TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
シェリダーは撃退された。
ホドの死に激昂した力動長太と風岡翼が、未だかつて誰も見せたことのない力を発動させたのだ。
その時、「氷結」と「疾風」──彼らの持つ異能の力が限界を超えて膨張し、身体から溢れ出るエネルギーの渦が一筋の弾丸となってシェリダーのバリアーを貫いたのである。
それはフェアリーバーストの力をも上回り、もはや神域と呼ぶに相応しい一撃だった。
彼らとの戦闘で初めてダメージを受け、一撃で身体の十分の一ほどを消し炭にされたシェリダーはけたたましい叫びを上げながら、もがくように巨大な翼を羽ばたかせて雲海の中へと沈んでいった。
彼にとっても不測の事態だった筈である。
そこで撤退を選んできたのは彼が見た目に反して冷静だったのか、或いはアビスらしからぬ生存本能に突き動かされたのだろうか?
いずれにせよ、ゲブラーとコクマーはこの世界を守る天使として、彼の逃走をむざむざと見過ごすことはできなかった。手負いであれば、尚のことだ。
『追うぞ、ゲブラー。奴が深淵に逃れる前にとどめを刺す』
『御意。弔い合戦じゃな……』
コクマーとゲブラー。当初はセイバーズと戦う為にこの場を訪れた二人は、人間たちには目もくれず雲海の中へと飛び込んでいった。
深淵のクリファ……それも全盛期の姿のままフルパワーで蘇ったシェリダーは危険すぎる。手負いの獣ほど危険な相手はいないと言うが、二人とも今が怪物を再び封じ込める絶好の好機だと判断していた。
個人としては人間に対して激しい嫌悪感を抱いている二人にも、優先順位はあったのだ。たった一体でもこの世界を破滅に導かねない深淵のクリファの存在は、どうあっても許容することはできなかった。
それに……去り際に、ゲブラーがチラリと後ろを振り向く。
遠くに見えるのは愛すべき民の住まう、理解の島エロヒム。誇り高き盟友ホドが、自らの命を賭して守った島だ。
そしてその前には、この戦い最大の功労者である二人と彼らを抱える天使たちの姿があった。
先ほどの一撃で力を使い果たしてしまったのだろうか、力なく落下していく二人をビナーとマルクトがそれぞれ掴んで受け止めたのである。
サフィラス十大天使の女性陣は、ここにいないティファレトも含めて皆甘すぎる。しかしそんな彼女だからこそ、自分よりも多くの民に慕われているのだともゲブラーは理解していた。
尤も、ビナーがああいう女だと知ったのはこれが初めてのことだったが。
『大丈夫かい? ツバサ』
「あ、ああ……助かったよビナー様。急に力が抜けちまって……」
「サンキュー、マルクト……まさか、お前が受け止めてくれるなんてなぁ」
『……ただの気まぐれです。それにしても人間のくせに無駄に重いですね貴方は』
「鍛えてるからな! 筋肉はオーガにも負けてねぇぜ」
『はいはい』
彼女らに対して軽口を叩いている二人の人間に対して、ゲブラーは認識を改め始めていた。
火事場の馬鹿力と言うにしても、シェリダーを撃退に追い込んだ先ほどの一撃は並大抵のものではない。
サフィラス十大天使が扱うどの聖術よりも強く、まるでこの世界を照らす太陽のように暑く、熱く──身震いのするような何かをゲブラーは感じていた。
そそくさと先にシェリダーを追い掛けていったコクマーもまた、同じ感情を抱いているに違いない。
──なるほど……これが、フェアリーバースト。
かつて聖龍アイン・ソフが、この世界を救うと告げた人間の力。
その力の一端をまさに今、彼らは垣間見ることとなった。
その神託通り、彼らの力はサフィラス大天使の攻撃さえ受け付けなかったシェリダーのバリアーを打ち破ってみせた。
……確かに、あの力を味方につけられれば願ったり叶ったりではある。アビスの脅威が活性化している今、確かに彼らとは敵対し合うべきではないのだろう。
しかしこの先、その力を間違った方向に使う人間が現れた時のことを思うと、峻厳を司る天使として毅然とした対応をしなければならないと思う自分がいた。
