TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
真っ白な世界で女神様っぽい人と再会した僕は、彼女の口から衝撃の事実を知らされることとなった。
僕を出迎えた女神様っぽい人が唐突に「真実を見せよう」とか言い出すと、何も無い真っ白な空間にテレビとBDプレーヤーを召喚し、おもむろにディスクを挿入したのがつい先ほどのことである。
現実離れした人形のような銀髪美人が真顔で採った俗な行動は控えめに言ってシュールだったが、再生されたアニメを見て、僕の目が点になった。
最新の美麗なデジタル作画で動き出したキャラクターはどう見てもフェアリーセイバーズの主人公「暁月炎」だったのである。
呆気に取られているうちにアバンタイトルから軽快なオープニングソングと共に、そのアニメのタイトルが画面に映し出された。
【フェアリーセイバーズ∞】
蒼天に輝く太陽をバックにどーんと広がるタイトル画面を見て、僕はようやく理解した。
それは、僕が死んだ後の世界で放送された作品であると。
──どうやら僕が死んでからしばらくして、アニメ「フェアリーセイバーズ」の新シリーズが放送されたらしい。
僕が死んでも時の流れが変わらないことは自分自身の墓前でしみじみと確認したばかりであるが、僕は何よりその事実に一番驚かされた。
だってよ……15年以上前の作品だぜ? あのロリコンオタクとか大喜びだろうなぁ。彼とは学生時代、マルクト様ちゃんの見えそうで見えない至高の絶対領域について熱く語り合ったことが思い出深い。
確かに同年代のアニメがデジタル作画でリメイクされることは僕が生きていた頃にも何度かあったが、まさかフェアリーセイバーズでもやるとはね。リアルタイムの視聴者としては喜びと困惑が半々である。
知る人ぞ知る厨二能力バトルアニメ「フェアリーセイバーズ」の人気は長期シリーズ化した国民的アニメには遠く及ばないものの、当時の僕のようなスタイリッシュさに憧れる男の子には根強い人気があった。
同作品に影響を受けた世代が丁度大人になってアニメ会社で働くようになり、偉いポジションについたことでリブートの企画が通ったのかもしれない。
そう思うと、なんだか自分が歳を取ったことを自覚するものである。
まあ、エイトちゃんは生まれてからまだ1年も経っていないけどね! 僕は赤ちゃんだった……?
そして今、僕は女神様っぽい人──「カロン」と名乗った銀髪の女性と共に、カーバンクル型のぬいぐるみクッションを抱えながら、横並びになって件のアニメを鑑賞していた。
こうしてうつ伏せにゴロゴロしながらアニメを視るのは至福の時間であるが、女神様っぽい人はその体勢によりただでさえ長い髪の毛が思いっきり床についてるけどいいのかな?
『良いのだ』
さいですか。
まあ、これだけ何も真っ白な世界ならホコリも付かないだろうが、隣で見ている僕が何より気になったので、彼女の髪を結ってあげることにした。
おお、流石女神様っぽい人、メアちゃんやビナー様に負けず劣らず、浜辺の砂みたいにサラサラである。見た目はウェーブが掛かった感じだけど、面白い髪質だね。
これは……ツーサイドアップとか良さそうだね。
申し訳程度だが、真っ直ぐ下ろしたストレートヘアーよりは地べたにつかないだろうし。
『感謝する』
いいってことよ。
こう見えて、僕は女の子の髪の扱いには姉さんの髪で慣れているのだよ。姉さんったら僕と違って朝はよわよわであり、中学生の時まで僕の体調が良い朝はいつも代わりに髪を結ってあげたものだ。
この世界でもエロヒムまでの移動中、メアちゃんの髪を手入れしてあげたのは僕なんだぜ。僕自身の髪はそこまで長くない上に癖が無いので弄る余地は無いが、エイトちゃんの手先は素でも結構器用なのである。
そうして僕が女神様っぽい人に転生の感謝の気持ちも込めて奉仕していると、テレビ画面に流れていくオープニングムービーの中で、数カットに及んで顔を出したキャラクターの姿に思わず手が止まった。
えっ、今映ったのって……ええ……?
