TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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いたいけな少年の初恋をTSオリ主お姉さんが頂いていくのいいよね……

 警察からの追っ手をやり過ごしながら、今日も今日とて怪盗ノートを書き綴る超高校級のオリ主ことT.P.エイト・オリーシュアちゃんです。

 

 ファーストコンタクトの際、炎君の前に白昼堂々と姿を現したせいか、警察の間では既に僕の姿は周知されているらしい。流石は正義の男暁月炎。彼はあの後司令部としっかり情報共有してくれたようで、随分犯行がやりにくくなってしまった──と言いたいところだが、そこはチートオリ主たる者の面目躍如だ。

 一部の人間に僕の正体がバレたところで、問題なく活動を続ける方法は幾らでもある。例えば怪盗キャラの伝家の宝刀、超変装術を手に入れればね。

 

 この世界に蔓延る異能は実にバリエーションが豊富であり、町を出て一日ぐらい探し回れば変装におあつらえ向きな異能「擬態」を持つ異能使いがいることがわかった。レアな能力を持つ異能使いほど、近隣住民の噂になっているものなのだ。

 

 そんな噂話を元に探し出した異能使いは、僕が今まで盗んできた相手とは違い、齢十歳ぐらいの一般ショタっ子だった。レア能力を持っていること以外はどこも他と変わらない、至って平凡な少年である。

 そんな善良な子供から異能を盗むのは、流石の僕も少しだけ良心が痛む。

 

 しかもその少年、夕暮れ時にポツンと一人公園のブランコで俯いていたのだ。何か悩み事をしている様子は、誰が見てもわかるほどに元気がない。

 

 うーん……あのような子供に危害を加えるのは、非常にマズい。何がマズいかって、そういうのは踏み台転生者やかませ犬のムーブだからだ。僕は彼らと同じような行いをして、自ら進んで自分の格を落としたくはなかった。

 清く正しいオリ主として、子供には極力優しくした方がいい。あわよくばその対価に異能を頂きたいという下心はあったが、ここはオリ主らしくお節介を焼いてみることにしよう。

 そういうわけで僕は彼の隣のブランコに腰を下ろすと、少年の顔を覗き込むように声を掛けた。

 

「もし。こんな時間にどうしたんだい? そろそろ夜が訪れるよ」

「……え」

 

 その時の僕はいつもの怪盗衣装とは異なり、簡単な変装で少しおしゃれな女子大生みたいな服装をしていた。

 普通ならびっくりして逃げられたところかもしれないが、僕の外見が親切な美少女である以上、そうそう第一印象から警戒心を与えてしまうことは無い。やっぱ強ぇぜ……美少女補正!

 明らかに訳ありの様子の少年は、そこで初めて僕の存在に気づいたようだ。逃げるどころかそもそも逃げる気力すらないようで、思い詰めた顔で俯いている。

 

「孤独な夜は危険だよ。君のような少年がこんな場所で俯いていたら、いつ誰が襲いに来るかわからない」

「……うん、わかってる……」

 

 時系列的に悪の組織PSYエンスは滅んでいるが、それでも前世の日本ほど治安は良くないのだ。閑散とした夜中の公園に一人でいるのは危ないというのは、割と本心からのお節介ではあった。

 

「悩み事かい?」

「っ!」

「わかるよ。そういう顔をしているからね。差し出がましい申し出だけれど、良かったらお姉さんに話してみないかい? 時にはお父さんやお母さんよりも、赤の他人の方が言いやすい話もあるだろう」

「あ……うん……」

 

 儚く微笑んだ美少女スマイルで彼の緊張をほぐしてやると、少年はぽつり、ぽつりと、時に涙を浮かべながら語り出した。

 

 少年、翔太君は「擬態」の能力を持つ異能使いである。望む姿に完璧に擬態することができるというその力は、捜査官や工作員の誰もが羨むレア能力だ。少年自身もこの異能を誇りに思っていて、以前までは憧れのヒーローや怪獣に擬態したりしてよく友達と遊んでいたらしい。

 

 しかし最近、能力を使うと「頭の中がおかしくなる」のだと言う。

 

 自分ではない誰かに擬態する際、身体だけではなく心までも他の誰かになってしまう感覚がその心を襲う。このまま能力を使っていたら自分が自分でなくなる気がして……酷く、恐ろしいのだと語った。

 

「ふむ……」

「……昔は、そんなことなかったのに……変なんだ。変身したときも、変身したあとも……僕が誰なのかもわかんなくなってきて……怖いんだ……!」

 

