TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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とある世界線のお話 最終章のOPEDに対する視聴者の反応

 匿名掲示板を模した電子空間のレイアウトに、一人のクリーチャーが姿を現す。

 

 足元から光の粒子が集まり、徐々に具現化していくのは無駄に精巧なグラフィックで象られたVチューバー、バーチャルデキルオの姿だった。

 そんな彼は動作確認のつもりなのだろうか、真顔のままサタデーナイトフィーバー的なポーズを取りながら腰を左右にクイックイッと動かすと、もはや定位置となった画面の端に移動するなり深々と一礼した。

 

「皆さんの初恋は誰ですか? 僕は中一の頃に出会った隣の席の子でした。とても人懐っこい子でして、クラスのみんなから好かれていた人気者でした。ガリ勉すぎてクラスで孤立して陰キャ道まっしぐらだった僕に対しても無邪気に、フレンドリーに声をかけてくれましてねー……生まれて初めて、僕は同級生のことをかわいいと思ったんですよ。……まあ、惚れた後になってその子が男の子だと気づいて初恋は終わったんですけどね。バーチャルデキルオです」

 

【こんできー】【こんでき……ってマ?】【ホモよ!!!!】【開幕から酷い話で草】【なんだそれはたまげたなぁ】【ねえ、デッキーの学生時代濃すぎない?】【こういう話では定番だけど俺は保育園の先生だったなー】【わしは名前も知らない先輩のおねえさんじゃった】【俺さんじゅっさいだけどエイトちゃんが初恋です】【近所のお姉さんだろ常識的に考えて】【キリトかなーやっぱw】【この話題で例の構文使う女初めて見た】【俺男だけど】【え】【えっ】【キリトさんならしょうがないな……】

 

 バーチャルデキルオの動画配信チャンネル「デッキーチャンネル」である。

 

 アニメ「フェアリーセイバーズ∞」の放送翌日には毎週欠かさず配信が行われているそのチャンネルは、配信者の軽快なトークとコミカルなアバターがほどほどの人気を博し、開設から数週間経った今も順調に登録者数を伸ばしていた。

 このまま行けば投げ銭の解禁ラインにも届くかというところであるが……チャンネルの主であるバーチャルデキルオは収益化はしないと公言しており、あくまでも趣味の範囲で視聴者と楽しんでいきたいというスタンスだった。

 そんな彼はこの日もゆるキャラめいたアバター通り、マイペースな配信をゆるりと行っていた。

 

「僕はノンケですが気持ちはわかりますよ。ハーレム物のラノベ主人公などは読み進めていくと「あれ? もしかしてヒロインたちよりコイツの方がかわいくね?」と思うことはしばしばあります。そこで僕は、ハーレム主人公をTSさせたら誰よりも完璧なチートヒロインになる説を提唱します」

 

【確かに】【一理ある】【ハーレム作れるぐらいモテる男なんだから、TS化したら野郎にモテるのは当然だろ常識的に考えて】【ごめん、よくわからない】【わからない時は登場人物の性別を逆転して考えるのだポッター】【ごめん、よくわからない】【とりあえずTSワンサマーがIS界最強のヒロインであることに異論は無い】【すまない、TSは管轄外なんだ】

 

 配信の開始時には挨拶の前に前置きとしてくっそしょうもない雑談で場を温めていくのが彼のスタイルであるが、彼のそれは特に意識して視聴者を笑わせようとしているわけではない。もちろん、のっけから滑り倒すことも珍しくはなかった。

 しかし、どんな時でも「デキる男」のロールをこなし、あらゆる変態的な話題を真面目な顔で丁寧に処理していくスタイルは独自のファン層を開拓しており、彼が発する無駄にイイ声も相まって「なんかクセになる」と視聴者の心に表現し難い魅力を感じさせていた。

 

 そんな彼は、今日も来る者拒まずの姿勢で視聴者たちの訪問を受け入れていく。

 その来場者の数は、既に三桁を超えている。

 

