TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
検索ワード「シェリダー 強すぎ」。
放送後のサジェストにはそんな言葉が浮かんできそうなぐらい、深淵のクリファ「シェリダー」は前振りに恥じない見事な暴れっぷりを披露してくれた。披露しなくて良かったんだけどね……
シェリダーの姿は全長約100mの異形の怪物──と言うか怪獣? それも「邪神」とかそういう類いの外見をイメージした方が良いのではないかと思うぐらい、その姿は大きくて禍々しくて恐ろしかった。
頭も含めて上半身は割と爬虫類的で、正統派なドラゴンみたいな姿をしているんだけど、下半身にはタコみたいに無数の触手がわらわら蠢いていて、何とも名状しがたい冒涜的な姿をしていた。
そんな全身の色は例によって真っ黒なのだが、目の色だけは真っ白なのがまた何を考えているのかわからなくて怖い。意思疎通とかできなそうな顔をしていた。
突如として地底の底、ルキフゲスの檻から蘇った深淵のクリファ「シェリダー」は見た目からしてヤバかったが、強さもヤバい。それはもう、語彙力がヤバくなるほどヤバいのである。
初登場から外見通りの強さを遺憾なく発揮すると、シェリダーはセイバーズとサフィラス十大天使の戦いに割り込むなり彼らの視線を釘付けにしていった。
そんな怪物を前にしては……セイバーズはもちろん、コクマーやゲブラーも優先事項を弁えていた。
敵対していた大天使たちは即座に冷静な判断を下すと、この場だけは一時休戦し怪物の対処に当たったのである。それまで嫌い合っていた敵同士が第三勢力の出現を受けてやむなく共闘する展開っていいよね……大変王道的でよろしい。マルクトとか露骨に嬉しそうにしていて微笑ましい。当人は『今の私たちの脅威になるのはあちらの方だと判断しただけです! 勘違いしないでください』とお約束的な台詞を返していたが、どう見ても翼を相手にしていた時より動きのキレが良いもの。
「マルクトちゃんは島の管理者としては少し素直すぎるところがあるけど、クリファのようなわかりやすい敵がいる時は頼もしいよね」
うん。何というか、味方入りする直前の敵対魔法少女みたいな雰囲気だよね今のあの子。
そんな彼女らと共闘することになったシェリダーだが、何分その巨体である。
この場で戦えばヘットを筆頭に近くの町は跡形も無く吹き飛ぶと判断したビナー様は、直ちに戦いの舞台をこの島から遠ざけるべく、シェリダーを島から引き離すべく雲海に誘導すべく挑発に動いた。
その時である。
【……ッ! そのスガタは……ニテいる! そうか、ダァトのコかああああああ!!】
《っ》
《なんて叫びだ……》
おぞましい叫びを上げながら、シェリダーはビナーの誘いに乗った。
と言うか、その視界にビナーの姿を入れた瞬間、それまで何を考えているのかわからなかった顔つきが激昂を表し、まるで興奮したイノシシのように脇目も振らず突っ込んできたのである。うわっ、すっごい怖い顔……夢に出てきそう。
《……随分と私は、あちらさんに嫌われているようだね》
《ふむ。やはり、かつて己を封印した者のことが気に入らんのじゃろう》
《それなら君も狙われないとおかしくないかな?》
《はて……それもそうじゃな》
ああ、そう言えば昔シェリダーをこの地に封印したのは、先代のビナーとゲブラーだったんだっけか。
ビナーのことを執拗に追いかけ回すシェリダーの姿と、彼女と同じスピードで飛翔し併走するゲブラーとの会話から、僕は彼女自身から聞いたかつての話を思い出す。
大天使は生まれ変わる度に姿も記憶も変わっていくのだから、当時のビナーたちも当然今の彼女らとは全く別の姿をしていた筈なのだが……シェリダーは明らかにビナーのことを意識している様子だ。
封印されながらも、外のことを見ていたのか。それとも、大天使ほどの存在になると生まれ変わってもわかる相手にはわかるものなのだろうか?
その点どうなんです? 解説のダァトさん。
「あー……あれはねー……うん……」
……えっ、何その歯切れの悪い返事。
なんでそんな、気まずそうな顔でビナー様のこと見ているの?
「ビナーちゃんが狙われているの、ボクのせいだと思う」
何故に?
