創作ウマ娘:パンダトレノ   作:ふゆうさぎ

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連日投稿です。

登場人物
前編…パンダトレノ、ハチゴー、シルビア、ワンエイティ
後編…マンハッタンカフェ、アグネスタキオン


26話.初めての妙義山

 

 エイティ先輩の車に揺られて一時間と少し。

 私たちはアグネスタキオンさんがスタート地点として指定してきた妙義山第一駐車場に着いた。

 私達以外には、誰もいない。

 

 

「ここが、妙義山……広い駐車場ですね」

「だな。昔は走り屋たちがここに集まって、車を停めてバトルを見に行ってたらしいぞ」

「へぇ……母さんもここ来た事あるのかな」

 

 

 突如頭に浮かんできた、インプレッサをかっ飛ばす母さんのイメージを振り払う。

 カバンの中からタオルを取り出して、首に巻き付けた。

 これで練習の準備は万全だ。

 あとは、まだ準備中のハチを待つだけ。

 

 

「パンダはもうオーケーか?」

「はい、シル先輩。いつでも行けます」

「じゃあまず準備運動な。しっかりやるぞぉ」

 

 

 すっかり忘れていた準備運動をシル先輩に手伝ってもらいながら済ませて、軽くもも上げをしながら私はスタート地点に立った。

 ハチも遅れてだが私の横に立ち、肩を回している。

 

 

「っーふぅ……よし。エイティ先輩、私も準備オッケーっス」

「あいよ。シル、ハチも準備完了だぜ。まずはウォーミングアップからでいいか?」

「そうだな。二人とも、始めるぞ」

 

 

 シル先輩に言われて、私たちは頷く。

 私はスタンディングスタートの準備をしているハチに目配せを行うが、ハチは集中して自分の世界に入ってしまったようで気づかない。

 スタートの合図があれば反応するだろうと思い、私もスタンディングスタートの姿勢を取る。

 シル先輩は手を挙げて、カウントダウンを始めた。

 

 

「よし……始めるぞぉ!3……2……1……ゴォーッ!」

 

 

 シル先輩の手が振り降ろされ、同時に私たちはスタート地点から飛び出す。

 芝を蹴飛ばして小幅のストライドでスピードを作る。

 徐々にペースアップして、コースの様子見ができる程度のスピードになったところで、私は隣のハチを見た。

 いや、()()()()()()隣にいるはずだったハチを見たのだ。

 

 

「(あれ……!?うそ、速っ!?)」

 

 

 真横を走っていると思ったハチは、数バ身先にいた。

 明らかに様子見ではないペースで私を突き放していく。

 

 

「(ちょっと……!そういうの、ナシでしょ!)」

 

 

 私もハチに釣られてペースを上げる。

 下見とか様子見とか、そういうのを無視したスピードに一気に加速。

 碓氷と同じ、ぶっつけ本番のような走り方でペースを上げた。

 だけど……

 

 

「(なん、で……!?)」

 

 

 いつも秋名の直線で出しているようなスピードのはずなのに、ハチとの距離が開いていく。

 直線だってコーナーだって、今まではハチと並走していたはず。

 なのに今のハチは、圧倒的なスピードで独走していく。

 

 

「(何よソレ!そんなに速くなったなんて、聞いてないんだけどっ!?)」

 

 

 ハチの後姿がどんどん小さくなっていく。

 無理に足を回したところでスピードが上がるわけでもなく、何バ身あるかわからない程の大差をつけられたまま、スタートから1000mの場所を過ぎた。

 それとほぼ同時に、ハチが失速し始める。

 

 

「(あぁ……いつものアレは同じか。びっくりした……)」

 

 

 徐々に縮まる私とハチとの距離。

 だけど、その距離が無くなるまでの時間は、いつもよりもはるかに長かった。

 いつもならば失速してからすぐに私がハチを追い抜いていくのに、今回は追い抜くまでに十秒近くかかった。

 隣を過ぎていくハチを横目で見て、私は様子見のペースに戻る。

 

 

「(ハチ、いつの間にあんな力を付けたんだろ?私よりも先にトレーニング始めたのは知ってたけど……後で聞かなきゃ)」

 

 

 私はハチを置き去りにしたまま、コースを駆け抜ける。

 スタートからここまでは直線ばかりだったが、少しコーナーが増え始めた。

 しかし前半はどれも緩いコーナーで、私が得意とするタイトなコーナーは後半に集中している。

 

