TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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 今回は真面目な話です



とある世界線と転生オリ主のお話 オリジン

 知っている高原だ。

 

 何がどうしてこの世界に戻ってきてしまったのだろうか。

 まるで、フェアリーセイバーズの世界に転生してからのことが全て夢だったかのようである。

 

 ハッ……もしかしてあの世界は、VRゲームの中だった……? ないな。

 

 その可能性は今の僕の身体が前世の僕ではなく「T.P.エイト・オリーシュア」のままであることから鑑みてあり得ない。

 夢落ちやVR落ちではないとなると、尚更意味不明の展開になるわけだけどね……カバラの叡智とやらが、僕に幻覚を見せているのだろうか?

 

 ともかく、ここは慎重に動いた方が良さそうだ。

 そう判断した僕は、とりあえずマントを脱いでアイテムボックスの中にしまっておいた。

 マントがあるとこの世界ではコスプレみたいになるが、マントを脱げばオシャレな大学生みたいなものである。郷に入っては郷に従えという言葉があるように、僕もその辺りのTPOは弁えていた。

 

 

 それにしても、この場所に来るなんてね……

 

 

 ここに来るのも久しぶりな感覚である。

 僕が転生してからそこまで時間は経っていないのだが、エイトとして見る景色は懐かしく感じた。

 

 前世では、ここから見渡せる富士山の景色をよく眺めていたものだ。

 思えば小さい頃は目標だったんだよなぁ、あの頂上に登るの。今なら山どころか、空だって飛べちゃうけどね。そう言う意味ではチート能力ほど味気ないものはないだろう。だからこそチートと呼ばれているのだから、当然だが。

 

 

 ……おっと、感傷に浸るのは後にしよう。

 

 フェアリーセイバーズの世界から離れてしまった今、この状況において有効なテンプレ行動は思いつかない。正直、途方に暮れたい気分だった。

 でも僕は切り替えの早いオリ主だ。じっとしていても事態は進展しないのである。

 

 とりあえず、町に降りて詳しく確認しようかね。

 エロヒム上陸の際に見えた盗作建造物群のように、ここから見える景色も全てビナーの模倣という可能性もないことはないのだ。

 

 そう思い、僕が富士山の景色から踵を返したその時だった。

 

 僕の「サーチ」の異能が、こちらに走り寄ってくる慌ただしい足音を感知した。

 

 

「富士山だぁー!」

 

 まさに、ダダダッという感じである。

 これは……なんだ、ただの子供か。

 現れたのがビナー様やカバラちゃんじゃなくて残念である。

 

 しかし、子供は元気だねー。富士山を見てああも無邪気に興奮しているのを見ると、同じ富士山好きとして嬉しく思うよ。

 

 富士山を新鮮な目で見ている姿から察するに、外の県からの観光客だろうか。

 小学校低学年ぐらいに見える小さな男の子の背中には、絵柄の付いたリュックサックが載っていた。……ってあれ、フェアリーセイバーズのイラストじゃん! まだグッズ化されてるの!? すげえ!

 

「あっ」

 

 ──そう思った瞬間、少年の身体が大きく傾いた。

 富士山に気を取られる余り、足元の小さな窪みに気づかなかったのである。このままいけば、彼はおむすびのようにすってんころりんだろう。

 

 

 だが──やらせないよ?

 

 

 僕がいて良かったね。

 ぽふんと、僕の腕に少年の身体が収まった。

 

「……あれ?」

 

 少年も転ぶと思っていたのか、僕に支えられた彼はキョトンとした顔を浮かべていた。

 オリンピック選手でも今の転倒には間に合わなかっただろう。しかし僕はチートオリ主である。目にも止まらぬ高速移動で彼を受け止めるのは朝飯前だった。

 目の前で転ばれるのも縁起が悪いし、せっかくの観光で痛い思い出を作ってほしくなかったしね。

 オリ主的な気まぐれである。僕の知るSSのオリ主たちだって、同じ状況なら同じことをしていた筈だ。

 ただ、今回は無事だったからと言って、なあなあにするのも良くない。

 僕は少年と間近に目を合わせて、やんわりと諭してやった。

 

「富士山は確かに素晴らしいものだけど、足元にも気をつけようね?」

「あ……う、うん……っ」

「よろしい」

「あ、ありがと……です」

「どういたしまして」

 

 ふふ、このぐらいの年頃の子供は素直だからいいよね。

 僕が「めっ」と説教してやれば、彼は嫌な顔一つせず頷いてくれた。

 親の教育が行き届いている証拠だろう。すぐに礼を言った彼のことをよしよしと褒め称えながら、僕はバランスを崩した少年の身体をそっと抱き起こすと、ついでにリュックの肩紐のズレを直してあげた。完璧なチートオリ主はアフターケアも完璧なのである。

