TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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原作ラスボスの扱いは非常に難しい

 ──結果から言おう。話し合いは決裂した。

 

 見てくれよ僕の周り……怒り心頭のセイバーズの皆さんと天使の皆さんがあちこちでマッチアップしており、ヘットの空は人知を超えた者同士がぶつかり合う大乱戦状態に陥っていた。その光景は花火大会よりもずっと派手で煌びやかで、僕も画面越しの視聴者だったら何も気にせずに興奮していたところだろう。

 しかしこの世界は現実として僕の目の前に広がっている世界であるわけで。そうなるとこの状況は、ワイワイとはしゃげるものではなかった。

 

 まったく……やれやれだぜ。

 

 騒動の中心に立ちながら、思わず巻き込まれ系主人公みたいな溜め息が溢れるエイトちゃんである。

 そんな僕の後ろには衝撃の事実を知って茫然自失としている少女が一名と、そんな彼女に向かって懸命に呼び掛けている小鳥さんが一羽。

 そして目の前にはダイヤモンドのような瞳の奥に冷酷な眼差しを宿す十枚羽の大天使がいると来た。

 

 

『……余の前に立ち塞がる最後の障害が、お前とはな……』

 

 

 感慨深そうに呟いたその言葉に、どれほどの思いが込められているのかはわからない。

 だが、僕からしてみればこの状況……「フェアリーセイバーズのラスボスケテルと相対する」という点においては、この世界に放り込まれた時から想定していた展開であった。

 

 

「ボクはわかっていたよ。いつかこうして、キミとぶつかり合う刻が訪れることを」

『……だろうな……』

 

 

 僕はフェミニストではないが、オリ主にとって美少女とは等しく尊いものである。

 ただ一人の少女を守る為に戦う──ラスボスに挑むに当たって、これほど上等なシチュエーションはあるまい。

 いつの世も、主人公とはたった一人の少女の為に立ち上がるものなのだよ。

 故に、僕もかつて読み漁ってきた数々のオリ主に倣い全力で立ち向かうことにした。

 左手に怪盗ノートを開き、マントをアイテムボックスにしまうと同時に十枚の羽を展開する。

 白と黒の羽が合わさって最強に見えるカロンフォームのご披露である。ケテル側からは朝日に照らされていい感じに神々しく見えるように角度を調節しながら、僕はキリッとした顔でカッコいいポーズで構える。

 そんな僕をじっと見つめると、ケテルは虚空に向かっておもむろに手を振り上げた。

 

 

『……来い、王の十字杖(クロス・セプター)

 

 

 彼の手元に魔法陣のようなものが広がると次の瞬間、その中から一本の杖が引きずり出される。

 十字架のような形をした、如何にも聖なるパワーがビンビン漂っていそうな白い杖である。

 色合いとネーミングは実にシンプルだが、それ故に着飾った俗な感じが無く、大天使の武器に相応しい荘厳さを感じる造形だった。

 その武器を見た僕が、思わず微笑を浮かべてしまうほどに。

 

 ──何その杖知らない……だけど、超カッコいい……!

 

 実はアニメ「フェアリーセイバーズ」では諸事情あって、素のケテルが本気で戦うシーンは無かったりする。

 今しがた彼が取り出した白い十字杖も原作にはなく、初めて見るものだった。

 シリアスなこの状況で考えてはいけないことなのだが……僕は彼と一対一で戦える状況に、興奮している自分に気づいた。

 

 

「さあ、やろう!」

『……ああ』

 

 

 挨拶代わりに右手からエイトちゃんビームを放つと、ケテルも負けじと十字杖から極太のビームを発射してくる。

 二つの砲撃は真っ向から互角の威力でぶつかり合い、相殺の爆炎を上げていく。

 

 

 ──僕とケテルによる、チートキャラ同士のマッチアップだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はい。なんでこうなったのか、ちゃんと説明するね。

 

 

 こういった「時は少し前に遡る──」という巻き戻し形式は、その回で一番重要なシーンを開幕に持ってくることで展開を確実に進めることができるので、作者的にはとても書きやすかったりする。

 しかし、乱用すると頭の中で時系列がごっちゃになって読みにくくなってしまうのが難点だ。用法用量を守ることが大切だね。

 

 だが、今回に関してはあえて細かなやりとりを省略させてもらった次第である。

 

 ケテルが僕たちに語った真実──それは詳細に語って気分がいい内容ではなかったし、何より……ケテルの言い回しがちょっと回りくどくて、現代人にはわかりにくかったのである!

