創作ウマ娘:パンダトレノ   作:ふゆうさぎ

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あけましておめでとうございます。
この小説をやっていて二度目の新年のご挨拶ができるとは思ってもいませんでした。
引き続き、この二次小説をよろしくお願いします。



24話.トレーニング開始

 

 ライスさんとのバトルを終えて一週間が経った。

 つい先日、群馬トレセンは夏休み期間に入り、多くの生徒たちが夏を享楽する日々が始まった。

 ある者は惰眠を貪り、ある者は青春を謳歌し、ある者はバイトに明け暮れる……そんな非日常を各々が過ごしていた。

 私も例外ではなく、いつもとは違う毎日を過ごしていた。

 変化は毎朝の配達にも起こっていて、私は今、二往復目の配達の帰宅中だ。

 

 

「ハァッ、ハァッ……ハァッ!」

 

 

 背負う荷物の量は変わらず、ただ配達回数が一回から二回に増えた。

 それだけなのに、私にかかる負担はとてつもなく大きくなっていた。

 それに、増えたのは配達回数だけではない。

 夏休みから始まった配達には目標タイムを設けていて、二往復目ではまだ一度も目標タイムをクリアできていない。

 

 

「(一往復目よりもペースは落ちてるのに……どうしてこんなにコーナーが鋭く感じるの!?コーナリングが苦しい……曲がり切れない!)」

 

 

 一往復目と比べると明らかに体力が足りず、踏ん張るための力すら絞り出せない。

 集中力もかなり低下してしまっているのか、足首の角度も体の体勢に合わせられず、ゴム蹄鉄は片減りばかりしていく。

 その結果、走りにくさは増していく一方だ。

 目標タイムには、もう逆立ちしても届かない。

 

 

「(こんなペースじゃ、目標をクリアできない!溝走り使わないと……!)」

 

 

 今までだって配達帰りに溝走りを使ったことは何度もあった。

 でもそれは早く帰りたい一心でやっていたことであって、今回のように目標タイムに間に合わないから使うというのは初めての事だった。

 

 

「(もう少しで四連ヘアピン……あのコーナーを全部溝走りすれば、かなり時間短縮できるはず。それなのに……この直線と緩いコーナーが、キツイ!)」

 

 

 自分の非力さにもどかしさを感じながらも、私は走るしかない。

 いつもなら涼しいと感じながら風を切って走るけれど、今は体の内側から溢れる熱気を大量の汗で強制冷却して走っている。

 汗でぐしょぐしょのジャージの袖で額を拭うも、吸水上限をとうに超えている布は、ただ私の額の汗を伸ばしただけだった。

 

 

「(気持ち悪い……麓まで、あと3000mくらい……体力が、持たない……ッ!)」

 

 

 ライスさんとのバトルがあった次の日の朝、母さんから夏休み中は配達回数を二回にする旨を伝えられ、私はそれを願ってもない話だと快諾した。

 あの日の私は、自身がスピードとパワーが圧倒的に不足していることを認識して、どうやったらそれを強化できるかを考えていた。

 それゆえ、一往復でも十分に疲れる配達を二回すればかなりのトレーニングになるのではないかと思ったのだが、結果は見ての通り。

 私の見通しは、かなり甘かった。

 

 

「(ようやく四連ヘアピン、ここで一気に巻き返す!)」

 

 

 溝落としを最初から使うつもりで、ブレーキングを少し緩めに行う。

 溝に対してのアプローチは普段からこんな感じだったから、私は同じようにブレーキングをした……いや、してしまった。

 自分の余力では溝に足を引っかけたところで踏ん張ることができないこと、そもそもゴム蹄鉄の片減りで必要な減速ができていないこと。

 この二つを自覚することすらできない思考は、脚が滑り始めたことでようやく警鐘を鳴らした。

 

 

「(す、滑る!?肝心なところで、アンダーがっ!)」

 

 

 溝を走るためのラインから外れ、ガードレールにどんどん近づいていく。

 全力で脚を回してガードレールすれすれを走っていくが、今のがどれほどのタイムロスかは火を見るよりも明らかだった。

 

 

「(あっぶない……当たらなかったのは幸いだけど、大きいロスなのは変わりないか。この調子じゃ溝走りはできないね……素直に走るしかない、か)」

 

 

