TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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オリ主と原作キャラのパワーバランスは難しい

 黒い少女の拳が、白い天使を捉える。

 T.P.エイト・オリーシュアがボクシンググローブのように右手に纏った闇の拳で、ケテルの身体をガードの上から殴り飛ばしたのである。

 エイトの全身を漆黒のオーラが覆う。瞬間、少女が凄まじい速さで詰め寄り、追い打ちを仕掛けた。

 闇を纏った拳で再び顔面を殴りつけようとしたが、それはケテルが構えた十字杖によって阻まれた。

 だが、エイトの攻撃は終わりではない。

 十枚の羽を広げながら素早くその身を半歩分ほど退かせると、エイトは左右に反復するように飛び回り、敵の目を攪乱する。その右腕に纏っていた闇は、拳の形ではなく剣の形へと変化していた。

 

「せい!」

『ふ……』

 

 闇のオーラを剣に変えたエイトの一閃と、白光の輝きを纏うケテルの十字杖がつばぜり合う。

 二人の斬撃が交差する度に轟音が鳴り響き、火花のような力の波濤を空に拡散させていった。

 

 ──十枚羽を持つ大天使同士の戦いは、いっそ美しいほどに壮絶だった。

 

 片方が弾き飛ばされればもう片方が弾き返し、闇と光が見えざる壁を足蹴に反転していくようにもつれ合いながら、二人の大天使は同等の速度で上空を駆け巡る。

 体格差故か、真正面からのぶつかり合いで押していたのはケテルの方である。

 棒術を行うには不向きな十字杖を扱いながらも、彼の一閃はエイトの操る闇の剣を押し切り、がら空きにした胴部に向かって空けた左手から一条の光線を放つ。

 体勢を崩していたエイトは咄嗟に身を反転させると、空中で逆上がりをするような要領で右脚を振り上げ、ケテルの左腕を蹴り上げる。それにより放たれた光線の射線を逸らすことはできたが、依然体勢が不利なのはエイトの方だ。

 その隙を見逃さずケテルは右肩からタックルを浴びせ、彼女の身体を突き飛ばした。

 

「っ、やる……!」

『…………』

 

 吹っ飛ばされながらも、T.P.エイト・オリーシュアは余裕の笑みを絶やさなかった。

 風に煽られ大胆に捲れ上がったロングスカートの裾を押さえながら、彼女は再び身を捩り体勢を立て直す。

 挑発的な表情を浮かべるエイトの姿を見下ろしながら、ケテルは周囲に直径五十センチメートルもの大きさの光球を同時に十発生成し、それらを射出した。

 一発一発が人間にとっては必殺の威力が込められた光の弾丸である。

 それを見て口元を引き締めたエイトは雷の如き速さで弧を描くように飛翔しながら、鋭角的な軌道で全ての光球をかわしきった。

 

「お返しっ!」

 

 反撃に転じたエイトは自身の周囲にカラスのような闇の鳥を十体召喚すると、それらに爆炎を付与させながら一気に射出していく。

 己の攻撃を全てかわしきったエイトに対して──ケテルはエイトの攻撃を全て粉砕することで応えてみせた。

 その手に携えた十字杖を巧みに振り回すと、襲い来る全ての鳥を叩き潰したのである。

 ケテルにとって、その程度の攻撃は避けるまでもないという余裕の表れか。しかしその直後、彼の後頭部を痛烈な打撃が襲った。

 

「隙ありってね」

 

 弾幕に紛れてテレポーテーションで回り込んできたエイトが、背後からケテルの後頭部に膝蹴りを浴びせたのである。

 この戦いにおいて、エイトが初めて与えたクリーンヒットだった。

 

 ──が、それでエイトにしたり顔を浮かべさせることを、ケテルは許さなかった。

 

「わっ、それズルい!?」

 

 ケテルは振り向きもせず自らの十枚羽から暴力的な閃光を放つと、エイトの身を的確に捉えてきたのである。

 思いも寄らぬところから放たれた反撃に、エイトは慌てて闇のバリアーを展開してダメージを最小限に留める。損傷は皆無ではないが、身につけた衣装の胴や肩の部分がところどころ破損した程度に収まった。

 

「ふぅ……危ない危ない」

『…………』

 

 

 この間僅か数分と経っていない中でも、二人の力と技は何度衝突したかもわからぬほどだった。

 最強のサフィラス相手に、T.P.エイト・オリーシュアは一歩も退いていない。

 スカートを翻しながら振り上げた右脚の蹴りでケテルの身を弾き飛ばすと、エイトは白と黒の羽を羽ばたかせながら追撃を仕掛けていく。

 ケテルは体勢を立て直しつつ上空に浮かぶ雲の上を滑るように背面飛行しながら光の弾丸を連射してくるが、エイトはひらりと舞う蝶の如き軽快な動きでそれらをかわしてみせた。