 

 ……それにしても、この場所で転ぶとはね。なんて言うか、ノスタルジックな気分になるなぁ。

 

 僕も小さい頃は、さっきの彼のように富士山の景色に興奮するあまり段差につまずいて転んだものだ。

 すりむけた膝が痛くて痛くて大泣きしていた僕を、姉さんが苦言を呈しながら抱き起こしてくれたものだ。「男の子がみっともなく泣き喚いてるんじゃねーですよ!」とか言ってさ。

 

「ふ……」

 

 少年の姿に昔の自分が重なり、思わず笑みが溢れる。

 おっと、失礼。突然笑った僕の顔をぽかんと見つめながら、目の前の彼は呆けていた。

 僕は誤魔化すように少年の肩をポンと叩くと、屈んで目線を合わせた体勢から立ち上がりクールにこの場を去ろうとする。

 

 その時、前方から彼の両親と思わしき二人の大人がこちらに向かっているのが見えた。

 

 

「コラッ! 気をつけなきゃダメじゃない! すみませんねぇウチの子が……」

「まあ、こんなに綺麗な富士山を見たらな。男の子ならこのぐらい普通だろ。どうもすみません、ありがとうございます!」

 

 

 大人のフェロモンムンムンな美人な奥さんと、ひょろ長い夫の夫婦だった。

 二人は息子さんの怪我を未然に防いだ僕に感謝すると、恐縮そうにペコペコと頭を下げてきた。

 それを受けて僕は、いつもなら「いいってことよ」と爽やかに返していたところであろうが……二人の顔を見た瞬間、思わず固まってしまい、言うタイミングを逃してしまった。

 

 

「ふふ……っ」

 

 

 シルクハットを目深に被り直すことでこの顔に浮かべた深い笑みを隠した後、僕は再びおしどり夫婦に向き直った。

 

「ええ、ボクもその通りだと思いますよ。日本の男の子的に考えて、元気な証拠ですよね」

「お、わかりますか」

 

 芝居がかった口調で言い放った。

 特に夫の方の顔を見ていると、思わず口に出てしまうものだ。「○○的に考えて」──というのは出会った頃から続く彼の口調だからね。

 色白の肌にひょろ長い風貌、加えてその口癖……これはもう、あからさまにもうアレだと思った。故に僕は、彼を「YARANAIO」というあだ名で呼んでいた。

 その名で呼んでいると、クラスの間でも割と流行ったものである。ふふん、登校できない日は多かったけど、僕はクラスの中心人物だったのだよ! ……まあ、クラス一の美少女だった姉さんの影響だろうけどね。

 

「常識的に考えて、富士山は最高ですよね。ね? 坊や」

「うん! 僕富士山大好きー!」

「おうおう、そっかそっか。地元民として嬉しいね」

「あら、地元の方でしたの。実は私たちもこの町で育ったんです」

「そうだったんですか」

「ああ、帰省がてら、息子にもこの景色を見せてやりたくてな!」

「ここからは、この町で最高の眺めが楽しめますからね。晴れて良かったね」

「うんっ!」

 

 まさかね……よもや、よもやだよ。

 ビナー様いわく、カバラの叡智は触れた者が欲する情報を与えてくれるとのことだ。

 

 と、言うことは……これはもしかしたら──そういうことなのかもしれない。

 

 頭の中に浮かんだ仮説に対して、何より僕自身が笑ってしまう。

 これは一本取られたわ。そりゃあ、一番欲しかった情報だわ。翼やビナーには悪いけどね。

 緊張感が綻びきった顔で僕は少年の目を見つめると、前世の思い出を懐かしみながら語りかけた。

 

 

「ボクもね、キミぐらいの時は、よく転んだりして周りの人を困らせたよ」

「……お姉さんも?」

「うん。今思えば、色んな人に迷惑をかけていたなぁ……坊やも、お父さんとお母さんのこと、あまり悲しませないであげてね?」

「? うんっ!」

「いい子だ」

 

 

 僕は素直に歯切れのいい返事をくれた少年に感謝すると、その頭をわしゃりと撫でた後、今度こそ踵を返してこの場を後にした。

 これ以上この場に留まっていると、僕がT.P.エイト・オリーシュアでなくなってしまうような気がしたのだ。

 

 ……不意打ちは、ズルいよね。思わず感極まりそうになったじゃないか。

 

 

「大学生ぐらいかな? しっかりした嬢さんだったなぁ……」

「……でもあの子、どこかで見たことあるような……?」

「ん、そうか?」

 

 

 ……女神様っぽい人は、書いたSSにリアルのネタを持ち出すなってパパとママに教わらなかったのかね?

