毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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人形と人形師

公園でレツから色々と話を聞いた私達はすぐに出立して町から離れた場所に建っていた廃棄された教会に足を運んでいた。如何やら此処が今の二人の拠点らしい

 

人気のない夜の教会と言う如何にもといった雰囲気を醸し出すその重厚な扉を押し広げてレツと一緒に中に入っていく

 

礼拝堂に左右に分けて多数並ぶ長椅子たちの間の道を奥に向かって進み、最前列付近まで辿り着いたところで正面に在る台の袖の部分からくすんだ銀色の髪を腰まで伸ばした神父服っぽい恰好の男が目の前に現れた

 

「ようこそ、我が人形の館へ」

 

ゆったりとした動作で両手を左右に開いた事で、彼の右の手の平に4の数字を背に乗せた蜘蛛の入れ墨が垣間見えた・・・4番ってヒソカの前任かい!

 

「―――初めまして。貴方がレツのお兄さんって事で良いのかな?」

 

「その通りだよ。それにしてもレツも困った子だ。レツには”町に赴いて良い『目』の持ち主が居たら『目』を奪うか連れて来るように”と指示を出していたけど、まさか私の能力までバラしてしまうなんてね。プロのハンターをおびき寄せる為でも次からは念能力の開示はしちゃダメだよ」

 

「ち、違う!ボクは今日、兄さんを止めに来たんだ!兄さん、もう人形を作る為に他人の目を奪うような事をするのは止めて!」

 

「なにを言ってるんだいレツ?全てはお前の為にやってる事じゃないか―――私が神の人形師となる前のまだ未熟だった頃にお前の目を人形に移そうとして失敗し、お前の目を失わせる事になってしまった。だけどその失敗を糧にして私の能力は完成したんだ。レツ、お前には本当に感謝してるんだよ。たとえどれだけ時間が掛かっても、必ずお前にぴったりの『目』を見つけ出して上げるから、なにも心配する事なんて無いんだ」

 

ええい!レツのお兄さんが喋る度に会話が明後日の方向に跳んでいく!こっちはドッジボールでも向こうはファールボールしか投げられないノーコンキングか!

 

「ええっと、レツの言ってた相手の目を奪う能力って逆に与える事も出来る力なの?今のレツには『目』が在るし、逆にお兄さんには無いみたいだけど」

 

彼は目を閉じてるから最初は糸目キャラなのかとも思ったけど、時々薄っすらと何も無い真っ暗な目の奥が見えるからね

 

「いいや、【魂呼ばい(タマヨバイ)】はあくまでも相手の『目』を奪う力さ。その力は私と私の造った人形だけが持つ能力―――即ち!レツもまた私の作品という訳さ!レツの目を失くしてしまった時にレツも死んでしまったからね、人形として蘇らせて上げたんだよ」

 

本当にこの兄妹は少し訊ねるだけで物凄く喋ってくれるわね。一々身振り手振りも大仰だし、観客を沸かせる為の役者魂ってやつなの?

 

そして何度も言うけど情報量が多い!オーバーヒートしそうになる頭を片手で押さえて深めの溜息を吐くと、隣に居たレツが"ビクリ"と体を震わせた

 

「ご、御免ビアー・・・別に態と隠してた訳じゃないんだ。ただ、如何しても言い出せなくって」

 

「それって『目』を奪う事に今までも加担してたって事?それとも自分が人形だって事?―――別にその辺りは私は気にしないわよ。彼の人形って彼の指示には強制的に従わせられるでしょ?それなら罪悪感を持ってるなら私的にセーフだし、自分が『本物』とか『偽物』とかそこら辺の悩みもとっくの昔に置いてきたからね」

 

私は転生者だ。でも、もしかしたら病院のベッドで寝たきり状態で見ている胡蝶の夢かもとか、本物の魂のコピー的なモノが偶然異世界に来たとか、転生ではなくて憑依でこの体の元の持ち主のビアーを『私』が押しつぶしたとか、転生当初は特に時間もたっぷりと有ったから色々と考えたりもしたのよね・・・最終的に『答えなんか出ない』って答えになったけど、心から納得するまでには結構時間も掛かったものだ

 

レツは私がなにを言ってるのか解らないって顔をしてるけど、私の目に嘘は無いと感じ取ってくれたのか、おずおずと頷いてくれた

 

