創作ウマ娘:パンダトレノ   作:ふゆうさぎ

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約一か月ぶりです。
完全にスランプに陥ってましたが早めに復帰できました。
前回に引き続き若干強気ライスですので、苦手な人は逃げてください。



21話.VSライスシャワー、後編

 

 お姉さまが言葉を失って、もうコーナー3つは過ぎた。

 すっかり何も言わなくなってしまったお姉さまはコーナーを過ぎるたびに「今のところは……」と後出しジャンケンのようなアドバイスを出してくるようになってしまった。

 コーナーに入ってしまった後に言われても困る、私はその一心だ。

 

 

「(このスピードならグリップ走法で行けるはず……っ!?しまっ……ゴム蹄鉄が、滑って……!)」

『ライス!今のはオーバースピードよ!』

「えぇっ……!?お姉さま、そういうのはもっと早くに……!くぅ……!」

 

 

 滑る脚をなんとかコントロールして、膨らむラインを最低限に抑えながらコーナーを抜ける。

 ゴム蹄鉄に余計な力を掛けすぎてしまったせいで熱を持ってしまい、若干アンダーが出るようになってしまう。

 

 

「お姉さま、一体どうしちゃったの……!?」

『ライス……』

「いつものお姉さまに戻って!」

『……ライスにはわからないの?パンダちゃんは……私たちの手に負えるウマ娘じゃない。あの娘は、完全に峠に特化してる。レース場専攻の私達じゃ、とても……』

「ッー!」

 

 

 またしてもアドバイスの無いままコーナーに突っ込み、オーバースピードを自覚して修正しようとするたびに挙動が乱れる。

 ラインが膨らみふらつくラインでは加速もままならなくて、私のスピードはコーナーを抜けるたびにどんどん遅くなっていってしまう。

 

 私の峠レースでの強みは、中央のトレーニングで培った直線での加速力、そして出せるスピードの天井がかなり高いという点だ。

 たとえコーナリングでスピードを落としてしまったとしても、そのロスは直線で取り返せる。

 パンダさんとのコーナリング勝負で絶対に勝てない今、できる最善策はそれだけだ。

 決して負けるわけにはいかない。

 お姉さまに頼れない今、私は私ができる範囲の最高の走りをするだけ。

 だけどそれは負けない走り方。

 勝つには、お姉さまの力がどうしても必要だ。

 

 

「お姉さま!まだライスたちは負けてないよ!負けてないのに、ギブアップしちゃうの!?ライス、嫌だよ!」

『ライス……だけど』

 

 

 直線で持ち前の脚を全て使って加速する。

 後ろから照らされていた光が無くなり、それだけで心の余裕ができる。

 だけど、それはまたすぐに来る。

 お姉さまを早く復帰させなければ、ライスたちに勝機は無い。

 

 

「最後のバトルってお姉さまと決めたバトルなのに!ベストを出せないまま……ライス、終わらせたくない!」

『……』

「っ……お、お姉さまっ!しっかりして!」

『……ら、ライス』

 

 

 今までの人生でも一度も出したことの無いほどの大声に、お姉さまが目を丸にしているのが声越しにもわかる。

 だけど、もうこうするしかない。

 発破をかける、この行為にすべてを賭けるしかない。

 

 

「お願いお姉さまっ……ライスは……勝ちたい!このバトルに、ライスは勝ちたい!」

『でも……もう無理よ。C121は過ぎたし、コーナーだって残り少ない。その上、コーナリングはパンダちゃんの方が速い』

「だからって、諦める理由にはならないよ!お姉さまはライスにいつも言ってくれた!どんな時も諦めちゃダメだって!諦めればきっと、その先ずっと後悔するって!」

 

 

 私は少し姿勢を低くして、直線をハイスピードで駆ける。

 パンダさんは全体の繋がりが早く、コーナーで極力失速しないで走ることで直線でのハイスピードを作っている。

 それに対して私は、直線でならばすぐにロースピードからハイスピードまでの加速ができる。

 峠でのバトルでは全体の繋がりの早さはタイムを求めることや速く走ることでは最重要レベルのことではあるけど、前を走っていて後ろを塞ぐという展開ならば、それはさほど重要ではない。

 つまり、今私にとってコーナーでの遅さは憂慮すべきほどのことではないということだ。

 特に「勝つこと」が目的ではなく「負けないこと」が目的な今は特にだ。

 私が最大限に「負けないこと」に力を注げる展開である今しか、お姉さまに発破をかけるタイミングはない。

 

 

「ライスは後悔したくない!峠で走るのを最後にするこのバトルで、後悔をここ(碓氷峠)に残していきたくない!これで満足した!これで良かったんだ!そう思えるバトルにライスはしたい!でもその為には……ライスに進むべき道を教えてくれるトレーナー……お姉さまの力がいるの!」

