ガールズ&パンツァーウォーズ   作:平四郎

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第6話です


第六話 聖グロリアーナ戦です!②

一瞬の気の緩みが思わぬ事態を招く

 

大洗女子学園の待ち伏せを難なく打ち破った聖グロリアーナ女学院のダージリンは市街地へと逃げ込こもうとする大洗の戦車隊を追撃していた

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〜チャーチル車内〜

 

ダージリンはいささか拍子抜けしていた。挨拶の時に顔を見なかった為よもやとは思ったが、本当に友人のアソーカ(ジェダイ)が参加していないのは間違いないらしい。()()()()が担任と副担なのだから必ず居ると思っていたのだが・・・。そして大洗はやはり素人の集まりだ。囮となっていたⅣ号の動きは大したものだったが待ち伏せ組の砲撃はお粗末の一言に尽きる。味方であるⅣ号を撃って自らの位置を曝け出してしまったのでは台無しであろう。

 

「ダージリン、大洗の戦車が見当たらなくなりました。どうします?」」

 

砲手のアッサムからの注進に我に帰ったダージリンは紅茶を一口含んで集中を取り戻す。あちらに地の利があるとはいえ振り切られたのは少々意外だった。大洗の戦車は現状3台。囮役だったⅣ号、そして三号突撃砲に八九式。単純に考えれば一番の脅威は砲撃の威力に優れた三号であるが・・・。

 

「仕方ありません。散開して偵察をしましょう。出来ればあのⅣ号を優先して見つけたいわね。」

 

「はい。」

 

そう、動きからしてあのⅣ号が指揮車で間違いないだろう。そしてⅣ号からは得体の知れない脅威が感じられた。アソーカ(ジェダイ)とも違う、何を仕掛けてくるかわからない感覚というべきか・・・。無線機のスイッチを入れる。

 

「各車へ、散開して偵察を。待ち伏せに警戒して進むのよ。」

 

「「「「了解しました」」」」

 

とはいえ、あちらは残り3台なのに対してこちらは5台全車が健在。勝利は疑いようが無かった。

 

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〜Ⅳ号戦車〜

 

「なんとか振り切った様だ。これからどうする?」

 

冷泉麻子が操縦しながら視線だけを西住みほに向け問いかける。

 

「はい。もっとコソコソ作戦を継続します。コソコソ動いて相手の側面や背後から攻撃します。」

 

「了解。」

 

Ⅳ号を路地に入れる麻子。

 

「それにしてもⅣ号の動きがだいぶ滑らかになった。自動車部は良い仕事をしてくれた。」

 

「そうなの?」

 

「ああ、随分と馴染むと言うか、動かす際にストレスがないという感覚だ」

 

武部沙織が親友の麻子の呟きに問いかけて、その問いに嬉しそうに返事をする麻子。秋山優花里が首を傾げる

 

「でも自動車部の皆さんは昨日は今日のレースの為に自分達の車につきっきりだったはずです。とても私達の戦車までは手が回らなかったと思うのですが・・・・?」

 

「だったらスカイウォーカー先生じゃないかな?先生、整備の方も凄腕だって自動車部の人たち言ってたし。」

 

優花里の疑問に、だったらスカイウオーカー先生がやったのでは?と、沙織が推測する。何にしても戦車の反応(レスポンス)が向上した事は事実らしい。

 

「他の皆さんは大丈夫でしょうか?」

 

五十鈴華が心配そうにつぶやく。現在、大洗女子学園の戦車は4台が残っているが、Eチーム(生徒会)の38(t)戦車は履帯が外れて動きが取れない為消息不明、Bチーム(バレー部)の八九式戦車及び、Cチーム(歴女)の三号突撃砲はそれぞれ大洗の町に入り込み、目下待ち伏せ作戦(もっとコソコソ作戦)を実施中のはずであった・・・。

 

 

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〜三号突撃砲〜

 

幟旗を出している商店と民家の狭い通り道に三号突撃砲は陣取っていた。車長の松本里子ことソウルネーム“エルヴィン”は第二次世界大戦のドイツの名将『エルヴィン・ロンメル』からその名を戴いている、大洗女子学園の中でも数少ない戦車の知識を持っている者である。戦史にも通じている彼女は三号突撃砲の利点も理解しており、みほの待ち伏せ作戦を聞いた際にも正にこの三号に打って付けの作戦であると真っ先に行動を開始していた。

 

「・・・・来た。十時の方向・・・感2・・・感3。近づく・・・カエサル、装填を。」

 