 語れば語るほど語気が荒くなっているのは、両親にさえ言い出すことができなかった悩みだからであろう。確かにそれは、同じ能力を持つ者でなければ理解するのは難しい悩みかもしれない。

 察するに、それは彼の異能が幼少期よりも強く成長しているのが原因だと思う。異能は血液のようなものだと前に言ったが、肉体の成長に従って異能もまた強く成長していく。

 彼の「擬態」という異能は、以前は見た目だけだったのが細部にまで及ぶようになっているということだ。これは噂以上に、強力な力の持ち主なのかもしれない。

 

「こんなことなら……こんな能力、いらない……!」

「…………」

 

 何者にでもなれるが故に、「本当の自分がわからなくなる」というシリアスな悩みだ。日常的にロールプレイしている僕も似たようなものかもしれないが、僕は精神が成熟した大人……うん、大人だし、一定の線引きを弁えているつもりだ。

 その点、彼はまだ幼い。自分自身のアイデンティティが定まっていないが故に、演技と素の自分の境界がわからなくなっているのだろう。

 そんな彼の為に僕がしてあげられることは……思いつかなかったので、とりあえずハープを鳴らすことにした。

 

「?」

「音楽はいい……挫けそうになった時、荒んだ心を癒してくれる」

 

 彼が思いの丈を打ち明けている間に怪盗ノートへの書き込みを終えた僕は、シルクハットとマントを身に着けると即座にミステリアスな怪盗衣装へと早替わりする。異能とは関係ない僕自身の早着替え技術だ。替えるのは上着だけだったから、そう難しいことではない。

 何故今になって怪盗モードになったのかって? その方がカッコいいからだ。

 もちろん、今の少年の話を聞いて盗むのに遠慮が無くなったのもある。

 

「異能はね……心なんだ」

「……え?」

 

 まあ真剣に悩んでいる少年の姿がお労しくて見ていられなかったのも事実なので、僕はこのまま親切なお姉さんムーブを続けることにした。

 

「異能は心の持ち様で、その力を正にも負にも変えていく……キミがその力を正の側へと傾けたいのなら、今一度その力と向き合うことが大切かもしれないね」

「こころの、もちよう……?」

 

 それは本当である。ソースは原作アニメ。自分自身の異能との向き合い方一つで、その力の性質は幾らでも変化する。まあ、作中でそれができたのは主人公たち一部の人間だったけど嘘ではない。

 

「例えばキミの言うように、一度その力を失くしてみるのも一つの手だ。丁度ここに、異能を盗む悪いお姉さんがいることだしね」

「怪盗……!?」

「ご名答」

「わぷっ」

 

 彼が要らないと言ったのをいいことに、怒涛の攻勢を畳み掛ける盗っ人の鑑である。そこで彼も僕の正体に気づいたらしく、順調に怪盗オリーシュアの名前が広まっているようで何よりである。

 僕は彼の反応に気を良くしながらブランコから立ち上がると、呆然とする少年の顔と目線を合わせるように屈み込み、ハグを交わしながらその頭を優しく撫でる。一人孤独と戦っていた少年のことを労るように、慈しむように。

 

「ボクの名前はT.P.エイト・オリーシュア。キミの異能、頂戴するね」

「あ……」

 

 ノートの完成に犯行予告、そしてこうして彼の身体と接触したことで発動の条件が揃った。まあ接触するのにハグまでする必要は無かったのだが、その場の勢いという奴だ。

 僕の翠色の瞳が輝き、盗みが成功したことを確認する。大人のお姉さんの抱擁という天国と異能の強奪という地獄を同時に与えるとは、我ながら鬼畜の所業だぜ。

 堪忍してこの胸から引き離してやると、翔太君はあどけない顔を赤らめ、次に盗まれたことに気づいたのか、その目を大きく見開いた。

 

「ああ……ああ……っ」

 

 ……そんな顔するなよぉ。こっちが悪いことしたみたいじゃないか。

 いや、悪いことしているわ。ごめん翔太。だけど君にとっても悪いことばかりではない筈だし、どうか人間不信にはならないでくれ。

 

「少しはスッキリしたかい? だけどキミの異能のこと、そう邪険にしないであげてほしい」

「……っ!」

 

 僕が盗んだことにより異能が彼の身体から無くなったことで、副作用的な反応も無くなり頭の中がスッキリした筈……と思うんだけど、実際どうなのかは知らない。経験無いもん。

