創作ウマ娘:パンダトレノ   作:ふゆうさぎ

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できるだけ早く投稿できるように頑張ってます…



25話.妙義山へ

 

 中央トレセンからはるばる来たと言う、マンハッタンカフェさんとアグネスタキオンさん。

 二人を生徒用の応接室へと招き入れ、私たちは長机を挟み向かい合っていた。

 何故かシル先輩とエイティ先輩は、並んでマンハッタンカフェさんとアグネスタキオンさんの正面を陣取っている。

 ハチはエイティ先輩の隣に座っている。

 私はというと、応接用として用意されている湯飲みに冷蔵庫に入っていたお茶を入れて、二人に出す作業をしていた。

 

 

「粗茶ですが、どうぞ」

「……ありがとう、ございます」

「感謝するよパンダトレノ君。丁度冷たいものが飲みたかったんだ。……ところで、何故私たちの正面に君がいないんだい?」

「あはは……なんででしょうね」

 

 

 アグネスタキオンさんの言う通り、事の中心人物であるはずの私が話すべき席にいないのはおかしいことだろう。

 だけどこれは、シル先輩とエイティ先輩があえてこうしているのだ。

 前回のライスさんとのバトルでは、ほぼシル先輩の独断とはいえ、向こうが全て決めたバトルの条件を吞んでしまった。

 だから今回からはこのような話し合いの席を用意して、互いにフェアな条件を取り付けられるようにしたのだ。

 私としては公正さをあまりに欠くような条件を押し付けられない限り、できるだけ相手のステージで戦いたいと思っているのだが、シル先輩たちに言わせれば、それをするにはまだ早いと言うことだろう。

 

 

「結局、私たちは挑戦者というわけだからねぇ。こういうのも仕方がないか……」

「……もともと、こうなると分かっていたのでは?」

「もちろん、予想はしていたさ。ただ、パンダトレノ君があまりそういった取り決めに興味を示していないように、今までのバトルを見ていて感じたものだからね」

「今までのバトルはそれほどアンフェアではありませんでしたから。あんまりな条件を言われれば抗議ぐらいはしますよ」

 

 

 私は全員分のお茶を配り終え、ようやく話し合いの席に混ざる。

 場所はシル先輩の隣だ。

 アグネスタキオンさんは私に関係のある顔ぶれが揃ったのを確認すると、手元に抱えていたカバンからファイルを一枚に取り出し、その中から畳まれた紙を一枚取り出した。

 それを机の上に広げ、いつの間にか持っていた差し棒の先端を伸ばした。

 広げられた紙は、どうやら地図らしい。

 

 

「さて。主役が席に座ったところで、さっそく話を始めようじゃないか」

「悪いけどその前に……アグネスタキオンさん、その地図は一体?」

「タキオンで構わないよ、シルビア君。これは今回のバトルのステージとして提案するつもりの、妙義山の地形情報だよ」

「みょ、妙義山!秋名山じゃないのか?」

「パンダトレノ君は碓氷峠でも見事に白星を挙げたそうじゃないか。そうであれば、慣れないステージでも十分に戦えると私は見たが?」

 

 

 タキオンさんは余裕の笑みで湯飲みを傾けるが、どうやら口に合わなかったのか渋い顔をしている。

 そんな彼女をよそに、私は広げられた妙義山のものと言われた地形の書かれた紙を覗き込む。

 

 

「……碓氷峠ほどじゃないけど、秋名よりもコーナの数がかなり多いですね。それに、下りの最後の直線がすごく長い」

「私が提案したいのは妙義第一駐車場から妙義スカイパークまでの3700mのダウンヒル。最後の直線を省いた距離だが、どうだい?」

「……ここから、ここまでか。うん、私はいいと思います」

「そうかそうか!それで、そっちの三人はどう思う?」

 

 

 目を向けられたシル先輩たちは互いに顔を見合わせたのち、腕を組んで難しい顔をした。

 特に悩むようなことではないと思ったが、三人がそんな顔をしたのは別の理由だった。

 

 

