TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

53 / 128
 


原作キャラ性格改変物の改変経緯

 翼の様子がおかしい。

 

 うん、明らかにおかしいねアイツ。

 今の彼の心は、目の前の炎たちに無い。

 「ヘット」というウエスタン風な町に一足遅く到着していた僕は、適当な民家の屋根上に立ちながら、荒野に集まってきた炎たちの様子を千里眼で観察していた。

 

 そうして目にした最後の仲間、風岡翼は炎たちとの合流を拒絶し、並々ならない態度で彼らを突き放していたのだ。

 

 

 一体どうしたんだ翼!? 原作のお前はそんなキャラじゃなかっただろ!

 

 

 これは……女神様っぽい人がまたやってくれたようだね……。

 確かに物語の途中で仲間とはぐれる展開は、再会後に誰かが離脱したり、闇落ちしたりするフラグの一つである。

 原作アニメ「フェアリーセイバーズ」では尺的な都合で起こらなかった展開だが、最後の仲間との合流には何かしら一悶着が発生するのは定番の要素だった。

 

 しかし……よりによって翼かー。

 みんなの便利屋さんである風岡翼をそのポジションに持ってくるとは、僕としたことが完全に想定外である。これは一本取られたわ。

 

 

 原作アニメ「フェアリーセイバーズ」における風岡翼というキャラクターは、前にも言ったが作中随一の便利キャラである。

 

 潜入活動や諜報など、大概の面倒臭い状況は大体彼が独自の行動で解決し、戦闘員である炎たちが思う存分力を発揮できる状況を整えてくれるのが彼という男だった。

 異能使いとしても超一流であり、彼の異能「疾風」は風を自在に操ることで攻撃にも高速移動にも応用することができる。セイバーズ最速の男として数々の難事件を解決してきたものだ。

 内面も最初期から安定しており、三人の中で最も年上の19歳(そろそろ20歳)ということもあってか皮肉屋ではあるもののなんだかんだで面倒見が良く、物語の初期では暴走しがちだった炎と長太を諌める苦労人ポジションが板についていた。それこそ炎が自分よりよっぽどリーダーに相応しいと思うほどに。

 見ようによっては死亡フラグの権化みたいな存在だが、あらゆるフラグを回避し最終回も堂々と生き残った男が彼である。苦労性故にアシストに徹することが多く、フィニッシャーは他の二人に譲ることが多かった彼だが、何ならセイバーズ最強キャラ疑惑もあったほどの男だった。

 

 そんな風岡翼が……なんだか邪気眼を発症したように仲間たちを冷たく拒絶している姿を見て、僕の頭脳に戦慄が走った。

 

 

 ──これは……原作キャラ性格改変物だと。

 

 

 性格改変物SS──それは古くから続く、二次創作のメジャージャンルである。

 個人サイト時代ではオリ主よりも先んじて広まっていた人気の高いジャンルで、当時は多くのファンが慣れ親しんできたものだ。当時の掲示板でも台本形式のSSがよく流行っていたものであり、しみじみと懐かしさに浸る。

 

 もしもあの作品のキャラがこんな性格だったら……そんなIFを想像して書き連ねた作品は、性格の改変によって独自の展開を広げて読者を唸らせたり、時に痛快なギャグとして笑わせてくれた。SSではないがかのブロリーMADなんかもコレに当てはまるだろう。

 

 SSにおいて改変対象となる原作キャラは例によって魅力的なヒロインが多数存在する作品が多いが、それらの創作では原作主人公が薄幸なほど大胆な想像力を掻き立てられる傾向があるというのが僕調べである。

 

 たとえば主人公のことを虐待の如き陰鬱な展開で曇らせていた原作で、主人公の性格を熱血スーパーヒーローのような性格に改変することで爽快なハッピーエンドを迎えさせたり。

 

 たとえば原作ではひたすら周りに振り回されていた不幸な主人公を、ハードボイルド度の高い性格に改変することで渋くカッコ良く困難を乗り越えさせてあげたり。

 

 オリ主物SSと同じく、それらのSSは「性格改変」というスパイスによって原作とはまた違うストーリーを楽しませてくれたのだ。

 もちろん、改変対象になるキャラは主人公以外のキャラも多く、原作では悪人だったキャラがマイルドな性格になっていたり、または原作では真面目なキャラがド変態になっていたり、時には迂闊で足元がお留守なかませ犬だったキャラが自重を覚えていい感じの活躍をしたりとその改変スタイルは千差万別である。

