TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

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二次の彼方に

 ──えっ……なにこれ、こんな世界があるの……!?

 

 

 ネットの海で初めて二次創作小説というものに触れた時、僕の心に浮かんだのは「なにこれなにこれ!?」「すっごーいたのしー!」と言った無垢な好奇心だった。

 

 それほどまでに、二次創作という存在は当時の僕の世界を大きく広げたものだったのである。

 ネットの中に、自分の好きなアニメや漫画の知らない物語が、名前の知らない誰かによって幾つも紡がれている。

 あの頃の僕はGTの続編にAFがあるものだと真に受けてしまうぐらい純粋な子だったから、公式とファン創作の区別が甘く、その価値観が良い方向に働いた結果何と言うか二次創作を読むことは「夢の続き」を見ているようで温かい気持ちになったのだ。

 

 初めて界隈に入門したあの頃──僕は一年やそこらではとても読み切ることができない膨大な作品群の中で、あらゆる物語を楽しんで読み漁っていた。

 

 中でも、オリジナル主人公──縮めて「オリ主」の概念に触れた時なんかは、寝る時間すら忘れてドハマりしたものだ。我ながら、悪い遊びに目覚めた思春期少年という感じである。

 当時の僕は今もそうだが、原作のバッドイベントをオリ主のチートパワーで粉砕する姿に高揚を覚えたのである。それはネット小説という界隈が発展した今にして振り返れば「最低系オリ主」と揶揄される無茶苦茶なSSだったのかもしれないが……僕の目にはその物語が、とても輝いて見えた。

 

 確かにプロと比べたら文章力は拙いし、オリ主の格好良さありきな物語の内容も支離滅裂だったかもしれない。だけどそこには作者さん自身の原作に対する想いや創作に対するひたむきな想い、何より「自分が好きな原作の物語をああしたい」とか、「あの原作の悲しい展開がこうなっていたら良かったのに」とか、そういう想いが何かこう、僕自身の自己投影も相まり心に強く訴えかけてきたのである。

 或いはそれはネット創作故の、良くも悪くも作者と読者の距離が近いという性質がもたらした感情なのかもしれない。

 

 当時の僕は悪い子になっちゃったなぁとピュアな罪悪感を抱きながら、初めて日が変わるまで物語を読みふけったものである。

 無垢な好奇心から初めて読んだネット小説は、国語の教科書よりもずっとずっと、すらすらと読めてしまった。

 

 最終回まで読んだ頃には夜が明けていて、その時には今までに感じたことの無い何か、強くて不思議な興奮を感じていた。

 

 

 僕はそれまで、本を読むのはあまり得意ではなかった。

 

 両親からは療養中にも楽しめる娯楽として読書を薦められたことはあったけど、どうにも集中力が続かず途中で投げてしまっていたのだ。嫌いなわけではなかったんだけどね。

 そんな僕を見て姉さんが「おめーは落ち着きがねーですからねぇ……せっかく本が似合う見た目してるのに」と呆れていたのが良い思い出である。

 まあ、そういう姉さんこそ少女漫画ばかり読んでいて小説とか一切読まなかったんだけどね。しかも、そこはかとなく薔薇の香りがする奴とか……僕はデキる弟なので決してツッコまなかったが、初めて姉さんの愛読書の表紙を見た時は軽くひいたものである。

 

 

 ……まあ、今にして思えば純文学的な本が読めないならライトノベルを読めばいいじゃんという話ではあるのだが……そちらは何故か、読むのが恥ずかしかったのである。当時の僕には。

 

 

 あの頃の僕は純情なピュアボーイだったからね! ラノベと言ったら美少女キャラみたいなイメージがあり、昔の僕には短いスカートを穿いた美少女の姿が見えそうな角度で表紙に描かれている本とか、何かもう本屋で手に取ることさえとても恥ずかしかったのである!

