TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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僕の名前はT.P.エイト・オリーシュア

 カバラの遺跡──それはエロヒムの聖都ベートの地下に広がる、古代遺跡の一つである。

 そこは世界樹サフィラから切り離された根が存在する唯一の場所であり、エロヒムを「理解の島」たらしめる施設であった。

 天使は死を迎えた時、その生命を世界樹に還す。同時に、生前に身につけた知識も世界樹に還元され、それが世界樹サフィラの叡智となって積み上げられていく。

 そうして膨れ上がったサフィラの叡智は星そのものの記憶、アカシックレコードと言って差し支えない。

 もちろん、聖獣がサフィラの叡智を源泉のまま頂こうとすれば、凄まじい情報の乱流に押し潰されて頭の中はボンッである。

 

 

『サフィラの叡智はあまりにも膨大すぎて、現代の聖獣では受け止めることができない。だけどその昔、古代カバラ族は世界樹から分離した根の破片からなら、希釈された叡智を受け取ることができると気づいた。アイン・ソフはそんな彼らの理解に敬意を表し、これを「カバラの叡智」と名付けたそうだ』

「詳しいね。流石は理解の大天使様だ」

『ふふん……』

 

 

 僕は少し説明を頼んだだけなのに、ビナーは楽しそうに名前の由来や世界樹サフィラに関する豆知識を語ってくれた。その様子はまるでオタク知識をひけらかすオタク君のようだったが、僕の知らない設定だし熱心に語る姿が可愛らしいので助かる。

 なるほどね……天使が死んだら世界樹に生命を還すのは知っていたが、知識まで還すとは。後で訳知り顔で炎たちに教えてあげよう。

 しかし、それなら天使の為に世界各地の情報を集めるカーバンクルという生き物に「カバラちゃん」と名付けたのは確かに粋なネーミングである。全くの偶然というのが信じられないほどマッチしていた。

 やっぱすげぇぜ僕。ふふん、完璧なチートオリ主には運も味方するのだよ。

 

「ボクは高いところが好きだけど、こういう場所も趣があっていいね」

『──! そうだろう、そうだろう! 私もよく、気分転換で訪れるんだ』

 

 彼女のテレポーテーションで移動したこの場所は、町の地下にあるらしい。

 それ故に空は見えず周囲は土の壁に覆われていたが、水晶のように煌めく無数の鉱石が360°から天然の光源として鍾乳洞内を照らしている光景は、まるでクリスマスシーズンの街のイルミネーションのようだった。

 高いところではないが、これはこれで絶景スポットである。ビナー様は僕の賞賛にいたく共感してくれたようで、その声は弾んでいた。

 その姿は何と言うか、自慢の秘密基地を紹介する子供みたいでほっこりした。

 

 

 ビナーが少しの間僕の手を引きながら前に進んでいくと、そこには広々とした鍾乳洞の突き当たりに一本だけ佇む大樹があった。

 無数の光る鉱石によってライトアップされたそれを指して、彼女が言う。

 

『アレが、世界樹の根だよ』

「うん、そうみたいだね」

 

 全高は20m以上あり、天井まで届く長さの立派な大樹だった。

 えっ、コレが世界樹の根っこの破片なの? 苗木から育てた第二の世界樹とか、そう言うのじゃなくて? 

 そう思えるほどに、彼女に紹介された物体は「根」と呼ぶには立派すぎた。

 確かに大元の世界樹が桁違いの大きさである以上、破片でも相応の大きさになるのだろうが……それにしては綺麗な形をしている世界樹の根を見て、僕は呟いた。

 

 

「……立派に成長したんだね……」

 

 

 しみじみと呟きながら、前に出て世界樹の根に触れてみる。

 何だろうね。こういう立派な木に触れると、不思議な力を貰えるような気がするよね。まさにパワースポットという奴である。

 元々は普通の破片だったのが、長い時間を掛けて今の美しい形に成長したのだろうか……植物は逞しいね。

 それにしても見事なものである。太くて長くて、立派な木だ。地下にあるのが惜しいぐらいである。是非とも上に乗ってみたい。

 

『ダァト……』

「おっと、いけないいけない。感傷に浸るのは後だ」

 

 の、乗らないよ? 