それは僕の知る「フェアリーセイバーズ」には存在しない人物──僕がもう一人のオリ主だと思っていた存在、メアちゃんだったのである。
『メアはこの世界の民だ』
な……
なんだってー!?
衝撃の新事実に僕はクワッと目を見開き、うつ伏せになっている女神様っぽい人と視線を合わせた。
この世界の住民って……現地人ってことだよね?
確かに彼女と接してきたことで最初の頃に疑った「記憶を失った転生者」とは思えなくなり、現地人系のオリ主なのかな?……とは想像していたが、メアちゃんってそもそも貴方のオリキャラですらなかったの?
『そう……メアは調律者ではない』
あいやー、それはびっくりである。
フェアリーセイバーズのリブート以上に驚かされたわ。って言うか、この数十分で驚かされてばっかりだな僕。もっと言えば、エルからこれまでの間ずっと受け身に回っている気がする。
むむむ……これは由々しき事態である。僕は完璧なチートオリ主になりたいのであって、ポンコツなリアクション芸人になりたいわけではないのだ。
しかし……メアちゃんはオリ主じゃなかったのかー。
女神様っぽい人が語るには、彼女は僕の知らない公式の存在だということだ。
彼女は「フェアリーセイバーズ」の20周年記念リブート作「フェアリーセイバーズ
──実際にアニメを視聴してみると、確かにメアちゃんはがっつり登場した。
第三話という早い時期に登場した彼女だが、エンディングのキャスト順も灯ちゃんの次の三番目と中々美味しいポジションにいるようだ。
なーんだ! 僕の勘違いだったのかー。
とんだ取り越し苦労である。複数転生者、複数オリキャラ物は難しいとは何だったのか。ごめんねー。
てへっとお茶目に笑いながら、僕は自分の頭をコツンと叩く。おっちょこちょいなエイトちゃんを許してくれ。
いやあ、女神様っぽい人もそれならそうと先に言ってくれればいいのによぉ。人が悪いんだから!
……と言うことは、今まで僕は前提からして色々間違っていたということだね。
僕は「フェアリーセイバーズ」のオリ主ではなく、フェアリーセイバーズの新作アニメ「フェアリーセイバーズ∞」のオリ主だったのだ!
うん、そんなの気づくわけがないわ。
勘違い物ではよくあるネタだが、オリ主である自分自身が誰よりも深いところで勘違いしていたというオチである。やっちまったな僕。ドジっ子エイトちゃんである。
……ん? でもそれなら、メアちゃんと会った時にビビッと来たのは何だったんだろう?
あっ、もしかしたらアレか。
あの子の雰囲気が、ちょっとだけ女神様っぽい人と似ていたからか。
最初に会った時は僕も魂だけだったので女神様っぽい人の姿をじっくり見る余裕も無かったが、こうして見ると独特な存在感と人を安心させるぽわぽわした雰囲気が少し似ていることに気づいた。
体型に関しては流石にまだ子供のメアちゃんでは比べ物にならないが、メアちゃんがあと10年ぐらい成長したら大分そっくりになるかもしれない。
僕は目の前の不思議系ぽわぽわ真顔銀髪美女の姿を見て、うんうんと頷きながらそう思った。メアちゃんがこんな感じの超絶美人になったらいいなぁ……美女は何人いてもいいのである。
女神様っぽい人はその黄金の瞳でアニメの映像をじーっと見つめながら、静かに語った。
『物語は分岐した。汝の介入により、観測した世界に新たな可能性が生まれようとしている』
おう、当然だよな。
僕というオリ主が介入したのだから、本来の原作アニメ「フェアリーセイバーズ∞」と展開が変わるのは当たり前である。
しかし、そうなると僕に原作知識が無いのが怖いね。
見たところ新キャラを追加しただけのリメイク作品って感じだから、大筋は僕の知るフェアリーセイバーズとそこまで乖離していないとは思うが……僕の介入によってあらゆる事態が本来より悪くなっていたら困る。
その辺り、どうなんですかね女神様っぽい人……じゃなかったカロン様?
