TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
ケセドは心から申し訳なさそうにしている。力及ばずカイツールに敗れたことを気にしているのだろう。今さら自分が蘇ったところで、フェアリーワールドの役には立たないと思っているようだ。
実際、戦力的な意味で言えばそうかもしれない。
今のケセドは断片のような存在であり、僕の手で復活に成功しても全盛期より弱体化するのは免れない。
故に──自分が半端な強さで蘇るよりも、このまま僕にバッテリーとして扱ってもらった方がこの先役に立てる筈だと、慈悲の大天使ケセドは考えていた。
うーん、自分自身に対してドライと言うかガンギマリすぎると言うか……「慈悲」を司っている彼だけど、この辺りの合理的な判断はいかにも天使らしいよなぁと思う。
ってか、マジかー……やっぱり今後は、深淵のクリファとの戦いが待ち構えているのかねー。
クリファの数はサフィラスと同じく全部で十体。半分は封印中でもう半分は転生を待っている状態のようだが、僕の中のケセドはアディシェスの復活を皮切りにクリファたちの転生ラッシュが始まると思っているようだ。
そうでなくともアビスの活性化は一層激しくなることが予想される為、今この世界には何より戦う力がほしいのだと彼は言っていた。
そんなケセドの気持ちを伝えると、デタラメ抜かすなと怒られるかなぁと思ったものだがティファレトは溜め息を吐き、呆れながら言った。
『相変わらずね……少しは薬になったと思ったのに、まだそんなこと言っているのね貴方は』
大天使として長年付き合ってきた彼女からしてみれば、彼の自己犠牲精神の高さは解釈一致だったのだろう。僕もそう思う。
けどね……ケセドもそんな風に、彼女らの気持ちを無碍にするような言い方は無いと思うんだ僕は。彼に身体があるのなら、僕が思いきりSEKKYOUしてやりたいところだった。
『馬鹿っ! ほんっとうに救いようのない馬鹿ですね! やはり、貴方は出来損ないです……もう、知らない!』
案の定、マルクトはキレた。
僕の中にいるケセドにそう叫ぶと、彼女は怒ってどこかへと飛び去っていった。
まさかここで原作の台詞を回収してくるとはね……うわっ、僕の中のケセドが凄くしょんぼりしている。
だから大人しく蘇っておけば良かったんだって。ほんとに君はさぁ……
「……直接話す方法が、あればいいんだけどね……」
彼にも彼の思惑があるのだろう。しかし僕が代弁する形になると、どうしてもお互いの気持ちが伝わりにくくなる。やはりこういうことは、本人同士で話さないと駄目だろうね。
どうしたものか……何とか上手いやり方は無いかと考えていると、ティファレトが僕の目を見つめて言った。
『T.P.エイト・オリーシュア……貴方に、我々と敵対する意思はありますか?』
それは、彼女なりに見極めたいと思ったのだろう。
開幕ぶっぱで殺しに掛かってきたことを思うと「何を今更」と言いたい気持ちもあるが、エイトちゃんは推しには甘いので言わないでおいた。
「キミが優しい心を持った美しいティファレトで在り続ける限り、ボクはキミのことを否定する気は無いよ」
『──っ』
ニヒルな笑みを浮かべながら口説き文句のようにそう答えると、彼女は僅かに頬を赤くしながら視線を逸らした。かわいい。
元が美白だから、照れている時はすぐにわかるんだよねかわいい。キリッとした美人によるギャップに溢れたその顔は、横から見ていた真面目な男たちも思わずたじろいでいた。
そんな二人のことをジロリと一瞥しながら、僕は続ける。
「彼らもそうさ。キミたちと戦う気なんて誰にも無い……本当は、敵なんてどこにもいないんだ」
『…………』
「だからね、ティファレト。キミたちの王様に伝えてほしい。倒すべき相手を見誤るんじゃないよってね」
サフィラス十大天使に反省を促すエイトちゃんである。
元々は僕たちに対して殺意MAXだったティファレトだが、度重なるストレスを受けてしおらしくなっている今こそ和解のチャンスだと見極め、強気な姿勢で畳み掛けていく。
アディシェス、カイツール──彼らのような共通の大敵は、強すぎるが故に和睦の使者になり得る。
彼らの存在を叩き台にして、人間への悪感情を有耶無耶にする巧妙な作戦だった。
『……私には、まだ人間という存在を信用できません』
……が、不発……! まあそうだよね。
この程度で「人間って素晴らしい!」と手のひらを返すようでは、この世界の聖獣さんたちが可哀想である。
『でも……救えない者たちばかりでは、ないのよね……ケセド』
貴方のような存在が期待を掛けて、導きたがっているほどに──ボソリとそう呟いたティファレトが、炎と長太に対して向き合った。
そして、彼女のサラサラな金髪が揺れる。
頭を下げたのだ。彼女が。
「……!」
『いきなり有無も言わさず撃ったことは謝るわ。もっと貴方たちのことを知るべきだった……ごめんなさい』
うん、妥協できるところは謝らないとね。
ああ、因みに長太はあの時マルクトを煽ったことを、ちゃんと謝ったらしい。えらい。
尤も彼女の場合はそれが逆に逆鱗に触れたようで、『貴方私を馬鹿にしているのですか? いいでしょう、表に出なさい!』と先のタイマンを行うきっかけになったようだ。
やっぱ貧乳は駄目だな……僕はティファレトの豊満な双丘を見て、改めて大きさの違いを再確認した。器のことだよ?