 

 そういうのを読んでいるのを誰かに噂されたら恥ずかしいし……という見栄っ張りなところもあったし、そもそもラノベという文化に対する無意識の偏見があったのかもしれない。

 店頭に並んでいるのを見かけた時とか、内心めっちゃ興味があったくせにね! 小学校六年生の頃、家族と町の本屋に出かけた時、(なにあの表紙のお姉さん綺麗……あの本欲しいなぁ)と思いながら誰にも言い出すことができず泣く泣く店を出て行ったのは、どこの誰だって言う。

 

 当時の心情を例えるならそう、本当はお師匠様よりもマジシャンガールの方が好きだけど、クラスメイトに「こいつエロだぜー!」と思われたくない男の子が、「おれは師匠が好きだからガールもデッキに入れてるんだぜー!」と言い張るようなものである。

 この心理には普段常識的なキャラを自称しているマイフレンドも同意してくれたから、おそらくは珍しくもない体験なのだろう。

 

 そんな可愛らしい過去も、僕にはあったのだ。今では違うベクトルでカッコつけだけどね。

 

 

 ……まあ、その点で言えば、僕たちの中で一番のオタク男子だったメタボの……義兄のことは、一目ですげえ奴だと思ったよ。

 僕が初めて登校したらアイツ、クラスの一番前の席に陣取りながら、堂々とお色気的なラノベの表紙を広げてるんだもん。ブックカバーも付けずに。

 己の趣味に何ら恥ずることはないと言わんばかりの姿勢を目にして、僕は「うわあ同級生の男の子ってみんなこうなんだぁ……」と新しい価値観を見せつけられたものである。一緒に登校した姉さんから「そんなわけねーです」と即座に否定されたが。

 

 しかし僕はその時の、「オタクとはかくあるべきだお」とでも言うような男らしい姿に感銘を受けた。ピュアボーイな僕は色々と影響を受けやすい年頃だったのである。

 

 だけどその体験が、僕を幸せな人生に導いてくれたことは間違いない。

 好きなものは、好きでいていいのだと──そんな当たり前のことを教えてくれたのが、アイツだったから。彼のそんな一途で、自分というものをしっかり持っているところに好感が持てたから、僕も安心して姉さんを任せることができたわけで……まあ、そんな思い出である。我ながら「YARUO」とはナイスなニックネームを名付けたものである。

 

 そんな同学年の義兄をはじめ、中学校生活で出会った愉快な友人たちの影響を受けて僕もオタク趣味をオープンにしていくようになったわけだが、それはそれとして話を戻そう。ネット上の二次創作小説──すなわちSSに。

 

 

 ライトノベルに興味を持ちながら購入することができなかった当時の僕は、ネット小説という媒体により初めて「ライトな文章から綴られた分厚い物語」というものに触れたわけである。

 

 絵本は薄いしそういう歳でもないので読まない。

 分厚い本は集中力が続かないので読めない。

 ライトノベルは表紙が恥ずかしいので読んでいるところを見られたくない。 

 

 そんな注文の多い糞みたいな読者である僕の望みを叶えるに当たって、ネット小説はまさにうってつけの媒体だったのだ。

 

 案の定僕は沼に沈み、そう時間も掛からず自分でSSを書くようにもなった。まあ、これっぽっちも面白くなかったがな……だけど、楽しかった。

 うん、楽しかったんだ。アニメや漫画に次ぐほどに、僕の中でSSという趣味は己の人生に彩りを与えてくれた。役者さんになりたかった小さな頃から僕はきっと、「空想の物語」というもの自体に憧れがあったのだと思う。

 たとえそれが、ペンギンが空を飛びたがるようなものだとしても、ね。

 

 

 

 ──僕も生まれ変わったら……誰かの描いた物語のオリ主(ヒーロー)になりたいなぁ。

 

 

 

 病状が悪化した僕を見舞いに来てくれた友人たちに向かって、いつだったか僕が、そんな戯言をほざいたことを思い出す。「いいですね! あと100年ぐらいしたら一緒にやりましょう!」「そう言えば天寿を全うしたジジイ共が一斉に異世界転生する話って見たことないお」「需要が無いだろ常識的に考えて」と粋な言葉を返してくれたあの時のみんなは、彼らにしては大人の対応をしてくれたものである。

 

 もちろん、苦しい現世からさっさとおさらばしたいとか、マイナスな理由で言ったわけではない。

 だけど、異世界転生をしてみるのもいいなと思っていたのも確かなわけで。機会が巡ってくるならばと消極的に祈っていた。

 

 

 ただ、まあ……その時はもう────(前世の僕)としては生きないとは決めていた。

 

 

 身体は弱かったけど、周りには大好きな家族がいて、友人たちがいて、幸せな思い出があって……そんな大切な一生を生き抜くことができたのが、前世の僕だ。────という男だ。

 

 だから僕は、前世の人生を否定するようなことはしたくないし、僕が生きた僕自身の物語を下手な蛇足で汚すのも嫌だった。

 