「了解」

 

“カエサル”こと鈴木貴子、本来は彼女がリーダーなのだが戦車に長ずるエルヴィンに車長を譲り装填手として乗り込んでいる。彼女にも徐々に大きくなってくる聖グロリアーナの戦車の振動が感じられた。装填を完了し、砲手である“左衛門佐”こと杉山清美に頷く。

 

「十一時・・・感4・・・砲撃用意。」

 

「砲撃準備良し!」

 

ガタガタガタとマチルダ戦車の駆動音が間近に迫る。

 

「感5。正面、今!」

 

「いけー!」

 

ズドン!と主砲が火を吹き、マチルダの側面に直撃する。元々砲撃力の高い突撃砲の一撃は見事にマチルダの装甲を撃ち抜き、撃破判定の白旗を上げさせていた。

 

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〜八九式戦車〜

 

駐車場に身を潜めている八九式の正面にマチルダ戦車が現れた。マチルダは正面のエレベーターに気を取られ、背後の自分達に気づいた様子はない。

 

「皆、行くよ!アタック開始!」

 

キャプテン磯辺典子の号令の元、駐車機を上昇させマチルダの背後を狙う。丁度、エレベーターも扉を開け始める。エレベーターの中がもぬけの殻だと気づいたマチルダが鏡に映った自分達に気づいてしまった様で砲塔を旋回させ始める。

 

「「「「そーれぇー!」」」」

 

放たれた砲弾は予備の燃料タンクに直撃し火災を発生させ、それを見たバレー部は歓喜の声を上げた・・・

 

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〜チャーチル戦車〜

 

オレンジペコは『如何なる時にも紅茶をこぼさないダージリン』が、あろうことかティーカップそのものを落とし割ってしまったという事実に驚愕していた。

 

「おやりになるわね・・・・」

 

引きつった笑顔でつぶやいたダージリンだったがすぐに冷静さを取り戻し味方に指示を出す。八九式に撃たれたルクリリのマチルダもどうやら相手の火力不足に助けられ予備タンクを吹き飛ばされただけで健在。逆に八九式を撃破したという事だった。

 

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〜三号突撃砲〜

 

勝ち誇る彼女達の前方の通りにマチルダが見えた。どうやらこちらに気づかなかったらしくそのまま通り過ぎてしまった。追撃し撃破しようというエルヴィンの言に従い、三号を前進させる操縦士の“おりょう”こと野上武子だったが、何かが引っかかっていた。『どこかでこれと同じ様な事を見た気がする』それが何なのか思い出せないままマチルダを追っていたのだがいつのまにか見失ってしまった。その瞬間におりょうはデジャヴの正体を思い出し叫ぶ

 

「いかんぜよ!これは第二次長州征伐で長州の大村益次郎が使った・(ドカンッ!!)」

 

塀越しに飛んできた砲弾が側面に突き刺さり、三号突撃砲は撃破されてしまった・・・・

 

「なんでこちらの位置がわかったんだ?」

 

衝撃から立ち直りエルヴィンが疑問を呈する。車高が低く壁沿いに走っている分にはまず見つからないであろう三号突撃砲がいかにして居所を掴まれたのかエルヴィンには分からなかった。

 

「やられたぜよ。これは第二次長州征伐で長州の大村益次郎が旧態依然の軍制の幕府軍を挑発して誘い込み、銃隊で討ち取る戦法ぜよ。」

 

「つまり相手に逆に待ち伏せ作戦をやられた、と?」

 

カエサルの言葉に頷くおりょう。にしても何故こちらの動きが筒抜けだったのか?左衛門佐がハッチを開けふと外を見、その原因に思い当たり、皆に語りかける。

 

「第四回川中島合戦の際、武田軍の飯炊きの煙がいつもより多い事に気がついた上杉軍は、武田が二手に分かれて奇襲をかけ挟み撃ちにする策を看破して()()()()()()()()()()()()()妻女山を降りて逆に八幡原に布陣していた武田の本隊に奇襲をかけた。()()()()()()でそれに気づかなかった武田の奇襲部隊は慌てて山を降り上杉軍に襲いかかり損害を与えたものの武田本隊は信玄公の弟、典厩信繁様を失うなど甚大な損害を受けた後だったでござる。」

 

「えっとつまり?」

 

「上杉軍が置いていったモノ、我が戦車に()()()()()()()()()()・・・・」

 

「「「「幟旗!?それだぁーーー!!!!」」」」

 

四人の叫びが虚しくこだました・・・・・。

 

