お久しぶりです。
埼玉から帰ってきて筆が乗らず、帰ってきたら帰ってきたで親と親戚と兄によって精神ぶっ壊されたので、逃げるようにここに帰ってきました。
またよろしくお願いします。
シル先輩が車で事故を起こしたのを知ったのは、週末の休みを終えた次の日…月曜日の朝だ。
ハチに教えられてシル先輩のいる教室を尋ねると、そこにいたのは首にギプスと頭に包帯を巻いた痛々しい姿のシル先輩と、気まずそうにその怪我を眺めながら沈黙しているエイティ先輩だった。
私はシル先輩の姿に驚きを隠せなかった。
飛び込むように先輩の教室に入り、ぼーっと宙を見つめるシル先輩の注意を引いた。
「シル先輩!大丈夫なんですかその怪我?!」
「…ん?あぁ…」
視線は私の方に向いているのにシル先輩の意識はどこか上の空で、帰ってきたのは生返事。
私とシル先輩のそんなやり取りを隣で聞いていたエイティ先輩は大きなため息をついた。
「コイツ、朝からずーっとこんなカンジなんだよナァ…。事故った理由もわかりゃしねェよ」
「そ、そうでしたか…後遺症とかは大丈夫なんですか?」
「シルの母さんに聞いたケド、そこは大丈夫だってヨ」
「そうですか…よかった」
ひとまずの安心に胸を撫でおろしたが、事故を起こしたのが機能だということに引っ掛かりを覚え、エイティ先輩に尋ねる。
「そういえば昨日って…シル先輩、例のウマ娘さんとデートだったんじゃ?」
「その帰りにこれやったんだってよ。デートに現を抜かしたか、フラれたか。どの道情事ではあるが、それで起こした事故が対人じゃなかったのが唯一の救いだな」
「…ですね」
容赦のないエイティ先輩だけど、シル先輩が自分で理由を吐いていない以上、それが事故に理由とは限らない。
ただ、デートの後となると十中八九情事だろうということは想像に難くない。
未だに宙を見つけるシル先輩にどう声を掛けようかと考えていると、朝礼が始まる予鈴が鳴ってしまった。
ハチが「パンダ行くぞ!」と言い残し廊下を駆けていく姿を追おうとした時、ぼーっとしていたシル先輩が突然私を引き留めた。
「パンダ…今日の夕方、空いてるか?」
「今日の夕方ですか?一応空いてますけど…」
「そうか…なら駅前のファミレスで少し話がしたいんだ。いいか?」
「え、ええ。構いませんよ」
「…ありがとな」
シル先輩は顔を少しこちらに向けたが、顔色はお世辞にも良いとは言えないものだった。
体調不良とかではなく精神的に参っている、そんな顔だった。
私はそんなシル先輩から目を話すのが少し心配でその場に背を向けられずにいたが、エイティ先輩が早く行けとジェスチャーで言ってきたため、私は先輩の教室を後にするしかなかった。
* * *
夕方、駅前のファミレス。
私は授業が終わるや否や肩にカバンを掛けて、ハチや友人からかけられた誘いの一切を断り教室を飛びだしてここに向かった。
しかし、どうやら来るのが早すぎたらしく、シル先輩の姿はまだなかった。
私はアーチ状の車止めポールに腰かけてスマホをいじっていると、後ろから後頭部を軽く叩かれた。
一体誰だ、目を少し釣り上げて振り返るとそこにいたのはシル先輩だった。
「車が来たら危ないだろ」
「シル先輩…来たなら声かけてくださいよ」
「駐車場は事故率が高いんだ。そういう意味も込めて声はかけなかった」
「…事故った人が言うと説得力が違いますね」
「うるせっ。中入るぞ」
「はーい」
カランコロンとドアベルを鳴らして店に入ると、厨房の奥から「っしゃーせー!お好きな席にどうぞォー!」と、来るのをラーメン屋と間違えたかと思うような声が飛んできた。
言われたとおりに好きな席、窓際の席に座りカバンを肩からおろした。
お冷を取りに行こうと席を立とうとすると、シル先輩が制して先に注文をしていろと促してきた。
言われるがままにメニューを見るが、少し財布に優しくない値段にどれを注文するか迷っていると、お冷を2つ持って戻ってきたシル先輩が言った。
「今日は私の奢りだからな。好きなの頼めよ」
私は目を丸くしてシル先輩を見つめた。
