TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
光が消えていく。
それは、T.P.エイト・オリーシュアがカバラの叡智に触れて一時間が経過した時のことだった。
これほどの時間を持ちこたえられるとは、まさしく桁違いの器である。彼女は一体、どれほどの叡智を引き出したのかとビナーは驚嘆する。
だが、それ以上に驚いたのが、事が終わった際に見えたエイトの顔である。
彼女は泣いていた。
悲しみの涙を流し、嗚咽を漏らしていたのだ。
それを見てビナーのもとで待っていたカバラちゃんが慌てたように駆け出すと、肩に飛び乗って彼女の涙を舌で拭った。
エイトはカバラちゃんの頭をそっと撫でて微笑む。大丈夫、大丈夫と言い聞かせ……誰にも心配を掛けさせまいとする、気丈な笑みを浮かべていた。
『どうやら……真実を知ったみたいだね』
彼女が泣くほどの真実──すなわち、彼女は見たのだろう。
風岡翼の過去を。
天使ラファエルの最期を。
エイトは小さく首肯し、カバラちゃんを抱き抱えると立ち上がってビナーと向かい合った。
「この目で見せてもらったよ。ボクが一番知りたかった真実を……共に、乗り越えなければならない過去を」
カバラの叡智は触れた者によって、与えられる叡智が異なる。
翼の過去を心から知りたいと願った彼女は、その真実にたどり着いたようだ。
彼にとってはあまりに残酷すぎる、真実に。
『……忘れたままにしてあげた方が、良かったのかな……』
今しがたエイトが流した涙と、かつて翼がここで浮かべた絶望の表情を思い出し、ビナーが呟く。
翼がフェアリーバーストを発動するに当たって、己の失った過去を取り戻すことは必要不可欠だった。
しかし、今あのように苦しんでいる彼の姿を見ると、その判断が間違っていたのではないかと感じていた。
「カバラの叡智は無限の知識を与えてくれる」
そんなビナーに、エイトが言った。
「ツバサも世界樹の根に祈って、封じられた記憶を取り戻したのだろう? と言うことは、彼は記憶を封じられながらも心のどこかではずっと求めていたんだ。優しいお姉さんとの思い出を」
……そうだ。
翼もこのカバラの叡智に触れた。その結果、彼が心の奥底で何よりも欲していた情報──ラファエルとの出会いと別れを思い出させた。それは彼をフェアリーバーストに至らせるビナーの目論見通りであったが、他でもない風岡翼自身の望みでもあったのだ。
「大丈夫だよ、ビナー。彼は必ず乗り越える……ボクの知るカザオカ・ツバサなら、必ずね」
その顔に不安と罪悪感を浮かべたビナーに向かって、エイトが澄んだ瞳で言い放った。
迷いの無いその言葉に、ビナーがたじろぐ。
どこまでも彼のことを信じ切っているその目は、まるで生前のラファエルを見ているようだった。
「たとえ一人では乗り越えられなくても、彼には彼を信じる仲間がいる。そして……ボクがいる。ボクがいる限り、どんなお悩みも解決さ。嫌いなんだ、バッドエンドは」
すれ違うように歩き出し、彼女がビナーの肩にポンと手を添える。
自信満々な物言いは、こちらまで安心を感じるほど頼もしく聞こえた。
やはり、彼女なら救うことができる。そう思えるほどに。
ビナーはエイトの迷い無き瞳に、確かな希望を見つけた。
『ダァト……』
「ふ……」
真実の名を呼ぶと、彼女は困ったように小さく笑う。
T.P.エイト・オリーシュアはこれまで自分がダァトであることを、一度として肯定していない。
しかし、明確に否定することもしなかった。まるで「ダァト」という名前は人物のことを指すのではなく──その行動によって示されるものであると、語っているかのように。
人間の世界には、「男は黙って背中で語る」という言葉がある。本当に強い男は言葉では無く、行動を以って寡黙に示すという意味だ。彼女は男ではないが、彼女の背中にはまさにその言葉が当てはまっているように思えた。
『敵わないな……』
ケテルが愛していた原初の大天使、ダァト。
音に聞こえた彼女に少しでも近づければ、ケテルも自分を認めてくれるのではないかと思った。
でも、駄目だった。
その考えは間違っていたのだ。
「本物」を見て、ビナーは理解した。何故、あの時ケテルが激昂し、この片翼を消し去ったのか。
ケテルが怒るのも当然である。見た目が似ているだけで、「本物」に近づける筈もない。
本物のダァトはこれほどまで気高く、麗しく、誇り高い存在なのだから。
「行ってくる」
そして、T.P.エイト・オリーシュアはカバラの遺跡から飛び去っていった。
テレポーテーションを使い、再び向かったのだろう。風岡翼の居場所へ。
ビナーはその頼もしき背中に、賭けてみたいと思った。
やべぇ……ダァトのこと訊くの忘れてた……
し、仕方なかったんや……!
