TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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今明かされるオリ主の真実……!

 風岡翼を救ってほしい──意味深にそう告げられた後、炎たちはビナー様の指示を受けたザフキエルさんによって翼の居場所へと案内されていった。

 どうやら翼は島内でもこの聖都から離れた場所にいるらしいが、ケセドの背中に乗っていけばひとっ飛びだろう。

 僕が一時的に彼らから離れても移動に支障は無いわけで……だから僕は、直後に掛けられたビナー様の要求に従うことができた。

 

 

『ああ、エイトと言ったね。君とは一対一で話をしたい。少しだけ残ってくれないかな?』

 

 

 ビナーから直々のご指名、二者面談の要求である。

 いかにも意味深というか、怪しい雰囲気だった。彼女の格好自体ダーク系なので尚更胡散臭い。好きだけど。

 炎たちは彼女の申し出に訝しんでいる様子だったが、僕はそんな彼らに手をひらひらさせながら言ってやった。

 

「……というわけだから、みんなは先に行ってて」

「あ、ああ」

「ツバサのこと、よろしくね」

「エイト……」

 

 散々友好的な態度を見せた手前、ビナー様も良からぬことをする気はないだろう。

 仮に何か起こったとしても、僕はチートオリ主なので何とでもなる。

 別れ際にはメアちゃんが心配そうな眼差しを向けてきたので、「心配は要らない」と言い切り、僕は彼らを見送ることにした。

 

 僕からしても、原作アニメ「フェアリーセイバーズ」に登場しなかったサフィラス十大天使の一柱、ビナーとはじっくり話をしたいと思っていた。

 

 翼のことは気になるが、彼女の申し出は渡りに船だったのだ。

 

『さて……』

 

 ザフキエルさんの先導によりセイバーズ御一行が退場した後、この部屋の周りから人の気配が消えたことでビナーはおもむろに玉座から立ち上がると、適当な位置に手をかざして聖術を発動した。

 その聖術が何か、似たような能力を持っている僕にはわかる。

 異空間から荷物を引っ張り出す力──アイテムボックスである。

 彼女が取り出したのは六畳ぐらいの大きさの質素な絨毯と、一台のちゃぶ台だった。向かい合う位置に一枚ずつ、座布団まで設置している。

 

 なんだい君、ここに座れと? いいじゃない。

 

「おや、まさかこの世界で目にするとはね」

『いいだろう? 人間のデザインセンス──特にニホンジンの奥ゆかしさは、とても興味深く思っている。ま、彼らの文化については君の方が詳しいか』

 

 明らかに西洋風な宮殿の中で、それも玉座の間にいかにも日本庶民的なちゃぶ台と座布団を召喚したのである。

 何と言うか、フェアリーワールドの世界観を無自覚に蹂躙している気もするが、最初にこの街のユニークな建造物を見ていたのが功を奏したのか案外不快感は感じなかった。いい感じにIQがバグらされたのだろう。

 寧ろ日本の文化をリスペクトしてくれるのは、日本人として嬉しかった。

 そんな彼女はパンプスを脱いで和風の絨毯に上がると、座布団の上に脚を崩しながら座り込み、ちゃぶ台の上を軽く叩いて呼び掛けてきた。

 

『少し長くなりそうだからね。座って話そうよ』

 

 合点承知。

 僕も彼女に従ってブーツを脱ぐと、向かい側の座布団の上に腰を下ろし、ひと心地つくことにした。

 すると、ビナーの肩に乗っていたカバラちゃんが颯爽と飛び出してちゃぶ台の上に乗り込むと、その場で尻尾を丸めて鎮座した。

 そうだね、君がいたわ。これでは二人きりの面談ではなく、二人と一匹きりである。

 

「日本のお茶とお菓子もあるけど、食べるかい?」

『本当かい!? 是非頂きたいね』

 

 おうよ、せっかくちゃぶ台を挟んでいるのだから、上に乗っけているのがカバラちゃんだけでは寂しいだろう。冬だったらこたつとミカンを用意していたところだ。

 僕はアイテムボックスから日本製の駄菓子を盛り合わせたバスケットを取り出すと、それを台の上に置いてあげた。ご自由にお食べくださいという奴だ。

 

『おお! これが地球の駄菓子というものかー!』

 