 ただ、今はスッキリしてもその内異能が戻ってきた時にどう感じるかは不明だ。デリケートな問題なので偉そうなことを言えた義理ではないが、どの道彼と異能は切っても切れない関係なので、上手く受け入れて乗り越えてもらいたいものだ。

 

「それもまた、キミがキミである証なのだから」

「待って!」

 

 待たない。怪盗オリ主はクールに去るぜ。

 マントを翻し、丁重に少年の手を払う。

 

「大丈夫、キミの力は応えてくれるよ。キミがキミであろうとする限り……その想いがある限り」

「怪盗……さん……」

 

 いい感じの説法を聞かせると翔太君の足音が止まり、追い掛けてこないことに安堵する。

 目当ての異能を頂いた以上、長居は無用だ。早速公園の外が慌ただしくなり、僕はやれやれと肩をすくめた。

 

「いたぞ! 怪盗オリーシュアだ!」

「奴め、とうとう子供まで毒牙に!」

 

 やっべ、思ったより早いな警察の動き。前回は無能だと言ったが、この対応の早さは彼らのことを少し見直した方がいいかもしれない。

 しかし僕はチートオリ主だ。炎たちならまだしも、名の無い県警に捕まってやる気は無い。

 

「では、ご機嫌よう」

 

 シルクハットを外して少年に振り向き、一礼。

 怪盗ノートを取り出し、いつもの異能テレポーテーションを発動。公園から他の町まで一気にオサラバだ。

 

 

 

 

 これは余談だが、あの後一週間ぐらい経って無事に異能が復活した翔太君は、前のようなアイデンティティの崩壊に悩まされることはなくなったらしい。

 それは僕に異能を取られ能力が使えなくなった期間、冷静になった頭で自分自身の在り方とか、異能に対する考え方とかを思い直し、自分なりに受け止めることができたのだそうだ。

 鬱になっている時は思考が回らないからね……だけど自分の力で乗り越えてみせた彼は、まだ幼いのに立派な子である。

 

 ……で、その後これまでより遥かに上手く擬態の異能を使いこなせるようになった彼は、どういう思惑か「捕まえたい人がいる」と警察官になることを決意。

 十数年後には公安お抱えの若手捜査官として大活躍することになる──らしいから、世の中何が起こるかわからないよね。

 

 しかしそれは残念ながら、オリ主たる僕が絡む物語とは別の番外の物語(サイドストーリー)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういう経緯で、変装に最適な「擬態」の異能を手に入れた僕は、その後の数日も効率的に怪盗ライフを送ることができた。

 擬態した姿で直接情報収集を行いつつ捜査の目を攪乱し、ターゲットに近づき鮮やかに異能を盗む。参考文献は超メジャー作品である往年の大怪盗たちである。僕は彼らほど頭は良くないが、足りない頭脳は異能で補うことができる。

 チートオリ主が何故強いかって? チート能力を持っているからさ。

 「擬態」で姿を変えてターゲットの元へ忍び寄り、テレポーテーションで離脱。大体この二つと千里眼があれば、警察相手にピンチになることもなかった。おかげでその間、原作介入の準備を滞りなく進めることができた。

 一向に捕まらない僕に増え続ける被害者の数、それと僕に聖獣関係者である疑いが掛かったことでとうとうセイバーズも動き始めたようだが、残念ながら既に時間切れだ。

 

「……来たね」

 

 原作アニメとの時系列を整理することで「その時」が訪れる日時を正確に把握していたボクは、街灯やイルミネーションが照らし出す煌びやかな夜景の中、一人アケボノタワー(通天閣的な建造物)の頂上に佇み、夜空を見上げてそう呟いた。

 定番の「馬鹿な……早すぎる……!」という台詞もいいが僕は何でも知っている感じのチートオリ主である。例えそれが予定通りであろうとなかろうと、どんな時でも余裕を見せつけるのが僕の流儀だった。

 

 そんな僕の視線の先──雲一つない快晴の夜空に、扉が開いた。

 

 この地球と聖獣の世界「フェアリーワールド」をつなぐゲートである。それは「フェアリーセイバーズ」における異世界編開始のワンシーンだった。

 

 

 話の内容はこうだ。

 

 直径50メートルに及ぶ異次元のゲートから、突如現れた巨鳥型の聖獣。

 炎たちは「また聖獣による強襲か」と身構え出動するが、巨鳥型の聖獣はもう一体の天使型の聖獣「コクマー」に襲われ撃ち落とされた。彼らは聖獣同士で仲間割れをしていたのだ。

