TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
落ち着いた移動時間なので、アニメ「フェアリーセイバーズ」について振り返ろう。
ツァバオトから飛び立って以来、僕たちが辿ったロードは原作の展開から随分と乖離してしまった。
「深淵のクリファ」というイレギュラーが発生した以上、僕の微妙な原作知識などもはや何の参考にもならないかもしれないが、おさらいをする意味でも語っておきたいのである。
そう、原作におけるツァバオトを発った後の展開であるが──あれは作中第19話、サブタイトルは「コクマーの罠」とか、そういう感じの回だった。
ネツァクと拳で語り合い和解を果たした長太と合流した炎たちは、コクマーによる広域テレパシーにより第2の島「ヨッド」の聖都にてセイバーズ司令官「光井明宏」が囚われていることを知る。
彼により『夜明けと共に処刑するゥ』と告げられたことで、焦る三人が全速力でヨッドへ赴き奪還作戦を実行するが、それは彼らを誘き寄せる「知恵」の大天使コクマーの罠だった!
牢獄の中で待ち伏せを食らった三人は大量の聖獣軍団に囲まれ、絶体絶命のピンチに陥る。
しかし、そこへ現れたのは鳥型の聖獣軍団を引き連れた「風岡翼」だった!──というところで次回の引きになる。
灯ちゃんは曇るし、明宏と翼が出てきたり緊迫感のある回だったものだ。
そして次が第20話、「ケセドのもとに集え!」とかそんな感じのサブタイトルである。
前回登場した翼と明宏との合流回であり、ケセド派の大天使「ティファレト」が登場するのもこの回である。
彼女と連係を取り、いつの間にかフェアリーバーストを習得していた翼の働きにより、再集結したセイバーズは友情パワーで明宏の奪還に成功する。
ヨッドから脱出したセイバーズ一行はその足でケセド派の聖獣たちと共に慈悲の島「エル」へと向かい、灯の中にいるケセドはティファレトと力を合わせて発動した広域テレパシーにより、フェアリーワールド全土に対して演説を行ったのである。
不倶戴天の敵「アビス」を倒すには人間との協力が必要であること、人間も悪い者ばかりではないこと。そして慈悲の大天使ケセドと美の大天使ティファレトは王命には従わぬと──全世界に向けてケテルに対する反意を訴えたのだった。
そして次が第21話、サブタイトルは忘れた。
しかし、内容は覚えている。この回は、前回ケセドの演説でも触れられたアビス打倒の為の「異能の真実」について明かされた回だった。
ケテル派の会合シーンや炎たちの作戦会議等、聖獣サイドの情報が粗方開示される箸休め的な説明回である。灯ちゃんとティファレト様の入浴シーンもあるぞ。
そこで明らかになったのが、フェアリーワールドが今非常に不安定な情勢だということだ。
アビスの被害に対してサフィラス十大天使の力をもってしても対処が追いつかなくなっており、最悪の場合は聖獣たちによる人間世界への移住も考えているとケテルが語った。
そもそもアビスを完全に止めるには人間と協力する必要があり、その為に聖龍が人類に与えたのが「異能」と呼ばれる力だった。
しかし人間という種族に失望し、心から軽蔑しているケテルにとってそれは理解し難い決断だった。
『父よ、何故なのだ……? 何故……を見捨てた貴方が、今更人間などに……』
虚無感バリバリの眼差しでそう呟くケテルの顔のアップを最後に、この回は締められる。
超絶イケメンで声も渋カッコいいのに全く覇気を感じず、常に死んだ目をしているラスボスの容姿が明らかになった回でもあった。
あと、ところどころボソボソ話していて彼の台詞はよく聞き取れなかった記憶がある。そんなラスボスのキャラには、子供心に不気味さを感じたものだ。
一方、五人揃ったセイバーズは聖龍アイン・ソフとの謁見を果たす為、世界樹「サフィラ」へと向かうのであった。
そして次の第22話がサフィラス十大天使界のアイドル、「マルクト」様ちゃんの登場回である。
ティファレトたちケセド派の聖獣の力を借りて、世界樹へと向かうセイバーズ御一行。
その道を阻むのは、「王国」の大天使マルクトと再び現れた「知恵」の大天使コクマーだった。
セイバーズ五人は二手に分かれ、コクマーを翼、明宏、長太の三人が、マルクトを炎と灯ちゃんがそれぞれ相手取る。
そこで遂に本気を見せたコクマーの圧倒的パワーに僕は驚き、マルクトの絶対領域に性癖を狂わされたものである。
