TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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父母兄妹感動の再会シーンにしれっと混ざっている奴

 声が聴こえる。

 懸命に自分を呼ぶ、誰かの声が。

 

 自らの存在理由を思い出し、その役目を知ったメアは一人絶望の底にいた。

 真っ白で何も無い世界で膝を抱えて座り込み、虚ろな目で虚空を見つめている。

 

 何も──何も考えられなかった。

 

 

『エンの声だ……エンが呼んでいるんだよ、メア』

 

 メアの肩に止まった黒い小鳥、ケセドもまた必死に呼びかけてくる。わかっているのだ。

 彼の声も……どこからか自分を呼ぶ暁月炎の声も、メアの耳には聴こえていた。

 

 だが、駄目だ……駄目なのだ。

 心の悲鳴が、それらの温かい言葉さえも掻き消してしまう。

 

 彼らの声を聴く度に、メアは頭の中がどうにかなりそうだった。

 この胸も苦しくて、張り裂けそうなほど痛い。

 ずっと辛くて、悲しくて……いっそこのまま、どこかへ消えてしまいたいとさえ思った。

 

 メアは──王への捧げ物として生まれ、死ぬ為に生かされていた。

 

 優しい人たちに囲まれて幸福を知り、こんな自分でも人間らしくなれたと思っていた。

 人並みに泣いて、笑って……いつの日か自分も、彼らのように心豊かな人間になれるのではないかと希望を抱いていた。

 

 しかし、それは違った。

 自分は改造人間どころか、人ですらなかった。

 初めから、そんな希望を抱いていい存在ではなかったのだ。

 

 

「……結局……メアは空っぽだった……」

 

 

 満たされたと思っていたことは、全てまやかしだったのだ。

 そこにいたのは愚かにも人間になろうとした身の程知らずで空虚な木偶人形だった。それが、現実だ。

 

 そう塞ぎ込んだメアの声に、荘厳な男の声が応える。

 

『そうだ……どこまでいってもお前は、余の為に死ぬことを宿命づけられた存在だ。余を神の座に至らしめる贄でしかない』

『ケテルッ! 貴方は……!』

 

 メアの生みの親、ケテルの声だ。

 彼の姿は見えない。

 どこからか淡々と言い聞かせるように語る言葉に、ケセドは抗議の眼差しを送り、メアは虚ろな視線を返した。

 そんな二人の思いをどう受け止めているのか、ケテルの声からは感情を読み取ることができなかった。

 

 

『……だが、喜ぶといい。お前には生きる意味があった。その生命は紛れもなく、この世界を救う為に使われるのだから』

 

 

 ──そうだ。

 

 救いがあるとするならば、生まれてきたことが無意味ではなかったということだ。

 彼の視点では、間違いなく価値のある生命ではあったのだろう。

 最高天使ケテルがフェアリーワールドを守る為にフェアリーバーストへと至らしめる為の贄がメアならば、彼女の生命はまさしくアビス根絶に役立つことになる。

 それは間接的に、メアの生命がこの世界を救うという事実であり……空虚な存在にしては、名誉な末路に思えた。

 

 初めから、その為の生命だったのだ。

 

 ならば、いい……それでも。

 それが役割なら、果たすのが正しいことなのだろう。

 ただ──

 

「……一つだけ、約束して」

 

 この一年間は幸せだった。それこそ全てが夢や幻だったかのように。

 だからその時間を噛み締めながら、この命を終えるとしよう。そう思えば少しは救われた気持ちで、この運命を受け入れることができるような気がした。

 

 だから。

 

 

「メアを食べたら、もう人間の世界を襲わないって、約束して」

 

 

 運命に従うから、犠牲はこれっきりにしてほしいと──切なる願いだった。

 人間も天使も、本当はみんな優しい人たちなのだと信じている。そんな彼らが憎み合って争うような未来、メアには悲しくて認めることができなかった。

 メアがケテルの望む贄、「夢幻光」という存在になれたのは他でもない人間のおかげだ。

 ケテルがそんな人間たちに対して少しでも恩を感じているのならば、金輪際人間の世界に手は出さない要求を通す道理はあると思った。

 それが今のメアにできる、せめてもの抵抗だった。

 

『な、何を言っているんだメア!? そんな自己犠牲が……』

「いいの、ケセド……ありがとう。これが、メアの生まれた意味だから……みんなの役に立てるなら、それでもいい」

 

