引っ越し前最後の投稿になります。
前回意味が違うという意味での誤字報告がありましたが、してくださった方、大変ありがとうございました。
もし誤字や意味が違う言葉等を見つけてくださりましたら、DMなり感想欄なり誤字報告機能でも構いませんので遠慮なくどんどん送ってください。
一応報告がありますのであとがきは読んでほしいです。
シルの乗っているS13シルビアから少し離れた停車可能道路の脇で、180SXの運転手のエイティは待機させていたハチを拾って群馬に向かってすぐに走り始めた。
焦った様子で運転の荒くなっているのを諫めることなく、ハチはエイティに尋ねる。
「エイティ先輩!シル先輩へのメール、既読つきましたか!?」
「ついてねぇ!あいつ、わざと見てねぇんだ!クソッ!」
エイティはステアリングに拳を落とし、悔しそうに握った手に力を込めてた。
高速道路に乗って、少し視界が開けたからか、エイティは落ち着きを取り戻してハチに向かって口を開いた。
「なぁハチ、あいつ……ライスシャワーのトレーナーを自称してたあいつについての情報はどうなった?」
「いろいろ調べてみましたけど、自称じゃなくて本物みたいです。中央トレセンのトレーナー一覧に名前も顔も載ってます」
「そうか……はぁ、あとはシル頼みか。どうなると思うハチ」
「シル先輩は優しい人です。きっと……いや、間違いなく」
「だよなぁ……早く帰ってパンダに伝えるぞ。少し飛ばすから口閉じてろよ!」
「は、はいぃぃ!」
ハチとエイティは、シルのためではなくパンダのために動いていた。
その理由は数時間前に遡る。
* * *
数時間前……朝6時の事、ハチの朝練習にエイティは付き合っていた。
ハチたちは群馬トレセンのトレーニング場に、土曜日だというのに朝から居座っており、他に走ってるウマ娘がいないのをいいことにハチはターフの上で大の字で寝ころんでいた。
息を切らせて肩で息をするハチに常温の水を差しだしたエイティは首から提げているストップウォッチに浮かぶ時間を伝え、ハチはため息をついた。
「やっぱ短距離でも残り1000mからが鬼門なんですよね……はぁ」
「だけどよハチ、1000mまでなら
「ゴール板を通過するまでがレースっすよエイティ先輩。私は……痛っ……レースで勝ちたいんです。区間タイムアタックじゃなくて」
「もちろん私は応援するけどよ。……走り方を変えるとかは試したか?ピッチとストライドとか」
「試しましたけど、峠での走りのクセが抜けなくて……走り方はいつも通り、ストレートはピッチでの加速からのストライド、コーナーはピッチでって言うのが一番体に合ってるみたいです」
「そうか。まあ、無理はするなよ?現に今、脚痛いんだろ?マッサージしてやるからうつぶせになれよ」
「ありがとうございますエイティ先輩。……ん?」
うつぶせになろうと体勢を動かそうとしていたハチが突然頭に疑問符を浮かべ動きを止めた。
どうしたとエイティが聞く前に、ハチはある場所に指を指す。
ハチの指はレース場の端にある木陰を指さしていて、エイティが目を凝らすと、そこにはこちらに向かって双眼鏡を向けている一人の女性が立っていた。
群馬トレセンの教師陣の出勤時間は、土曜日日曜日は8時となっているため、グラウンドを開けてくれた教官以外の人物はまだ出勤していないはず。
スーツをビシッと着こなす大人の女性な雰囲気を出しているが、群馬トレセンにそんな女性教師が存在しないことくらい、ハチとエイティは把握している。
「……こっち見てますけど、誰ですかね。知ってますかエイティ先輩?」
「いや、知らねぇ。誰だあいつ」
「聞きに行ってみますか?」
「やめとけ。不審者かもしれないからな」
エイティの言葉にハチは頷き、マッサージの続きをしてもらうためにうつぶせになる。
ジャージパンツの裾を上げてエイティがハチの脹脛を揉む。
マッサージをしている間も謎の女性からの視線を感じるエイティは、ちらりと先ほどの木陰を見るが、そこに女性はいなかった。
「あれ?おい見ろハチ。さっきの女、いなくなった」
「え?……ほんとだ。どこ行ったんでしょう」
「ここにいるわよ」
「「……?」」
声が聞こえてきたのはエイティのすぐ後ろ。
はて、空耳だろうかと思いながら二人して首を後ろに回すと、そこには先ほどまで木陰にいた女性が立っていた。
いつの間に音も立てずに移動したのだと驚き、ハチとエイティは片足と片腕を上げて大げさにポーズを取る。
女性は「大げさね」と一言言い、はぁとため息をついた。
「あなたたち、パンダトレノの友人でしょ?パンダトレノはどこにいるの」
「パンダ?あいつなら多分秋名のパーキングの小屋の脇から行ける丘にいると思うけど」
「へぇ、面倒ね。ワンエイティとハチゴーだっけ、あなたたち」
「そ、そうですけど。どうして私たちの名前を?……あなたは誰なんですか?」
初対面で呼び捨てにされたことに少し腹を立てたハチが、少し強めの語尾で聞く。
女性は胸元についているバッジを指で叩き、誇るように言った。
