TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】   作:GT(EW版)

92 / 131
まさしく愛だ!

 地球は今、最大の山場を迎えていた。

 

 復活した深淵のクリファ「カイツール」の来訪は、降り立った瞬間から日本壊滅の危機を引き起こしたのだ。

 フェアリーワールドでかつて起こった古の大戦より聖龍アイン・ソフの姿を模倣したカイツールの姿は、まさしく邪龍──空を覆い尽くすほど巨大な肉体を持つ暗黒のドラゴンである。

 力も深淵のクリファの中で上位に君臨し、彼がもたらす被害はそれまで地球に現れては傍迷惑な被害を撒き散らしてきたアビスたちの比ではなく、「大怪獣出現! 東京SOS!」とかそんな感じの光景だった。

 主力を欠くセイバーズの機動部隊ではなす術もなく、町は蹂躙の限りを尽くされていただろう。しかし、今の地球には心強い味方がいた。

 

『カイツール……我々の世界に飽き足らず、これ以上人間の世界に手出しはさせないぞ!』

 

 サフィラス十大天使、9の天使。「基礎」のイェソド。

 彼はフェアリーワールドに来た僕たちと大体入れ替わるようなタイミングで、サフィラス十大天使の中でただ一人、人間世界への侵攻を始めたアビスの動きを調査する為に人間世界を訪れていたのだ。

 そんな彼は、アニメでは炎たちのいない地球サイドの主要人物として扱われていた。

 「基礎」の名に恥じず十大天使きっての安定感を誇る彼は、性格的にも最も天使らしく実直で真面目。確固たる信念を持ち、常にフェアリーワールドの正義の為に行動する男だった。

 外見は黒髪黒目の例によって見目麗しい美男子であったが、ムキムキマッチョなネツァク様やでぇベテランボイスのホド、かわいい系の中性的な容姿をしているケセド天使体と比べると、男性型の天使としてのインパクトはやや控えめな感じである。

 ラノベ的に言えば没個性的な容姿と言う感じか。もちろんイケメンではあるので、良い意味で無難に、どことなく主人公っぽいデザインをしている印象を受けた。

 アニメ「フェアリーセイバーズ」では存在こそ言及されていたものの、主人公たちとの関わりは最後まで無かった為今一つ影の薄いまま未登場に終わったキャラだった。

 そういうところは「基礎」という言葉のイメージを反映してあえて地味に描写していたのかもしれないが、ケテルやコクマーからその働きぶりを「イェソド……手堅い男だ」と話題に出す度に妙に高く評価されていた謎キャラだった。

 

 そんなイェソドであったが、「フェアリーセイバーズ∞」では炎たちのいない地球でいい感じの出番を与えられていた。

 

 ケテル直々に密命を受け、アビスの不穏な動きを調査する為に単身人間世界に乗り込んできたイェソド。

 しかしその目的以外にも、彼の心には彼自身の意思で一つ確かめたいことがあった。

 人間が本当に、粛清するべき対象なのか……全ての人間がフェアリーワールドにとって危険な存在なのかを。

 実直な彼はホドのように王の命令に従わないことはこれまでに一度も無かったが、自分の目で確かめるまではコクマーのように強硬に出る気になれなかったのだ。

 そんな彼はアビスの動きを調査しつつ、自分たち聖獣(フェアリー)とは違う人間という存在について見極めようとしていた。彼の盟友、ケセドのように。二人は同じサフィラス十大天使の中でも交流が多い方で、結構仲良しだったのだ。

 

 その結果どうなったかと言うと──見事な光墜ちである。

 

 のっけから邪悪な人間たちによって散々な目に遭わされてきたケセドと対比するかのように、彼は出会いに恵まれた。

 驚いたことに彼が最初に出会った人間は旧作も含めた「フェアリーセイバーズ」の良心として評判の、メインヒロインたる光井灯ちゃんだったのだ。

 イェソドはその目で見た。アビスに襲撃され逃げ惑う人々の中で、親元とはぐれて恐怖に震える幼子の手を引きながら、必死に励まして元気づけている彼女の姿を。

 