「パンダが構わないって言うなら、別にいいよ。こっちから見ても不利すぎる条件じゃないからな」

「一つ問題なのは、いつこのバトルをするかだよな」

「碓氷の時は全く時間が無くて、下見すらできませんでしたからね。今回は近しい、そういうのも含めて時間があると嬉しいっスね」

 

 

 確かに三人の言う通り、ライスさんとのバトルは下見すらもしていない、完全な一発勝負だった。

 そのせいか、壁に直撃しそうになるシーンはいくつかあった。

 もし下見を一度でもしていれば、また変わった結果になったかもしれないし、もっと安全な勝負ができたかもしれない。

 

 

「なるほど。つまり君たちは、パンダトレノ君が十分な下見と練習をする時間を要求しているわけだ。それで、パンダトレノ君自身はどう思う?」

「私ですか?……そりゃ、無いよりある方がいいですけど」

「……つまり、別に無くても一応は戦えると?」

「……下見と練習を無しで挑めって言うなら、やりますよ」

 

 

 売られたバトルは買わなきゃいけない、それがお父さんに言われたことだ。

 もしその条件でバトルをしろと挑戦状を叩きつけるのであれば、私はそれを喜んで受け取ろう。

 お返しは、バトルでつけるから。

 それで決定、そう思った瞬間。

 

 

「……パンダ、ダメだぞ」

 

 

 シル先輩は目を細めて言った。

 

 

「碓氷の時、お前は下見も練習もしないで走って、最後は帰ってくる体力も無くて途中で倒れた。いくら碓氷ほどコーナーが少ないからって、わざと同じ轍を踏むことは無い。……あれは全部、私のせいだったけど」

「……シル先輩」

「パンダ。峠バトルで重要なことの一つは、怪我無く帰ってくることだ。勝ち負けにこだわるのも大事だけど、それ以上に身体が大事なのを忘れないでくれ」

 

 

 いつになく真面目なシル先輩の目が私を射抜く。

 怪我すれば完治するまで走れなくもなるし、その期間でできるトレーニングだってできなくなってブランクも生じる。

 何より、二度と走れない脚になってしまう可能性だってある。

 今の私はドリフト走法などを自分の物にして、今までできなかったことができるようになって、少し舞い上がっていたのかもしれない。

 

 

「……わかりました。下見と練習、やります」

 

 

 私がそう言うと、シル先輩たち三人は胸をなでおろした。

 それに対し、タキオンさんは少し残念そうな顔を浮かべたが、咳払いをしてすぐに普通の顔に戻った。

 

 

「話はまとまったようだね。では、パンダトレノ君は下見と練習を済ませておきたまえ。バトルは……そうだねぇ、今週の土曜日の21時なんてどうだい」

「今日が水曜日で……今日を含めればあと三日か。トレーニングがてら走り込むのもいいかもな。シルはどう思う?」

「私もエイティと同じ意見だ。どうせ今日は一日中ターフコースを走り込む予定だったし。明るいうちに坂路トレーニングも併せて、妙義山のコースの下見と練習をしておこう。夜に本番を想定した並走トレーニング、これでどうだパンダ?」

「はい、いいと思います」

 

 

 全員で顔を合わせて頷き、タキオンさんの方に向き直る。

 その様子にタキオンさんは口角を上げた。

 

 

「では、決まりだね。今週の土曜日、21時に妙義第一駐車場に現地集合で頼むよ」

「わかりました。よろしくお願いします、タキオンさん、マンハッタンカフェさん」

「……カフェで構いません。……よろしく、お願いします。……負けません……絶対に」

 

 

 話は終わりだと思った直後に言われた宣戦布告と、こちらを見つめる怪しく、不敵に光る黄金色の瞳に、私は少しだけ顔に力がこもる。

 私はカフェさんと目を合わせて、応戦した。

 

 

「こっちも、負けるつもりはありません。今度はまぐれじゃなくて、実力で勝ちます」

「……ふふ……楽しみに、しています。お友達が勝てなかった方の……娘さん」

「……?」

 

 

