ようやく就職先も決まり、纏まらない思考で書いてたこれも一段落できたので稚拙な上に短いですが投稿です。
以前の通り、賢さSのバクシンオーです。
私はスタートを切ってすぐ、パンダさんを置き去りにして単身で峠を駆ける。
短い直線の終わりにすぐ迫るコーナーは既に一度下調べがてら走っているため、走り方はわかる。
コーナー入り口より前で緩やかに、しっかり減速して最適なラインの上を走り、コーナーの真ん中辺りで加速を始める。
いわゆる立ち上がりと言うもので、それを完璧にこなすのが優等生の私と言うもの。
「(フフン、流石私です)」
下り故にスピードはターフの短距離を走る時以上に出ているが、全力での走行ほどは力は出していない。
ダウンヒルと言えど距離は1200mの二倍、2400mだからスタミナを無闇矢鱈に消費する訳にはいかないからだ。
ここで本気を出してぶっちぎったとして、後半でのペースダウンで追い付かれる、もしくは追い抜かれることは必至。
ストライド走法とピッチ走法の二つを使いこなす上、異常なほど軽い体に化け物のように多いスタミナは、後半になればなるほど脅威度は増す。
仮にテイオーさんに勝っていたとしたら、この尖った実力は後半のコーナー連続区間で発揮されたはず。
「(このバトルの肝は、間違いなくコーナー……!)」
私のスプリンター向けに仕上げたヘヴィ級の体では、コーナーでゴム蹄鉄に大きな負担を強いることになる。
それを避けるためにも、コーナー直前での急制動は可能な限り避けて、緩やかな、かつ完璧なラインを描くコーナリングが必要だ。
「(このバトルでパンダさんに劣っているのは、コーナーへの突っ込みと立ち上がりの加速。ですが直線ならばこちらの物です!)」
この勝負は直線で逃げる私が、パンダさんに追い付かれなければ間違いなく勝てる勝負だ。
しかし私を差しに来るパンダさんの圧倒的な軽さはコーナー、後半に控える低速セクションで100%の性能を発揮する。
対して私は直線番長なゆえ、コーナリングはパンダさんよりも圧倒的に遅い。
前半の有利の要素は、後半では不利な要素でしかない。
「(ですが、ゴム蹄鉄への負担を考慮しなければパンダさんと同等……いえ、それよりも速いコーナリングは実現可能!)」
もう少しで例の低速セクション、4連ヘアピンに入る。
パンダさんとの距離は十分に作ったはず、確認として少し後ろを……
「ちょわっ!?」
少し振り向くと、1対のライトが遠くはない所にいる。
先までの直線と緩やかなコーナーで大きく差をつけたはずなのに、バカなと言う他無い現象が起こっている。
彼女は長距離向けなのに、私のスピードに劣るのに着いてきた。
この事実だけでも、私を揺さぶるには十分だ。
「(なるほど……これは冷静を保たなければ掛かってしまいますね。余裕をこれで揺らされれば間違いなくペースは乱される。本当にテイオーさんが負けたのであれば、原因の一つでしょうね、これは)」
おそらくパンダさんは、フルブレーキからのピッチ走法での加速を行うという、完璧なコーナーへの進入とトップスピードでのコーナリングをこなしたと考えられる。
なぜならば、この走りなら私がゴム蹄鉄を労ったコーナリングよりも遥かに速いコーナリングを実現でき、あの差を簡単に縮めることが出来るからだ。
「(しかし不味いですね……このままではこの後の4連ヘアピンで間違いなく差されてしまいますね。……こうなったら、私もゴム蹄鉄への負担は考えないコーナリングをするしかありませんね)」
もう少しであの4連ヘアピンに突入する。
既に直線は無く、残りはコーナリングでの勝負となるのは目に見えていて、もうそれを回避するには距離が足りなさすぎる。
この勝負の肝である4連ヘアピンのうちいくつかのヘアピンで距離を詰められ、残りのヘアピンで逃げ切らなけれなならないという場面は、予想として既にシュミレーション済みだ。