「僕と皆様が世の為人の為にならないクソ知識を共有するのが、僕のデッキーチャンネルの趣旨なので。……さて、初恋と言えば皆さん──今週の「フェアリーセイバーズ∞」について語り合いましょうか。いやあ、ケテルの初恋は美しかったですねぇ」

 

【待ってた】

 

 半ば強引に前置きを切り上げると、早速今回の本筋に入る。

 彼の配信は配信者の定番であるゲーム実況などを行うこともあったが、アニメ「フェアリーセイバーズ∞」の翌日には必ずアニメの感想、ガチとネタ両方の意味で個人的な考察を行うのが恒例行事であった。

 二十年間作品を追い続けてきた年季の入ったフェアリーセイバーズファンである彼は件のアニメに掛ける熱量は人一倍強く、そんな彼のガチとネタ両方面に力の入った雑談は同じフェアリーセイバーズファンにとって非常に興味深い内容だったのだ。

 そんな彼の話題転換には視聴者も慣れたものであり、待っていましたとばかりにコメント欄が沸き立った。

 

【TS炎はいい感じのバトルヒロインになりそう】【前置き乙】【今回は自然な導入だったな】【昨日もいいおねショタだった】【新OPと言い、∞はケテルの扱いが良くて嬉しい】【ケテダァいいよね……】【成長しすぎたかつてのショタと変わっていないお姉さんの悲哀】【脚本の人ケテルに歪んだ愛情持ってそう】【今までにないしんみり系のOPで、FS∞ももう終わってしまうのか……と寂しくなった】【新OPの情報量の多さにこれ本当にあと一クールで完結すんの?と不安で夜しか眠れません】

 

「わかります。今作は話数が多いので終盤の尺も大丈夫だと思っていましたが、原作の人がさらに新要素をぶっ込んできましたからね……はてさてどうなりますことやら」

 

 昨日放送された「フェアリーセイバーズ∞」は最終章の始まりということで明かされた新情報が多かったからか、共に語りたがる視聴者たちの熱量も特に激しい様子だった。

 中でもインテリ貧乳オタクを自称するバーチャルデキルオが注目したのは、コメント欄にも挙がった新しいオープニングについてである。

 

 アニメ「フェアリーセイバーズ∞」では大体一クールごとに新しいオープニングに切り替わるのだが、昨日の放送では舞台が本格的に最終章に入ったことで、また新しいオープニングソングと映像が公開されていた。

 その映像が、彼らにいよいよ物語が佳境に入ったことを強く印象付けたのである。

 考察好きなバーチャルデキルオとしては、特に興味を惹かれていた。

 

「新OPと言えば、気になるシーンが盛りだくさんでしたね。こう見えて僕、新しいOPやEDの映像から本編の今後の展開を想像するの大好きなんですよ。今日はその辺りの考察をメインに雑談していきたいと思います」

 

【わかる】【新しいOPに知らないキャラや知らない新フォームが先行登場するの好き】【ネタバレだけど盛り上がるからねー】【わしはタイトルバックを飾った真フェアリーバーストの姿に二十年前の感動が蘇ったわい】【炎の真フェアリーバーストと互角にやり合うケテルの新形態、なにあれ……】【無印でもアイツ、絶対邪神にならない方が強かったろ】【羽が黒くなって十二枚になっていたところを見るに、あれってエイトちゃん吸収してるんじゃ……】【ケテルの新フォームくっそカッコいいけどくっそ不穏な姿やったね】【それでもフェアリーセイバーズなら! フェアリーセイバーズならエイトちゃんの吸収シーンをねっとり描写してくれる筈……!】【王様はそんなことしない】【ねっとり吸収した後で死ぬほど後悔するのがケテル】

 

「バーチャルデキルオもそう思います。余談ですが18号さんの吸収シーンに性癖を壊された子は多いようです。人気アニメを作るに当たって、何かしらの性癖破壊要素は必要なのではないかと思っています」

 

