TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
死後の世界があることは、昔から割と信じていた。
流石に自分がここまでコテコテのライトノベルみたいな神様転生をすることになるとは思っていなかったが、僕は今、オリ主としてここにいる。二度目の人生──ダァトにとっては三度目か。こうして再び生まれることができたのは、最高に幸運なことなのだろうと僕たちは感じていた。
前世の僕が一生を終えてから転生するまでの間、実はしばらくの空白期間がある。
今にして思うと僕の魂が特殊なせいで、天国にも地獄にも行けなかったからだろうか? 死んでからしばらくの間、僕の魂はふわふわとどこでもない世界に漂っていた……ような気がする。
そして、そんな僕を見つけてくれて、異世界から遥々と回収しに来てくれたのが女神様っぽい人ことカロン様だった。
ダァトと同じ魂である僕のことを、彼女は慈しむように抱きしめてくれた。
『────……それが、汝の名か』
ダァトとは違う僕の名前を、心の中で反芻するように呼んだ後、カロン様は僕の魂と向き合う。
彼女との面談が始まったのが、それからのことである。
──貴方は神様ですか? 声は女の人だから、女神様?
姿が見えない神秘的な存在に対して、そう問い掛けた僕にカロン様が答えた。
『そう在りたいと願ってはいた……私は世界の安定を望む者。見つけ出すまで遅れてしまったが……汝に頼みがあって、迎えに来た』
僕の問い掛けに対して歯切れの悪い微妙な否定を返したので、僕は彼女のことを女神様ではなく「女神様っぽい人」と認識したのが始まりである。
……いや、どうにもあそこでの記憶は転生した際に微妙に欠損してしまっているようなので、もしかしたら本当はあの時、カロン様はちゃんと名乗っていたのかもしれない。
何せあの時は、記憶する脳みそどころか肉体すら無かったからねー。彼女と語り合った会話の内容の一部を忘れてしまったのは申し訳ないが、仕方なかったとも思う。そんな自己弁護である。
なので、今の僕が覚えている彼女とのファーストコンタクトは、実のところ完璧な記憶ではなかったりする。
しかし、それでも彼女が言っていることはなんとなく理解することができた。僕なりに、噛み砕いて。
いわく、次元の海には書の物語のように、あらゆる可能性から分岐した無数の世界が存在している。
彼女はそのうちの一つを観測し、時に管理を行っている存在である。
しかし、その世界は今大きな分岐点に立たされており、いずれも破滅の未来につながっている不安定な状態だと。
彼女は実際に幾つも見たのだと言う。自分たちの世界が深淵の闇に覆われる未来を。
『────、汝は私の世界に生まれ直し、新たな未来を導いてほしい』
このような言い方だとまるで最初から僕が重大な使命を背負っていたようにも聞こえるが、彼女は僕に特別なことを要求しなかった。
別段何もせず、ここで聞いたことも気にせず、気楽に生きても構わないと。
存在そのものが未来の分岐点、調律者である僕はただその世界で暮らしているだけでも何らかの可能性を示してくれるからだと。
言っていることはぶっちゃけよくわからなかったが、あの時の僕は彼女が僕に、僕にしかできない何かをさせたがっていることは伝わっていた。
それこそまさに、本当に神様転生物SSみたいなテンプレめいたお話である。
そう思って笑った僕に対して、カロン様が語ったのが何より衝撃的な事実だった。
『私が観測している世界は、汝のいた世界でも馴染みがある筈だ。「フェアリーセイバーズ」という創作物として……そちらでは観測されていた』
……はい。
それを聞いた瞬間、僕の理性は弾けましたよ。
だってよ……フェアリーセイバーズだぜ? 僕の青春だよ。あの世界に女神様っぽい人の使者として生まれ変われるなんて、それはもうどう考えてもオリ主神様転生物二次創作SSである。
その当事者に、憧れの転生オリ主に自分がなれるなんて聞いたらもう……その興奮と来たら転生の際に薄れてしまった記憶の中で今でも一際強く刻みついてしまったものだ。