 

 なので、彼の説明から要点を押さえて僕が回想することにしよう。

 ふふん、気遣いのできるオリ主に感謝するがいい!

 

 

 

 

 

 まず、メアちゃんの正体だが──彼女はケテルが、ケテルの為に作り出した生贄だった。

 

 

 

 十年前のことだ。

 人間の異能使いこそが唯一アビスを完全に打ち倒すことができる存在と知ったケテルは、秘密裏にある計画を進めていた。

 

 それこそが「夢幻光計画」である。

 人間に対して強い不信感を抱く彼が追い求めていたのは、人間に頼らず自らの手でアビスを消し去る手段を得ることだった。

 

 そう……彼は自分自身が「フェアリーバースト」の力を得る方法を模索していたのだ。

 

 そんな彼は異能使いという聖獣にとって特異な存在を研究する為に、かつてこの世界に一大文明を築いた古代人「カバラ族」に注目した。

 その種族はこのフェアリーワールドの歴史上唯一存在していた「人族」だったと言う。遙か昔に絶滅し、今では遺伝子情報だけが世界樹サフィラのもとに保存されているとのことだが……ケテルはそれを利用したらしい。

 

 僕もカバラ族──という名前はビナー様から聞いたことがある。

 

 「カバラの叡智」も、彼らが生み出したものだと言っていたしね。しかし、その種族が僕たちと同じ人間だったとは初めて知ったものだ。この世界にもいたんだね、人類。絶滅しちゃったみたいだけど。

 

 ……で、ケテルは世界樹に保存されていたそのカバラ族の遺伝子情報を基に、自らの力を分け与えた人造人間を生み出した。彼の説明に僕はクローン技術的なものをイメージしたものだが、概ねそんな感じなのだろう。

 

 ともかく彼はそうして、自分に従順で協力的な異能使いを人造的に作り出すことに成功したわけだ。

 ケテルはそのプロトタイプに、夢幻光計画から一文字取って「(メア)」と名付けた。

 

 

 すなわち──メアちゃんはPSYエンスの改造人間ではなく、ケテル製の人造人間だったのである。

 

 

 そのような存在が何故フェアリーワールドではなく人間の世界にいたのかと言うと……それもケテルの仕業だと自白した。

 初めて誕生した人造異能使いであったが、その力は想定を大きく下回る欠陥品だったと彼は語る。

 

『生誕時のメアは余に進化をもたらす夢幻光足り得なかった。その娘には感情が無く……それ故に、余が与えた力の半分も引き出すことができなかったのだ。無論、フェアリーバーストに至ることもなかった』

「……っ」

 

 ケテルがお手製の人造異能使いに求めていたのは、深淵のクリファすらも消滅させるフェアリーバーストの力だった。彼が要求する出力に遠く及ばなかったプロトタイプは、致命的な欠陥品であることが判明したのである。

 

 そこで、ケテルは理解した。

 

 異能使いの力はその者の持つ感情──心が密接に関わっていると。その事実が明らかになっただけでも、彼が行った研究には成果があったのかもしれない。

 

 そして、ケテルは今一度考えた。

 

 人間の扱う異能が自分たちの聖術とどう違うのか……聖龍アイン・ソフが求めるフェアリーバーストとは何なのか?と。

 

 もう一度必要なデータを得る為に、ケテルは現地で調査を行うことに決めた。

 その為の偵察用端末として白羽の矢が立ったのが、人間と同じ姿をしているメアちゃんだった。その身体は誰がどう調べても人間という結果しか出ない彼女は、本来の用途を思えば出来損ないの失敗作であるが、極秘の偵察機としては最適任者だった。

 故に彼女を、人間の世界に放ったのである。その役割は、ビナー様が語っていた原種のカーバンクルたちと少し似ているかもしれない。

 

