TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
不思議な女性ラファエルと出会った風岡翼少年は、その翌日から彼女と交流を深めることになった。
「疾風」の異能を持つ翼と同じく風を操る能力に長けた彼女は懇切丁寧に、誰よりもわかりやすく彼に指導していた。
そんな彼女のことを翼は表面上は師匠として慕っていた。
そして彼は1年後、10歳の頃に起こったある事件をきっかけにそれ以上の想いを抱くこととなった。
自身が巻き込まれた悪の組織「PSYエンス」による異能使いの連続誘拐事件を、彼女が颯爽と現れて解決したのである。
不幸にもその事件の被害者の一人になってしまった翼は、冷たい蔵に押し込められた諦めの中で、そっと手を差し伸べてくれた彼女の姿を見て、その瞳を震わせた。
「ラファエル、姉さん……」
「帰ろう、ツバサ。貴方のいるべき場所は、ここじゃないわ」
「……うん……うんっ……!」
彼が孤児院から攫われたと聞くなり大急ぎで駆けつけてきたラファエルの背中には、四枚もの純白の羽が広がっていた。
その時の彼女は「異能の応用だよ」と誤魔化していたが……視聴者目線では中々無理のある誤魔化しである。
いや、作中の時系列的にまだ天使型の聖獣の存在は知られていないから、それで誤魔化せると言えば誤魔化せるんだろうけどね? 僕だったら「実はボク、キミを助けるために空の彼方からやってきた天使なんだ」って感じに、寧ろ開き直ってあることないこと語って丸め込んでいたところである。
しかし、そんな誤魔化しの下手なところが……いいよね。
翼の為に身バレを一切恐れず、人外の生き物である自らの正体を晒した彼女の姿を僕は尊く思った。
うーん、カッコいいなぁラファエルさん。僕もあんな感じにキメてみたいものである。僕もPSYエンスに攫われたクソガキを助けてあげたことはあるけど、あそこまでスタイリッシュに決められたかは微妙だった。
おっ、エンディング始まったね。今は懐かしい、昔ながらの止めて引く演出である。
この曲の伴奏、ハーモニカを使っているとは中々粋だね。ラファエルさんのテーマにぴったりな曲である。特殊エンディングなのかな? 映像も翼とラファエルが中心で、セイバーズの皆さんがちょこっとしか登場していないし、まるで翼が主人公みたいなエンディングである。
……だけどこの過去回、思ったより長いな。前回のBパートと今回の一話を丸々使って、まだ次回に続くとは。カロン様の編集でカットされていなければ中々の時間になっていたところである。
『次が最後だ』
あらそう。じゃあ次で事の顛末がわかるのかね。
ラファエルさんが故人であることを知っている以上、約束されたバッドエンド臭がするが……これは、僕も気を確かにして視なければ!
はい。
僕は今、女神様っぽい人こと「世界樹サフィラ」の意思、カロン様の意向に従って二人仲良くアニメを鑑賞していた。
先ほど視聴した回は「フェアリーセイバーズ∞」の第37話「翼とラファエル」である。
つい先ほど第4話を見終えたばかりであるにも関わらず、間をすっ飛ばしてその回を視ることになったのは、この回で僕が知りたかった話──翼の過去が明かされたからという話だった。
それは市販のBDではなく、カロン様所有のハードディスクに録画されていたものであったが……CMをカットしているのはもちろん、翼とラファエルの登場シーンだけを抽出して編集されたおあつらえ向きな内容だった。
こんなものを用意しているなんて、カロン様って翼推しなの? あの子に女性人気があるのはわかるけど貴方もその口か。
『救世主たちの行動は、全て個別に纏めている』
おおう……全員が推しのガチ勢でしたか。生言って申し訳ございませんでした。
『カザオカ・ツバサとラファエルの過去を、汝が求めていることはわかっていた。故に、用意していた』
僕の為に事前に用意してくれたのね。気遣いの女神様かよ。助かります!