 

「(こんな感じのコースね。相手……カフェさんが直線に強い人だと……勝ち目は薄いかもしれないなぁ)」

 

 

 そんなことを考えつつ軽く走っていると、ゴール地点である妙義スカイパークが見えてきた。

 私は徐々に減速して、妙義スカイパークの駐車場で一度足を止めた。

 

 

「……勾配もそこまでキツくないし、コーナーも緩いのが大半。秋名と碓氷と違って、コース的に苦戦しそうな気がするなぁ」

 

 

 首に巻いていたタオルで額の汗を拭きとり、私はスタート地点である第一駐車場へと戻る。

 ダウンヒルの逆だからもちろんヒルクライム、私の体力は問答無用で削れる……そう思った。

 

 

「……あれ?」

 

 

 緩い坂だからか、体力の消耗は少ない。

 だけどこの登りですら猛進できるほどの力は無いから、トレーニングの成果が出たわけではなさそうだ。

 私は小走りで来た道を戻り、十分と経たないうちに第一駐車場へと着く。

 そこには途中で引き返してきたであろうハチが、地面に座り伸ばした脚を冷やしていた。

 

 

「戻りましたー。エイティ先輩、ハチは大丈夫ですか?」

「おうパンダ。ハチはいつもの。問題無ェよ」

「そうですか。……ハチ、ちょっといい」

 

 

 ハチの了承を得ずに、私はハチの前に腰を下ろした。

 私の行動に、ハチは首を傾げる。

 

 

「ん?どしたパンダ?」

「ハチ……いつの間にあんなに速くなったワケ?私、ハチがそんなにトレーニングしてたのなんて知らなかったんだけど」

「あぁ……そりゃまあ、言ってなかったし」

「な、なんでよ!教えてくれたってよかったじゃん……一緒にトレーニングとか、したかったのに」

「……今までが悔しかったからさ、見返してやりたくて。シル先輩もエイティ先輩も、黙っててくれてありがとうございますっス」

「んなっ!先輩二人とも知ってたんですか!?」

 

 

 私たちの後ろにいる二人を睨むと、二人は知らんぷりをするようにそっぽを向いた。

 エイティ先輩に至ってはヘタクソな口笛を吹き始める始末だ。

 

 

「私だけ仲間外れだったってコトじゃないですか!みんなして内緒話なんて……ズルいですよ!」

「落ち着けってパンダ。ハチはお前に勝ちたくって……」

「口笛ヘタクソならやらないでください!」

「ぱ、パンダが冷たい!」

 

 

 エイティ先輩の慰めを振り払って、怒髪天を衝きそうなほどの怒りを鎮めるためにも、私はスタート地点に立った。

 数回ジャンプして膝を慣らして、大きく息を吐き出す。

 湯気が出そうなほどの怒りの混じった空気を肺から全部出して、新鮮な空気を新たに取り入れた。

 季節は夏、吸い込んだ空気も熱い。

 無意味な呼吸にも嫌気がさして、八つ当たりのように荒い口調でシル先輩を呼ぶ。

 

 

「シル先輩!タイム計測!」

「あっ、ハイハイ」

「ハイは一回!」

「ぱ、パンダが厳しい!」

 

 

 私は耳を畳んだ状態で再びスタンディングスタートの体勢を取り、シル先輩の合図を待つ。

 眉を八の字にして目の前の直線を睨んでいると、隣に誰かが立った。

 ハチだ。

 

 

「今回も1000mまでは勝たせてもらうよ、パンダ」

「……今度は絶対に負けない。ハチに負けてたまるもんか!」

「んなっ……!言ったな!もー許さない!絶対に勝つ!」

 

 

 ハチに睨みを利かせて、シル先輩の合図を待つ。

 一回目よりも脚に力が籠っていて、今のまま始まればロケットスタート並みの良いスタートができるはず。

 自然と拳にも力が入り、上半身と下半身の力の入り具合のバランスも十分だ。

 

 

「よし。カウント始めるぞ!3……2……1……ゴォーッ!」

 

 

 シル先輩の腕が振り下ろされ、ハチと同時に弾丸のようにスタートラインから飛び出して行く。

 

 全力を尽くしたのに、結果は負けだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……ふぅン?あの隣のウマ娘……ハチゴー君と言ったか。意外に速いじゃないか」

