TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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 それは虹の時代……かつて標準装備だったもの。


王の財宝ください

 知っていると思うが僕たちの容姿はとても美しい。

 そんな美しい女の子たちが殺伐とした町の危機に、神々しい光を撒き散らしながら降臨したのだ。視覚的に考えて、感動的なのは当たり前である。歓迎の反応は望むところだった。

 

 だけど天使さんがた──それも、筆頭天使さんまで泣き出すとはね……

 

 ザフキエルさんは僕たちを見上げて、特にビナー様を見て感極まったように男泣きしていた。片膝を突いて懺悔するように、彼女の姿を拝み倒している。

 そんな彼の姿を見て、ビナー様が困ったような顔で苦笑いしていた。どこかお姉ちゃんみを感じるその表情からは、彼女の複雑そうな感情が読み取れる。

 

『ザフキエル、この私に仕える一番の天使よ。何を泣いている?』

『はっ……申し訳ありませんビナー様……しかし私はっ! あの日以来、貴方が再び仮面を外したことが嬉しくて堪らぬのです……!』

『……そうか。苦労を掛けたな、ザフキエル。ここまで、よく私を見限らなかった。理解のサフィラスの名のもとに、汝を祝福しよう』

『有り難きお言葉……!』

 

 なるほど、忠臣としての感慨かー。

 随分と長い間顔を隠し続けていたみたいだからね、ビナー様。泣いている人たちは皆、その事情を知っている聖獣さんたちということか。逆に泣いていない聖獣さんたちは、彼女の顔を見て戸惑っている様子だった。

 

『あれが、ビナー様の素顔……?』

『なんとお美しい……』

『俺、この島に生まれて良かった……』

『一生お仕えします』

 

 何人か、自分の気持ちを正直に呟いている紳士聖獣さんがいた。

 わかるよその気持ち……自分の住む島の最高権力者がこんな美人さんなら、誰だってテンションが上がる。僕だって上がる。

 そして、彼らが彼女の素顔を美しいと受け止めるということは、彼女とそっくりな僕の容姿も遠回しに絶賛されているということでもある。

 ふふん、照れるなぁ。

 出会った時はキャラが被りすぎていると心配したけど、案外いいものだね……セット商法という奴も!

 

 ただ、そんなビナー様の素顔と僕の姿を見合わせて、戸惑う人たちが多いこともまた確かだった。

 

 上空から町を見下ろしている僕の姿に気づいた彼らの一部は、なんだか僕にも崇拝の眼差しを送ってきた。いや、そういうのはいいから。やめて。やーめーてっ。

 

『ビナー様と瓜二つなあの方は……』

『ケテル様と同じ、十枚の羽……?』

『あの方は……まさか……!』

 

 はい、はい! このお話はおしまい!

 天使みたいな十枚の羽が生えた僕のカロンフォームは大天使様公認の姿なので、パクリという指摘は受け付けません! 終了ー。

 

 

 ……それはともかく、町の状況は思っていた以上に切迫していたようだ。

 

 

 ビナー様のおかげで予定の二倍以上の早さで霧を払うことができたが、30分という時間はアビスが町に甚大な被害を与えるのに当たるには十分すぎる長さだったのだ。

 

 建物の多くは崩壊し、ほとんどが世紀末状態である。

 

 そこら中にアビスの気配を感じるし、見上げれば空にも気持ち悪いぐらいうじゃうじゃいた。

 エルフ族や鳥人族、天使を模倣した姿のアビスが、数百体以上に及んで溢れていたのだ。

 

 これは……久しぶりに、ハイパーオリ主タイムがやってきたという感じだ。

 

『今のボクの力では、下のみんなも巻き込んでしまう。そちらは任せたよ、ビナー』

『……! ああ、任された!』

 

 確実に言葉を伝える為に念動力通信でビナー様に伝えると、僕は十枚の羽をはためかせて空へ上昇していく。

 地上のアビスは彼女に任せて、僕は空を担当しよう。印象に残る戦闘シーンとは、単独行動の時ほど生まれやすいものなのである。

 最近はイレギュラーな出来事が多く受け身に回ることが多かった僕のもとに、おあつらえ向きに巡ってきたオリ主無双のチャンスだ。ここで躊躇わずに行けるのがチートオリ主のチートオリ主たる所以である。

 

 一度こうして、たった一人で数百の軍勢に飛び込んでみたかったんだよね。まるで無双ゲームの主人公みたいな眺めである。

 

 

 ──と言うわけで消えてくれアビス! オラッ! 天使や鳥人さんたちをいじめてるんじゃないぞー!

