TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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キリトかなー


キャラのイメージが一人歩きする

 まばゆい閃光と共に地上から巻き起こっていく光の奔流は、空中で戦っていた戦士たちの視線さえ釘付けにするものだった。

 

「メア!?」

『……クッ』

 

 ホドと激闘を繰り広げていた暁月炎は、即座にその異変がメアの居場所で発生していることに気づくと、戦場から離脱して一目散に彼女のもとへと向かっていった。

 そんな彼の背中を追い掛けるように、僅かに反応が遅れてホドが飛翔していく。

 

「あれは……!」

『バースト状態だ……錯乱したメアの感情が、異能の力を暴走させたのであろう』

「あそこにメアが……くそッ!」

 

 バースト状態に陥るほど錯乱した理由は、言われなくてもわかる。

 彼女の生みの親であるケテルから語られた残酷な真実。それが彼女にとってどれほどの衝撃を与えたのかは測り知れない。

 過剰なストレスは異能を暴走させる。それは、なまじ力のある異能使いほど引き起こしてしまう異能の事故だった。

 しかし……

 

『メアの潜在能力が、あれほどのものとは……我ら以上の凄まじい力だ』

「あれが、メアの本当の力なのか……?」

 

 バースト状態に陥ったメアの力は、闘技場での力動長太よりも桁違いの力を発している。

 メアの身体から放たれている膨大な光は日照りのようにどんどん増大していき、その姿を光の繭へと変えた。

 程なくして繭の中から二対の翼が浮かび上がる。同時に悲鳴のような雄叫びを上げながら、黄金の龍が姿を現した。

 

 メアの身体から吹き荒れた光そのものが、龍の姿になったのである。

 圧倒的なその威容は、まるでフェアリーワールドの神「聖龍アイン・ソフ」のようだった。

 

「……待っていろ。今、助ける!」

『…………』

 

 時間が経てば経つほど、姿を現した光の龍は巨大化し続けていく。バースト状態になったメアの力は尽きることなく増大し、まるでデタラメだった。

 瞬く間に40メートルを超える大きさになった黄金の龍は見た目こそ神々しいが、一度暴れ回ればその脅威はアディシェスをも上回るかもしれない。

 そんな怪物と化してしまったメアを見た途端、暁月炎は考えるより先に動き出していた。

 

『小娘一人に気を取られ、このホドの前に背を晒すとは……人間とは、そういうものなのか?』

 

 ホドとの戦いを放棄し、脇目も振らずメアのもとへと向かっていく炎の背中はガラ空きである。ホドがその気になれば、すぐにでも撃ち落とすことができるだろう。

 しかし、炎は彼を信じたかった。

 彼ならばわかる筈だと。わかってくれる筈だと思っていたのだ。

 メアが独りぼっちでこの世界に落ちた時、彼女のことを認めてくれたホドならば。

 

「人間も聖獣も関係ない! 俺はただ、大切なものを守りたいだけだ! それは、あんたたちだって同じだろう?」

『……そうだな』

 

 種族は関係ない。人間だから感情的に動くのではない。

 大切だから守りに行く。大切だから助けたい。それだけだった。

 それは人間も聖獣も変わらない理屈だと、炎はこれまで見てきたフェアリーワールドの聖獣たちの姿を脳裏に浮かべながら問い掛けた。

 その上で、彼は訴える。

 

「メアは俺たちの大切な仲間で……俺の妹なんだ! 道具なんかじゃない!」

 

 もがき苦しむように、黄金の輝きを放つ光の龍が咆哮を上げる。

 暴走した彼女は近づく者全てを敵と認識しているのか、その口から手当たり次第暴力的な閃光を撒き散らしていた。

 その威力は見た目に違わず、触れただけで地面を抉り取っていくほどだった。

 そんな閃光の一発が、彼女のもとへ向かう炎の姿を狙い、直撃コースで入ってきた。

 

「──っ」

 

 まばたきする暇も無い。

 ハッと息を呑み、炎は衝撃に備えるが……閃光が彼の身体に突き刺さることはなかった。

 橙色の鎧の騎士が割り込み、大盾で遮ったのである。

 