うん、実に助かるね。「ツバサの過去に何があったの?」と訊ねた僕の質問に対して、彼女がおもむろにリモコンを取り出してハードディスクの中を漁り出した時は何事かと思ったが、まさかこんな方法で教えてくれるとは。
僕の知らない「フェアリーセイバーズ∞」という新作アニメでは、旧作では語られなかった風岡翼の過去がしっかりと描写されていた。
これを視ることで、僕は原作介入に役立つ本来の「原作知識」を獲得することができたのだ。
確かに実際に原作アニメを視聴するこの方法ならば何よりも情報が正確であり、原作知識で無双するチートオリ主としてはオリ主らしくはある。
だけど、もっとこう……僕としては何とも言えない顔になった。だって、ねぇ?
リアルの世界で本物の風岡翼とそこそこ話している身としては、このような方法で過去を覗き見ることに少しばかり罪悪感を感じているのもある。
いや、今まで散々原作知識をひけらかしておいて何言ってんだとは僕自身も思うが、何と言うか彼の大切な思い出を覗くのは微妙な気分だったのだ。
だが……それはそれとして、すごく出来が良いじゃないかフェアリーセイバーズ∞!
安定した作画のクオリティーは言わずもがな。
当時と変わらないキャスト陣はかつてより声優として円熟している為か、より高くなった演技力でシーン一つ一つを鮮やかに彩っていた。
カロン様の編集により何故か後期オープニングはカットされていたが、BGMも軒並み良いし、どうせなら前世の僕が死ぬまでにやってほしかったぐらいだった。
それに、先ほど「第37話」とサラッと言ったがこの話数はとっくに旧作「フェアリーセイバーズ」の全話数を超えている。
もしかして好評につき、全50話ぐらいやっちゃう感じなのかな? 僕の世代のアニメが今の子供たちにもウケているとしたら、とても嬉しい話である。
やっぱりキャラかな? 炎、翼、長太カッコE! 灯ちゃんとメアちゃんかわE!とかそう言う方向でもウケていそうである。
因みに、次の第38話が直近で放送された最新話らしい。
これは翼の過去回だから他の回とは完全に独立している感じだが、ここまでクオリティーが高いと本編がどうなっているのか激しく気になるところだ。
もしかして今は、旧作で駆け足だった異世界編をじっくりやっている感じなのかな? だったら面白そうだ。
……ねーカロン様ー、ここで全話視ていってもいい?
『そこまでの時間は無い。流石の汝も、残り30分が限度だろう。それ以上過ぎれば汝は、元の世界に帰れなくなる』
あらら、それは残念だ。一話から四話までのんびり視ていたのがマズかったね……時間に限りがあるのなら、重要そうなところだけピックアップしてもらえば良かったわ。
あっ、もしかして僕がこうしている間、カバラちゃんとビナー様はずっと外で待っている感じ?
『そうだ』
あちゃー……なら一旦戻って、事情を説明した後にまた入ろうかね。
それならいいだろう?
『駄目だ。ここにいる私はサフィラより一時的に割り込んだ分体に過ぎない。汝が次に来る頃には、ここにいる私は消滅している』
「そっか……」
ふむ……ということは、貴方の本体は世界樹サフィラにいるってことだね。
どちらにせよこの島の次はあそこに行く予定だから、丁度良いか。
──よし。それじゃあ次の話を視たら帰ろうか。
『……わかった。私は汝の要求に従う』
シリアスな間を置いた後、カロン様は神妙な顔でテレビのリモコンを操作する。女神様っぽい顔をして、やることが庶民的すぎるわ。
しかしその表情はまさしく決戦に赴く戦士のようだったので、僕は無粋なツッコミを入れることなく無言で流し、風岡翼の追憶編最終回を見届けることにした。
サブタイトルは……【そして天使は風となった】か。
なんだかこの時点で不穏な予感がする。おっ、始まった始まった。
…………
……!
……!?
がんばえー! ラファエルさーん!
…………
……っ
……ああ……ああああ……!