「私はライスシャワーのトレーナーのサユキ。中央のトレーナーよ。トレーナー権限であなたたちの名前も知ったの」
「ライスシャワー……?ああ、今シルがデートしてる相手か。戦績とかはよく知らねぇや」
「……流石地方ね。やる気が無いというか。記憶の優先順位がレースよりも恋沙汰とはね」
「ちょっとエイティ先輩!ライスシャワーと言えばこの前芙蓉ステークスで勝ったウマ娘ですよ!小柄ながらも力強い走りを見せるって評判の!」
「そ、そうなのか……OP戦はあんま把握してなくってよ……悪いねトレーナーさん」
「いえ、いいわ。やる気があるウマ娘もちゃんといるってわかったから。それよりも」
サユキはエイティから視線を外し、ハチの目を射抜く。
ハチはじっと見つめられて冷や汗が出そうになるが、それを加速させるようにサユキの言葉がハチの思考に衝撃を与える。
「来週の土曜日、パンダトレノに碓氷峠でライスシャワーとのダウンヒルバトルを申し込むわ。伝言頼んだわよ」
あまりの突拍子もない宣戦布告は二人の思考をフリーズさせた。
さらりと爆弾を投げてさっさと踵を返そうとするサユキを、ハチより先に思考が回復したエイティが呼び止める。
「おい待てよ!そんな勝手をパンダが受け入れるかわかんねぇぞ!一応伝えるけど……絶対はないからな!」
エイティはパンダからの了承は確実ではないと伝えるが、サユキはそれに笑った。
何がおかしいとエイティが声を震わせながら聞くと、サユキは天を仰ぎながら、笑いを堪えるような喋り方で答える。
「シルビア。彼女は優しい性格ゆえに頼まれたことは断れない質だと聞いたよ。それと、パンダトレノは友人からの頼みは滅多なことが無いと断らないともね」
いつの間にか復活したハチがそれに対して「それがどうしたんだ」と反撃するが、対するサユキは「そんなこともわからないのか」と笑いながら去って行ってしまった。
しかしエイティはその言葉の意図をすぐに理解して、すぐにスマホを取り出してシルに電話を掛ける。
数コールでシルはエイティの電話に出たが、スピーカーから出る声はシルの物ではなかった。
「シル!今お前どこに」
『あら?その声はエイティちゃん?』
「あれ……?シルの母さん?」
『久しぶりね~。あの子に何か用でも?』
「え、ええ。ちょっと重要な事なんですけど……シルの母さんがこの電話に出てるってことは、まさかあいつ……」
『そうなのよエイティちゃん!あの子、デートだって舞い上がって携帯忘れて行っちゃったの!』
「……信じられねぇ。どういう神経してんだ」
人の母親の前なのに罵倒するが、残念ながらシルの母親はエイティに同意していた。
エイティは数秒だけ逡巡して、すぐに何をすべきかの決断を下した。
「シルの母さん。今からシルに携帯渡しに行きます」
『エイティちゃん……府中よ?集中力持つ?』
「大きな声では言えませんけど、割と乗ってるんで大丈夫です」
エイティはシルの母親に携帯持って外に出ていてくださいと言うと電話を切り、ハチに帰る準備を促す。
話にあまり付いていけていないハチに、エイティは既にまとめてある自分の持ち物を預け「車取ってくる」と一言いい学園から飛び出していった。
数分後、ハチが自分の荷物をまとめ終わる頃に一台の白い車、180SXが校門から学園に入ってきた。
ドゥドゥと喧しいエンジン音を出しながらその車は止まり、窓からエイティが顔を出した。
「乗れハチ!シルの携帯は受け取ったから、これから府中行くぞ!」
「ふ、府中ですか!?今からって……結構時間かかるんじゃ」
「それでも行くんだよ!私はパンダをシルの情事に巻き込ませたくない。先輩として、シルのダチとしてな!行くぞ!」
「は、はいぃ~!」
ハチは急ぎ足で180SXに乗り込み、荷物を後部座席に置いてシートベルトをすると、途端にエイティはアクセル全開で校門前にタイヤ痕を残すほどのスキール音をタイヤから出させ、180度ターンをして校門から道路へと飛び出していく。
一気に70km/hまで加速して、ICを目標に一般道を走る車を縫うように避けてかっ飛ばしていく。
すぐに到着したICを通過して、東京方面へと向かって車はさらに加速していく。
おびえるハチなどお構いなしではあるが。
「シル……私はお前をサイテーな先輩にはしたくないからな。待ってろ!」
150クルーズで府中へと向かうエイティの180SX。
しかし、のちにこの努力が報われないことなど、今のエイティとハチは知る由もない。
そしてパンダも、自分が情事に巻き込まれることなど、自分が今よりもウマ娘界で大きな存在になることなど。
前書きの通り、今月末で秋山渉と同じ県に引っ越すことになっています。
これから寮生活になって執筆時間も大幅に限られてきますので、正直次の投稿がいつになるかわかりません。
精神面でもおそらく追い詰められると思いますのでこの2次小説を執筆し続けられるかどうかという懸念もありますが、生存報告も含めこちらの更新ができるように頑張りますので、首を長くして待っていただければ幸いです。