「ホド、あんた……」

『奴の中に飛び込め。あの龍は異能の力がその姿を象っているだけで、実体は無い。故に、あの光の中に飛び込めば、その先にメアはいる筈だ』

「そうか……!」

『急げよ……このまま力を発散し続ければ、この町はもちろんあの娘も危ない』

 

 王命に背き、栄光の大天使ホドは自らの意思で炎を助けたのだ。

 その判断に期待していなかったわけではないが、炎は驚く。次に、感謝の笑みを浮かべた。

 そうだ……大天使にも思いは伝わるのだ。人間と聖獣の争いを対話で解決することもまた、決して不可能ではないという事実を示していた。

 

 それはあの子が──メアが望んだ未来だった。

 

「感謝するが、あんたはいいのか?」

『ふっ……この尊き世界に、死ぬ為に生まれる命などあるものか。たとえ王に刃を向けることになろうとも……王の誤りを正すこともまた、アイン・ソフへの忠誠の証だ。真実を見極めるまで、時間が掛かってしまったがな』

 

 故に、これは裏切りではないとホドは言い切る。

 サフィラス十大天使は皆各々が各々の正義を持って活動しているとは聞いていたが、まさにその通りだったということだ。

 彼は八枚の翼をはためかせて先行すると、炎に襲い掛かる龍の閃光を自慢の大盾で受け流してみせた。

 

『龍の懐への水先案内人は、このホドが引き受ける! 其方は隙を見て飛び込め!』

「ああ!」

 

 命じるなり、ホドは弾丸のような速さで前進し光の龍の射線へと突っ込んでいった。

 鈍重そうな鎧を全身に纏っているホドだが、空中を翔け抜けるスピードは炎のそれを上回る。

 戦闘能力こそ拮抗している二人だが、やはり飛ぶことに関してはフェアリーバーストの状態でやっと飛べるようになった炎たちと違って、生まれながらに自前の羽を持っている天使たちの方に一日の長があるようだ。

 そんなホドが前に出て危険な攻撃を捌いてくれるのは、その鎧に恥じない頼もしさを感じた。

 

 だが、近づけば近づくほど光の龍──暴走するメアの攻撃は苛烈を極めていく。

 

 彼が閃光を大盾で受け流せるのも、数発が限界だった。

 だが、数発でもヘイトを引き受けてくれれば動くことができる。

 炎は彼が引き受けてくれた龍の攻撃の隙を逃さず、蒼炎の翼に蓄えていた力をジェット噴射のように解放すると、一気に加速して飛び出していった。

 

『くっ……行け! アカツキ・エンッ!』

「おおおおおっっ!!」

 

 光の龍の閃光に弾き飛ばされたホドが、入れ替わるように前に出た炎の名を呼びながらその行方を見届ける。

 彼が切り開いてくれた道を疾走しながら、炎は黄金に輝く光の龍の胸部──力の発生源であるその中へと、蒼炎の矢となって飛び込んでいった。

 

 暁月炎は進んでいく。

 

 大切な仲間を。

 自分自身の存在に怯えるたった一人の妹を助ける為に、光の龍の中に侵入していった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そこは、辺り一面真っ白な世界でした。

 

 

 アディシェス並の大きさの光の龍を具現化するほどの力の発生源なのだから、内部にはそれはもう直視できないぐらい眩しい光がキラキラのピッカピカに煌めいているのではないかと思ったが……いざ飛び込んでみると割と目に優しい空間が広がっていた事実に、九割の安心と一割の肩透かし感を抱く。

 

 

 そんな僕がいるのはメアちゃんの居場所である。

 すなわち、光の龍の中なう。

 

 

 いやあ、びっくりしたわー。

 

 精神状態的に彼女がバースト状態になる危険は戦闘中も常に頭の中にあったけど、まさかここまでド派手な現象を起こすとは。

 本当にもう……バースト状態になると大怪獣サイズの光の龍が現れるってどういうことだよ……しかもそのシルエットはどこか聖龍アイン・ソフに似ていたし、あからさまにヤバい感じがしていたものだ。