 凄まじい威力の光弾が肌の数センチ横を通り抜けていく度に、エイトはその顔に闘気の笑みを深めていく。それはまるでスポーツの試合で爽やかな汗を流しているような顔つきであり、ケテルとの戦いをどこか楽しんでいるように見えた。

 

 さらに飛行速度を上げたエイトが、急迫し闇の剣を振り下ろす。

 ケテルが十字杖でそれを防ぎ、反撃の一閃を走らせる。

 

 斬りつけ、薙ぎ、防がれ、時折襲い掛かる光弾をいなし、再び打撃を見舞う。

 相手の攻撃が踊る度、攻撃と防御の衝撃がそれぞれの肉体に響いた。

 

 

 まるで二人だけの世界とでも言うような……誰にも割り込むことができない領域がそこにあった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暁月炎VSホド。

 力動長太VSゲブラー。

 風岡翼VSマルクト。

 ビナーVSコクマー。

 

 そして、僕VSケテル。

 

 以上が、今回始まったそれぞれの対戦カードである。

 お互い綺麗に一対一のマッチアップに分かれたのは、戦略的にまんまと分断されてしまったとも言える。しかし、セイバーズの面々はこの世界に来た当初より一段も二段もレベルが上がっている。戦況は割といい感じに拮抗して見えた。

 彼らだってこの世界でフェアリーバーストを会得し、その力を使いこなせるようになったのだ。今の彼らなら、サフィラス十大天使とも良い勝負に持ち込める筈である。

 その上……敵側でもマルクトとホドに至っては、王の語った真実に色々と思うところがあるのだろう。二人の動きには迷いがあり、明らかに本調子ではなさそうだった。

 故に、彼らと相対した炎と翼なんかはそのまま勝ってしまいそうな雰囲気があった。

 

『余を前にして……神経を他に割く余裕があるのか?』

 

 おっと、それもそうだね。ごめんごめん。

 僕はチートオリ主だけど、相対するケテルは公式最強のラスボスである。

 これは僕の個人的な意見だが……オリ主の戦闘力はラスボスと善戦できるけどちょっと及ばないぐらいのパワーバランスがSS的に一番楽しみやすいと思っている。異論は認めるが、チートオリ主だって何でもかんでも圧倒すればいいわけではないのだ。もちろんオリ主最強設定も好きだけどね!

 

 その点、僕とケテルは……どうなんだろうね?

 

 僕はこれでも結構本気を出しているが、今のところ完全に互角である。

 それでも後先を考えて余力を残してはいるが、それは彼も同じだろう。僕が放つ漆黒の稲妻を前方に展開したスタイリッシュな光のカーテンで防いでみせる彼の表情は涼しげであり、全力を出しているようには見えなかった。しかし彼の技はどれもオーロラみたいに綺麗なエフェクトを放ってるな……色合い的には、あっちの方が主人公っぽいかもしれない。

 まあ僕はダークな雰囲気も魅力的なオリ主なので、それで良しとする。

 

「……そうだね」

 

 しかしケテルは、全くポーカーフェイスを崩さないね。

 仮に本気を出していたとしても、表情に出すタイプではなさそうだ。

 

 その辺りはどんな時でも余裕を見せつける僕の流儀と通ずるものがあり、中々気が合いそうだ。

 そう思うと僕の理想とするミステリアスでカッコいい強キャラ像って、ケテルと通ずるものがあるのかもしれない。僕の憧れはケテルだった……? まさかケテルこそが完璧なチートオリ主だったとは……見抜けなかったわ……!

 

 

 冗談はさておき。

 

 

「ボクはいつでも、キミのことを見ているよ」

『……ならば、今は余だけを見てもらいたいものだ』

「ごめんね、それは無理だ。ボクには守るものがあるからね。今はそっちが優先さ」

『……だろうな』

 

 

 ただでさえオリ主にはやることが多い上に、この状況である。今の僕がケテルの相手に全集中できるかというと、正直な話とても厳しい。

 

 特にメアちゃんのことが心配だ。

 

 メアちゃん自身の精神状態はもちろんだが、コクマーとゲブラーなら隙あらば王様の代わりにメアちゃんを攫おうとするぐらいしてくるかもしれない。

 ヒロインのピンチに動けぬようではオリ主の名が廃るというものだ。

 

