少し遅くなりました。
就活を頑張っています…そろそろ就職しないと5月に来る車検と自動車税が払えなくなるから…
スイスポちゃんに乗れなくなるのは困る…しんでしまう…
カフェさんと妙義でバトルをする日の朝、私はいつも通り配達をしていた。
既に二回目の配達を終え、今は帰りのダウンヒルの最中。
数日前まで息も絶え絶えになりながら走っていたけれど、数日もすれば身体が勝手に適応してくれる。
順応という生まれつき備え付けられている機能の優秀さに驚愕しつつ、私は溝落としを確実に決めて秋名の下りを攻める。
「(体力が増えたというより……使い方が変わったってカンジがするな。数日で劇的に体力が付くなんてこと無いだろうし……)」
溝落とし、そしてドリフト走法の両方を使いつつ、私は目標タイムギリギリで秋名を下りきった。
少し明るくなってきた空が照らす道を、早歩き程度のペースで家へと向かう。
家の近くまで来ると、母さんが外で何かしているのが見えた。
洗車だ。
「ただいま母さん。洗車なんて珍しいじゃん」
「おかえりパンダ。修理に出す前に綺麗にしてるだけ。汚い状態じゃ人に渡せないわよ」
「えっ、また修理!?もうどっか壊れたの!?」
「この子はもうウン十年も前の車よ?そりゃ壊れるわよ。どこもかしこも、もうボロボロよ」
母さんはインプレッサのボンネットを指で叩く。
私が産まれる前から……お父さんと結婚する前からずっと乗って来た相棒を、母さんは手塩にかけて維持している。
でも最近は、母さん自分の手に負えない故障がいくつも出てきたようで、度々ハチの親が営んでいる修理工場に持ち込んでいる。
剝がれ始めている純正ステッカーが母さんと共に走ってきた年月を物語っていた。
「……そんなに故障ばっかでさ、手放すとか考えないの?」
ふと出てしまった言葉に、私は咄嗟に口を押える。
その仕草を見た母さんは小さく笑い、インプレッサのルーフを撫でた。
「こいつはね、お父さんよりも長い付き合いなの。それに、お父さんとの思い出の詰まった……お父さんと一緒にいた証明でもある。だから、手放さないわ」
「……秋名に芝が敷かれる前、バトルしたの?」
「ええ。結局最後まで勝てなかったけどね」
「母さんよりもお父さんの方がやっぱ強かったんだ」
「腕っぷしは負けなかったわ」
「人間がウマ娘に力で勝てるわけ無いじゃん。お父さんかわいそ」
「喜んでたわ」
「え、変態じゃん」
自分の親の知らぬ一面をさらりと述べられ、少し幻滅してしまう。
そんなことを忘れようと、私は下着を求めて自室へ向かった。
タンスからトレーニングで使う着替え一式と今すぐ使う下着を持って風呂場へと行く。
汗で塗れたジャージを洗濯機に放り、産まれたままの姿で風呂場に入りドアを閉めた。
「……今日か」
シャワーの栓を捻って最初に出るのは水だが、それにももう慣れた。
熱の籠ったままの身体を一瞬で冷却して、お湯で身体を労わりながら汗を流す。
頭から流れるお湯は髪を伝って床のタイルに落ちる。
目の前の曇った鏡を手で拭いて、私は自分の顔の様子をうかがう。
「……いけるかな、私」
鏡の中の私が返事するわけも無く、ただ鏡の中の私は私の瞳を見つめる。
何度か走り込んだものの、結局どういった走りを妙義ですればいいかはわからなかった。
つまり、本当にただの下見で終わってしまったのだ。
要所要所でのポイントは掴めたものの、それが決定的なナニカになるわけはない。
走り込みで見つけられたのはその程度のもの。
「私の脚なら……ううん、やっぱ後追いで行くしかないよね」
再び曇り始める鏡にシャワーのお湯をかける。
いつもの私が映る鏡に向かって問いかけた。
「……うん。後追いで……いつも通り、ね」
シャワーを止めてシャンプー類を全て済ませて、長い髪を纏めて絞る。
滴る水を頭を振ってから風呂場を出て、身体を手早く吹き上げた。
スキンケアもささっと済ませていると、家の外からクラクションが鳴らされる。
おそらくエイティ先輩だろう。
「パンダー、エイティちゃんの車来たぞー」
「はーい!すぐ行くから!」
下着を着てジャージを着て、髪をすぐに乾かして弁当を回収しにリビングへ。
スクールバックに着替えの下着とジャージ、弁当と水筒……そして勝負服をカバンに入れ、ライトを手に持って家を出る。
玄関前ではエイティ先輩が母さんと話していた。
「最近ミッションから変な音がして……ようパンダ。オハヨ」
「おはようございますエイティ先輩。今日もよろしくお願いします」