『……ライスは、それでいいの?』

「うん!」

『……こんな私が……途中で諦めてしまうような私が、あなたの進むべき道を決めるトレーナーでいいの?』

「お姉さまだからいいの!ライスは、お姉さまがいいの!あの時……お姉さまって初めて呼んだあの時から……ライスのトレーナーは、お姉さま以外に居ないってわかったから!」

『……担当に励まされるなんて……私、トレーナー失格ね』

 

 

 すぐそこにコーナーが迫ってきている。

 後ろから近づいてきている光が、私にコーナー前だから無意識にペースダウンしていることを理解させる。

 お姉さまを説得できる時間にも終わりが近づいてきている。

 もしだめなら、私一人でも……そう思った瞬間。

 

『……スピード落とさず、そのまま流していって(ドリフト)!』

「お、お姉さまっ……うん!」

 

 

 私はお姉さまの指示通り、ペースが落ちたままだがそのまま脚を滑らす。

 ほんの少しだけ滑ったゴム蹄鉄はすぐにグリップが効き始めて、早く脚を回せと本能が命令してくる。

 今のが正しかったのかは、脚を回して前進し始めた瞬間にわかった。

 横Gがほぼかからず、一切滑ること無くまるで張り付くかのように地面を蹴れる自分の脚に、私はお姉さまが復活したことを確信した。

 お姉さまが復活して良かった、そう安堵して胸を撫でおろす暇も与えられず、お姉さまから次の指示が飛んでくる。

 

 

『次!直線でできるだけ引っ張って、コーナー直前でフルブレーキ!コーナリングはそれで決めるわ』

「うん!」

 

 

 私は後ろのパンダさんを突き放すように加速して、短い直線を高速で駆ける。

 背中を照らしていた光はすぐになくなり、私は独走状態になる。

 数秒数えるうちに目の前の光の中にコーナーが現れ、つま先を少し上げて踵だけを使ったブレーキングをする。

 ゴムが焼ける臭いと芝が千切れる音すらも置き去りにして、私の足は滑っていく。

 

 

『グリップ!思い切り突っ込んで!』

「うん……わかった!」

 

 

 ブレーキングをすぐに止めて、シューズの全面をしっかり芝に噛ませる。

 コーナーに対して外側の脚に力を込め、足が芝の限界まで沈む感覚を掴みながら、その感覚すらも一緒に芝を蹴り飛ばす。

 自ら生み出した加速感に「コーナリング中に滑ってしまうのではないか」という不安を覚えるけど、私の足は全く滑らない。

 どうしてだろうと自分の足に疑問を抱くが、生の足の裏に感じる温度がゴムに粘り気を生み出していることに気づく。

 映像だけで判断しているはずのお姉さまがこのことに気づいているかはわからないけど、聡明なお姉さまならばと疑問を振り払う。

 私はただお姉さまを信じるだけ、だってそれを望んだのは私だから。

 であればやることはただ一つ。

 

 

「(お姉さま。ライスと一緒に……走って!)」

 

 

 先ほどまで鮮明に見えていた目先の景色が、再び流星のように流れ始める。

 狭まる視界に不安がったり、困惑したりすることはもうない。

 私には、お姉さまがいるから。

 コーナーを抜けてすぐにトップスピードまで加速、そしてコーナー直前で減速。

 私自身が基本中の基本をこなせることができて、その上で客観的に正しい選択をできるお姉さまのアシストさえあれば、碓氷峠に敵はいない。

 

 いくつものコーナーを抜けて、ゴール板の置いてある休憩所の街灯の光がぼんやりと宙に浮かび上がっているのが遠くに見えた。

 ゴールはもう、すぐ目の前だ。

 

 

『次、ドリフト!連続コーナーだけど、次は緩いからグリップのまま突っ込んで!』

「うんッ……ライス、行くよお姉さま!」

『思い切り行きなさいライス!』

 

 

 もうコーナーの残りは二桁を切った。

 後ろを走るパンダさんの姿は3バ身後ろで、このまま逃げ切れば私の勝ちで終わる。

 お姉さまのおかげで大幅なペースアップできたのに、それ以上差を付けられないことに流石と言うべきだろう。

 だけど、もう私とお姉さまにパンダさんの脚が届くことは無い。

 このまま逃げ切る、そう思いながら連続コーナーの一つ目を脚を滑らせて進む。

 思った以上にスピードが乗っていたのか、ドリフトが長引き足を回すポイントを通り過ぎてしまい、ラインから少し外れる。

 だけどこの程度は致命傷じゃないし次は緩いコーナーだから問題ない、パンダさんとの距離は十分にあるし大丈夫、そう高を括って次のコーナーに突入した……突入してしまった。

 その瞬間。

 

 

『ライスッ!減速して!』

「……えっ?」

 

 

 乗りすぎたスピード、それにゴム蹄鉄が耐えられず、グリップ走法なのに足が勝手に滑り出す。

 お姉さまの判断と言葉は早かった、だけどそれに対応するには私の判断が遅すぎた。

 滑り出した脚を止める手段は無く、私はとにかく転ばないように姿勢を制御することしかできない。

 