 同じバースト状態でも、アリスちゃんや長太のそれが可愛く見える規模である。

 そんなメアちゃんの異変にクールなエイトちゃんはいち早く気づくと、ケテルとの勝負を一旦預けて「テレポーテーション」で駆けつけたというわけだ。間に合わなかったが。

 しかしそれでも、難なく光の龍の中に入り込むことができたのは幸いである。

 うーん、やっぱり便利だねこの能力。つくづく攻略RTAには欠かせない異能である。僕は走者ではないが。

 しかし、いかんせん便利すぎて味気がないのが難点だ。

 

 今さっきここへ突入してきた原作主人公みたいに、「主人公が障害を突破してヒロインのもとへ駆けつける」という燃える展開を、僕の場合は全カットしてしまうわけだからね。谷が無いので山ができない、チートオリ主故の悲哀である。

 

 ……まあ、今は流石にそんなことを気にしている様子は無いし、そもそも僕は主人公ではなくオリ主だからね。

 クールでミステリアスなエイトちゃんとしては、そのような熱いシーンは原作主人公にお任せすることにしていた。

 原作主人公とオリ主は、お互いに適材適所の役割分担が大切なのだよ。

 

 

「っ、エイト? あんたもここに……そうか、テレポーテーションで来たのか」

「うん、そういうこと」

「……ずるいな」

「ふふっ、それほどでもないさ」

 

 テレポーテーションにより先んじて光の龍の中に侵入していた僕に対して、炎は理不尽なものを見るような目で見つめてくる。

 彼からしてみれば、ホドさんの熱いアシストによって辛くも突入に成功した先に、涼しい顔で回り込んでいたオリ主という構図である。

 うーん……これはちょっと、マウントの取り方が露骨だったかなぁ。もちろん狙ってやったわけではないんだけどね。だが、これはこれでミステリアスでカッコ良さげなムーブなので良しとしよう。行く先々で主人公のことを先回りして待っているのはミステリアスキャラの定番である。

 

 しかし、光の龍の中がこんな空間になっていたとはね……真っ白で何も無い。

 まるで、オサレな精神世界のようだ。

 

 ……いや、この感じはつい最近見たことあるぞ。

 これはあれだ。カバラの叡智に触れた時に飛ばされた、女神様っぽいカロン様のいたあの世界に似ている。あそこもこのぐらい真っ白で殺風景で、何も無かったものだ。テレビとか必要なものはカロン様がどこからともなく召喚していたけど。

 

 何も無い空間だが足場はあり、カロンフォームを解除すると僕の足は下に落ちることなく真っ白な地面に着地していた。

 同じく蒼炎の翼を解除した炎と並びながら、僕たちは先を目指して歩き進んでいく。メアちゃんの名前を呼び掛けながら。

 

 

「ここが、あの光の龍の中なのか……? 穏やかで、何も無い」

「台風の目と一緒さ。荒れ狂う力も、根源まで赴けば大人しいものだよ。案外」

「そういうもんか」

「何事もね。人間の心も聖獣の心もアビスの虚無の先も……行き着くところは案外、真っ白なのかもしれないよ?」

「…………」

 

 知らんけど。多分、そんな感じだろう。

 ……いや、アリスちゃんや長太の時は怪我したり凍り付きそうになるぐらい、異能の力が一番激しい場所だったしどうなんだろうね実際。 

 メアちゃんのバースト状態が二人のそれと性質が違う感じがするのは、おそらく彼女が半分天使みたいな存在だからなのかもしれない。

 何せサフィラス十大天使の王様から直々に力を授かって生まれた存在だからね。他の人間のバースト状態で見たものは、あまり参考にならなそうだ。

 

 

 ……いや、それでもやっぱりおかしいわ。なんやねんこの空間は。

 

 

 40メートルぐらいの光の龍の中に、1キロメートルをゆうに越える大きさの謎空間が形成されているのは明らかにおかしいだろう常識的に考えて。

 これではまるで──

 

 

「もしかしたらボクたちは、あの子の心の中に飛び込んでしまったのかもしれないね」

「ここが、メアの心の中だと……?」

 

 