私より少し低い身長で上目遣いに見上げて来る様子は小動物を彷彿とさせるわね

 

そして丁度その時、今日一日色々と連れまわした影響かレツの帽子の隙間から長い金髪がひと房だけ零れているのが目に入ったので彼女の帽子をパッと取り払う

 

「わわわっ!?いきなり何するのさビアー!」

 

そこから現れたのはその帽子の中に如何やって仕舞っていたのかと問いたくなる程の腰まで届く長いブロンドヘアーだ

 

女子力5割増しになりながらもオーバーオールの男の恰好が決して足かせになっていない。今も私が奪った帽子を取り戻そうと「それ返せよ!」と少し男勝りな口調をしているのが一因だろうか?帽子を取った際に自然と上がった手に向かって必死に足りない数cmを稼ぐ為につま先立ちになったりピョンピョン飛び跳ねたりしてるのをちょっと体を反らせたり狙いを逸らしたりしていると、どんどんムキになって頬を膨らませてくる。なにこの小動物

 

「オモカゲッ!あんたの妹可愛いわね。私がハントしても良い!?」

 

レツは突然の事に「んな!?本人の前でいきなり人攫い宣言!?」とか素っ頓狂な声を出しているけど今は無視させてもらう

 

「ふん。なにを言い出すかと思えば・・・レツは私の妹だ。誰にくれてやるつもりも無い!」

 

ちぇ、許可は得られなかったか。まぁ必要も無いんだけど

 

ハンターは狩りたいと思った時に狩りたいモノを狩る職業だ。獲物の意思など聞いていない

 

「レツ。そう言えば貴女のお兄さんを捕まえるって依頼の報酬の話がまだだったわよね。成功報酬としてレツは私の事を今後『お姉ちゃん』と呼ぶ事!―――いやぁ、私って一人っ子だったから兄弟姉妹の関係って結構気になってたのよねぇ。その点レツは妹属性値がかなり高いし、この戦いが終わったら一度女の子らしい恰好をするのも報酬に追加ね」

 

男物の恰好は足かせにこそなってないけど、彼女の魅力を引き立ててもいないからね。せめて髪をテールタイプに縛るくらいはしないとやっぱり少しバランスが悪い。私だって動きやすい恰好はしてるけど、ちゃんとデザインは女物だからね

 

「なんで今報酬の話になるの!?てか妹属性値ってなに!?」

 

「ほぅ・・・レツの妹としての愛らしさを見抜くとは中々良い『目』をしているな。その通り!元来人形とは愛でる為のモノ。男の人形より女の人形の方が世の中に溢れているのもその為だ。女、そして子供、この二つは人々に庇護欲を抱かせるがそこに妹と言う要素を加える事で更に一つ追加で守るべき対象としての意識が浮かび上がるのだ」

 

「お褒めに与り光栄ね。こちとらヲタク文化への理解度はキッチリ(前世で)予習済みなのよ!」

 

頷きあった私とオモカゲの口が同時に動く

 

「「妹/義妹は愛でるもの!!」」

 

「兄さんもビアーも初対面なんだよね!?なんでそこまで意気投合出来るのさ!」

 

人間、共通の話題が一つでも有れば仲良くなる事も出来るのよ

 

あの煙オジサンだって趣味の合う奴とはやり辛いとか言ってたのと同じような感じね

 

「そんな訳でレツは私の義妹(エモノ)だから宜しくね」

 

「いいや、レツは私の(コレクション)だ」

 

「「・・・・・あ゛?」」

 

当然、同じ趣味を持つ者同士が限定品最後の一個を目の前にした場合、そこに友情なんてものが入る余地なんて一欠片も無くなる訳だけど

 

「如何やら私達は一生相容れないみたいね」

 

「その通りだな。だが、安心しろ。レツの友として『目』だけはちゃんと使ってやるさ―――キミも中々不思議な色合いの『目』をしてるからね。遥か遠くから見下ろすようでいて、食い入るように至近距離で見つめるような、矛盾を孕んだ瞳だ」

 

私とオモカゲの間で殺気と威圧感が膨れ上がる。オーラはまだ込めていないが、お互いの中間地点にコップを置けば罅くらいは入るでしょう

 