「あいよ。んじゃパンダの母さん、行ってきます」
「頼んだわエイティちゃん。行ってらっしゃいパンダ」
「うん。行ってきます」
バッグをラゲッジスペースに入れて、エイティ先輩の車の助手席に座る。
エイティ先輩は母さんに会釈してから走り出す。
今日最初に向かう先は群馬トレセン。
明るいうちにコンディションやゴム蹄鉄の調節を済ませる予定だ。
「なんか……あんま天気良くないっスね」
窓の外を見てハチが言った。
エイティ先輩以外の全員が窓から空を見上げると、どんよりとした雲が陽を遮っている。
シル先輩がスマホで降水確率を確認したらしく案じ顔を浮かべた。
「降水確率……うげ、夜百パーセントじゃん」
「マジかよシル……どうすんだこれ。バトルできんのか?」
今にも降り出しそうな雲に全員が不安がる中、私はそこまで心配していなかった。
降る降らないという意味ではなく、別に雨の中でバトルも問題ないという意味だ。
「カフェさんがやるって言うなら、私は別に構いませんけど」
「パンダ!夜の雨は危険なんだぞ!ライトが照らしてくれる目の前以外は全く見えないし、滑りやすいし……とにかく、危険なんだぞ!」
「あの……シル先輩。私、雨だろうと雪だろうと配達してるんで……」
三百六十五日休まず配達している私からすれば、雨だろうが雪だろうが走り方が少し変わるだけなためコレといった問題は無い。
私の言葉を聞いた途端に頭を抱えるシル先輩に、私は碓氷で走る前の姿を連想してしまう。
私の得体知れなさに呆れていると言うべきか。
「……ほんっと、パンダのテクは底知れないな……」
「毎朝やってれば自然とできるようになりますよ。シル先輩もやります?登りと下り、往復約16000mの配達」
「朝からそんなのやったら私死んじゃうわ!」
乗り出して叫ぶシル先輩にエイティ先輩が「シルならクラッシュして死ぬな。体力切れじゃなくて」と嘲笑しながら言い、それに激昂したシル先輩は運転中のエイティ先輩の頭を後部座席から攻撃する。
両手が塞がっているせいで反撃もできず、エイティ先輩の頭は瞬く間にクシャクシャになっていく。
額と腕に青筋を浮かべて震えているエイティ先輩がシル先輩にどう反撃するかを想像しながら、私はいつの間にか降り始めた空を眺めていた。
* * *
時間は経ち、夜。
私たちは予定通り21時に集合場所である妙義第一駐車場に到着した。
車を停めると、先に来ていたタキオンとカフェさんが傘をさしたまま近寄って来る。
彼女らはタクシーを使ってここまで来たらしく、少し離れた所にタクシーが待機していた。
帰りも使うつもりなのだろう。
「こんばんはパンダ君たち。待っていたよ」
「お待たせしましたタキオンさん。それにカフェさんも」
「……こんばんは」
私たちは車から降りて、土砂降りの中で対面する。
この後で濡れることが決定している私は傘をささず、降る雨は勝負服の帽子によって弾かれる。
視界が直接妨げられることは無い。
「さて、役者は揃ったね。バトルは並んでのスタート、先にゴールした者が勝者だ」
「わかりました。それじゃ私は準備運動させてもらいます」
「ああ。カフェもちゃんとしておくように」
「……わかりました」
私はカフェさんと先輩たちから離れて屈伸などの基本的な準備運動をする。
カフェさんも専用の勝負服を着てきたようでいつもと違う雰囲気を醸し出している。
彼女の勝負服は黒を基調としているスーツのようなものだ。
光の反射によっては金色のようにも見える橙色のラインや刺繍が多くされており、黒にワンポイント色を増やしたジャージのようにも見える。
準備運動を終えた彼女はタクシーに一度戻り、ライトを手に持って帰って来た。
「……それが、カフェさんのライトですか」
「はい……S14シルビアのモデルです」
「オレンジ色が綺麗ですね。その勝負服によく似合っています」
「……どうも」
あまり盛り上がらない会話を切り上げて、私もエイティ先輩の車にライトを取りに行く。
リアハッチを開けて目の前に現れる相棒を掴み、すぐに腰に装着する。
若干重くなった私の総重量に脚を慣らすために何度かジャンプ、もも上げをして身体全体を温めた。
血流が良くなるのを自覚できるほどの脈動を全身で感じながら準備運動を終える。
カフェさんも準備運動が終わったようで、小走りでタキオンさんたちの方へ向かっていった。
濡れたことで光沢の増した勝負服は見事に周囲に溶け込み、勝負服の橙色のラインと黄金に怪しく光る瞳だけが暗闇の中で彼女を認識できる要素だ。