いきなり前世の地球に放り込まれたと思ったら、マイフレンドたちや姉さんと再会して、夢にまで見た姪っ子の姿も見てヘブン状態である。
それから女神様っぽい人ことカロン様と会って、まさかの「フェアリーセイバーズ」のリブートを知り、アニメ「フェアリーセイバーズ∞」を見せてもらった。そして感動の風岡翼追憶編を見終えたとなれば、もう頭の中は何も考えられないに決まっているでしょ!?
なんもかんも、あそこで受けた衝撃の数々が濃厚すぎたのが悪い。
そりゃあそれらの情報と比べたら、僕の身体の正体なんて優先順位は低いよ。だからカロン様に訊くのをうっかり忘れてしまっても仕方がない。仕方がなかったんや! だから僕は悪くないっ。
……誰? 今メガトンコインとか言った奴。
ま、まあ大丈夫。
僕の身体の正体は訊きそびれたが、その代わりと言っちゃなんだがカロン様の正体を知ることができた。
彼女の正体は「世界樹サフィラ」の管制人格的な存在。その本体は世界樹にある。と言うことは、世界樹に行けば彼女ともまた会うことができるのだ。
その時にでも訊ねれば、「ダァト」についてははっきりするだろう。ビナー様もあまり詮索しないようにしてくれているみたいだしね。RPGで言えば、所詮はサブクエストよ。
僕はゲームをする時はメインクエストを粗方片付け終えた後、サブクエストをじっくり攻略していくタイプのプレイヤーなのである! 推奨レベルを大きく上回った状態でやってみると、俺TUEEE感があって楽しいからね。
よって、この状況におけるメインクエスト──今僕が一番優先するべきことは風岡翼のお悩み解決だ。
そう言う意味ではカロン様との対面で得た知識は、これ以上無く役に立つものだった。
彼を慰めるにせよ、発破を掛けるにせよ……彼の過去を理解しておかなければどうすることも難しいからだ。
僕もまだ、具体的にどうするかはまだ決めていない。もう一度話した後、彼の反応を見て臨機応変に対応しようとは考えていたが。
そう言うわけで、再びやって来ましたオアシスの地。
結構長い時間向こうにいた気がするが、こちらではそれほど時間が経っていないのだろう。まだ日は高く、空は明るかった。
さて、翼はどこかな? 気配はこの辺りに感じるから、まだ近くにいる筈……ん?
「うあああああっっ!」
……暁月炎と風岡翼が、二人で取っ組み合いながら坂道をゴロゴロ転がっていた。何やってんのお前ら。
「しつこいんだよ! もう構うな!」
「……っ」
あ、炎君ぶん投げられた。
美しい背負い投げで、そのままオアシスの泉にドボンッ!である。うーん、いい投げっぷりだ。
ぷんすかと苛立たしげに吐き捨てた後、翼はこちらを一瞥して一瞬だけ目を見開いたかと思えば、風を纏ってこの場から飛び去っていった。あらら、逃げちゃったよ。残念。
……これは、炎がやっちゃった感じかな。バッドコミュニケーションって奴を。
しかし話し合いの結果翼の怒りを買ってしまったのなら、まだ何とかなる。何事も、無関心が一番駄目だからね。怒っているうちには説得の芽はあるものだ。
特に暁月炎は新アニメ「フェアリーセイバーズ∞」でも旧作と変わらず主人公を務めている男だ。僕がカバラの叡智に触れている間二人に何があったのかは知らないが、何かしらの進展はあったと思いたい。
「……翼……お前は……」
「大丈夫?」
「……エイトか」
「カバラちゃんもいるよ」
「キュー」
泉の浅瀬から顔を出した炎に向かって、僕とカバラちゃんが呼びかける。
あっ、やっぱ凄い綺麗だねこの泉。中が透け透けである。
空気を読めなくて申し訳ないが、泉の水に肩まで浸かっている彼の姿を見て、僕はとても気持ち良さそうだと思った。
本当はアイテムボックスに持ち込んできた水着を着て泳ぎたかったところだが、遊泳禁止かもしれないからやめておこう。
僕は謙虚なので、ブーツを脱いで素足で浅瀬に浸かるだけに留めておく。
ふー……冷たくて気持ちいいね。海とか川とか、ほとんど行ったことなかったからなぁ。エイトちゃんはクールなオリ主なので無邪気に走り回るようなことはしないが、水遊びには興味があった。おっと、水しぶきがスカートに掛からないようにしなきゃ。
「他のみんなはどうしたんだい?」
「……近くの町、「ヘット」に戻った。俺はここにアイツがいることを知って、追いかけてきたが……上手くいかなかった」
「そっか」
スカートの裾を膝まで上げながら、パシャパシャと水を蹴って冷たい感触を足で楽しむ。
そうしていると泉から上がってきた炎が陸地に腰を下ろすと、自身の指に着火した焔で自らの身体を服諸共乾かし始めた。うーん、便利!