「……覗き見とは、悪趣味です」

 

 

 私たちは妙義山の各所に設置しておいたカメラのライブ映像を、いつもの部屋でコーヒー片手に見ていた。

 タキオンさんは砂糖のたっぷり入った紅茶だ。

 相手であるパンダトレノさんは、並走相手のハチゴーさんに1000m地点まで手も足も出ず負けている。

 事前の情報として、ハチゴーさんは何らかの障害によって一定距離以上を走ることができないと知っていた。

 

 

「……ハチゴーさん、凄く速いですね。彼女、スプリンターですか?」

「うーん。情報だと確かにその通りだが、身体の作り方はステイヤーに寄っている。ハチゴー君は一体どこを目指しているんだろうねぇ?」

「……パンダトレノさんは、タキオンさんから見てどう思いますか」

「……端的に言おう。大した相手では無さそうだ」

 

 

 紅茶をすすりながらPCを触り、録画中の別アングルの映像を複数出した。

 少し巻き戻して、パンダトレノさんが走るところを流す。

 コース中盤のコーナーが連続する区間だ。

 

 

「妙義のこの区間は緩いコーナーが殆どを占めている。彼女はコーナーが速いと言っていたが、この程度の緩いコーナーではその実力は発揮できていないようだねぇ」

「……そうなんですか?」

「ああ。秋名山でのデータでも、この程度のコーナーでは大してスピードは出ていなかった。もちろん、他のウマ娘に比べれば格段に速いが」

「……速いんじゃないですか」

「そんな顔をするなカフェ。君の脚ならば追いつける。最初に前に出て、序盤の直線とこのコーナーで突き放す。後は逃げ切るだけだ」

 

 

 カップを傾けて紅茶を飲み干し、新しい紅茶を作りに行ってしまったタキオンさんに、私は若干の不安を覚えた。

 確かに、映像で見る限りでは大した走りではないのはわかる。

 しかし彼女に対しての油断が足をすくわれる原因になっているのは、過去のバトルから見て間違いない。

 彼女に対して最大限の対処法を、一つではなく複数用意しておくのが、確実な勝利への近道と言えよう。

 

 

「……タキオンさん」

「ン?なんだいカフェ」

「……もう少し、作戦を練りましょう。パンダトレノさんは……間違いなく一筋縄ではいきません」

 

 

 そう言うと、彼女は不敵に口角を吊り上げる。

 そして、高笑い。

 

 

「ハッハッハ!カフェ、私がそんな無能だと思わないでくれたまえ!作戦は既にいくつか用意してある」

 

 

 彼女はスマホを取り出して、画面を操作した。

 それとほぼ同時、私のスマホが震える。

 タキオンさんからのメールだ。

 

 

「パンダトレノ君の攻略策をまとめて送っておいた。確認して頭に叩き込んでおきたまえ」

「……そんなので、いいんですか?」

「なぁに、書いてあることはいたって単純だからねぇ。私の説明すらいらないよ」

「……わかりました」

 

 

 送られてきたファイルを開き、文章の羅列を一つずつ読んでいく。

 作戦の数はタキオンさんが言葉ばにした作戦を含めて三つ。

 一つは先の通り、先行して逃げ切る。

 二つ目は突き放さず突き放されず、体力をできるだけ温存して最後の200mの直線で勝負をかける。

 三つ目は相手を先行させて中盤の緩いコーナーで差し、相手を動揺させたところで突き放す。

 

 

「……どれも序盤の動きが違いますね」

「ああ。選択できるのは最初の直線が終わるまでだと考えたまえ」

「……わかりました。では、バトル当日までに形にしましょう」

「そうするとしよう。それではカフェ、後でトレーニング場で会おう」

 

 

 ではまたと言い残し、タキオンさんは颯爽と部屋から出て行ってしまう。

 それを追って私も部屋から出て、まっすぐ更衣室へと向かった。

 

 お友達を追う前に、追い越すべき相手はたくさんいる。

 そのうちの一人で手間取るわけにはいかない。

 いつか、お友達すらも追い越すために。

 





ハチがメチャ速かったのは、パンダが峠向け汎用トレーニングをしているのに対して、ハチは自身専用のトレーニングをしているからです。

リコリス・リコイルを今更ながら全話見て、見事にハマりラノベの方も買ってしまいました。
未だにシングレは積んでいます(早く読めよ…)
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