「なんで今度はガンガンに殺気をぶつけ合ってるのさ!いや、ここに来た目的を考えたらこれが正しい構図なのかも知れないけど!」

 

レツがまたツッコムけど、それなら問題無いじゃない。最初から戦う事は決定事項だったんだし

 

「さぁ折角の舞台だ。キミには特別に私のお気に入りの人形たちを―――」

 

あ、本物知ってる身としてはそう言うの要らないので―――

 

私が今立っているのは長椅子に囲まれた最前列。そしてこの場所には部屋の左右に不自然に置かれた棺桶が7つ存在している。敵の本拠地に乗り込むんだから当然『円』で確認済みだ

 

彼のコレクションとやらが幻影旅団の団員だと言う事はレツとの会話で分かっていたし、その人形旅団にまだ『目』が入っていないのも『円』も使って二重に確認済み

 

もしも仮に旅団全員が例え合わないモノでも『目』を入れた状態で待機してたなら流石に私一人ではキツイものが有ったかも知れない。だけどそこにオモカゲの人形師としてのプライドが待ったを掛ける―――私なら戦力増強の為に他の『目』を入れるでしょうけど、恐らく彼にとっては自分が丹精込めて作り上げようとしている作品を『妥協』する行為なんでしょう

 

だから『目』を入れない。だから高い戦闘能力を持つ旅団のメンバーを全員揃えない

 

職人としての気位の高さの後押しも有ったからこそ飛びぬけた性能を持つ念人形を作れるんでしょうけど、その自分の芸術に手を抜けない想いは戦闘において邪魔になる

 

しかしその枷は旅団のメンバーに合う『目』が見つかってしまったならそこまでと言う事。彼の宝探しが何時終わるのか見当もつかない以上は最短最速で潰すのが最もリスクの低い戦略でしょう

 

それこそ一月もしない内に良い『目』が沢山見つかるかも知れないんだから!

 

※一年半後でも合う『目』は一つも見つからない

 

私はオモカゲが戦う意思を少しでも見せたなら速攻で動く事を決めていたので淀みなくすぐそばに在った長椅子を持ち上げながら棺桶に向かって跳躍し、『堅』でもって『周』で強化した長椅子を野球選手のフルスイングの如く振り回して棺桶を中身ごと粉砕する

 

幾ら幻影旅団と言えども身体機能なども含めて能力半減した上に棺桶に缶詰された状態なら逃げる事もままならないでしょ!

 

私の長椅子(木製バット)が一つ目の棺桶を砕き、そのままその隣の棺桶も勢いに任せて破砕するけど更にその隣の棺桶の中身は飛び出して回避してしまった

 

二体の人形が破壊された事で残る五体の旅団人形たちがオモカゲの前に陣取るけど、オモカゲは悔し気な様子ね

 

「御免なさいね。舞台で演じようにも台本も無しじゃアドリブで動くしか無かったんだけど、お気に召さなかったかしら?」

 

「っく!やられたのはフェイタンにシャルナークか」

 

ええ、一発逆転の可能性の有る能力を持っているその二人が隣り合っていたのは僥倖だったからね。クロロは反対側の棺桶だったし、どっちを先に狙うかは少し迷ったけど、取り敢えず数を減らすのを優先させて貰ったわ

 

あ~、早く何処かの蟻の王みたいに能力の相性とか諸々を一切気にしなくても良いと確信できるくらいに圧倒的な(オーラ)欲しいわね

 

愚痴もそこそこに改めて目の前に意識を向ける

 

人形の旅団の残るメンバーは侍のノブナガに巨漢でネテロ会長の3倍以上はスゴイ耳たぶのフランクリン。被り物をしてなきゃただの目付きの悪いジャージ男なフィンクスとカッコ可愛い必殺仕事人な紅一点和風美女のマチに団長のクロロだ

 

え?一人だけ紹介文贔屓してるって?気のせいでしょ!

