TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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最古の被害者

 木刀──と言うか刀というものは、どうしてこう男の子の心をくすぐるのだろうね。

 

 念動力で回収した木刀の柄を掴むと、僕は昔、修学旅行で買ったお土産のことを思い出した。

 購入経緯としてはその場のテンションでつい買ってしまったものだけど、前世の僕はそれでもまだ有意義に使っていた方である。

 剣道やら剣術やらを習っていたわけではないが、文化祭で演劇を行う際、僕は殺陣の練習にブンブン振り回していたのだ。

 残念ながら前世の僕は女の子よりもガス欠が早い虚弱体質だったので、あまり長いシーンを演じることができなかったけど、それでも並の人より見栄えの良い演技をする素質はあったと思う。ささやかな自慢である。

 そして久しぶりに握った木刀にテンションが上がったからだろうか。僕は今猛烈に、あの頃のように豪快に得物を振り回したくなった。

 

 

「秘技……冥界斬烈剣」

 

 

 とくと見るがいい! ぼくがかんがえたさいきょうの剣術を!

 

 童心に返り当時のテンションでカッコつけると、僕は三日月の弧を描くように華麗なステップを踏みながら、「闇の呪縛」によっていい感じのエフェクトを撒き散らしながら木刀を振り回す。

 闇を纏わせた木刀を一閃する度に、漆黒の闇が渦を描くように弾けて消えた。うむ、カッコいい。

 

 まったく、邪気眼真っ盛りの頃に編み出したイメージをそのまま再現できるなんて、この異能は最高だぜ!

 

 地球に帰ったら改めてアリスちゃんたちにお礼しに行こう。これは決定事項である。

 しかしネーミングに「冥」が付く必殺技って、なんかいいよね。冥道残月破とか最高である。

 

 そんなことを考えながら前世の僕が演劇用に編み出したひたすら見栄えの良い剣技を披露すると、少年からキラキラした尊敬の眼差しを頂戴した。

 わかるよ。カッコいいもんね!

 

『同じ木刀なのに……おねーさんすごい……』

 

 ふふ、そうだろうそうだろう!

 厨二フレンズとの遊びで習得し、文化祭で完成させたこの無駄に洗練された無駄の無い無駄な動き──見せ物としては中々、大したものだろう。

 しかも、それを前世より遥かに体力があり、尚且つしなやかなエイトちゃんの肉体で行うわけだから効果は絶大だ。案外見栄えだけではなく、実戦でも割といけんじゃね?と思うほどに。

 もちろん炎やマルクトみたいなその道の達人を相手にチャンバラするには、色々と技量が足りていないのは間違いないが。それでもカッコ良さは全てにおいて優先されるのである。

 

「ボクからしてみれば、得物は関係ないかな。聖術を応用すれば、キミにだって同じことはできるさ」

『僕にも?』

 

 うん、エルフ族はMP特化みたいなイメージあるし、このぐらいならいけるいける。

 と言うわけで、君もやろう! レッツ・厨二剣術!

 目指せ魔法剣士である。少年が何を目指して木刀を振っていたのかは知らないけど、普段は剣で戦っている剣士が実は魔法的な分野の方が本領だったりするの、滅茶苦茶カッコ良くない?

 距離を取って戦うことで優位を取ったつもりになっている相手に向かって、「いつから私が、聖術を使えないと錯覚していた?」とかドヤ顔で告げたら滾るよね。底知れない実力者感溢れるムーブで、大変ナイスである。

 

「勝手に振り回してごめんね。はい、返すね」

『あ……どうも』

 

 一頻り運動したことで満足した僕は、清々しい笑みを浮かべながら手渡しで木刀を返す。

 エルフ族の少年は畏った態度で受け取ってくれた。うむ、聖獣の子供はみんな礼儀正しくていいよね。たまたま僕が会う子供がいい子ちゃんばかりなのかもしれないが、心の綺麗な人を見ると自分の心も洗われるようで気分がいい。