率直に言うと、ゲブラーは恐れているのだ。
これほどの力を持った人間たちが、やがて至ることになる未来を。
『……だが、今は礼を言おう。感謝するぞ、勇敢なる人間たちよ』
人間という存在には、色々と思うところがある。しかし、彼らのおかげでシェリダーを撃退することができたというのは紛れもない事実であり、今はその力を有効に扱ってみせた二人にゲブラーはコクマーの分も合わせて礼を言った。
力動長太はマルクトに、風岡翼はビナーにそれぞれぐったりとした姿で抱えられながら、ゲブラーの殊勝な態度に目を丸くしていた。
なんじゃ……話の通じないジジイとでも思っていたのだろうか? だとしたら峻厳の大天使も侮られたものである。
ゲブラーは立場上彼らの味方をすることはないが、一個人としては彼ら勇敢な戦士に好感を抱いていた。
言ってみれば、天使として「それはそれ、これはこれ」とドライに構えている部分が強いのかもしれない。
そんな己の在り方に苦笑を浮かべながら、ゲブラーはこの場から逃げるように雲海へ飛び込むと、シェリダーを追ってコクマーの後に続いた。
攫われたT.P.エイト・オリーシュアと深淵のクリファ「シェリダー」の復活。
二つの波乱はセイバーズに大きな打撃を与えたが、希望はまだ三つ残っていた。
一つは先ほど長太と翼が解き放った力だ。あの力こそが、フェアリーバーストに至った者の真価なのかもしれない。それを上手く使いこなすことができれば、深淵のクリファやケテルにも対抗することができるだろう。
──そして二つ目の希望は、栄光の大天使ホドとメアの契約だった。
そう、ホドの存在はその器を替えて、新たに蘇ったのである。
ケセドが慌てて回収し島に不時着した頃には、既にホドは死に体だった。
シェリダーの砲撃から身を呈して島を守った代償は重く、彼のトレードマークである甲冑は無残に砕け散り、その存在は淡い光に包まれて消滅を待つのみだった。
そんな中、彼のもとへ涙ながらに看取りに来たメアに対して、彼は最後の力で呼び掛けたのである。
『苦しいか?』
「……!」
『己が背負った宿命が、悲しいのであろう? 其方は己の在り方に、苦しんでいる……』
「……うん」
自らの命が絶えようとしている最中で、彼が案じていたのは自身のことではなくメアのことだった。
そんな彼の無骨な手を両手で握りながら、メアは小さく頷き、首を振った。
「悲しいのはそう。だけど一番苦しいのは……そうしているだけで、何もできないこと。メアは、何もできない……メアにはもう、どうすることもできないから……」
『何をしたい? 何ができるよりも、其方は何がしたいのだ?』
「……メアは、ちゃんと話したい」
『誰と?』
「もう一度、ケテルと……お父さんと」
『何を話す?』
「メアは……メアは、生きているんだって。食べられる為に生まれてきたのだとしても……メアはそんなのはイヤだって、伝えたい」
『……そうか。ようやく、一歩目を踏み出せたのだな……』
「夢幻光」として生み出され、王に力を捧げる為に作られた存在なのだとしても……今のメアには心があった。
その心が、彼女に自分自身が抱いている本当の気持ちを教えてくれた。
その気持ちを後押ししてくれた優しい者たちがいたのだ。
だから今の彼女にはもう、王の為に犠牲になる気は無かった。
そう、それが本音だったのだ。いけないことだとはわかっていても、今のメアはどうしようもないほどに生きることに執着していた。まるで、人間みたいに。
──だって、わかってしまったから……みんなといるこの世界が大好きで、自分もそこにいたいのだと。
そんな感情を浅ましいと思いながら、メアがポツポツと自身の気持ちを打ち明けると、ホドはどこか力の抜けた──安心したような息を吐いた。
仮面が砕け散ったホドの素顔は、優しい目でメアの顔を見つめていた。
その目はまるで父親のようで……諭すように、彼が言った。
『己の存在を守る為に抗うのは、浅ましいことではない。
「うん……うん……っ」
彼は、メアの生を肯定した。