 

因みに最初に潰れたのはスマホも在る時代にゴツイ携帯電話を愛用してるシャルナークに半端にダメージを入れるとオモカゲやレツの存在を怒りで頭から飛ばしてMAP攻撃を仕掛けてきそうな拷問大好きフェイタンね

 

レツはこのままだと危ないので端の方に避難して貰う事にする

 

依頼主に妹と戦闘に巻き込む訳にもいかなければ人質にする意味も無いからね

 

それにしてもこの人形たちは仮にも旅団の仲間がやられたって言うのに一言も喋らないわね。記憶が在るならもう少し人間味が有っても良いと思うんだけど、それが無いって事は魂である『目』が無い状態だと感情が希薄になったりするのかな?―――なんにせよ真っ暗な瞳も相まってコピーと言うよりは本当にただの人形って感じね・・・と言うか人形たちは『目』が無くても視界は確保出来てるのかしら?・・・考えてみたら人形の目なんてあくまでも装飾品であって視神経とか生物的な機能を有してる訳じゃないもんね。オモカゲ本人はそんな人形たちの視界を拝借してるとか?少なくとも『円』で気配を探ってる風には見えないし

 

「じゃあ休まずにいくわよ!」

 

思考もそこそこに私は一時の相棒である長椅子(木製バット)を上体を反らしてからその反動をつけ、槍投げのように真っ直ぐにオモカゲ目掛けてぶん投げる

 

「舐めるなよ、立ち回りの一つも知らない三流役者がっ!」

 

一々相手の準備が整うのを待つようじゃハンターとして三流でしょうが!

 

高速で投げられた長椅子は私の手から離れた瞬間に『周』によるオーラの強化の恩恵も無くなるので瞬時に私とオモカゲの間に割って入ったノブナガの居合斬りが長椅子を縦に両断する・・・途中で私が投げた長椅子に追いついて再び『周』を発動する事で刀が抜けなくなり、回避が遅れたノブナガはそのまま胸から上を吹っ飛ばされて戦闘不能だ。自分で投げた物に追いつけないようでなんとする!・・・流石に全力投擲はしなかったけどね

 

だけど少し無理な追撃を行ったせいで若干体勢の崩れた私の隙を突く形でマチが周囲に一瞬で念の糸を張り巡らせて拘束しようとしてくる。それを私は目の前に迫る糸を引っ掴んで左右に引っ張る事で切断して抜け出した。マチは私の首を直接絞める為にか近くまで来ていたのでそのまま胸部を殴って貫通させる事でただの残骸に変える

 

―――さて、超一流の頭のイカレた使い手が集まるとされている幻影旅団だけど、その実力にはかなりの開きがある。作中屈指の実力者として当初から描かれていたヒソカは団長であるクロロとの戦いを愉しみにしていた。少なくともこの二人は超が二つは付く実力者だろう。ならば他のメンバーはと言えばキメラアント編とかでは師団長ですらない兵隊蟻に「お前のパンチなど蚊ほども効かんぞ」とか言われる強化系能力者とかも居るレベルなのだ。成程、ヒソカが団長以外に然程興味を抱かないのも頷ける・・・「次に狙うのは十二支んか」とか言ってたし、旅団と言う枠組みなら兎も角として個々の実力は70点前後なのではないだろうか?私が今引きちぎったマチの念糸も強度は長さに反比例して1m以内なら1トンの重量を支えられるとかって記述が有ったけど、ゾルディック家の試しの門の最低必要重量片腕2トンだからね?それが人形として能力も筋力も低下した状態で1m以上念糸を伸ばしてるとか、寧ろ引きちぎれない理由の方を教えて欲しいくらいだ

 

念能力無しでの基礎戦闘力や暗殺技術とかの数値は多分旅団は皆かなり高いんだろうけど、念込みで考えると割と弱そうなのがチラホラ混じってるんだよね・・・コルトピ(贋作者)やパクノダ(読心術師)みたいなのはある程度は仕方ないとも思うけどさ

 

まぁコルトピなんかは状況さえ整えたら核弾頭無限発射で世界滅亡とか出来るんだろうけど・・・

ウボォーギンの最大の目標は実はコルトピだった?

 

「ふんっ、魂の無い人形では性能面で劣ると言うのであれば、私のもう一つの能力をお見せしよう―――来いっ、フランクリン!【人形受胎(ドールキャッチャー)】!!」

 

オモカゲが宣言するとフランクリンの人形がオモカゲの体に光の粒子となって吸収されるように消えていった。ちらりとレツの方を見ると驚いてるみたいだから彼女も知らない能力なんでしょうね。今までは態々使う必要すら無かったって事かな?