 全く、困った作者さんである。やはり彼女のSSのオリ主は、このエイトちゃんにしか務まらないようだ。やれやれである。

 

 

 ──やれやれである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全く予想していなかったマイフレンド夫婦との再会だったが、おかげで確認が取れたよ。

 

 この世界は間違いなく、前世の僕が生きた世界である。

 

 正確には、僕が死んでから何年か経った世界なのだろう。あの子は僕が知っている息子さんより大分大きくなっていたし、二人も一層夫婦らしくなっていた。

 奥さんの美貌も相変わらず……と言うか、更に磨きが掛かっている様子だし、ひょろ長の癖に羨ましい限りである。全くもって、お似合いの夫婦だ。一生幸せになりやがれ。

 

 

 それがわかった上で町を見渡してみると、ところどころ変わっている部分に気づいた。

 僕の知らない家やお店が建っていたり、潰れて無くなっている店も幾つかある。

 僕がいなくなっても時間が止まることなく回っていたこの世界を見て、少しだけ感慨に浸る。

 こんな感傷を抱くのも僕ぐらいなものだろう。ある意味貴重な体験である。

 

 

 ……みんな、元気そうで良かった。

 

 

 千里眼で市街地の方も確認してみたが、父と母は共にお変わりなく、昔と変わらず元気に商売しているようで安心した。

 僕の最期を看取った時、二人して申し訳なさそうな顔していたからなぁ……確かに僕は短命だったけど、全力で楽しみ尽くした人生だったので二人に謝られても困るのだ。寧ろ二人には、今でも感謝の気持ちしかない。

 

 前にエイトちゃんは悲しい過去を持たないオリ主だと言ったな? あれはその通りだ。

 だって僕、最高に幸福だったもの。

 僕自身は終始ポジティブだったので、必死で生き抜いた前世の人生を何ら悲しいと思わなかったのである!

 

 

 ……まあ、親より先に死んでしまったことや、周りの人たちを泣かせてしまったことは本当に申し訳ない。こればかりはどう詫びたらいいのかさえわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 ──そういうわけで、やって来ました。僕のお墓です。

 

 

 先ほどの高原から徒歩で移動すること30分。

 人通りの少ない静かな道の先に、富士山の姿を一望できる霊園があった。

 その一角に、先祖代々納骨されている僕の一族のお墓がある。

 僕が高いところが好きなことはみんな知っていたし、そう言う意味では納骨先としてこの霊園はまさにうってつけだった。

 前世の僕はここの傾斜を登るのにいつもヘトヘトになっていたものだが……あえて他の場所に、僕の骨を納めることはないだろう。

 

 元の世界に帰ったら、一度行ってみたいと思っていたんだよね。

 

 世界広しと言えど、自分自身のお墓参りに行ったことのある人間はいないだろう。

 好奇心旺盛なエイトちゃんとしては、後学の為にそういう体験も一度はしておきたかったのである。

 

 そうして霊園の中に入り、僕のお墓の元へたどり着くと──墓石の周りはびっくりするほど賑やかだった。

 

 花瓶の花がみずみずしい。つい最近、他の誰かが来たばかりなのかもしれない。

 もしかしたら、あの夫婦が来てくれたのかな?

 両脇の瓶には色とりどりの花束が添えられており、その間には飲み物がずらりと並んでいた。お酒もある。生前は肝臓が弱かったので22の時にはドクターストップが掛かっていたものだけど、死んだ後ではもう我慢する必要も無いと、解禁させてくれたのだろうか? 花瓶の横には、僕が飲みたかった銘柄のお酒がお供えされていた。

 

 うーん、これは僕、愛されていますねぇ……

 

 

「……ありがと、みんな」

 

 

 ガラにもなく、しんみりとした感情が内側から込み上がってくる。

 そして僕は、今この時だけはいつものように表面を取り繕うこともしなかった。

 

 両目から滴り落ちてきたものを袖で拭った後、僕は片膝を突いて黙祷を捧げる。

 捧げる相手はもちろん、僕の骨ではない。

 本来なら僕が同じ場所に行く筈だった──ご先祖様たちのところである。

 

 おじいちゃんとおばあちゃんが逝ったのは、前世の僕が小学校に入る前のことだった。それでも僕は、二人が幼い頃の僕をとても可愛がってくれたことを覚えている。

 

 僕の魂がまだそっちに逝っていないこと、二人は寂しがっているかな? それとも、安心しているだろうか? 後者だったらいいなと思う。

 