 私はもう溝走りをするのを諦めて、普通に走ることに専念することにした。

 第二コーナーの前にブレーキを行い確実に減速して、コーナー中の傾いた体勢でもしっかりゴム蹄鉄がグリップ力を発揮するように、足の角度を芝に合わせて堅実に走る。

 溝走りに比べれば遅いけど、他の走りよりは速いこの走りを頼りにして、私は続けて第三、第四コーナーを抜けていく。

 

 

「(時間は……目標より、三分も遅い。昨日よりは早いけど、目標には届かないなぁ……)」

 

 

 何年間も毎日欠かさず行ってきた配達コースを頭の中で展開して、残りのコースの走り方を考える。

 

 

「(タイトなコーナーが五つ残ってるけど……さっきみたいに走れば十分なはず。目標タイムには及ばないけど、速く走ることには変わりは無い!)」

 

 

 そうと決まれば、と私はすぐに加速する。

 直線はあまり無いけど、今の私には少し前までは持っていなかった技術を持っている。

 

 

「(最初のタイトな二連コーナーを抜けて、次は緩い左コーナー。そこで……()()をやる!)」

 

 

 四連ヘアピンを抜けてほんの少しだけある直線を進めば、すぐにヘアピンに近いタイトなコーナーが待ち受ける。

 そこでミスをしないように、時間と走り方で悩んでいたために散漫になっていた集中を、目の前に迫るコーナーに向ける。

 足裏がしっかりグリップしているか、このスピード域で曲がれるか、集中した思考はその程度の疑問はすぐに答えてくれた。

 それに頼って私は容易く二連コーナーを抜けていく。

 目標タイムにはどう足掻いても届かないという現実が、私の緊張した走りから力を抜いてくれた。

 そのおかげか、却って私の走りは速くなり、自分のリズムにようやく乗れてきた気がした。

 

 

「(次の左コーナーはL字コーナー。アウトを目いっぱい使えば……いける!)」

 

 

 コーナーを抜けて直線へ、持てる体力を思い切り消費して全力で駆ける。

 かなりスピードの乗った状態で次の緩い左コーナーが視界に飛び込んできた。

 右側のガードレールに接触しそうなギリギリを走って、コーナー入口の目の前で一気にイン側に切り込んでいく。

 

 

「(ここだっ!)」

 

 

 私は踵でブレーキングを行い、若干のスピード調節をして両脚のつま先の方向をコーナーの出口の方に向ける。

 ゴム蹄鉄は悲鳴を上げて芝を千切り、私の身体は滑り出す。

 そう、ドリフト走法だ。

 スピードはどんどん落ちていくが、グリップ走法のように滑らない走り方ではないため、滑っている分こちらの走り方の方が速い。

 コーナーの出口が私の目の前に来たタイミングで高速で足を回して、私はコーナーから脱出していく。

 ドリフト走法の利点は、時と場合によってグリップ走法よりも速く走れることであり、その大きな差は立ち上がりのスピードにある。

 滑るほどのスピードでコーナに飛び込み加速して脱出するのと、しっかり減速して滑らないスピードでコーナーに侵入し加速していく。

 この二つのどちらが速いかなど、誰かに聞かずともわかることだ。

 

 

「(上手くいった!……調子に乗らないようにしないと。転んだら本気で怒られるからね。残りもさっさと走って行こう)」

 

 

 私はこの後も二度ほどドリフト走法でコーナを走り、麓まで到着した。

 タイムは変わらず目標には届かないものの、予想していたよりも早かった。

 平地に降り立った私は、カバンを揺らしながらランニング程度の足取りで家に向かう。

 

 

「(二往復するのもこれで三日目。体力は全然足りていないけど、少しは慣れてきたかな)」

 

 

 もうお日様が山の向こうから顔を出そうとしている中、私は家に辿り着く。

 私は汗でびしょ濡れのまま玄関をくぐり、まっすぐ自分の部屋へと向かった。

 品出しを始めていた母さんが作業中の手を止めて、お店と居住区を分けている暖簾から顔を出した。

 

 

「お帰りパンダ。今日はどうだった?」

「ただいま母さん。今日もダメダメだった。溝走りも失敗したし、散々だった」

「ったく、まだまだだね。ほら、さっさとシャワー浴びてきなさい。今日もハチちゃんたちと学校でトレーニングなんでしょ?」

「うん。すぐに浴びてくるよ」

 

 

 私は部屋から着替えを持ってきて、脱衣室で着ていたもの全てを脱いでそのまま洗濯機に入れた。

 裸になるとすぐに風呂場に入って、真っ先にシャワーの栓をひねる。

 もちろん、最初に出てくるのは冷水だ。

 

 