 そうなった時にはすぐにでもテレポーテーションでメアちゃんのもとへ向かう必要がある為、僕はケテルを相手取りながら千里眼を応用しつつ、彼女の様子をチェックしていた。ケテルには気づかれていたようだが。

 

 そのメアちゃんだが……彼女は依然、茫然自失とした様子で蹲っている。

 ケセド君が懸命に呼び掛けているが、この場で立ち直れなくても彼女のことは責められない。

 

 

 自分の命が捧げられる為にあったなんて──そんなこと、誰が受け入れられるものか。

 

 

 ……それが当たり前なのだ。

 

 だからこそ、僕は彼に説教する。

 呆れた王だ生かしてはおけぬとまでは言わないが、今の僕は結構怒っていた。

 今回ばかりはSEKKYOUではなく、説教である。

 

 

「ケテル、キミは間違っている」

 

 

 雲よりも高く飛び上がった大空の下で、僕たちはお互いに間合いを取りながら向かい合う。

 数拍の沈黙を破って放ったのは、オリ主によるラスボスへのマジレスだった。

 

 

「誰かの為に命を捧げる……そんな運命を、誰も彼もが受け入れられるわけじゃない。たとえキミが生み出した命であろうと、使命を強要する資格は誰にも無い」

 

 

 彼がメアちゃんに強いる理不尽は、とてもではないが許容できるものではない。

 そう告げると、彼はほんの少しだけ表情を変えて睨んできた。こわい。

 

 

『……他者から与えられた使命に()じた貴方が何を語る』

「ん、ボク? なんでボク? ……ああ……うん……確かに、それを言われるとキツいね……」

 

 

 確かにT.P.エイト・オリーシュアとしての人生は、カロン様という他人に与えられた使命に()じて生きていると言えなくもない。

 しかし僕自身としてはカロン様がくれたボーナスタイムみたいなこの時間を、彼女の為に捧げるのも悪くないと思っている。

 初めて謁見したあの時……カロン様は僕にお願いはしても強要はしてこなかったけど、仮に彼女が何らかの理由で僕に死ねと命じたならその時は受け入れる所存である。すっごい嫌だけど。

 

 病的なほど心酔しているわけではないが、僕は彼女からそれだけのものを貰ってきたのだ。彼女の為に命を捧げることに不満はない。だけど……

 

 

「だけど、メアは違う。とっくに終わっているボクの人生と違って、あの子はまだこれからなんだ。今のあの子は、ボクじゃない」

 

 

 最初に会った時は彼女も同じオリ主なのだと思っていたから、自分と同一視しているところはあった。

 しかし、それは違ったのだ。彼女もまたこの世界に生きる一人の立派な命であり、僕はそんな彼女の存在を──尊く思う。

 

 尊いものを守るのがオリ主という存在である。そうだろう? カロン様。

 

 

「キミはさ……メアがその尊い命を捧げるに足る対価を、お父さんとして今まで、一度だって与えたことがある?」

『存在を与えた。あの娘がこの世界に生きているのは、余がその存在を生み出したからだ』

「だったら、ちゃんと面倒見てあげてよ」

『…………』

「見ていたのなら、わかるだろう? あの子が感情を手に入れることができたのは、優しい人間たちの心の温かさに触れて……彼らから愛情を受け取り、それに応えたいと思ったからだ。誰にも命令されず、人間みたいに」

 

 一度目の人生を思う存分生きた僕だからこそ、悔いは無かった。だから二度目の人生は大恩あるカロン様の為に役立てたいという気持ちに嘘は無い。それはそれとして全力でエンジョイしているけどね。

 

 だけど、メアちゃんは転生者でなければオリ主でもない。たった一度だけの人生なんだ。

 

 そんな貴重な時間を捧げてもらいたいのなら、王様だろうともっとちゃんとした、誠意ってものがあるのではないかと思うのですよ。

 半ギレ気味に抗議の眼差しを送ると、僕は決めゼリフのように力強く言い放つ。

 

 

「生まれた頃のメアに感情が無かったのは、あの子が失敗作だったからじゃない。キミが何も教えなかったからだ。教えてもらわなきゃ……何もわからないんだよ!」

『……余の、失態だと?』

 

 

 そうだよお前。なに「今初めて考えたわそんなこと」って感じにキョトンとした反応しているんだお前。

 本当にもう……相変わらず世話の焼ける子だなぁキミは……ん? あれ、今何考えた僕? ……まあいいか。

 

 何はともあれここは論理的に考えてマウントを取るチャンスである。逃さずにはいられない。

 

 あわよくばオリ主の説教で、いい感じに漂白されてくれないかなーと期待を込めながら、僕はケテルの目をじっと見つめる。

 そんな僕の前で、ケテルは何やら考え込んでいるように顔を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確信した。