人間や聖獣たちと同じように、生きたいと願うことを──彼女が運命に抗うことを許したのである。
そして、彼は決意の目を浮かべた。
『そうとも……栄光の道を歩むのは、もがき足掻く者こそが相応しい。ならばこのホドも、今一度足掻いてみせよう。其方のように』
「えっ……?」
生きることを諦めず、存在することを選んだ少女にホドは感化された。
故に彼は、死にゆく自らの命に抗うことに決めたのである。
──そうして彼は、「契約」を持ち掛けた。
メアの身体を器に、ホドは自らが持つ大天使の力の全てを託すことにしたのだ。
生きたいと願いながらも抗う為の力を持たないメアと、力を持っていながらもその生命が消えかけているホド。そんな二人の利害は今、完全に一致していた。
「……いいの?」
『生きる為に抗うことは、この世に生まれた命に与えられた権利だ。しかし、力が無ければそれを果たすことはできない。王と……父と話がしたいのであろう? ならばこのホドの力を使うが良い』
「ホド……ありがとう」
『なに、生きたいと足掻く者同士、利害が一致したまでだ』
或いはそれは、一つの可能性だったのかもしれない。
キラリと輝いた一瞬の閃光──橙色のまばゆい光に包まれると、今その時、世界に初めてフェアリー戦士が誕生した。
ケセドの力も夢幻光の力も失った虚無の少女に、再び光が宿ったのである。
それは人間でもなく、聖獣でもない。何者でもない少女メアは、それでもと抗い進むべき道を見据えていた。
それがきっと、栄光に至る道だと信じて。
「力を合わせようね、ホド」
『ああ。失いかけたこの存在……今一度この世界の為、其方の為に使うと誓おう』
そうして栄光の大天使ホドは、メアと契約を交わしたのである。
ホドの肉体は消滅し、力となってメアの身体に収まった。その影響によりメアの黒髪はホドの鎧を彷彿させる美しい橙色へと変化し、紺碧の瞳の片側も黄昏に染まり、再びオッドアイに変わっていた。
背中からはサフィラス十大天使と同じ八枚の純白の羽が広がっており、両者合意の上に力を合わせたことによって生まれた力は以前に増して高いレベルで安定していた。
「メア! ホド!」
「なんだ……どうなってんだ……?」
空から降りて合流してきたビナーたちは、そんな彼女の変貌を目に困惑や驚き、納得の顔をそれぞれの者が浮かべた。
『ホド……君は随分、メアのことを気に入っていたようだね』
『そういうことだ。このホド……死に損ないなりに、やり残したことの始末をつけさせてもらう。この子と共にな』
『まったく、貴方という者は……良かった、死ななくて……』
『ふっ……心配掛けてすまなかったな、マルクト』
『あ……うん』
二人の間で起こった状況を認識するのが最も早かったビナーは、少し寂しそうな苦笑を浮かべながら新生したメアの姿を見つめている。
そのメアは遠方に映る世界樹サフィラの方角を見据えながら、幼くも凜々しい顔立ちに決意の色を浮かべていた。
「キュー……」
『メア……』
そんな少女の心中を推し量るように、彼女の傍にカバラちゃんとケセドが寄り添う。
それに気づいたメアはオッドアイに戻った視線を彼らに移すと、それぞれの頬を撫でながら自分が為すべきこと、為したいことを宣誓した。
「メアたちはこれから、世界樹へ──アイン・ソフのところへ行く。ケテルもエイトもエンも、みんなそこにいるから」
深淵のクリファ、サフィラス十大天使、聖龍。そして、サフィラの意思カロン。
多くの者たちの思惑が交差するこのフェアリーワールドの中で、セイバーズの旅は最終局面へと向かおうとしていた。
──それと時を同じくして、三つ目にして最大の希望……暁月炎が突き進もうとする物語もまた、大きな分岐点を迎えていた。
小説でも漫画でも、物語を作る上で欠かすことができないのはお話の「起承転結」である。
「起」は話の導入部分で、状況の説明や話の前提が描かれる。「承」は「起」で描かれた前提をもとに話を進めていくことで、「転」は文字通り、お話を転がしていくことだ。お話の中では特に目立つ要素であり、特徴的であればあるほど心に残る作品が多い印象だ。