【ダァトのコ……うんだのか……おれいがいのこをっっ!!】
「……ほら、そう言ってる」
うーん……何か言っているのはわかるけど、何を言っているのかまるでわからないわ。
アディシェスやこの前戦ったアビスの群れも何か叫んでいる様子ではあったが、どうにも波長が独特すぎて聞き取れないんだよね。
頑張って聞き取ろうとしたらSAN値がゴリゴリ削れそうだし、なんか怖かったのであまり気にしないようにはしていたけど……もしかして、ダァトはわかるの? やっぱおばあちゃんはすげえや。
「ふふん、そうだろそうだろー?」
で? シェリダー君は今、なんて言ったの?
「産んだのか……俺以外の子を」
うわぁ……
「い、言っているんだからしょうがないだろう!? ボクだってどう反応すればいいかわからないよ!」
せ、せやな。
だけどごめん。僕だってうわぁ……としか言えないよ。まるでありふれた恋愛シミュレーションゲームみたいだなアイツの感情。もしかしてあの触手ってそういう感情の暗喩……? 逃げてビナー様、超逃げて。
しかし……もしかして深淵のクリファって、みんなそういう感じのこと考えてるの? ダァトが「愛」を教えに行ったっていうのも、そういう……
「違うからね!? あの子たちがねじ曲がった方向で理解してしまっただけだから!」
う、うん……そうだよね、良かった。つい思春期みたいなこと考えてしまったよ。危うくダァトおばあちゃんに対してとんでもない誤解をしてしまうところだった。
全くもう……この世界では実際にあった叫びなんだろうけど、そういうのを子供たちも見ているアニメで放送しないでほしいよね。コアなアニメファンという生き物は解読不能な作中言語ほど研究を重ねて真実にたどり着いてしまうものなのだから、危険な発言を読み取った結果ダァトに要らない風評被害が飛んでしまったらエラい迷惑である。
「大丈夫大丈夫、クリファの声はボクにしかわからないから。……ボクにしか、ね……」
そうか……それならいいんだけどね。シェリダー君からすっかりダァトの子供だと勘違いされているビナー様もとんだとばっちりであるが、ダァト以外には誰にも聴き取ることができない言語で幸いだったということか。
……尤も、彼らの言葉が彼女にしかわからないからこそ、ここまでアビスとフェアリーワールドの関係が拗れたとも言えるが。
しかし言動からあからさまにアレな感じな性格が伝わってくる深淵のクリファ、シェリダーはビナー様の姿を見てダァトの子孫だと思ったようで、物凄い怒りを爆発させながら暴れ回っていった。
確かにダァトの力が受け継がれている存在という意味では、ケテル以外のサフィラス十大天使はみんなダァトの子と言えなくもないけどさ。
しかしそんな冷静さを欠いた敵の心情を逆手に取ることで、ビナー様たちはどうにか島から離れた雲海の上にまで彼を誘導することができた。
天使もセイバーズも周囲の被害を最優先に動くのは、そこにいる全員の共通認識だった。
攻撃一つ一つの範囲と威力が単純に桁違いであり、アディシェスのような毒性こそ無いものの冗談抜きに島が沈みかねないからだ。
そんな邪神めいた大怪獣シェリダーは近づけば無数の触手が絡め取ろうと襲い掛かってくる上に、離れればその先端部や口からビームを撃ちまくり、多対一でありながら戦いのペースを完全に握っていた。
コクマーやビナー様を筆頭にあれだけの強者たちを相手にしてさえも、物の数ではないと言わんばかりに一同を圧倒していた。
その巨体や攻撃力だけでも頭がおかしいと言うのに、さらに厄介なのは防御力である。
常に闇のバリアーみたいなもので全身を覆っており、その防御を前にしてはコクマーの雷を以ってしても有効打にならず、大天使とフェアリーバーストの力を合わせてなお優位に立っていた。
アディシェスも出てくる世界を間違えているような強さだったが、シェリダーはそれ以上である。よくもまあこんな化け物を今まで封印できていたものだと戦慄した。
「アディシェスはまだ成長途中の段階だったけど、シェリダーはずっと全盛期の状態で封印されていたからね……先代のビナーちゃんとゲブラーくんだって、転生してこれ以上強くなられたら手に負えないと思ったからこそ、封印という手を選んだのだろう」
……なるほど、つくづく恐ろしい存在である。
倒しても倒しても死ぬことがなく、時間が経てばより強くなって生まれ変わるアビスという災厄は。
深淵の世界にはまだこんなのがいるのだろうと思うと、この美しいフェアリーワールドも危ういバランスで成り立っていることがわかるというものだ。
「キミのいた世界の核兵器も似たようなものだと思うけど……」
