TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
裏設定を明かすのはタイミングが大事
──以上が、僕のこれまでの旅の記録である。
いやあ自分語りは気持ちいいねー。
彼女があまりにもニコニコして聞いてくれたものだから、僕も気分が良かったよ。ダァトは聞き上手だね。
まあ、「僕」の中にいたダァトなら、こうして語らなくても大体ご存知だったろうけどね。
「そうでもないさ。ボクの意識がこうしてはっきりするようになったのは最近のことで、それまではずっと夢を見ているような感じだった。だから、キミがこうして語ってくれたのは嬉しい」
ふむ、なるほどね。
しかしそんな状態でよく人間の言葉をマスターできたものだと、改めて賞賛を贈る。流石大天使様である。頭良い。
「えっへん」
かわいい。カッコいいエイトちゃんと違って、ダァトはかわいいもイケるのか……流石だ。
さて、僕のことは一通り語り終わった。次は君の番だ。
説明プリーズ。よーし、ここはわかりやすく、インタビュー式に行くぜ!
──貴方のお名前は何ですか?
「? ダァトだよ」
──職業は?
「元大天使をやっていました。死んだ後は、キミの守護霊的なことを少々。ほとんど疫病神だったけどね」
──死んだ後とはどういうことですか? 貴方は死人なんですか?
「うん、100年ぐらい前に消滅したよ。それまでは深淵の世界で、キミの言う女神様っぽいことをしていたんだけど……深淵のクリファ──「バチカル」って子と戦って……相討ちになってね」
──そうだったんですか……100年ぐらい前と言いますと、もしかして聖龍アイン・ソフが人間世界にやって来た時期と関係が?
「……そうだね。多分だけどアイン・ソフはボクが消滅したことを知って、アビスの活性化を察したんだと思う。だから来るべき時に備えて、人間たちにボクの力──異能を授けたのだろうね」
──異能が貴方の力!? それはつまり、異能の起源はダァトにあったということですか? ジェネシックダァトちゃん。
「今ではほとんど別物だけどね。だけど、間違いないよ。小さいけど、異能使いからはボクと同じ力を感じる」
──これは驚きです。しかし当の貴方は死んだのに、聖龍はどうしてそんなことができたんですか?
「ボクが完全に消滅する前に、なけなしの力を一冊の本に移して、世界樹に還したんだ。……で、世界樹の意思であるカロン姉さんがそのことをアイン・ソフに伝えて、人間世界に力を振り撒いたんだよ」
──なるほど、わからん。そもそも貴方たち原初の大天使って何なんですか? 突然生えてきたオリ設定とか、これがSSだったら読者の皆さん着いていけませんよ?
「手厳しいね。うーん……どう説明したものかな? ボクとカロンは天使の中でも少し特殊でね。ボクたち姉妹は今よりずっと大昔の時代、当時の世界樹サフィラを支える為に生まれた存在だったんだ」
ミステリアスキャラが満を持して真相を明かす時って、それまでの行動がミステリアスであればあるほど見ている人が混乱するし、開示するべき情報が渋滞してややこしくなるから難しいよね。ダァトったらおっちょこちょいなんだから。
ま、頭の良い僕はその辺りのバランスをちゃんと考えながらミステリアスムーブをしていたからいいけど、今さっき突然舞台に上がってきた彼女の場合は大変である。
そう思いながら僕が同情の眼差しを送っていると、彼女はふっと息を吐いた。
何か良い説明方法を思いついたようである。
「そうだね……ここは年配のお婆ちゃんらしく、一つ昔話をしようか」
推定年齢が数億歳まで行くと超越的な存在すぎて、逆に「お婆ちゃん」って感じがしないから凄いよね。
だけど昔話とな? ……いいね、絵本みたいに語ってくれるならわかりやすいと、僕は背筋を伸ばして興味津々に聞き入った。
美少女すぎるお婆ちゃん天使であるダァトは、僕に促されるまま穏やかな声で語り出した。
昔々、ある世界に一本の木がありました。
