TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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今明かされる記憶喪失ヒロインの真実……!

 大概の記憶喪失キャラは、物語において重要な設定を抱えているものである。

 そもそも記憶が無い時点で、メタ的に言ってしまえば「このキャラには重大な秘密がありますよー」と宣言しているようなものだからね。最後までその伏線を回収しないのはせっかく仕込んだギミックを無駄にすることになるので勿体ないし、読者からも完結後、「結局コイツはなんだったの?」と消化不良感を与えてしまう。

 だからメアちゃんの秘密も、どこかで明かされるだろうとは思っていた。

 アディシェスのことはあったが、記憶喪失の伏線はまだ残っていると言えなくもなかったからね。

 

 しかし……ケテルの娘だったのかぁ。そいつは予想外である。このエイトちゃんの目を以てしても見抜けなかったわ。

 

 確かにケセドパワーに覚醒してから銀髪オッドアイになったメアちゃんの容姿は、白髪のケテルと似ていなくもない。もしかしたら彼女の姿が天使っぽくなったのも単にケセドの力を宿したからではなく、元々備わっていた天使パワーがケセド因子の影響を受けて覚醒したからとか、そういう理由だったのかもしれない。

 容姿以外にも言われてみれば彼女のたどたどしい喋り方なんかはケテルと似ている気がするので、その正体には案外すんなりと納得いった。

 

 

 しかし僕と違ってメタ読みができない炎たちには思いも寄らなかった筈であり、衝撃の新事実に彼らは皆愕然としていた。

 

 

「メアが……あんたの娘だって……?」

「嘘だろ……」

 

 PSYエンスの研究所から救出した記憶無き少女、メア。

 その身に慈悲の大天使ケセドの因子と深淵のクリファアディシェスを宿していた彼女の正体は、サフィラス十大天使の王ケテルの娘だったのだ。

 うん……いくらなんでも設定が積載過多すぎるわ。小さな身体に色々なもの背負わせすぎではないかと、僕は思わず哀れみの眼差しを彼女に送った。

 当のメアちゃんはふるふると首を振りながら、震える瞳でケテルの顔を見上げている。

 

 信じられない。

 だけど、否定することができない。

 

 薄々と勘づいていたような、そんな心情を彼女の目から感じた。

 そんな彼女の前で、ケテルが淡々とした口調で語り出す。

 

『ビナーから聞いていなかったのだな。お前の存在理由を』

「メアの、存在理由……?」

 

 ……ん、あれ? その口ぶりからすると、ビナー様は知っていたのかね。

 

 彼女を見た時の他の大天使たちの反応から察するに出会った当初のコクマーやホドたちは知らなかったように思えるが、今しがたケテルから放たれた言葉にビナー様は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべていた。それは何と言うか、意図的に隠していた秘密がバラされてしまったことを悔やむような……そんな反応である。

 

 しかしそれが事実なら、メアちゃんはサフィラス十大天使の王の娘──すなわち王女(プリンセス)ということになるわけで。

 

 

 これ……PSYエンスの罪状がさらに大きくなった奴なのでは……?

 

 

 

「……聖獣たちが俺たちの町で暴れ出したのは、自分たちのお姫様を探していたからだったのか?」

「マジかよ!? それじゃあ、俺たちは家族を引き裂いた邪魔者じゃねぇか……!」

 

 名探偵の翼が、僕と同じ考察に行き着く。それを聞いて心の真っ直ぐな長太は、セイバーズは親子の再会を邪魔していたのかと罪悪感を露骨に浮かべていた。いい奴だね君。

 因みに僕はと言うと、さらに積み上がったPSYエンスの余罪にドン引きである。

 聖獣のプリンセスを拉致って研究所送りにしたとかさ……なんだよその糞鬱同人みたいな展開。そんなもの、健全なオリ主は認めませんよ!