 この木のてっぺんに乗ってハープを弾いたら気持ちいいだろうなぁとは想像したが、僕だってTPOは弁える。いつもいつも趣味に走るわけではないのだ。もちろんその方がカッコ良ければやるけど、今はその時ではない。

 僕はビナーの呼びかけに意識を戻すと、手のひらで触れた木の幹に視線を注ぐ。

 彼女から「ダァト」と呼ばれていることについては、あえて訂正しない。呼ばれる度に一々否定するオリ主は、SSという媒体になるとテンポが悪くなってちょっとウザいからね……ギャグシーンの様式美ならばともかく。

 オリ主的に考えて、ここはシリアスに行きたい場面である。

 

 

 ──と言うわけだから、世界樹の根さんよ。

 

 

「今こそ、ボクに叡智を貸したまえ」

 

 

 カバラの叡智とやらが触れた者に欲する情報を与えてくれるフェアリーワールド版グーグル先生ならば、僕にもその叡智を分けてくださいな。

 

 具体的には翼の悲しい過去とか、僕の身体がダァトとは無関係である証拠とか……その辺りでお願いします。

 

 僕は謙虚なオリ主なので、この先チートオリ主をする為に必要なことまでは教えて貰わなくて結構である。

 それは僕自身の手で見つけるもの。

 僕のオリ主ムーブは僕のもの。

 たとえグーグル先生が親切に導いてくれようと、このT.P.エイト・オリーシュアが切り拓いた栄光のロードでなければ意味が無いのだ。

 

 ……おっ、今のフレーズ主人公っぽくてカッコいいかも。ケテルとのラストバトルでは、そんな感じの啖呵を切ろうかな。

 

 そんなことを考えながら僕はこう、片膝を突いて神様に祈りを捧げるような姿勢で目を閉じた。

 

 ファンタジー的に考えて、神聖な場所ではこうやって神父様的なことをしておけば何か起こるだろうという、サブカル知識によるアドリブである。

 

 やってから思ったが、失敗したらカッコ悪いなコレ。

 

 だが……上手くいったようだ。

 チラリと薄目を開けて確認してみると、僕の身体をいい感じの光がポワーっと包み込んでいるのが見えた。何の光!?

 

 すげぇ、なんか今の僕の姿めちゃくちゃ神々しいぞ! その格好、まさしくゴッドエイトちゃんである。

 そんな僕の様子を見て、後ろのビナー様から驚いている様子が伝わってきた。

 

 あれ? また僕何かやっちゃいました? いやあ参っちゃうなぁハハッ。大天使様を差し置いて、神々しすぎて申し訳ない。

 

 そんなことを考えていると、ふと頭の中にビナー様ではない誰かの声が聴こえてきた。

 

 

『私はカロン……おかえりなさい、ダァト』

 

 

 ……あれ? この声は──何言ってんの、女神様っぽい人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サフィラの叡智を数千億倍に希釈する為、聖獣でも情報を受け止めることができるように作られたのが、世界樹の根の破片を利用した「カバラの叡智」である。

 

 しかし、それでもなお、全ての叡智を受け止めることができる者は今のフェアリーワールドには存在しない。

 

 サフィラス十大天使の中で最も高い情報処理能力を持ち、ケテルに次ぐアクセス権限を持っているビナーですら、未だ全てを理解することはできていないのだ。彼女以前の「歴代のビナー」さえも、獲得できる叡智の量には常に限界があった。

 

 しかしフェアリーワールドの歴史には、ただ一人だけ例外の大天使がいた。

 

 それこそが原初の大天使にして0番目のサフィラス──「知識」を司る大天使ダァトである。

 

 ビナーはこれまで観察してきた人物像から鑑みて、「T.P.エイト・オリーシュア」と名乗る彼女が人間に擬態したダァトであることを確信していた。

 そうでなければ説明がつかないほどフェアリーワールドの事情に詳しすぎるし、その上彼女は聖龍アイン・ソフが提唱した「フェアリーバースト」について、誰よりも踏み込んだ考えを持って実践していたのだ。

 

 暴走する力動長太を導き、覚醒に至らせたように。

 

 彼女が先程提唱した「心の闇」へのアプローチこそがフェアリーバーストを発動させるという説は、ビナーが考察して行き着いたのと同じ仮説であった。

 人類初のフェアリーバースト到達者である暁月炎が初めて覚醒した瞬間を、ビナーは人間世界に放っていた密偵の目を通してこの世界から見ていたのだ。

 

