TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
ビナー様は言っていた。
「ダァト」はサフィラス十大天使にとって母親的な存在で、彼らよりも古い時代に生まれた「原初の大天使」であると。
原初とか0番目とか、オリ主としては何とも心惹かれるワードであるが、今は置いておこう。
今回は、相手が相手だからね。何せアニメ「フェアリーセイバーズ」のラスボスだ。迂闊な言動が世界全体に与える影響は、下手をすれば主人公である炎たちよりも大きい。
つまりオリ主が絡む相手としては、この上無いポジションでもあるわけだ。
僕もSSでは原作主人公とラスボスが対立する原作で第三勢力として介入し、両方に対していい感じの影響を与えるオリ主物が好きだったりする。もちろん原作にもよるが、ラスボスさえも救済する真のハッピーエンドという奴がね。
そんなエイトちゃんだからこそ、あの時最終目標に定めたわけだ。
カロン様が執筆するSSに、「ケテル救済」のタグを付けることを。
故に、僕は実践しなければならない。ケセドを甦らせた時のあの感動を──尊さを手に入れる為に!
『ケテルッ!』
おや、ビナー様のエントリーだ。
そうか、カバラちゃんの目を通して見ているんだったね。ケテルの来訪に気づいた途端、彼女がテレポーテーションを使い、どこからともなく慌てた様子で駆けつけて来た。
『……ビナーか』
『まさか、貴方が直々にやって来るなんてね……島の管理者として、ちゃんとお出迎えするべきだったかな?』
『必要無い』
ケテルは僕とそっくりな彼女の顔をチラリと一瞥すると、ほんのわずかに眉を顰める。話には聞いていたけど、本当に嫌われているんだね……
彼は彼女が自分の言いつけを破り、素顔を晒したことに対してやはり快く思っていないようだ。ビナー様も態度こそ飄々としているが、その頬はいつもより強張っている。僕の目には機嫌の悪いお父さんにビクビクする娘みたいに見えた。
それはよくない。
「萎縮しないで、ビナー。何年も素顔を隠し続けてきたんだ。懲罰はもう十分だろう」
『エイト……』
ビナーが素顔を隠していたのは昔ケテルと喧嘩したからという話だが、聞いた限りでは彼女がそこまでの仕打ちを受ける必要は無いと思うんだよね。
それに何百年も何千年も律儀に言いつけを守っていたのなら、流石に時効で良いのではないか。
もちろん僕が当事者じゃないからこそ気軽に言ってしまえる話ではあるものの、彼女はこの通り善人なので、彼には王様らしい寛大さを見せてほしいものである。
「ね? 王様」
『…………』
抗議の気持ちを視線で訴え掛けると、ケテルは無言を返し無表情で応えた。いや、どんな感情だよその顔は。
しかしはっきり拒絶もしないと言うことは、案外それほど怒っているわけではないのかもしれない。
もちろん彼がビナーの目をひと睨みするだけに留めていたのは、「ダァト」だと認識している僕の手前だからという理由もありそうだが。
……そう、僕にとってはそこが一番の問題である。
あの夢が女神様っぽいカロン様が見せた昔のフェアリーワールドの実話だとするならば、「ダァト」という大天使はまだ幼い頃の彼と随分親しかったように見える。
夢で見たのは切なさを感じる別れの光景のようだったが……僕には彼女に対するケテル少年の態度が、尊敬するお姉さんに対するそれのように感じた。
僕にも尊敬する姉さんがいたからね。経験則からそういう感情は、何となくわかるのだ。
『……何故……戻ってきた?』
そんなケテルはビナーから視線を外すと再び僕の目を見つめ──くっそ長い沈黙を置いて訊ねてきた。
いや、君……ちょっとアニメと違くない?
