TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
T.P.エイト・オリーシュアという人間……人間?について、サフィラス十大天使10の天使「王国」のマルクトは計りかねていた。
ホドは彼女のことを原初の大天使「ダァト」ではないかと疑っており、ティファレトも半信半疑の様子だった。
昔、王様──ケテルはよく、その「ダァト」について語ってくれたものだ。
ダァトとは遙か昔、滅亡の危機に陥ったフェアリーワールドを深淵のクリファたちから救ったとされる伝説の大天使である。
彼女が生きた時代唯一の生き証人であるケテルは、ダァトが残した偉業の数々を完全に記憶しており、幼い頃のマルクトに幾度となく昔話を語っていた。
それらの話は兄たちにもしていたようで、サフィラス大天使が世界樹から生まれ変わる度に、ケテルは「我々もダァトのようにフェアリーワールドを導いていこう」と言い聞かせていたらしい。
さながらそれは、かの原初の大天使をサフィラスの母親と見定めているかのようだった。
そのダァトが深淵の世界から帰ってきたのだとしたら、この世界を揺るがす大事件である。
しかもあろうことか人間の姿になりすまし、人間たちに味方しているなど理解し難い話だ。
謎多きT.P.エイト・オリーシュアという女性だが、聖龍やケテルと引き合わせれば真実は自ずと白日のもとに晒されるだろう。彼女がダァトかどうか確かめるには、その時を待つのが確実だった。
おそらく、ホドとティファレトはそのつもりなのだろう。
彼女が本当にダァトだとしたら、この世界を揺るがす大事件だからだ。
しかし、そんな二人の判断をマルクトは気に入らなかった。
王様はとても忙しいのだ。
毎日毎日一秒だって休むことなく、この世界を守る為に働き続けている。マルクトが生まれる前からずっと。
そんな彼を助ける為の最後の剣として、マルクトは世界樹より生み出された。故にマルクトにとって王の力になることこそが存在意義であり、王こそが世界の全てだった。
もちろん、王以外の者たちがどうでもいいなどとは考えていない。
サフィラス十大天使の仲間たち……兄姉たちのことは大好きだし、島民たちのことも愛している。わざわざ口にしたことはないが……彼らを困らせる「人間」という種族が大嫌いになるぐらいには、彼女は周りに目を向けていた。
そんなマルクトにとって、T.P.エイト・オリーシュアの問い掛けは不思議なものだった。
『マルクト……キミは、この世界を憎いと思ったことはあるかい?』
何の意図かと思った。
わざわざマルクトたち聖獣の使うテレパシーでそう訊いてきたのは、近くにいる天使擬きに聞かれたくない話だからか。
マルクトはふん……と鼻を鳴らした後、彼女の意思を汲んで答えてやった。
『あるわけないでしょう』
腹が立つことや憎たらしい相手はいくらでもいるが、世界全体を憎いと思ったことは一度も無い。
マルクトはこの世界が好きなのだ。王様や皆が守り、受け継いできたフェアリーワールドを。
そう答えると、エイトは満足そうに笑った。
『良かった』
……不覚にも、マルクトはその笑顔が綺麗だと思った。
彼女が本当にダァトかはわからないが、人間でないことだけは間違いないとマルクトは思った。
でなければ、自分は人間如きに思わず見惚れたことになる。それを認めるのは、マルクトのプライドが許さなかった。
しかし、そんな内心を見透かしたように微笑むエイトの顔は、どうにも苦手だ。こちらのペースを乱されてしまう。
どこか理解の天使ビナーに似た雰囲気がある。自分からは何一つ明かそうとしないところも、マルクトがサフィラスの中で唯一苦手意識を持っている彼女と似ていた。
最初見た時は、あの大天使の擬態ではないかと思ったほどである。実際、彼女の身体には香水のようにビナーの気配が漂っていた。
しかし、今のT.P.エイト・オリーシュアからは感じない。ケセドの力を取り込んだからか、今の彼女から感じる気配はどうにも歪だった。
……だが、それを悪くないと感じている自分もいた。
彼女からはどこか、懐かしい気配を感じるのである。
まるで本当に、自分の母親であるかのように。