 尤も、あまりにも綺麗すぎるとその眩しさにこちらがダメージを受けることになるので、容量用法を守る必要があるが。

 

「ほら、頑張ろう」

『……うんっ』

 

 気分が乗った僕はそれからもしばらく、少年の鍛錬風景を眺めることにした。

 

 その際、少年は無邪気な態度でさっき見せた僕の動きを教えてほしいって言うものだから、僕も嬉しくなって文字通り手取り足取り教えてあげたものである。後ろから腕や足を掴んで動作を指南したり、まるで師匠になったようでワクワクする。

 もちろん、所詮は見栄えだけの素人剣術なので、実用性が無いことは伝えておいたよ? 真面目に剣を練習している子に、変な癖が付いたら悪いしね。

 しかし男の子にとってカッコいい振り方というのは、それだけで大きな意味があるものだ。少年はそれでも構わないと、僕に教えを乞うてきた。

 

 それに……元々少年は、本格的に剣で戦いたいからという理由で朝から木刀を振り回していたわけではなかったらしい。鍛錬を始めたのも今日が初めてなんだそうだ。

 それにしては木刀を振る姿が様になっていた気がするが、きっと筋が良いんだろうね。素人目線ながらそう褒めてあげると、少年は謙虚に照れた。おやおや顔を赤くして微笑ましいねー。

 

 少年が早朝から木刀を振っていたのは、昨日の事件で自分たちを颯爽と助けに来てくれたセイバーズの影響らしい。

 

 焔の剣を振るう戦士──暁月炎のことだね。彼に助けてもらった瞬間、少年はいつか自分も彼のように仲間を守る戦士になりたいと思ったのだそうだ。

 人間と聖獣の垣根を越えて、主人公に憧れる少年──いいね。まさに少年漫画の「王道」って感じだ。続編があったら次回作の主要キャラを張りそうな設定である。

 尤も炎たちはここに来るまで既に何人も救ってきたので、同じ理由で鍛錬を頑張っている子は他にも何人かいるだろう。やれやれ、彼も罪な男だね。

 

 

『もちろん、おねーさんの活躍も見たよ! あんなにいた空のアビスを、一人で全部やっつけるの凄かった……! みんな、おねーさんが一番カッコ良かったって言ってますっ!』

 

 

 

 ……

 

 

 

 ……!?

 

 

 そ、そう? い、いやー流石僕だね! 原作主人公以上にカッコ良くキメてしまうとは、どうやらまた僕やっちゃったらしい。

 

 ふふ、そうかそうか……

 

 うん、控えめに言って嬉しいよね。

 オリ主と言えどあまりにも原作主人公たちの活躍を食い過ぎてしまうのは僕の美学的にどうかと言う場面もあるが、昨日僕がやったのは所詮雑魚散らしだったし、あの状況で空のアビスをなんとかできるのは僕だけだったので仕方ない。

 そう自己弁護していたが、現地の子供からこうして直接屈託の無い笑顔で感謝されるのは……悪くない気分だった。

 しかし、あまりにも真っ直ぐな気持ちに当てられた僕は、一旦心を落ち着ける為に耳に掛かった自身の髪をいじいじしながら視線を彷徨わせる。照れてないよ? うん、クールなオリ主は簡単には照れないのだ。

 

 

 ……よし、落ち着いた。

 

 

 内面はともかく、外面も調子に乗って喜ぶのはオリ主的に小物っぽいムーブで嫌だからね。

 エイトちゃんは謙虚なチートオリ主なのだよ。

 それに……こうして僕をカッコいいと言ってくれた子供の夢は、守らなきゃいけないよね。

 

 

「ありがとね。そう言ってくれると、ボクも救われるよ」

 

 

 民度が高い市民でお姉さんは嬉しいよ。

 助けてもらっておいて助けた側を糾弾するような、よくある勇者迫害物系の市民と違って、ここの人たちは一人で町を破壊し尽くせるような力を持っている僕を見ても特に疎んだりすることはなかった。