【ジャンル名:スポポビッチの概念を作った国民的漫画は格が違う】【そもそも一話からJKが漏らしてるからな】【あれは別格】【エイトちゃんがリョナられたり漏らしたりするとこ見てみたいワイがいる】【ええ……】【おめえぶっころすぞ】

 

「ふむ……思えばクリエイターというのは、自分の性癖を上手く曝け出す者ほど大成しているような気がしますね。大御所のアニメ映画監督だってロリコン趣味だったり、或いはケモショタ趣味だったり、放送禁止用語で女性キャラを批評する人だったり、NTR大好きな性癖だったり……やはり受け手側に対して伝えたいもの、自分の性癖を強く表現できる者こそが強いのでしょう」

 

【芸術と一緒やね】【インタビューを聞いてもみんなしてやべーこと言ってるからな……】【大御所さん方は作中の登場人物よりも作者自身の方が濃いもんな】【あれだけたくさん濃いキャラを描ける人間なんだから、本人も濃くて当たり前と言えば当たり前なのかもしれない】【何かしら尖っている作品ほど強烈な印象が残るものね】【つまりこの先おねショタブームが起こる可能性があるというわけだな!】

 

「せやな!」

 

 バーチャルデキルオは自らの性癖を隠さない。変態と紳士、両方の心を持つデキる男だ。

 そんなスタイルを貫いている影響か、彼のチャンネルへ来場する視聴者たちも性癖を開けっ広げにしているのがこのチャンネルの特徴だった。地獄のようなチャンネルである。

 それ故に雑談になると頻繁に脱線するのがご愛嬌であったが、今回は性癖を壊された作品自慢はほどほどに、バーチャルデキルオが話を進めていく。

 

 

 今回話題に挙がったのは、アニメ「フェアリーセイバーズ∞」の新OPである。

 それまでは同作品ではいかにもアニソンらしい盛り上がる曲調の曲が多かったのだが、最後のオープニングソングは物語が最終章に突入することもあってか、しんみりとしたバラード系の曲だった。

 その曲に合わせて、オープニング映像もまた視聴者の感動を誘うカットが頻繁に差し込まれていた。

 

 それに対して、バーチャルデキルオは熱弁していく。

 

 

 ──まず、イントロ。

 

 荒れた大地の上で俯きながら一人佇んでいるT.P.エイト・オリーシュアの姿からオープニングは始まる。

 彼女の背中から禍々しい色をした紅の空へと映像が切り替わると、そこには目を瞑りながら静かに飛び上がる暁月炎の姿が。

 既にフェアリーバーストを発動していた炎がその瞳を大きく見開くと同時に、紅の空に「∞」の字を描く蒼炎の翼が広がっていき、その文字から展開して「フェアリーセイバーズ∞」というタイトルが映し出されていった。

 

 Aメロでは「もうみんな知っているよね?」という製作者の意図か、メインキャラの紹介映像もほどほどにテンポに合わせて映像が次々に切り替わっていく。しかし、そのカットの中にT.P.エイト・オリーシュアの姿だけはなかったりと不穏に映していた。

 

 Bメロではサフィラス十大天使が全員登場する。最後に枯れ果てた大樹から飛び上がったケテルの姿が映し出され、その姿が漆黒を纏った十二枚羽の姿へと変貌した。

 

 ──瞬間、手を組んで祈りを捧げる光井灯のワンカットを挟んで曲はサビに突入する。

 

 サビの映像では、超絶的な激しい戦闘シーンが繰り広げられていた。

 イントロ時に披露した真のフェアリーバーストの姿で焔の剣を振るう暁月炎の姿と、漆黒の十二枚羽を羽ばたかせる新フォーム姿のケテルによる激しい攻防。

 

 間には枯れ果てた大樹を背景に佇む深淵のクリファと思わしき謎の異形生物や、それらと戦っている長太、翼、メア、ビナー、マルクト、ケセドの姿などが美麗な作画で描かれていた。

 

 ──そしてサビが終わると同時に、曲の終わりに掛けて紅に染まった空は澄み渡る「蒼」へと変わっていく。

 