鉢合わせた時、すぐにこの場から逃げず居残った上に今も裸身まで晒し続けているのも、彼女に対して無意識に安心を感じているからなのかもしれない。
だが、T.P.エイト・オリーシュアという存在はビナーとは決定的に違うところがある。
それは会話をする時の目だ。
エイトは彼女と違って相手の目を見てくれる。吸い込まれるような翠色の瞳で。
彼女は一秒一秒を大切に焼き付けるように、今もマルクトから目を離さない。
その瞳は嫌いではなかった。
『……
「うん」
『メアと言いましたね、そこの天使擬きがいい例です。人間は同胞の命さえ弄び、貴方のようなモノを作り出した。彼らは無知で愚かで、私たちが守ってきたものを簡単に踏み躙る……そのような者たちを私は許しません』
「……っ」
サフィラス十大天使としてのマルクトのスタンスだった。
ケセドのことを抜きにしても、はっきり言って気に入らない。人工的に天使を作る種族など、生理的に受け付けなかったのだ。
「なら、この子は生まれてはいけなかったと言うのかい? 存在価値さえも無いと?」
嫌悪感を露わにするマルクトに対して、エイトが真っ直ぐに問い掛ける。
その隣で表情を伏せたメアの頭を、悲しそうな顔で撫でていた。
そんな二人の様子に、マルクトは口ごもった。
『ちがっ……そんなことは言っていません! ただ、私は……!』
「わかってる」
「メア?」
マルクトとて担当する島の管理者であり、百年以上に及んで聖獣たちと関わり続けてきた大天使である。
寿命の少ない人間と比べれば対人経験は遙かに豊富であり、メアという人間が特別悪者ではないことには気づいていた。
しかしそう訂正しようとしたマルクトの言葉を、メア自身が否定した。
「わかってる……メアは天使ではない。人間でも、ないかもしれない……生まれるべきでは、なかったのも……わかってる」
『……っ』
それは何か、頭の中が冷えつくような感覚だった。
激した感情が萎えていく。興ざめだ。
マルクトは溜め息を吐きながら湯船を離れると、身体に付着した水滴を聖術で払い、どこからともなく取り出した大天使の法衣を下着から順に身につけながら言った。
『……存在意義に悩んでいるのなら、人間世界など見捨ててメレクに来なさい。そうすれば、私の島で見習い天使として面倒を見ないでもありません』
「え……?」
ずっと何かを躊躇って、迷い続けている姿がムカつく。
自分が不幸だと思い込んでいるような顔が、気に入らない。
助け船を出したわけではない。何と言うか、そのおどおどした性格を矯正してやろうと思ったのである。
しかし、そんなマルクトを見て黒髪の少女はニヤニヤと笑った。
「やっぱり優しいじゃないか、キミ」
『う、うるさいですね! 何者にもなれない子供が哀れでならなかっただけです!』
彼女が胸を張って人間だと言うのなら王様の言いつけ通り敵と見定めて、あの力動長太のように聖剣でぶん殴っていた。聖獣だと言い張るのなら、サフィラスに逆らわない限りは自由にしてやろうと思っていた。
だが、どっちつかずは腹が立つ! だから強引にでも居場所をくれてやろうと思ったのである。
そんなマルクトの意図をどこまで理解しているのか、メアはポカンと口を開けた後、脳天気そうな顔で頬を緩ませた。
「ケセドの言う通り、マルクトは優しい天使様なんだ……」
『だから! そんなんじゃありませんっ』
「ありがとう、マルクト
『……っ』
だけど……そう続けて、メアが真っ直ぐにマルクトと向き合う。
迷いは残っているが、意思の強さが感じられる。今度の瞳は悪くないと、マルクトは思った。
「お姉ちゃんが言ってくれた。メアの居場所はあっちの世界にあるって……必ず帰ってきてって、約束した。だから……」
『なら、貴方はそのことだけを考えなさい』
「あ……うん……うんっ、そうだね……」
何だ、帰る場所があるならつまらないことを言うなとマルクトは肩を竦めた。
自分自身の甘さに呆れ、溜め息が零れてしまう。
『まったく……』
迷える者を見るとつい導きたくなるのは、大天使として生まれた者の性か。
コクマーや「峻厳」のゲブラーのように時には突き放すことも大事な導きだということはわかっているのだが、中々彼らのようにできない自分の甘さが嫌になる。