 

「ではゆくぞ!舞い踊れ、死の舞踏をっ!―――【俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)】!!」

 

オモカゲが両手の五指の先端をこちらに向けるとその指先からバカみたいな数の念弾の嵐が襲い掛かってきた

 

「ハハハハハハッ!私の【人形受胎(ドールキャッチャー)】は取り込んだ人形の能力を私自身が使えるようにする事が出来るのだよ!今のフランクリンには『目』が無い以上は能力も半減。だが私自身のオーラを原動力とすれば本来の性能を十分に引き出せるのだ!」

 

成程ね。良くも悪くもオモカゲの強さ(オーラ)に依存する能力。格下の能力を本人が扱う以上に引き出せもすれば格上過ぎる能力・・・例えばネテロ会長の百式観音とかだと逆に『目』の無い人形以上に弱体化しそうな能力って訳だ。最も、仮にも幻影旅団の一員だったらしい彼が扱うなら大抵の能力は十二分に再現ないし強化使用が可能なんでしょうけどね

 

でも私はそんなオモカゲが十全の力を引き出した【俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)】の嵐から逃げるのを止めて全身にその弾丸を喰らいながらも腕をグルグル廻し始めたフィンクスに特攻する

 

「なにぃっ!主演(わたし)の攻撃を無視するだと!?」

 

確かに【俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)】の威力はそれを使う大本であるフランクリンに匹敵する威力で放たれているのだろう。しかし全身をオーラで覆う『堅』とは堅牢・堅固などの意味合いから来ている言葉だ。私の『堅』で戦うスタイルの本質は攻撃よりも防御にこそ真価を発揮すると言っても良い。

一発一発がライフル弾よりも数段強い攻撃?そんなもの今の私のオーラからなる『堅』の前では豆鉄砲に過ぎない。私を倒したかったらせめて念弾一発の威力を【超破壊拳(ビッグバンインパクト)】並みにしてから出直して来いって話だ!

 

役者(のうりょく)の配役ミスじゃない?その技は所詮ザコ敵殲滅用でしかないわよ!」

 

クロロはどんな能力を保有しているか未知数な部分が在るから置いておくとして、今の私に明確にダメージを与えられる可能性が在るのはフィンクスの腕を廻した回数分だけパンチの威力が上昇する【廻天(リッパー・サイクロトロン)】だ。今の弱体化フィンクスが何回腕を廻せば私を倒せるだけの威力が溜まるのかなんて分からないけど相手がバフを盛り始めたら私のヘイトが向くのは当然でしょう

 

だけどそのフィンクスを守る為にかすぐ傍に控えていたクロロが手元に手形の付いた一冊の本を具現化してページを捲る。幻影旅団は盗賊集団であり、その創設者にして団長である彼の念能力は盗賊らしく他人の念能力を奪って自分のモノとして使用出来る能力だ。色々と面倒くさい制約は有るが一度奪った能力は具現化した本の該当するページを開く事で自在に引き出せるようになる。高速で捲られていくページが途中で止まり、そのページに封じ込められている能力が発現する

 

「―――【密室遊漁(インドアフィッシュ)】」

 

静かに囁かれたその能力名と共に2匹の鎧のような鱗に包まれたウツボのように胴体の長い魚が具現化され、フィンクスを守るような軌道で私に襲い掛かってくる

 

出た!作中屈指のオサレ能力!―――肉食の魚でたとえ食べられても念魚が消えるまではダメージが肉体に反映されないから頭を半分齧られてもその間、死ぬことは無いって言うサイコパスが生み出したとしか思えない能力!でも残念だけどその能力の対処法は超有名なのよね

 

おおっとぉ!念魚を迎撃する為に床を抉り蹴ったけど、破片は魚じゃなくて奥に在った大きなステンドガラスを破壊するだけに終わっちゃった。もっとコントロールを磨かないとな~(棒読み)

 

偶然にも(・・・・)密室という発動条件が崩れた事で【密室遊漁(インドアフィッシュ)】は何をするでもなく空中に崩れるように消え去り、腕を廻していたフィンクスはクロロの守りが無くなった事でバックステップで距離を取る。ならばそのままフィンクスを追撃・・・しないで標的変更!クロロを倒す!!