 最強の大天使であるケテルが、アビスに対抗できる力を得る。それは長期的に考えればお互いの世界にとってプラスに働くと思っていた。

 寿命の無いケテルが人間に頼らずアビスを倒すことができるのなら、この世界をいつまでも安定して守ることができるし、天使同士がお互いの方針の違いで対立することもなくなる。

 

 思ったのだ、メアは。

 彼らがこんなにも人間を疎んでいるのは人間が聖獣たちに行った罪への報復や危険視もあるのだろうが、その発端はこれまでもこの世界に積み重なってきた多くの災いから生まれた焦りや不安なのではないかと。

 だから目下最大の脅威であるアビスの問題さえ解決することができれば、大天使たちも今より心に余裕を持って人間世界と向き合うことができ……そうすれば優しい者同士、きっとわかり合うことができる筈だと信じていた。

 

 無論、アビスを倒したら次は人間を倒す──という方針に切り替える可能性はある。

 故にメアは、王であるケテルと交渉した。

 自身の生命という、己に差し出せる最上の対価を示すことで。

 

 

『……承知した。余の血肉として生き続けるがいい。誇り高き夢幻光よ』

 

 

 長い沈黙を経て、ケテルの声が応える。

 この時、顔が見えれば彼がどのような心情でそう応えたのか察することもできたのかもしれないが、依然この不可思議な真っ白い世界にはメアとケセド以外誰の姿も無かった。

 

 そのケセドがメアの覚悟を目の当たりにして言葉を失う中で──聴き覚えのない女性の声が響いた。

 

 

『私はそれを、容認できない』

 

 

 言い放ったのはメアでも、無論ケセドでもなかった。

 

「!?」

『何……?』

 

 一同がハッと息を呑む。

 ケテルからはその声が聴こえてきたことに対して、初めて動揺した雰囲気を感じた。

 今の声は誰……?とメアは困惑の顔で虚空を見上げる。

 ケセドも同じく、怪訝な顔でキョロキョロと辺りを見回していた。

 

 ──次の瞬間、メアの前にどこからともなく一枚の葉っぱが舞い落ちてくる。

 

 その葉が地面についた時、ぼんやりとしたホログラムのように一人の女性が姿を現した。

 それはこの真っ白な世界のように、白くて儚い姿だった。

 地面に届くほどの長さの白銀の髪に、夕日のような黄金の瞳。

 純白のドレスを身に纏った絶世の美女は「美」の大天使ティファレトと同じぐらい均整とれた体つきを持ち、一目で大天使なのではないかと疑ってしまうほど人間離れした神秘性に包まれていた。

 

 しかし、その背中には天使の象徴たる羽が生えていない。

 

 その全貌が真っ白な世界のもと露わになると、直後にケテルの声が響き渡った。

 

 

『何故だ……何故邪魔をする!? カロンッ!』

 

 

 カロン──それが女性の名前なのだろうか。

 その名を呼ぶケテルの声には、彼がこれまでに見せてきた無機質な態度とは打って変わって激しい感情が込められていた。

 豪雷のような重々しい響きを放つ叫び声からは、この空間全てが痺れつくような威圧感を感じた。

 

 その声を頭上から受けた白銀の女性──カロンは悲しげな顔で瞳を伏せるとメアの前で屈み込み、彼女の頬にそっと手を添えながら言った。

 

 

「あ……」

『すまない、ケテル……我が娘を、死なせたくないと思ったのだ』

「……え?」

 

 

 メアを真っ直ぐに見つめる慈愛の籠もった眼差しは、どこかT.P.エイト・オリーシュアに似た雰囲気を感じた気がした。

 そんなカロンの表情を茫然としながら見つめ返して、メアは今しがた彼女が呟いた言葉に驚く。

 

 我が娘と──彼女は今確かにそう言った。

 

 その言葉に対してメアとケセドが問い詰めるよりも先に、()であるケテルが返した。

 

 

『戯けたことを……貴様が……っ、ダァトを見殺しにした貴様が何を今更!』

 

 

 彼の叫びには、激しい憎しみと怒りが込められていた。

 王がそのような態度をする瞬間を生まれて初めて見たのだろう。ケセドがその目を驚愕に染めている。

 一体、この女性は何者なのだろうかと二人は訝しんだ。

 

 ……しかし、頬から伝わってくる彼女の指先の感触は、不思議と悪い感じはしなかった。

 

 寧ろ何故だか妙に……安心を感じている自分がいた。

 まるで炎や灯、エイトに頭を撫でられている時のような──そんな感覚に近かったのだ。

 震える声で、メアは訊ねる。

 

 