 

 ……そりゃあ攻撃されるわ人類。

 

 寧ろ今まで散発していた聖獣たちの襲撃さえメアちゃんが目的だったとしたら、これはいよいよマズいかもしれない。

 

 これでは「フェアリーセイバーズ∞」の二次創作界隈で、人間世界のアンチヘイトSSが流行ってしまうぞ……!

 

 

「貴方が……メアの、本当の……お父さん……?」

『そうだ』

 

 

 そう……二次創作界隈において、かわいい幼女は常に正義だからね。

 大概のオリ主はロリコンなので、幼女の味方をするのは当然である。逆に言えば、原作の展開が幼女に厳しめなほど必然的にアンチヘイトSSが増える傾向があった。

 オリ主が薄幸幼女を救済する過程で敵対勢力をアンチする創作は、僕にも馴染みがある。

 

 それはとてもマズい。

 

 「フェアリーセイバーズ∞」は僕が前世で視たアニメではないとしても、大好きな「フェアリーセイバーズ」のリブート作であることに変わりはない。

 どのような形であれ、その作品の中でアンチを作ってしまうことは認めるわけにはいかなかった。

 

 しかし、どうするこの展開……!? 仮にそれが真相だとしたら、人間側の立場でこれ以上正論を述べても役に立たないだろう。

 いや、「娘を探していたのなら尚更無差別攻撃はやめろよ娘も巻き込まれるところだったじゃないか!」とか、ツッコミどころはあるんだけどさ……!

 

 古往今来、娘を思うが故の非情な行動という奴は同情を買いやすいからね。理屈と感情は別という奴である。この僕も今、ラスボスの新しい一面を見て彼のことを見直したと言うか、ちょっと感動していたりする。

 

 普段冷酷なキャラが見せるそういう姿って、いいよね……とても胸が熱くなる。僕もベジータが超完全体セルに飛び掛かっていくシーンとか大好きだし、不良が捨て猫に優しくするシチュエーションが今でもなんだかんだで人気があるように、そのようなあざといギャップは悪役のキャラ人気に繋がっていた。

 

 そんな微笑ましい感情でケテルの背中を見つめていると、その視線に気づいた彼は心外そうに言う。

 

 

『人間世界への攻撃はそれとは別の理由だ。メアは確かに余が作り出した娘であるが……余に、お前たちの想像する感情は存在しない』

「えっ……」

 

 

 実の父親との対面に戸惑いながらも肯定しようとする彼女の前で、ケテルは冷たい眼差しで見下ろしながら言い捨てた。

 

 ううん、これは……ツンデレ乙──とは言えないな。見たところ、照れ隠しではなさそうだ。

 僕たちの想像する感情──と言うと、家族愛的なものかな。それが無いってことは、もしかして……

 

 

『夢幻光はかつての余が夢想に描いた可能性の一つに過ぎない。余が「神」の座へと至るべくヒトの世界に播いた種子だ……よもやここまで成長し、余のもとへ戻ってくるとは……』

 

 

 ……ごめん、何を言っているのかさっぱりわからないや。

 

 流石、億年もの間ミステリアスキャラを続けていることはある。

 このエイトちゃんの頭脳を以てしても、ケテルの説明になっていない説明の意味はさっぱりわからなかった。

 しかし、メアちゃんを見下ろす彼の眼差しや雰囲気を見て、僕は即座に不穏さをキャッチした。

 それは娘との感動の再会を喜ぶ態度と言うよりも──熟した果実を乱暴にもぎ取るような、そんな反応に見えたのだ。

 

 

 そして次の瞬間、彼はまさにその通り──メアちゃんの細首に掴みかかるように、その右手を無造作に伸ばしたのである。

 

 

 

「メアに何する気?」

 

 

 ──その腕を、僕が止めた。

 

 ケテルが無表情で行おうとした凶行にメアちゃんを含めて誰も反応できなかったその瞬間、僕だけが颯爽と動き、彼の腕を横から掴み取ったのである。

 おかげでケテルの指先は手前で止まり、メアちゃんの首は無事だった。

 

 まったく……油断も隙も無いんだから。

 

 

「ねえ」

 

 

