いつも誤字報告ありがとうございます、前話の誤字はホントに致命的だったから助かりました…感謝です。
いつかのバクシンオーみたいにキャラ崩壊しないようにライスのセリフを気を付けながら考えましたが、なんか違くね?となったらまた感想なりDMでお教えください。
一応、ライスは碓氷最速の設定なので、ちょっとぐらい自信のある描写になっています。
シルビアさんが用意してくれたバトルが、ついに始まった。
私は徒競走程度のスピードで走り出し、最初のコーナーまでの直線を走る。
少し振り向いて、パンダさんがしっかり後ろを着いてきていることを確認する。
あと数秒も無いうちに、最初のコーナーに入る。
そこからは先は、このコースが初めてなんて関係ない、手加減無しの全力走行だ。
私は小さく息を吸って、吐いた。
短い深呼吸だが、意識を戦闘モードに切り替えるのには十分。
最初だと言うのに全く緩やかじゃない第一コーナーに縦一列で入り、秒に満たない時間のうちにコーナーの向こう側が見えた。
「(よし……ここから!)」
私は脚に力を込め、足裏がグッと芝に食い込むのを感じると同時に、前に出した沈んだ脚を思い切り後ろに蹴飛ばす。
弾丸のように高速で打ち出された体を当たり前にコントロールして、私はコーナーに対しての体の傾斜を考慮して、次の一歩に向けて反対の脚を大きく前に出している。
この当たり前ができない者に碓氷峠の攻略はできない、お姉さまはそう言った。
これは実際に走ってみなければ決して理解できないことだ。
碓氷峠は三桁のコーナーがあり、そのうちの大半がタイトなコーナーで占められている。
それゆえに、碓氷峠経験者はコースを覚えコーナーに対してのアプローチの仕方を覚える、未経験者はその場ですぐに対処できるように、どんなコーナーでも曲がれるアプローチ方法の全てをカンペキに頭に叩き込んでおく必要がある。
それがいらないのはただの無謀なウマ娘か、もしくは峠センスの塊みたいなウマ娘だけ。
『ライス、次グリップ!』
「うん!」
私はコーナーの出口で一気に加速して、ほんの短い直線を駆け抜ける。
コーナーを抜ければすぐに見える次のコーナーに対して、完全に乗っていないスピードを考え、ブレーキング無しでコーナーへと飛び込んでいく。
ゴム蹄鉄がしっかり芝を噛み、踏み込んだ力はほぼそのまま脚に跳ね返ってきて、私の体をどんどん押し出していく。
2つ目のコーナーも抜けて次の緩やかなコーナーへ、次へ次へとコーナーを抜けていく。
いくつ目かのコーナーを抜ける前に少しだけ目を後ろへと向けると、必死に追い付いて来ているパンダちゃんがいた。
『流石だね。あの脚と走り方、並みの走り屋ウマ娘じゃないわ』
「そうだねお姉さま」
『だけど……いつまで着いてこられるかしら?ライスの本気はこんなもんじゃないんだからね』
パンダちゃんはやはり苦しいのか、タイミングもテンポもズレている。
少しずつ開きつつある私とパンダちゃんの距離に、油断はしていられない。
パンダちゃんはテイオーさんとバクシンオーさんを破った、峠のスペシャリストなのだから。
そう思っている矢先、私の背中をライトが照らす時間が増えた。
さっきのようにコーナーを抜けるときに後ろを見てみると、さっきよりも近い場所でパンダちゃんは私を追いかけていた。
驚くという感情が沸くより先に、全身が鳥肌で覆われた。
『……あの娘、もうここの走り方がわかってきたみたいね』
「すごいよお姉さま。ライス達、まだ10個もコーナー走ってないのに」
『ええ、正直信じられないわ。でも、それもここまで。初めて走るにしてはかなり善戦できてるけど、あの走りができない限りここでライスに勝つことなんてできないわ』
「うん……!ライス、負けないよ!」
『その意気よライス!それじゃ、あなたの強さを見せつけてあげなさい!次、グリップからのドリフト!』
「うん!」
碓氷峠では、他の峠では滅多に使わない走り方を使うことを、パンダちゃんはおそらく知らない。
その走り方というのは、
車のスポーツ走行ではよく聞く言葉で、後輪を滑らせながら走行する一つのドライビングテクニックだ。
これがこの先のコーナーで出来なければ、パンダちゃんと私の差は今よりももっと開くはずだ。
もうすぐ、その場所が来る。
一番の勝負どころのC121ではないけれど、それを使わなければ次のコーナーを高速で駆けることが出来ないことは間違いない。