 そんな「性格改変物SS」は、僕の好きなジャンルの一つだった。

 

 

 だけどね……

 

 

「彼までも、その対象になるとはね……」

 

 

 お姉さん、予想外です。

 まさか、彼が性格改変の対象になるとはね。うーん、どうだろうかこの展開は。

 確かに元が貧乏くじを引きやすい性格だった分、弾ける下地はできていたと言えなくもない。

 だけど、作中随一の便利キャラの性格を変えてしまうのはリスキーだと思うよ僕は。

 ……いや、原作主人公である暁月炎が落ち着いた性格に成長した後期だからこそ、元々まとめ役だった彼のことを弄りたくなる気持ちはわからなくもない。レギュラーメンバー全員が完成された性格だと、話を作りにくいからね。問題を起こす奴ばかりだとヘイトを買うが、全くいないとなると長期連載は難しいものだ。

 似たような事例はツァバオトでの長太の時にもあったが、今回は翼のターンと言うことだろうか? SSのイベントで言うと。

 

 ……いいよ、そういうことなら僕にも考えがある。

 

 アディシェスとの戦いを乗り越え、キャラ被り(ビナー様)との対面も経た今、ちょっとやそっとのことで動じる僕ではない。フフフ、動揺すると思った? 残念エイトちゃんでした。

 

 

 寧ろ、これはチャンスである。ハイパーオリ主チャンスだ。

 

 

 なんだか知らないが突然拗れた原作キャラの性格を、オリ主のSEKKYOUによって華麗に元通りにするのも一興である。作者のマッチポンプ感は否めないが、それもまたオリ主に与えられた見せ場と言えなくもない。

 もちろん、「いや、勝手に原作キャラを崩壊させちゃ駄目だろ原作ファン的に考えて!」と指摘する者はいるだろう。元が空気キャラだったならばいざ知らず、原作の時点で魅力的だったキャラを改変するのであれば尚更である。僕自身、翼の性格はそのままでいいだろJKと思っているので、長太のリーゼント問題の時と同じように「そのままのキミが素敵だよ」と言ってやるつもりだ。

 

 

 だが、風岡翼が新しい一面を見せてくれるというのもそれはそれで嬉しく思っていた。

 だって彼、めっちゃ苦労性だし……

 

 

 炎も長太も今でこそ立派なヒーローだが、初期の頃はそれはもう問題児だった。

 炎は無口の癖に切れたナイフみたいに仲間とのコミュニケーションを拒絶していたし、父親の仇に関係する者を見つけたら連絡も取らずに独断行動に出るのはご愛嬌。長太も長太で風貌通りの問題児であり、猪突猛進な性格が悪い方向に出て、翼がフォローに回ることも珍しくなかった。

 もちろん、今ではそんな二人も過去の過ちを恥じて猛省しているし、その後の目覚ましい活躍は語るまでもない。民間人にも実害は無かったので、それも近い将来やんちゃだった頃の若気の至りとして笑い飛ばせるようなかわいい過去である。

 

 ──だが、そうなると翼の心に溜まった心労の行き場が問題になる。

 

 彼らの成長を間近に見てきた彼なら、まあ昔のことだし流してやるかと寛大に許してくれるだろう。彼は皮肉屋を気取っているが、過ぎた過去を蒸し返してねちっこく糾弾する男ではないのだ。

 しかし、人のストレスなどというものは本人の自覚が無いところでもどんどん積み重なっていき、根が真面目な人間ほど完全には抜けきらないものである。

 

 

 そんな彼が、無自覚なストレスに追い詰められていた状態で……異世界という新しい環境で一人になったとしたら?