カロン様もカロン様で『それなら私は作者のようなものか……』と天然ぶりを発揮するものだから、僕は転生の儀を始める頃にはすっかりテンプレチートオリ主としてのテンションが出来上がっていた。僕が天職として目指したオリ主の品格、名誉、プライドを彼女は淀みない心で全肯定してくれたのである。
それがきっと、今の僕ことT.P.エイト・オリーシュアを構成するモチベーションの一つだったのかもしれない。
僕が最初に行ったオリ主ムーブはざっと、そんな感じだ。
転生神様とありきたりで小粋な漫才を披露したり、二次創作談義で盛り上がったりして……そうすることで僕は、「新しく始める僕の物語なんて、何も固っ苦しいものではなくこのぐらいのIQでいいんだよ」って、他ならぬ自分自身にも言い聞かせていた。シリアス展開は面白いけど疲れるのだ。
とは言っても、前世でもそこまでIQの高い人生ではなかったけどね。……もちろん、バカだったわけじゃないよ? 要領の良い僕は、出席日数の割には結構成績は良かったのである。特に家庭科とか音楽とか。えへん。
……と、そんな意識で彼女の観測するこの世界に生まれた僕は、客観的には不誠実な人間に見えるかもしれない。
遊びでやってんじゃないんだよーって、本当に意識の高い人たちがこの事実を知ったらとても怒りそうだ。
カロン様は本気で世界の安定を願っており、その為にダァトと繋がりの深い僕を生まれ変わらせた。炎たちも守りたいものを守る為に本気で生きており、いつだって全力だ。
そんな彼らが僕の本質を知ったら、流石に呆れるかもしれない。
だけど、僕の方はみんなと変わらず本気で、真剣に生きているつもりだ。ただその方向性がオリ主なだけで、少なくとも前世と同じぐらいには真面目に生きている。ふふん、エイトちゃんは原作の雰囲気を壊すギャグキャラではないのだよ。
……シリアスな作品のギャグキャラって、上手く扱えば心地良い清涼剤になるけど迂闊に扱うとちょっと不快に感じたりするから難しいよね。
──さて、回想はこのぐらいにしてそろそろ今を見つめようか。
あっ、この言い回しちょっとカッコいい。心のメモ帳に残しておこう。
あの時受け取ったカロン様の言葉だが、これに補足資料としてダァトから受け継いだ知識と照らし合わせてみるとなるほど読み解くことができる。
彼女はずっと探していたのだ。
僕が交わることで新たに拓かれる新しい物語の可能性を。神の視点から、最高で最善のトゥルーエンドを模索していたのである。
要は、僕がこの物語を始めた最初の頃の認識と変わらない。
彼女は……
「ボクの描いた物語から得た着想は、貴方にとって魅力的だった?」
皮肉的な意味ではなく、そのままの意味で問い掛ける。素直に興味があったのだ。
彼女以上に僕の物語を読み込んでいる相手はいないからね。読者と作者のコミュニケーションという奴である。
僕の問いに、カロン様は小さく頷いた。
『汝は新たな可能性をもたらした。夢幻ではなく、無限に至る最善の未来を……』
ただ……そう続けて、引っ掛かるような物言いで語った。
『心残りは一つ……未来を受け入れたが故に今も苦しみ続けている、王の魂だ……』
じっと見つめているカロン様の視線の先では、僕が映し出したビジョンの中のケテルが翼、メアちゃん、ビナー様の三人を次々と痛めつけている。
戦う術を持たない慈悲の不死鳥のケセドは、吹っ飛ばされていくみんなを受け止めるクッションとして立ち回り、その度に彼は悲痛な眼差しを送っていた。
カバラちゃんは何かを捜して下のとこで走り回っている。あっ、もしかして僕のことを捜し回っているのかな? ……ありがとう。僕も随分と懐かれたものである。まあカバラちゃん自体、カーバンクル種にしては珍しいぐらい人懐っこい性格なのもあるけど。
『ビナー、ホド、ケセド……余はお前たちの教育を間違えた』
同じ大天使でありながら、人間の味方をしている弟たちを見下ろしながらケテルが吐き捨てるように言う。
そんな彼の言葉に、三人は名前を言われた順に言い返す。
『いや、貴方の教育は完璧だったよ、ケテル』
『……そうだな。我々は常に王の背に導かれて学んできた。この世界の為に誰よりも強く、正しく在ろうとする天使の姿をな』
『だからわかる! 僕たちには、貴方の真意が』
『……何?』