次のコーナーは二つ目の見えない二段構えのコーナーになっている。
一つ目の緩やかな左コーナーの終わりあたりで突然現れる急な右コーナー、それがこの直線を抜けた先にある一つ目の初見殺しのコーナーだ。
その上この急コーナーは、実際に走ってみれば見た目ほど急ではないため、勢いを殺しすぎれば無駄な減速になってしまう。
しかしグリップ走行で走る場合、勢いを乗せすぎれば危険なアンダーが出てしまうため、しっかり減速しなければ安全に曲がれない。
だけど、ドリフトならば。
一つ目のコーナーの手前でしっかり減速し、アウト側から左コーナーへと切り込んでいく。
ゴム蹄鉄がこのスピード域でもしっかりグリップしてくれていることを脚の感覚で掴み、安心して私は加速する。
グリップで走るなら出してはいけないスピードな上に、ブレーキングポイントも過ぎた。
だけど、ドリフト走行ならそれでいい。
ほんの短い直線の終わり、私は目を見開いて走行ラインを睨んだ。
「(……ここっ!)」
一瞬だけ踵でブレーキングを行い、スピード調節。
そして、まだ直線が終わらないうちに右コーナーの出口と同じ角度につま先と体を向けて、意図的に足を横スライドさせた。
ゴム蹄鉄のグリップ力を一時的に超えさせることで滑り出す足元も千切れる芝の音もなんのその。
右コーナーのイン側に向かって滑る足元に釣られて傾きだす体勢をコントロールして、直線からコーナーの入口へ。
時間にして数コンマ止めていた足をピッチ走法で動かし、一気に体を前に進める。
横に滑る力と正面に進もうとする力が合わさり、斜めに体が進む。
コーナーのアウトいっぱいに、岩肌に限りなく近いほど膨らむラインは適正で、斜めに進んでいく脚はそのライン上を高速で走っている。
さらに加速して、私は単身でコーナーを抜けた。
一瞬で終わった二連コーナーを無事に抜けれたことに小さく息を吐き、後続のパンダちゃんはどうかと後ろに目を向けた。
いや……正確には、向けようとした、だ。
私のすぐ真横……シルエイティモデルのライトが照らす光のすぐ横に、重なる光があった。
それすなわち、私のすぐ後ろに、私以外の光源が存在するということ。
ほんの少し、ほんの少しだけ顔を後ろに向けた。
「(な……なん、で?)」
すぐそこにいたのは、さっきと変わらず険しい顔をしたパンダちゃん。
「(ここを一回も走ったこと無いって……お姉さまの情報には、ドリフトなんかしたことないって書いてあったのに!なんで……どうして!?)」
パンダちゃんの吐息が、妙にすぐ近くに感じた。
決して逃がさない、そう言わんばかりに。
* * *
ライスさんが全力走行を始めてまだ十秒も経っていないのに、もう差が開き始めている。
いくら後ろからならば前を走るウマ娘のラインを真似できると言っても限度がある、そう自分の考えがいかに浅はかだったかを思い知らされた。
「(く、そ……向こう、速い!タイミングが、テンポが……全てがちょっとずつ遅れてる!きっつい……!)」
衛星画像で見たよりもきつく感じるコーナーに初めてだからと言い訳して四苦八苦していては、ライスさんに完全に千切られてしまう。
私はただ、そうされないように必死に脚を回すしかなかった。
流れる景色よりも早く流れていくライスさんの背中に必死に追い付こうと足を回すが、遅れてしまっているテンポは少しずつ私とライスさんの差を作っていく。
「(自分のリズムを作れてないから……すごく怖い。だけど、ここでこれ以上離されたら絶対に追いつけなくなる!自分のペースを作るんだ……!相手が曲がれて、こっちが曲がれないなんてこと無いんだ!)」
これ以上離されてたまるか、その一心で足を回すしかない状況。
そのおかげか離されることもなくなったが、近づくことは決してない。
更にいくつかのコーナーを抜けたころ、なんとなく脚にかかる負担が軽くなったような感覚を覚えた。
無理にゴム蹄鉄に力を掛けている感覚もなくなり、先ほどよりも脚の回転を速く回せるようになっている。
「(自分のペースに乗れてきた……?いや、ライスさんとの距離を見たらそんな感じはしないけど……脚がそう訴えるなら、やるしかない!)」
理由はわからないけど、これでライスさんに追いつける、一瞬の思考が身体に対してそう判断を下した。
体勢を今までよりも低くし、短い直線でもストライドを広げ、回転数を上げて加速力を高める。
身体にかかる空気抵抗が低姿勢だというのに加速により大きくなり、視界の端の景色が高速で動く線へと変わっていく。