 日本でお馴染みの10円菓子や20円菓子を見たビナー様は、ベール越しからでもわかるほど興味津々な目をしているのがわかった。

 クールで掴みどころの無い性格の美女が、子供みたいに目をキラキラさせるのっていいよね。顔は見えないけど、その様子はとても微笑ましかった。

 僕も食べたかったので彼女の興味を引く為だけに出したわけではないけど、会話の種になるなら何よりである。日本知識でマウントも取れたし万々歳だ。

 ついでに出したコップの中にペットボトルから緑茶を注いであげると、彼女の分も横に置いてやった。

 おうおうカバラちゃん、「私の分は?」と言いたげに物欲しそうな目をしているね。いいだろう。ゲドゥラーでハーピィ族のおばちゃんから貰った、このチュールっぽいおやつをあげようじゃないか。

 

 ビナー様がな!

 

 

『お、おー……おおお!』

 

 

 ビナー様が恐る恐るチュールを差し出すと、カバラちゃんは両手の肉球で袋を掴みながら乳瓶を啜るようにモキュモキュと食らいついていた。かわいい。

 カバラちゃんはご満悦。愛くるしい姿にビナー様も感動しており、無邪気に喜んでいた。

 なんだよビナー様。さっきは長年の付き合いみたいに語っていたくせに、チュール一つあげるのにまるで未知なる挑戦みたいじゃないか。

 

「今まで、食べさせてあげたことなかったの?」

『うん。カーバンクルの主食は果物だからね。猫用のおやつも好きだったなんて、初めて知ったよ。ね? カバラちゃん』

「キュー!」

 

 なるほどね。僕としては「カーバンクルも猫も似たようなものだろう」と試してみたのだが、その発想は僕が地球人的な感性を持っていたからこそだったようだ。

 

 ……あれ? もしかして僕、今までこの子に対して失礼なことしてた?

 

 ……まあいっか、チュールを食べるカバラちゃんいつも幸せそうだし。

 人間だって、猿の好物であるバナナが好きなのだ。そう思えば、彼女にチュールをあげるのも崇高な使命を持つ聖獣への無礼には当たらないだろう。

 

 

『私は「理解」の名を冠してはいるが、ご覧の通り何でも知っているわけではない』

 

 

 僕がカバラちゃんの食事風景にほっこりしていると、ビナーが語り出した。

 理解の大天使様だからってカバラちゃんの好みを理解していなかったことに知識マウントを取れたと思っていたが、あっけらかんとした態度を見るに彼女自身はプライド的などうこうは持ち合わせていないらしい。

 見た目通り、マルクト様ちゃんと違って大人っぽいようだ。いや、人間とは桁違いの年数を生きている偉人さんに言うことではないか。

 

『そう、私が理解しているものなんてほんの一握りに過ぎない。貴方を見ていると、つくづく身に染みるよ』

「ボク? それは、どういう意味かな?」

 

 カバラちゃんが手持ちのチュールを全て食べ尽くすと、彼女は空きの袋をちゃぶ台の上に置くなりこちらへ向いてそう言ってきた。

 「理解」のことを言うなら、カバラちゃんの好物より僕の存在諸々の方が気になるのだろう。だからこそ、僕と二人きりで話すことをご所望したと見受けられる。

 カバラちゃんのおかげで雰囲気が和やかになると、ビナーが本題を切り出した。

 

 

『T.P.エイト・オリーシュア──種族は不明。年齢も不明。違法異能研究組織PSYエンスの壊滅から約一年後、地球では異能怪盗として活動するものの、それ以前の経歴も一切不明』

 

 

 不明だらけじゃないか僕。いやあ参ったねー。

 謎めいた美少女すぎて申し訳ない。「理解」の大天使様が理解できないぐらい、僕の立ち回りが完璧すぎたと言うかー? かーっ、つれーわ。

 

 僕はこの時ほど、ミステリアスなオリ主ムーブを貫いて良かったと思うことはない。

 そうそう、僕はこうやって、作中の大物人物に「何者だ!?」と一目置かれる存在になりたかったのだ。

 最近はこのキャラ設定が足を引っ張る状況も多かったが、それ以上のリターンがこれである。

 ああ、エラい人から向けられるこの視線が気持ちいい。僕は内心してやったりとほくそ笑みながら、外面的には彼女の言葉を凜とした態度で受け止めていた。

 