『汝の介入は事態を良化させている。あらゆる可能性を見させてもらったが、汝が調律した世界はこれまでに無い光を見せ始めている』
つまり僕の介入で、原作以上のハッピーエンドに向かっているってことか。
今までずっと旧フェアリーセイバーズの世界だと勘違いしていながら、そこまでいい感じに介入できていたとは流石僕である。慎重に動いていたのが幸いしたね。
ま、僕ってチートオリ主だから? 文字通り、役者が違うのである。えへん。
……しかし、カロン様の口調ってちょっと面倒くさいな。
言い回しが独特なせいで、噛み砕いて理解するまで時間が掛かってしまう。
彼女の方は僕の心を読んでいるというのに、不公平なものだ。
『……私の読心も完璧ではない。話せるのなら、話した方が有り難いと考えている』
「あっ、そうなんだ」
意外……!
カロン様は女神様っぽい人だから、僕が頭に思考を浮かべるだけでも意思疎通が成立していたのだ。
しかしそんな彼女をしても会話がしたいと思うのは、結局のところ言葉に勝るコミュニケーションは無いってことかね。
思えば最初に会った時は僕も魂だけだったからね。言葉を発せられる肉体を持って会うことができたのは、今回が初めてである。
「じゃあ改めまして、ボクはT.P.エイト・オリーシュア。キミの物語を導く者だよ」
『知っている。汝は私が思っていた以上に、我が世界に多くの功績を残してくれた』
「まだまだこれからさ。ボクにはもっともっとやりたいことがあるし、貴方にもたくさん恩返しをしたいと思っている」
『そう……』
僕の心は筒抜けだろうけど、一応言葉でも伝えておくね。
僕は完璧なチートオリ主を目指している。それは僕にとっての完璧であるが、彼女にとっての完璧でもあるのだ。
お互いの思惑が一致して始めた僕たちの物語だ。だったら僕とカロン様、両方が満足できないとね。
SSというものはね……誰にも邪魔されず、自由で、何というか救われてなきゃいけないんだ。
僕たちが生きる世界もまたれっきとした現実だけど、オリ主として生きている以上はずっとそう思っていた。
そんな僕に、カロン様が何か考え事をするように目を瞑りながら言う。
『しかし、汝は以前の世界を愛している。汝が望むのなら、私の力でその魂を元の世界に還すこともできるが……』
「今更だよ、カロン様。──はもういなくなった。あの時、生きたことに満足して死んだんだ。
だから、もういい……素敵なご褒美をくれて、ありがとね。おかげで、一生会えなかった筈のかわいい姪っ子の姿を見ることができた」
『そう、か……』
うん。その口ぶりからすると、やっぱりあの世界に送り出してくれたのは貴方の善意だったんだね。
部下の働きに一番嬉しい褒美を与えるとか、理想の上司かよ。
よっ、カロン様! 優しい! 美しい! カッコいい! 世界一! あっ、ツーサイドアップ完成したよ。半分ぐらい直感で試してみたけどめっちゃ似合うやん。ツインテールとは違って幼い印象になりすぎないのが、彼女の容姿にマッチしている。まさに深窓の美女って感じで綺麗だぜ!
『……それほどでもない』
心の中であらゆる賞賛の言葉を彼女に浴びせると、人形のように無表情だったカロン様の顔が少しだけ綻んだ。
その様子はどこか照れているみたいでかわいい。いや、そう思うのは不敬か。おかわいらしいでござる。
女神様っぽいカロン様は再び視線を外してアニメを視る。
僕もこれまで彼女と話しながら、その目ではしっかりアニメ「フェアリーセイバーズ∞」を視ていたが──くっそ面白いじゃんコレ!
