お仕事始まった途端に更新速度が落ちるマン。
まとめて投稿しようと思いましたが、やっぱ一話できたら投稿という形でやっていきます。
それでは、First stageのラストバトル、開始です。
走り始めていくつかのコーナーを過ぎた頃、私はあることに気づいた。
後ろを走るルドルフさんが全く抜こうとしてこないことに。
どういう意図があってなのかは不明だが、これは思っても無いチャンスだと私は加速する。
勿論ルドルフさんも追いかけてくるワケで、直線では張り付かれたままだ。
「(なんで後ろに……? わかんないけど……前にいるうちに逃げ切るしかない!)」
コーナーで差を付けてやる、そう意気込んで飛び込んだコーナーだったが、出口を過ぎてもルドルフさんと私の距離は全く広がらなかった。
まだバトルは序盤で、勝負を仕掛けるようなコーナーではないからいいものの、普段ならここで少し差が出来ていたか、もしくは先行に近づけいていたはずだ。
だというのに、ルドルフさんは全く離れないどころか寸分の差も作らず同じ距離を保っている。
少しも離れず近づかず、ライトの照らす位置も変わらない、全く同じ距離。
何故こんなことをしているのか、理解が追いつかない
「(距離を詰めようともしない? 抜けるポイントはいくらでもあったハズなのに……)」
不気味にすら感じるルドルフさんを突き放すべく、いつも以上に脚を回して直線のスピードを稼ぐ。
ストライドも大きく広げて走るものの、そんなスピードで逃げられるとでも思っているのかと言いたげな顔で、ルドルフさんは私を追走する。
常に一定の距離を保って。
後ろから聞こえてくる足音、照らされるライトの光が離れない。
ずっと視界の中にあって、耳から離れない足音が私を射程圏内に捉えていることを示威してくる。
絶対に逃がさない……そんな確固たる意志が私との距離に表れているのが嫌でもわかり、それが私の走りに対してのテンションを低下させる。
突き放せない、逃げられない。
無意識のうちにそんな言葉が頭の中で反芻して、私の走りの精度はどんどん落ち込んでいった。
「(ふ、振り切れない!)」
走っても走っても消えない足音。
離れないその音がある限り、自分の走りに集中できるわけがない。
そんな言い訳をして初めて自分の状態を把握できて、ようやくルドルフさんが後ろに着いた理由が理解できた。
プレッシャーを掛け続けることによって集中力を削ぐ、通常のレースで使われる一つの技術だ。
力強さによって相手を委縮させる方法もあるのだが、今回は決して距離を作らないことによるプレッシャー。
逃げられないという思考に相手を持ち込ませることによって無茶な走りを誘発させる……峠バトルのようなコーナーが連続するコースにおいては、非常に有効な技だ。
「(プレッシャーが……これが、皇帝……)……ッ!?」
急に足元が滑った。
一瞬だけだが体勢が崩れ、一気にスピードが落ちる。
何が起きたのか……周囲を見てみると、青葉がちらほらと落ちている。
どうやら落ちていた青葉を運悪く踏んづけてしまったらしい。
ここ最近、秋名山のコースのガードレールから飛び出た木の枝の剪定が行われていたが、おそらくその際に落ちた葉なのだろう。
立て直してトップスピードに戻るまで数秒も要してしまい、ここで抜かれる……そう思ったのだが──
「(……? なんで、抜いてこないの!?)」
ルドルフさんは私が大勢を立て直すのを待つかのように減速して、私の背中にピッタリ付いたまま。
何がしたいのか、動揺して集中力が途切れかけている今の私の思考では、決してその結論にはたどり着かない。
ただただ困惑して、走りの精度を辛うじて保ちながら焦ることしかできない。
「(ヤバい……私、集中力ズタズタだ……)」
理解できないことから来る焦りは解決できることは無く、ただ頭の中が渦巻くだけ。
もう諦めて前だけ見て走ろうとしても、ルドルフさんの足音がそれを許さない。
いっそのこと抜いてくれればどれだけ楽なことだろうか……それは私の負けが確定した時だろう。
「(いくらすっ飛ばしてもピッタリくっ付いてくる……突き放せない……!)」
得意なコーナリングを今まで以上のスピードでクリアしていき、その勢いで直線のスピードを稼ぐものの、ルドルフさんはしっかりと着いてくる。
練習では出せなかったスピード領域で走れているのに、ルドルフさんはそれを軽々と越えることができる余裕があって……だけど超えてこない。