原初の大天使も同様に、随分と甘い性格をしているようだが──マルクトには彼女のスタンスに興味があった。
『T.P.エイト・オリーシュア』
「なんだい?」
『私はケセドのこと、諦めていません。本人が何と言おうと、必ず連れ戻します』
だが、これだけは譲れない。
譲ることなどできはしない。
確かに彼女が原初の大天使ならば、断片となった己の力を彼女に託したいという思いは理解できる。
しかし、そんなものは彼の独りよがりだ。
一体、貴方の為に私がどれだけ涙を流したと思っているんです!?──と、マルクトはエイトの中にいる兄に対して訴えたかった。ティファレトに羽交い締めにしてもらった後、何発でもビンタを食らわせて。
しかし、彼女には上手く言葉にすることができなかった。
それはきっと、悔しいからだろう。
彼が自分の傍から離れ、人間の側へ回ったことが。
──人間の世界に行く前に、自分に声を掛けてくれなかったことが。
それが非常に人間臭い「嫉妬」という感情であることを理解するには、マルクトはまだ天使として成熟していなかった。
『王国の大天使、マルクトが知らしめてあげます。愚かな人間たちなど、貴方や慈悲の大天使が導くに足る存在ではないのだということを』
だから心して、待っていなさい──そう言い残し、マルクトは八枚の翼を広げて夜空へと消えていった。
──そうして別れたマルクトは、翌朝、この島を出発してエロヒムへ向かおうとしていた僕たちの前に現れたのである。
その手には聖剣「マルクト」が携えられており、切っ先をセイバーズのリーダーである暁月炎に向けながら彼女は告げた。
『マルクトの名において、貴方たちがこの島から出ることを認めません!』
凜とした目で一同を見据え、彼女は剣を構える。
無視してこの場から飛び立とうと動けば、すぐにでも叩き切るような剣幕だった。
その姿に僕とメアちゃんが困惑しているが、炎と長太は何となくこうなるのではないかと思っていたように落ち着いていた。
「そいつは受け入れられねぇな。俺たちは最後の仲間と合流して、聖龍さんのところへ相談しに行かなきゃいけねぇんだ」
そりゃそうだ。
エイトちゃんも昨日の療養で完全復活である。身体は温泉効果でぴっかぴかのつやつや。エネルギーが満ち溢れており、昨夜は調子が良すぎて中々寝付けなかったぐらいだ。
──なので僕は、あれから浴衣姿のまま夜のエルを一人で歩き回ったりして、有り余るエネルギーを僕流のやり方で発散したものである。
島に到着した時から気になっていた灯台の上に登ってみたり、そこで一人秘密の飛行訓練をしていた鳥人族の少年と出会い、手伝ってあげたり。失敗して落下した彼のことを、何度か受け止めてあげたりしたものだ。ポロリと溢さなかったのは幸いである。少年のことだよ?
少年は過去のトラウマで空を飛べなくなっていたようだが、何度かトライアンドエラーを繰り返していくうちに努力が身を結び、日付が変わる頃には無事に飛べるようになったので実に良かった。『やった! やったよ天使様っ!』と喜びを表した彼の姿にはホロリと心打たれたものである。天使じゃないんだけどね。
どこの世界でもいいものだよね、頑張る男の子って奴は。元々は気持ち良く眠るための散歩だったのだが、僕も今後の活力を頂戴した気がした。怪盗だけに。
──で、今朝も快調な気分で起床した僕は早速皆と共にエロヒムへと飛び立とうとしたのだが、そこで駆けつけたマルクトが聖剣を片手に「待った」を掛けたわけである。
その顔つきは、昨夜温泉の彼女とはまるで別物だった。
油断なく僕たちを見据える瞳は凛々しく、かわいいではなく「カッコいい」と感じる眼差しだったのである。
『無理な相談ですね。私は認めません』
「……どうしてもか?」
『どうしてもです。王様の決定は絶対……そして、私自身も貴方たちを信用していません』
「そうか……ならどうすれば信用してもらえる?」
『どうもしなくていい。貴方たちはここで待っていなさい』
「何?」
元来の真面目さを発揮しながら、彼女は職務を忠実に全うしようとする。