「つっめた!もー最悪……早くお湯になってよぉ」

 

 

 いきなり頭から冷水をぶちまけられてぶつくさ言うが、お湯が出てきてからは言うのを止めて、全身の汗を流す。

 ざっと汗を流して体を洗い、シャンプー、リンス、洗顔をとにかく急いで済ませる。

 夜やるのであればいくらでも時間はかけれらるが、この後にハチたちとの約束が控えているから遅れるわけにはいかない。

 ある程度テキトーに終わらせ、風呂場から出る。

 

 

「パンダー。時間的にそろそろエイティちゃんたち迎えに来るわよー」

「わかってるって!お弁当とか水筒とか、机に置いといて!」

「はいはい」

 

 

 急いで体を拭いて、下着を着て鏡の前に立つ。

 こういう急ぎの時の為に、私はスキンケア用品は全てポンプ式に変えてある。

 髪をヘアバンドでかき上げた状態にして導入美容液をポンプの頭を叩き、出てきた液を顔に塗り広げる。

 手に残っている導入美容液を洗い流し、次に化粧水のポンプを叩く。

 以下同じ工程を乳液でも繰り返し、最後に日焼け止めを塗ってスキンケアは終了だ。

 もちろん顔以外の身体全体にも塗らなければならないため、時間は足りない。

 身体は顔ほど優しく扱わなくても問題ない……わけでは無いが、時間が無いため私はとにかく三種のスキンケア用品を適当に塗りたくる。

 夜は優しく塗ってあげるからと顔以外の皮膚に謝り、私は日焼け止めまで全て塗り終わる。

 

 

「パンダー。エイティちゃんたち来たわよー」

「うっそ!いつもよりちょっと早くない!?」

「知らないわよ。余裕が欲しいなら、もっと早く配達から帰ってこれるようにするのね」

「あーもう!エイティ先輩たちに待っててって言っといて!」

「はいはい」

 

 

 私は下着のまま階段を駆け上がり、二階にある私の部屋の扉を蹴飛ばす。

 タンスの引き出しからジャージを二着取り出して、そのうちの一着に袖を通す。

 他にも下着一式と靴下二足とタオル四枚を取り出して引き出しを戻し、消耗品の予備が置いてある棚からボディシートを取って全部をスクールバッグに突っ込み、階段を駆け下りる。

 リビングに寄って水筒と弁当も突っ込み、急いで玄関に行きスニーカーを履く。

 つま先を地面で叩きスニーカーの踵を合わせている間に玄関に置いてある時計を見れば、迎えに来る予定の時間から丁度五分が過ぎようとしていた。

 

 

「もう五分も時間過ぎてるしっ!もーホントに!もうっ!行ってきまーす!」

「はいはい。行ってらっしゃい。気を付けるのよー」

 

 

 玄関から出れば、そこには見慣れた白い車が停まっていた。

 エイティ先輩の車だ。

 

 

「おはよパンダ。随分遅かったじゃねェか」

「すみませんエイティ先輩!配達から帰ってくるのがちょっと遅くなっちゃって!」

「んま、全然気にしてねェから大丈夫だぜ。ほれ、助手席乗れよ」

「ありがとうございますエイティ先輩。それじゃ、おじゃましまーす」

 

 

 エイティ先輩の車……180SXの助手席に乗り込み、私たちは夏休みだというのに群馬トレセンへと向かう。

 私とハチの強化トレーニングのために。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……ここが……群馬トレセン、ですか」

「ふぅン?中央と比べると、建物とかが随分老朽しているように見えるね。それに、芝もそれほどキチンとは整備されていないようだねェ」

「……そう……みたいですね……」

 

 

 私たちは今日、噂のウマ娘に会うために群馬トレセンに来た。

 中央トレセンならば既に校舎の玄関口等が開いている時間帯のはずなのに、ここはまだ校門すら開いていない。

 つまり、職員の一人もまだ来ていないということだ。

 

 

「……本当に、例のウマ娘は……来るんですか?」

「ああ、間違いなく来るともさ。いくら地方だからと言っても、彼女たちもウマ娘だ。夏休みはトレーニングに存分に打ち込める非常に貴重な期間だからね。多くのウマ娘はトレセンに来るはずさ」

「……職員さん一人も、来てませんけど……」

「焦りは禁物だよ?それにまだ六時……いや、もう七時過ぎてるじゃないか!何をしているんだこのトレセンの教職員たちは!?」

 

 