 白と黒の花々が広がっている花畑の中で、立ち尽くすエイトは顔を上げて、何処かに向かって手を差し伸ばす。

 

 

 そして、その手を誰かが受け取った瞬間──彼女の姿は一枚の羽根を残して消えていった。

 

 

 

 

 

 ──以上が、オープニングソング一分三十秒の間に収まったフェアリーセイバーズ∞新OPの内容である。

 

 

「さて……今回のOPは僕得なカットが盛りだくさんで、実に幸せになりました。曲の素晴らしさは僕如きが語るまでもないとして、映像の方はケテルの新形態や真のフェアリーバースト、それとメアちゃんの新形態だったり枯れ果てた世界樹だったり……最終章ではとにかく、旧作ファンもおったまげの新要素が溢れているようですね」

 

【お、おう】【……これ、本当に尺足りる?】【主人公の真最強フォームかっけー! ラスボスの新フォームかっけー! ヒロイン美人すぎー! 新しいクリファ誰だお前ら!? 最終章のOPなんてそんなもんでいいんだよ】【灯ちゃんあんまり映ってなかったね……】【フェアリーワールド編のヒロインはエイトだから仕方ない】【既に親の顔より再生したわ】【OP、最後までエイトちゃんの顔が見えないのがこわい】【それでも最後の青空と花畑でハッピーエンドを確信したよ俺は】【歌詞が合いすぎて凄いけど、原曲は二十年前の曲なんだよな】【←これマジ?】【←二十年前、FSのアニメ放送開始時にリリースされた曲らしい】【それをエイトちゃんの中の人がカバーして歌ったのが今回のOPである】【作中でも何度か歌っていたけど、やっぱうまいね中の人。本当にデビュー作……?】【チラリと見えたメアちゃんの新フォームが霞む情報量ですわ】【髪の毛オレンジ色になっているし、ホドと契約するんかねメアちゃん】【いかないでエイトおねえちゃん……(;。;)】

 

 透き通ったメロディーから映し出されていく不穏な映像の数々に、視聴者たちの反応は様々な熱い感情が入れ混じっているようだった。

 まさに最終章を飾るに相応しいOPであったが、考察好きなバーチャルデキルオとしても今後の展開が気が気でないという感想だ。

 

「ええ、OPも衝撃的でしたが、僕が一番気になったのは……と言うか、心に来たのはEDの方ですね。これから何が起こるのか、今から涙腺が心配ですよ」

 

【わかる】【既に泣いた俺の話する?】【妾、EDの演出がOPと繋がっているの好き!】【エイトちゃんこれ絶対○ぬ奴じゃん……って思った】【ノートを広げて旧作と今作の思い出を振り返るのはズルい】【まだだ……まだ僕はエイトお姉ちゃんの生存を信じている!】【新衣装も可愛かった。いつ着るんだろう?】【本編でも見せたことのない幸せそうな笑顔を浮かべた後、光の中に消えていくエイトちゃん美人すぎる】【エイトお姉ちゃん絵も上手くてだいすき】【エイトちゃんのノートって絵日記だったのか……】【いや、EDで開いていたノートは別の奴だね。表紙が違うし】【ほえー】

 

 新要素盛りだくさんで視聴者の情報処理能力に挑戦していたOPに対して、新しいエンディングはフェアリーセイバーズシリーズの総決算のような演出がしみじみと行われていた。

 こちらもエンディングテーマを飾るに相応しい心に訴えかけるようなバラード曲であり、歌手は旧作「フェアリーセイバーズ」のOPを歌っていたボーカルが担当している。

 二十年の成長を経て、今では紅白常連の大物歌手に成長した彼女が新しい主題歌を担当することは公開前からファンの間で話題を呼んでいたが、曲もさることながら映し出された映像も二十年来のファンの心を揺さぶってきたものだ。

 

 ──と言うのもエンディングの映像には花畑に立つエイトがノートを広げて、そこに描かれた絵日記から二十年前の旧作を含めたフェアリーセイバーズの名シーンを振り返るという演出がされていたのだ。