アニメ「フェアリーセイバーズ」でも確かに生気の薄い死んだ目をしていたが、僕の記憶ではもう少しハキハキした喋り方をしていた気がするのだが……ううむ、新作「フェアリーセイバーズ∞」ではこういうスタイルなのだろうか。
作中においてケテルは間違いなく重要人物だったが、ラスボス故に登場回数が少なかったからね。そういう意味では彼についてはどういうキャラなのか解釈が分かれる人物だった。
オーケー、カロン様。把握した。そういうことなら僕も合わせるよ。
物静かで喋りが遅い相手こそ微笑みながら相槌を打ち、急かさず焦らせずじっくりと相手のペースで言葉を待つのが大事である。たとえ、言っていることがよくわからなくてもね。
前世でも病院で知り合ったおじいちゃんたちにはこうして僕が笑顔で相槌を打っていると、初めはゆっくりだった喋りが段々饒舌になっていったものだ。ふふふ、僕は聞き上手なのだよ。翼も話しやすそうにしていたし、実際効果はありそうだ。
『何故、ここにいる?』
流石にケテルはシリアスな態度を崩さなかったが、そうしていると少しずつ言葉を発するペースが早くなってきた。
しかし、これは……
『何故、人間共に味方をしている? 何故……』
「…………」
渋いイケメンボイスから畳み掛けてくる何故何故ラッシュに圧倒され、僕は笑顔の裏で返答に詰まる。
うーん、何故と言われましても……僕オリ主だし。ケテルの方こそ、ラスボスが何故ここにいるのか聞きたいところである。原作の時系列的に考えれば、今のケテルは世界樹の深層──聖龍アイン・ソフの居場所に一足早くたどり着いている筈だからだ。
そう──彼は世界樹「サフィラ」というラストダンジョンで律儀に待っている、由緒正しきラスボスなのだ。
彼が自ら他所の島に乗り込んでいることの方こそ、僕には想定外だった。
『……何故、今更……』
……むー。
どうしよ……何やらとてつもなく重い感情を感じるんだけど。
これは、下手な返答は厄介なフラグになると見るね。これがアドベンチャーゲームなら、死亡フラグに直行する選択肢が浮かんでいるところだろう。ならば尚のこと、慎重に受け答えしなければ。
一応マインドシールド的なものを張って心は読まれないようにしているけど、それもどこまで通用しているのやら……僕の目を見つめる彼の瞳はまるで深淵に覗かれているようで、正直怖かった。
「世界がボクを求めていたから……かな?」
なので、彼の前では嘘を吐かないことにする。訊かれた問いには真摯に答えることにした。
もちろん全てを明かすこともしないが、嘘八百で誤魔化すこともしない大体いつも通りの意味深ミステリアスムーブである。
『世界が……?』
「どうか新たな可能性が生まれるようにと、世界が願った。今、ある一人の女性が紡ごうとしている物語を……少しでも、手助けできればと思ってね」
『世界樹の意思に……カロンに会ったのか?』
「うん」
コイツ……エイトちゃんのミステリアス言語を速効で理解した……!?
さ、流石ラスボスだね……嘘はマジで吐かない方がいいなこれは。
しかし、やっぱりカロン様とお知り合いでしたか……あの人もこの世界出身なのだから、そこまでおかしい話ではないか。夢にも出てたしね。
流石に、ケテルまで原作知識を持っているとかないよね?
原作のメタ知識が現地人にも広まっているのは、SS的にはあまりよろしくない展開だ。
理由は原作知識持ちの転生者が複数いるSSと同じである。世界観がぐちゃぐちゃになって、収拾つきにくくなるのだ。
……うーん、しかしカロン様はどういうポジションなのかわからなくなってきたな。これも後で本人に確認しておこう。
『……そういうことか』
おう、そういうことだよ。
知らんけど。
流石に二次創作のオリ主云々までは言えないので、今はこの言い方に納得してもらうしかない。
カロン様と彼がどういう関係なのかは知らないが、お互いに知人同士だとするなら僕の知らない面倒ごとはカロン様にぶん投げておこう。それぐらいのフォローをしてもらってもバチは当たるまい。いいよねカロン様?
「エイト! ビナー様!」
おっ、炎たちもやってきたね。おはよー。
一番足の速い翼を先頭に、炎と長太、メアちゃんとケセドの順に空から降りて来た。
ビナー同様大急ぎでやって来たのだろう。お馴染みの三人はそれぞれ既にフェアリーバーストを発動した姿をしていた。
「一体何が……っ!」
『……セイバーズ……ダァトに導かれた来訪者たちか』
僕たちのもとにぞろぞろと合流してきた面々を一瞥し、ケテルが淡々と呟く。
主人公チームとラスボスの、満を持しての会遇である。
いいね……こういう展開は、いよいよ物語が佳境に入ったという感じで、とても昂ぶる。
彼らは僕たちの前に立っている白い大天使の姿に気づくと、そこから発せられる圧倒的な威圧感を前に警戒の表情を浮かべた。
緊迫した空気の中で、氷の鎧に身を包む力動長太が訊ねる。
「あんたがこの世界の王様か?」
お約束のセリフキター!
