創作ウマ娘:パンダトレノ   作:ふゆうさぎ

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m.o.v.eの存在しない世界線です。



10話.VSサクラバクシンオー、その後

 誰もいない自然公園の駐車場、先にゴールした私はそこで、前回と同じように母さんに帰りの足を依頼しながらスポーツドリンクをがぶ飲みしていた。

 

 バクシンオーさんとの勝負は、彼女の転倒により私の勝利に終わった。

 峠バトルとは言えレースだからという理由で転倒した彼女をスルーしてしまったが、私がゴールを切ってからもう3分が経過している。

 だというのに、彼女はまだゴール地点に姿を現していないのだ。

 スルーしたことに「エアバッグは確かに起動していたけど、流石に不味かったかもしれない」と頭を抱える。

 

 ウマ娘にとって走行中の転倒というのは選手生命、ひいては命に関わることだ。

 もしかして怪我でもしてしまったのではないか、頭を垂れさせながらそう考えていると、駐車場に人影が現れるのが少し見えた。

 顔を上げて駐車場の入り口に目を向けると、そこにはエアバッグが起動した後のライトを抱えたバクシンオーさんがいた。

 向こうも私を探していたのか、目が合った瞬間にあの溌剌とした声が飛んでくる。

 

 

「オヤ!ようやく見つけましたよパンダさん!」

 

 

 バクシンオーさんは小走りで私の前まで来て、抱えていたライトをそっと地面に置くと私の手を取った。

 

 

「お見事な走りでしたッ!」

 

 

 突然の称賛に少し呆気に取られてしまったが、すぐに再始動した頭は眼球だけを忙しなく動かし、バクシンオーさんの安否を外見から確認する。

 舐め回すように見るが外見からは怪我が見当たらないとわかり、本当に怪我をしなくて良かったと安堵した。

 

 

「怪我は無いみたいですね。本当に良かったです…」

「ハイッ!この子が私を守ってくれました!なので受けたダメージはゼロでした!」

 

 

 そう言いバクシンオーさんは足元にあるライトに目を向けた。

 各所の外装が無く、萎んだ透明なエアバッグが飛び出したままのライトは、間違いなくバクシンオーさんを守った証だ。

 

 

「パンダさんのあれで差されると冷静なんて保てませんね!委員長としたことが、まんまとしてやられてしまいました!」

「あれ?……あぁ、溝走りのことですか?」

「そうです!まさかあんな形で差されるとは、初めての経験ですよ!」

 

 

 満足そうに笑うバクシンオーさんにバトル中に感じた鋭さは無く、まるで初めて体験することを喜ぶ無邪気な子供にすら感じた。

 しかしそんな彼女の光り輝く桜模様の目は一瞬で元に戻り、いつかされたのと似たような質問をされる。

 

 

「それにしても、パンダさんはよくあれほど狭い側溝を走ろうと考えましたね?確かにコーナリングスピードは普通に曲がるより段違いに速くなりますが、危険ではありませんか?」

「危険だとはわかっていますよ。でも、できるようにならざるを得なかったと言いますか」

「オヤ?それはもしや、学園に見学しに来てくださった時におっしゃっていた配達に関係が?」

 

 

 言ってもないのに正答をポンと当ててくる辺り、バクシン的名推理というのは名前に反して強ちバカにはできないようだ。

 私がその回答に首肯すると、バクシンオーさんは予想通り「流石私ですね!」と、フフンと胸を張った。

 

 

「私の実家、年中無休の青果店をしてまして。雨が降っていようと雪が降っていようと毎日配達しなきゃいけないんです」

「雨でも雪でもですか!?なるほど!溝を走るのは本来、重バ場でもスリップしないように走るための走法だったのですね!」

「そんなところです」

 

 

 何かと騒がしいけど間違いなく聡明な人だ、今も腰に手を当て「これぞバクシン的名推理!ハーハッハッハ!」と笑っているが、きっと間違いないはず。

 そんな若干興奮気味なバクシンオーさんを落ち着かせていると、上にいたハチ達やギャラリーがぞろぞろと姿を現した。

 

 

「パンダァー!」

 

 

 私を一番に見つけたハチは大きく手を振りながら走って来て、ジャンプして私に抱きついてくる。

 足でガッチリ胴をホールドされ、ハチのまあまあな胸で呼吸器官が塞がる。

 

 

「私、絶対パンダが勝つって信じてたァー!」

 

 

 振り解こうとするも視界の塞がれた自分の力ではどうしようもなく、危うく窒息しそうになるが、追いついたシル先輩とエイティ先輩が私からハチを引き剥がした。

 