 図らずも知識の大天使ダァトと答え合わせができたことは、ビナーにとって幸運だった。

 幼い頃、王ケテルから創世期の伝説を聞かされてからずっと憧れ続けてきたのが、かつてこの世界を未曾有の危機から救ったと言う伝説の大天使ダァトである。

 その頃のビナーはカバラの叡智をも利用して「ダァト」にまつわる伝説を調べ尽くし、その所作や仕草を心身に染みつくほど真似していたぐらい彼女の存在に憧れていた。

 それはまるで、母親の真似をする幼な子のように。

 

 その結果、ケテルの怒りを買い、羽の半分を消し炭にされるほどの大喧嘩に発展してしまったのが昔のことである。

 

 しかしビナーはそんな自身の過去を一切恥じていないし、何ならケテルに対して悪びれてもいなかった。

 もちろん、長兄であるケテルのことは大好きである。

 元々は「あの王様が大好きだった原初の大天使とは、一体どんな天使だったのだろう?」と興味を抱いたのが、ダァトの伝説を調べようとした最初のきっかけだった。ビナーはそのぐらいケテルのことを慕っていたのだ。

 

 そんな彼女も、今ではケテルとダァト両方同じぐらい大好きだと言い切ることができた。

 

 ……とは言え、ダァトに関するビナーの知識は所詮、「カバラの叡智」を当てにした仮初の知識に過ぎない。

 本物のダァトに会ったことがあるのは聖龍を除けばケテルしか居らず、そう言う意味では永久に彼とわかり合うことができない事実をビナーはずっと悔しく思っていた。

 

 ──だが、今ビナーの目の前には本物のダァトがいる。

 

 本物のダァトが、遙かなる時を経て自分に会いにきてくれたのだ。それは彼女の人生最大の喜びだった。

 カバラの叡智が教えてくれた通りの姿を一目見たその時から、ビナーはベールの下で涙ぐんでいた。素顔を晒した時は堪えていたが、今も大分ヤバい。

 

 

『ああ、ダァト……私たちの母……』

 

 

 女神然とした神々しい光を放つ彼女の背中に、思わず手を伸ば──そうとしたところで、畏れ多いと思いそれを拒む。

 今の彼女はカバラの叡智を授かっているのだ。邪魔はいけない。母の邪魔をしてはいけない。

 カバラの叡智を授かる際、このように身体が光に包まれるのは世界樹からの情報を受信している最中であることを意味する。

 

 通常ならば五秒ぐらい経ったところで受け取り手側の容量が持たなくなる為、世界樹の根の判断によりセーフティーが掛かり、情報の送信が止まる仕組みになっていた。

 

 

 しかし、今のT.P.エイト・オリーシュアは既に五分以上受信し続けている。

 

 

 誰よりも神々しく、聖女然とした佇まいで膨大な情報を受け止めてなお、涼しい顔をしている。

 それは世界樹の根から情報を受け止める彼女の器が、ビナーとは桁違いに大きいことを意味していた。

 

 流石は「知識」を司る伝説の大天使である。

 伝承通りの能力を垣間見て、ビナーは興奮する感情を抑えきれなかった。

 

 

『だから言ったんだよ、ケテル……ダァトは生きているって』

 

 

 やはり、彼女は本物だ。本物のダァトだったのだ。

 ビナーのベールに隠された目から、一粒の涙が滴り落ちる。

 古のクリファとの大戦以降行方不明になり、終ぞ世界樹に還ることが無かった大天使ダァトの存在。

 未だ世界樹に還っていない以上、ケテルと同じく彼女は今も生き続けているのではないかと。ビナーはそう思い、ダァトの生存を信じ続けていた。

 

 しかし幼い頃のビナーがそう言い張ると、ケテルはいつも困ったように笑い、否定していたものだ。

 そして、決まってこう言うのである。

 

 

 ダァトはいない。

 もう……彼女はいないのだから、我々がこの世界を守らなくてはいけないよ──と。

 

 

 今は亡き古の人物に思いを馳せるよりも、目の前の世界を見るべきだというのは正論である。もちろん、ビナーも納得している。

 

 

 しかし、事実としてダァトは生きていた。

 

 

 その上彼女は人間を認め、素晴らしいと思っていたのだ。

 

 他でもない彼女に今まで同胞たちから否定され続けてきた意見を肯定されたその時、ビナーはどれほど勇気づけられたことか。

 