 態度が一変、なんだよも~!と地団駄を踏む同行者……アグネスタキオンをよそにして校門に背中を任せていると、なんだか喧しい音が遠くから近づいてきた。

 ドォォォウ!と少し甲高い音を発しながら、その音はどんどん近づいてくる。

 結構な音量に、私……マンハッタンカフェは耳を畳んだ。

 

 

「カフェ!なんだいこの音は!?うるさいじゃないか!」

「……私も知りませんよ……車じゃないですか?」

「ここには朝からこんな音をまき散らす車がいるのかい!?近所迷惑という言葉を知らないのか!?」

「……知りませんよ。とにかく、待っていましょう」

「う~ん。カフェがそう言うなら……しかし、煩いねぇ……」

 

 

 私は変わらず校門に背中を任せたまま、ただ私たちを照らす太陽から目を逸らしながら誰かが来るのを待つことしかできない。

 早く誰か来ないか、そう思っているとうるさい車がこちらに向かって走ってきているのが見えた。

 まさかあれが職員なのかと眉間に皺を寄せてしまったが、実際にその車が目の前に停まり運転手を見ると、ここの生徒だと窺えた。

 

 

「あれェ?教官、まだ来てねェのかな?」

「校門、閉まったままですね。どうします?確かシル先輩、教官から校門の鍵預かってるんですよね?」

「うん。どうせ私達しか来ないって言われてね。パンダ、開けてきてくれるか?」

「わかりました。ちょっと行ってきます」

 

 

 白い車から一人のウマ娘が降りてきて、私たちの前を会釈して通り過ぎて校門の鍵を開けに行った。

 門を開けた彼女は車が通れるようにすると、先ほどまで乗っていた車を誘導して校内に入れた。

 そして、私たちも。

 

 

「……あの。ウチの学校になにかご用で?」

 

 

 白と黒のツートンカラーの髪を持つ彼女が私たちに問うた。

 私よりも先に、タキオンさんが応えた。

 

 

「どうも、私はアグネスタキオンだ。こっちは友人のマンハッタンカフェ。ここの生徒に用事があってね、その生徒が今日ここに来るかを聞きたいんだ」

「はぁ……どうも。それで、そのウマ娘というのは?」

「最近、峠バトルでやたら噂になっている『パンダトレノ』というウマ娘を探しているんだ。何時ころに来るか知っているかい?」

「あ、私です」

 

 

 私達三人の間に妙な沈黙が流れる。

 まさか目的の人物に職員よりも先に出会うなど思ってもいなかったため、反応に困っているのである。

 

 

「そ、そうか。君がパンダトレノ君なのか」

「はい。それで私に用事って?……大方は予想がつきますけど」

「君の想像通りだよ。まぁ、私は付き添いだからね。カフェ、自分で言いたまえ」

「……最初から、自分で言うつもりでした。あなたがしゃしゃり出るから……」

「うーん!言い方が辛辣だねぇ!」

 

 

 タキオンさんは私の背中を押して、パンダトレノさんの前に突き出す。

 私よりも少し背の高い彼女の顔を見上げながら、私は言った。

 

 

「……パンダトレノさん。あなたに……峠バトルを、挑ませてもらいたいです」

 

 

 私と目を合わせてしばらく、パンダトレノさんは頷いて口を開いた。

 

 

「……わかりました、受けて立ちます。それじゃあ、日時を決めましょう」

 

 

 パンダトレノさんは私たちを群馬トレセンの中に入るように促す。

 私たちは促されるまま校門をくぐり、初めて中央以外のトレセンに足を踏み入れた。

 

 私は彼女……パンダトレノさんのことなど、噂程度にしか聞いたことが無かった。

 峠だって、たまにお友だちに誘われて妙義山を走るくらいしかしていない。

 そんな私がなぜ、彼女にバトルを挑んだのか。

 お友だちが凄く悔しがった様子で、夢の中で彼女の姿と秋名山を私に見せてきたからだ。

 どういった理由で私に彼女を教えたのかはわからないけれど、きっと彼女と勝負してほしいということではないかと私は解釈した。

 だから私は、こうしてここに来た。

 彼女に勝負を挑み、勝つために。

 ずっと先で待つお友だちに追いつき、追い越すための一歩として……私は、彼女に勝つ。

 暗闇での勝負なら、負けるつもりはない。

 





…ということで、S14(ケンタ戦)はカフェとなります。
なおカフェとタキオンはデビューすらしていません。
お友だちが悔しがるほどの相手…きっとウマ娘ですらなかったんでしょうねぇ。()
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