん三次元から二次元にやって来ましたよって意味だったんだけど。

 だけど確かに、異世界へのゲートという次元の壁の存在が物理的に認知されている世界なら、そういう解釈になる方が自然である。浮かれていたあまり、余計なことを書いてしまった僕が迂闊だった。一応、あの一文にはメアの他にも転生者がいるかどうかあぶり出す意味もあったんだけどね。ただカッコいいから書いただけではないのだ。

 

 しかし、いいね……そう言う勘違いはどんどんやっちゃいなよ、炎君!

 勘違い系SSと言えばテンプレが確立されるほどの人気ジャンルだからね。ふっ、また一つ、いい感じにオリ主してしまった……やれやれ、本当は目立ちたくないんだけどなぐふふふっ。

 

 

 はい。以上、千里眼中継によるセイバーズ明保野本部の様子をお送りいたしました。リポーターのエイトちゃんです。

 

 いやあ、やっぱりこの異能チートすぎるわ。千里眼って言うほど射程は広くないんだけど、建物の外からでも中の様子を覗くことができるのはヤバすぎる。ただの痴漢野郎から盗んだ能力にしては有能すぎて、もうこれ無しでは生きられないね。

 異能狩りに勤しんで早数日、巷ではぼちぼち僕の噂が流れており、大々的に捜査網が敷かれるのも時間の問題だろう。

 もちろん、警察相手に遅れを取る僕ではない。と言うかこの手の物語にありがちな通り、基本的に警察は前世の世界より無能である。闘士たちから盗んだたくさんの異能をストックしている今の僕を捕まえられるのは、それこそ全力を出したセイバーズぐらいだろう。

 警察とセイバーズでは、それほどまでに決定的な差があるのだ。捜査力はともかく、実力行使の面ではね。

 なので僕は大した危機感も無く犯行を行っていたが、思わぬきっかけで炎たちにタゲられたようだ。彼らは聖獣暴走事件に掛かりきりだったので、今のところ重罪人ではない(彼ら基準では)僕の逮捕には本腰を入れてこないだろうと見ていたが、その事件に掛かりきりだったからこそ僕に注目してきたのは盲点である。

 だが、悪くない……どころか、予定よりも良い状況だ。

 前にも言ったが、二次創作においてオリキャラを複数登場させる場合はそれぞれ相応のバックボーンを用意しておく必要がある。登場するオリキャラの存在そのものに意味を持たせておかなければ、どんなに戦闘力が高い強キャラであろうと読者には「コイツいる?」と辛辣な印象を受けてしまう。理由無き力は確かに強力だが、誰からも理解を得られないのでやがて悲しい結末を引き起こすということだ。

 

 その点、今、僕の存在は重要人物として原作主人公に理解してもらえた。しかも、図らずもその勘違いがもう一人のメインオリ主であるメアちゃんとの関係性を補強してくれたものだから笑いが止まらない。おまけに僕が人間の姿をした聖獣説まで流れてしまった。確かにTSオリ主と言えば性獣だけどね。

 うん、率直に言って炎君の推理は都合が良かった。本当に僕がそういう設定のオリ主だったら、なんかこういい感じの物語が作れそうなぐらいである。女神様っぽい人はどう思うかな? ワイトはそう思います。

 

 ……よし、いいよ。こういう後付けの設定も、有用なら寛容な精神で取り入れていく度量が大切だ。

 最初の時点でガチガチに設定を固めていなかったのもいざこういう展開が始まった際、柔軟なアドリブを返せるようにする為である。もちろん、プロットは丁寧に用意しておくに越したことはないけどね。

 

 

 なので聖獣さん、勝手に知らない同族を増やしてごめんなさい。

 

 だけど、僕はオリ主だからね。そういうことになった。

 

 そういうことになった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。