 親より先に死んだ親不孝者だけど、せめてご先祖様のことは安心させてあげたい。

 僕が本当の意味で貴方たちの仲間入りするのは、もう少し先だよ、と。

 女神様っぽい人のおかげで、僕にはまだやりたいことがあるからね。

 

 

「僕はここにいるよ、ご先祖様。見ての通り、こーんな美少女に生まれ変わっちゃったけど……今でも僕は、自分がやりたいことに全力さ。おじいちゃんとおばあちゃんの言いつけは、今でも守っているよ?」

 

 

 人はどうあっても、死ぬ時は死ぬ。だからそれまでに少しでも後悔を残さないように、自分がやりたいと思ったことに全力で取り組みましょう。代々伝わる我が一族の家訓である。

 

 僕がやりたいことと言えば、もちろんアレだ。完璧なチートオリ主──最高にカッコ良いボクが存在感を放ち続けること!

 

 僕は昔からカッコいい自分を演じるのが大好きで、友達同士のごっこ遊びでも全力で演じきっていたものだ。ヒーロー役でも、悪役でも。

 怖いものなしの頃は将来ハリウッドスターになるんだと意気込み、役者を目指していたこともあった。

 尤もそれは虚弱体質すぎたせいで叶わなかった夢だけど……もはや何度目になるかもわからない病欠で自室から動くことができなかったある日、僕はヒマでヒマで仕方がなく、数日前に姉と一緒に買って貰ったガラケーをベッドの中でポチポチしていた。

 新規登録のサービスにより、パケットが無料期間だったのである。

 

 

 ──そんな時に出会ったのがネット小説、すなわちSSの世界だった。

 

 

 ……と言うのが、僕がSSの沼に嵌まった経緯である。

 あの時は携帯小説サイトやら、やる夫スレやら、手当たり次第読み漁って爆笑していたものだ。

 時間すら忘れてのめり込みすぎていた時には、姉さんから「いい加減にしやがれです! 病人なんだから大人しく寝ろ!」と正論を浴び、ドアを蹴りながら怒られたものである。何事もほどほどが一番なんだけど、あの時は中学生だったので抑えが利かなかったのだ。

 

 え? 今でも利いてないだろって? 照れるなぁ。

 

 

 

 

 お? ……噂をすれば来たようだ。

 

 我が愛しの──最高のマイシスターが。

 

 

 

「──!?」

 

 

 黙祷を終えて立ち上がると、僕は今しがたやって来た一人の女性と向き合った。

 一度も染めたことがないツヤツヤな黒髪と、淡く緑がかった大きな瞳。

 妙齢に育っても十代の頃と全く変わらず、エイトちゃん並の胸部と言い、僕の記憶とほとんど変わっていなかった。

 いやはや二十代前半にしか見えないわ。流石僕の姉さん。子供を産んでから体型が激変するお母様は多いと聞くけど、彼女は今も維持しているようである。ぽっちゃり担当は、夫だけで十分ということだろう。

 ……そう言えば彼はアレから本当にオタク趣味をやめたのだろうか? 今ではスリムになっていたら超ウケるんだけど。

 

 

「どうも」

「ど、どうもですっ」

 

 

 先手を打ってこちらから挨拶すると、その女性──前世の僕のお姉ちゃんは虚を突かれたようにあたふたと髪を揺らした。自分ちの墓の前に知らない女の子がいたら、そんな反応にもなるわな。

 しかし、僕の方は偶然ではない。

 彼女が墓参りにここに来ることは、千里眼で知っていたのだ。わかっていて先回りした。

 彼女に会いたかったから。

 

 

 本当に……元気そうで良かった。

 

 

 目尻にまだ残っている涙を拭いながら、僕は爽やかなエイトちゃんスマイルを浮かべた。

 このような機会を与えてくれたのが女神様っぽい人か、カバラの叡智とやらの仕業なのかは知らないけど……酷いことをするものだ。

 

 それとも、試練のつもりなのかな? 僕が前世の未練を断ち切って、完璧なチートオリ主になれるかどうかの。

 

 だったらひくわー……これから貴方のことは女神様っぽい人ではなく、悪魔っぽい人と呼びますよー。

 エイトちゃんは人の心を弄ぶ輩は嫌いなのである。

 

 ん……お前が言うな? なんでさ。

 

 






 TS前はナードの方がいい派
 TS前はジョックの方がいい派
 TS前は普通の男の子がいい派
 TS前は筋骨隆々なイイ男がいい派
 TS前は女の子みたいな男の子がいい派
 TS前はおっさんの方がいい派
 TS前は描写しない方がいい派

 みんな違ってみんないい……TSとはそういうものだとエラい人が言っていました
 因みにエイトの前世は体質上線が細かったので、クラス一の美少女だった双子の姉とそっくりだったようです
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