まあ、ここを捻りすぎて支離滅裂な超展開になったり、後先考えない誰得な逆張り展開を行った為に収拾がつかなくなったりするケースも多いので、物語としては一際難しい要素でもある。
物語の中で一番盛り上がるこの「転」がぐちゃぐちゃになってしまうと、次の「結」……すなわちオチが定まらなくなってしまうから難しい。特にお話の結末がバッチリ決まっていかないと、長く続いてきた作品そのものが丸々台無しになってしまうからね……
商業作品においても起承転までは面白くてもこの「結」が上手くいかなかったが為に大炎上してしまうケースは多く、アマチュアの二次創作小説であれば尚のこと、その仕組みの複雑さは語るまでもないだろう。
ま、だからこそ綺麗な結末を迎えた物語と出会えた時の満足感は、果てしないものになるわけだけどね。
そんな僕はハッピーエンドが大好きなエイトちゃんである。
そんな僕がアニメ「フェアリーセイバーズ∞」の物語が「転」、すなわち佳境に入ったところで取った行動は、速やかにリモコンを操作してテレビの電源を切ることだった。
そうとも……これ以上の
僕がボクとして在り続ける為には、この辺りで切り上げるのが最善の選択と判断したわけである。
一方でそんな僕の顔を見て何を思ったのやら……あれから僕のことを名残惜しむように抱きしめ続けていたダァトが、ようやくその腕をほどいてくれた。ダァトおばあちゃんの抱擁はなんか本当のおばあちゃんみたいで安心感があったが、それともお別れだね。
そんなこんなで彼女から解放された僕はゆっくりとこの場から立ち上がると、しわのついたマントをポンポンと払った。これから一世一代の舞台に上がろうと言うのだ。身嗜みも、しっかり整えておかなきゃね。
「やっぱりキミは、そっちの世界を選ぶんだね……」
寂しそうな目で僕を見つめながら、彼女はそう呟く。
そんな彼女の態度に内心申し訳なく思うが、それでも僕の心はこの世界──生と死の狭間にあるいわゆる「輪廻の世界」に訪れた時点から、とっくに心は決まっていた。
「ボクはT.P.エイト・オリーシュアだからね……行くべきところは、最初から決まっていたのさ」
カロン様の思惑。ダァトの思惑。
この世界で色々と察してしまった僕だけど、こればっかりはちょっと彼女らの望みには応えられないかなーっという部分があった。何のことだよって? 詳しくはそのうち話そう。僕はミステリアスなオリ主なので、前回の会話の続きも含めて意図的に内容をぼかしておくことにする。
「それに……ホドじゃないけど、ボクにもまだやり残したことがあるからね。見守ることも大事だけど、やっぱりボクは彼らと触れ合っていたいから」
まあ、ここに来たおかげで色々と新しくやりたいこともできたし、今後の展開に向けてもいい感じのオリ主ムーブも思いついた。
後はそれを、実践するだけだ。自慢のチートパワーでね。
「大丈夫さ。ボクの中にはちゃんとキミもいるから。キミが見守ってくれる時は、いつも一緒だよ」
「エイト……ありがとね。キミと話せて良かった」
「ボクもだよ、ダァト。今までありがとう。今後もよろしく」
「今後も、か……」
おうよ。だから……僕は行ってくるよ。
僕が望む完璧なチートオリ主として──今日から僕は、
だから、これでお別れではないさ。僕の物語はもう終わっているけど、僕たちの物語は起承転結で言えばまだ「起」の段階に過ぎないのだから。君と会えたことでそれを改めて確認することができたのは、僕にとってとても嬉しいことだった。
その感謝も、ちゃんとカロン様に伝えに行かなあかんしね……だからいずれにせよ僕には、いつまでもここでずっと物語の観測者を気取るつもりはなかった。
まあ何が言いたいかと言いますと……エイトちゃんはオリ主であって、この物語の作者でも読者でもないのだよ!
……と、言うわけで、僕はそういうことになった。
フェアリーセイバーズの主人公でありフェアリーセイバーズ∞の主人公でもあり、そしてこの世界の重要人物である、暁月炎のもとに。
彼のことをオリ主的に、カッコ良く手助けするべく向かったのであった──。