 しかし送り出した先の人間世界にて、彼女の身に予定外のイレギュラーが発生した。

 

 

 メアの中に、生誕当初には存在していなかった強い「感情」が生まれたのだ。

 

 

 あちらで遭遇した「PSYエンス」による拉致改造。

 防衛措置として働いた計画に纏わる記憶の抹消。

 リセットされたところで始まった光井家での平穏な生活という度重なるイレギュラーによって、彼女の中に本来存在し得なかった「感情」が芽生えたのである。

 

 それをケテルは……超越者としての感性で喜んだ。

 

 

 ──感情を獲得したメアを見て彼が抱いたのは、これで頓挫していた「夢幻光計画」が実行できるという安堵だったのだ。

 

 

『サフィラスの力と人間の心……その二つを併せ持つ今のメアは、余を「真のフェアリーバースト」に至らしめる夢幻光そのものだ。それはお前たち人間では、どうあっても辿り着けぬ領域であろう』

「真のフェアリーバーストだと……!?」

『不純物となっていたケセドとアディシェスも、もういない。お前のおかげだ、ダァト』

「……それはどうも」

 

 

 君の為にやったんじゃないんだけどね……ツンデレ的な意味ではなく、マジで。

 しかしケセドとアディシェスが混ざっていたのは生贄として都合が悪かったのだろう。それが無くなったからこそ、こうして迎えに来たというわけか。

 僕がケセドパワーを盗んだ影響で今は戦う力を失っているメアちゃんだが、ケテルが言うにはその身体には元々炎たちさえも遠く及ばない力が眠っているらしい。

 確かに最強の大天使であるケテルから直々に与えられた力を持つメアちゃんの身体には、その事実だけでもとてつもない潜在能力が備わっていることが読み取れる。

 その力の全てがフェアリーバーストによって完全に解放された時、天使の天敵である「深淵のクリファ」さえも滅ぼすことができるだろう。

 

 それはすなわち、聖獣が人間の力に頼る必要無くアビスを葬り去る手段を得たということで。

 

 

『そして完成した今のお前を喰らうことで、余は新たな「神」に至る……』

 

 

 そこまで聞いて僕は、「原作知識」を久しぶりに役立てる。

 アニメ「フェアリーセイバーズ」の知識を踏まえることで、ケテルのやろうとしている「夢幻光計画」とやらの全貌を把握することができたのだ。

 

 先ほどの彼は、メアちゃんを殺そうとしたのではない。

 文字通り、彼女を喰らおう(・・・・)としたのだと。

 

 もちろん、嫌らしい意味じゃないよ? それには、サフィラス十大天使の王である彼にのみ備わっている特別な能力が関係している。

 

 

 さて……ここでその説明をする為には、原作「フェアリーセイバーズ」の内容を理解する必要がある。少し長くなるぞ。

 

 

 確かこの前語ったのは、アニメ「フェアリーセイバーズ」における第22話までの流れだったね。

 第23話からは世界樹に着いてから語ろうと思っていたものだが、そこで出てくると思っていたケテルが想定以上に早く出てきたので予定が変わった。

 

 よし……ここはケテルの能力を解説する為にも、一気に最終回までのあらすじを説明するぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 覚醒した真ヒロイン(最重要)の灯ちゃんと炎の合体攻撃により、見事マルクトを打ち破ったのが第22話のことだ。

 そして、続く第23話である。サブタイトルは「世界樹サフィラ」。その名の通り、セイバーズがラストダンジョンである世界樹の内部へと突入した回である。この旅の目的である、聖龍アイン・ソフに会う為に──。

 

 

 マルクトを倒し、遂に世界樹の中に突入する炎たち。

 

 世界樹の最下層に眠っている聖龍を求めて、一同はケセドの案内のもとそこへ向かう。

 

 しかし、そこで彼らが見たのは、世界樹の深層内に大量発生しているアビスたちと、それを打ち祓う栄光の天使「ホド」の姿だった。

 