長兄に天使たちが返したのは、意外にも彼に対して肯定的な言葉だった。ケテルにはその意図が理解しかねたのか、眉を顰めながら怪訝な眼差しを彼らに送る。
そしてその天使の一人であるホドと同化していることで意識を共有したメアちゃんがハッと目を見開き、全てを理解したような目でケテルを見つめた。
「ホド……そうだったんだ。だから、ケテルは……」
追い詰められているのは彼女たちの方なのに、メアちゃんが彼に向ける目は同情的だった。
僕としては彼女には彼の事情を理解した上でなお彼のことを引っ叩く権利が大いにあると思うのだが……ホドと意識を共有した彼女が抱いたのは怒りではなく、悲しみと憐れみの気持ちのようだ。
ホント、いい子だよメアちゃんは。将来が不安になるほどに。
……ヒモを飼っちゃうダメンズ好きとかにはならないよね……? 灯ちゃんに会うことがあったら、僕も彼女の教育方針に口を出そう。そう思った。
だがそれは、この件が終わってからの話だ。
僕も全てを知った顔でニヒルな笑みを浮かべて、隣のカロン様に向き直った。
「聖龍アイン・ソフが死ねば、深淵のクリファたちと同じように「彼」も目覚める。貴方たちはそれに対して、それぞれの思惑を抱えて暗躍していた。世界を守る為にね」
『…………』
幼女を一方的に痛めつけている絵面はすこぶる悪いし実際僕も許せないとは思っているが、本当の意味での悪人はあの場にはいない。
ケテルは……もちろんカロン様も。二人はどちらとも、それぞれ手段が違っていても、いつだって正義の為に戦っている。
僕はダァトを通してそれを知ることができたが、サフィラス十大天使である彼らは長い付き合いから大凡察することができたのだろう。
それが具体的に何であるか、までは多分知らないだろうけど……
しかし、僕は知っているのでここぞとばかりに呼んでやろう。
この世界における本当の悪──アビスよりも深く、PSYエンスよりも邪悪な存在の名を。
ケテルとカロン様が恐れている最強の敵──おそらく「フェアリーセイバーズ∞」の裏ボスと呼ぶべき者。その名は……
「【アビス・ゼロ】──貴方たちはずっと探していた。聖龍の死を引き金に訪れる、原初の闇を乗り越える方法を」
だから、カロン様はダァトの魂を持つ僕を転生させ、それによって発生した新しい未来から希望を探した。
そうしなければ多分、今よりもっと大変なことになると思ったから。
そんな僕の考察を肯定するように、彼女は小さく頷いて言った。
『アビス・ゼロは聖龍さえ打ち破ることができなかった強大な存在だ……私は見た。かの存在によって、人間と聖獣、両方の世界が破滅してゆく未来を』
「それが、エンに体験させた闇の世界?」
『そうだ』
世界中が闇に覆われ、どう足掻いても絶望的な感じの光景は、僕が転生しなかった場合の並行世界だったというわけだ。
カロン様がその世界に一時的に炎を案内したのは「汝がしっかりしないと世界がこうなっちゃうぞ☆」と発破を掛ける意味もあったのだろう。唐突すぎて全く伝わっていなかったが。
『……伝わらなかったのか……』
「うん。それはそうだよ」
あれで伝わっていたら炎君はもはやエスパーか何かである。あの子もあれで結構察しの良いところはあるが、それにしたってカロン様の説明下手はちょっと擁護できなかった。
『そうか……』
反省しましょうね。
まあ長い間ずっと世界樹の意思として孤独だったのだから、コミュ力がえげつなく低下してしまったのも仕方ない話ではある。
だから、これからだよ。これから改善していけばいい。
『頑張る』
表情の変化は乏しいが、彼女なりに暁月炎との微妙なコミュニケーションには色々と思うところがあったようである。カロン様の意味深ムーブは僕と違って天然的に発生しているものの為、本人からしてみれば好きで意味深ムーブをしているわけではないのだ。
「ふふっ……」
そこがちょっと、不覚にも可愛らしいと思ってしまい不敬な笑みがうっかり溢れてしまう。この女神様っぽい人、ダァトのお姉さんだけあってあざといぜ。
誠に申し訳ない。そう思い心の中で謝罪すると、そんな僕の思考を読み取ったのかカロン様は少しだけしょんぼりした目で視線を彷徨わせた。
えっ、どうしたん?