前を走っているのにもどかしい、後ろが気になって仕方がない。
私が走る道をそのまま追跡して、私以上のスピードで走って来る。
まるで身体能力の差を見せつけるように。
「(ダメだ、逃げられない……! シンボリルドルフさん……やっぱり、私なんかが敵うような相手じゃなかったんだ……!)」
後ろのライトの光が私のライトの光と重なる。
戦意の低下のせいなのか、走っているスピードに目が追いつかなくなってきて、小さなミスがいくつも起き始める。
後ろからの情報全てが、私にとってプレッシャーだ。
「(負けたくない。だけど……私は、負ける……ッ)」
安定しない走りのまま、私はコース後半の低速セクションへと突入した。
* * *
秋名山の山頂。
二人がゲートから飛び出してすぐ、いくつもの悲鳴と歓声が交錯していた。
「よっしゃァ! パンダが先行したぞォ!」
「いっけぇパンダーッ!」
「そのまま突き放せーっ!」
「会長が……後ろに!?」
「ウソ……どうなってるのよ! なんでルドルフ会長が後ろなの!?」
「まさか出遅れ……? 会長に限ってそんなこと……」
群馬トレセンと中央トレセンで意見が真っ二つだが、そんな中、ボクは冷静だった。
いつもカイチョーを近くで見てきたからこそわかる……あれは、そういう作戦だ。
「あれはいつものカイチョーのやり方。ここ一番っていうレースではわざと相手に先行させて、勝負所でぶち抜く……そうやって、今まで勝ち続けてきたんだ」
「あれが……いつものやり方?」
気付けばハチちゃんが隣にいた。
その近くには彼女の先輩二人もいて、どうやら三人でモニター前の群衆から抜け出してきたらしい。
ハチちゃんの疑問に、私は頷いた。
「そうだよ。普通のレースでも、峠バトルでも……そうやってカイチョーは勝ち続けてきた。手を抜くときはもちろん無いけど、本気の時は差しの作戦で行くんだ」
「差し……確かに、レース記録のほとんどが中団からの差し切りで勝ってた……」
「うん。カイチョーは差しが一番強いんだ。あのプレッシャーに耐えられるウマ娘がいるなら……多分、レジェンド級のウマ娘だけだよ」
レジェンド級のウマ娘と聞いて真っ先に頭に浮かんだのはマルゼンスキーさん、ミスターシービーさん、オグリキャップさん……他にもまだいるだろうけど、きっとカイチョーと張り合えるウマ娘はそういないだろう。
その中にパンダちゃんが含まれるかと言われれば……申し訳ないが、首を横に振るしかない。
大型スクリーンに映し出されるカイチョーの後姿と、その前を走るパンダちゃんの背中。
余裕な走りを見せ続けるカイチョーと反対に、パンダちゃんの背中からは焦りが目に見える。
「……パンダ」
「あの走り……マズいんじゃねぇのか? どう思うシル?」
「明らかに危ないよ……頼むから、怪我だけはしないでくれ……」
祈るように目をきつく閉じて手を合わせる三人だが、今の調子のままだとそれが現実になってしまう可能性は決して低くはないだろう。
始まってからまだ中盤にすら差し掛かっていないのに、既にカイチョーからのプレッシャーに押し潰されかけているのか、パンダちゃんの走りはもう安定していない、フラフラだ。
しかし───
「……確かに走りはフラフラだけど、しっかり時計は出てる……流石だよパンダちゃん」
スクリーンの端に映るタイムはボクが秋名山で作ったタイムよりもはるかに速く、このまま走り続ければボクのタイムよりも7~8秒早いゴールとなるだろう。
だけど、カイチョーが相手な以上、このままというのはあり得ない。
そう思っていた矢先、スクリーンに映るパンダちゃんの姿勢が一瞬崩れて速度が落ちた。
何が起きたのかはわからないけれど、カイチョーにとって絶好の機会なのは変わらない。
今のうちに、そう思ったのだが、カイチョーは一向に抜く気配を見せなかった。
「……? なんで抜かないの?」
先程までなら様子見や相手を後ろから牽制というった意味もあり、抜かなかったのも頷けた。
しかし、今抜かないのは理解ができない。
何の意味があって抜かないのか……ボクには、理解ができなかった。
「……もしかして、走りをコピーしてる?」
ふと気づいた二人の走り。
カイチョーを後ろから追いかけた経験は少ないけれど、今スクリーンに映っているカイチョーの走る後ろ姿は、ボクの記憶の物とは違う。
よく観察してみれば、先行するパンダちゃんがまるで二人いるかのような錯覚に陥るほど、カイチョーのパンダちゃんの走りの模倣は完璧だ。