 ホドは自身に加勢しアビスたちを殲滅する炎たちの姿を見て高潔さを感じながらも、王命を受けたフェアリーワールドの守護者として厳かに言い放つ。

 『お前たち人間の世界がこれまでアビスの脅威に曝されなかったのは、聖龍がここのアビスたちを抑えていたからだ』と。

 そして、『その聖龍の想いを踏み躙る人間を、このホドは許さない』と言い切り、ホドは炎に槍を突きつけた。セイバーズ──人間の世界を守る為に来訪してきた勇者たちの信念を、その目で確かめる為に。

 

 その試練を受けた炎は仲間たちを先に行かせ、ホドに単身挑む。

 そして彼は、橙色の騎士甲冑に蒼い焔を叩きつけるのだった──。

 

 

 第24話「サフィラス十大天使」。

 

 炎の蒼炎はホドの心に届いた。

 元々中立的な思想を持っておりケテルの計画には賛同しかねていたホドだが、人類全体は信じられないが炎たちのことは信じてみたくなったと言う。『……願わくば、其方らと共に戦う未来を見たいものだ……』と呟く彼のもとを後にして、炎は焔の翼をはためかせて仲間たちのもとへと向かった。

 

 一方、翼と長太は聖龍の祠の前で立ちはだかる最後の門番、峻厳の天使ゲブラーと相対していた。彼らは壮絶な戦いを繰り広げる。

 二人がゲブラーを引きつけているうちに、灯と明宏は遂にフェアリーワールドの神、聖龍アイン・ソフのもとへと辿り着いたのだった。

 

 しかし、そこにはサフィラス十大天使の王ケテルが待ち構えていた──。

 

 

 ……そして、いよいよ問題の回である。第25話「明宏死す! 邪神ケテル覚醒」。

 

 

 大地と見間違うほど巨大な龍、アイン・ソフの前で三人を待ち構えていたサフィラス十大天使の王ケテル。

 ケセドと灯、明宏が「王」たる彼と対話を行った。

 これまで出会ってきた聖獣たちと人間たちのことを想いながら、三人は言う。「自分たちは共存することができる。そうすれば、アビスの脅威にも打ち勝てるはずだ」と。

 

 しかし、ケテルは頑なに拒絶した。

 

 人間たちと共に歩む気は無いと……この世界の平和を託されたのは余だけだと。

 その責務を果たす為に自分はここにいるのだと冷たく言い捨てた。

 

 そして、ケテルは人間たちを糾弾する。

 

 人間たちはフェアリーワールドの神たる聖龍から力を授かっておきながら、その意味を碌に調べようともせず愚かにも我が物顔で力を扱い、悪事にすら利用している。それがお前たちの本質だと。

 

 そして、ケテルは問い掛けた。

 

 『……お前たちは……お前たちの世界が、誰のおかげで成り立っていると思っているのだ?』と。

 

 そんな彼に、セイバーズの司令官光井明宏が答えた。

 

 「誰か一人ではない。そこに住まう一人一人の意思によって、我々の世界は成り立っているのだ」と。

 

 一人の存在がどれほど強大な力を持っていようと、自分たちの世界は成り立たないのだと言った。……言ってしまったのだ。

 

 

 ──その瞬間、彼の答えが何かを踏み抜いたようにケテルは豹変した。

 

 

 それまでの冷淡な態度から一変して激昂したケテルは、その勢いのまま明宏を殺害したのである。

 

 その結果、灯ちゃんの力が暴走する。

 

 自らの身を庇い、その腕の中で冷たくなっていく父親を見て、彼女はバースト状態に陥ったのである。

 

 そして暴走した灯ちゃんに呼応するように、世界樹の深層から祠まで溢れてきた液体状のアビスたちが殺到してきた。

 

 彼らはケテルをも飲み込みながら肥大化していくが……そこからさらなるジェットコースター的展開が物語を襲った。

 

 

 ──バースト状態に陥った灯ちゃんとその場に殺到してきたアビスたちを、纏めてケテルが「吸収」していったのである。

 

 