 

 

「ここに来て前作の要素を前面に出してきたのは我々の世代に向けたファンサービスなのかもしれませんが、それを読んでいるのがエイトちゃんというのも大きな考察ポイントですよね。他所様の考察動画にも挙がっていましたが、もしかしたらエイトちゃんは旧作「フェアリーセイバーズの世界線」からやって来たのか、或いは数多の平行世界を観測してきた上位存在だったのかもしれませんね」

 

【あの動画も面白かった】【デッキーの動画より面白かっただろ常識的に考えて】【次元の壁を越えてやって来たという意味が変わるな】【OPEDすら考察要素になる女】【ああ、終わっちまう……このアニメ終わっちまうよーって気持ちになって寂しい】【そんなことよりエイトちゃんの新しい衣装がとてもよかったです】【白い服のエイトちゃんもいいと思った】【えっちだよね……】【やっぱりわしはロングスカートの方が好きじゃ】【麿はミニスカ派】

 

「ふふっ、君らブレないね」

 

【当然だよなぁ!】【もっとエイトちゃんっぽく言って】

 

「ふふ……キミたちは本当、ブレないよね」

 

【にてない】【反応に困る上手さ】【無駄にイイ声】【微妙に上手くて草】【俺は似てると思うぞ】

 

「いや女の子の声真似とか無理だろ常識的に考えて」

 

【それな】【逃げるな】【だからってやらない夫の真似するな】【どうでもいいけどやらない夫の声ってピッコロさんの声で再生されるんだよな俺……】【マジでどうでもいい】【盲点】【ちょっとわかるだろ】【わかるお】

 

「僕もその声で脳内再生されます。やる夫はどっちかと言えば高めの声質で妄想していました」

 

【脳内声優を勝手に決めて読めるのが読む創作の強みよね】【小説書きました! 第一話の前に登場人物を紹介します! 主人公のCVは○○です!】【←古傷が痛むからやめろ】【恥ずるな、誰もが通った道だ】【かっこいい】

 

 本編の外から得た情報をもとにここらで新たな考察を語ろうかと思っていたバーチャルデキルオであったが、どうにもチャンネル視聴者には「エイトちゃんの新衣装」という視覚的に破壊力のある新要素に惹かれた者が多いようで話が逸れていく。

 そんな野郎たちのをコメントを見て彼はやれやれと呆れたように溜め息を吐いたが、彼自身も同意見だったのでそれも良しとしておいた。

 

 それどころか彼は、話題がそちらに向かうことを待ち構えていたかのように配信画面に一枚の絵を掲出していく。

 

「はい、というわけでこれ僕が描いたエイトちゃんのアチアチ新衣装の絵ね。放送終了後から一夜で仕上げました」

 

【待ってた】【描いたのか!?】【おせえんだよ!】【待ちかねただろ、常識的に考えて】【仕事が早い!】【アチアチじゃなくてエチエチなんだよなぁ】【いや、マジで絵は上手いなこの白饅頭】【才能の使いどころを間違えた男】【かわいい】【ミニスカエイトちゃんで風邪が治りました】【こうして見ると女賢者感強い】【ブーツとミニスカ、手袋とノースリーブの黄金比がたまらぬのだ】【画面に女神様がいると思ったらエイトお姉ちゃんだった】【こうして見るとマルクト様ちゃんに似てるね】【さりげなく書かれたデッキーのサインに目が行く】

 

「サインは僕が描いたことを皆さんに証明したくて……プロっぽく書けるように練習しましたよ。渾身のデキです。デキルオだけに」

 

【は】【は?】【つまんね】【やめたらこのチャンネル?】

 

「ひどい。まあそんなことよりよく視姦して……じゃなかったよく視てくださいよこのイラスト」

 