 その場に残った天使型の聖獣は地上人類に向かってテレパシーを放ち、宣戦布告する。「お前たち人間は神の怒りを買った。心して我らの裁きを受けるがいい」とか、そんな感じの台詞である。

 人間とコミュニケーションができる聖獣が初めて地球に現れ、さらに明確な敵意を表明して町を焼き始めたのだ。当然、炎、長太、翼のいつもの三人が応戦するわけだが、天使型の聖獣は今まで彼らが戦ってきた相手とは段違いの強さであり、セイバーズは追い詰められていった。

 

 そこで、彼らを助けたのがこの物語のメインヒロインである炎の幼馴染「光井 灯(みつい あかり)」である。第一クールでの彼女は主人公の日常を象徴する民間人のヒロインであり、この世界では珍しく異能を使えない無能力者の人間だったのだが、第二クールからは思いっ切り本筋に絡んでくる。

 彼女は町の避難誘導に従っていたが、突如として頭に響く「助けて……」という声。その声に呼び出され、灯が向かった先にいたのは──先ほど天使型の聖獣に撃ち落とされた巨鳥型の聖獣だった。

 

 その巨鳥型の聖獣こそが異世界編のキーパーソンであり、前に話した穏健派の聖獣「ケセド」である。

 

 ケセドは天使型の聖獣「コクマー」の一撃を受け死に瀕していたが、灯と契約し、融合することによって生きながらえることができると言う。

 狼狽える灯だが、契約すれば聖獣の力を使えるようになり、追い詰められた炎たちを助けることができるというケセドの言葉を信じ、切羽詰まった状況から彼女は契約に至る。

 そんな魔法少女的な展開で誕生したのが、セイバーズの追加戦士光井灯である。

 異能使いとも聖獣とも違うフェアリー戦士。その身体に聖獣ケセドを宿した灯は炎たちのピンチに駆けつけ、四人掛かりで辛くも聖獣コクマーを撃退したのだった。

 

 

 

 ……で、セイバーズ一行は灯の身体に宿った聖獣ケセドの口から、聖獣世界の神様が総攻撃の準備をしている旨を聞くのがこの回の流れである。

 つまり、アニメ「フェアリーセイバーズ」のターニングポイントとなるめっちゃ重要な回だ。録画の準備はできている。

 流石の僕も緊張してきた。ただでさえそういう重要な話である上に、今回は炎以外のセイバーズへのエイトちゃんお披露目回でもあるからだ。

 この回で彼らが戦う天使型の聖獣「コクマー」は、新しいステージの敵キャラとして強烈な存在感を与えたものである。最強クラスの異能使いが揃って敵わず、追加戦士の加入でようやく撃退できたのだからその強さがよくわかるだろう。

 

「オリ主らしく圧倒したいところだけど、マー君強いからなぁ……」

 

 まさしく、僕のデビュー戦に相応しい相手と言える。元々今日まで盗んできた異能の多くは、彼を仮想敵として選別した能力だったのだ。僕の介入時期が第二クールであることを知った時、特に憂鬱を感じた存在である。

 

「だけどアカリンの覚醒シーンが見れるのは嬉しいね。リアル魔法少女の変身シーンって、本当に裸だったりするのだろうか……」

 

 そんなことを呟きながら、僕は開いたゲートから現れるであろう二体の聖獣を待ち構える。

 どこで介入するかは臨機応変に対応したいが、基本原作アニメのファンである僕は、いざその時が来るとなると観に徹してしまいそうだった。

 

 そんな僕が見守るゲートから、それは現れた。

 

 八枚の翼を持つ美青年の姿をした天使型聖獣「コクマー」が。

 ゲートの向こうから一体だけ(・・・・)出てきた彼は、殺意を込めた光線を真っ先に町へと放った。

 

「えっ」

 

 

 馬鹿な……(町を焼くのが)早すぎる……!

 

 えっ、なんで? なんでコクマーだけ!? ケセド一緒じゃないの!? ケセド君どこ!?

 

 それは記憶違いか、それとも僕の原作知識が間違っていたのか。

 或いは僕の存在か、メアの存在が引き起こしたバタフライエフェクトか。

 ともあれ目の前で起こった事象は、原作の展開とは明らかに異なるものだった。

 

 

 

 

 

 




 少年少女の初恋を奪うTSオリ主のSS増えてほしい(願望)
 その後少年少女が調子に乗るSSは減ってほしい(穏健派)

 朝霧細雨殿が夕暮れ時の悪いお姉さんを3Dファンアート化してくれました。これは性癖こわれる


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