それな。
しかし誰かが平和を満喫している裏では、いつだってその平和を守っている誰かがいることは忘れないでおきたい。ケテルみたいに忘れられなくてずっと苦しんでいるのも、残酷な話だが。
「……そうだね」
まあ、それはそれとして。
こうしてアニメとして観察してみると、これまでの状況にはいくつか不審な点が目立つね。
例えばカロン様の登場直後に封印が解けたシェリダー。そして封印が解ける時に聞こえた「──時は来た」という彼女の声。
これではまるで、カロン様がシェリダーの封印を解いたような演出である。まるでラスボスのようだ。
仮にカロン様が「フェアリーセイバーズ∞」のラスボスだとしたら、ちょっと唐突すぎではないかと苦言を呈していたところだ。そりゃあ僕視点では色々と関わりがあったり、助けてもらったりした仲だけど、主人公の暁月炎から見れば因縁も何も無い相手だからねカロン様。
ポッと出のラスボスというのも創作には割と多いけど、僕としてはもう少し主人公との関係性があった方が嬉しいと思う。
……本当にカロン様じゃないよね? 封印を解いたの。
「うん、カロン姉さんはシェリダーの復活に関しては、何も関与していないと思うよ。ただ……姉さんって昔からこんな感じに意味深なことを呟くくせに言葉が足りないから、そのせいでみんなから誤解されるんだよなぁ」
おいおい、勘違い系オリ主かよ。流石だねカロン様。
実際、まるで黒幕のような一連のムーブを前にした炎たちや視聴者は色々と誤解していることだろう。僕だって事情を知らなかったら確実に彼女のことを怪しんでいたところである。
「あの時見た封印の状況から察するに……訳あって元々封印が不安定になっていたところを、シェリダーがキミから溢れ出たボクの力を知覚した途端、いてもたってもいられず飛び起きた──という感じかな? あの子の執念が、ルキフゲスの檻を破ったんだろうね」
……あれ? じゃあアレが目覚めたのはカロン様じゃなくて僕たちのせい?
うわぁ……何とも酷い真相である。しかしこのシェリダーって子、ダァトのこと好きすぎない?
ダァトおばあちゃんさー……アディシェスと言い、深淵の世界で彼らに何を教えてきたんだよ。
「……色々あったんだよ、色々。アディシェスに関しては多分、カイツールに妙なことを吹き込まれたんだと思うけどね。あの子はクリファの中では一番無邪気で子供っぽかったから……ボクがあの世界からいなくなったことで、寂しくて暴走してしまったのかもしれない。全部、ボクが悪いんだ……」
あー、うん。別に責めようって気は無いからね? 僕だって、自分自身を相手にまでSEKKYOUする気は無い。
「……ありがとう」
ただ、僕が思っていた以上に「深淵のクリファ」という存在は僕たちと深い因縁があることを理解した。前世から因縁のある敵ってなんかいいよね……心の邪気眼が疼くぜ。
そう思うとあのアディシェスも割と真剣に、哀れな奴だったんだなぁと同情する。
彼はダァトに向かって色々叫んでいたのに、僕には言葉が通じないから何も伝えることができないまま死んでいった。そんな真相を知ってしまうと、倒したことに後悔こそないが僕も色々と、思うところがあった。
「……あの子は、キミに感謝していたよ。ボクじゃなくて、他ならぬキミの言葉で救われたんだ。キミにその自覚は無くても、彼はあの時、一番欲しかった言葉を掛けて貰えたのだから。彼に代わって礼を言うよ、エイト」
『またいつか、どこかで生まれよう。ここではない、遠い世界で……その時はきっと、キミの存在を祝福するから』──確か、そんな言葉をテレパシーで呼び掛けてやったね僕は。
何も知らなかったのに、我ながらよくもまあパーフェクトコミュニケーションを達成したものだ。流石のエイトちゃんである。
それでもあの時僕がそう思っていたこと自体は嘘ではなかったし、消える時のアディシェスはどこか嬉しそうだったのを思い出すと、ダァトの擁護もありがたく受け入れることができた。
──もしかしたら本当に生まれ変わりたかったのは、彼らの方なのかもしれないね。
そんなセンチメンタルなことを考えながらテレビ画面を眺めていると、ほどなくして事態は大きく動いた。
ビナーたちの攻撃を物ともしないシェリダーは、焦る彼女の姿を見てニヤリと笑ったような顔を浮かべると、その口から天を裂くような極太のビームを撃ち放ったのである。
今まで見たどの攻撃よりも圧倒的に威力の高いその一撃は、彼女ら自身に向かって放たれたものではない。
向かう先は理解の島エロヒム。