信じていたぜ長太! 君なら絶対言うと思ったわ!
そうとも、異世界で王様に会ったら一度は言ってみたい言葉である。地球からやって来たチート主人公が、謁見の第一声として乱暴な言葉遣いで素性を問い質すのはファンタジーRPGやネット小説では定番である。
そしてお付きの人が無礼な言葉遣いを窘め、王様がそれを制止して「ほっほっほっ、良い。面白い男じゃ」と主人公に一目置くのが、古往今来から続く黄金パターンである。
──この場合も例外ではなく、長太の発言に憤ったかのように空からお付きの人がわらわらと飛来してきた。
「なに……?」
「っ……あれは……!」
空から次々と降り注ぐ四本の光の柱。
その中からド派手に姿を現したのは、いずれも八枚の羽を持つサフィラス十大天使の姿だった。
「栄光」の名を冠する8の大天使ホド。
「王国」の名を冠する10の大天使マルクト。
「知恵」の名を冠する2の大天使コクマー。
いずれも会ったことのある大天使の中で、今回初めて姿を現した「峻厳」の名を冠する5の大天使「ゲブラー」の姿もある。
ゲブラーの姿は「峻厳」のイメージに沿うような、強面なヒゲ面のおじ様である。いかにも宣告とか警告する姿が似合いそうな、見た目で言えば一番神様っぽい容姿をしていた。
そんな四人が僕たちを取り囲みながら戦隊ヒーローのようにシュババッと着地すると、彼らを代表してコクマーが言った。
『躾のなっていない無礼者がァ……王の御前であるぞ! 控ェい!』
おおー! いいぞ、いい流れだ。
後は王様たるケテルが、ビキビキするコクマーをやんわり諭せばストレートフラッシュと言ったところだが……
『…………』
あっ、うん何でもないです。
ケテルが温厚なキャラなら、そもそも人間世界に攻撃なんてしないもんね。
だけど、期待するぐらいいいじゃないか……そんなに怖い顔しないでよー。
ちょっとだけしょんぼりしたエイトちゃんである。
『…………っ』
しかしサフィラス十大天使の内、七人が一堂に会するとは……ほとんど全員集合とは流石の僕も読めなかったわ。
ネームドキャラがこれほど集まるのは小説的には読みづらくなってしまう展開であるが、金輪際お目に掛かれるかもわからない壮観な光景である。ありがたやありがたや。
みんな、揃いも揃ってビジュアルがいいからね。フェアリーセイバーズファンとしては大変眼福だった。
だが、セイバーズの状況的にはよろしくない展開である。
僕のことを無言で見つめてばかりで、その真意が一切見えないケテル。
殺意バリバリで今にも攻撃を仕掛けそうな、不機嫌オーラ全開のコクマー。
ケテルの視線を遮るように前に出て、頼もしい背中を僕に見せているイケメンなビナー。
メアちゃんの肩に留まって、話し掛ける機会を窺っている小鳥姿のケセド。
コクマーほどではないが、こちらに対して厳しめな眼光を覗かせているゲブラー。
後方で腕を組みながら傍観の体勢に入っているホド。
ケテルとセイバーズ、両方に目配せしながら不安そうにそわそわしているマルクト。
……うん、パッと顔色を見回しただけでも、僕たちに対するそれぞれのスタンスが窺えるよね。
僕たちがこの世界で会ってきた大天使たちは積極的に前に出たくなさそうな感じだが、逆に会ったことのない三人が人間に対して激しい嫌悪感を抱いている様子である。わかりやすくて何よりだ。
しかしそんな彼らの間でも共通していたのは、メアちゃんの肩に留まっている黒い小鳥を見て驚いていたことだった。
マルクトは知っているが、それ以外はまあびっくりするよね。死んだ筈の仲間が、生き返って黒い鳥になっていたのだから。
『ふむ……慈悲の字は本当に生き返っていたのじゃな』
口元にモサモサと広がっている自らのヒゲを撫でながら、興味深そうな顔でゲブラーが呟く。
その言葉に『意外ではない』とクールに返したのは、僕を一瞥して訳知りげな態度をしている鎧の天使ホドだ。僕、やっぱりアイツ苦手。好きだけど。事情通の物知りキャラは僕と被るので、もう少し控えめにしてほしいものだ。好きだけど。
そんな彼らに向かって、奇跡の復活を遂げた張本人である「慈悲」の天使ケセドが返した。
『君たちの嫌っている人間たちと、マルクトとエイト様のおかげでね。少しだけ姿は変わったけど、この通り僕は蘇ったよ』
『この期に及んで……貴様はまだ人間の味方をする気か? ふん……馬鹿は死んでも治らぬようだな』
『コクマー、全ての人間が悪いわけじゃないんだ。だから僕は、今でも君のやり方を認めない』
『愚かな……そのような情けない姿になってまで、何をほざくか!』
む……情けない姿なんて言うなよ! かわいいやろが!