『……もう私のことを、姉と呼んでくれないのか』
…………
あ、ああ、そのことか。
確かに僕はダァトの言葉で話す時や、炎の前ではカロン様のことを姉さんと呼んでいたね。しかしあれは僕と言うか、ダァトとカロン様の関係を簡潔にわかりやすく教える為に呼んでいたものなので、エイトちゃん的には今も彼女のことは大恩人で女神様っぽい人の大天使カロン様という認識である。
カロン様の妹はダァト一人だからね。だから僕が彼女のことを姉と呼ぶのは、二人きりの間では少し躊躇われた。
『……そうか……』
…………
……呼んでいいの?
『構わない。ダァトと同じ魂を持つ汝が、何者に生まれようと私との繋がりに変わりはない』
なーんだ、呼んで良かったのか。僕がそう呼ぶのも失礼かなぁと思っていたから気を遣っていたが、余計なお節介だったようだ。
貴方がそう言うなら、貴方のことはこれからカロン姉さんと呼ぶことにするよ。
前世の僕の姉はもちろん姉さん一人だけど、魂の姉者は二人いるということでヨシとする。
やったね、美人な姉さんが増えたぜ。しかし魂のお姉ちゃんって呼び方をするとなんかちょっと背徳感あるよね。推しキャラの姉化……あると思います。原作キャラの弟とか妹になるオリ主って多いし。
今の僕が貴方の妹として認められるのは、少し気恥ずかしくもあるがとても嬉しい気持ちである。
『……私のことは「キミ」と呼んでくれないのか……』
この姉めんどくさいな。
い、いや、そこがいいんだけどね!
どうやらこの博愛主義のいじらしき姉上は、僕から他人行儀な呼び方をされるのが寂しいようだ。どうしよう……この姉、距離の詰め方凄い。嬉しいんだけど僕の中で急にヒロインポイントを稼いでくるのは少し心臓に悪かった。
『汝の心臓は、その器に戻したことで問題無い筈だが……』
……しかも、この天然ぶりである。うん、おかげさまでこの身体の心臓は気持ちいいぐらい元気だけども。
ぽんこつキャラに見えるだろ? この姉、これでケテルより上の格を持っているハイパー大天使なんだぜ。
ナチュラルに未来視能力を携えており、彼女はその能力で常に最善の未来を模索しつつ、世界樹と一体化しているが故に大幅な活動制限が掛かっていながらも、ずっと二つの世界の為に精一杯の干渉を行ってきた。
──そして今、この世界は最大の山場を迎えようとしているというわけだ。
「言い忘れていた」
『?』
だがこの世界の為に何かをするよりも先に、自分自身のルーツを知った今の僕には彼女に言っておかなければならない。
本当なら、カバラの叡智に触れた時に言うべき言葉だ。それを改めて、こうして彼女の妹ポジに舞い戻った僕は彼女に伝えることにした。
ダァトの気持ちも、一緒に合わせてね。
「ただいま、姉さん」
『……! ……おかえりなさい、ダァト」
実家に帰ったらまずはこれだよね。
実家は実家でも、魂の実家だけど。ああ、だから居心地がいいんだ。彼女のいる、この世界樹の領域は。
未来視能力者全員コミュ力低い説あると思います(´・ω・`)
コミュ力高かったらRTA化するから仕方ない