そして、器が大きいのは我らが主人公たちも同じである。
二人は彼女の謝罪を真摯に受け入れ、大天使との和解はまた一歩前進したと言えるだろう。
「まっ、今さらどうこう言わねぇけどよ……」
「あの時撃ち落とした俺たちの仲間……翼って奴のことなんだが、どこにいるかわかるか?」
おお、流石は炎。リーダーはやはり抜け目が無いね。
そうだ、翼──風岡翼の所在である。
彼が原作で言うところの明宏ポジになっていたとしたら、コクマーの島「ヨッド」に囚われていないか心配していたが……撃ち落とした張本人であるティファレトならば、何か知っているかもしれない。僕たちは期待の眼差しを向ける。
そんなティファレトは、彼の問いにほんの少しだけ嫌そうな顔をしながら答えた。
『エロヒムよ……貴方たちが向かおうとしている島に、貴方たちの仲間はいるわ。怪我一つ無くね』
「本当か!? 丁度いいぜ!」
「やはり無事だったんだな……流石翼だ」
それは僕たちに翼の居場所を教えることを嫌がったのではなく、「エロヒム」という島の話題を出すことを嫌がっている様子だった。
仲悪いのだろうか?
『……あの島には私も向かったけど、彼は既にビナーに匿われて入島すらできなかったわ。貴方たち、随分と気に入られているみたいね』
「えっ……」
ビナー──エロヒムの管理者である、「理解」を司る3番目の大天使の名だ。
そうか、それはいいことを聞いた。ビナーのことは原作に登場していないし、ケセドメモリーにも残っていないから未だによくわからないけど、翼を匿ってくれているのならハニエルさんの言う通り、僕たちに味方してくれそうだ。
大天使は間違えることは割とあるけど、嘘は吐かない。原作知識でもティファレトの実直な性格を知っている僕は、その言葉を信じて感謝の笑みを浮かべた。
「ありがとう、ティファレト」
ケセドもそう言っているし、丁度良かった。
『……私は貴方たちの敵よ。お礼を言うのはおかしくないかしら?』
「おかしくなんてないさ。だってキミもマルクトも、ケセドの島を守ってくれただろう? だからありがとう。彼もそう言っているよ」
『……サフィラスとして、当然のことよ』
ホドを見た限り、確かに主の欠けた島を守るのもサフィラス十大天使の仕事なのだろうが……彼女の場合はそれだけではない筈だ。
だってティファレト、ケセドのこと好きだし。
欠けたのが他でもないケセドだったからこそ、彼女は動いた。そして彼の為を想えばこそ、僕たちに攻撃を仕掛けることに躊躇いを持たなかったのである。
うーん、青春っ!