 公式イラストと見間違うかのような出来映えの美少女イラストは、彼が描いたT.P.エイト・オリーシュアの姿である。

 闇を自在に操る彼女のパーソナルカラーは「黒」であり、「フェアリーセイバーズ∞」の作中でもこれまで黒を基調とした露出度の少ない怪盗衣装を身に纏っていた。

 

 

 ──しかし、新OP及び新EDに公開された彼女の姿は、これまでとは別の衣装を着ていた。

 

 

「まず、色が白い!」

【うむ】

 

 空のような青い差し色の入った衣装は白を基調としたカラーリングであり、全体的に暗い印象を与えた怪盗衣装とは対照的に、それこそ彼女の神秘性を強調しているかのような明るい配色をしていた。

 おそらくは作中で彼女の正体が原初の大天使「ダァト」であることが判明したことで、これまでよりも「天使感」を強調する狙いがあるのだろう。或いはこの衣装自体が天使ダァトとしての正装なのかもしれない。

 

「そして、露出度が高い!」

【うむ!】

 

 怪盗衣装ではロングスカートにマントと露出度を抑えられた装いであったが、新OP新EDではどちらもまるっきり変わっていた。

 下半身を覆うスカートは立っているだけでもチラリと太ももが見えるぐらいの丈に変わっており、上半身も同様に露出度が増しており、マントも無く大胆に胸元や肩を出したノースリーブの装いになっている。

 腕は肘まで覆う長めの手袋、脚はふくらはぎまで覆うブーツをそれぞれ纏っており、全体を見ればそこまで過剰な露出度というわけではないのだが、これまで以上に「女」を感じさせる新衣装は視聴者の目に色々な意味で強く焼き付くものであった。主に、性的な意味で。

 

 頭にも白い薔薇のコサージュがつけられており、ミステリアスで中性的な印象を受けた怪盗衣装とは打って変わり、華やかな女性の姿をしていたのである。

 

 そんな衣装を着た新しいT.P.エイト・オリーシュアのイラストをじっくり見せびらかした後で、バーチャルデキルオはそれに対する一つの見解を延べた。

 

 

「この衣装、もしかしたらケテルかマルクト様ちゃんが着せるのではないかなーと思います。ビナー様の協力を得られた以上、エイトちゃんの能力はもはやチート染みているので、最終章ではそろそろケテル辺りに攫われるヒロイン拉致イベントが起こるのではないでしょうか? 敵の手に堕ちたヒロインが新しい衣装を着せられるのっていいですよね……背徳感凄くて」

 

 

【やめろ】【わかる】【マジかよケテル最低だな】【俺の性癖を壊したイベントだな】【NTRに近い感情が芽生えるやつ】【エイトちゃんの場合は似合っているからいいけど、似合っていない衣装だと着せた奴のセンスを疑う奴】【エイトちゃん抜けたら六日間視聴やめるわ】【←翌週には間に合うな】

 

 半分は冗談で、半分は本気の展開予想である。

 

 そんな有識者を気取るバーチャルデキルオの考察が見事的中してしまったのが──次回のことだった。

 

 

 

 そう……T.P.エイト・オリーシュアは攫われた。

 

 

 メアの暴走を止める為に消耗したところを、セイバーズの抵抗虚しくケテルに世界樹サフィラへと攫われたのである。

 これはメインヒロイン離脱イベントやでぇ……と、いざ目にしたその放送終了後、貧乳オタクは狼狽えた。

 

 そんなこんなで次回の配信で語りたいことが多くなりすぎた「フェアリーセイバーズ∞」の展開である。

 

 

 

 ──そしてストーリーはしばらくの間、セイバーズにエイトを欠いた状態のまま進むこととなる。

 

 

 

 異世界編からの出番なのに、気づけばセイバーズの中にいるのが当然だと思っていた自分に気づき、貧乳オタクは少し苦笑した。

 

 いて当然だと思っていた存在が、いなくなることへの感情──その点で言えば彼は、作中の登場人物に対して悲しいほど感情移入することができたのかもしれない。

 

 

 




 OPとEDが本編のネタバレになっているアニメは名作

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