 

クロロの念能力である【盗賊の極意(スキルハンター)】は発動時に片手に開いた状態の本を保持する必要が有る。そして今いきなり念魚の能力が使えなくなったクロロだけど【密室遊漁(インドアフィッシュ)】のページは未だ開いたままだ―――実質今の彼は固有能力無しで片手が塞がっている状態。他にどんな能力を奪っているか分からない以上、不確定要素が消え去ったこの一瞬だけはフィンクスよりもクロロの方が撃破における優先順位が高くなる!

 

接近した私の放った拳を残った左腕でガードしようとしたクロロ人形だけど、そのガードごと貫いて顔面粉砕パンチを叩き込む

 

「これで5人目ぇっ!」

 

ハッハァアアア!幻影旅団と言えども所詮は未完成品。割合強化されている私と弱体化している彼らではパワーが違うのだよパワーが!

 

「・・・28・・・29・・・30!」

 

私がクロロ人形を破壊した事でこれ以上の時間稼ぎは出来ないと判断したのかフィンクス人形もグルグル廻していたその腕を止める。大乱闘してるゴリラさんのジャイアントパンチでもそれだけ廻せばダメージ50%以上は稼げるかもね

 

だけど残念。敵が複数なら兎も角、そんな溜めが長くてリーチも短い上に某ゴリラさんと違って任意で繰り出せる訳でもない技なんて脅威でも何でもない

 

此処は教会の礼拝堂。長椅子(木製バット)のストックはまだまだ在るので手近な武器を掴んで『周』で包むとフィンクスに向かってブンブンとブン回す!本物相手なら対処もされるだろうけど、オーラによる防御力も身体機能も低下している今の彼なら私の攻撃は避けるしかない。だけど当然スピードで劣る彼は無理な回避を重ねて追い詰められ、最後には右手に溜まったパンチで私の長椅子(木製バット)を迎撃するしか無くなるのだ

 

”チュドォオオオオオンッ!!”

 

如何聞いても拳と木材がぶつかり合ったとは思えない音を響かせて私の掴んでいた長椅子が弾き飛ばされてしまった。まだ原型こそ保っているけど半壊してるし、あの椅子はもう使えないわね

 

フィンクスの方も今の一撃で右腕が途中で折れてしまっている。腕が折れた程度なら普通に戦えそうだけど、必殺技ゲージを消費したばかりの格下なんて何一つとして脅威じゃないわね

 

「これからは弱攻撃(Aボタン)必殺技(Bボタン)だけじゃなくてせめてスマッシュ技(Cスティック)を会得しておきなさい!」

 

フィンクスが咄嗟に私の顔面に向かって放った蹴りを首を"グリン"と振って側頭部で弾く。まさかそんな風に受け流されるとは思わなかったのかフィンクスの人形は魂も無い状態でも確かに驚愕を顔に浮かべながらも私のパンチで腹部が吹き飛んで地に伏した―――これで残るはオモカゲ一人!

 

私がオモカゲに向かって跳躍すると広範囲にバラ撒いていた【俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)】を範囲を狭める事でほぼ全て弾が私にヒットするように照準を絞ってきたけど精々BB弾よりは痛いって程度なので、腕をクロスさせて顔を守ればそれで十分

 

「凄まじい『堅』だ。ならば全ての念弾の力をこの一発に込めてやろう!」

 

このままでは私の防御を貫けないと考えたオモカゲが左手で右腕の手首を掴んで右手を人差し指を伸ばしたピストルの形にすると指先にオーラが集中していく

 

「これがフランクリンの隠された奥の手!全オーラの四分の一を消費するために日に四発しか使えない技だ!喰らえ、レェエエエイガァアアア―――」

 

言わせねぇよ!?フランクリンにしろオモカゲにしろその技は使っちゃダメなやつだから!何処かの世界線の霊界探偵の必殺技だから!!