 おっ、我ながらすっげードスの利いた声が出てる……僕怖っ。

 いや、でもしょうがないじゃん。今のケテル、明らかにマジだったし。

 

 ケテルは今、本気で──メアちゃんを殺そうとしていたのだ。

 

 そんなの、オリ主どうこうを抜きにしても怒るでしょ普通。

 僕はロリコンではないが、こう見えて子供は好きだしメアちゃんのことも友人だと思っている。

 

 

「エ、エイト……?」

「メア、大丈夫だから。ここはボクに任せて」

 

 

 メアちゃんは聡明な子だ。自分の首が掴まれる寸前だったことも、はっきり理解している。その顔にははっきりと怯えの表情が浮かんでおり、父親(ケテル)を映すその瞳には絶望の色を宿していた。

 

 おい……やめろよ、そういうの。そういう曇らせ展開を僕の前で見せるな。

 僕が気持ち良くオリ主できなくなるじゃないか!

 

 

「今、何をしようとしたの? ケテル」

『…………』

 

 

 掴んだケテルの右腕をギュッと強く、強く握りしめて彼の顔を睨み付ける。

 体格差故に上目遣いに見上げる形になってしまうが、今の僕は阿修羅すら凌駕しそうなテンションである。こうして頭の中で自分自身の感情を茶化していなければ冷静でいられないほどに……怒っている自分がいた。

 

 そんな僕と相対しても、依然冷淡な態度を崩すことなくケテルが返す。

 

 

『……余が与えたものを、返してもらうだけだ……邪魔をするな、ダァト』

「与えたもの?」

 

 

 なんやねんお前……お前の命は父親である俺が与えたものだから返してということか? どんな毒親だよ……怖い。

 

 いやさ……確かに真っ当に父親しているケテルというのは解釈違いと言わないが、想像しにくかったのはあるよ?

 炎たちを差し置いて僕が誰よりも速く動くことができたのも、(ケテルってそんなにハートフルな奴だったかな?)というアニメのイメージ由来の先入観があったからでもあった。悲しいことに。

 

 多分、原作知識が無かったら僕も彼の暴挙を止められなかっただろう。そして、みすみすメアちゃんを死なせていた。その首を引っつかまれて。

 

 もう、何なんだよ……もしかしてメアちゃんって、原作「フェアリーセイバーズ∞」では死ぬキャラだったの? まさか、彼女こそが旧作の明宏ポジションだったとか……ありそうである。

 だとしたら、気をつけないといけないね。

 最近までは彼女もオリ主だと思っていたから何も心配していなかったが、彼女が主人公と死別する系のヒロインだったとしたら僕が守護(まも)らねばなるまい。原作キャラ救済はチートを持つオリ主の使命なのだ。

 

 

『えっ……? 王様(ケテル)……今、なんでメアを……』

『王よ、話が違うぞ。夢幻光を迎えに来たのではなかったのか?』

 

 

 意外なことに、ケテルの行動に動揺していたのは僕たちだけではなかった。

 彼がメアちゃんをノーモーションで殺害しようとしたことに驚いているのは、サフィラス十大天使の皆さんも同じである。マルクトは思いも寄らない王様の行動に慌てふためき、ホドは仮面の下から不機嫌そうな声で問い掛けていた。

 

『邪魔するな次男。王様を撃てないじゃないか』

『馬鹿な真似はやめろ長女。貴様、王を裏切る気か?』

『王が私を裏切るなら撃つさ……その後で私も死のう』

『……相変わらず、愛の重い奴よ』

 

 ビナー様はなんかサラッと糞重い言葉を吐いたかと思えば、その手に弓を携えながら今にもケテルの背中を射貫こうと光の矢を構えている。そんな彼女の前にはコクマーが佇んでおり、彼女の射線を遮っていた。

 同じように、同時に飛び出しかけたセイバーズの三人の前ではゲブラーがその身を挺して阻んでいる。そんなゲブラー自身も、怪訝な顔で王に横目を向けていた。ケテルに向かって放とうとしたのであろう、長太の拳をその手で受け止めながら。