 こんなんじゃ僕、ここの人たちを守りたくなっちゃうよ……さらに気分が良くなった僕は、少年の頭にぽふぽふと手を置いて荒々しく撫でてやった。

 

『あっ……へへ……』

 

 無邪気に笑う少年の反応に癒される。

 僕はショタコンだった……? いや、誰だって健やかで無垢なエルフっ子に褒め称えられれば気分が良くなるだろう。よって今の僕の感情は至って正常です。はい、証明完了。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分ぐらい少年の鍛錬を手伝った後、「千里眼」で炎たちの準備が整ったところで僕たちは別れた。

 その際、少年がいつか僕みたいにこの町を守れるようになりたいと宣誓したのには思わず目を丸くしたが、僕はその夢をあえて否定せず微笑みで受け止めてやった。

 

 いやあ、我ながらスーパースターになったような気分で鼻が高いよ。

 

 何だろう、この……今日は朝からハッピーすぎない?

 今日の僕、星座占いとか絶対一位だろう。間違いないね。そのぐらい今日は、立て続けに良いことが続いていた。

 

「~♪」

 

 そんな気分だったので僕は、あえて「テレポーテーション」を使わず自分の足で炎たちのもとへ向かうことにした。

 ルンルン気分でフェアリーセイバーズのOPの鼻歌を口ずさみながら、カバラちゃんと横並びで道を歩きながら空を見上げる。

 

 ああ、空も大分明るくなってきたね。ほら、太陽があんなに輝いて──

 

 

 

 ……輝きすぎじゃね?

 

 

 

 好事魔多し、という言葉がある。

 調子が良い時ほど邪魔が入りやすいという意味だ。僕が調子に乗って怪我をしないように戒める目的で、昔何度か姉さんに言われたことがあるのを思い出す。

 

 ビナー様との添い寝に町民たちからの温かい感謝の気持ち。そんな僕得のイベントが重ねて続いた以上は、何かしらのバッドイベントは起こるものだろう。

 

 SSでも最初から最後までいいこと続きなお話というのは、実は滅多に無かったりする。

 チートオリ主がひたすら無双する最強系SSだって、オリ主に叩きのめされる悪役が何かしらの悪事を行うバッドイベントが発生するものなのだ。バッドとグッドは表裏一体で、どちらか片方だけというのは作者側としても作りにくいのである。

 

 はてさて、これは僕にとってバッドイベントか。

 それともさらなるグッドイベントか。

 

 

 警戒半分、期待半分の気持ちを一度に浮かべながら、僕は空に輝く太陽──に見えた、一人の大天使(・・・)の姿を見上げた。

 

 

 

「……その輝きは世界を照らす光か。それとも……」

 

 

 まばゆい光はこれ見よがしにこちらに向かって、ゆっくりと降下してくる。

 その姿を見届けながら、僕はいい感じの言葉を呟いて間を持たせる。あっ、カバラちゃんは危ないから下がっててね。

 

 僕がその眩しい光点の正体が大天使であることに気づけたのは、もちろん異能「サーチ」のおかげである。

 「サーチ」によって観察したところ、その光がビナー様たちの扱う神聖な天使パワーであることがわかったのだ。

 しかし、解せないのはそれ以外の情報が一切合切見えてこないことだった。

 闇の霧の中を調べようとした時や、深淵のクリファ「シェリダー」を相手に異能を使った時と同じ感覚である。相手から明確に、僕の「サーチ」を拒絶されている。

 一方的に覗いたのはまあこちらが悪いのだが、その時点で僕が警戒心を抱く理由になった。

 

 しかし、あれが大天使なら誰だろう? 今まで会ってきた誰かでないことは間違いない。

 そうなると5の大天使ゲブラーか、或いは9の大天使イェソドか……と思ったところで、光が収まりその正体を直視できるようになる。

 