マルクトはケセド──灯ちゃんに対して執拗に攻撃を仕掛け、人間にいかほどの価値があるのかと問い掛ける。
しかしどれほど末妹のなじりを受けようと人間の可能性を信じ抜いたケセドと、そんな彼のことを信じ抜いた灯ちゃんの心が一つになり、奥義「慈悲の戒律」を発動する。灯ちゃんの髪がぶわーっと青色に変わった時は子供心に「ふつくしい……」と呟いたものである。
そうして覚醒した灯ちゃんと炎の合体攻撃により、セイバーズは見事マルクトを打ち破るのだった。
当時はマルクト様ちゃんの見事なやられっぷりに萌えて燃えたシーンだったが、今視たら印象が変わる回かもしれない。まあ、視れないのだが。
──以上がおそらく、この世界では今後も起こらないであろう大まかな原作の流れである。
第23話からは僕たちが世界樹に着いてから語ろう。その辺りのことは、まだ原作知識が使えるかもしれないしね。
しかしアレだね。
ここまで振り返ってわかる女神様っぽい人の原作ブレイクぶりよ。やっぱつえーなオリジナル要素。
もちろん僕たちの前に現れた「深淵のクリファ」などという存在は原作には影も形も無いし、ティファレトの立ち位置なんて全く違う。あーやっぱりケセド君引き合わせたかったなぁ……僕はケセド×ティファレトのカップリング推しなので、その期を逃したことを滅法悔やんでいた。まあ、生きていればいくらでも機会はあると思うが、是非とも生のケセティファを拝みたいところである。ああ、でもマルクトとティファレトに挟まれるケセドも見たいかもしれない。
まったく、チートオリ主はやること多いぜ。
そして改めて感じる、原作アニメのコクマー優遇と女神様っぽい人のマルクト優遇ぶりである。
僕はコクマーもマルクトも好きだからいいんだけどね、サフィラス十大天使は十人もいる以上、どうあっても扱いに格差ができてしまうものなのだ。
だが、そこを何とかするのがSS作者の見せどころである。僕は女神様っぽい人にいい感じの着想を与える為に、これからは炎たちだけではなく敵サイドの見せ場にも気を付けていきたいと思う。
さて、その点これから会いに行く「理解」を司る3の大天使ビナー様は、原作アニメ未登場のサフィラス十大天使の一人である。
どんな人なんだろうなー……ケテル派の会議シーンですら、彼女の存在は影も形も無かったのである。最近性別が女性であることを知ったぐらいであり、彼女については言わば公式設定だけはある「女神様っぽい人の準オリキャラ」と言っていい存在だった。
彼女の他にはもう一人、「基礎」を司る「イェソド」という9番目の大天使も作中未登場に終わっていたが、こちらは画面外でアビスと戦っているとコクマーさんから手厚くフォローされていたものだ。何ならケテルからも手堅い奴と高く評価されていた。
女神様っぽい人のことだから、そちらも僕たちの前に出てくるかもしれないね。
ん? そういうオリキャラの追加はいいのかって? まあ、僕はいいと思うよ。
公式が設定だけ出したキャラを、SS作者が独自解釈で肉付けしていくのは二次創作界では割とよくある。
そういったキャラは読者視点ではまっさらな印象から始まるオリキャラと違って、原作でも立場自体は確立されているのでキャラ付けに説得力があり、新規で追加してもある程度受け入れやすいのである。この理屈は正直僕も不思議に思っている。
流石にフェアリーセイバーズで言うところのビナー様ぐらい極端な例はあまり無いかもしれないが、名前とサフィラス十大天使の一人というポジションだけでも公式が出していたのなら、それは半分以上原作キャラと言っていいだろう。
「理解の大天使ビナーって、どんな人だろうね。みんなはどう思う?」
「慈悲の不死鳥」に乗ってエロヒムへ向かう空路の道中、僕たちはケセド君の背中に作った休憩室の中で、思い思いに寛ぎながら時間を潰していた。
……と言っても、本当に寛いでいたのは僕と、僕の膝の上で丸くなっているカバラちゃんだけだったが。
長太は汗水垂らしながら筋トレ中。炎とメアはそれぞれ仲良く二人で瞑想し、精神統一を行なっている様子だった。なので僕一人退屈である。
世界樹サフィラの横を通りすぎる時はその大きさと神聖さを前に皆して目を輝かせたものだが、峠を過ぎるとどうしたって時間が余るのである。