 

 永遠の眠りの先でカロン様に出会い、転生オリ主となることを受け入れた今でもその気持ちは変わらない。

 

 

 前世の僕の人生は前世の僕の人生。T.P.エイト・オリーシュアの人生はT.P.エイト・オリーシュアの人生である。

 全部同じじゃないですかと言うこと無かれ……僕は僕なりに、自分の二つの人生をきっちり線引きして両方全力でエンジョイしたつもりだった。

 

 だから、いつもいつでも胸を張って言える。────という男は幸せに生きたよ、とね。

 

 そうとも、エイトちゃんは悲しい過去を持たないオリ主なのである。

 

 

 

 ──だから……君が負い目を感じる必要は無いんだよ? ダァト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は今、空みたいな場所にいた。

 

 女神様っぽいカロン様の真っ白な空間に、突如闇が広がったかと思えば、気がついたらそこに青空が広がっていたのである。

 

 なのに、重力に引っ張られている感じが無い。飛んでいるわけでもないのに、何だろうかねこれは……ああ、アレだ、幽体離脱的な奴だ。

 肉体から解放された魂がフワフワとここに浮かんでいるような、不思議な感覚だった。

 

 それは前世の僕が死んでカロン様にこの身体を与えられる前──魂だけになって白い世界を漂っていた時の状態に近い感じである。

 

 今、そんな僕の目の前には、僕と同じ姿をした──と言うよりも、ルーツ的にはあっちが本家本元になるのだろう。露出度の高い黒いドレスを華麗に着こなした、美しい黒髪の少女が佇んでいた。

 

 うーん……こうして見るとやっぱり美少女だよねー。まるで鏡を見ているようだよ!

 

 そう思いながら僕がまじまじとその姿を見つめていると、黒い十枚羽を持つ大天使さんは何故か泣き出しそうな顔で僕の前にいた。

 

 ……まあ、その理由は大体察しがつくけどね。

 

 この世界に入り込んで彼女と対面した瞬間、まるで記憶の枷が外れたかのように、僕の頭の中に新情報が次々と溶け込んできたのである。

 

 その結果、僕は色々な事情を知ることができた。

 僕自身のこととか……彼女のこととか。

 

 彼女──ダァトは顔を上げて苦笑を浮かべると、そんな僕の前で初めて口を開いた。

 

 

「……キミは健気だね」

 

 

 儚く微笑む顔がお美しい。大天使って、ほんとみんな綺麗だよねー。……ネツァク様は筋肉が美しいのでセーフ。

 って言うか、ダァトは普通に人の言葉で喋るんだね。他の天使や聖獣さんたちのように、テレパシーを使わないんだ。

 

 

「うん、キミを通して人の言葉を学んだから。ふふ……実は、ボクも初めてなんだ。他の誰かとこうして、言葉を使って話すのは。ちゃんと発音できてる?」

「うん、完璧に発音できてるよ。流石ダァト」

「ふふん、凄いだろー?」

「さすダァさすダァ」

「……それはやめて」

「わかった」

 

 

 うん、僕も言いにくかったので、さすダァはやめておくよ。だけど異世界の言語を使いこなすのは実際凄い。

 ま、君も僕なんだから(・・・・・・・・)人の言葉を使えるのは当然なんだけどね。

 だけどそうやってナチュラルに心を読んでくるのはやめてほしいと言うか……カロン様と言い、君たち原初の大天使ってそういうところあるよね。

 僕相手ならいいけど、不快に思う人もいるから気をつけようね。

 

 

「……そうだね。心が読めても、それで相手のことを理解できるわけじゃない……天使も人間も、アビスたちも」

 

 

 ……ふむ。軽く忠告しただけなのに勝手に曇っておられるぞこの人。

 

 あからさまに大物っぽい雰囲気を纏っている割には、案外繊細な天使なのかもしれない。そう思うと僕はなおのこと、彼女に対して親しみを覚えた。

 僕の立場として彼女にそう思うのは、変な話ではあるのだろうが。

 

 さて、それはそれとして……どうしようかねこの状況。

 

 今の僕自身としてはまるで悟りを開いたようなわかるマン状態だが、かと言って自分が今陥っている状況全てを理解しているわけではない。

 客観的に見てもこの状況は、「その時不思議なことが起こった」で片付けるには無理がありすぎるぐらい奇妙な展開だろうからね。

 

 

 暴走したメアちゃんを助ける為に渦中へ飛び込みました。

 飛び込んだらそこはカロン様の領域で、彼女に怪盗ノートを使えと言われました。

 怪盗ノートを使ったらノートからえげつない量の闇が溢れました。

 闇に飲み込まれた後目が覚めたらこれまた不思議な空みたいな場所にいて、そこには僕と同じ姿をしたダァトがいました──と。

 

 

 淡々と状況を整理してみたけど、なんだこれは……まるで巻きに入った打ち切り漫画みたいじゃないか!