 なんで、どうして、頭によぎったその言葉に対応したのは、わずか数分前の記憶。

 足の裏に感じた温かさ、そして温まったことで増大したグリップ力。

 その二つから導き出せる答えはただ一つ。

 ゴム蹄鉄の……熱ダレ。

 

 

「う、うぅっ……!!」

『ライス!受け身体勢して!もう……間に合わない!』

 

 

 一瞬すぐに「うん」と言おうとした。

 だけど、すぐ後ろから聞こえてくる足音がその判断が正しいのかを訊ねてくる。

 

 

「(こんな狭い道でエアバッグが作動したら、後ろのパンダさんが膨らんだエアバッグに激突しちゃう。でも、このままガードレールに近づき続ければ作動は免れない。そうなったら、パンダさんがエアバッグに弾かれて転んじゃうし、エアバッグは最悪破裂。……ライスは……どうしたら)」

 

 

 目の前に猛スピードで近づいてくるガードレール。

 スローモーションで動く世界でコンマ1秒が経つ度に現実味を帯びる、何秒後かわからないけれど必ず来る未来、避けようがない衝突に覚悟を決める。

 目を閉じて次の瞬間に訪れる衝撃に備えるけど、やはりこの瞬間に恐怖を持たない者はきっといないだろう。

 

 

「(助けて……お姉さま……シルビアさん……!)」

 

 

 刹那に飛び出た二人。

 決してこの場に現れることなく、決してこの瞬間に手を伸ばすことが出来ない二人。

 恐怖が覚悟を勝り、涙が溢れ出てくる。

 もう時間が無い、ガードレールとの距離はどんどん無くなっていく。

 短時間で得た大量の情報と、恐怖による現実逃避したいという感情がぐちゃぐちゃになって、頭はショート寸前。

 もう助からない、決定している未来に抗いたくて、抗えなくて、ただ涙をこぼしそうになるのを耐えて……

 

 次の瞬間、衝撃が走った。

 エアバッグが作動してガードレールから弾き飛ばされる衝撃ではなく、横から思い切り引っ張られたことによる衝撃が。

 

 

「ライスさんッ!」

 

 

 傍から見ても明らかなオーバースピードで突っ込んで来たパンダさんが、私の腕を掴んでコーナーのイン側に無理やり引っ張った。

 もう少しで直撃しそうになっていたガードレールが目の前から急速に離れ、私は九死に一生を得た。

 パンダさんはイン側のガードレールの上部を掴み、ゴム蹄鉄の踵を併せて使い急ブレーキし、私たちはコーナーから少し先の場所で急停止することができた。

 ガードレールを掴んだまま走ったパンダさんの掌からは火花が散り、グローブに焦げた跡が残った。

 二人して肩で息をしているけど、先に膝を着いたのは私だった。

 

 

「……大丈夫ですかライスさん」

「……うん……ありがとう、パンダさん」

 

 

 焦げたグローブを外して手を差し出してくたパンダさんに、私は最後のバトルの負けを自覚した。

 目尻に残っていた涙が、ふと零れた。

 





 パンダのグローブについては次回作中で説明しますが、先に設定だけお伝えします。
 「碓氷峠が危ない場所と知っているパンダの母さんが、危ない時にガードレールを掴むことで急停止できるように、グローブにアルミ板を装着させた」という代物です。

↓言い訳長文↓
(※物語に関係ないので無視して頂いても結構です)

 最初は頭文字Dと流れ通りライス(真子役)がお姉さま(沙雪役)に罵倒して発破を掛けるシーンにしようと思ったのです。
 でもなんか違うと思い、頭が良く創作も齧ってる友人に聞いたら「ライスの解釈違い。シナリオ読み直せ。そもそもの設定として何もかもが違うし世界観合わんやろ。全部ボツ、全員オリキャラor主人公以外全員オリキャラでやり直せ」と言われまして…何もかもを否定された気になってしまい筆を取れなくなっていました。
 通ってる精神科の先生にそういうお話を話題にしたら「小説の批判や感想なんて人それぞれやろ?作品をいい方向にするための批判だけはしっかり受け取れよ」と言われて復活しました。
 友人の言っていたライスの解釈違いは間違いないので、育成シナリオやり直し&キャラストーリー読み直しをして「お姉さまと出会って自分を少し信じられるようになって、少し自信が湧いて、自分が一番強い場所が舞台だからちょっと強気なライス」という今回のライスになりました。
 友人の指摘は正しいと思いますが、私はこの作品を消すことはしません。
 なので…多分今後もこういった「なんかキャラ違くね?ブレてね?」ということがあるかもしれませんが、できる限りそういうことが無いように努力しますので、今後もパンダたちの走りを少しでも見ていただければ嬉しいです。
 長文になりましたが、これからもこの作品のことをよろしくお願いします。
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