「随分調べ上げたね。ツバサから聞いたのかい?」

『ざっくりとね。「わからないことがわかること」は、理解への第一歩だからね。そういう意味でも彼を確保できたのは嬉しかった。ニホン文化も知れたし』

「じゃあ地球の建物を真似したのも、人間のことを理解するためだったのかい?」

『そういうことになるね』

「勤勉なんだねビナーは」

『ふふ、照れるね』

 

 わからないことを認めなければ、何も理解できないということか。知ったかぶりは一番駄目だという真っ当な考えである。

 まあ、僕だったら知ったかぶりでその場を乗り切った後、後で調べて知識を補完してから「最初から知っていましたよー」とアピールするのだが。その方がカッコいいし。

 社会ではもちろん彼女の考え方の方が大人だし、大切だと思うが、オリ主的には「わからないことを認めないこと」で物知りキャラを維持できると考えている。もちろん、相手に「コイツ博識ぶっているけど何も知らねぇな」と思われた時点で威厳が地に落ちるので、そこはエイトちゃんの業の見せ所だが。

 

 

『エイト、私は君のことを理解したい』

 

 

 お、愛の告白かな。

 ……と言うのはもちろん冗談で、僕は彼女の言葉に困ったように笑いながら駄菓子を口に入れた。

 やっぱサラミ味は美味しいね。喉は渇くけど、それは10円菓子共通の話なので気にならない。

 

 

『君の仲間たちは君に気を遣っているのか、同行している間は細かな詮索を避けていたようだけど……私は今日が初対面だから遠慮しないよ? 訊いていいかな、君のこと』

「いいよ、ボクに話せることまでなら明かそうじゃないか」

 

 

 もちろん、オリ主諸々のメタな事情は一切明かす気は無いが、こんなこともあろうかと、それっぽく誤魔化す為のカバーストーリーはいくつか考えてきていた。

 せっかくこうして一対一の面談をセッティングしてくれたのだ。

 僕は澄ました表情を崩さないまま、堂々とした態度で向き合った。

 

 するとビナーから、ベール越しから強く睨まれているような視線を感じた。

 

 

「……どうしたんだい? 少し、怖い顔をしているよ?」

 

 な、なんだよ……? なんか僕やっちゃいました?

 真面目な話し合いの場に、チュールだの駄菓子だの持ち込んだのはマズかったかな? いや、だってさっきまでの雰囲気ならイケると思ったんだよ。仕方ないじゃないか、ちゃぶ台と座布団なんか出したビナー様が悪い。

 彼女から掛かる圧が内心ちょっと怖かったが、そのような心情を気取られぬことがないように表面上は飄々とした態度を維持する。もちろん、読心対策のマインドシールド的な異能も使っていた。

 

 そうしてしばらく沈黙が場を支配していると、ビナーが僕の言葉に感心したように口元に手を添えて呟いた。

 

『怖い顔……? ふふ、そうか……やはり貴方の前では、隠していてもわかるか』

 

 いや、わかるでしょ。そんな殺気一歩手前な気配を漂わせていたら。

 僕が疑り深いオリ主なら、この面談が彼女に仕組まれた暗殺の罠だと疑ったかもしれないぞ。それほどの視線だ。

 

 まあ、流石にこんな状況でおっぱじめたら露骨に怪しすぎるし、先ほどまでの彼女を見たらその可能性は無いだろう。

 

 寧ろ今の彼女を見ると、何だか──僕に対して、罪悪感を感じているようだった。

 そんな彼女が、漆黒のベールがついた頭のティアラに手を掛けながら言った。

 

 

『ケテルから「二度とその顔を見せるな」と言われて以来、言いつけ通り隠し続けていたけど……貴方が相手なら、こんな物は必要ないよね』

 

 

 彼女はおもむろにティアラを外すと、同時に目の前を覆うベールも解かれていく。

 そしてビナーはその素顔を、僕の前に晒したのだった。

 

 

「……そっか……そういうことか……」

 

 

 彼女のご尊顔を拝んだ瞬間、僕は思わずそう呟いた。

 これぞ、先ほど紹介した僕の物知りムーブ──知ったかぶりの術である。

 

 いや本当、マジかよお前……

 

 

『そういうことだよ、T.P.エイト・オリーシュア』

 

 

 どういうことだよ女神様っぽい人!