 よくわからない言葉を残して、カフェさんたちは応接室を後にしていった。

 最後の言葉が一体なんだったのかはわからないけど、それを考えるより先にやるべきことがある。

 私たちもタキオンさんたちの後を追うように、すぐに応接室を出る。

 向かう先は練習用のターフコースではなく、妙義山。

 秋名以外の戦いに、私の心はどこか踊っているような気がした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 群馬トレセンを後にして、バス停留所で待っている時。

 遠くに見える秋名山を呆けて見ていると、隣にいるタキオンさんが口を開いた。

 

 

「カフェ。このバトル、勝てると思うかい?」

「……勝つつもりではいます」

「……そうか」

「……タキオンさんは、違うんですか?」

 

 

 私の返事にタキオンさんは言い渋る。

 タキオンさんをこんな風にするほど、パンダトレノさんに何かがあったようには見えなかったが、タキオンさんには違うように見えたようだ。

 

 

「……パンダトレノ君のトモが、ライスシャワー君とのバトル以前のままならば、勝機は十分にあったと私は思っている。あまりに仕上がりが偏っていて、秋名山に特化した仕上がりだったからだ。しかし……」

「……しかし?」

「彼女はライスシャワー君とのバトル……秋名山以外での勝負を通して気づいたようだ。筋力、体力、その他諸々の仕上がりのアベレージを底上げし、プラスアルファの何かを身に着けなければ、今後の勝負には勝てないということを」

「……プラスアルファの、何か?」

「そう、何かだ。あのトモの仕上がりは、普通に走ることを前提としていない物だ。普通のウマ娘とは違いすぎる」

 

 

 そう言うとタキオンさんは腕を組んで、目と耳を閉じる。

 日差しが強くなってきたのと、目の前の車道の交通量が多くなりロードノイズが増えたからだろう。

 深く思考するには、邪魔な事象だ。

 目を瞑ってしばらくして、タキオンさんは口を開いた。

 

 

「……具体的には言えないが、私は彼女が新たな技を身に着けたのではないかと読んでいる」

「……技?」

「そう、技だ。テクニックとはまた別の技」

 

 

 タキオンさんはカバンの中から一枚のファイルを取り出し、中から地図とは違う紙を一枚取り出し私に渡してきた。

 見てみるとその紙には、パンダトレノさんの身体能力をグラフ化した資料が載せられていた。

 グラフの他には得意とする場所、距離、走り方……そして、スキルという物も書かれている。

 スキルと題名された欄には聞いたことすらない『溝走り』という単語が一つ書かれているだけだった。

 

 

「……タキオンさん、この『スキル』とは?」

「彼女は秋名山で『溝走り』なる技を使ったそうだ。コースの端にある側溝の段差を利用して、遠心力を物理的に抑えつけてハイスピードで走るという技らしい。私はそれを区分するのに、スキルと名付けただけさ」

「……なるほど。これが、プラスアルファの何か……なのですね」

「ああ。だが今の彼女には、これ以外の何かがあるはず。残念ながら、見当もつかないがね」

「……それが、アナタが懸念してること、なんですね」

 

 

 タキオンさんは頷き、目を開く。

 そして、ここからは見えないが妙義山の方を向き、口角をいつものように上げた。

 

 

「その何かは、練習中に使うはずさ」

 

 

 不思議な瞳がゆらりと動き、私を捉える。

 いつものように、何かを企んだ時に見せる含みのある笑顔で。

 

 

「……アナタという人は。見つかって怒られても、知りませんよ」

「ハッハッハ!相手に関するデータ収集はレースでも常識、何も悪いことはしていないさ!」

「……はぁ」

 

 

 私もまたいつものように彼女に対して呆れて、顔を逸らす。

 いつものことと言えばいつものことだが、それでも呆れはする。

 しかし今回のタキオンさんは完全に私の協力者であり、行き過ぎた文句は言えない。

 それゆえに、私はため息しかつくことができなかった。

 





今の予定だと、次回がパンダたちの妙義山での練習風景。
その次にVSマンハッタンカフェの直前を書き、その次からバトルです。

その予定ですが…次回投稿は少し遅れるかもしれません。
実際に妙義山を走ったことが無いので、愛車のスイスポちゃんで実際に走ってから書きたいのです。
露伴先生もリアリティが大事だと言っていたので…()
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