 

 

 しがらみから解放された自由な環境──それはまさに、はっちゃけるには絶好の機会である。

 例えるなら、誰もいない無人島に一人取り残された時、全力でかめはめ波を撃ちたくなるのと同じ心理である。

 お労しや……僕は静かに目を閉じて黙祷を捧げた後、千里眼に映る彼の姿を生温かな目で見つめてあげた。

 

 そんな彼は今──「どういうことだ!?」と問い詰める炎たちの元から、風となって飛び去っていったところだった。

 

 風岡翼の異能、「疾風」の応用である。彼は自らの身体に風を纏うことによって、超スピードでの移動が可能になるのである。それは、彼をセイバーズ最速の戦士たらしめる力だった。

 そんな能力を逃走に使われてしまったら、追いつくことなど不可能である。

 早々に翼の行方を見失ってしまった炎たちはその場に取り残され、自分たちの元から立ち去った仲間の足跡を呆然と見送るのであった。

 

 

 しかし、このエイトちゃんは別である。

 

 

 たとえどんなスピードで移動したところで、この島にいる限り今の僕のサーチ&千里眼からは逃れられない。

 空気を読めなくてすまないが、僕だけはバッチリ翼の行方を追っていた。しかし、はえーな翼君……流石にテレポーテーションほどではないが、これは全力を出した「慈悲の不死鳥(マーシフル・フェニックス)」より速いかもしれない。

 

 

 そんな彼は、程なくしてある場所で足を止める。 

 

 彼が先ほどまでいた荒野とは真逆の方向──僕のいるヘットを挟んで10kmぐらい離れた場所だった。

 そこはこの辺りと違って緑がある。不毛な土地の中で、唯一その地域だけは自然の恵みが生い茂っていた。

 それこそ砂漠の中にポツンと輝くオアシスのように……あっ、泉があるね。完全にオアシスである。

 泉を中心に、豊かな草木が1㎢ぐらい囲っていた。不思議な地形をしているね。流石は異世界。

 

 そんなオアシスの地に到着した翼は、一片の迷いも無くスタスタと歩を進めると、泉の景色を一望できる丘の上へと跳躍するなり足を止めた。

 

 おっ、眺め良いなあの場所。

 なんだよ翼ー、お前も高いところ好きなの? いい趣味しているじゃないか!

 僕はそう思いながら千里眼越しにオアシスの景色を観察していたが、立ち止まった彼の視線がその泉に対しても無いことに気づいた。

 

 ならYOUは何しにこんな場所へ……と訝しんだ僕に答えるように、彼は丘の上にある大きな石碑の前で足を止めた。

 

 

 

 ……ふむ。なるほどね。

 

 

 察しのいいエイトちゃんは、その光景を一目見て彼の目的を理解した。経緯はわからないけどね。

 彼の変化は社会のしがらみから一時的に解放された故の若気の至りかと思っていたが……どうやら彼の心を蝕む問題は、思った以上に根深いようである。

 

 ──よろしい、ならばオリ主だ。

 

 僕はそこで観察を止めると、即座に「テレポーテーション」を発動し、実際に彼の居場所へ向かうことにした。

 

 おお、いきなり匂いが変わったね。

 岩場だらけの荒野から一気に自然豊かなオアシスに移動した僕は、泉から吹き抜ける心地良い風に思わず目を細めた。

 こう、一瞬で全く違う環境に移動すると温度差で風邪を引く恐れもあるのが普通だが、あいにくエイトちゃんボディーは頑丈なので滅多なことでは体調を崩す心配は無いのだ。

 

 そんな僕は、石碑の前で語り掛けるように座り込んでいる翼の背中に、遠慮無く呼び掛けてやった。

 

 

「お墓参りかい? ツバサ」

 

 

 彼が向かい合う一つの石碑には、フェアリーワールドの言葉で誰かの名前が彫られていたのだ。その光景は、どう見てもお墓である。

 

 えー、「サーチ」で翻訳翻訳っと……ああ、「ラファエル」って書いてあるね。神話に詳しくない僕でも聞いたことのあるメジャーネームである。いかにもエンジェル的な名前だ。

 

 目の前の石碑を切なげに見つめている彼の瞳を覗き込めば、彼がこの場を訪れた目的も察することができた。

 

「…………」

 

 僕の問い掛けを受けた翼は、こちらに振り返ることもせず小さく頷く。

 その姿を見ると、何だろうな……僕もシリアスな顔にならざるを得なかった。

 

 

「……そっか……」

 

 

 顔を見れば、翼にとってこの下に眠る人物がただならぬ存在であることは何となくわかる。それほどまでに、石碑を眺める彼の顔は思い詰めている様子だったのだ。

 

 空気の読めるオリ主である僕は、最低限の礼儀としてシルクハットを外して前に出ると、彼の隣で倣うように腰を屈めて一分ほど黙祷を捧げた。

 

 どうか安らかに……ってね。

 

 黙祷を終えて目を開くと、立ち上がってから虚ろな目で僕の横顔を眺めている翼の視線に気づいた。

 な、なんだよ? そんな怖い目で見るなよビビるじゃないかっ。

 

 も、もしかして僕やらかしちゃった? デリカシーなかったかな……いや、でも、この下にいる人の冥福は真面目に祈っていたよ……?