 

 

『っ!?』

『なんだ……!?』

 

 飛べる戦士が限られているので、空は味方側の存在が少なく劣勢だった。

 そこでチートオリ主の登場である。

 飛行能力を模倣した羽の生えたアビスを、ノートから放つ極太のエイトちゃんビームで20体ぐらいまとめて消し炭にしていく。

 ひゃっはー!

 

『何という威力だ……』

『凄い……』

 

 圧倒的火力を見て唖然とする聖獣戦士さんたちの視線が気持ちいい。

 そうそう、こういうのでいいんだよこういうので。グラビティーな崇拝は要らない。僕を見て驚き、褒め称えてくれれば嬉しいのである。

 ノッた気分がさらに高揚し、僕は怪盗ノートを念動力で浮かせながら、左右に伸ばした両手から闇の力を付与した稲妻「闇の稲妻(ダーク・スパークリング)」を発射した。

 ケセドという天使の力を盗んだことで、今の僕の火力は以前までの比では無い。闇の稲妻を照射しながら飛び回るだけで、広範囲の敵がバタバタと爆散していった。

 

 ふ……今の僕、魔王感があって実にカッコいいぜ!

 

 一見禍々しくてダークな技を、あえて正義側のポジションが振るうのって最高に厨二感があってイイよね。同じ趣味を持つYARANAIOの嫁さんとは、古き良き厨二系スタイリッシュさについて熱く語り合ったものだ。

 ふはは、闇の稲妻に貫かれて爆ぜよ! アビスは消毒だぁー。

 

 おっ、何体か抜けてきた奴がいるな……あれは、天使を模倣したアビスか。しかも四枚羽! こいつは中ボスって感じだな。強そう。

 

 尤も、天使と違って姿は真っ黒で美しくはなく、二本の腕はあるものの足はチェスの駒のように一本に簡略化されている。

 異形系の敵としては悪くないデザインだが、中途半端に天使に似せられた分なんか気持ち悪い。元のスライム状の姿の方がよっぽど愛嬌があってかわいいぐらいだった。やっていることはどちらもえげつないので、危険度としては同じだが。

 

 うわっ、こいつビーム撃ってきた!? 危ねぇ!

 

「……ボクの技も模倣するのか」

 

 この天使型アビス、右腕をキャノン砲みたいに変えて撃ってきよったわ。

 天使とは似ても似つかないビジュアルだけど、これはこれで無骨な戦闘人形感があってカッコいいな。「フェアリーセイバーズ」では舞台装置的な面が大きかったアビスも、新作になって随分と強くなったものである。

 

 だが、バリアー! 効きませーん。そんな劣化版エイトちゃんビームが本物に効くわけないよね。

 

 技を盗むという行為は、異能怪盗として賞賛せざるを得ない。だけど所詮は三番煎じ、チートオリ主の敵ではないとイキりエイトちゃんである。

 

「模倣する相手を、間違えたね」

「……!」

 

 しかし、狙撃能力のある敵は放置すると厄介だ。早めに始末しておくに限る。

 僕は「テレポーテーション」を使って即座に背後へ回り込むと、その背中につん、と銃を象った二本の指を突きつけた。

 

 いくぜ新技、「爆熱浄化」!

 

 触れた相手をヒートエンドして爆発させる異能「爆熱」と、お馴染みの「浄化」、それにケセドの天使パワーを調合した必殺の一撃である。

 「爆熱」の威力は僕がストックしている異能の中でも特に高いが、密着しなければ発動しない性質上自分自身も爆発に巻き込まれてしまう為、これ単体では常に自爆を覚悟しなければならないピーキーな異能である。

 それはそれでロマン溢れる能力なのでとてもカッコいいが、以前から僕はこの異能を小型の「闇の不死鳥(ダーク・フェニックス)」にエンチャントすることでカイザーフェニックス的な物を作ったことがあるように、「調合」前提の運用を行っていた。調合素材としては非常に扱いやすい異能なのだ。デメリットも組み合わせ次第で打ち消すことができる。

 

 そして今回組み合わせた「浄化」とのシナジーであるが、これが中々相性がいい。

 