 そして今日、数千年待ち続けた対談は為された。

 その際に自分が人間の味方をしていることを知った彼女が、感極まってその目を潤わせた時──ビナーは己の判断が間違っていなかったと、泣きたくなるほど嬉しく思った。

 

 これは人間たちには言っていないが、おそらくダァトが「人間に手を出すのはやめなさい」と一声掛ければ、聖龍に頼るまでもなくケテルを説得することができるだろう。

 

 それなのに彼女は何故正体を明かさないのか? と疑問が浮かぶが、ビナーはこう考えている。

 

 彼女はお忍びで人間たちに同行することで、サフィラス十大天使にも試練を与えているのかもしれない──と。

 

 大天使が自らの力で真実にたどり着くことを期待して。

 それはネツァクがこちらの監視に気づいた時、「これは聖龍の試練なのではないか?」と疑ったように、ビナーは母なる大天使ダァトが「T.P.エイト・オリーシュア」という道化を演じる理由について、そのように見ていた。

 

 

 最近知ったことだが、日本の言葉ではそのような行動を「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」と言うらしい。

 

 人間の世界にいる「獅子」という動物は、生まれたばかりの子を深い谷に落とし、這い上がってきた生命力の高い子供だけを育てる生態を持つ残酷な生き物らしい。

 

 しかし、それもまた親が我が子に向ける愛情の形であり……本当に深い愛情を持つ相手にあえて厳しい試練を課すことで成長を願う考えが、人間たちの間ではポピュラーらしい。現に人間たちの働く会社を見ると、期待する部下に対しての上司の扱いはまさにその言葉通りだった。

 

 非合理的で変わった文化だと思うが、それを知ってビナーは人間の成長が早いわけだと納得した。

 ネツァクの島の民などは日常から身体を鍛えたりしているが、流石に親が子を谷底に落とすまでの例は無く、その子育てに憧れている者もいない。大天使では「峻厳」のゲブラーが近い考えを持っているが、以下同文である。

 寿命が短いからこそ人間は聖獣よりも生き急ぎ、生き急ぐからこそあっという間に強くなる。聖龍の言葉を抜きにしても、これから先のことを考えて彼らを敵に回したいとは思えなかった。

 人間が本気で聖獣を殺す気になったら、こちらが考えつかないようなことをしてくるのではないかと恐れてもいた。

 

 ダァトはおそらく、長い間人間の世界にいたのだろう。人間に対する彼女の豊富な知識と、かつてのラファエル同様流暢に人間の言葉を使っていることから察するに、間違いなさそうだ。

 そんな彼女は「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」という人間の精神を見習って、心を鬼にしてこのような行動に出たのだろう。

 

 ……だがそれでも、ダァトの言動にはいつだって隠しきれない優しさが滲んでいた。

 

 あの時──自らが残酷な試練を課したことを懺悔するように、ケセド、マルクト、メアの三人を抱き締めて泣いていた彼女の姿が、今も頭から離れない。

 ダァトの姿はあまりにも労しすぎて、ビナーこそそんな彼女のことを抱き締めてあげたいと思ったものだ。

 

 

 だから彼女も、苦しんでいるのだろう。

 今のケテルと一緒で。

 

 カーバンクル──カバラちゃんから受け取った彼女の日常風景を見ると、不甲斐ない子供(わたし)たちをどう導いてあげればいいのか、常に苦悩しているように見えた。

 

 

『もっと……もっと理解したいな、貴方のことを……』

 

 

 この世界の為、自分ではない他の誰かの為に今もカバラの叡智を引き出し続けている健気な姿を見て、ビナーはぼそりと呟いた。

 初めて出会ったダァトの溢れ出る包容力を前にすると、ついつい甘えてしまいたくなる。

 そんな感情に突き動かされ、先ほどまで手まで繋いでもらっていたビナーだが、彼女も年長の大天使の一人だ。いつまでもそれでは駄目なことには気づいていた。

 

 彼女相手だけではない。神にも、王にもだ。

 

 サフィラス十大天使もまた、彼らへの甘えを捨てて一人で自立しなければならない時が来ているのだと、ビナーは感じていた。

 

 

 「王」によって生み出されながら、人間として「王」に逆らおうとしているあの少女──メアのように。

 

 

 決意を決めた目でダァトの背中を見つめていると、彼女から放たれる光がより一層強烈なものとなって視界に広がっていく。

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん……?