 

「はしゃぎすぎだハチ」

「興奮するのはわかるのけどよォ、パンダ死んじまうぜ?」

 

 

 二人に腕をホールドされて宙ぶらりんなハチを少し睨みながら、命の恩人に感謝を伝える。

 

 

「た、助かりました…ありがとございます先輩」

「暴走する後輩の手綱を引くのも先輩の役目だ。気にすんなパンダ」

「ほれ、パンダに謝れ」

「エイティ先輩…ぱ、パンダごめん…」

「いいよ…私が勝ったのに喜んでくれたんでしょ?」

 

 

 そう聞くとハチは申し訳さなそうに頷いた。

 耳も垂れ萎れた表情を見せられれば怒れないじゃないか、そう内心で思いつつハチの頭に手を乗せる。

 

 

「ありがとハチ。でも、今度からは抱きつくぐらいにしてよね?」

「…!うん!」

 

 

 私の言葉に手のひらを返して耳をピンと立てるハチ。

 調子の良いやつだと腰に手を当てて呆れていると、横からお疲れ様とスポーツドリンクが差し出される。

 こちらもお疲れ様ですと返し受け取ったタイミングで、声がハチたちのものでないと気づき、顔を向けるとそこにはルドルフさんとテイオーさんが立っていた。

 

 

「る、ルドルフさん!それにテイオーさんも!どうしてここに…?」

「私達は最初からいたぞ?忘れられてしまうとは心外だが、廃寝忘食。忘れてしまうほどバトルに集中できていたのならば、それは良い事だ」

「酷いなーパンダちゃん。どうせボクたちのことなんてどーでもいいと思ってるんだ」

「ちょ、そ、そんな訳ないじゃないですか!」

 

 

 私の必死の弁解に冗談だってと笑うテイオーさんに胸を撫でおろしたが、彼女は逆に少ししょげてしまった。

 

 

「あーあ。これでボクの連勝記録もお終いかぁ…」

「エッ」

 

 

 連勝記録、そう聞いて私は初めてテイオーさんとバトルした時に、周囲の記者が彼女のことを負け無しの最強格ウマ娘と言っていたのをふと思い出した。

 そして同時に、どうして彼女のトレーナーが、彼女が負けたことを周囲に認められる、知られるのが困ると言っていたのかを理解する。

 バトル前に「テイオーさんの成績なんて私には関係ない」と豪語はしたが、いざ彼女のトレーナーの経緯を推察してみればとても悪いことをした気分になった。

 

 

「……どしたのパンダちゃん?」

 

 

 私のやましい思考を覗き込むように目を合わせてくるテイオーさんに、どうしようと無意識に声を漏らしてしまう。

 

 

「どうしようって、何を?」

「テイオーさんのトレーナーさんのことです…色々考えたら、悪いことしちゃったなって思いまして」

「あぁ、なるほど」

 

 

 テイオーさんは自分の事なのにあっけらかんとしていて、戦績に傷が付いたことを気にしていないのかと思った。

 態度から見るに本当に気にしていないようで、彼女はその訳を話した。

 

 

「トレーナーはさ、割とボクらウマ娘に対する世間体を気にする人でさ。ボクが取材でも掲げた目標の無敗の三冠のために、校内レースとか模擬レースでも絶対に負けないようにトレーニングスケジュールとか作ってくれるんだ」

「それは…すごく良いトレーナーさんですね」

「ボクの自慢のトレーナーだよ!でも今言ったのって、全部がちゃんとしたレース場でやってる事でしょ?峠バトルは別じゃん?」

「別って…あぁ、なるほど。確かに、禁止されてる峠バトルの結果なんて公にはできないですもんね」

「でしょ?だから、トレーナーはただの心配しすぎ。多分今頃…ほら、イインチョーに言われてるよ」

 

 

 テイオーさんが指す指の先には、バクシンオーさんに何かを言われているテイオーさんのトレーナーの姿があった。

 彼の仕草はまるで「そういえばそうだった!」と言っているようで、テイオーさんはそれを見てやっぱりねと笑っていた。

 それから、テイオーさんのトレーナーは私達に見られているのに気付いて、恥ずかしそうに小走りでやってくる。

 テイオーさんはそんな彼をからかうように肘でつつきながら聞く。

 

 

「どうトレーナー?気付いた?」

「あぁ。まさか彼女に教えられるとは思わなかったよ…それと、パンダトレノ君には謝らなければならない。すまなかった」

 

 