 まず指で触れてヒートエンド、アビスは死ぬ。この時、本来なら至近距離の爆発に僕自身も巻き込まれて自傷してしまうのだが、爆発と同時に広がる衝撃波や熱をケセドパワーの宿った光で「浄化」することによって、爆発そのものがキラキラと舞い散る淡雪のようなエフェクトへと変換されるというわけだ。

 威力はそのまま、攻撃範囲とエフェクトだけとても穏やかになるのである。逆の言い方をすると、「爆熱」の破壊力を持った「浄化」みたいなものか。見た目も綺麗だし、自傷を避けることができるのは非常に実用的で気に入っていた。

 

 

「深淵に還りな」

「あ……」

 

 

 はい、消滅確認!

 端から見れば僕が触れた瞬間、アビスがサーッと淡い光に包まれて消滅したように見えるだろう。

 実際は普通に爆発させた方が派手なのだが、何事も緩急が必要なのだよ。派手な技ばかり連発していると見ている方も飽きてくるし、間に地味な技を挟むからこそ派手な技がバエるのである。

 あと単純に、これなら爆発の煙で視界を塞ぐことがないので、大勢に囲まれた時とか戦いやすい。今がまさにその状況だった。

 

「……よくやってきたね、ここまで」

 

 中ボス風の天使型アビスを片付けると、同タイプのアビスを含めて息つく暇も無く彼らは畳み掛けてくる。僕を集中的に狙っているようだ。エイトちゃんはアビスにも人気だということを証明してしまったな、やれやれ。

 クリファはどうか知らないが、大多数のアビスは知性が無いので恐れもしなければ怖気づきもしないということだろう。

 しかし、残念ながら彼らはここで止まる。何故ならそう、チートオリ主である僕がいるからだ。

 よし、今度はド派手なの行くぞー!

 

 

「ここは行き止まりだ。去れ!」

 

 

 怪盗ノートを掴んで高々と掲げると、僕の頭上に「O」の字を描くような光の輪が出現する。

 その光輪は一秒ごとに二倍、三倍と巨大化しながら上昇していくと、直径十メートルぐらいまで大きくなったところでその動きを静止させる。

 そして次の瞬間、Oの字の光輪の中心部から闇の空間が出現し、禍々しい渦を巻いた。

 そう、これぞエイトちゃんの新必殺技──

 

 

「踊れ、【光と闇の円舞曲(ワルツ)】!」

 

 

 神話の天使のような神々しい輪っかの中に禍々しい闇の空間を作り、その中で生成した無数の剣を次々と撃ち出していくこの技──「光と闇の円舞曲(ワルツ)」。ワルツって言葉、響きがカッコいいよね。

 それは対多数のアビス用に開発した、今の僕の技の中で一番派手な攻撃である。調合した異能の数もぶっちぎりの一位で、「闇の呪縛」とケセドパワーは言わずもがな、「念動力」とか「アイテムボックス」使用頻度の高い異能はほとんどつぎ込んでいた。

 特に苦労したのは、ケセド君の光の力と「闇の呪縛」の闇パワーが完璧な配分になるように調整することだった。いや実際そこまでしなくても威力はそこまで変わらないんだけど、光と闇、片方が強くて片方が弱いのは駄目なのだ。

 今の僕は光と闇が合わさって最強に見える、カロンフォームのエイトちゃんである。だからこそ、今の僕が扱う必殺技もこの姿に似合うよう光と闇、両方を同じ配分で混ぜ込む必要があった。

 

 因みに射出する無数の剣は、「稲妻」を凝縮して作った奴である。

 

 しかし見た目を加工する上ではもちろんケセドパワーと「闇の呪縛」を使っており、外見はいい感じに、光と闇が綺麗に混じり合った会心のデザインに仕上がっていた。

 

 それらの剣が、一斉に突き刺さっていく。

 数百ものアビスの軍勢に向かって。

 彼らの物量さえも上回る圧倒的な物量を持って、無数の剣が敵のもとへ殺到していったのである。

 

 稲妻をベースに作った光と闇の剣には先ほど使った爆熱浄化の異能も調合しているので、その切っ先が突き刺さった瞬間、アビスたちはキラキラしたエフェクトを撒き散らしながら消滅していった。グッバイ。

 すばしっこく逃げ回る中ボス風の天使型アビスたちにはこっそり「念動力」で剣を遠隔操作しながら、アナログで追尾し念入りに仕留めていった。

 それはまさしくチートオリ主の名に相応しい、一方的な蹂躙であった。

 