 

 むむ……これはマズい。これがSSだったら「作者さんもしかして面倒くさくなったのかな」とエタの香りを嗅ぎ取るところである。

 

 だが、僕はデキるオリ主なので、読者さんにも理解してもらえるようにわかりやすい説明をするぜ! 今こうして初めて出会ったダァトと一緒になぁ!

 

 

「初めまして……って言うのは変かな? ボクはダァト。フェアリーワールドの「知識」を司る、原初の大天使──だった者だよ」

「初めまして、ダァト。えっと……キミの前では、いつもの話し方はやめた方がいいのかなぁ?」

「ん? ビナーちゃんの時のように、キャラ被りを気にしているのかい? ボクは気にしないけど……」

「ボクが気にするの! パクりは駄目だろう!?」

「あ、うん……怪盗名乗ってるくせに、パクりは嫌なんだねキミ……」

 

 

 ? 何を当たり前なことを言っているのだ。そんなの当然じゃないか。

 ダァトと会話するに当たって、これはオリ主的死活問題である。僕たちがいつもの調子で話し合うと、SS的にビナー様よりややこしいことになってしまうからね。

 だけど……むー。

 

 

「……やめたくない。ボクはやっぱり、このままでいたい」

 

 

 うん、せっかくここまでT.P.エイト・オリーシュアという最高にカッコいいオリ主をやってきたのだ。例え目の前に本家本元が現れたとしても、このキャラまで彼女に譲るのはなんか嫌だ。モノマネ歌合戦に本人が登場するのとは違うのだよ。

 

 そういうわけでSS的にはここから先、僕たちの会話シーンが非常にややこしくなってしまうが、エイトちゃんはエイトちゃんのキャラを全うすることにする。反論は聞かん!

 

 

 覚悟を決めて真剣な目を浮かべた僕は、彼女を見つめて一つお願いすることにした。

 イレギュラーな事態の立て続けとは言え、せっかくダァトに会えたのだ。

 彼女にはここで、僕たち(・・・)の存在についてきっちりネタばらしをしてもらおう。インタビュアーエイトちゃんである。

 

 

 

「それじゃあダァト。キミには改めて色々聞かせてもらうけど……キミは──ボクなんだよね?」

 

 

 

「……うん。キミの魂の一部はこのボク──ダァトと同一の存在だよ」

 

 

 

 

 

 ──そういうことになっていた。

 

 

 

 うん、そういうことなのである。

 

 ふふふ、どうよ。今明かされる衝撃の真実って奴である!

 

 ……大丈夫、ちゃんと順を追って説明するから。ダァトが。

 僕もさっき知ったばかりだから、実はまだちょっと頭の中で整理しているところだ。さっき色々振り返ってみたのもその一環だったりする。彼女と会って全てを知った今、僕の原点を再確認してみたくなってね。

 

 

 しかしついさっきまで僕自身も知らなかったオリ主の秘密が明かされるとは、これは物語の最終章に向けて、いかにも盛り上がりそうな展開ですわ。勝ったな、ああ。

 フェアリーセイバーズ∞のお話はまだ続いていくのだろうが、オリ主であるT.P.エイト・オリーシュアの物語は……もしかしたらここで、巻きが入るのかもしれない。

 

 ──それでも僕は、最後の瞬間まで完璧なチートオリ主を追い求めたいと思う。

 

 それはきっと、全ての真実を知ろうと知らなかろうとこの先ずっと変わらない「僕自分」なのだろうと、今は感じていた。

 さて、じゃあ始めようか……

 

 

「ボクの名前はT.P(テンプリ).エイト・オリーシュア。ご覧の通り転生者だ」

 

 

 僕は改めて自己紹介を行い、彼女との対話を行った。

 

 

 




 第一話につながる話が最終局面で出てくる話すき
 毎度見積もりがガバガバな作者ですが、100話以内には完結する……筈

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