 腰を綺麗に折り頭を下げてくるが、私は頭を上げてくださいとそれをやめさせた。

 

 

「テイオーさんから聞きました。今を走るウマ娘たちの事を考えてくれたからこそ、私には勝って欲しくなかったんですよね?」

「改めて言うのはとても申し訳ないが、その通りだ。テイオーは無敵で三冠を目指している。バクシンオー君が君に勝つことで、君とテイオーのバトルが帳消しになるなら、是非とも彼女には勝って欲しいと思ってしまったんだ」

 

 

 都合の悪い結果を揉み消そうとするなんてトレーナー失格だよと、行おうとしていた悪行に自責の念に駆られる彼を再度やめさせる。

 

 

「あまり自分を責めないでください。テイオーさんから話を聞くまでは…あなたに良いイメージはありませんでした。でも今は、あなたが担当のウマ娘を第一に考えてくれる良い人だと知ってます。禁止されてるバトルだろうと結果は結果だと受け止めてくれるだけでも、私は十分です」

「君は……テイオーのために、ありがとう」

「いえいえ、私はレース場を走りませんから。そっちで活躍するテイオーさんのためなら、揉み消されようが構いませんよ」

 

 

 所詮は峠しか走らないウマ娘ですからと謙っていると、黙っていたルドルフさんが真面目な顔で口を開く。

 

 

「そうだな…だが、勝ったのは事実だからな。それなりの処遇を君は受けなければならない」

 

 

 その言葉にテイオーさんのトレーナーは「仕方ないな…」と肩を下げるが、ルドルフさんの口から出た言葉は、彼の想像とはかけ離れたものだった。

 

 

「ウイニングライブ。勝者のみが立つことができるステージ。パンダ君、君はそこに立つ義務がある」

 

 

 ルドルフさんの言葉は来ていたギャラリーをどっと沸かせる。

 しかし私達地元組は顔を合わせて困惑してしまう。

 今の今まで真面目にウイニングライブの練習なんてしてなかったため、私達は踊ることが全くできないからだ。

 だがそんなことをウイニングライブの練習を授業カリキュラムにしている学園の生徒会長の前で言えるわけなく、あえなく逃げの選択をする。

 

 

「あの、ルドルフさん…」

「む、どうしたパンダ君」

「流石に時間が遅いので…後日ウチの学校で撮ったものを送ります。それじゃダメですか?」

 

 

 意見を聞いたルドルフさんは顎に手を当て、アイシャドウをしているウマ娘に時間を聞いた。

 二人の会話に聞き耳を立ててみると、なんと時刻は22時に差し掛かろうとしているようで、ならしょうがないとルドルフさんは頷いた。

 

 

「わかった。では撮れたら……そうだな。ハチゴー君、私のメールアドレス宛に送ってくれ」

「あ、私ッスか?了解です」

「頼んだよハチ君」

 

 

 ハチがルドルフさんに敬礼する。

 どうしてルドルフさんはハチに頼んだのか、そもそもどうしてハチの連絡先を知っているのだろうという疑問はあったが、何はともあれこれで踊るのは避けることができた。

 何か別の手段を考えなければと腕を組んでいると、遠くから夜に相応しくない音が聞こえた気がした。

 

 

「ん?今の音は……車?」

 

 

 ルドルフさんと一緒に耳を澄ませると、聞こえてきたのは私にとっては聞き慣れたエンジン音。

 ボクサーサウンド、母さんのインプレッサのエンジン音だ。

 

 

「母さんが来たみたいです。それじゃ、私はこの辺で失礼しますね。バクシンオーさん、今日はお疲れ様でした」

「オヤ、お帰りになるのですね!パンダさんもお疲れ様でした!おやすみなさい!」

「バクシンオーさんも、おやすみなさい」

 

 

 私はバクシンオーさんたちに向かって一礼して、リトラクタブルヘッドライトを展開、ライトを点灯する。

 ギャラリーたちの視線を一身に受けながら駐車場を出て、峠道の芝を確認するように足踏みする。

 少しだけ屈伸をしてからスターティングポーズを決めて、弾けるように一気に峠道を下る。

 バクシンオーさんが大声で「さようなら〜!」と言っているのが後ろから聞こえ、それに少しだけ口角を上げて私はコーナーを曲がっていく。

 

 しばらく走るといつもの駐車所で母さんのインプレッサが停まっていて、私の姿を見たからかパッシングしてきた。

 母さんなのはわかってるってとライトを点滅させ合図すると、ブゥゥンとわざと吹かしてきた。

 急かしてきてるのが丸わかりで、私は小走りでインプレッサに向かいながらライトを腰から外す。

 一番に後部座席にリトラクタブルヘッドライトを格納したライトを放り投げ、次に助手席に座った。

 バタンとドアを閉めて、シートに体を預けたところで母さんが聞いてくる。

 