島から離れた雲海の上に誘導されたシェリダーは、その事実から彼女らが何を守ろうとしていたのかはっきり認識していたのだ。その上で、彼はビナーが守る彼女の島を吹き飛ばそうとしていた。
「……!」
その性悪さに、ビナー様の表情が悲痛に歪む。
予想外な行動を受けて、作中の人物のみならずそれを視ていた僕たちの呼吸さえも止まってしまった。
そしてその場で唯一動き出すことができたのは、彼の射線から最も近い位置にいた栄光の大天使ホドだけだった。
シェリダーのビームに割って入ったホドは、その大盾を構えるなり最大パワーでバリアーを展開する。
大天使にしてフェアリーワールドを守る守護騎士である彼は、そこから一歩も動かなかった。一歩でも動いてしまえばその一撃は射線上の島を、少なくともヘットの町は跡形も残らず消滅することを理解していたからだ。
栄光の大天使は咆哮を上げ、大天使も聖獣も人間も、みんなが彼の名を叫ぶ。
そして。
《二つの世界の行く末を……頼んだぞ、ビナー》
《あ……》
鎧と共に砕け散っていくフルフェイスの仮面の中で、その脳裏にほんの少しだけメアの姿を過ぎらせながら、ホドは爆ぜた。
我が身を盾にした行動で、シェリダーの凶弾からビナーの島を守り抜いたのである。
力無く雲海へと落ちていく彼を島の方向から飛んできたケセド君が回収していったが、その姿を見れば誰が見ても助からないのは明白だった。
……そう、僕たちから見てもである。
ホドはもう、助からない。
「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわ……」
「落ち着いて! おおおおお落ち着いてエイト! だ、大丈夫だから! きっと大丈夫だからホドくんもみんなも!」
目の前で発生した犠牲者の存在を見て、僕の心が大きく掻き乱れた。
特にホドに関しては旧作「フェアリーセイバーズ」ではきっちり生き残っていた人物である為、こんなところで退場する筈が無いと高をくくっていたのかもしれない。
「フェアリーセイバーズ∞」という別の世界のアニメというフィルターを通していたことで、ある程度気楽に認識できていた頭に思いっきり冷や水をぶっかけられた気分だった。
これは……やっぱり、必要なのかもしれない。
奇跡を起こす存在──オリ主の力が。
やれやれと首を振りながら、重い腰を上げようとした僕の両肩を──ダァトが掴んだ。
「行くな、エイト」
凜とした声で、彼女が僕にそう言った。声だけでも、今の彼女が真面目な顔をしているのが伝わってくる。
そんなダァトは僕の首回りに掛けて両腕を回してくると、あすなろ抱きをするような姿勢で僕の背中にもたれ掛かり、囁くように言ってきた。
「ボクが言うのもなんだけど……キミは過保護だよ」
過保護? 何がさ。
「そんなにキミが頑張らなくても、彼らは大丈夫だよ。これ以上キミが調律を行わなくても……彼らが描く物語は既に、ハッピーエンドに向かっている」
……むぅ。
彼女の体温のおかげで少し冷静さを取り戻した僕は、アニメの続きが流れているテレビに再び視線を戻す。
そこには、異能の力を「覚醒」させた二人の救世主の姿があった。
氷の鎧を纏った力動長太と、嵐の渦を纏った風岡翼の姿である。身を挺して島を守ったホドの男気に感化された二人が、その心を突き動かす激情によって目覚めたのである。
「フェアリーバースト」を超える新たな境地へと。
えっ、何それ……怖っ。
「全て……キミが導いたおかげだ」
そんな二人の頼もしい進化を見て、ダァトが嬉しそうに……少しだけ寂しそうに言った。
「ホドも、大丈夫だよ……きっと、メアちゃんが助ける。だからいい。もういいんだ、エイト。キミとボクの役目は、もう──」
そう言いながら僕の身体を後ろから抱きしめる彼女は、まるで僕がこの場からいなくなってしまうことを悲しんでいるようにも感じた。
──彼女が言おうとしていることは、わかる。
直接聞いたわけではないが、僕もここまで極まったオリ主である以上、彼女やカロン様の魂胆も何となく見えていた。だからこそ、僕がT.P.エイト・オリーシュアとして行うべきことも自ずと見えてきたわけで……
そんな僕だからこそ、彼女に一つ訊ねてみた。
「ダァトはさ……誰かが作った物語を眺めているのと自分たちで物語を作るの──どっちが好き?」
「えっ……?」
虚を突かれたようなダァトの顔を横目に見て、僕の中でイタズラが成功した時のような感情が込み上がってくる。
別に、意味深な問い掛けではない。
それは、急にシリアスになってきたこの雰囲気をあえて壊すつもりで問い掛けた──僕にとっては今晩の夕食を訊ねるよりも平穏な、何気ない質問だった。
今年は3作品ぐらい完結させたいですね(´・ω・`)