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〜Ⅳ号戦車〜

 

Cチームからの敵戦車撃破の報に喜んだのも束の間、Bチームはマチルダを損傷させたものの返り討ちに遭い、Cチームも撃破されてしまった。更にⅣ号も発見され次々と聖グロの戦車が群がって来た。

 

「囲まれたらまずい・・・・全速で振り切って!」

 

「ほい」

 

みほの言葉に麻子が応じⅣ号は一気にトップスピードで走り出した。後方からマチルダの砲撃が飛んでくるが、路地を巧みに走っている為、全く当たらずに弾は家屋や壁に命中しそれらを吹き飛ばす。

 

「五十鈴さん、砲撃用意。合図とともに撃って」

 

「はい!」

 

「装填完了!」

 

優花里が装填すると華は砲塔を後方に向けて旋回しみほの合図を待つ

 

キューポラから身を乗り出して後ろの戦車の動きを見ていたが号令する

 

「撃て!」

 

そこは丁度カーブになっており砲弾を避けようとしたマチルダがカーブを曲がりきれずにそのまま正面の割烹旅館の入り口に突入してしまった。

 

「ウチの店が〜!!!」

 

という叫びが観客席から上がるが、その声は歓喜の声にも聞こえた。というのも『戦車道で破損した街の修繕費は戦車道連盟が補償する』事になっており、しかも新築対象となるからである。

 

ふいにⅣ号の動きが止まる。目の前には工事中の看板、行き止まりになってしまっていた。みほが後ろを振り返ると聖グロの戦車に半包囲されてしまっていた。チャーチルのキューポラからダージリンが出て勝ち誇る様にみほに話しかけようとした瞬間、路地から一両の戦車が突入してきた。それは金色に染められた生徒会チームの38(t)だった!

 

「参上〜!」

 

角谷会長の声が外部スピーカーから轟き、38(t)はⅣ号とチャーチルの間で止まる!

 

「往生せいやーーーー!!!!!」

 

河嶋桃の裂帛の気合と共に撃ち出された砲弾はチャーチルとマチルダの間をすり抜けていき・・・聖グロは問答無用の一斉射で38(t)を処理した・・・。

 

「や〜ら〜れ〜た〜!」

 

「桃ちゃん、ここで外す〜?」

 

生徒会会長と副会長の悲鳴が聞こえる中、Ⅳ号は冷静に行動を開始し、先ずは至近距離からの一撃でルクリリのマチルダを撃破。そのまま生徒会チームが通ってきた路地へと進み、聖グロの包囲を抜ける。

 

「逃がすものですか!各車、追撃!」

 

ダージリンの命令で聖グロの追撃が始まる。しかしそのまま逃走を図るものと思われたⅣ号は大洗の街を巧みに利用してマチルダを次々と撃破してしまった。これで大洗、聖グロ共に残りは1両。

 

「冷泉さん、このまま逃げると見せかけて反転、チャーチルに仕掛けます!」

 

「了解」

 

Uターンしてチャーチルに突撃を敢行するⅣ号。ダージリンは冷静にⅣ号に砲を向けさせる。

 

「・・・と、見せかけてチャーチルの側面に回り込んで撃ちます!」

 

「はい!」

 

みほの命令を着実にこなす麻子。華は決意を込めて返事をし、その時を待つ!チャーチルの主砲がこちらを捉える!

 

「冷泉さん!今!」

 

「ほい!」

 

その瞬間チャーチルの主砲が火を吹き砲弾が飛んでくる!がそれを躱したⅣ号はそのままドリフトのような動きをしてチャーチルの側面に回り込む!

 

「やられた!?アッサム!側面に主砲を向けて!」

 

その間にオレンジペコが冷静に装填を完了する!

 

「撃て!」

 

先に主砲を放ったのは大洗のⅣ号だった。至近距離で放たれた砲弾はチャーチルに命中しチャーチルから火の手が上がる!が、チャーチルの主砲も一瞬遅れで放たれⅣ号に直撃する!

 

・・・・・・・白旗が上がったのはⅣ号の方だった・・・・・

 

 

 

「大洗女子学園、全車行動不能!勝者、聖グロリアーナ女学院!!!」

 

審判長、蝶野亜美の凛とした声が響き、大洗女子学園の初めての試合は後一歩のところで敗北となったのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

本戦に向けて戦力増強を図る大洗女子学園戦車道チーム。アソーカ達も合流し彼女達は戦車捜索の為、学園艦の地下へと入っていくのであった・・・・。

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