だけど、そのシチュエーションで行うシュミレーション結果では、常に勝率は低かった。
「(このままのペースではコーナーで呆気な差されるでしょう。ですが、このままやられる訳にはもちろんいきません。あなたが最も得意とするコーナリングで、私も勝負を仕掛けさせてもらいます!)」
ターフにぐっと足を食い込ませる。
先程までよりも前傾姿勢になり空気抵抗を減らし、足に力を込める。
平地とは段違いの加速力が風となって、問答無用で顔面に打ち付けられるが、そんなことは気にする必要はない。
気にするのは、ゴム蹄鉄の減り具合だけにしよう。
「(さあ、始めましょうパンダさん!本当の勝負はここからです!)」
* * *
私とテイオー、ハチ君たちとその他ギャラリーは展望台まで戻ってきた。
私が飛ばしたドローンによるレース撮影を観戦するためだ。
ドローンの自動追尾は後追いをしているパンダ君を映していて、先行するバクシンオー君の背中は、既に小さく映りづらい物となっている。
しかしその分パンダ君の背中は鮮明に映されており、そのコーナリング姿もはっきりとわかる。
「彼女の後ろを見て改めて思ったが……彼女のコーナリングは芸術的だな」
私が感嘆の声を上げると、それはどういうことかとテイオーが首を傾げた。
他の生徒たちはそんなこと気にすること無く、歓声を沸かすのに必至になっているが、その点テイオーは一種の勤勉とも言えよう。
「テイオー、次のコーナリングをしっかり見ておくんだ」
「う、うん……」
首肯したテイオーがじっと画面を見つめるなか、ハチ君たちは既に私がテイオーに走行中のパンダ君を見ろと言った理由が分かっているようで、3人は「おー、やってるわ」と言うだけだ。
その言い様から見て、パンダ君のあの走りは日常的に行われているということが窺える。
「えー……何が違うの?」
「テイオー。足首の動きと上半身の動きに注目してみろ」
「足首と上半身?……あっ」
目を細くして画面を見つめていたテイオーは、どうやら私の言いたいことに気付いたようで、目を大きくした。
頭にたくさんの疑問符を浮かべながらも、観察して分かった事を言葉にした。
これが正解かはわからないけどという前置きをしてだが。
「パンダちゃんがコーナリングしてる時……外側の脚が……ううん、足首の角度が違うように見える」
「具体的にどう違うか、言葉にしてみろ」
「えっと……コーナリング中は体全体が傾くけど、外側の脚の足首だけ地面と平行になってて……うーん、ちゃんと走れてるってこと?」
よく観察できていると、私は素直に感心した。
普通の人はおろか、ウマ娘の動体視力を以てしても殆どが気付くことすらない、ほんの一瞬しか映らない些細な事だからだ。
「半分正解だ。パンダ君はコーナリング中に外側の足首の角度を変えてグリップ力を変化させている。よく分かったな」
テイオーの観察眼を褒めたが、いつもならここで「えへへー」と微笑むはずのテイオーは、まだ考える素振りをしていた。
私の半分正解に引っ掛かったのか、それとも足首の角度以外に気づいたのか。
「……ねぇカイチョー。よく考えたらさ、足首の角度変えたって別に速くなるわけじゃなくない?これって外側に膨らまないためにみんなやることだし。半分正解って、こういう理由?」
まさかそこまで考えられるとは思っていなかった私は、思わず「ほぉ」と声を出してしまった。
私は少しテイオーのことを侮っていたようだ。
私はパンダ君のコーナリングを初めて見た時に思い出した、現役の時の私が最速のコーナリングを求める際にどうすればより速く走ることができるかを自分なりに考えたことを話した。
「その通りだ。テイオー、走るときに重心と軸について考えたことはあるか?」
「重心と軸?……うーん、トレーナーにそれっぽいことは言われたことあるような気がするけど、あんま考えたこと無いかな」