 

 

 

 T.P.エイト・オリーシュア──その正体はダァトだ。

 

 

 

 その可能性をホドから聞かされた時、ケテルはその考察を信じていなかった。

 彼女はもういない……いる筈が無いと思っていたから。

 現存する最古の大天使であるケテルは、それ以前の時代を生きていた原初の大天使のことをこの世界で誰よりも深く知っており、「王」としての自分の存在理由の一つでもあったのだ。

 

 原初の大天使「知識」のダァト──かつてこの世界に未曾有の被害をもたらした「深淵大戦」を終結に導いた英雄の名を、ケテルは同胞たる大天使たちにずっと語り継いでいた。生まれ変わる度に、何度も……

 

 ダァトという大天使はサフィラスにとって母のような存在である。

 そして古の時代は天界に現れた十体の深淵のアビスにより滅びかけたフェアリーワールドを救い、自らの命を捧げた最高の大天使であったと。

 

 若き日のケテルにとっては天使を統べる「王」としてサフィラに生み出された自分よりも、よほど王座に相応しいと思っていた女性だった。

 

 そうだ……彼女は若かりし日のケテルにとって理想の大天使であり、憧れであり──姉だったのだ。

 

 彼女と最後に交わした言葉は、幾億年過ぎた今でも忘れていない。

 彼女のことを大切にしたいという思いはある。この狂おしさも、残っている。

 

 しかし、今のケテルが彼女との再会を喜ぶには、あまりに遅すぎたのだ。

 

 彼女の存在を素直に受け止めるには、彼の心は磨り減りすぎていた。

 

 

『今更……貴方が現れて何とする。今になって、余に何を説くのだ……』

「……?」

 

 

 ケテルにとってこの再会は、あまりにも遅すぎた。

 あの日決めたこと──決まったことを覆すには、自分はこの世界の中で変わってしまった。その事実を自覚しているからこそ、何も変わっていない少女の姿に心の整理が追いついていない自分がいる。

 

 

『そうしてお前は……また余から奪うつもりか……? 余は……僕は……っ』

「ケテル……?」

 

 

 十字杖の柄を握る指を強めて、ケテルは伏せた顔を上げる。

 ダイヤモンドのようなその瞳は、目の前の少女を越えるべき壁として睨んでいた。

 

 

『……今の余は、不完全だったあの頃とは違う。貴方が戻ってこようと、余は王で在り続ける……その為に余は強く……強くなった』

 

 

 この世界の誰よりも。

 そうだ……不倶戴天の敵にも、侵略者にも、何者にも奪われることのない絶対的な頂点がフェアリーワールドの「王」だ。

 今の自分は誰よりも強いと確信している。だからこそ、ケテルは──

 

 

『ダァト、余は貴方を……』

「──っ、メア!?」

 

 

 ケテルが自らの感情をぶつけようとしたその瞬間、少女がハッと目を見開き、その場から姿を掻き消した。

 

 彼女が得意とする技の一つ、転移系の聖術である。

 気配が向かった先は地上──白熱する戦闘の中で置き去りにしたヘットの町の一角にして、ターゲットであるメアがいる場所だった。

 

 

 ──そこでは、小さな恒星のような凄まじい光の奔流が渦巻いていた。

 

 

 メアの力が解き放たれたのである。

 尋常ではない力だ。並の天使を遙かに超えた力が顕現している。

 それは今回の来訪により発生すると予測していた、ケテルからしてみれば想定内の事象だった。

 

 

『やはり、メアはバースト状態になったか……』

 

 

 「真実」を語れば彼女の感情は爆発し、「夢幻光」は本来の力を解放する。全て計算した上での行動だった。

 

 後はその力を剥奪し取り込めば、ケテルの夢幻光計画は達成される。

 そう……全ては順調だった。

 

 ……しかし順調に運ぶ計画の中で、今のケテルの心には耳障りな雑音が絶えず響いていた。

 

 ああ、そうか。

 

 メアの異変に気付くなり自分との戦いをあっさり放棄して彼女の元へ向かった黒い少女の姿を見て、変わり果てた自分自身に対して惨めさを感じたのかもしれない。

 

 

『……やはり、僕を見てはいないのだな……ダァト……』

 

 

 変わり過ぎた自分と、何も変わらないダァト。

 ケテルの心には今、どう表現すればいいのかもわからない感情が混沌としていた。




 評価者1000人達成ありがとうございます! 目標にしていたわけではありませんが、何か一つ達成感がありますねこれは……感謝感謝です
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