 異能の力を持たなくても、その心に強い輝きを持つ人間──そんな彼女の姿から、この世界の未来に希望を見たのだ。

 

 ……本人は明言していないが、ぶっちゃけ一目惚れだったんじゃないかなぁと、僕がそう考察しているのはここだけの話。いや、何でもかんでも色恋事に絡めるのはナンセンスではあるものの、登場さえ早かったら面白そうな三角関係が拝めたのではないかという可能性を、僕は彼に感じていた。

 灯ちゃんが聖獣さんたちからやたらめったにモテることは、旧作からも語り継がれている確かな実績だからね。メアちゃんのお姉ちゃんしているだけあって、やっぱあの子つええや。このまま人間見極めようとしている奴ら全員堕としていこうぜ。

 

 まあ、そんなこんなで灯ちゃんを通して人間もそう悪いものではないのではないかと考え始めたイェソド君は、人間世界に侵攻してきたアビスの討伐に力を貸してくれたわけである。本人はまだ見極めている最中だと言っているが、灯ちゃん以外にも明宏たちセイバーズ残留組との交流も経て今では人間への敵意をさっぱり無くしていた。

 もちろん、そんなことを考えている余裕が無いぐらいアビスの活性化が酷いことになっているって言うのもあるけどね。特に都会の町はエラいことになっていた。

 

 そして過酷な殲滅戦の締めのように空から降りてきたのが、深淵のクリファ「カイツール」である。

 

 サフィラス十大天使として人間とは比べ物にならない戦闘力を持っているイェソドではあるが、状況ははっきり言って詰んでいる。

 封印から解き放たれたカイツールの力はそれほどまでにインフレ極まっており、大天使一人ではもはや相手にもならなかったのだ。

 人間側からは自衛隊や明宏たちセイバーズ残留組、ちらりと映ったハーンフ・リーさんら野良の異能使いさんたちが駆けつけ、天使側でもカイツールを追ってティファレトも駆けつけてきてくれたが、焼け石に水。誰もカイツールを止めることはできなかった。

 

イまわしいダァトのマガイモノドモが……このわたしが、ショウキョしてやる

 

 天を廻りながら、邪龍カイツールはおぞましい叫びを上げる。

 その瞬間、空は瞬く間に闇に覆われ、地上から太陽の光が消え失せた。

 それはまさに、この世の終わりのような光景だった。しかも闇が及ぼしたのは、視覚的な効果だけではない。

 カイツールの全身から溢れ出した闇が空を支配した瞬間、突如としてイェソドとティファレトが力なく墜落していき、その身体が地面へと縫いつけられたのだ。

 

『ぐっ……こ、これは……っ』

『身体に、力が……?』

 

 カイツールの闇が、二人の天使の力を奪っていったのだ。

 その闇の正体とは、ダァトを除くあらゆる天使の力が無力化される「深淵の闇」だ。フェアリーワールドの雲海の下、アビスの領域と化した深淵の世界に聖獣たちが踏み入ることができない理由がそれである。

 深淵の世界に広がっている闇の中では、大天使たちが持つ聖なる力が無力化されてしまうからだ。そしてカイツールには、その「深淵の闇」を自ら生成する力があった。

 つまりそれは、ただでさえ絶望的な力の差がより絶望的になったと言うことだ。

 

ようやくだ……ようやくこのトキがキた……ワレらがヤミのソコからトきハナたれ、スベてをケしサるトキが……!