この星が生まれた頃から世界の真ん中に佇んでいたその木は、天界に生命を生み出す豊穣の大樹として全ての生き物たちに欠かせない存在でした。
そんな生命の木を聖獣たちは「サフィラ」と呼び、世界樹として崇めていました。
しかし、世界樹とて永遠ではありません。そんなサフィラにも、他の植物と同じように寿命がありました。
緩やかな死が、世界樹のもとに訪れようとしていたのです。それはサフィラによって栄えていた聖獣たちにとって、世界の危機を意味していました。
サフィラ自身もまた、徐々に力を失い、己の存在が枯れゆくことを恐れました。
滅びが──自らの死が引き起こすことになる世界への影響が、何よりも怖かったのかもしれません。
──そんなサフィラの意思は、自身の枝から光と闇の果実を落とし、二人の天使を生み出しました。
光の果実から生まれた天使を「カロン」、闇の果実から生まれた天使を「ダァト」と名付けると、サフィラの意思は二人の天使に使命を与えたのです。
──それは、二人に与えたその力で自身の存在を……世界樹サフィラを存続させていくことでした。
最後の力を振り絞って二人を生み出したサフィラの意思は、古き友である聖龍アイン・ソフに二人の父親代わりを任せると、永遠の眠りにつきました。
二人の天使は生まれながらにして、その身体に世界樹の存続に必要な力を宿していました。
カロンが持つ「光」とダァトが持つ「闇」の力。
その二つがあれば、サフィラは生き永らえることができたのです。
残された光と闇の姉妹は自らの使命を理解し、いつ如何なる時も世界樹を恒久的に存続させていく為に、古き友アイン・ソフや仲間たちと協力し合いました。
そうしてフェアリーワールドは、初めて訪れた世界樹サフィラの危機を乗り越えていきました。
──しかし、それからしばらくして再び災いが降り注ぎます。
雲海の深き底から、恐怖の魔王が現れたのです。
魔王は十体の怪物を引き連れ、聖獣たちの住む天界に来訪しました。魔王は非常に凶暴な性格であり、ありとあらゆるものを消し去るその力で破壊の限りを尽くし、天界を破滅に陥れようとしました。
──その脅威に立ち上がった聖龍アイン・ソフと姉妹たち原初の大天使は、永遠と疑うほど長き時を彼らと戦い続けました。
彼ら「アビス」は元々、世界の脅威と呼べるほど恐ろしい存在ではありませんでした。
機械的に目の前のものを破壊していくその習性は危険ですが一般の聖獣たちでも対処は可能であり、初めは然程の脅威ではなかったのです。
しかし、彼らには完全な「死」が存在せず、ひとたび消滅すればより強い力を得て幾度も転生するという能力が備わっていました。
特に「魔王」と呼ばれた存在は、アビスの中でも原初の大天使が生まれる以前の時代からこの世界に存在しており、気が遠くなるほどの果てしない時を転生し続けたことで神にも匹敵する力を得た特別な存在でした。
長い長い時を戦い続け──聖龍アイン・ソフは遂に、魔王を封じ込めることに成功しました。
それと同時に、魔王が率いていた十体の怪物の身にそれぞれ変化が訪れました。
それまで機械的に目の前のものを破壊するだけだった怪物たちが、各々に自分の意思を持ち始めたのです。
そんな彼らはある者は深淵に帰り、ある者は天界に残って聖獣たちと争い続けました。
彼らにとってそれは、自らの存在を確立する為の戦いだったのかもしれません。やがて彼ら十体の怪物は「深淵のクリファ」と呼ばれ、天界中の者たちから恐れられました。
クリファたちとの争いに終わりが見えた頃には、世界は崩壊の窮地に立たされました。
世界樹サフィラがそれまでの戦いで傷つき、再び絶命の危機に陥ったのです。
それには本来世界樹を支える筈だったカロンとダァトの力が、長い間魔王との戦いに利用されてしまったことが原因の一つでした。
──この危機を前に、二人の大天使はそれぞれ決断を下しました。
一人は自らの存在を捧げることで世界樹と一体化し、サフィラを延命させること。