常日頃から金欠と嘆いているシル先輩が奢るなど万が一にでも起きない事だ。
だというのに奢るなんて…そう思っていたのもつかの間、更にシル先輩らしくない言葉が飛んできた。
「値段とか気にしなくていいからな。好きなものを好きなだけ頼んでくれよ」
顎が外れてしまうほど開いた口は閉じず、もはや誰だコイツ状態に私は陥ってしまう。
いやしかし…そう頭の中で情報を整理しようとしている所で、シル先輩が言った。
「そのだな…今日お前を呼んだのは…お願いがあるからだ」
「お願い?」
「ああ。受けてくれなくても構わない。だけど…聞くだけ聞いてくれ…頼む」
深刻そうに語るシル先輩に、私は頷くしかなかった。
ぽつりぽつりと、この日曜日にあった出来事をシル先輩は話し始める。
しかし、そこに楽しい話の一つもなく、ただシル先輩が抱えていた想いをライスさんに思わぬ形で裏切られた悔しさを切実に感じた。
「…そんなことが、あったんですか」
「ああ。今となっては、私みたいな無名ウマ娘がビッグネームウマ娘と普通に遊べるわけないんだって、寝ぼけた頭でもわかるよ」
「シル先輩…」
「はは、浮かれてたんだよ私。…もっと早く気付けたはずなのにな」
乾いた笑いも力なく、上げていた顔はどんどん下がっていき、シル先輩は言葉を失ってしまう。
どう励ますべきか考えあぐねていると、シル先輩はおもむろに顔を上げて、ひきつった顔で言った。
「パンダ…ライスさんとバトルしてくれないか」
「…やっぱ頼まれたんですね」
「ああ」
「シル先輩、断れませんもんね。優しいしから…でも、そういう性格をきっと利用されたんだと思いますよ」
「…かもしれないな」
「直した方がいいかもですね」
「ん。そうするよ」
私は通りがかった店員にパフェを一つ頼み、カバンからメモ帳とペンを取り出す。
今月のページを開いて、ペンの先端をノックして出した。
「それで、いつバトルしたいって言ってきたんですか?」
「!受けてくれるのか?」
「まあ。正直、大切な先輩を騙すような人、私許せませんし」
「…ありがとな、パンダ。バトルの日は決まってないから、こっちで決めよう」
「オッケーです。それじゃ今週の土曜日の夜10時でもいいですか?」
「待っててくれ。聞いてみるよ」
そう言いシル先輩はスマホを渋々といった様子で取り出し、悩む仕草を見せたのちに素早く画面をタップする。
すぐに打ち終わったのか、ため息をつきながら画面を伏せるようにスマホを机に置いた。
返事が来てほしくないと言わんばかりの雰囲気を醸し出すシル先輩だが、無情にも伏せたスマホはメール受信音と共に震えた。
マジかよ、そういう顔をしたシル先輩は、ぎょっとした顔でスマホを凝視した。
「返事、来たんですか?」
「あ、ああ。いや、でも…」
「?どうしたんですか先輩?」
「えっとな…バトルする日は土曜日でいいんだってさ。だけど場所がさ」
「場所?秋名じゃないんですか?」
「……碓氷」
私は聞きなれない名前に首を傾げるが、すぐにそこが走り慣れている場所ではないことはわかった。
そこがライスシャワーさんのホームコースであろうことも、すぐに予想がついた。
「長野県と群馬県の境にある旧道。でも私が知ってる限りだと、あそこは危険だってことで芝が敷かれていないはずの場所だ」
「芝が敷かれていない?アスファルトでレースしろってことですか」
「いや…多分、もう芝が敷かれてるんだと思う。だけど…気をつけろよ」
「気をつけろ?何をです?」
碓氷という場所が一体どういう峠なのか、全く想像のつかない私は、少し怯えたように顔を青くしているシル先輩の忠告をただ聞くことしかできなかった。
「碓氷にはコーナーごとに番号が振ってあるんだが、C121というコーナーだけは…言葉じゃ説明できないけど、とにかく気を付けてくれ」
その意味を知ったのは、バトル当日のことだった。
失踪気味になってましたが拓海vs信司をウマ娘で再現したいので頑張ります。
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