 

 

 しっちゃかめっちゃかな彼らのこの反応……さてはケテル、他の大天使にもちゃんと説明していないな? と言うことは王様の独断行動か。

 

 

「メアを……自分の娘を、殺そうとしたのか? 何故……っ」

 

 

 元々は仇討ちの為にセイバーズの一員となったほどの男である暁月炎には、自身の抱える父親像とはあまりに逸脱したケテルの行動が理解できない様子である。

 気が合うね、僕も同じ気持ちだ。

 しかし、ケテルだって意味も無くこんなことをする男ではない筈だ。

 周りの反応を見て少し落ち着いた僕は、一旦威圧を抑えて真意を問い質した。

 

 

「キミは言葉が足りない。もう一度訊くよ……今、ボクの友達に何をしようとしたの?」

『……友、か……』

 

 

 言葉が足りないと言うか、実は「フェアリーセイバーズ」でもそこまでセリフは多くなかったんだよねケテルって。

 ラスボス故に登場回数も多くなく、エイトちゃんではないがポエミーで意味深なセリフを呟くことも多かった。それがまたいい感じの考察要素にもなっていたものだが、現実の世界で対峙するとなるともう少しちゃんと喋ってくれと思ってしまうところだ。

 

 と言うわけで説明はよ。はよ!

 多分、納得しないだろうけど……何も聞かないのもアレなので、教えて王様。

 

 

『……そうだろうな……貴方はそういう女だ。だから、僕を止めてくる……』

 

 

 は? メアちゃんを殺そうとしたら止めるに決まっているだろ何言ってんだ。

 オリジナルキャラだろうが原作キャラだろうが、今やこの子はセイバーズの仲間なんだ。個人的に気に入っているし、さっき言った通り友達だと思っている。同じお風呂に入った関係なめんなよ。

 君がこの子の父親でこの子の何を知っているのか知らないけど、そちらの都合であっさり殺されてたまるかという話である。

 

 

「……っ、エイト……」

 

 

 よーしよし、怖くない、怖くないからねー……いや、流石にそれは子供扱いしすぎか。

 

 だが今のメアちゃんは衝撃的な出来事の連続に、目を回しそうなほど動揺している。瞳孔が開いているし顔色も酷い。

 これは……しっかりケアしておかないと、後にも響きそうである。

 

「ケセド、メアを頼む」

『……はい』

 

 僕は不安そうなメアちゃんの頭を左手で一撫ですると、右手はケテルの腕を掴んだまま再び彼の目を見つめた。睨むような目つきになってしまったが、今回は相手が相手だからね……余裕を見せつけようにも限度がある。

 

 

 それから沈黙が続き、数秒後。

 ケテルはメアと僕の顔を交互に見た後で、ほんの少しだけ悲しそうな目をしながら口を開いた。

 

 

『……いいだろう。言わぬが慈悲のつもりであったが、原初の大天使の申し出とあっては致し方ない』

 

 

 おう、説明してくれ。

 流石の僕も今回は余裕も無く警戒心を剥き出しにしていたが、その視線を受けながらもケテルは動じず毅然とした態度で語り始めた。

 

 

『夢幻光メアとは、余がフェアリーバーストの力を得る為に作り出した存在だ。かつてこの世界に栄えていた唯一の人族である「カバラ族」の遺伝子を基に、余がサフィラに力を注ぎ創造した──生け贄である』

 

 

 そして彼の口により、怒濤の情報開示が行われることとなった。

 それは、まさしく物語が佳境に入ったことを思い知らされる展開だった。

 

 

 

 

 

 ──そうして彼の語りが一通り終わった後、ほどなくしてこの場所で大乱闘スマッシュセイバーズが始まってしまったのは……多分、必然だったのだと思う。

 

 

 

 

 

 






 T.P.エイト・オリーシュア、気持ち良くオリ主できる状況じゃない方がオリ主っぽいことできる説……あると思います

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