今のマーシフルケセド君省エネモードの姿を見て辛辣な感想を浴びせるコクマーに対して、僕は内心ムッと来た。
彼の器、「
経緯を無視してそうも嘲られるのは、創造主として納得いかなかった。
──だがこの時、そんな僕よりも苛立っている者がいた。
『……コクマー……お前は、ダァトが作った器に不満があるのか?』
『王!?』
意外ッ!
彼を諌めたのはまさかのケテルである。いやお前、どちらかと言えばケセドに対していの一番に苦言を呈するキャラだろう。これは解釈違いである。
先ほどまで表情の変化が乏しかったのが何だったのかとでも言うように、サフィラスの「王」はコクマーの態度に対して露骨に不快感を表していた。
思わぬところから梯子を外されたコクマーの姿がちょっと面白かったので、僕も溜飲を下げる。
なんだ、ケテルっていい奴じゃん!
意外な一面に目を見開く僕の内心を他所に、ケテルは初めて炎たちに顔を向ける。
そして、こちらにも意外な言葉を発した。
『人間の来訪者たちよ。先ずはこの町を守ったことを、感謝する』
「!?」
普通にお礼を言ったよこのラスボス。
えっ、なんか随分殊勝じゃない? まさに王。って感じじゃないかどうしたんだアンタ。
アニメ「フェアリーセイバーズ」での彼はもっとこう、思考体系からして別次元な感じがして話が通じなさそうなキャラだったが……新作の「∞」では時代に合わせて、少しマイルドになったのかな? リメイクあるあるなキャラ改変は、個人的にあまり好きではない。
……だけどこうして現実の世界として向き合うなら、そちらの方が大分都合が良いのも確かである。
同じようにセイバーズ御一行も、ケテルの発言に驚いていた。
「お、おう」
「意外だな……噂に聞いていたよりまともそうだが……」
敵対勢力の親玉から真っ当に感謝されると思っていなかった炎たちは、何とも困惑した様子である。
僕でも驚いているのだから、彼らはもっとだろう。あっ、だけどマルクト様だけホッとした顔をしている。君って、感情隠すのほんと下手だよね……かわいいので許すが。
……しかし原作と違ってケテルが話の通じる王様なら、もしかしてアイン・ソフに仲介を頼まなくてもこの時点で対話できるのでは? エイトちゃんは訝しんだ。
うむ。
そうなったらそうなったでお話的に盛り上がらないのでアレだが、万事平和に解決できるのなら僕もワンチャン見守ってみることにした。騒ぎは好きだけど、僕だって好き好んで騒ぎを起こしたいわけじゃないからね。
えっ、僕が直接説得しないのかって?
いや……今はまだその時ではないと思ったから。
原作主人公たちもいる場所で、僕だけがでしゃばるのはなんか違う気がする。それがオリ主の流儀だった。
──そんなわけでリーダー、君に任せたよ!
原作主人公である暁月炎にアイコンタクトで伝えると、彼は力強く頷いて前に出る。
しかしそれを見てケテルは、何故か睨みつけるような眼光を彼に向けた。なんか今ちょっとキレてなかった?
普段無表情な男だから、ちょっとした変化が目立つものだ。
そんなサフィラス十大天使の謎反応に、僕は首を傾げるばかりだった。