 ……うん、ちょっとアビスさんたちがかわいそうになってきた。自分でやっておいてなんだけど。

 

 しかし、オリ主の必殺技として外せないのだよ。謎のゲートからいっぱい剣を撃ち出していく必殺技は! かつて多くのチートオリ主が使いこなしてきたこの技を、僕も手持ちの能力でやってみたかったんだよー。

 

 実際、圧倒感は凄まじい。その場から一歩も動くことなく数百もの敵を蹴散らしていく今の僕の姿は、控えめに言って王様みたいである。

 

 尤もその場から動かずとも僕は射出する剣を味方に誤射しないように念動力で制御しなければならないので、腕を組みながらふんぞり返っている余裕は流石に無かったが。

 しかし威力は絶大だ。視覚的にもド派手で非常にカッコいい。

 ただ一つ難点を挙げるならば、戦いが一方的すぎて罪悪感が湧いてくるという点である。

 

 いや、僕は無敵のチートオリ主だけど……ねぇ?

 

 高みから見下ろしながら相手が果てていく様を見届けるこの技は、頑張って作ったのはいいが、いざ使ってみるとなんて言うか僕向きじゃない気がした。これっきりでいいかな……燃費も悪いし。

 こういう技はやはり、常に偉そうで、実際偉い王様に向いている能力なのだろう。僕は謙虚なチートオリ主なので、他ならぬ自分自身の技に解釈違いを感じていた。

 

 

「……ごめんね」

 

 

 ごめんね、やりたい放題やって。

 難しいなぁ必殺技製作は。だけど、とても気持ち良かった。

 やりきった思いで深く息を吐いた僕は、右手に開けていた怪盗ノートのページをパタンと閉じる。

 

 その瞬間、光と闇の剣を無限に生成し撃ち出していた巨大光輪は消滅し、空のアビスも綺麗さっぱり消え失せていた。

 

 うーん、綺麗な空だぁ。

 危険が去ったことでボクはシルクハットを外し、中に隠れていたカバラちゃんを手元に抱き抱えるなり目を合わせて笑った。

 

 あっ、地上はどうしているかな……おお、ビナー様すげえ。なんか地上全体に光が広がって、十字架を刻んだ巨大な地上絵みたいなのが見えた。

 なんだろあれ? サーチっと──ああ、あれビナー様の聖術なのか。なるほど……あの光で、僕の浄化と同じように地上の人たちの解毒を行っているわけだね。

 なんだか、僕ばかりはしゃいじゃってごめんなさい。

 そこのみんなもね。

 

 

 ──どうも、T.P.エイト・オリーシュアでした。

 

 

 呆然とした顔で僕のことを見つめている味方の聖獣さんたちに一礼しながら、僕は円舞の終了を告げたのだった。ぱちぱち。

 

 ……さて、次はセイバーズのところへ行こうかね。

 敵はまだ残っている。

 下の町に一体だけ、明らかに力の強大さが別格の敵がいたのだ。

 

 しかし。

 

 「千里眼」を使ってその姿を確認してみると、僕は思わず息を呑む。

 そのアビスの姿が、つい先ほど見たばかりだったからだ。カロン様のところのテレビで視たのと、同じ奴である。

 

 カイツールの分体──天使ラファエルが倒した筈の存在だった。

 

 

「……ツバサ……」

 

 

 そんな敵を前にして風岡翼はやはりと言うべきか、怒りを剥き出しにして戦っていた。

 フェアリーセイバーズファンである僕ですら、「こんな彼は見たことがない」と言いたいぐらい悲痛な表情を浮かべている。

 

 

「頑張れ、ツバサ。ファイトだよ」

 

 

 そんな彼に対して、今のところ僕は心の中でエールを贈るだけに留めておいた。

 ここは加勢に行くべきではないと、何となくそう感じたのである。

 そういうわけで僕は、カロン様のところで視たアニメの真の完結編を視るように、手を組んで祈りながら彼の戦いを見届けることにした。

 

 

 そして──

 

 

 







 しつこいかもしれませんが、語らねばならない……
 表紙絵がどうなっているのか確認する為にTwitterアカウントを作りましたが、これは……
 想像以上に絶妙な感じで映っていて笑ってしまいました。この視認性天才すぎる……重ね重ね本当にありがとうございます

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