そんな中で僕はカバラちゃんの毛繕いをしたり、メアちゃんの衣装を裁縫で直してあげたりと時間を潰していたりしたが、それらも終わり流石に手持ち無沙汰だったので、僕の考察に皆を巻き込むことにした。
そろそろエロヒムが見えてくるだろうしね。コクマー辺り邪魔しに来るかなと思っていたが、不気味なほど順調な空旅だった。
「さあなぁ……コクマーは怒りん坊将軍だろ? ネツァクのおっさんは熱血ヒーローって感じで、ティファレトは冷たいねーちゃんだったな。マルクトはクソガキ」
「クソガキは言い過ぎだ。子供っぽいとは思ったが……」
「みんな優しい人……だと思う。もちろんケセドも」
『ありがとう、メア』
ふむ……セイバーズの皆さんから見た今までのサフィラス十大天使はそんな印象だったのか。
うん、原作との立ち位置が180°変わっているティファレト以外は、彼らが受けた印象も概ね僕と同じようだ。
それらの情報を鑑みると──自ずと、ビナーのキャラ付けもある程度絞れてくるというものだ。
そうだね……僕は眼鏡を掛けた知的美人と見るね。そのタイプのキャラはまだ出てきていないし。
これもメタ的な話になるが、創作においてメインキャラのキャラ被りとはなるべく避けたいところである。
特に小説という媒体上、既存の登場人物と似たような性格だと一堂に会した際、会話シーンで誰が喋っているセリフなのかわかりづらくなってしまうのはよろしくなかった。
ライトノベルでは特徴的な語尾を付けて喋るキャラが多いのも、おそらくその為だろう。まったく、世知辛い話でザウルス。
「そうだ、ケセドならなんか知っているんじゃないか? そのビナーって奴のこと」
サフィラス十大天使のことはサフィラス十大天使に聞くのが一番だと判断した長太が、1000回目の腕立て伏せを終えるなりケセドに話を振る。
こういう時、彼の存在が頼りになる。同行者が増えた分、ホドの時のように僕の物知り解説役ポジションが再び揺らいでしまっているのは非常に困るが。
そんなケセドは、飛行速度を維持したまま長太の問いに答えた。
『ごめんね……彼女の島は離れているし、僕もビナーとはちゃんと話したことがないんだ。どうにも彼女は昔ケテルと喧嘩したみたいで、大天使の会議にも全然来ないし、みんなの中で一番マイペースなのは間違いないと思う。エロヒムに住む島民たちの評判を聞くに、本質的には優しい人なんだろうけどね』
「なんだそりゃ……あ、でもいいのか! ケテルに従わねぇってことは、元々率先して逆らってるってことだろ? 頼もしいじゃねーか」
『味方にできれば、頼りになる存在なのは間違いないと思うよ。彼女は僕たちの中でも、王に次ぐ二番目を争う実力者だからね』
「ん、じゃあ俺たちが今まで会ってきた中だと一番強ぇのか?」
『コクマーと同じぐらいかなぁ。ケテル、コクマー、ビナーの三人は、僕たちの中でも抜きん出た力を持っているんだ。僕たちより一回り年上だし』
ほえーマジか……そんなに強かったのね理解の人。
まあ序列三番目のお姉ちゃんだもんな。サフィラス十大天使は必ずしも上から順に強いというわけではないが、ケテルとコクマーが頭一つ抜けているのは解釈一致である。そこに食い込んでくるとはビナー様……やはり盛ってきたな、女神様っぽい人!
『性格で言うとそうだね……神出鬼没で、自由気ままにふらっと現れては消えていく。聖獣観察や人助けが趣味の謎めいた女性で、詩的な言い回しをよくしてて……髪の毛は黒い。ああ、エイト様に似ているかも』
「お? マジか!」
えっ。
新キャラの被り対象が、僕──だと……?
馬鹿な……正気か女神様っぽい人! 僕はオリ主だぞ!?
エイトちゃんは戦慄した。
オリ主と準オリキャラのキャラ被りすら恐れない、女神様っぽい人の熱い勇気に。やはりガチ勢は格が違うと言うのか……
……いや、違うな。
今回の場合、被っていたのは僕の方だ。
僕の意味深ミステリアスムーブが、たまたま既存のキャラと被っていたパターンである。
やっちまったなぁ僕……まあ、過ぎたことだ。僕はオリ主としてのこの強キャラムーブを気に入っているし、今さら言っても仕方ない。
ビナー様はミステリアス美人、僕覚えた!
「早く会ってみたいよね」
「キュー」
カバラちゃんのもちもちした頬を両手でムニムニとしながら、僕は「ねー?」と呼びかける。
こうしているとテディベアみたいだな。そう思いながら僕は、もふもふと戯れることでエロヒムまでの時間を潰した。