 

 頼みの綱の大天使たちは無力化され、人間の力では勝負の土俵に立つことすらできない。

 地上の誰もが万策尽き、絶望の底に沈みそうになったその時──「彼」は来た。

 

 

「おかえり」

 

 

 閃いた蒼炎の一閃が、闇の龍に一撃を与える。

 その光景を僕は、この世界に浮かぶ幻想的なビジョンを見つめて呟いた。

 狙ったわけではないのだが、寄りにも寄って絶妙なシチュエーションで合流してくれたものである。本音を言えばオリ主的にそこは代わってもらいたいポジションであったが、今回は彼に花を持たせてあげよう。

 

 絶体絶命のピンチに駆けつけてきた主人公(ヒーロー)、暁月炎の姿を見て僕は安堵の息を漏らした。

 

「もう大丈夫だよ、みんな」

 

 そう、今僕は「アニメ」という形では無く、このサフィラの領域からリアルタイムで現地の様子を監視していた。

 千里眼の能力をちょっとこう、色々と応用してね。バージョンアップした今の僕は、人間の世界の様子をこのように、虚空のビジョンに映して中継することができるようになったのである。

 これでこの場の神秘性を保ちつつ外の世界の状況を監視できるようになったのは、我ながらナイスな発想である。十二枚の羽を持ち、さらにビューティフルかつクールな姿になった今の大天使エイトちゃんがだらだらとテレビアニメ視聴に浸るのは、絵面的にちょっと台無しになってしまうからね。

 今この場にいるのはカロン様だけだけど、そのぐらいの風情は大切にしたい気分だった。

 

 だって今は、みんな必死で戦っているわけだからね。

 僕も気を引き締めなきゃ。

 

 ……とは言うものの、これは思わず口元が綻んでしまう。

 

『カイツールにダメージを与えた……?』

『アカツキ・エン……? 何故、貴方がここに……』

 

 天使たちも驚きに目を見開いている。

 うんうん、このシチュエーションは盛り上がるに決まっているよね。

 信じて送り出した主人公が……送り出したのはカロン様だけど、真のヒロインである灯ちゃんと再会し、つい先ほど思いの丈を告白したその身で仲間たちのピンチに駆けつけたのだから。

 

 まさに漢である。彼は。

 

 灯ちゃんから状況を訊き出すなり、彼が迷わず起こした行動に僕は思わず顔を赤くしたものだ。

 僕は今もちょっとドキドキしながら、彼の身にあった数分前の出来事を思い出す。

 

 

『俺は……お前と一緒じゃないと駄目だということがわかった。帰ってきたら、伝えたい言葉があると言ったな。

 愛している、灯。俺からお前を奪おうとする奴は、全員燃やしてやると……そう思うほどに』

『炎……っ』

 

 

 ……はい。

 

 そんなやりとりをした直後で、今の彼は過去最高と言っていいほどに絶好調だった。何ならコクマーとも一対一でやり合えそうである。

 口説き文句がちょっと物騒すぎるのはエイトちゃん的に減点ポイントだったが、最後の一歩を踏み出して自分のエゴを押し通した姿勢にはあえて満点をあげたい。

 漢を見せたね炎、僕は嬉しいよ。姉さんにアタックしたマイフレンドのことを思い出す。

 式には呼んでくれなくてもいい。勝手に侵入するから。その時が来るのが、今から楽しみだ。

 

 

『そういう物騒な言い方、やめなさいって言ってるでしょ』

『……俺には、こんな言い方しかできなかった……だけど……』

『いいよ、わかってる……何年一緒にいたと思ってるのよ、バカ』

『俺は……お前を守る。だからお前も、俺の心をずっと守ってくれ。これからも、ずっと……』

『とっくに、そうしているわよ。こんな私を……ありがと、炎。私も、愛してるわ』

 

 

 やったぜ。ミッションコンプリート。

 

 そんなこんなで「抱けー! 抱いたー!? やったー!」と彼らの恋が成就したのをこの世界から盗み見させてもらった僕であるが、彼はここまで僕が望んだ通りに動いてくれた。

 正直、あそこまでやってこちらの意図が伝わっていなかったらどうなるかと思っていたが……僕が決闘で伝えたかった意図を彼はきちんと理解してくれたようだ。

 同じ場にいたカロン様には「???」という反応でまるで伝わっていなかったので心配していたが、流石は炎だと褒めてやりたい。肝心な場面での察しの良さはまさに主人公である。

 

 ふふん、僕は最初からこうなると思っていたよ……なんたって「フェアリーセイバーズ」は、愛の物語だからね!