だけど決定的に違うのは、筋肉の使い方。
「パンダちゃんは軽く走ってるのに、カイチョーはかなり力強く走ってる……? どうして……! そうだ、体重の違いだ!」
カイチョーはトゥインクルシリーズの頂を手にするほど強く、その分筋肉量も比にならないほどで、更に下半身とのバランスを取るために上半身もしっかり鍛えてある。
総合すれば、あまり口に出したくない程の体重はあるはずだ。
それに比べて峠ウマ娘であるパンダちゃんの身体は、完全に峠向けの仕上がり。
少量の筋肉に超長距離を走るための軽量な身体……そのメリットは、小パワーでも軽快な走りができること、そしてコーナリングスピードの向上といったところだろう。
だが、その二つ以上にカイチョーに対して優位に立てる部分が一つある。
「……体重が軽いことの最大のメリットは、ゴム蹄鉄の消耗を抑えられること。パンダちゃんの体重なら急なコーナリングでもゴム蹄鉄に掛かる負担は少ない。だけど、体重のあるカイチョーがパンダちゃんのラインを同じスピードで走れば、今みたいな力のいる走りにならざるを得なくなる……そうなればゴム蹄鉄の負担も……」
後半の低速セクションではこの差が顕著に出ることだろう。
仮にどこかでカイチョーが前に出たとして、その時には既にゴム蹄鉄は熱ダレしてしまっているはず。
そうなれば、パンダちゃんにも勝機が見えてくる。
「……カイチョー」
始まった時には信じてやまなかったカイチョーの勝利は、今やどちらが勝ってもおかしくない状況になっている。
そして、それに気づいているのはボクとトレーナーとハチちゃんたちだけ。
ボクらはもう、あの二人を見守ることしかできない。
* * *
走り始めてから一つ目のコーナーを抜けてすぐに気づいたことがあった。
初めて彼女の走りを生で見た時は存在していた、弱点のような物が無くなっていたことだ。
「(ほぅ……以前に比べてライン取りが滑らかになっているな。バクシンオー君の時まではグリップ走法しか使っていなかったのに、ドリフト走法を覚えた途端にこれか……戦々恐々だな)」
彼女自身のセンスというのもあるのだろうが、一番目を張るのはその応用力。
今の緩いコーナーですら少し足を滑らせて方向転換や減速を同時に行っている。
滑らせて方向転換、および減速はドリフト走法の基本だが、ドリフト走法そのものは急なコーナーで行うものというのが峠で走る者の共通認識だ。
だというのに彼女は序盤の緩いコーナーでもその技術を使っている、それもグリップ走法よりも確実に速いタイムを残して。
「(唯一と言える欠点が消えてしまうとは……不思議なウマ娘だ。まだ本格的なバトルを初めて半年も経っていないというのに。……彼女は一戦ごとに、確実に進化しているということか)」
短期間でここまでの成長をしたことに、私は舌を巻くと同時に、彼女に才能があることを認めざるを得なくなった。
しかし才能と一口に言うのは簡単なことだが、実情はそれだけではないだろう。
テイオーから始まったバクシンオー君、ライスシャワー君、マンハッタンカフェ君の四人とのバトルを経て、彼女が得た経験値はあまりに大きいはずだ。
「(作戦を少し変更する必要があるな……徹底的に追い込んで、テンションが下がり切ったところで確実に勝ちに行く)」
中央トレセンの名のあるウマ娘四人を倒したことで多少なりとも自信がついているはずだ。
その鼻を折ってモチベーションを崩す……それが、最も勝率が高い作戦だろう。
あまりクリーンとは言えないが、レースでは当然の駆け引きだ。
パンダ君が得意なコーナリングも、パワーさえあれば十分に付いて行ける。
芝に沈む脚にグッと力を込めて、蹴飛ばすことで弾丸のように加速する私は、パンダ君を逃すまいと接近した。
ゴム蹄鉄への負担は相当だろうが、彼女にプレッシャーを与え続けるならば仕方のないことだ。
「(さて、着眼大局の判断を以て見せてもらおう……君の走りを…君の走りへの情熱を!)」
私は芝を抉れるほどのパワーを以て蹴飛ばして、グンと加速していく。
ふらつくその背中から見えるテンションが完全に折れるまで……決して、逃がさない。
カイチョーっょぃ…
最近模写にハマっておりまして…実はそっちに時間を割いてたりしてコッチの更新が遅くなったりもしてるんです。
お仕事は確かに体力的にキツい所もあるけれど、ほぼずっと座ってるだけなんで…
溶接のお仕事を始めたので、成長して腐った車を直せるようになりたいです。