二人の関係はお互いに強く結びついた同志であり、近しい間柄であることはアニメ「フェアリーセイバーズ」作中でも仄めかされていた。
……ああ、だから原作のマルクトは、怒りを剥き出しにしてケセド──灯ちゃんに襲い掛かってきたのか。
アニメの後半は尺が足りなかったのもあってマルクトの心情がわかりにくかったが、アレはケテルに逆らったことだけではなく、自分の傍から離れていった仲のいいお兄ちゃんとお姉ちゃんに苛立っていたのも大きかったのだろう。
リアルタイムで視ていた時は僕も小さかったので気づかなかったが、大人になると新しいことに気づくのもまた子供向けアニメの面白みである。
……ふむ。よし。
「いいものだね、愛という感情は」
『……は、はあ……』
あれ? 気ぶってみたのに困惑されたぞ。
……もしかして二人は、何百年も一緒に居すぎたせいで逆に恋愛対象にならなかったのだろうか。
ケセドはどう思う? ケセド? ケセドー? ……駄目だ、僕の声は聞こえていないようだ。
ケセドの声を僕は受信できるのに、僕の心をケセドが受信できないとは難儀なものだ。まあ、おかげで僕の内面が彼に知られることも無いのでラッキーか。そう思うことにした。
それから少し話をした後、ティファレトは「カイツール」について調べることがあると言い、彼女もまた何処かへと飛び去っていった。
自前の翼がある人は、気軽に国家間を跨いでいくから凄いよね。僕もその気になれば同じことができるが、今日のところはまだこの島「エル」でやることがあった。
それは気持ちばかりの罪滅ぼし──この島の復興作業である。
壊された建物に関しては僕が眠っている間にティファレト主導で建て直したようだが、「千里眼」と「サーチ」を使って確認した限り、この島にはまだアディシェスの毒が残留しているのがわかった。
そういう場所を浄化するのが、僕なりの島民たちへの贖罪である。
そんなわけで僕は、今日は丸一日使って空飛ぶ浄化ツアーを開催することにした。
翼の居場所がわかったことで、当初予定していたヨッドの偵察が必要無くなったのが大きい。おかげで僕は目の前に集中することができた。
──そーら、綺麗になれ綺麗になれー。
白と黒の翼を五枚ずつ──合計十枚の翼を生成した僕は、町一帯を見渡せる高度まで上昇すると、「浄化」と「どこでもハープ」を調合した浄化のハープをより増強して大音量で鳴らしていった。
ケセドの力をフルパワーで解放した前回は十二枚の翼が生えたものが、今回は気絶しないようにエネルギーを調整して引き出してみたらこの枚数になったのである。
そんな僕の姿はコボルド族の村を助けた時と同じだったが、今回は本物の天使さんがたからも許可を得ているので恐れることなくエイトちゃんの大天使モードを披露することができた。
だけど、なんだ……空からハープの音を鳴り響かせながら島を縦断していく僕の姿は、なんだか選挙カーとか屋台販売みたいである。
浄化の音色を島全体へ響き渡らせる為には必要な工程なのだが、通常時であればやかましくてたまらない騒音お姉さんだった。
しかし、今は非常時である。
僕に向けられる下の島民たちからの視線が怖いが、これも君たちの為なのでどうか我慢してほしい。風がびゅんびゅん吹き荒れる空では、僕だって我慢しているのだ。だから僕のことを訴えるのはやめてよね。
「……はい、ご静聴ありがとうございました」
アディシェスが残していった爪痕を全て浄化した頃には既に、夜空に月が輝いていた。
今までで一番の長時間演奏だったので、今回は流石の僕もお疲れである。持ち曲も全部弾いてしまった。
でも、僕はやり遂げたのだ。
腐蝕した大地は今はまだ完全に元通りとはいかないが、新芽が顔を出して再び生命が宿り始めている。
僕が異能で活性化させておいたので、被害を受けた場所も数ヶ月経てば元に戻るだろう。
アディシェスの毒に苦しんでいた聖獣たちも全員無事完治したようで、地上に降りた僕を町の皆さんは想像以上に喜んで出迎えてくれた。
……今回ばかりはマッチポンプみたいで、あまり喜べない。
それでも『お姉ちゃんありがとう!』と言って笑う子供たちの屈託無さには勝てず、僕はシルクハットを目深に被り直すと、顔を隠しながら居心地悪い気持ちで復活した町を歩いた。
チートオリ主である僕が、まさかの敗北である……なんてこったい。
その時、頭の中では「や、やめろぉ……僕はただオリ主したいだけなんだ……!」と巻き込まれ系主人公のような悲鳴を上げていたものだ。褒められるのは大好きなエイトちゃんだが、今回ばかりはひたすら恥ずかしかったのである。
──でも、空飛ぶ浄化ツアーでは僕自身にもご褒美があった。
それは島の空を飛び回ったことで、この島の「隠れた名所」を見つけたことである。
そんな僕はアイテムボックスから桶とタオルを取り出すと、すぐさまメアちゃんのいる部屋へと突入し意気揚々と言い放った。
「メア、温泉へ行こう!」
「ぇ……?」
メアちゃんは丁度、目を覚ましたところらしい。うむ、ぐっすり眠れたようで何よりである。
寝起きなら丁度いい。一仕事終えてテンションが上がっていた僕は、目をしぱしぱさせる彼女に掻い摘んで説明してあげた。
──温泉である。
──温泉、である!