 それが明かされたケテルの能力の一つ。「王の剥奪」だった。

 僕の怪盗ノートが「相手の異能を盗み、自らの力として操ることができる」能力なら、彼の力は「相手の存在そのものを喰らい、自身の進化の糧にする」能力である。

 お前のものは俺のものとでも言うような、ジャイアニズム感溢れる能力だった。

 

 かく言う彼の寿命が他の大天使よりも圧倒的に長いのも、その能力で自らを進化させていった結果でもあるらしい。「フェアリーセイバーズ」の設定に詳しいマイフレンドが教えてくれた。

 

 

 そうして灯ちゃんとその場にいた全てのアビスを喰らい尽くしたケテルは、最悪の邪神へと進化したのである。

 

 

 そして──最終回。サブタイトルは「フェアリーセイバーズ」。

 

 

 炎が祠にたどり着いたと同時に、暴走する灯がアビスと共に取り込まれた。

 邪神誕生の余波を受けて崩壊していく祠。

 炎は明宏を抱えながら仲間たちと共に脱出するが、ケテルは世界樹サフィラさえも吸収してしまい、山よりも大きな異形の姿へと変貌していた。そのおぞましい姿はまさしく邪神だった。

 

 

 その光景を見ながら……セイバーズの司令官であり、炎にとって父親代わりでもあった光井明宏が、彼に最後の言葉を遺して息絶えていく。

 お茶の間の僕が号泣したシーンである。姉さんも泣いていた。

 

 明宏から二つの世界の平和を託された炎たちは、彼を安全な場所に置いて邪神ケテルに挑む。

 

 一方、ケテルはフェアリーワールドの空に巨大なゲートを開き、世界中のアビスを一斉に地球へと送り込んでいた。

 灯ちゃんだけではなく大量のアビスまでも取り込んでしまった彼は、既に理性を失っている状態である。アビスさえも制御下に置いて暴走し続けるアレは、もはやケテルではないのかもしれない……変わり果てた彼の姿を見てそう判断したサフィラス十大天使は、王の暴走を止めるべく立ち上がった。

 

 ──そして、最終決戦が始まる。

 

 最後の敵は邪神ケテル。

 このままでは人間世界だけではなくフェアリーワールドも危ないと、ホドを始めとする余力のある天使たちは皆セイバーズと休戦し、共に応戦した。ネツァク様やマルクト様ちゃんも協力しオールスター状態である。

 

 ──しかし、力の差はあまりにも大きすぎた。邪神ケテルの圧倒的な力を前に、炎はとうとう撃ち落とされたのである。

 

 

 愛する女も守れず、何も為せずに死ぬのか……と、炎の頭に走馬灯が過ぎる。

 

 薄れゆく意識の中、これまでなのかと諦めかけたその時──地上の聖獣たちや、ゲートの向こうから戦いを見守る地球の人々の声が彼のもとに集まり、奇跡が起こった!

 

 

 フェアリーバーストを超える──「真のフェアリーバースト」の発動である。

 

 

 それは、自分一人の心だけではない。

 多くの人間や聖獣たちの「想い」が暁月炎という器のもとに集まり、限界を超越した虹色の焔を呼び起こしたのである。

 絶望の淵から蘇り、クッソカッコいい挿入歌と共に発動したその演出に、僕のボルテージも最高潮を超えてバーストしたものだ。一緒に見ていた姉さんも興奮のあまり、犬のぬいぐるみを殴っていたなぁ……ぬいぐるみさんかわいそうである。

 

 正真正銘の最終フォームに覚醒した炎は、その身に溢れさせた太陽の如き力を以って、異形の邪神と化したケテルの身体に一閃を叩き込む。

 そして刻みつけた傷の中から灯ちゃん(全裸)を抉り出し、見事救出に成功してみせたのである。

 

 灯ちゃんを失ったことで、ケテルは邪神としての肉体を維持できなくなる。

 そんな哀れなラスボスに向かって、互いに頷き合った二人は最後の仕上げとばかりに(ほのお)()の一撃を繰り出し、戦いが終結するのであったとさ──めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……以上が、アニメ「フェアリーセイバーズ」のクライマックスである。

 

 もちろん詳細な内容や見どころは他にも色々あるが、推しの活躍を語りすぎると際限が無いのでここらでやめておこう。

 

 ……まあ、とにかくこれらの内容を鑑みればリブートと言えど、ケテルの「夢幻光計画」とやらがどういうものかは察せられる。

 

 そうだね。ケテル視点でのここまでの流れを想像して、現状を整理しよう。

 

 

 

 ケテルはアビスを滅ぼしたいぜ!