さっきとは比べ物にならないほどのスピードでのコーナーに突っ込むのに、やはり拭えない恐怖感がブレーキを掛けようとするが、私はその本能的恐怖を理性でねじ伏せた。
「(い……っけぇー!!)」
無理やりに近いコーナリングでゴム蹄鉄が悲鳴を上げる。
身体にかかるGが段違いなせいで危うく身体を持っていかれそうになるが、足首の角度や次の一歩の踏み込み具合で膨らみそうになるラインをカバーして、コーナーを高速で抜ける。
こういうコーナリングでも曲がれる、そう理解した私はそんな無茶なコーナリングを繰り返した。
そのうちにこの峠の走り方がなんとなくわかってきて、私はこの走り方が正しいんだと思い込んでしまった。
ライスさんとの距離が縮まり、あとほんの僅かで張り付ける、そんな時だ。
「(次のコーナーって確か、二連コーナーだったよね?しっかりスピードを落とさないと。……ぇ?)」
あまり遠くないライスさんが、ブレーキングをかなり遅い位置で行い、ハイスピードのままコーナーへと飛び込んでいった。
そんなスピードで曲がれるのか、当然の疑問を抱きつつ私も同じブレーキングをして、同じスピードでコーナーに飛び込んだ。
そして、目の前に飛び込んできた光景に、私は目を疑った。
「(ライスさんの身体が……横滑りしてる!?)」
転倒寸前のライスさんの状態に私は思わず踵で急ブレーキをしようとしたが、すぐにそれは意味がないことだと気づいた。
横滑りしていたライスさんが、一気に足を動かして、そのままコーナーを抜けて行ったからだ。
すぐに理解できた、あれが一つの走法なんだと。
意図的に一つ目のコーナーで膨らまない程度のオーバースピードでコーナーに飛び込んで、その余分なスピードを慣性に変えて、ブレーキングと加速体勢になるのを同時に行う。
パッと見た感じだと、あの走法はそういったことが出来る走法なんだろう。
「(見た目はキツイ右コーナー。だけど、今のライスさんのコーナリングを見たところ、そこまでキツイコーナーじゃない!ライスさんと同じ走りをすれば……追いつける!)」
私はとにかくライスさんの真似をするために同じスピードでコーナーに入った。
同じスピードなら、ライスさんと同じ走法でコーナーを走ることが出来るはずだ。
私は目をクワっと見開き、身体とつま先を二つ目のコーナーの出口と同じ角度にする。
脚の回転がなくなり、芝をしっかり噛んでいたゴム蹄鉄が加速のついた私の全体重を受け止めきれずに芝を千切って滑り出す。
同時に斜めになる姿勢を足首、腰、腕を動かして制御して、ライスさんと同じように転倒を避ける。
滑り出して平行移動していた景色は、一瞬でガードレールからライスさんの背中の見えるコーナー出口に移り変わった。
ライトが照らす芝には、ライスさんが滑るのを止めたポイントが確かに残っている。
私はそのポイントを逃さず、瞬時に足を回転させ始める。
まるで打ち出されたかのような加速力に身体が強張るが、すぐに体勢を低くして直線加速へと移行する。
岩肌スレスレにラインが膨らむが、そこに恐怖心は無い。
ライトが照らす先に、確かに同じラインを走ったライスさんの背中があったから。
「(追いつくんだ……!崖に張り付かないように、谷底に落ちないように……焦らずに集中して、もっと速く!)」
コーナー前の直線よりも低姿勢になり可能な限り空気抵抗を抑えて、一気に加速してコーナーを完全に抜けて直線を駆ける。
離れていたライスさんとの距離があっという間に無くなり、数秒も経たないうちに私はライスさんの背中に張り付くように走っていた。
煽れるほどの余裕は無いし、かと言ってこれ以上攻めるほどの勢いも出せない。
だから、とにかくついていくんだ、決して離されないように、針の穴ほどのチャンスも見落とさないように。
少しだけ振り向いたライスさんが、ギョッとした顔で私を見た。
なんでそこにいるんだと言わんばかりの顔を浮かべて再び前を向いたライスさんの背中を、苦し紛れの笑みを零しながら睨んだ。
勝負はまだまだ序盤なんだからと。
絶対に逃がさないと。
パンダ「ついてく…ついてく」
一か月以内にもう一回投稿できるとは思わなかった。
実際に碓氷に行って撮影もしてきたけど、二度とあそこ行きたくないわ。
ウェットだったし霧も出てたしインテRに煽られたし振り切れなかったし…魔境や。
出来れば早くお話を進めたいから次で碓氷戦終わりにできればいいな。