しかしこれまでと違うのは問答無用で攻撃を仕掛けるのではなく、彼らの眼差しをしっかりと見つめた上で言い切ったことだった。
そんなマルクトが、僕たちに命じる。
『エロヒムにいる貴方たちの仲間は、私が引き取りに行きます。合流したら、早々に人間世界へと帰りなさい』
危害を与えるわけではなく、穏便に始末することを考えた言葉だった。
彼女のこれまでの態度からは明らかに違っており、意外そうに目を見開いた長太が薄く頬を緩めた。
「……あんた、思っていたよりいい奴だったんだな」
『はあ? 人間如きが何をほざきますか』
「そういうところがなけりゃなぁ……」
それが彼女の個性とも言えるが、いちいち一言多いのが彼女の欠点である。僕もツンデレは用法、容量を守るべきだと思う。
ただ何というか、相手の本質を見抜くのに長けている長太が思わずそう言ってしまうほど、マルクトという大天使からは隠しきれない人の良さが見えていた。
思えば昨夜、悩めるメアちゃんに対して自分の島で面倒を見てやると誘ったのもそうだった。
原作アニメでは容姿ばかり目立っていたものだが、彼女もまた本質的にはケセド君の妹なんだなぁと思った。
「炎」
「ああ」
炎と長太がお互いに目配せを行い、頷き合う。
そして次の瞬間、炎は蒼炎を、長太は氷の鎧を身に纏った。
この前よりさらに洗練されている。いいぞ二人とも。
そんな二人の姿を見て、マルクトがシリアスに呟く。
『フェアリーバースト……アイン・ソフが望んでいた人間の到達点ですか』
見極めるように目を細めながら、マリンブルーの刀身をカチャリと傾ける。
やっぱカッコいいなぁ聖剣マルクト。小柄少女に身の丈ぐらいの長さの武器はロマンですよロマン。寧ろ芸術と言ってもいい。
そんな彼女の姿を心のカメラに記録していると、マルクトは僕の方をチラリと一瞥した後、再び二人へと視線を戻した。
ん?
「人間世界への攻撃をやめさせるまで、帰るわけにはいかない。道を塞ぐというなら、俺たちはあんたを突破する」
「邪魔するなとは言わねぇ……あんたたちにはあんたたちの正義があるんだもんな。だけど俺らは、俺ら流のやり方で通させてもらうぜ?」
『来なさい。貴方たちが本当に大天使が導くに足る存在かどうか、確かめさせてもらいます!』
これは決闘かな。
決闘である。デュエッ!って奴だ。
「さてと……」
ようし、レフリーは任せろー。バリバリッとアイテムボックスの中からゴング代わりにハープを取り出す僕の横で、メアちゃんが身を乗り出す。
そんな僕たちに向かって、マルクトが煽るような高圧的な眼差しを向けてきた。
「マルクト様っ!」
『貴方たちも混ざってもいいですよ? 我が聖剣の前では、四人掛かりだろうと物の数ではありません』
「そんな無粋なことはしないよ。それじゃあキミも、意味が無いのだろう?」
わからせてぇ。
彼女の舐めた発言を受けて、生意気な少女を屈服させたいという僕の中の僅かなサディズムがピクリと反応するが、オリ主的な理性で踏み止まる。
僕の理想とするオリ主はそんなことしない。それに彼女の目を見る限り、彼女のターゲットはどう見ても炎と長太である。
これは──アレだな。洞察力の高いエイトちゃんは即座にマルクトの意図を察する。
故に、僕はメアちゃんの肩に右手を掛けて制止を促した。
「エイト?」
「ここは二人に任せよう。何せこれは……」
──これは二人に与えられた大天使マルクト様の試練なのだ。
僕たちがターゲットから外されたのはアレだろう。裸と裸の付き合いで僕たちの高潔さを理解してくれたからと推測する。いやあ清廉すぎて申し訳ない。貧乳同盟設立である。三人合わせてもティファレトっぱいには勝てそうにないが。
「大丈夫、二人は負けない。ボクらが知っている救世主たちならきっと」
「……うん」
あと、四対一で美少女をボコるとか絵面が酷すぎるので駄目です。
二対一だって側から見ると犯罪チックな光景なのだ。これ以上増えるのは主人公チームとしてどうかと思う。
そういうわけで僕は、メアちゃんと一緒に、三人の応援に専念することにした。チアリーディングエイトちゃん再びである。幼女もいるよ。
そんな僕たちの視線の先で、炎たちによる大天使の試練が始まった──。