 先ほどはこの場所をオサレな精神世界のようだと形容したが、ビンゴかもしれないねこれは。

 異能使いの異能はその人間が持っている「心」と密接な関係にある。バースト状態で拡張された異能が、彼女自身の心象風景を物理的に顕現させたのだ──という説は、あながちイイ線いっているのではないかと思う。怪盗エイトちゃんの名推理である。

 

 しかし、仮にこの真っ白で何も無い空間がメアの精神世界だとしよう。

 そう考えると彼女の心は、何とも……

 

 

「……寂しいよね……」

 

 

 僕が周囲を見回しながら呟いた言葉に、炎が同調して返す。

 

 

「……そうだな。ここがアイツの心を映しているのだとしたら、こんなに寂しいことはない」

 

 

 異能はその者が持つ「心」を表している。

 ならばこれは、メアちゃんの心が何も無いことを意味している──ということになってしまう。それは、あまりにも残酷な話だ。

 メアという人物が、まさにケテルの言った通りの存在であるということを肯定することになってしまうのだから。それこそ夢幻のように儚く、実体の無い存在のように。

 

 或いは彼女自身が自分のことを心の中でそう思っていたのだろうか……そこまで考えた上で、僕は思った。

 

 

「だけど、そうじゃない」

「ああ、そんなわけがない」

 

 

 おっ、やっぱり炎も同じ考えだったか。

 思わず笑みが浮かび、お互いに顔を見合わせた。その時目にしたむっつりとした彼の表情が面白くて、また笑みが溢れる。

 

 

「ふふっ、気が合うねボクたち」

「……そうか?」

 

 

 心の無い虚無的な存在──仮にメアが自分のことをそのように受け止めているのだとしても、僕たちにそれを認める気はさらさら無いわけで。

 人並みに泣いたり笑ったりしていた彼女を外から見てきた僕たちとしては、到底受け入れられる話ではなかった。

 

 

 

「聞こえているんだろう!? メア!」

 

 

 ひゃっ!? い、いきなり叫ぶなよ炎っ! 耳がキーンとしたじゃないか……! 

 

 まったくもう……叫ぶなら前もって言ってくれよね。意図はわかるけどさ。

 この白い世界がメアちゃんの精神世界だとするならば、多分いくら探し回ってもここに彼女はいないだろう。

 いや、そもそも会う必要すら無いのかもしれない。

 ここが彼女の心の中ならば、僕たちの言葉がダイレクトに伝わっている筈だから。炎はそう思って今、上を振り仰ぎながら大声で呼びかけたのであろう。

 

 

「お前の心は空っぽなんかじゃない! お前には家族がいて仲間がいる! 帰りを待つ人だっているんだ! だから、一人じゃない! たくさんの繋がりを持った立派な人間だ! 泣いたり笑ったり、人を思いやって優しくすることだってできる! それが俺たちの知るメアだ! 光井メア(・・・・)という女の子だ!」

 

 

 ……やるじゃん。僕が言いたいこと大体言ってくれたわ。もっと言え。

 

 しかしこの状況……普通の人なら、いきなり叫び出した彼の奇行にびっくりしたところであろう。僕が理解のあるオリ主で良かったね。

 そうツッコみたかったが、今は空気を読んで黙っておく。僕は原作主人公のターンを尊重できるオリ主なのだ。

 

 

 これでアリスちゃんや長太の時のように丸く収まってくれればいいが……はてさてどうなることか。

 

 

 もしもの時に備えて、僕は怪盗ノートとペンを携えながら事の成り行きを見守ることにした。

 これは何となくな感覚だが……いよいよこのノートの全ページを埋める時がやって来そうな、そんな予感がしたのである。

 




 この一週間、映画に向けてSAOをオーディナルスケールまで履修していたので更新遅れました(今回の言い訳)
 初めて視ましたがキリト君、最強チーレム主人公の代表格みたいに扱われているのが不思議なぐらいお辛い目に遭ってるのね……言うほどイキっていないし毎回ボロボロになっているのになんでこんなに風評被害を……やはり例の構文のせいか


 因みに私はユウキ推しです(隙自語)

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