「グスッ……」
全てを見終わった後、僕は泣いていた。
なんてこった……天使ラファエルさんの儚くも美しい最期に、僕の目から涙がこぼれ落ちる。
フェアリーセイバーズ∞第38話「そして天使は風になった」──この目でしかと見届けたよ。
そうか……翼にこんな過去があったんだ。
ラファエルさん……最初から最後まで、いい人だったね。まさしくエンジェルである。
ラファエルさんは風になった。
自らの全生命を捧げて、人間世界を襲った「深淵のクリファ」を封印したのである。
──そう、アビスだ。
翼が12歳の頃、丁度小学校の卒業式の日にそれは起こった。
翼とラファエルの師弟関係も3年目となり、順調にすくすくと育っていく愛弟子の成長を見て、そろそろ独り立ち──フェアリーバーストに至る日も近いと喜び、ラファエルは目を細めていた。
前話だとまだショタショタしかった翼少年も、この頃にはちらほら今の面影が見え始めている感じで、あどけなさとカッコ良さを両立させたいい感じの男の子になっていた。
──そんなある日、彼らのいる町に、突如として異世界のゲートが開いたのである。
禍々しいゲートから姿を現したのは、迷い込んできた聖獣ではなく……スライム状の不定形存在──アビスだった。
アビスは通りすがりのチンピラを捕食すると、町の人々を無差別に襲い始めた。
地元のセイバーズも出撃するが、対応が間に合わない。
最初に出現したアビスを皮切りに、次々とゲートから現れるアビスの群れに町中がパニックとなった。
──そこに駆けつけたのが、我らが天使ラファエルさんである。
敵の正体がアビスであることを即座に見抜いた彼女は、人間への擬態を解除し六枚の翼をお披露目して町に降臨した。四枚ではなく六枚である。翼の面倒を見るようになってから、彼女自身も天使として一段階上に進化していた。
もちろん、翼は置いてきた。彼も自衛手段は持っているが、渦中に飛び込むにはまだ未熟すぎるからだ。「オレも行くよ!」と言った彼の申し出をラファエルは断り、再会を約束して単身その場に飛び込んでいったのである。
そして──その町のセイバーズすら手こずるアビスの群れを相手に、たった一人で獅子奮迅の活躍を披露する彼女の姿は圧巻の一言だった。
翼と約束した時は露骨な死亡フラグを立てたように思われたが、「あれ? これは普通に生き残れるんじゃね?」と思うほどに、彼女は大立ち回りを演じていたのだ。
しかし気色が変わったのは、粗方片付いたところで更なる増援がゲートから現れてからのことだった。
「深淵のクリファ……カイツール!」
通常のアビスとは別格の禍々しさを放つその姿を見て、作中のラファエルさんが叫んだ。
その瞬間、僕は「またお前か!」と驚いた。
カイツールってアレやん……ケセドを不在にした黒幕じゃないか。なんて奴だこんちきしょう。
感情の行き場が無かった僕は、じーっと女神様っぽいカロン様の姿を見つめる。
カロン様はどこか居心地の悪そうな顔で画面を眺めていた。
そうか……「深淵のクリファ」という存在も、メアちゃんと同じで「フェアリーセイバーズ∞」の新規キャラクターだったんだね。
そうなるとこのアニメは、リブートであっても過去そのものの焼き直しでは無いということか。
旧作のアニメ視聴者としてはその方が新鮮で面白みがあるが、その世界にリアルで生きている身としては非常にキツい展開だった。
敵が旧作より圧倒的に強いとなれば、僕のようなチートオリ主を突っ込みたくなるのもわかるというものだ。
……って言うか、カイツールって次元の裂け目とやらに封印されているんでしょ? それにしては頻繁に出入りしすぎじゃない彼。一体どうなっているんだ!? 説明しろケテル!
『アレはカイツールであってカイツールではない。カイツール本体が、自らの存在を切り離した分体だ。サフィラにおける私に当たる』
おっ、解説サンクス。
一番詳しそうで一番やらかしてそうなケテルに聞いてみようと思っていたことを、隣の彼女が親切に教えてくれた。
言ってみれば、世界樹サフィラは大天使と密接に関係するお母さんみたいなものだからなぁ……情報源としてはアイン・ソフ並に信用できるだろう。
『おかあ、さん……?』
なんやそんな鳩が豆鉄砲食らった顔して。
しかしカイツール……封印された身でありながら、分体を作ってお外に放ってくる存在か。何と言う傍迷惑な奴。
本体は封印されているのだから、ケテルやコクマーなら軽くやっつけられないもんかね?