 

 その為には強い人間が必要だぜ!

 

 聖龍が言っていた「フェアリーバースト」って力が鍵だぜ!

 

 だけどフェアリーバーストは人間にしか発動できないぜ!

 

 なら、昔この世界にいたカバラ族っていう人族のデータを使ってフェアリーワールド産の異能使いを作るぜ!

 

 できたぜ、人造異能使い! 名前はメアだぜ!

 

 あっ、駄目だこれ失敗作だぜ! 感情が無いからフェアリーバースト発動できないぜ!

 

 もったいないから人間世界に偵察機として送り込むぜ!

 

 悪の組織に捕まったぜ!

 

 不測の事態が起こった瞬間、防衛機能が発動し、メアは記憶を失うぜ! これで情報漏洩の心配は無いぜ!

 

 セイバーズとかいう正義の味方に助けられたぜ……親切な人間たちの家でしばらく暮らしたようだぜ! サンキューな!

 

 なんか感情手に入れてるぜ……なんでだぜ……

 

 だけどPSYエンスに入れられた不純物が邪魔しているせいか、これじゃまだフェアリーバーストできないぜ!

 

 エイトとかいう美少女怪盗が不純物取り除いてくれたぜ! さすエ!

 

 これでメアもフェアリーバーストを発動できるぜ!

 

 いい感じに育ってくれたからそろそろ収穫するぜ! お前のものは俺のものだぜ──という感じか。

 

 

 

 

 バチンッ──と、乾いた音が響く。

 

 

 ケテルから聞き出した説明をそこまで要約した瞬間、彼の顔面に一発を叩き込んでやった僕は、今一番オリ主らしいことしているのではないかと思う。

 ……いや、衝動的な行動だったので、そこまで考えていたわけではないけどね?

 

 だけど……とても胸糞悪い話で、そういうのは嫌だと思った。そんなの、求めていないって言うか……

 

 メアちゃんという子供が……僕の友達が、こうも良いように利用されていたと知ったらね。

 仮に僕が引っ叩かなくても、炎にしろ長太にしろ同じように彼をぶん殴って開戦していたところだろう。

 

 対話の場だから我慢していたのだろうけど、みんなみんな、すっごい怖い顔して拳を握り締めていたしね。

 

 

 ……まあ、身も蓋もない言い方をすると「夢幻光計画」というのは要するに、異能使いの養殖である。

 

 

 彼は失敗作として切り捨てたメアという自家製異能使いが予想以上に育ったので、僕たちのもとに引き取りに来たのだ。そして「王の剥奪」を発動し、原作で灯ちゃんにやったようにメアちゃんを吸収しようとしたというわけである。

 

 なんだよ……そんなの……それでは、まるで──

 

 

 まるで追放物の悪役じゃないか!

 

 

「もう遅いよ、ケテル」

 

 

 思わず指摘してしまった。

 メアちゃんの物語にタイトルを付けるなら、「生け贄として作られた命ですが失敗作として捨てられました~異世界で強くなったので引き取りに来たが、もう遅い~」って感じかね。おう……これは酷い。

 

 それはいかん……いかんよケテル。追放物は追放した側がおめおめと引き取りに来たところでまんまとフラれ、最後には破滅していくのが常識である。

 それは約束されたハッピーエンドフラグとして安心して「ざまあ」を待つことができるので、ネット小説界隈においてとても人気の高いジャンルである。

 

 ──しかし、僕は彼にその展開を望んでいなかった。

 

 彼の話を聞いた時はこうして、思わず手が出たほど胸糞悪くなったが……彼に破滅してほしいとは思っていないからね。僕はアンチヘイト系オリ主でも無ければ、ざまあ系転生主人公でもない。そういうのはなんか違う気がした。

 