 

 んんー……あれ?

 

 なんだよ僕、いつの間に眠っていたんだ?

 

 キラキラした神々しい光が僕の身体を包んで、とても聞き覚えのある女性の声が聴こえたところまでははっきり覚えている。

 ……うん、記憶は正常だな。なのに気がつけば、僕は地面の上に寝そべっていた。

 やだなぁはしたない。僕は上品なオリ主なので、自分の意思でお外で寝そべるなんてことはしない筈である。

 ──と言うことは、気絶したんだろうね。うわぁ……僕としたことが、やれやれである。

 

 暗闇から意識が戻った僕は、ゆっくりと上体を起こして目を開けた。

 ってか、寒いな!? 鍾乳洞の中でも割と暖かかった筈なんだけど、いきなり一月とか二月ぐらいの寒さである。

 ケセドの島エルも寒かったが、ここはそれ以上である。ああ、カバラちゃんがいないからそのせいかな。特に首元やスカートの下半身が冷えてガクガクだった。うー、さぶっ……バリアバリアっと。ヨシ。

 空を飛ぶ時と同じように異能を使って体温調節すると、僕は立ち上がって背伸びをする。軽くストレッチもして身体の動きも確かめた。

 

 うん、気絶の影響を少しだけ心配したが、特に異常は無いな。これならヒーリングタッチも不要だろう。

 

 

 

「さて、ここはどこかな?」

 

 

 おーい、ビナーさーん。

 カバラちゃんもどこー?

 心の中で呼び掛けながら、僕はこの地域に「サーチ」と「千里眼」を掛けて二人の居場所を探す。

 おそらくは、カバラの叡智とやらを手に入れる際に何らかの異常が起こって気絶したのだろう。オリ主的には死ぬほど恥ずかしいので、今からどう誤魔化すか考え中である。

 

 しかし気絶した僕をこんな場所に置いてどこかへ行ってしまうなんて、ビナー様ちょっと薄情ではないか……いかんね、この世界に来てから一人で行動することが少なくなっていたから、少しだけ心細くなっているのかもしれない。

 

 あっ……でも原作キャラの影響を受けて孤高のオリ主が少しだけ絆されていく展開……アリじゃね? そう思いながら、僕はふふっと微笑みを溢す。流石は僕、弱ささえも強みに変えるとはやはり天才か。

 

 まあ、それはそれとしてやっぱり寂しいのでカバラちゃんだけでも合流しよう。

 こんな寒いところ、モフモフが無ければやってられんで……っ!?

 

 

「……えっ?」

 

 

 ──その時、僕は思わずいつもの余裕をかなぐり捨てて声を漏らした。

 

 僕が今立っているこの場所は、どこかの高原のようだ。

 馴染み深い富士の山の景色を眺めることができる……そう、前世の僕のお気に入りの場所で──いや、なんでだよ!?

 

 

 

 ──なんで僕、地球にいるの?

 

 

 

 それも、フェアリーセイバーズの世界の超常蔓延る地球ではない。

 馴染み深い空気に、馴染み深い景色。五感で感じる全てが僕の記憶に焼き付いている世界のものであり──冷えた頭で千里眼を使って少し離れた場所を確認してみれば、そこには予想通り、前世で僕が暮らしていた町の姿があった。

 少し、町並みは変わっているが……間違いない。あれは僕の故郷だ。

 

 なにこの急展開……読者どころか、オリ主の頭が置き去りになっているんですけど。

 女神様っぽい人? これは一体……

 

 

「フッ……」

 

 

 とりあえず僕は、クールに微笑んでみた。

 落ち着け……落ち着くのだ僕。

 僕はT.P.エイト・オリーシュア、ご覧の通り転生者である。……よし、落ち着いた。

 いつだってクールでカッコいい僕だが、今は一つ言わせてもらおう。

 

 

 ──オリ主が元の世界に帰ってくるタイプのSSって、どうすればいいの?

 

 

 作者が作中に登場するSSはちょくちょく読んだことがあるが、キャラが現実の世界に登場することは現実的にあり得ないわけで。いや、そういう創作のネタはあるけども。

 

 だけどね……それをフェアリーセイバーズのSSに……僕に望む人っているのかね? エイトちゃんは訝しんだ。

 

 






 カバラの叡智はエイトが本当に欲しがっていた情報を的確に教えてくれるようです。

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