 

 彼女と出会ってからずっと恐れていたことが、現実となった。

 ビナーが晒したその素顔は、あろうことか、このエイトちゃんと瓜二つだったのである。

 目の色が翠色ではなく鉛のような銀白色であることや、髪が僕よりも少し長いことから全体的に大人っぽく見えるという点は違うが、顔立ちはまるで双子のようにそっくりだったのである。

 

 ……本格的に、僕を(キャラ被りで)潰しにきやがったな。

 

 だが、僕は負けないぞ。ビナー様がなんだ。ちょっとミステリアスなお姉さんポジションが被っていて、僕より背が高くて大人びていて、僕よりおっぱいが大きくて人間に味方している超絶美人なだけじゃないか!

 

 ふ……僕の上位互換じゃねぇか。

 

 あわわわっ、どうしようどうしよう……!?

 これはアレか、やはり一周回って「似ている」という点を、僕自身のキャラ付けに利用するしかないのか?

 でもなぁ。僕は孤高なオリ主だからなー。

 クローン設定とか生き別れの妹設定とか、そういう要素は好きだがやりたくないのだ。そういうハッタリは彼女の心を傷付ける嘘になるので、僕的には無しである。

 それに、この好奇心旺盛な理解の大天使様を相手にそのムーブで誤魔化せるかと言うと、果てしなく微妙だし。

 

 そう頭の中で喚き散らすこと8秒。

 素顔を晒した銀白色の瞳でじーっと僕の顔を見続けてきたビナーが、溜め息交じりに言い放った。

 

 

『もう私たちを欺くのはやめましょう。エイト──いや、原初の大天使「ダァト」よ』

 

 

 

 

 ……?

 

 

 誰!?

 

 誰だよダァトって……何言ってんだコイツ。まるで意味がわからんぞ!

 

 えっ、もしかして僕のこと?

 女神様っぽい人に遣わされた完璧なるチートオリ主である、僕のことを言ってる!?

 

 エイトちゃん大混乱である。

 謎の固有名詞の対象はどういうわけか僕のことを指しているようだ。

 僕自身のことなので、オリボスのアディシェスが出てきた時よりも動揺が大きかった。

 最近慌てふためいてばかりだけど、何なの女神様っぽい人……貴方、僕のこといじめて楽しいの?

 オリ主を曇らせたい人? オリ虐愉悦民なの? ひくわー。

 

 ……落ち着け、冷静になれ。

 

 転生直後ならいざ知らず、僕だってここに来るまであらゆる修羅場を乗り越えてきたのだ。

 大丈夫、諦めない限り今回もいい感じに切り抜けられる筈。エイトちゃんは負けない! 女神様っぽい人の謎設定なんかには絶対負けない!

 

 

「……さて、何のことかな?」

 

 

 とりあえず相手の出方を窺う為、お決まりの問い返しで場を持たせてみる。

 心の動揺を悟られぬように、意味深に微笑みながら言うのがポイントだ。

 一気に糖分が欲しくなったので、僕はバスケットの中から20円チョコを頂戴する。やっぱり、20円チョコはミルク味が美味しいね。地球に帰ったらコンビニ寄っていこう。

 

 

『……依然として明かす気は無い、か……最も気高い心を持つ大天使様からしてみれば無理もないけど、私たちのこと……そんなに信用できないかな?』

 

 

 お、おう……どうしたそんなしょんぼりして。しょんぼりビナー様かわいいな。マルクト様ちゃんとはまた違った魅力があって、変な扉開けそう。

 ……いや、そんな呑気なことを考えている場合ではない。マジで何のことかさっぱりわからんのである。「ダァト」って誰やねん。

 

 さっき、原初の大天使とか言っていたね。

 そこから推測すると……もしかしてアレかな? 「今明かされる11番目のサフィラス……!」って感じの、日本アニメ祭りでよくあった奴かな。

 それで、映画ではそいつを倒す為に「クククッ、セイバーズよ……今回だけは協力してやるぞ」と利害が一致したコクマーさんたちが颯爽と駆けつけて共闘してくれるんだろう? 僕知っている。風岡翼を処刑せよ。

 

 ──もしかしたら、始まってしまった感じか……? 女神様っぽい人が考案した「劇場版フェアリーセイバーズ風オリジナルストーリー」が。今回は、そういう方向性かな?