「大丈夫……ここまで短かったけど、私だって頑張ってきたんだ」
私は準備運動以外の要因で早くなった鼓動を抑えるように胸に手を当てて、自分に言い聞かせる。
深呼吸を繰り返していくうちに掛かり気味だった精神が落ち着いてきたのか、全身の強張った筋肉は弛んだ。
「……よし。行こう」
両頬を軽く叩き、カフェさんの背を追ってタキオンさんたちの会話に入る。
私たちの影に気づいたタキオンさんは傘の死角から顔を見せる。
「おや。二人とも準備運動は終わったのかい?」
「……はい」
「終わりました。私はいつでも行けます」
タキオンさんの質問にカフェさんと同時に答える。
自然とカフェさんの顔を見てしまい、それは向こうも同じで目が合う。
「二人とも準備完了ということだね。それじゃあ早速始めようじゃないか」
「……アナタには、負けません」
何を考えているかわからなかった黄金の瞳に明確な意思が映り、私を睨む。
ホンモノのアスリートウマ娘のプレッシャーは、地元の奴らとは比べ物にならない。
雨のおかげで誤魔化せているけれど、冷や汗が止まらないのは紛れもない事実。
「私だって……負けませんよ、カフェさん」
私は力のこもった拳を解いて、カフェさんとスタート地点である駐車場入り口の芝の境目に並んで立つ。
妙義にはゲートが用意されていないため、声によるスタートとなる。
タキオンさんはスタート地点より少し先で、私とカフェさんの間にあたる場所の直線上に傘をささずに来る。
スタート合図を出すためだ。
「スタートの合図は私……このアグネスタキオンが務めさせてもらうよ。二人とも、準備はいいかい?」
タキオンさんの問い掛けに私とカフェさんは無言で頷く。
「シルビア君、ドローンの準備は整ったかい?」
「はい、いつでも行けます」
「よし。では自動追従モードで二人を捉えてくれ」
少し離れた位置からドローンが飛んできて、私たちの頭上で雨をプロペラで切る音が耳に飛び込んでくる。
「改めて説明するが、今回のバトルは並走形式。スタート直後に先行した者が後追いからゴールまで逃げ切れば勝利。もしくは、後追いの者が先行を差し切れば勝利。要はゴール時点で先を走っていた者が勝者となる。いいね?」
条件が事前に聞かされていた物で間違いなく、ライスさんとのバトル以外ではいつもこの勝利条件だった。
ある意味、一番やり慣れたバトル形式と言えよう。
「この妙義にはゲートが存在しないから、スタートの合図はレースのものよりも正確ではないだろう。少しの遅れが大きな差になると心得たまえ。……それじゃあ、始めようか」
タキオンさんは手を掲げて、指を広げる。
五秒カウントということだ。
私は練習時と同じようにスタンディングスタートの姿勢を取り、スタートの合図を待つ。
「カウントを始める!5……4……」
握られた拳に力が入り、前に出している足の踏み込みが強く芝に少し埋もれる。
カフェさんの脚元からも芝と擦れる音が雨音に交じって聞こえてくるが無視。
ここからは自分の世界に入らなければ、勝利は無い。
「3……2……1……」
雨のせいで遮られている帽子のツバの向こうの景色を睨み、タキオンさんの最後の言葉を待つ。
一秒にも満たない待ち時間はスローモーションで進み、雨粒すら遅く見えたのに、合図の瞬間に全てが加速した。
「ゴォーッ!」
いつもの合図に反射して、私は地面を蹴り飛ばす。
瞬間的に加速する視界に慣れるのにそう時間はかからず、見えた目の前の景色にはカフェさんの背中があった。
私は後追いのポジションであり、それは理想だ。
「(やっぱ……中央の人達は速い!)」
毎度のごとく直線で離れていく背中を、私は必死に追うしかできない。
どんなハードなトレーニングと言えども一週間で成果が出るはずがないのだ。
どんどん小さくなる背中を、私は必死に脚を回して追いかけた。
次回からVSカフェ戦開始です。
原作のイニDの賢太はあっさり負けますが、カフェにはもう少し頑張ってもらいます。
でも長ったらしく書くのがめんどくさくなってきたので、二話分で終わらせられるのが理想と考えています。
最近一番欲しい車がフェアレディZ Z31の中期型の200ZRなんですけど…普通に考えたら新型を選ぶ方が賢いんだよなぁ…ってなってます。
旧車は維持が大変というのが一般論ですからね…
見た目ではZ31が一番好きなんですけど、それだけで維持できるほど簡単ではないそうなので…就職してスイスポちゃんの借金返し終わったら頑張って貯金しよう。
そのためにもまず就職しよう()