「あなた、は……?」

『私はカロン……世界樹サフィラの意思だ』

『世界樹の……!? まさか貴方は、原初の大天使の──』

 

 

 彼女の手が自分に触れている間、メアは錯乱していた自身の心が少しずつ落ち着いていくのを感じていた。その感情が何なのか、どこから来るものなのかはわからない。

 しかし……とても、温かいと思った。光井家の家族のように。

 

 カロンはメアの身体を包み込むように抱き締めると、今までよく頑張ったと労うかように彼女の背中をポンポンと優しく叩く。

 そうしてされるがままのメアに向かって、彼女は独り言のように呟いた。

 

 

『メアにとって私は……母親のようなものなのだろうか……』

「……お母さん……?」

『……汝は世界樹に遺されていたカバラ族の遺伝子情報に、ケテルの力を注ぎ込んで生まれた存在だ。故に……世界樹そのものである我から見て、汝は私とケテルの間に生まれた子と言っても過言ではない』

「え……えっ?」

 

 

 ふふっと頬の輪郭を僅かに歪めながら微笑む彼女の姿は、いたずらっぽさと言うには妖艶すぎる雰囲気を孕んでいた。

 思春期の男子が目の当たりにすれば間違いなく赤面していたところであろう表情だったが、幸いにしてこの場にいる者たちの中で彼女にそのような感情を抱く者はいなかった。

 メアとケセドは突然現れて場を支配した彼女の存在にただただ困惑するばかりであり、ケテルに関しては、寧ろ──

 

 

『気味の悪いことを言うな』

 

 

 彼はカロンの言葉を戯れ言として聞き流すように、冷たく切り捨てた。

 その瞬間、メアの背中を擦る手がピタリと動きを止め、無表情に戻った彼女の顔が頭上を振り仰いだ。

 

 

『悲しい』

 

 

 メアにだけ聞き取れる声でポツリと呟いた言葉は、その一言にあらゆる感情が凝縮されているように思えた。

 カロンの表情は凜としていたが、今しがた彼女は少なくないショックを受けたのではないかとメアは感じた。

 そんな彼女のことを見下ろすように、ケテルの声が問い掛けてくる。

 

 

『メアを余の力から匿っているこの空間は、貴様の仕業だな?』

『そうだ。この子の精神が壊れる前に、私の力でこの子の心をサフィラの領域に招き入れた』

『余計なことを……貴様に邪魔をされるとはな』

 

 

 その口ぶりから察して、メアは自身の置かれている本当の状況を理解した。

 

 

「貴方は……メアの心を、守ってくれたの……?」

『そういうことになる。放っておけば汝は精神を壊したところを、ケテルに剥奪されていた』

 

 

 メアの質問に、カロンが淡々と答える。

 暴走したメアがこの空間で五体満足で立っているのは、人知れず彼女が介入してきたからだったのだ。

 カロンはメアから手を離して立ち上がると、どこかで見ているのであろうケテルに向かって語り掛けるように言い放った。

 

 

『ケテル……汝は今、誤った道を歩もうとしている。故に、止めに来た』

『今や世界の観測者に過ぎぬ貴様に何ができる? 何が守れる? あの時、高みの見物を決め込んだ身ならば……今まで通り、黙って見ていろ』

 

 

 ケテルの冷たいながらも激情の籠もった言葉に、カロンの横顔に陰が差すのが見えた。

 今初めて会ったメアには、彼女のことも彼女と彼の関係もよくわからない。

 しかし彼女が今、自分を助ける為にやって来たのだということは──その手の温かさから染み入るように伝わってきた。

 お母さんだと明かしたその言葉を、素直に感じることができたほどに。

 

 

『汝の言う通りだ。私は介入しすぎた……言われずともいなくなる。だが、時間は稼いだ』

『……っ! 貴様……』

 

 

 睨み合うような事態が動いたのは、その時だった。

 

 メアの前方──カロンが立っている場所のすぐ横に、火山の噴火のような凄まじい爆炎が噴き上がったのである。

 

 吹き荒ぶ爆風が彼女の髪とドレスの裾を靡かせる。

 それはメアにとって見知った焔だった。

 蒼い焔が柱となって空間を突き破ってきたのだ。

 

 その瞬間、ガラス窓のように巨大な亀裂が走った空間をこじ開けて──救世主(セイバー)は現れた。

 

 

 

「メアッ!!」

 

 

 その手に携えた蒼炎の剣を解除しながら、大穴の空いた空間の向こうから暁月炎が勢い良く飛び出してくる。

 