まだ序盤であり旧作とあんまり展開が変わっていないが、リメイク作として実に完成度が高い。セル画派の僕がデジタルもすげぇって感動するぐらいには、最新の映像技術に驚いていた。
無言で画面を見つめていると、「風岡翼」の初登場回である第四話が終了しいい感じなエンディングが流れた。新作はいつもの三人が揃うのに四話も使うのか……尺も前回より余裕があるのかもしれないね。前世の世界で僕が生きていたなら、毎週童心に返って楽しみにしていたかもしれないね。叶わぬ仮定であるが。
『調律者エイト。汝は私に聞きたいことがあったのではなかったのか?』
──おっと、そうだった。てか、オリ主のことを「調律者」って呼ぶのスタイリッシュな呼び方でカッコいいな。今度僕も使ってみよう。ハープ弾いてるし、丁度いい表現である。
暗闇の中からマントを翻し、どこからともなくパッと現れて「ボクはエイト……ただの調律者さ」とかキメ顔で言うの、めっちゃいいじゃん? 女神様っぽい人はどう思う。
『わからない』
何だよー、SS作者ならそのぐらいわかっておかないと、後々大変だよ?
なんだかんだで僕みたいな読者層は根強いのである。SS作者的に考えて、需要を押さえておくのは大事だ。
『わからない……』
むぅ……しょうがないね。
おっと、また脱線してしまった。いけないいけない。
初めて知った「フェアリーセイバーズ∞」という新作アニメの存在に、頭の中がハッピーセットになってしまったようだ。あっ、メインメニューに戻った。このディスクは終わりだね。一枚に四話も収録されていれば、アニメBDとしては十分すぎるだろう。
是非続きも視たいところだが、その前に僕は女神様っぽい人に聞きたいことがあった。
本当は「カバラの叡智」とやらに聞くつもりだったのだが、こうして彼女に会えた以上手間が省けたね。
ん? 待てよ……妙だな。確かビナー様は、カバラの叡智って世界樹サフィラの根っこの破片だと言っていたよね?
……で、僕がそこにアクセスした瞬間、不思議なことが起こって前世の世界に移動してしまったと。
そして今も不思議なことが起こり、突如として真っ白な世界へ移動し女神様っぽい人と対面した。
……ふむ。
これは、あくまでも僕の想像だが。
もしかして女神様っぽい人──カロン様の正体って……
「サフィラなのかい?」
再生が終了したディスクを寝転んだ体勢のまま抜き取っている彼女の姿を見つめて、僕はそう問い質した。
その瞬間、彼女の身体がピタリと止まる。……いや、こっちにお尻を突き出した姿勢で止まるのはやめなよはしたない。スカートの中見えてるから。
そう心の中で指摘すると、彼女はキョトンとした顔でペタンと座り込むと、寝転んだ姿勢から女の子座りに切り替わって僕と向き合った。
不思議系美女か! なんだか、フェアリーセイバーズの一キャラクターとしてもやっていけそうなほど濃いなアンタ。
……いや、ある意味では彼女もフェアリーセイバーズのキャラなのだろう。僕は今しがた、その事実に思い至ったのである。
『何故そう思う?』
「これまでの状況から考えて、だね。別に隠す気もなかったでしょう?」
『……ふむ』
なんでも教えてくれるカバラの叡智に願った瞬間、僕の前に彼女が現れた。
その事実を鑑みて、これまでの流れから彼女こそが「世界樹サフィラ」の管制人格的な存在なのではないかと思ったのだ。
ほら、みんなも好きだろう? 物凄い力を持った無機物に宿っている、美女の姿をした管制人格って。世界樹が無機物なのか、有機物なのかは知らないけど。
しかしそういう要素を持つ銀髪美女とか、存在からしてもう薄幸のヒロイン感があるよね。同じ銀髪キャラのメアちゃんと激しくキャラ被りしてしまっているのが惜しいところである。
その事実を悲しく思いながら労りの眼差しを送ると、彼女は抑揚の薄い声で答えた。
『如何にも。私は世界樹の代弁者……サフィラの意思そのものだ』
……一つ、思ったことがある。
そんなことを、アニメのイラストが描かれたディスクを持ちながら言っても威厳が無いし、全くカッコつかないなって。いや、僕にとっては中々衝撃的な筈の新事実なんだけどね?
ただ、彼女の行動のシュールさが勝り、思ったほど衝撃を受けることができなかったのが残念だった。
なっちゃいない……ミステリアスムーブがなっちゃいないよ、カロン様……見ているのが僕だけで良かったなと、僕は心からそう思った。
私的に銀髪のヒロインの目の色と言えば大体金色のイメージがあります。