『倒すことは可能だが、消滅させることは不可能だ。フェアリーバーストに至った異能使いの力でなければ、何度倒されようと生まれ変わるのみ。より強力になって』
ああ、そうか……だから倒すに倒せないということだね。
厄介だなぁ……アディシェスを見た感じ再生力も高いから、暴れそうになる度に半殺しにして放置することもできないだろうし。生かさず殺さず無力化する為には、封印するのが最適解というわけだ。
……無力化できていないけどね、現状。
『……すまない』
い、いや、カロン様を責めているわけじゃないよ?
僕はオリ主だけど、善人の頑張りに対して上から目線でSEKKYOUするのはパワハラ上司みたいで好かんのである。
「しかし、これは……」
カイツールの分体はラファエルさんの姿を模倣すると、本物以上に強大な力を解放していった。
天使のラファエルさんに対応して、まるで堕天使のような姿である。
画面ではそんな二人の劇場版さながらの超作画による壮絶な戦闘が繰り広げられ、町一帯巨大ハリケーンに襲われたような光景が広がっていく。
どちらも強い。
ラファエルさんはサフィラス十大天使に迫る力を披露していたし、カイツールの分体も通常のアビスとは比較にならず、分体とは思えないほどの力を発揮していた。
そして──
ラファエルさんは全ての力を解放し、カイツールの分体と相打ちになった。
彼女は腹を貫かれながらも必死で組み付き、その身体の半身が光の粉に成り果てようとも風の槍で敵の頭部を刺し貫いたのである。
そしてカイツールの分体と共に消えゆく彼女は、息を切らしながらその場に駆けつけた愛弟子──風岡翼少年に対して優しく呼び掛けたのだった。
「ツバサ、私は肯定する。たとえ他の誰かが貴方を否定しても、私は貴方を愛している。そんな私のように、貴方もいつか……貴方のことをちゃんと理解してくれる人と、出会える筈。だから私は、貴方の行く末を祝福するわ……いつまでも」
無音の演出の中で大粒の涙を流して叫ぶ翼を前に、ラファエルさんは最期まで笑顔だった。
そんな彼女が言い残していったのは、愛弟子に対する最後の指導だった。
「だから、私のことは気にしないで。貴方は未来を生きなさい、ツバサ」
「……! 姉さん……っ、姉さああああん!!」
泣き叫ぶ彼を見て、ラファエルが嘆息する。
そして自分の死が彼のトラウマとして刻まれ、一生引き摺ることを恐れたのか……彼女はそんな彼を見て、最後の力で彼の記憶に封印を施したのである。
そうして眠りに落ちた少年の前で、彼女は──心優しき天使ラファエルは風となって、世界から消滅したのである。
そして流れていくいい感じの特殊エンディング。
幼い翼を甲斐甲斐しく指導する彼女の一枚絵を見て、僕の涙腺が崩壊したというわけだ。
僕は翼本人から聞かされた情報により彼女と死に別れる展開になることはわかっていたし、覚悟もしていた。
しかし、こんな……前回であれほど丁寧に彼女との交流を描いておきながら! 脚本の人には人の心が無いのか……!?
うう……なんてことだ……なんてことだ……
「……ラファエル……っ」
『調律者、エイト……』
あっ、背中を擦ってくれてありがとねカロン様。
昔から、こういうの弱いんだよ僕。
みっともなくびえんびえん泣いている僕を見て、カロン様は自身も悲しそうな顔を浮かべていた。
──だけど、僕は戦うよ。戦ってみせるよ。
これで風岡翼のことを、前よりも理解することができた。
落ち込む彼に対して具体的な解決策は何も浮かんでいないが、これを視る前と後では行動のモチベーションが段違いなのである。
そうとも、原作キャラの救済こそがオリ主の使命ならば……お姉ちゃんを失い、悲しみに沈む彼の心を立ち直らせることが、今の僕がやるべきことだ!
……僕にも、大好きな姉さんがいたからね。
そう言う意味でも彼には少しでも寄り添ってあげたい思いもあった。
僕のオリ主力をたっぷりと味わわせてやる! 覚悟しておけよ、翼ァ!