 彼の姿を目にしたその瞬間、笑みと共にメアの心に浮かんだのは大きな歓喜と──ただ「生きたい」という純粋な思いだった。

 

 

「エン……? エンっ!」

「ボクもいるよ。キミを助けに来た」

「エイト……ありがとう……っ」

『ほら……言った通りじゃないか、メア』

「……うん……ごめん……ごめんね、ケセド。みんな、大好き……っ」

 

 

 力技でこの世界に入り込んできたと炎の後ろから、やれやれと言いたげな呆れ顔を浮かべながらT.P.エイト・オリーシュアが続いてくる。

 

 二人が──こんな自分を助けに来てくれた。

 その事実がただひたすらに嬉しい。それがメア自身の、正直な感情だった。

 

 ケセドの身体をぎゅっと胸に抱き抱えるメアの頬には、自分でも気づかないうちに大粒の涙が滴っていた。

 

 

「もう大丈夫だ……俺たちは絶対にお前を死なせない。知っているだろう? お前の兄は無敵だ」

「うん……うん……っ」

 

 

 メアの瞳に光が戻る。

 そうだ……何も無かった自分にも、大切な人たちがいる。帰る場所がある。

 その背中を後ろから優しく押したカロンの姿を一瞥した後、自らの心に従ったメアは正直な気持ちで炎の胸に飛び込んだ。

 

 これが本当の──ケテルへの答えである。

 

 

「メアは……いたい。エン……お兄ちゃんと、お姉ちゃんと、みんなと……一緒にいたい……!」

「ああ、いつまでも一緒にいよう。アイツが何と言おうと、俺たちはお前を守る。もう二度と、家族を見殺しにするものか……!」

 

 

 その小さな身体を抱き留めた炎は、決心の目で強く頷いていた。

 

 そんな二人の、血では無く心で繋がった兄妹の様子を優しく微笑みながら見守った黒い少女エイトは──後方で一人佇んでいる白い女性のもとに歩を進めながら、内緒話をするように小声で呼び掛けた。

 

 

「……なんでいるの?」

『その必要があると思ったのだ。すぐいなくなる……故に、手短に告げる』

「……なにさ?」

 

 

 エイトは女神然とした白い女性──カロンがこの場にいることに驚いている様子だったが、そんな中でも飄々と彼女に呼び掛ける気安さは二人が既知の間柄であることを仄めかしているようだった。

 

 そんなエイトの姿を一瞥した後、ぼんやりと輪郭が薄くなったカロンは炎の腕に抱き締められたメアの姿を見つめて言った。

 

 

『エイト、「知識の書」を開け。今こそ汝の手に、無限(・・)光を収めるのだ』

「……!」

 

 

 命令口調で告げられた言葉に、エイトが僅かに目を見開く。

 どんな時でも余裕の表情を崩さない彼女にしては珍しく、驚きを露骨に表した反応だった。

 そんな彼女は自身の左手に携えた一冊のノートを後ろから順にめくると、口元に右手を添えながら長考に入った。

 

 

「うーん……残りのページはあと十ページもないけど……ま、そろそろ埋めちゃってもいい頃かな? 必要な能力は集まったし」

『急ぐべきだ。そろそろ私はいなくなり、この空間が崩れる』

「りょーかい」

 

 

 深くまばたきすると、エイトは何かを決意した様子でどこからともなく右手にペンを取り出し、シルクハットの下から覗くエメラルドグリーンの瞳を鈍く輝かせた。

 そして彼女は一人、自らに言い聞かせるように宣言する。

 

 

「さて……それじゃあ異能怪盗T.P.エイト・オリーシュアちゃんの、最後のひと仕事といきますかね」

 

 

 それからエイトは物凄いスピードで右腕を動かすと、開いたノートのページにそのペンを走らせた。

 数分と掛からずあっという間に全てのページを埋めていったエイトは、役目を終えたペンを手元から消失させるとすかさずメアのもとに向かった。

 

 そんな彼女の表情には常の余裕は無く、ただならぬ緊張感が漂っていた。

 

 

「エイト?」

「この力を同じ相手に、二度も使うことになるとはね……だけど他ならぬ麗しの女神様からのお願いだ。そして何よりキミを救う為だから、今回も許してほしい。メア──今からボクは、キミの力を頂戴する」

「あっ──」

 

 

 光り輝くその右手で、エイトは赤子の髪を撫でるような手つきでメアの頭に触れたのである。

 それこそが、異能怪盗である彼女の本領だった。

 






カロン「作者降臨」

エイト「!?」
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