 

 それならばいい。

 よくわからない問題は、全部アビスとか深淵のクリファとかにぶん投げておけばいいからね。

 そうすれば「今明かされるサフィラス十大天使の真実……!」とかいう前振りをしておきながら、本編では結局何も明かされないPV詐欺映画みたいに、最後まで僕の正体を有耶無耶にしたまま切り抜けることができるだろう。

 

 

 ──だが最悪のケースは、ビナー様の考察が真実だった場合だ。

 

 

 どういうことだ女神様っぽい人! もしかしてだけど、貴方から授かったこの身体、いわくつきじゃないだろうね!?

 僕の魂が入る前はこの世界に生きていた誰かの肉体だったりとか、実は転生物じゃなくて「憑依乗っ取り物」だったとか、そういう展開じゃないよね……!?

 

 

 ……なんか怖くなってきたんだけど。

 

 やめてよそういうの、SAN値削れるから。

 やだー……僕は楽しくオリ主したいんだよぉ……そんないわくがついていたら、これからどんな顔してオリ主すればいいんだよー。

 

 

『……ごめんなさい……言い過ぎた。悲しい顔しないで、エイト』

「……ビナー……」

 

 

 お願いだから、望んでもいないシリアス展開で僕を正気にさせないでほしい。

 今回ばかりは内面に隠しきれなかったのか、表情に出てしまったようだ。

 しょんぼりビナー様の次は、しょんぼりエイトちゃんである。はぁ……

 

 

「悲しいんじゃない……戸惑っているんだよ。キミになんて説明したらいいのか、わからなくて……」

 

 

 この身体が仮に「ダァト」とかいう謎の天使のものだったとしたら、マジでその人のことを知っている彼女に、なんて言ったらいいのかわからない。

 彼女にとって「ダァト」がどのような人物であるかにもよるが、肯定しても否定しても何となく重い話になりそうな雰囲気があった。

 

 

『……カバラちゃんの記憶を通して聞いたよ。貴方はアディシェスと対峙した時、「この為に生まれてきた」と言った。そして、「これが生まれ変わった意味ならば、今こそボクは、使命を果たそう」とも。あの言葉は……原初の大天使である貴方も、生まれ変わったということだろう? 私たちサフィラス十大天使と同じように』

 

 

 あれー? そんなメタなこと言ったかな……言ったわ僕! 何やってんだよ僕!?

 

 あの時はついテンションが上がっちまって。いやでも、そうやって僕の台詞を一言一句詠み上げられるの恥ずかしいな。

 これはマズい。

 他の台詞はどうとでも誤魔化せるが、「生まれ変わった」という言葉は言い訳がつかない。

 この世界でそんなことを言ったら、サフィラス十大天使である彼女は間違いなく誤解するじゃないか。

 

 

『貴方は……大天使なんだろう? 古の時代に生まれ、聖龍やケテルと共に創世期のフェアリーワールドを守り続けた原初の大天使、ダァト。世界樹との繋がりを断ち……クリファを封印する為、自分自身の存在さえも消し去った0番目のサフィラスの生まれ変わり──それが貴方だ』

 

 

 説明サンクス。理解の大天使様は気遣い上手かよ。

 OK、「ダァト」とやらはそういう人物ね。

 例によって「フェアリーセイバーズ」の作中では聞いたこともないが、この世界ではそんな大天使がいたのだろう。流石にもう慣れた。

 

 彼女の話を纏めると、サフィラス十大天使の前に「原初の大天使」という存在がいて。

 

 わけあってその大天使様は大昔の深淵のクリファとの戦いで犠牲になっていて。

 

 で、その生まれ変わりが僕と──うむ、チートオリ主が生まれながらに隔絶した能力を持っている背景としては、いかにも王道的な話である。

 

 0番目とか原初とか、その言葉だけでもう強そうだもんね。

 僕はダァトだった……? いや、違う違う。僕はT.P.エイト・オリーシュア、誰が何と言おうとT.P.エイト・オリーシュアなんだ……!

 

 

『……ずっと、会いたかった……だけど貴方は、私と会いたくなかったんだね……』

 

 

 ウワァー! 急にしおらしくなるなよ! 僕が久しぶりに再会した旧友相手に、素っ気ない態度を取っているみたいじゃないか!

 

 どうしよう? どうしようこれ!? どうなっているんだよ!!