 

 主人公覚醒のトリガーになるのは、結局のところ最後は「愛」になるものだと考えていたのだ。実際に戦ってみたことで、僕はそれを確信した。「あっ、これ灯ちゃんに告れば目覚める奴だ」ってね。

 だからこそ、僕は戦いを途中で打ち切ったのである。僕が直接気づかせてあげるのもなんか違うしね。

 

 なので、決して自分が最強キャラで在り続ける為に勝ち逃げしたのではない。いいね?

 

 その為に、僕も気合いを入れて答え合わせを自分の身体でやってみたのだ。

 それが今の僕の姿、フェアリーバーストを発動したT.P.エイト・オリーシュアである。

 力を制御して引き出すのではなく、心のまま自由に解放する。その上で、「幸せな心に満たされる」。それが真のフェアリーバーストの発動条件になるのだと、僕はダァト知識と先ほどの実体験で理解したわけだ。

 こればかりは感覚的な面が大きいので説明してもわかりにくいかもしれないが、通常のフェアリーバーストよりもさらに感情を発露させることが大事だということがわかってくれればいい。

 ただし、こちらは怒りや憎しみのような負の感情ではなく、正の感情が特に必要な感じかな。

 思えば旧作の最終回で彼が真のフェアリーバーストを発動することができたのも、彼の心にたくさんの愛が集まってきたからだからね。

 あの頃から僕はそういう解釈でアニメを視ていたものだが、その解釈が現実と一致していたのはとても嬉しい。

 

 

「そう……キミはもう一人じゃない。自分だけで孤独に戦うのではなく、いつもその心に誰かがいることを忘れるな。キミを愛する人たちがいることを、幸せに感じること。それがキミの、最後の一歩だったんだ」

 

 

 そういうことになった。

 

 ……いや、これで外していたらくっそカッコ悪いけど、当たっている筈だ。

 僕もフェアリーバーストを発動する時は、この胸に前世の思い出とか色々と思い出しながら爆発させてみたし。そのせいでちょっとオリ主ムーブが抜けてしまう失態をやらかしてしまったけど、この説は間違っていない筈だ。ダァトもそうだそうだと言っているし。

 

 

「だから、恐れてもいいんだよ、エン……キミはもっとたくさん、たくさん甘やかしてもらえ。ボクではなく、彼女にね」

 

 

 覚醒のことは抜きにしても、僕が言ってやりたかったのはそういうことだ。

 彼に足りないのは自己肯定の気持ちだからね。

 俺がみんなを守らなきゃと思うあまり、自分が誰かに守られることを深いところで拒絶しているところがある。

 思い返せばその点、旧作では灯ちゃんがフェアリー戦士になったことで、彼女が自分に一方的に守られるだけの女の子ではないことを理解したことを成長に繋げていたのかもしれない。

 

 

『……やっとわかった。俺の焔は、俺一人の力で燃えているんじゃない』

 

 

 この世界だと彼女がフェアリーワールドに同行していない上に、メアちゃんという守るべき存在が増えていたからね……仕方が無いことではあるし立派なことではあるんだけど、それが余計に彼の心を窮屈にさせていたのかもしれない。

 

 でも、もう大丈夫だ。

 大好きなヒロインに甘えさせてもらった今の彼なら、必ず──

 

 

『俺の焔は……みんなと共に!』

 

 

 本当の力を目覚めさせた虹の光が、∞の字を描いて空に広がっていき、頭上を覆い尽くしていた「深淵の闇」を吹き飛ばしていく。

 それは待ちに待ったヒーロー、暁月炎の覚醒だった。

 

 

『これが俺のフェアリーバースト……インフィニティーバーストだ!』

 

 

 …………

 

 

 ……えっ、君なんか僕のと違わない?

 

 彼が披露した知らない最終形態に、僕は微笑みの裏で困惑した。

 いやもう、人間って凄いねダァト。これはカロン様も試してみたくなるわけだわ。

 




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。