場所は、標高3000mぐらいある大きな活火山の麓。
人気の無い秘境の地に、いい感じの眺めが拝める天然の露天風呂を見つけたのだ!
これは見過ごすわけにはいかないだろう。温泉好きの日本人的に考えて!
身体の汚れは浄化によって落とし、僕は旅の間も常に清潔さを保っている。だが、どんなに身綺麗にしていても、心の汚れや精神の疲れは浄化できないのである。
しかし、温泉は別だ。
身体の芯まで温まり、同時に新鮮な異世界の景色も楽しむ。
それにより心は洗われ、精神もホクホクと癒やされるのだ。
これ以上の娯楽はあるか? いや、無いッ!
日頃の僕はオリ主ムーブを楽しんでいるが、あれは僕の生活そのものであって娯楽ではない。
故に僕は今、身体と心の両方が温かい温泉を求めていた。空、めっちゃ寒かったし……贖罪だからって、格好つけてバリアを解除しなきゃ良かった。ぶるぶる。
──そんな僕の今の服装だが、怪盗衣装から事前に用意していた温泉浴衣へと着替えており、既に準備万端だった。
おかげで身体は余計寒くなったが、コレも全て温かい温泉をより楽しむ為の投資と思えば悪くない。
ふふふ……こんなこともあろうかと、いい感じの浴衣を厳選しておいた甲斐があったね!
浴衣姿のエイトちゃんの美少女感たるや、この部屋を訪れる前にすれ違った炎たちが思わずキョドりながら「似合っている……」と褒めてくれたほどである。おう、サンキューな!
基本的に花より団子である二人からの純粋な賛辞は珍しく、僕は綻ぶ頬を抑えられなかった。二人にはメアちゃんと一緒に温泉まで出掛けてくることを伝えると、その勢いのまま彼女を誘いに来たわけである。
さあ行こう。すぐに行こう。僕が風邪を引く前に。引かないけど。
「そういうわけだから、ボクと一緒に温泉へ行こう。ほら、キミの分の浴衣も作っておいたから」
「えっ? えっ……?」
メアの分の浴衣はついさっき仕上げた。
流石の僕も子供用の浴衣は持っていなかったので、彼女の浴衣は僕用の予備に取っていた浴衣をチョキチョキして縫い、一時間ぐらい掛けて加工したものである。
だが、完成した造形に手抜き感は無い。寸法も間違っていない筈だ。こういう時は「サーチ」の異能が頼りになる。PSYエンス残党の、いかにもインテリぶった眼鏡男から盗み取った甲斐があったというものだ。
「……温泉行くのに、その服は必要?」
ん、必要に決まってるだろ何言ってんだ。
温泉と言えば浴衣でしょう! どうせすぐに脱ぐとは言え、こういうのは風情が必要なのだよ風情が!
「人間ってそういうものだろう? キミの為に用意したんだけど……ダメかな?」
「う、ううん! そんなことない! あ……ありがとう、エイト」
「良かったぁ……!」
良心につけ込むようにあざとい感じで頼んでみたら、快く引き受けてくれた。やったぜ。メアチャンカワイイヤッター!
「着付け方はわかる?」
「……去年、お姉ちゃんに教えてもらった。けど、あまり覚えていない……」
「じゃあ、ボクが手伝ってあげるよ。まずは右側を入れて──」
「……ふふ……」
ボクはTS美少女オリ主である。
故に浴衣の着付け方など、行き着けの服屋の店員さんからとっくに教えてもらっておるわ!