 

 女神様っぽい人は僕に何も教えてはくれない……オリ主としてこんなに美味しい設定があったのなら、彼女ならちゃんと説明してくれた筈なのだ。それが無かった以上、僕がダァトとかいう大天使であるなどという世迷言は、ビナー様の勘違いである可能性が高い。

 しかしねぇ……ヤバいってこれ。SS的な意味でも。

 彼女視点では「もう会えないと思っていた同胞と再会した」みたいな、非常にシリアスな展開になっているのはわかるんだけど……僕自身が把握していない事情なので完全に置いてきぼりにされている。

 

 この温度差……まるでほのぼの日常系かと思っていたSSが、急に陰謀蠢くシリアスバトル物に路線変更したような感覚である。

 こうなると0評価の一つや二つは覚悟しなければならなくなるからSSは難しい。

 

 う、うろたえるな僕! 僕はチートオリ主、T.P.エイト・オリーシュアであるぞ!

 何かしなきゃ……オリ主らしいことをしなくちゃ!

 

 ──そうだ!

 

 

『あ……』

 

 

 大概の問題は、相手の頭を撫でてやれば何とかなるものだよ。

 僕はこの秘技、「撫でポ」に頼ることにした。いや彼女を惚れさせる気は毛頭無いが、それでなくても人の体温は動揺した心によく効くのだ。

 カバラちゃん相手でも良かったが、彼女がとても寂しそうな顔をしていたので思わず手が出てしまったのもある。おお、メアちゃんに負けず劣らずサラサラやね。強引かつナチュラルなセクハラだが僕の撫でテクに免じて見逃してほしいものだ。

 

『へへ……』

 

 ……よし、ビナー様は落ち着いたな。僕も落ち着いた。カバラちゃんが物欲しそうな顔をしていたのでもう片方の手でモフってやった。

 両方の手で女の子たちの頭を撫で回す。これぞ、オリ主的天地魔闘の構えという奴だ。知らんけど。

 

 気を鎮めたところで僕は、ビナーのことを悲しませないようにしつつ僕自身も追及から逃れる方法を頭の中でシミュレートしながら、丁寧に言葉を選んだ。

 

 

「……ボクはずっと、キミたちに会いたかった。こうして手を触れられる日が来るなんて、夢にも思わなかったよ」

『あ……』

 

 

 偽りの無い真実(画面で見ていたフェアリーセイバーズのキャラに会いたかった的な意味で)を語りつつ、古の同胞と再会したと思っている彼女を落胆させないようにしながらも、僕の口からは直接「ダァト」と明かさないテクニカルな言い回しである。

 

 いや、だってわからないんだもん。

 

 僕は絶対に違うと思っているけど、本当に僕の身体がダァトとやらに関係しているかもしれないし、していないかもしれない。可能性が100%ではない以上、こんな寂しそうな顔をしている彼女に無責任な発言はしたくなかった。

 

 ──これは調べてみる必要があるな、「ダァト」のことを。

 

 真実を確かめる為にはもう一度女神様っぽい人に会う必要があるが、その他にもできることはある筈である。いかにも藪蛇な臭いがプンプンするが、ここで知らないフリをする方が気持ち悪かった。

 

 もちろんオリ主ムーブは続けるよ? これもまた、僕が気持ち良くオリ主する為の努力である。

 

 

「ボクには言えない秘密がある。だけどそれは、キミたちを信用していないからじゃない。今は、どうしても言えないんだ……ごめんね、ビナー」

『ダァト……』

 

 

 そう言うわけで、これ以上の追及はやめてくださいお願いします。

 ちゃんと調べますので! 僕≠ダァトを証明できるようになったらちゃんと否定しますので!

 それまでは申し訳ないが、この話は先延ばしにさせてほしい。そんな願いを込めて、僕は彼女に微笑んだ。

 

 

『……本物は、違うな……』

 

 

 ……いや、偽物だよ多分。

 うーん、偽物だと証明した時、彼女がどう動くかわからないのでその辺が怖い。僕の危険センサーがビンビン反応しているし。

 これは「ダァト」とやらに対する彼女の感情とか、関係性とかも調べないといけないようだ。

 なんで怪盗なのに探偵みたいなことしなきゃならないんだ……と思う気持ちもあるが、これもオリ主である。

 

 やれやれ。完璧なチートオリ主への道のりは、かくも険しい。




 今明かされるT.P.エイト・オリーシュアの真実……!(明かされない)

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