そしてもう一人は深淵の世界へ赴き、二度とこのような戦いが起こらぬようアビスたちとの対話の旅に出ることに決めたのです。
前者はカロン。後者はダァト。二人はそれがこの世界で二人にしか果たすことができない本質的な解決策であり、自らの存在に課せられた使命だと理解したのです。
ダァトはサフィラの存続に必要な闇の力の大半を一冊の本に込めると、それをカロンに手渡して託しました。「サフィラの書」と呼ばれるその本を、カロンは大切に抱えていました。
それによりダァト自身は力のほとんどを失ってしまいましたが、心配は要りません。
何故なら光溢れる天界と違って、彼女が向かう深淵の世界には彼女にとって居心地の良い「闇」が溢れていたからです。
──二人は別れ、天界の仲間たちに見送られながらダァトの姿は雲海の底へと消えていきました。
そして姉妹の片割れとして天界に残ったカロンはボロボロの世界樹にその身を捧げると、新たな世界樹の意思として同化することで崩壊寸前のサフィラを安定へと導きました。
天界復興の目処が立ったところで、大戦で大きく疲弊した古き友アイン・ソフと世界樹の意思となったカロンは今回の反省を踏まえ、二度とこのような争いが起こらぬよう自分とダァトから託された力を基盤に、自分たちに替わって天界を守る新たな守護者を生み出しました。
そうして生まれた「サフィラス十大天使」は、先に生まれた王のもとに集うと、聖龍やダァトの代わりに十人でこの世界を導くことをその胸に誓うのでした──。
「めでたし、めでたし」
「……いや、めでたくないでしょ何言ってんの」
「あれー?」
あれー? じゃねぇよ。僕がしたいわその反応。
どこでもハープを弾きながら大昔のフェアリーワールドで起こった出来事を語ってくれたダァトに向かって、僕がクールにツッコミを入れる。
彼女の昔話とは、かつてフェアリーワールドを襲った「魔王」とかいうなんだか裏ボス感のある存在との大戦の記憶と、その顛末である。
結末としてダァトは一人寂しく深淵の世界へ旅に出て、カロン様は人柱になった。それによって世界の破滅は避けられたとは言え、大団円とは言い難いビターエンドである。
……これがきっと、今朝僕が見た夢の詳細なんだろうね。
「そうだよ」
そうか……いや、しかし、なるほどね。
サフィラス十大天使にそんなルーツがあったとは……サフィラス十大天使がダァトの力をもとにして生み出されたということは、僕と似たような誕生経緯でもあるわけか。あっ、でもあの夢には既にケテルが生まれていたから、正確にはケテル以外の九人がダァト由来の大天使になるわけだね。
……あれ? それならダァトの力をその身に定着させた人間世界の異能使いも、サフィラス十大天使と大元は同じなのか。異能使いは天使だった……?
「はは、ケテルたちは嫌がりそうだけど、そういう考え方もあるね」
ほほーう、カロン様もそれならそうと教えてくれれば良かったのに。
そんなバックボーンを知っていたら、僕も堂々と天使っぽいムーブをしていたのになぁ。「ボクはT.P.エイト・オリーシュア……その正体は地球の大天使ダァト二世!」とか言いながら、原初の大天使お墨付きの第三勢力になることもできたのに。
「……その必要、ある? キミ、今までだって十分天使っぽかったじゃない。ボクなんかよりよっぽど」
そ……そう? ふ、ふふーん、参ったなー!
僕ったら何も知らなくても完璧な立ち回りをしてしまうから困る。カッコ良さが無意識レベルに刻まれているって言うか? かーっ。
「……なんかムカつく」
なんでさ。
「嫉妬だよ、嫉妬。昔は、姉さん相手にも抱いていた感情だけど……ボクもキミぐらいカッコ良くやれたら、もっとたくさんの生命を助けられたのかなって思ってさ」
……いや、そんなこと言われても困るって言うか……その、畏れ多いです。
何せ君は、僕と違って生まれながらに特別な使命を与えられた存在だからね。
僕のように好きなように生きて、好きなことばかりしていれば満足できる生き物じゃないでしょ君ら?