「ボクも前に世話になったけど、便利だよねキミの力。雨の中でもすぐに乾かすことができるだろう?」
「……ああ」
長太が暴走した時のことを思い出して今一度その力を讃えてみるが、炎から返ってきたのは薄い反応だった。
テンション低いなぁ! 取っ組み合って泉にぶん投げられたぐらいだから、翼を説得しようとして盛大に失敗したのはわかるけども。くよくよしても始まらないよー?
マッチのように人差し指に灯らせた焔で自らの身体を乾かしながら、炎は意気消沈した顔で泉を眺めていた。黄昏れる男の子って感じである。青春の1ページ感があっていいよね……話がここまで重くなければ。
そう、重いのだ。
炎もおそらく、説得に踏み込んだ結果、翼から返ってきた予想以上にヘビーな事情を受けて困惑しているのだろう。わかるよその気持ち。
だけど、君は主人公だ。僕もオリ主だけど、そこで挫けているわけにはいくまい。
「やまない雨は無いよ、エン」
「……?」
僕が浅瀬の上を踊るように歩き回っていると、カバラちゃんも水面に興味を持ったのか、下に降りて泉の上をぷかぷかと泳ぎ始めた。温泉の時も思ったけど、泳ぐの上手いね君……三十分間回泳ぐらいなら軽々達成しそうな雰囲気がある。僕はできなかったけど。小学生の頃、水泳の授業は楽しそうだったが、碌に参加できなかったのが心残りである。
そういう意味ではこうしてまともに水と戯れることができるのは、僕にとって得難い体験だった。
もうね、思わず笑みが浮かんじゃうよね。
「……! おいっ」
あっ、やべっ、はしゃぎすぎて深いところまで落ちちゃった。
だ、大丈夫だし……今のは滑って転んだんじゃなくて、わざと飛び込んだだけだし。スイミングエイトちゃんである。
足どころか全身まで泉の水に浸かってしまった僕は、開き直って泉の中の景色を楽しんだ後、浅瀬に出てぷふぁーっと深呼吸するなり炎のもとへと歩いていった。
水の中も、やっぱり綺麗だったよー。
んー? なんだよその目……ああ……ごめんね。
彼のもとに向かった際、目のやり場に困っている炎の様子に気づかないほど、僕は鈍感ではなかった。
うわっ……長太が暴走した時より酷いことになってるね僕。
これは良くない。衣装の構造上透けてはいないけど、衣装に水が染みこんでピッチピチである。ピュアな男の子なら反射的に目を背けてしまう光景だろう。
と言うわけで……
「乾かして」
「あ、ああ……」
にこりと笑って頼み込む。いやあ、君も濡れているのに余計な仕事を増やして悪いね。
それも全て、この泉が綺麗すぎるのが悪いのだ。澄み切った川とか海に目が入ってしまうあまり、思わず中に飛び込んでしまう子供っているよね。僕は子供じゃないが。
ああー……炎君の焔、温かいのう。まるで真冬に点けた家のストーブのようである。冬場のシーズンは一家に一台、暁月炎をよろしくと言いたい感じだ。
「よいしょっと……」
「ん……?」
おもむろに彼の隣へと腰を下ろすと、僕は体育座りの姿勢で泉の景色を眺めた。
うむ、美しいね。あと、水面をスィーッと背泳ぎで横切ってくるカバラちゃんの姿がちょっと面白かった。
それに、こうして炎の近くに座ると彼の焔がより温かくて気持ちいい。
ふふっと笑みを溢しながら、僕は賞賛した。
「キミの焔は、温かいね」
「……そういう異能だからな」
おいおい、使う異能に対して対応がクールすぎるだろ。
そういう意味で言ったんじゃないんだけどなー……思えば彼は、僕の知る「フェアリーセイバーズ後期の暁月炎」とはまた少し違う性格になっているのかもしれない。具体的にどう違うかと言われると、パッと浮かんではこないが。
……よし、ここはオリ主である僕が君のことを客観的に評価してあげよう。
「異能の性質は、心の在り方で変わるものだよ、エン」
「心の……?」
「キミの焔は敵を焼き尽くす為だけの力ではない。誰も傷つけることなく、優しく温めてあげることができる……こんな風にね」
「っ、おい」
「大丈夫」
そう言いながら、僕はこの両手で包み込むように彼の右手に触れた。
まだ指先から真っ赤な焔が灯っている、その右手にだ。
そんなことをすれば僕の手が燃えてしまうと炎は焦るが、心配することはない。
フェアリーバーストにまで至った彼の異能だ。異能の力は、己の意思で自在にコントロールできる筈。
それを証明するように、彼の指先に灯った焔は僕の手に火傷一つ与えることなく、今も優しく僕たちの身体を温め続けていた。
「ほらね?」
ドヤ顔で微笑みながら、僕は言い聞かせた。
キミの焔が温かいのはそういう異能だからではなく、キミ自身がそういう心の持ち主だからだと。
「キミは温かくて、優しい子なんだ」
「…………」
本質的に、彼は誰かを傷つけることよりも誰かを守ることの方が向いている人間でもある。
こちとら何年ファンをやっていると思っているのだ。暁月炎の力なら、リブート作だろうとお見通しである。
「あんた……これを伝える為にわざわざ飛び込んだのか?」
?