「……これからはしっかり考えること。いいね?」
「う、うん。でもでも、カイチョーがそう言うってことは、その二つがパンダちゃんの速さの秘密ってこと?」
「そうだ。身体全体の軸の安定と、足首で行うグリップ角度の調整。この二つが、彼女の速さの秘密だ」
テイオーは理屈を理解できていないのか、首をかしげている。
それとは逆の反応を示しているハチ君たちは「言葉にするとそういうことか、わかりやすいな」と頷いていた。
目の前で見てきたパンダ君の走りを感覚だけで理解していた彼女たちは、その感覚が言語化されたことで納得したようだ。
トレーナーの話をちゃんと聞いていないからだとテイオーに若干呆れながら、その原理を説明する。
「私たちが直線を走るとき、体の軸は常に頭頂から股を抜ける一直線上にある。なら、コーナリング中はどこに軸があると思う?」
「どこに?……うーん、えーっと。身体が傾いてるから、コーナーに対して内側に傾くんじゃないの?」
「残念だが外れだ。答えは、『
コーナリング中の私たちウマ娘の大半が、常にコーナーに対して内側の肩が下がってしまう。その時点で軸は大きくズレて、安定しない物になっている。その上、軸はそのコーナーの内角によって大きく変わる」
「ちょ、ちょっと待ってよカイチョー!パンダちゃん以外のウマ娘はって、まるでボクもみんなも絶対に出来てないみたいな言い方じゃん!」
パンダ君だけを特別視していると思われたのか、テイオーから猛烈な批判を買ってしまった。
だがこれは正真正銘の事実で、今までターフの上で走るウマ娘、峠を走るウマ娘を見てきたが、私を含めてマスター出来ているウマ娘は見たことがない。
意識を向けなければ改善できないというのに、その意識すればするほど走りへの集中力は削がれ、タイムは落ちてしまう。
この技術は、無意識下で完璧に行うことができて初めて完成する技術であり、それをマスターするには特別な環境、そして膨大な時間が必要となる。
やろうと思って習得できる物ではないと、私は身をもって知っている。
「事実、そうなんだよ。彼女は……ある意味異常だ。体幹とバランスの化け物と言っても過言ではない」
「……そんなに評価してるってことは、その軸とか重心とかって物凄く重要ってことだよね?でも、肩が下がるってどういうことなのさ」
「ヒトの形をした生物の生物学上、走行中に曲がると肩が下がるのは避けようがないことだ。だが彼女は、それを下げないようにして走ることができる」
「だから!それをするとどうして速く走れるのさ!」
私は結論だけを急ぐテイオーの姿を見て、走りにおいてこの子が圧倒的なほどの感覚派であることを失念していたことを認識する。
走りというのは常に理論がつきまとうものだと、彼女の頭からは抜け落ちてしまっているようだということも。
「常に一定な軸と、不安定な軸。そしてそれに合わせて変わる足首の角度と必要となるゴム蹄鉄のグリップ力。
テイオー、一度考えてみるといい。峠の専門家とターフの専門家が、せっかく目の前で討論してくれているんだ。見逃すなよ」
私はわざと解答ではない答えを返し、これ以上テイオーを見ないように腕を組んで目の前のモニターに視線を戻した。
私は私が見届けなければならないものを、すべきことをする。
バクシンオー君が勝ち、事実をテイオーが勝った事に塗り替え、それを望む者たちに歓喜を挙げさせるか。
パンダ君が勝ち、その底の見えない力をターフの者たちに畏怖とさせるか。
走りの世界を揺らがす初風を、この目で見届けようじゃないか。
スイフトスポーツ(zc31s)の1型を買って、さっそくぶつけました。
給油口のすぐ下のクォーターパネルを凹ませ、プレスラインも潰れました。
メンタルやられますわ、学生に板金7万コースはつれぇっす…まあ車体買ったときも親父に借金しただけですがね。
次回でバクシンオー戦は終わります。