 

まだオモカゲまで距離が在ったのでその場で思いっきり拳を振り抜く事で発生させた衝撃波を彼の顔面にぶつける事で強制的にセリフを中断させる。だが顔面がノックバックしたと言ってもダメージはそこまででも無いので指先に溜まった念弾はやや照準がズレはしたけどそのまま撃ち出された

 

私の胴体ド真ん中から上半身にぶつかる軌道になったけど空中に居るから避けられない。まさかあのフランクリンが純粋なパワー系統の技を隠し持っているとは思っていなかった。直撃すれば骨に罅くらいは入りそうな威力だ

 

「よいっしょっとぉ!」

 

防御も回避もダメなら逸らせば良いって話よね!空中で体を捻って迫りくる巨大念弾を下から上に向かってサマーソルトキックの要領で弾き飛ばす

 

僅かに射角がズレた念弾は私とレツが入ってきた扉の上部の方に飛んでいき、盛大な爆発と共に壁の一面を吹き飛ばした

 

「っく!外したか。ならばもう一発!」

 

「させる訳ないでしょ!」

 

オモカゲがまた指先にオーラを集中させようとするけど、元々オモカゲに向かって跳躍していた私と彼の距離は殆ど縮まっている―――遠距離タイプ(フランクリン)の能力を取り込んでいるオモカゲはまた距離を取ろうとするけどこの場には先程私が壊したノブナガの刀が床に突き刺さっていたので引き抜いてリーチを稼ぎ、射程外に逃げられる前に横一文字の斬撃を放つ

 

「ッ 【人形受胎(ドールキャッチャー)】解除!」

 

そのままでは私の攻撃を避け切れないと直感した彼は念能力を解いて取り込んだフランクリンの巨体を自分の前に出現させる事で盾として代用したみたいね。でも―――

 

”ドサッ!!”

 

「ぐぅううううっ!私の右腕がぁあああああ!!」

 

右腕は落とさせて貰ったわよ。フランクリンの巨体と言えど【人形受胎(ドールキャッチャー)】を解除した時点で防御力も半減。ちょっと太い巻き藁を斬るのと変わらない・・・レツの手前殺すつもりは無いけど、仮にも幻影旅団の一員だった彼に下手な手加減をして妙な反撃をされても困るからね

 

拾った刀はなんかノブナガの手垢まで再現されてそうだったのでポイっと投げ捨てておく・・・それにしても壊れた人形の残骸や装飾品もそのまま残るとかレアアイテムを所持している人物をコピーしまくれば無限増殖も可能なんじゃないかしら?

 

「レツ!彼の傷口を紐で縛ってあげてくれない?出血死されても困るんだけど、私が処置とかしてたら【魂呼ばい(タマヨバイ)】で『目』を奪われそうだからね」

 

「う、うん。分かったよビアー」

 

物陰からこちらを窺っていたレツはオモカゲの腕が落とされた時は口元を手で覆ってビックリしてたけど、私の声で正気に戻ったのか小走りでこっちにやってきてオモカゲの右腕の傷口付近を縛る

 

「さて・・・と。オモカゲ、貴方はこの後ハンター協会に引き取ってもらう事にするわ。片腕を奪った程度じゃまだ『目』を奪う人形を作れるでしょうし、念能力者の集まるハンター協会なら神字とかで念能力を封じる特別性の牢屋とかも所有しているでしょうからね。取り敢えず死刑にはならないように口添えはしておくわよ」

 

この世界は凶悪過ぎる犯罪者こそ死刑になり辛いとも聞くし、なんとかなるでしょう

 

「それは・・・私はもう二度と人形を作れないという事か?」

 

「まっ、そうでしょうね。退団しようとも幻影旅団はA級の賞金首集団。刑期はそれこそ1000年は超えるんじゃないかしら?」

 

確かどっかのお肉大好きな解体屋が900年以上だったはずだからね。細かい罪の所在が明確にされてないにしても少なくともクルタ族虐殺だけでも数百年は軽いでしょう

 

「ック・・・クククククッ。人形を作れない私など生きる意味など無い。だが忘れるな。たとえ私が死んでも人形たちは生き続ける。そして何時か必ずお前を追い詰めて殺すだろう」

 

「それって地下の隠し部屋に在る人形たちの事かしら?それなら後で全部破壊しておくわよ」

 

私に他の人形の所在を言い当てられてオモカゲの表情が強張る。伊達に私も『円』の範囲が広い訳じゃないんだからね。『円』の定義が”半径2m以上の広さで1分以上維持する事”というのを踏まえれば探索に『円』を実用レベルで扱える能力者は実は結構少ないんじゃないかしら?