 

 ううっ……「見ず知らずの赤の他人が図々しいぞ」とか言われたりしたらショックである。恐る恐る彼の方に顔を向けると、翼はふぅっと息を吐いて再び石碑に向き直った。

 

 

「……この下には、誰もいない……」 

 

 

 虚無的な眼差しで見つめながら、彼はぼそりと呟く。

 その声は僕の知る風岡翼とはあまりにも似つかない、弱々しい声をしていた。

 

 

 

 

 

 

 ……やべぇ。なんか想像の100倍以上重い事情がありそうなんだけど。

 

 

 何なの? 一体どうしちゃったの翼君。言うて君、まだこの世界に来て数日でしょ?

 僕の知らないところで、何があったというのだろう。一体どんな関係だったのよこのラファエルさんって人と。

 

 うーん……何があったのかさっぱりわからないが、彼の表情から窺える感情は意気消沈という言葉すら生易しい状態である。これは怖い……ヤバい目をしている。

 ど、どうしよう……こんなんじゃオリ主できないぜ……これでは、いつもみたいにミステリアスな感じに助言して去っていくのは無理そうだ。

 

 せっかく再会したというのに、僕に対する翼のリアクションはびっくりするほど薄い。言葉には出さないが、その様子は「ああ、いたの君」ともはや空気キャラを相手にするような扱いである。むぅ……

 

 そしてそんな扱いをされたのに、彼に対して抗議したい感情が浮かんでこないほど場の空気は重苦しかった。いい眺めとオアシスの風さえも、どこか虚しく感じるほどに。

 

 ……やめてよ、そういうシリアスなキャラ改変は。

 こういうのを見ると、僕のところにお見舞いに来てくれた前世の家族やマイフレンドたちのことを思い出すんだよ。

 

 どうしたらいいものかポーカーフェイスの裏で思考を巡らせながら彼の横顔を見つめていると、ふと翼はポツリ、ポツリと語り出した。

 

 

「俺さ……思い出したんだよ。この世界に来て、ビナーの試練を受けて……」

「思い出した?」

「……俺が、ヒーローごっこをやり始めた理由を」

「ヒーロー……ごっこか……」

 

 

 な、何の話だよ……?

 ヒーローごっこ──と言うのはもしかして、セイバーズに入ったことを言っているのだろうか? そうなると、つまり彼がセイバーズに入った理由か。

 うーむ……そう言えば、原作アニメでもその辺りは特に語られていなかったんだよな。炎や長太がセイバーズに入る前の経歴とかはそれなりに作中で明かされていたものだが、風岡翼に関しては登場時点から既にセイバーズの一員であり、頼りになる二枚目キャラだったのだ。

 

 因みにこのように、原作で語られていないキャラクターの過去を捏造する──と言うのはSSの王道である。

 しかし今回のように唐突に、それも同僚の炎たちではなく僕に語り出すとは思わなかったのでびっくりしてしまった。

 

 ……だけど、せっかく語り出したのだから聞こうじゃないか!

 

 僕はオリ主だからね。オリ主が自分の過去を原作キャラに語りたがるのが王道ならば、原作キャラの過去話をオリ主が聞き届けるのも道理であろう。

 僕は彼の横顔をじっと見つめながら、続く彼の言葉をゆっくりと待つことにした。

 そして翼は、何度も沈黙を挟みながら語った。

 

 セイバーズの風岡翼が誕生する前の出来事を──そのルーツを。

 

 それは、幼い頃の彼が出会った一人の女性との思い出だった。

 

 彼の行動原理の礎を築いた師匠であり、母であり、姉でもあった──今は亡き天使「ラファエル」との出会いと、別れである。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。