「ボクもボクなりに、自分の好きなようにやっていたさ。だけど、キミは……」
おおう……どことなく空気が重くなる。
ダァトは神妙な顔で、悲しいものを見るような目で僕を見つめてきた。そんな彼女の目は聖母の如き慈愛に満ちていて美しく見えたが、それを茶化す場面でないことぐらいはわかる。
今彼女が思っていることには察しがつく。
たとえ僕自身にとってそれが大した問題ではなくても──心優しい彼女にとっては納得することができず、ずっと謝りたかったことなのだろう。
だから僕は、何も言わずに彼女の言葉を待った。
「……ごめんね、────。キミが病に苦しめられていたのは全部、ボクのせいだったんだ」
前世の「僕」の名前を呼びながら、ダァトが深々と頭を下げる。
いや、その……やめてよそういうの。丈夫な子に産んであげられなくてごめんって、隠れて泣いてたお母さんのこと思い出すから。やめて……
彼女の真摯すぎる態度には僕の方が恐縮してしまうが、そうして挙動不審に視線を彷徨わせていると彼女はさらに申し訳なさそうな顔を浮かべた。
彼女が語る前世の僕の死因──それは病死である。
それは現代医療でも治療法の無い、原因不明の不治の病だったが……まさかここに来て、原因が判明するなんてね。世の中何が本当のことかわからないものである。
「深淵の世界でボクが死んだ時……サフィラに還る筈だったボクの魂の破片が、次元を越えてキミたちの世界に迷い込んでしまった。その結果、正しく循環する筈だった輪廻にボクの魂が紛れ込み……やがて、キミが生まれた」
どうやら僕のいた前世の世界にも、「魂」という概念は実在していたらしい。
ダァトが言うには通常、一つの存在にはその器に適応した魂が定着して生命が生まれるようだが、前世の僕の場合は僕以外にもう一人の魂──異世界から迷い込んできたダァトの魂が混ざり込んでしまったのである。
その結果、人間一人の器に二人の魂を宿した歪な存在が生まれてしまったのである。
それが、今も続く僕の正体だ。
「人間一人の器に天使の魂を宿すには、その負担はあまりに大きすぎた……それが不治の病として僕の身体を蝕み、最後は死に至らしめたってことだろう?」
「本当に……ごめん……っ、ごめんね、────! ボクのせいで、こんなことにも巻き込んで……!」
「……いいさ。君だって、僕になってしまったのは事故だったんだろう? しょうがないよ」
そう、いわゆる「転生事故」って奴である。お互い、奇妙な体験をしたね。
ダァトの魂だって故意に混ざり込んできたわけではないし、彼女の方こそ故郷の世界でちゃんと生まれ変わりたかった筈だ。
だから、この件は誰かが悪かったわけではない。心からそう思っている僕としては、真相を知った今も彼女のことを恨む気持ちは無かった。
「……やっぱキミ、ボクより天使らしいよ」
「天使じゃないよ、オリ主だよ」
「オリシュってすごい……」
そうさ、オリ主は凄いんだ。もっと褒めていいよー。
……まあ、そんな僕も人の子だし、思うところが何も無いわけではない。
だけど、例えるならそう。綺麗に完結した物語の余韻に一頻り浸って満足した後、しばらくしてから公式から微妙な裏設定を明かされるのと似たような心境である。
その設定、いる?──と。
お話に整合性を持たせる為とは言え、それで物語をつまらなくさせてしまっては本末転倒だと僕は思う。
もちろん、微妙な裏設定があろうと無かろうと、物語が完結した時に感じたあの温かな感情が汚されることは全く無いわけで──まあ、思い出になってしまった時点でそれは永遠のものなのである。要は全て、終わった話だということだ。
「だから僕には、君を恨む理由なんてない」
「──っ」
「それに……前世の
「…………」
……うむ、エイトちゃんヘアーと変わらない筈なのにこうして触れると中々どうして、違う感触がするものである。自分の髪じゃないからかな?
そうして真っ正面から向き合った僕は顔を上げた彼女と間近に顔を見合わせながら、そっと微笑み掛けてやった。
「だから君も、そんなこと言うなよ。確かに、僕のことを助ける為に頑張ってくれたみんなには申し訳ないことをしたけど……それは僕の罪であって、君のじゃないし」
かつての僕自身が、他の誰よりも自分の人生に納得しているつもりだ。
身の回りの人たちに向ける罪悪感だって、僕のものだ。僕の大切な気持ちだ。だから、渡さない。
「僕の人生は僕のものだ。誰にも文句は言わせない。ダァトにも……エイトにもね」
「……そっか」
はい、そういうわけでこの話はおしまい!
前世の僕に関する湿っぽい話は、これにて完結です。いいね?
「……ありがとう、エイト」
? なんでお礼言うねん。寧ろ僕の方こそ君に感謝しているっての。
「それはこっちの台詞だよ、ダァト。君は今まで、僕のことをずっと見守ってくれていたんだろう? 今まで幸せな時間をくれて、ありがとね」
実を言うと……僕の中に誰かいることに気づいたのはついさっきのことではなく──メアちゃんからケセドの力を盗んだ時から、ずっと違和感を感じていた。
なんか僕、慈悲深くなってね?──と。
それはケセドの影響かと最初は思っていたけど、今にしてみれば君が「力」を取り戻し、目覚め始めていたからだったのではないかなと思う。
「……気づいていたんだ」
あれだけ違和感があれば、流石にね。僕はこう見えて聡いのだよ……脳天気なオリ主かと思った? 残念エイトちゃんでした。
……まあ、そういうことも含めて色々話そうか。
僕がそう言うとダァトは困ったように笑い、それを受け入れた。
……その結果、色々あって何故かこの場で「フェアリーセイバーズ∞」の一挙上映会が始まったのは何と言うか……流石カロン様の妹だなぁと思いました。