 

「……勝ったの?」

「うん。直線がバカみたいに速くてさ、今回も溝走り使ったよ」

「ったく、まだまだね。帰るわよ」

「はーい」

 

 

 シートベルトを締めて、ドアの内張りに肘をつく。

 ドコドコと心地よい不協和音を車内と夜の街に響かせながら、母さんは車を発進させる。

 丁度いい揺れが私に睡魔となって襲って、ついうたた寝しそうになるが、まだウイニングライブの件が解決していないと頬を叩く。

 しかし結局家に着くまで何も妙案は浮かばず、私は趣味でハチ達とやっている事をウイニングライブの代わりをすればいいかと、軽くシャワーを浴びてベッドに潜った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「む、メールか。……ハチ君からか」

 

 

 生徒会の執務をこなしている最中にスマホが光り震えたと思えば、その画面に映るのはハチ君からのメールだ。

 普段はトレーニングのスケジュールやアドバイスを含む報連相くらいしかしていないが、それは基本決まった時間にのみ行っているため、こんな不特定な時間に送られてくるのは初めてだった。

 通知アイコンをタップしてメール本文を開くと、そこに書かれていたのはウイニングライブの一言と、1本の動画。

 あのバトルから3日が経過しており、熱がようやく冷め始めたタイミングでこれが送られてきたため、私の熱は再度発熱し始めた。

 

 しかし、ウイニングライブと言うにはこの動画は何かおかしい。

 ウイニングライブというのは歌って踊るというのが我々ウマ娘たちの共通認識のはず。

 だがこの動画のサムネイルは、明らかに音楽ユニットの演奏前のものだ。

 エアグルーヴに手招きをしてこれを見せたが、彼女もまた私と同じ反応で「どう見ても演奏前のバンドにしか見えませんね…」と言っていた。

 こうして固まっていても仕方ないと再生ボタンをタップすると、体育館と思わしき場所のステージで、正面に立っているパンダ君がカメラ目線で話し始める所から始まった。

 

 

『ルドルフさん、遅くなってすみません。マトモなのを撮るのに時間が掛かっちゃいました』

 

 

 パンダ君が頭を下げるのと同時に、後ろでギターやキーボードなどを調整していたハチ君達も頭を下げる。

 

 

『実は私…その、全く踊れないんです。今までウイニングライブのあるレースなんて走った事ありませんし、授業カリキュラムにも組まれてないので。なので、今回は代用ということで普段ハチ達と一緒にやってるこれで演奏させていただきます』

 

 

 パンダ君がマイクスタンドを掲げるのが合図だったのか、体育館の照明がバンという音と共に消える。

 そしてマイクの電源が付けられ、そこにかかるパンダ君の吐息がエコーになって体育館に響く。

 

 

『それでは、聴いてください!』

 

 

 これは峠バトルによって初めて行われるウイニングライブ。

 決して表に出ることはない、私達ウマ娘だけが観ることを許されるウイニングライブ。

 やはり彼女がウマ娘の走りの世界を、走りの常識を揺るがす風であることを確信した。

 

 

『秋名スピードスターズより、around the world!』

 

 

 彼女の初めてのウイニングライブを、私はしっかり目に焼き付けようと画面を見つめるのだった。

 …それはさておき、提耳面命。彼女にはウイニングライブの重要性について手解きをしなければな…




これにてバクシンオー戦は終了です。

ちょっとこの世界の設定について…
 ・m.o.v.eがいない
 ・パンダ達4人で「秋名スピードスターズ」というチームを勝手に組んでいる
 ・榛名山ではなく秋名山ではあるが5連ヘアピンではなく4連ヘアピン
 ・峠バトルは禁止レースでバレると成績に響く
 ・各ウマ娘のレース状況等はバラバラ、アプリ時空


次はシビック戦…と考えましたがダブルクラッシュをさせたくないのでシルエイティ戦に行きます。
月一ペースとか、ファイナルステージまで書くとしたらいつ終わるんだよ()


※余談
友人や家族を乗せられる4ドアで、DOHC自然吸気で、MT車のかっちょええ車ないかなーって調べてたらDR30の鉄仮面が出てきました
家の近くにも4ドア、グレード走行距離無記載の鉄仮面が150万で売ってたんですけど…DR30って実際にどういう特性の車なんですかね
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