あ、ああ、そう! もちろんだよ! 勢い余って泉の深いところまで落ちてしまうなんて、そんな子供みたいなことクールなお姉さんがするわけないじゃないかー! ははっ……
……そういうことになった。
はい。
そういうことになったが、まんまと的中させられるのもミステリアスオリ主的に微妙な気分だったので、いつものようにはぐらかしておくことにした。
「さてね……もしかしたらこうして、キミに甘えてみたかっただけかもしれないよ?」
「……あまり、揶揄うな。俺にそんな真似はできない」
「そうかな? キミはところどころ不器用だけど、包容力がある人だと思うよ」
包容力が無かったら、あんなに気立ての良い恋人なんてできないよね。灯ちゃんもしっかり者に見えて、甘えたい時にはしっかり甘えるタイプの子なのだ。まさにベストカップル!
そんな意図を込めて言ってやったが、炎はピンと来ない様子だった。むー……自分のことだからなぁ、そういうものなのか。
ただ、僕としてはそういう隠れた包容力を、仲間たちに活かしてもらいたいと思っているわけで。
「今のツバサは雨の中、びしょ濡れの身体で彷徨う子犬みたいなものさ。キミの焔ならきっと、温めてあげることができる」
「……俺の焔で、か……」
「それは、キミにしかできないことなんだよ」
「俺にしか、できないこと……」
オリ主にもできることだとは思うが、空気を読んで言わないことにする。
今は彼のモチベーションを上げる一言が重要なのだよ。ほら、頑張れ頑張れー。
彼の手を両手でぎゅっと握りながら、粋な一言を告げてやる。
「リーダーなんだろう? 仲間が落ち込んでいるなら、励ましてあげなきゃ」
「ああ……そうだ。その通りだ……!」
おっ、目に力が戻り始めたね。
ナーバスになった原作主人公の尻を、叩いて元気づける。これもまたオリ主の役目である。
立ち直ったところで、翼のところへ行こうか。
なに、オリ主と原作主人公が揃えば、彷徨える子犬ぐらいお茶の子さいさいよ。
服も乾いたし髪も乾いた。カバラちゃんも泉から上がって準備万端である。
ようし、ヘットの町を千里眼千里眼っと……おや?
……なんかあの町、いかにも禍々しい真っ黒の霧に覆われているんですけど……なんだいアレは。
押し寄せる知らないイベントの数々に戦々恐々なエイトちゃんだが、もはや僕に動揺は無い。
この世界の原作が「フェアリーセイバーズ」ではなく、「フェアリーセイバーズ∞」という知らないアニメなのだから、イレギュラーが起こって当然なのである。
寧ろ、真実を知ったことでやりやすくなったよ。
僕の信仰する女神様っぽいカロン様がオリジナル要素を手当たり次第ねじ込む上級者ではなく、原作沿いSSを好む手堅い作者である可能性が高まったからだ。
まったく、チートオリ主は最高だぜ!
僕はブーツを履きながらニヒルな笑みを浮かべ、見果てぬ先まで続くオリ主ライフに思いを馳せた。
僕のオリ主はこれからだ!
【挿絵表示】
ヨロニモ殿からファンアートを頂きました!
あまりにもイメージ通りで完璧すぎたので、本作の表紙にも設定しました!
何が完璧かと言うとデザインはもちろん、ほどよくめくれ上がったロングスカートから見える腿のラインがね……これは完璧なチートオリ主です。本当にありがとうございます! ヨロニモ殿の叡智に感謝