 うーん……何だろうねこの気持ち? 原作とかラスボスとか関係無く、彼に対しては何かこう、奇妙な哀れみを感じている自分がいた。

 

 

「それに……そのやり方では、キミが救われないじゃないか……」

『…………』

 

 

 ケテルは悪役だが、オリ主的に考えると最大の救済対象であることも事実だしね。

 ラスボス救済物のSSは、原作さえもなし得ないトゥルーエンド感があっていいよね……ご都合主義と笑いたければ笑うがいい。しかしその為のオリ主であり、その為のチート能力だ。

 原作のバッドイベントを力技で捻じ曲げてこそ、チートオリ主(僕たち)チートオリ主(僕たち)でいられるのである。

 

 

「そんなことを続けていたら、苦しいばかりだ……だからボクは、キミのことを引っ叩いても否定するよ。その為にボクは、ここにいるのだから」

『……同じ、か……』

 

 

 メアちゃんを犠牲にする展開はもちろん許さないが、それが引き金となってケテルが小物化し、破滅していくのもなんか嫌だ。チートオリ主の格はラスボスの格が高いほど高くなるのである。

 そんな思いを込めてケテルを見つめると、彼は深く息を吐いて呟いた。

 

 

『……今の余は、救いを与える者だ。求めてなどいない』

 

 

 僕に叩かれた頬を無表情で擦る彼は、一体何を考えているのやら。

 少しぐらい痛がってくれたら嬉しかったんだけど……それはそれで小物に見えてしまうのでラスボスの扱いは難しいところだ。まあ、いいけどね! 今からもっとキツい攻撃するし!

 

 

『夢を守りたければ剣を取れ。世界を守りたければ幻を斬れ。余はケテル、夢幻さえも支配する──この世界の守護者なり』

 

 

 おっ、そのセリフ回しいいな……頭の中にメモっておこう。

 しかし言い回しはカッコ良くても、セリフの中身は最低である。

 要は世界をアビスから守る為には、メアちゃんのことを犠牲にしろと言っているのだろう? 冗談言うなって。

 

 だけどね……嬉しいことにこの場にいる人間は、誰一人として彼の言葉に賛同していなかった。

 

 

「断る」

「おととい来やがれ」

「夢幻光だか何だか知らねぇが、メアは俺たちの仲間だ馬鹿野郎!」

『バーカバーカ!』

 

 

 リーダーの暁月炎がきっぱりと拒絶し、翼、長太、ビナー様が追従する。長太とビナー様に至っては中指を立てながら子供のように煽っておられる。長太はともかくビナー様も!?と内心驚いたが、よくよく考えれば彼女も羽を半分消し炭にされているし、王様に対して一番鬱憤が溜まってそうである。

 

 ……うん、やっちゃうか! こんな王様なんて!

 

 

 

 しかし彼らも、ケテルの言葉に悩む素振りすら見せないところがまた男らしくて素敵だ。やはりセイバーズは僕のヒーローだと改めて思った。

 

 ほら、見てみい! メアちゃんったらあんなに涙を流して……ケセド君、マジで頼むよ。こんな事実、彼女にとってはあまりにもあんまりだ。

 

 

「自分と自分の子供すら救えない人が、果たして本当に世界を救えるものかな?」

『……よくも、言えたものだな……』

「言えるさ。だってボクは……いや、何でもない」

 

 

 危ねぇ、だってボクはオリ主だから!って言いそうになったわ。勢いって怖い。

 そうだ。オリ主だからこそ、僕はここぞとばかりに偉そうなことを言ってみたのである。せっかくラスボスとオリ主が対峙したのだから格好つけさせてほしいよね。

 

 

 

 ──そんな、開戦時のいざこざである。

 

 

 








 二次創作だからこそ原作ラスボスの格を落としたくない気持ち
 答え合わせ回なので今までで一番の難産でした。だけどまだオリ主の答え合わせが残ってるぜ!
 色々矛盾が無いか自分で読み返したりしてたら投稿が遅れたぜ! 文字数も増えたぜ!
 これまでお話の中で小出しにしていた原作フェアリーセイバーズの流れとか、一ページに纏めておいた方がいいかもしれませんね

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