 そして全てを理解した僕はフッと笑い、したり顔でその姿を見据えて言った。

 

 

「キミが来るとはね……王様」

 

 

 十枚の白い羽。

 僕と同じぐらいの長さの白い髪。

 その色に馴染む純白の法衣を纏った男は、その瞳に生命力溢れる神々しい光とはあまりにも正反対な──覇気の無い死んだ眼差しを宿している。

 それこそがサフィラス十大天使の「王」にして最強の天使、アニメ「フェアリーセイバーズ」のラスボスこと「ケテル」の姿だった。

 容姿は二十代後半ぐらいの美青年と言った感じだが、その実何億年以上も生き続けている天界最古の大天使様である。

 

 ……いや、なんでラスボスが直々にやってくるのよ。

 もうじきこっちから行く予定だったんだから、大人しく待っていなさいよ。

 

 そんな内心をひた隠しにしながら僕の前に降りてきた彼の姿をじーっと見つめていると、彼の方も同様に僕の姿をじろりと見つめ返してきた。

 

 まるで運命の出会いのように、見つめ合うオリ主とラスボスである。

 

 色々と予想外かつ唐突な登場に僕の頭はパニクるかと思ったが、こうして向き合ってみると意外なほど冷静な自分に感心した。

 僕は今、初めて対面した最強の天使の存在感に、はっきり言って呑まれそうになっていた。

 しかし昨夜見た夢の記憶が残っているからか、心のどこかではこの出会いを予感していたのかもしれない。生で見るラスボスを前に、フェアリーセイバーズファンとして興奮している自分もいた。

 

 

『…………』

 

 

 白髪の大天使、ケテルは今も無言で僕の姿を見つめている。

 ダイヤモンドのような瞳は輝きが無く死んだ色をしているが、その顔立ちには夢で見た少年の面影が少しだけ残っているように感じる。

 しかし、ダァトに覆い被されるように抱き締められていた小さな少年が、随分と大きくなったものだね……いや、あの夢が実話なのかは知らんけどね?

 今朝見た夢を脳裏に浮かべながら、二メートルに及ぶ長身の引き締まった身体を見て、僕は思わず呟いた。

 

 

「……立派になったね」

『────』

 

 

 あっ、ちょっと顔色変わった。

 

 目を閉じて静かに息を吐いている。それは何か、心を落ち着けようとしているような仕草に見えた。

 しかし僕の知るケテルと言えば常に淡々としていて、何と言うか感情の起伏が乏しいイメージがある。

 そんな彼が、思わず動揺しかけるほどの展開となると──並大抵ではない何か、因縁を感じる。

 

 カロン様……せめてここに彼が来るのが「フェアリーセイバーズ∞」の展開なのか、貴方のオリジナル展開なのか教えてくれませんかね……?

 

 ラスボスが前倒しで僕の前に現れたこの状況。

 どう動くべきか判断しかねている僕の前で、白い大天使が長い沈黙を経てようやく口を開いた。

 

 

『……今更……僕を笑いに来たのか……ダァト……』

 

 

 僕よりもずっと大きな図体に似合わず、独り言みたいに小さい声でそう呟いた。

 しかし、エイトちゃんイヤーは地獄耳。渋カッコいいイケメンボイスのその言葉を、僕の聴覚ははっきりと聞き取っていた。

 そして僕は、今朝からそうかもしれないと疑っていたことを改めて理解した。

 

 

 ああ──あの夢、やっぱり実話だったんだね。

 

 

 これはひょっとすると女神様っぽいカロン様は、僕にとんでもないポジションを与えていたのかもしれない。そう思った僕は、この状況をどうオリ主っぽく切り抜けるか頭を悩ませた。

 僕、ダァトじゃないんだけどね……

 






 最古の(おねショタ)被害者。
 因みにケテルは少年との一部始終を全部見ていました。

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