 

オモカゲは今回お気に入りである旅団人形たちをぶつけてきたけど、当然それ以外の人形だって今までに作って来てるはずだからね―――幻影旅団に比べたら遥かに劣るであろうその人形たちに狙われたところで『堅』どころか『纏』で全ての攻撃を跳ね返せそうだけど、ウザイことに変わりはないので後でお掃除しておく必要が有る

 

「バカな!私は神の人形師なのだぞ!私の作品は永遠だ。レツとて既に永遠の命を手にしている。そんな私の創造劇が此処で終わりだと!?認めない。そのような事は決して認めっ―――」

 

片腕を落とされ、自慢の人形も破壊され、予備戦力も把握された彼が負けを認めまいと吠えていると唐突に言葉を切って隣に居たレツを見る。今の彼に『目』は無いけど、さっきまでは旅団メンバーの視界で見ていたり(『目』は無かったけど人形に生身の眼球の視神経とか関係ないから見えてはいたはず)今はレツの視界を間借りしてるんでしょう

 

「・・・そうか、そうだな。レツ!お前は生きた人形として永遠を手にしている!私の生み出した他の人形も永遠だ。だが私自身は永遠では無い。私のこの神にも匹敵する人形師としての技をっ、能力をっ、お前なら永遠にこの世界に残せるのだ!」

 

レツの肩を残った左腕で掴み真っ暗な瞳をかっ開いてオモカゲは興奮したように泡を飛ばす

 

「に、兄さん、一体何を言ってるの?」

 

「そうだ!人形が人形師として人形を増やしていき、この世界の腐ったリンゴのような人間たちを浄化する!お前と言う神によって統率された美しい人形たちによる永久に続く絶対王国!」

 

レツの言葉など最早聞こえていないオモカゲは後ろに向かって全力で跳躍した。その先には私がさっき捨てたノブナガの刀が在る。右手に持っていた刀を捨てたのと対面のオモカゲの右腕を縛っていたレツなら確かにレツの視界には刀が映り込んでいたはずで、オモカゲは残った左腕を伸ばして刀を掴み取った

 

「さぁ!私という演目に幕を下ろそう。だがこれは単なるエピローグではない。レツを主演とした新たな舞台のプロローグでもあるのだよ!」

 

彼は大仰に叫びながら自分の首筋に刃を宛がう

 

「兄さん止めてっ!!」

 

「―――レツ。お前に合った『目』を探し出してやれなくて済まなかったね。だけど私の『目』を、即ち魂を宿したお前なら神の人形師の力を受け継ぐ事が出来るはずだ。なに、時間はたっぷり有る。お前ならいずれ私を超える人形師にも成れるだろう」

 

そこまで言うと彼は止める間もなく頸動脈を切り裂き、そこから血が噴水のように吹き出る

 

「・・・レツ・・・私は何時だって・・・お前と・・・共に・・・」

 

その言葉を最後に絶命して倒れたオモカゲにレツがゆっくりと近づいて隣に座ると彼の真っ暗な『目』を閉じさせる。それと同時にオモカゲの念が死後更に強力となる念となってレツの体に流れ込んだ。これでレツは2代目の神の人形師だ・・・望むと望まざるに関わらずにね

 

「兄さん・・・また一人で勝手に決めて、結局私達って最後まで分かり合えなかったね。それなのに心から嫌いになれないのはなんでなのかなぁ?」

 

レツの震える声が崩れかけた教会に響く

 

依頼は達成したけど満足のいく結果にはならなかったわね。まさか自殺するとは思わなかった・・・いえ、仮に自殺を阻止出来ても目を離した瞬間には自殺してレツに能力を遺そうとしたんでしょうけれど、言い訳にはならないわね

 

こうして私の初仕事はなんとも玉虫色な結果に終わってしまったのだった

 




レツがビアーに色々能力を喋れたのは映画でも最後までレツに刺された事を理解出来てなかった彼なら「不利となるような事をするな」とかって命令は出してないと思ったからですね。あとドールキャッチャーは映画でなんかスタンドみたいな能力になってましたが人形として戦えるのにスタンド能力にする意味がマジで分からなかったので説明文通りの「取り込んだ人形の能力を扱える能力」って感じに描きました―――てか劇場版は二作品とも設定が甘すぎるでしょう

それにしてもまさか最後にこんなシリアスな感じになるとは。まぁレツを旅の仲間にしたくてオモカゲをぶっコロ・・・おっと、誰か来たようだ

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