あの店で服を買うと、よく「写真を撮っていいですか?」と要求されるものだが、僕は自分のお気に入りユーザーもといファンは大切にしたいオリ主である。彼女には素敵なコーディネートを紹介してもらったり恩もあるので、なんならネット上の友達に自慢する程度ならじゃんじゃん許可してあげたものだ。あの人も元気にしているだろうか。
まあそんな感じに僕も下積みしている為、女児相手でも頼れるお姉さんムーブを貫き通すことができるのだよ。どうだすごいだろう。
「できたよ。はい、チーズ」
「? ん……」
帯も結んでバッチリ。うむ、よく似合っていてまるで妖精さんである。銀髪ロリの浴衣姿、いいよね。
それに……僕が着ているのと同じ柄なので、こうして見ると僕の妹みたいだな。なんだこの子魔性の妹か。すげえ。
「綺麗だろう? 似合っているよ」
「キュー」
「わあ……!」
元々彼女の為に選んだ柄では無かったのだが、やはり素材がいいからだろう。その姿は予想以上に似合っていたので、アイテムボックスから取り出したデジカメでパシャリと一発、僕とのツーショットを撮って見せてあげた。
僕はリアルタイムの雰囲気を大事にするオリ主なので、普段はこのような記録媒体は使わないのだが、今日だけは特別である。
……単純に、メアちゃんのことを元気づけてあげたかったのもある。彼女を曇らせたのは僕の責任だからね。これで手打ちにしてくれたらいいなって。
そんな僕の企みは功を奏し、写真を見せたメアちゃんはオッドアイの瞳を輝かせて喜んでくれた。
「じゃあ、行こうか。外は寒いけど、ボクのテレポーテーションならひとっ飛びさ」
「あ……うんっ」
彼女に向かって手を差し伸べると、メアは向日葵のような笑顔でその手を取ってくれた。
この島はやたら風が強いので、夜は浴衣を着るには適さない。だが、僕には一瞬で目的地へと移動することができる「テレポーテーション」があるのだ。
問題の質量制限も、ボクとメアちゃんの二人なら余裕でクリアしている。いつの間にか僕の肩に乗り込み、ツーショットに割り込んできたカバラちゃんの質量を合わせても何ら問題は無かった。
故に、外が寒かろうが問題無い。すぐに、温かい湯に浸かれるからね。
……正直、女の子にとって浴衣ってこんなに寒かったのかと、内心驚いているのは内緒である。
うーん……下着をつけないことから来るこのひんやり感は、ちょっと危ない気がするが……それが常識だと店員のお姉さんは言っていたのでそうなのだろう。前世でもそういう話、聞いたことあるし。
……あれ? 待てよ……さっき見たところ、メアちゃんは普通にパンツ穿いていたような……?
まあ、いっか。
今からメアちゃんの前で僕が下着を穿くのも、メアちゃんの下着を脱がすのもどちらも絵面が酷いのでやめておこう。どうせ温泉に着いたら脱ぐしね。
「では、ご案内」
そうとも、これは至高の娯楽。細かいことは気にしない! あったかい温泉が僕らを待っているのだ。
雑念を振り切った僕は、「テレポーテーション」を発動する。そして僕たちは、秘境で見つけた名湯のもとへ一瞬で到着したのだった。
「あっ」
「おや……」
「キュッ?」
『!?』
温泉に着くと、そこでは思わぬ先客が待ち構えていた。
彼女としては一人で湯船に浸かって寛いでいたところ、突如として乱入してきた僕たちにびっくりした反応である。
そんな彼女──マルクトの一糸まとわぬ姿が、僕たちの目の前にあった。
……ふむ、身長は小さいけど、僕よりちょっと大きいかもしれない。意外にあったんだね君。
膨らみかけだけど。
TSオリ主となった僕は、アリスちゃんの時と同じく欲情することはなかったが……彼女の神秘的なお姿を目にしたその時、僕はとても幸せな気分になった。
──綺麗なものを見るのって、性欲とは関係なく叡智だからだね。
やはり、温泉はいいものだ。
僕は前世でも好きだったこの開放的な空間を、さらに好きになれた気がした。
次回はケセド君への風評被害が凄そうな回になりそうです。